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ウサギのナミダ

ACT 1-17



 その日は、あまりにもいろいろありすぎて、アパートに帰り着いたときには、すっかり疲れ切っていた。
 水浸しの服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びると、あとはもう寝床にごろりと横になって、他に何をする気も無くなっていた。
 体は疲れていたが、意識は妙に冴えていた。
 まだ興奮しているのだろう。
 今日あった出来事を反芻しようとするが、うまく頭が回らない。
 結局俺は、ボーッと天井を見上げながら、ただただ寝っ転がっていた。
 どのくらいそうしていただろう。
 携帯電話に着信があった。メールの着信音。
 ゆっくりと手を伸ばし、液晶画面を見る。
 約束通り、久住さんからだった。
 メールの文面は、彼女らしく、簡潔だった。

「今日は生意気なことを言って、ごめんなさい。
 明日、午前11時に、JR○○駅改札前で待っています。

追伸。 ティアの写真、送ります。」

 添付ファイルを開く。
 俺は小さく吹き出した。
 ティアとミスティが一緒に写っている画像だ。
 Vサインを出しながらティアの肩を抱いて余裕の笑顔のミスティに対し、ティアはなんとも間抜けな表情で肩をすくめている。
 バカだな。笑えばいいのに。
 俺はその画像だけで、ひどく安心してしまった。
 ティアは無事だ。久住さんのところにいる。いまはそれでいいのだ、と思えるほどに、心に余裕ができていた。
 メールの返事を送る。待ち合わせと画像の件に了解の旨を伝えた。

 それにしても。
 久住さんが指定した待ち合わせ場所が不可解だった。
 最寄り駅からだと、ちょうど東京をまたいでいく感じになる。
 そんなところで待ち合わせとは……他に行くところでもあるのだろうか。
 まさか、彼女なりの嫌がらせというわけでもあるまい。
 ……そんなことを考えること自体、俺の心が疲れている証拠だ。
 俺は目覚まし時計をセットする。
 明日の約束に遅れるわけにはいかない。
 そして、寝床に横になると、不意に睡魔が襲ってきた。
 疲れた……。
 そう思いながら、睡魔にされるがまま、眠りに落ちていった。


 翌朝。
 異常に早く目が覚めた。
 まだ気が高ぶっているのかも知れない。
 だが、体の疲れはとれているし、頭の中もすっきりしていた。
 時間にはまだだいぶ余裕がある。
 俺はゆっくりと身支度を整え、駅前で朝食を取ることに決めて、家を出た。

 ティアのいない一晩で、俺は心の整理がついていた。
 必要な時間、だったのだろう。久住さんはそれがわかっていて、俺にこの時間をくれたのかも知れない。
 結局、一番大事なことは、ティアが俺のそばにいることだ。
 そのためなら、別にバトルロンドにこだわる必要はないのだ。海藤とアクアのように。
 誰に見せることもなくなるだろうが、ランドスピナーを自在に操り、走る楽しさをティアが感じ続けてくれるなら、それでいいのだ。
 それをティアに言ってやるつもりだった。
 ティアは……どんな顔をするだろうか。

 それにしても、今日の待ち合わせ場所は不可解だ。
 待ち合わせなら、うちの最寄り駅、そうでなければ、三駅ほど離れた久住さんの最寄り駅でもいいはずなのに。
 なぜ二時間近くもかかる遠いところ、しかも大都市というわけでもない、ごく普通の駅前なんて指定したのだろうか。
 久住さんは、よくわからない人だ。
 彼女にはいつも驚かされる。
 それは不快ではなく、むしろ嬉しいサプライズが多いわけなのだが。
 今日の待ち合わせ場所も、彼女の特有のサプライズなのだろうか。
 やっぱり、よくわからない。
 俺は電車の中で、つらつらとそんなことを考えている。

 二時間近くかかった列車の旅も、ここで終着だ。
 たどり着いたその駅は、全く普通のJRの駅だった。
 時間よりも十分ほど早い。
 待ち合わせは改札の前なので、もう一度駅名を確認してから、改札を通った。

 彼女は先に来ていた。
 ……だが、声をかけるのがためらわれた。
 あそこにいる女性は、本当に、久住さんだろうか?
 いつもと雰囲気がまるで違っていた。
 いつもの久住さんは、細いジーパンなどを履き、スポーティーな格好だ。それに武装神姫収納用のアタッシュケースを持ち歩いている。

