哀れなる傀儡に、祝福を(後半)
『己の戦いに自信を持て』。ロッテの言葉に、対戦相手である所の
“あくまたん”は、何処か迷いを吹っ切った様な笑みを浮かべる。
猪刈に抑圧されていた何かが、どうやら湧き上がってきた様だな。
彼女の姿勢保持を待って、お互いに全力での砲撃戦を開始するッ!
“あくまたん”は、何処か迷いを吹っ切った様な笑みを浮かべる。
猪刈に抑圧されていた何かが、どうやら湧き上がってきた様だな。
彼女の姿勢保持を待って、お互いに全力での砲撃戦を開始するッ!
「えいっ、えいっ……!!このバズーカで……貴方を倒しますっ!」
「わたしも、マイスターと自分の誇りに賭けて……負けませんのっ!」
「きゃうっ!御主人様の……ううん、あたしの為に、っあッ……!」
「ぶ、ぶっ!?何してるんだ“あくまたん”っ!早く壊せっ!!」
「わたしも、マイスターと自分の誇りに賭けて……負けませんのっ!」
「きゃうっ!御主人様の……ううん、あたしの為に、っあッ……!」
「ぶ、ぶっ!?何してるんだ“あくまたん”っ!早く壊せっ!!」
思いも寄らぬ展開に猪刈が大慌てを始めた。貴様の戦術ミスだぞ?
元々射撃管制に秀でたアーンヴァルタイプだ、砲撃戦なら負けん。
実弾中心の“あくまたん”に威力は補えても、精度までは無理だ。
ストラーフタイプの真髄は白兵戦闘、それを活かしてやらねばな。
元々射撃管制に秀でたアーンヴァルタイプだ、砲撃戦なら負けん。
実弾中心の“あくまたん”に威力は補えても、精度までは無理だ。
ストラーフタイプの真髄は白兵戦闘、それを活かしてやらねばな。
「っ、きゅ、ううっ……うぁあっ!!?」
「追いつめましたの。まだ……やりますよね?」
「は、はいっ!あたしにだって、誇りがある……ッ!!」
「何わけわかんない事いってるんだよっ!早く撃てっ!!」
「追いつめましたの。まだ……やりますよね?」
「は、はいっ!あたしにだって、誇りがある……ッ!!」
「何わけわかんない事いってるんだよっ!早く撃てっ!!」
今回の舞台は廃工場。故にじりじりと、重火器型のストラーフタイプは
ロッテのレーザーキャノンと拳銃に押され、袋小路へと追い込まれた。
散々喚き散らす猪刈を一瞥し、私はただ一つの指示をロッテに与える。
ロッテのレーザーキャノンと拳銃に押され、袋小路へと追い込まれた。
散々喚き散らす猪刈を一瞥し、私はただ一つの指示をロッテに与える。
「よし……ロッテ、止めだ!一気に決めてしまえ!!」
「はいですのっ!“フライアークライス”の出番ですの♪」
「痛ぅ……え?天使の輪を、外した……!?」
「はいですのっ!“フライアークライス”の出番ですの♪」
「痛ぅ……え?天使の輪を、外した……!?」
驚く“あくまたん”を後目に、ロッテは頭部バイザーにセットされた
巨大な天使の輪を外して、電磁浮遊装置で宙に浮かべた。丁度それは
レンズの様に、互いの姿を見通せる垂直状態で留まる。設計通りだ。
それを確認し、ロッテは槍を真っ直ぐに突き出した。その瞬間……!
巨大な天使の輪を外して、電磁浮遊装置で宙に浮かべた。丁度それは
レンズの様に、互いの姿を見通せる垂直状態で留まる。設計通りだ。
それを確認し、ロッテは槍を真っ直ぐに突き出した。その瞬間……!
「光学加速システム、ジャイロ同調……レーザードリル、展開!!」
「えっ!?きゃ、キャノンのレーザー光が……円錐状にッ!?」
「えっ!?きゃ、キャノンのレーザー光が……円錐状にッ!?」
レーザーキャノンとレーザーブレードは、本質的には同じ装置だ。
即ちレーザーキャノンでも射出光の恒常安定を行えば、剣となる。
そして“透明な環”に仕込んだ光学装置は、レーザーを増幅する!
従ってレーザーはリングを最大径として、ドリルの形状を為す!!
即ちレーザーキャノンでも射出光の恒常安定を行えば、剣となる。
そして“透明な環”に仕込んだ光学装置は、レーザーを増幅する!
従ってレーザーはリングを最大径として、ドリルの形状を為す!!
「その身に刻め……神儀、ブリッツ・シュピッツェッ!!!」
「きゃ、あああああっ!!」
「ぶ、ぶひぃぃぃいい~っ!?そんなぁああっ!!」
『ノックダウン!勝者、ロッテ!!』
「きゃ、あああああっ!!」
「ぶ、ぶひぃぃぃいい~っ!?そんなぁああっ!!」
『ノックダウン!勝者、ロッテ!!』
相手は通路一杯に広がる“光輝の槍”で穿たれた。データ上では
完全に焼け焦げ、戦闘行動不可能が裁定された。勝負有りだな。
早速私はエントリーゲートから戻ったロッテを労って……むっ?
何やら、猪刈の方が騒がしい……私は側に行ってみる事とした。
完全に焼け焦げ、戦闘行動不可能が裁定された。勝負有りだな。
早速私はエントリーゲートから戻ったロッテを労って……むっ?
