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ウサギのナミダ 番外編

水中機動戦術論 ~前編~



「ねえ、クイーンとアクアの一戦、結局どんな試合だったの?」

 向かいに座る久住さんが、突如そんなことを言い出した。
 俺の隣に座る大城が血相を変える。

「ア、アクアって、あの『K水族館の人魚姫』のアクアかよ!?」
「まあ、そうだけど……」

 俺は気のない返事をする。
 大城はさらにヒートアップした。

「なんだそりゃ!? アクアといえば、水族館での活躍も有名だけど、昔はこのあたりじゃ名の知れた武装神姫だったんだぜ!?
 『シードラゴン』のアクアって言えば、古株の神姫プレイヤーなら誰でも知ってる。
 その伝説の『シードラゴン』と『アーンヴァル・クイーン』の対戦だとぅ!?
 なんで呼ばなかったんだよおおおぉぉ……」

 さすがに有名プレイヤーに精通した大城だ。
 海藤たちの昔の二つ名も知っているとは、感心する。

「しかもね、大城くん。クイーンが大敗したんですって」
「なにっ!」
「気になるわよね」
「当然だ!」

 そこで久住さんは、頬に手を当てると、わざとらしくため息をついた。

「でも、遠野くんったら……その試合のこと教えてくれないのよ」
「遠野! てめえは、俺たちに内緒でオイシイ試合観戦しておいて、報告もなしか、ええ!?」

 大城はいきなり、俺の胸ぐらをつかみ上げた。

「やめろ、大城! 食事中だろうが……!」

 まわりの客の視線が痛い。
 土曜日の昼過ぎ、いきつけのファミレスはほぼ満席だ。
 俺たちのテーブルの上にも、まだ手を着けて半ばの皿が並んでいる。
 さすがに大城も周囲の視線に気がついたのか、愛想笑いを浮かべながら、ゆっくりと手を離した。
 俺は一つ咳払いをすると、あらためてハンバーグステーキセットに向き直る。

「……君らが想像しているようなバトルではなかったんだ。話すのも難しくて、な」
「それでも聞きたいわ。だって、観客は遠野くんだけだったんでしょう?」

 そう言って久住さんは、たらこの和風スパゲティを口元に運ぶ。
 まあ、確かに、見てたのは俺とティアだけだったんだけど……。

「もったいぶってないで話せよ。どんなしょっぱい試合だったとしても、かまわねぇから」

 トンカツ定食をつついていた大城の箸が、俺を指す。
 俺は困って、テーブルの上のパートナーに視線を向けた。
 すると、ティアもちょうど俺に、困った顔で視線を送ってくるところだった。
 どうやらティアも、ミスティと虎実に同じことで質問責めにあっていたらしい。
 俺たちは目を合わせて苦笑する。
 そして、二人に向き直って言った。

「わかった、わかった。説明する。
 まあ、普通のバトルではないことは確かだったんだ……」

 久住さんと大城、ミスティと虎実の視線が俺に集まった。
 別にバトルの内容を内緒にしなくてはならないわけではない。
 ただ、ちょっと説明するのが難しくて面倒なだけだ。
 俺は四人に向かって、ゆっくりと話し始めた。



 改札を通り抜けてくる高村に、俺は小さく手を振った。
 すでに気がついている高村はまっすぐに近づいてくる。

「やあ、高村」
「おはよう、遠野くん。今日はお招きいただいて、ありがとう」

 彼はいつものように笑っている。
 その肩で輝くばかりの存在感を放つのは、美しい銀髪の神姫。

「マスター遠野。あなたに感謝します。アクアとの対戦が実現したのは、あなたのおかげです」
「光栄だな、クイーン」
「それと……ティア、こんにちは」

 その言葉に、ティアが俺の胸ポケットから顔を出す。
 随分と恐縮した様子だ。

「こ、こんにちは……雪華さん」
「また会えて嬉しいですよ」
「……わたしもです」

 二人の神姫は微笑みあう。
 そんななごやかな光景に、俺も表情をゆるませた。

「さあ、行こうか」

 俺たちは連れだって、歩き出す。
 目的地はK水族館だ。
 今日は水曜日。平日の午前中ともなれば、最寄り駅の人影もまばらだ。
 こんな平日の日中から、なぜ高村と水族館に行くのかと言えば、今日の対戦相手である海藤の指定だったからだ。