 ところが、待ち合わせの場所にいたのは、白いふわりとしたワンピースにかわいらしいサンダル、小さなハンドバッグを手にした、女の子だった。
 顔は見慣れた久住さんのはずだったが、もともと美人な彼女がこんな姿だと、表情まで見違えてしまう。
 とんでもなく、女の子。
 実は待ち合わせているのは俺ではないんじゃなかろうか、とさえ考えはじめている。
 ところが、

「あ、遠野くん」

 そう言って、微笑みながら小さく手を振ったので、やはりこの少女は久住さんで、待ち合わせの相手はどうやら俺であることを、かろうじて認識できた。

「おはよう、久住さん……待った?」

 なんとかここまで口にできた俺を、むしろ誉めてもらいたい。
 女の子に免疫のない俺は、緊張がすでに最高に達し、思考は遙か彼方に吹っ飛んでいた。
 もちろん、表情に気を使う余裕などこれっぽっちもない。

「わたしも今来たところ。……でも、早かったですね」
「……遅刻すると、いけないと思って」
「さすが遠野くん、いい心がけです」

 にっこりと笑う久住さん。
 反則度が五割増しくらいになっている気がする。
 これは久住さんによる何かの策謀なのだろうか。
 俺にとってはもうサプライズを通り越して、遠大な陰謀の一端ではないかと思われる。
 この時点で、俺はもうドギマギした気持ちをどうにも持て余しており、すがりつく話題を必死に捜していた。
 そして、巡り巡った思考の末、一番大切な今日の本題にたどり着いた。

「あ、あの……てぃ……ティア、は……?」
「大丈夫。ちゃんと連れてきました。
 ……ティア」

 久住さんが、下げているハンドバッグにその名を呼ぶと、二人の神姫がバッグの口からひょっこりと顔を出した。



 菜々子さん(ミスティのマスターも、名前で呼ぶことをわたしに要求した)の呼びかけに、わたしとミスティはバッグから顔を出した。
 すぐに目が合う。
 マスター。
 一日会っていないだけなのに、ひどく懐かしい気持ちになった。
 同時に、罪悪感が沸いてくる。
 それは、わたしの噂で迷惑をかけたことと、マスターに無断でいなくなったことの両方の意識が入り交じった複雑なものだった。
 マスターは少し驚いたようにわたしを見つめ、

「ティア……」

 わたしの名前を呟いて……そのまま、地面に両膝と両手を着いてうなだれてしまった。
 ええぇ?
 マスターは大きく一つため息をつく。

「どんだけ心配したと思ってるんだ……」

 あ……。
 昨晩、久住さんが言ったとおり。
 マスターは、本当に、わたしの心配をしてくれていたんだ。
 わたしのことなんて、忘れてそれで……幸せになってくれればよかったのに。
 それでも、マスターが心配してくれたことが嬉しくて。
 自分が消えようとしてたことなんて棚に上げて。
 なんてひどい神姫だろう。

「ごめんなさい……」

 結局、いつもの言葉を口にするしかない、わたし。
 でも、マスターは、

「おまえが無事なら……いいさ」

 そう言って顔を上げた。
 もう、いつもの無表情だった。
 包帯を巻いていない、左手の甲を差し出す。

「戻ってきて……くれるよな?」

 マスターは相変わらず表情を表に出さなかったけれど。
 でも、声が、少し震えていた。
 わたしは、菜々子さんのバッグから出ると、マスターの左手に乗り移る。
 そのとき、後ろを振り返ると、ミスティが笑顔で頷いていた。

 マスターの胸ポケットに収まったわたしは考える。
 マスターはわたしの心配をしてくれていた。
 でも、わたしは迷惑で役立たずと、愛想を尽かされていたはずだったのに。
 顔を上げたときの無表情。
 でも、今日再会したときのリアクション、震えていた声。
 冷たいのと優しいのと、どちらが本当のマスター?
 マスターの本当の気持ちは?
 本当は、わかっていたのかも知れない。
 でもそれを、わたしが理解するには、まだ何か足りていない感じだった。



 左胸のポケットの重さに、俺は心底ほっとする。
 俺は立ち上がると、久住さんに頭を下げた。

「ごめん。見苦しいところを見せてしまって……」
「ううん……ふふふ、いいリアクションでした」
「それから……ありがとう。ティアを見つけてくれて……昨日も、気を遣ってくれて……」
「大したこと、してないわ」