何やら、猪刈の方が騒がしい……私は側に行ってみる事とした。
「どういう事だっ!なんであんなのに負けるんだようっ!!」
「えっとっ……負けましたけど、あたしは精一杯戦いました」
「勝たなきゃダメだよっ、誇りだの何だのバカな事言って!」
「……あたしは後悔してません、自分の戦いですから……!」
「えっとっ……負けましたけど、あたしは精一杯戦いました」
「勝たなきゃダメだよっ、誇りだの何だのバカな事言って!」
「……あたしは後悔してません、自分の戦いですから……!」
己の誇りに目覚め、それを貫き通した事を笑って語るストラーフ。
普通の主ならそれに理解を持つだろう……だが、私は目を疑った。
普通の主ならそれに理解を持つだろう……だが、私は目を疑った。
「煩い煩いウルサイ!!主人に逆らう玩具なんか要らないッ!!」
「きゃ、きゃああぁぁぁッ!?!あぐ、ぐあ……──────!」
「きゃ、きゃああぁぁぁッ!?!あぐ、ぐあ……──────!」
枝の様にへし折れる脚、殻の様に砕ける腕。ヒビの入る胴体に
アメ細工の様にねじ曲がる首。弾ける火花と耳障りな破壊音!
そして悲壮・苦痛・絶望の心に満ちた、彼女の叫び……ッ!!
彼奴は己の神姫を床に叩き付け、無惨に踏みにじった……!!
アメ細工の様にねじ曲がる首。弾ける火花と耳障りな破壊音!
そして悲壮・苦痛・絶望の心に満ちた、彼女の叫び……ッ!!
彼奴は己の神姫を床に叩き付け、無惨に踏みにじった……!!
「き、き……貴様ぁああああっ!!!」
「ひっ!!ぶぎゃうっ!?な、何!?」
「ひっ!!ぶぎゃうっ!?な、何!?」
次の瞬間。思うより早く私の腕は奴を捉え、壁に押しつけていた。
傷害罪だと?訴えるなら訴えるがいい!私は彼女が不憫でならん!
猪刈めは脂汗を流しながら、体格面で遠く及ばぬ私に怯えている。
傷害罪だと?訴えるなら訴えるがいい!私は彼女が不憫でならん!
猪刈めは脂汗を流しながら、体格面で遠く及ばぬ私に怯えている。
「貴様は人間か!?彼女はお前の為に、誇りを賭けて戦ったのだぞ!」
「な、ななな……何言ってるんだよ、ゲームに使う駒じゃないかよっ」
「な、ななな……何言ってるんだよ、ゲームに使う駒じゃないかよっ」
その言葉を聞いた瞬間、私は跳躍し膝を奴の喉元に突き込む……
前に止めた。こう見えて躯は柔軟なのだ。ハイキック寸前だな。
案の定猪刈はへなへなとその場にへたり込み、泣き出しおった。
……念のため言っておくが、私はスパッツ常備だ。期待するな?
前に止めた。こう見えて躯は柔軟なのだ。ハイキック寸前だな。
案の定猪刈はへなへなとその場にへたり込み、泣き出しおった。
……念のため言っておくが、私はスパッツ常備だ。期待するな?
「ぶ、ぶひぃぃぃ……あ、あたるところじゃないかぁ……何するっ」
「貴様が駒と見下した者は、より激しい苦難に身を晒したのだぞ!」
「そ、それがどうしたんだよ……所詮玩具じゃんか、人形じゃんか」
「ッ……ならばこの娘を置いていけ!貴様には要らんのだろう!?」
「貴様が駒と見下した者は、より激しい苦難に身を晒したのだぞ!」
「そ、それがどうしたんだよ……所詮玩具じゃんか、人形じゃんか」
「ッ……ならばこの娘を置いていけ!貴様には要らんのだろう!?」
お前が踏みにじった“物”は、お前に尽くしたかった“者”なのだ!
それを理解できぬ者がこの娘を手元に置くのは、私の魂が許さんッ!
多分今の顔は、般若等より余程怖いだろう。それだけ怒りが深い!!
それを理解できぬ者がこの娘を手元に置くのは、私の魂が許さんッ!
多分今の顔は、般若等より余程怖いだろう。それだけ怒りが深い!!
「う、ううっ……このガキ、今度逢ったら泣かせてやる~っ!」
「神姫にしか強く出られぬ貴様になど一生無理だ、たわけッ!」
「神姫にしか強く出られぬ貴様になど一生無理だ、たわけッ!」
猪刈は自分の荷物だけ纏めると、喚いてさっさと逃げていきおった。
今度逢った時には、二度と悪さが出来ぬ様……いや、今はそれよりも
“あくまたん”であった彼女を治療する事こそ先決……そうなれば!
今度逢った時には、二度と悪さが出来ぬ様……いや、今はそれよりも
“あくまたん”であった彼女を治療する事こそ先決……そうなれば!
「誰か車は出せんか?!修理出来る場所へ運ぶ!手伝ってくれ!!」
「あ。オレ出せるっすよ、槇野さん!どこまででも出せるっす!!」
「おおっ、常連の田中ではないか!助かるッ!場所は──────」
「あ。オレ出せるっすよ、槇野さん!どこまででも出せるっす!!」
「おおっ、常連の田中ではないか!助かるッ!場所は──────」
──────気高くも哀れなる魂に、今一度祝福を……。