 海藤は、アクアと雪華の対戦を渋々了承したが、条件を付けてきた。
 水曜日の日中、水族館でリアルバトル、というのがそれだ。
 ただし、武装はいっさい持ち込まない。武器は海藤の方で用意するが、バトルでダメージを負うことはないという。
 それを聞いた高村と雪華は、二つ返事で了解した。
 俺と高村は大学生だが、今日ばかりは大学の講義をさぼることにして、水族館の最寄り駅で待ち合わせたという次第だ。
 ちなみに海藤はすでに単位が足りないことが決まっているようだが、気にとめた様子はない。

「しかし……良かったのか?」
「何がです?」
「今週末はセカンドリーグの全国大会だろう。
 それなのにリアルバトルなんて……大会明けでも良かったんじゃないか?」

 俺の疑問に、雪華はきっぱりと即答した。

「あの『K水族館の人魚姫』が相手をしてくれるというのです。
 全国大会に向けた調整よりも、ずっと重要です」 

 雪華の考えは独特だ。
 ただの草バトルを、来るべき全国大会の直前にも関わらず、最優先にする。
 実際、俺からの連絡に、できるだけ早い時期のセッティングを望んだのは雪華だった。
 彼女は、目の前の全国大会さえ、通過地点としか考えていないようだ。
 さらに先を見据えた上で、このバトルが重要と位置づけている。

 やがて、水族館の入り口に到着する。
 施設は締め切られており、入り口には『休館日』の看板が掛かっていた。
 それは承知の上だ。
 水族館の施設を利用するために、海藤はわざわざ休館日を指定してきたのだ。
 俺たちは、建物の裏に回り、関係者の通用口にやってくる。
 そこで警備員に話を通そうとしたところで、海藤がやってきた。

「やあ、よく来たね」

 海藤はいつものようにそう言うと、警備員に何事か話し、俺たちを水族館の中に招き入れた。
 俺たちは連なって、飾り気のない水族館の関係者用通路を歩いていく。
 海藤の肩にアクアはいない。

「昔の装備を引っ張り出してきて、普通のバーチャルバトルしても、たぶんクイーンが望んでいるものは見られないんだ。
 だから、今日はご足労願ったというわけなんだけど」
「いえいえ。こちらの申し出を受けてもらえるとは思っていませんでしたから、むしろ喜んで来たくらいですよ」

 すまなそうに言う海藤に、高村は相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべて答えた。
 そして、雪華がさらに言う。

「気に病むことはありません、マスター海藤。水族館でのバトルというのもまた一興です」

 だが、つまらないバトルなら、すぐにでもゲームセンターでバトルロンドだ、という意味が裏に隠されている気がしてならない。
 俺たちはやがて、大きな水槽の前にたどり着いた。
 高さは俺たちの背丈以上もある大きな水槽だ。
 中には、何もいない。水だけが入っている。
 水槽の前には、折り畳み式の長机と、パイプ椅子が三脚。
 長机の上には、メモのようなものが置いてある。

「いらっしゃいませ」

 鈴の音のような声が俺たちを出迎えた。
 アクアはその長机の上にいる。

「……あなたがアクアですね?」
「はい。アーンヴァル・クイーンをお迎えできて光栄です」
「雪華、でかまいません。聞けばあなたは、我が友・ティアの友であり、恩人であるとか。ならば、あなたは私にとっても友です」

 くそ真面目な顔をして言う雪華に、アクアはにっこりと笑いかけた。
 海藤は長机に近寄ると、そこにあったものを手にとって、高村に差し出した。

「それじゃあ、早速始めよう。
 雪華にそれを装備させて」

俺は、高村の手をのぞき込む。
 海藤が手渡したのは、何か小さな装備だった。
 腰位置のジョイントと、Cのような形状からして、神姫の腰に装備するものと思われる。
 装備の表面はなめらかで、特に何かギミックが仕込まれている様子はない。

「なんだ、これ?」
「バラストだよ。ノーマルのアーンヴァルの乾燥重量で調整してあるから。
 それから、これ」

 ペンケースのようなものから、長さ一〇cmほどの細い棒を取り出した。
 こちらは、両端にゴムのようなものが付いているだけの、本当になんの変哲もない棒だ。

「こっちはなんだ?」
「今回の武器。雪華もアクアも同じ武器で戦う」

 俺の二度の質問に答える海藤に、変わった様子は見られない。
 どうも大真面目のようだった。

「つまり、水中で棍を使った模擬戦をする……と?」

 高村の言葉に、海藤は頷いた。

「そう。ルールは簡単。棒で相手に一撃決めたら一点。時間は無制限……というか、雪華が納得するまでやる。その時までに得点が多い方が勝ちだ」

 俺にはさっぱり分からない。
 わざわざ水族館の大きな水槽を借りて、武装も使わずに、剣道まがいの模擬戦を水中でやるなんて……なんの意味があるというのだろう。
 しかし、雪華は渡されたバラストパーツを装備し、棒を握って、やる気満々の様子だ。
 これも面白い体験だ、くらいに思っているに違いない。
 アクアも海藤から渡された模擬戦用の棍を握る。
 彼女は海藤の意図を理解しているらしい。クイーンを前にしても、気後れした様子さえ見せない。

「試合のジャッジとモニタリングは、ティアにお願いしたいんだけど」
「……ええっ!? わ、わたしですか!?」

 海藤の不意の言葉に、ティアが驚く。

「そうだよ。神姫の目なら、棍の動きも正確に追えるだろうし。PCを使えばリプレイも見られるしね」
「なるほどな……」

 海藤の言葉を聞いて、俺はデイバッグからいつものモバイルPCを取り出した。
 ティアは困った顔をして呟く。

「責任重大です……」

 それでも、ティアに与えられた仕事は大したことではない。
 相手の無防備な部分に攻撃が当たったことを見極めて、雪華の攻撃なら右手、アクアなら左手を挙げる。
 点数のカウントは、俺が紙の上に「正」の字を書くという、これまた原始的な方法だ。
 海藤と高村も、神姫のモニタリングのため、モバイルPCを開く。
 準備が終わり、水槽の上から、二人の神姫が沈められる。
 水槽の半ばほどで、向かい合って静止する。彼女たちを支えるものは水の浮力のみだ。
 棍を構えて、静かに向かい合う。  

「それじゃあ、始めよう」

 海藤ののんびりとした声で、この不思議なバトルは始まった。



「……そもそも、なんでお前と『シードラゴン』のマスターが知り合いなんだ?」
「高校からの友人だよ。俺が神姫のオーナーになったきっかけも、海藤の影響だ」
「なんでそれを今まで言わなかった!?」
「聞かれてないし」
「うおー! むかつく!!」

 一人でエキサイトしている大城を無視し、俺は食後のコーヒーを口に運んだ。
 すでに食器は片づけられ、各自の前には、ドリンクバーの飲み物が並んでいる。
 そもそも、海藤はバトルロンドからは退いている。
 復帰させたい気はあるが、それまでは表立って吹聴することでもない。
 海藤本人に復帰する気がないのなら、そっとしておくつもりだった。

「それで……試合はどうなったの?」

 久住さんは落ち着いた様子で、ハーブティーを一口飲む。
 俺はカップを置くと、話を続けた。



 二人の神姫は、お互いに棍を構え、水中で静止している。
 さぐり合うような静寂。
 雪華とアクアの様子に気負いは見られない。
 しかし、静かだったのはほんの数瞬だった。
 動いたのは雪華。
 中段に構えていた棍を上段に振りかぶり、身体を伸ばして打ちかかる。
 だが。

「……っ!」

 雪華は眉をひそめ、険しい表情になる。
 足場のない水中で、しかも推進器もない素体状態での攻撃。
 一連の身体の動きは見事と言うほかない。
 並の神姫であれば、アクアを打ちにかかることさえ、かなわなかったろう。
 しかし、雪華の一撃は、俺の想像したものよりもなお、緩いものだった。
 アクアは、棍の先で雪華の初撃を悠々と受け流すと、数倍鋭い一撃を雪華の左肩に見舞った。

「くっ……」

 したたかに打たれ、美貌をゆがめる雪華。
 だが、ダメージはないようだ。
 ティアの左手がゆっくり上がる。

「アクアさん、一本」

 俺はボールペンを走らせて、黒い線を一本、短く書き込む。
 再び、二人の神姫は間合いを取って静止する。
 雪華は構えを変えた。腕を引き、棍を水平に構える。

「突きか……」

 俺の呟きに、高村が頷く。
 確かに、今の時点で思いつく攻撃としては、それが一番有効に思える。
 たった一合で、有効な攻撃方法を模索して切り替える。さすがは雪華といったところか。



「……えっと、よくわからないんだけれど」
「何が?」
「この場合、なんで突きが有効な攻撃なの?」
「え?」

 首を傾げる久住さんに、俺の方がきょとんとしてしまう。

「いや、このときの雪華の立場なら、突きを試すだろう?」
「そうなのか?」

 不思議そうな大城の言葉。
 ……おい。
 どうも、俺が当たり前に考えていたことを、この二人は思い至ってもいなかったらしい。
 あの場にいた海藤も高村も、俺と同様に思考していたはずだ。
 だから、あの場ではあまり長い会話はなかった。
 俺は、大きく一つ、ため息をつく。

「あのな……この水族館でのバトルのポイントはわかってるよな?」
「うーん……棍を使った模擬戦ってこと?」
「あれだろ、装備なしでの力比べだろ」

 俺は本気でずっこけた。
 これが本当に、『エトランゼ』の異名を取る神姫マスターと、ゲーセンのランキングバトルに君臨するバトルロンドプレイヤーの解答だろうか。
 さすがの俺でも、口調が激しくならざるを得ない。

「ちがうっ! 水の抵抗だろっ! 水中に推進器なし、足場なしで対峙してるんだから、水の抵抗をいかに減らし、いかに利用するか。そういう戦いなんだよっ!」

 大前提である。
 俺の口調にしゅん、として、身を縮めた二人の様子に、俺は頭を振る。
 テーブルの上を見れば、同じようにミスティと虎実も肩をすくめていた。
 ……おまえらもか。
 この二人に勝てなくて悔しがっている三強に、本気で同情したくなってきた。
 それでも、俺は咳払い一つで気を取り直し、話を続ける。

「……で、雪華がなぜ突きを試すかというと……こう、上から棍を振るよりも、突く方が抵抗が少ないだろ」

 抵抗の大きさは、動いてる物体の面積の広さで増大する。
 だとすれば、水の抵抗を少なくするには、その面を少なくすればいい。
 だから、棍の先だけが抵抗の面となる、突きを選択するわけだ。
 雪華もはじめから突きで行くのかと思ったが、水中での動きの加減などを計るために、まずは普通に打ったのだ。

 ……という俺の説明に、ほほーう、と感心することしきりの久住さんと大城。
 頭が痛くなってきた。
 俺はこめかみを押さえながら、話を続ける。



 雪華は間合いを計ると、再び自ら打って出た。
 予想通りの、突き。
 しかも二段突きだ。
 最初の攻撃に比べ、格段に速い。
 だが、雪華はまたしても顔をしかめる。
 その表情が、本来のパフォーマンスを出し切れていないことを物語る。
 水の抵抗がかかるのは棍だけではない。棍を握り、突き出そうとするその腕、ひねりを利かせる身体、水を蹴って前に出ようとする脚にも負担をかける。

 逆にアクアは、水中であることを感じさせない動きを見せる。
 身を翻し、一段目の突きをかわす。
 二段目は、自分の棍の先ではじき、雪華の突きを上にそらす。
 すぐさま棍を回し、逆の先端を下から繰り出す。

「くっ……」

 雪華は右の脇をしたたかに打たれた。

「アクアさん、一本」

 またティアの左手が上がる。
 雪華は一瞬その手に視線を送り、再びアクアに向き直った。
 また、構えが変わる。
 今度は、棍を少し短めに持ち、先端を上げ気味にして構えた。
 顎を引き、アクアを静かに見つめる。
 待ちの姿勢。
 雪華はアクアに「打ってこい」と言っているのだ。
 だが、いくら守りに徹したとしても、水中でのアクアの攻撃を防ぎきれるとは思えない。
 それは雪華も承知のはずだし、そんな消極的な考えは彼女の気性に合わない。
 ならばなぜ打たせようと言うのか。
 理由は一つだ。
 雪華は、アクアに打たせることで、水中での動きを見極めようとしている。
 アクアの水中機動の秘密を探るためなら、この一点捨てる覚悟。
 それがこの雪華の構えに現れている。

 アクアは首を傾げ、優しげに微笑んだ。
 次の瞬間、地を蹴るがごとき速度で間合いを詰めると、雪華に向かって攻め込んだ。
 構えは先ほどの雪華と同じ、中段突きの構え。
 間合いに飛び込むと同時、鋭い突きが繰り出される。
 それになんとか対応し、立てた棍で突きをそらす。
 しかし、アクアは自分の棍を素早く擦りあげると、雪華の頭上に打ち下ろした。
 早業だった。
 激しい打撃が雪華を襲う……と思われたが、アクアは棍が接触する直前で止めて見せた。
 そして、軽く、雪華の頭に棍の先を当てる。

「アクアさん、一本」

 ティアの審判。
 今の寸止めは、アクアの配慮だ。
 雪華はセカンドリーグ全国大会を週末に控えている。
 無駄なダメージを与えないように、注意を払っているのだ。
 それは雪華もわかっているはずだ。
 だが、雪華は水を蹴って間合いを開くと、棍を猛然と構えた。 

「……おい」

 負けず嫌いにもほどがある。
 手を抜かれたのが我慢ならない、という面もちだ。
 雪華は、構えたまま、身体の細部を細かく動かしている。
 今見たアクアの動きを自分に最適化する作業。
 数秒後、雪華の構えは先ほどとは違って見えた。
 どこが違う、と具体的に言えるほどに大きな変化ではない。
 あえて言うならば、アクア同様の構えになった、と言ったところだろうか。

 アクアの表情が変わった。
 優しげな微笑みを引っ込め、真面目な顔で雪華を見据える。
 アクアは雪華の構えから、次の攻撃は片手間でかわせるものではない、と判断したようだ。
 それでも、アクアは待ちの構え。
 あくまで雪華に打たせるようだ。
 このときにはもう、俺にもわかっていた。
 この試合はバトルじゃない。レクチャーだということに。



「って……はあ?」
「レクチャー?」

 大城と久住さんは、そろって疑問を俺にぶつけてくる。

「そう。海藤とアクアはバトルしてたんじゃない。雪華にレクチャーしていたんだ」
「何を?」
「水中での機動方法を」

 つまり、水中を自在に動く秘密を、海藤は雪華に教え込んでいたのだ。
 模擬戦という形式で、戦いの中から学び取る。
 そもそも、高村たちがあちこちの神姫センターやゲームセンターに出かけて武者修行しているのは、大会出場神姫ではありえない戦い方を学ぶためだ。
 クイーンの実戦における学習能力は並外れている。
 そこで海藤は、アクアの水中機動が際だつ形での模擬戦をセッティングしたというわけだ。
 海藤には、普通のバトルロンドをするにはまだ抵抗があったのだろうか。

「だから、勝敗なんて意味がない。どっちが何ポイントかなんて、目安にもならない。せいぜい、雪華のモチベーションを保つくらいの役割しかなかったんじゃないかな」
「……なるほどね。確かに、一言で説明しにくいわね……」

 久住さんは腕を組んで唸った。
 大城があきれたような顔で、頭の後ろで手を組んだ。

「だけどまあ……確かに地味な試合だわな。見てる方は退屈だったろ」
「そうでもない。確かに派手さには欠けるけど、そこからのアクアはすごかった」

 俺はその時の光景を思い浮かべながら、みんなに話を続ける。








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