 そう言って、久住さんは首を横に振った。
 彼女がどんな思いなのか、その表情から伺い知ることはできなかった。
 久住さんは、一度目を閉じて、うん、と頷くと、俺を見た。明るい表情。

「さて、用事も済んだことだし……ねえ、遠野くん、連れて行きたいところがあるの。付き合ってくれる?」
「え? あぁ……」

 やはり続きがあった。

「はじめから、そのつもりだったんだろう?」
「やっぱり、わかる?」
「そうじゃなきゃ、こんな遠くに呼び出したりしないだろう?」
「まあ、ね」

 久住さんは反則度五割増しで笑っている。
 彼女を勘ぐっているのは、俺の神経が過敏なのか、疑心暗鬼すぎるのか。
 俺が何となく即答できずにいるのを見て、彼女は言った。

「大丈夫。ただのホビーショップなんだけど……遠野くんも、きっと気に入ると思うわ」
「ホビーショップ……?」

 ただのホビーショップなら、途中過ぎた秋葉原でも事足りる。
 わざわざこんなところまで来るというのには、理由があるのだろうが……。
 まあ、考えていても仕方がない。
 せっかくこんな遠くまでやってきたのだから、このあたりのホビーショップでバトルロンド観戦も悪くはないだろう。
 俺たちの顔が知られているわけでもないのだから。

「わかった。付き合うよ」
「決まりね」

 久住さんはにっこりと笑う。
 俺と彼女は並んで歩き出した。

 俺たちは駅前の商店街を歩いていく。
 何も特別なことなどない、どこにでも見られる、ごく普通の商店街だった。
 いったい、何を考えているんだろう?
 俺は隣を歩く久住さんを盗み見る。
 ……えらく細い肩が視界に入った。
 久住さんは、男の俺に比べれば確かに小柄だったが……こんなにも細い肩だったろうか。
 いや、全身が細くて華奢な感じがする。
 いつもは意識していないが、やはり服装が違うからなのだろうか。
 それでも、痩せすぎという感じではなく、女性らしい柔らかな体つきだった。
 いかにも、女の子という感じで……。
 これでとても美人なのだから、俺が隣にいるのがえらく場違いに感じてしまう。
 というか、端から見たらどうなのだろう。
 一緒に並んで歩いているなんて、まるでデートみたいなのではないだろうか。
 ……デート!?
 俺と、こんなに可愛い女の子が!?
 いやいや、違う。
 これは久住さんの厚意で、ホビーショップに案内してもらっているだけなのだ。
 だが、一度意識してしまうと、頭では否定していても、感情が沸騰してしまう。
 おかげで、女の子にろくに免疫のない俺は、久住さんの隣で緊張しっぱなし、彼女を意識しすぎて頭の中は真っ白という状態に陥った。

「ここよ」

 目的地に着いたことを久住さんが教えてくれなければ、ぎくしゃくとした足取りのまま、どこまでも歩いていったかも知れない。
 俺たちがたどり着いたのは、彼女が言ったとおり、ホビーショップの店先だった。
 それほど大きいとは言えない、商店街にある個人経営の普通のホビーショップ。
 店の看板を見上げる。
 『ホビーショップ・エルゴ』とあった。
 エルゴ……?

「って、ここ……あの、エルゴ……なのか?」
「うん」

 久住さんはあっさりと頷いた。

「遠野くんだったら、きっと来てみたいだろうと思って」

 それはもちろんだった。
 ホビーショップ・エルゴといえば、武装神姫ファンならば知る人ぞ知る名店だ。
 俺が知るエルゴ評でもっとも印象的だったのは「武装神姫の魅力がすべて詰まっている店」というものだった。
 さらに、ここのバトルスペースの常連達は、有名な神姫プレイヤーばかりなのだ。
 ティアを迎える前から、一度は来てみたいと思っていた。

 久住さんは店の自動ドアをくぐっていく。
 俺もあわてて後に続いた。

「いらっしゃいませ」

 元気のいい女性店員の挨拶が出迎えてくれる。
 店内を見渡した俺は、圧倒された。
 気合いが入っている、なんてものじゃない。
 武装神姫のパッケージ商品はもちろん、追加武装からカスタムパーツ、専用工具にメンテナンス用品、果ては神姫専用のオリジナル衣服まで。
 ありとあらゆる武装神姫関連製品が所狭しと、しかしきちんと系統立てて、わかりやすく並べてある。
 秋葉原などの大型店舗に比べたら小さい店ではあるが、へたをすればこっちの方が品揃えがいいんじゃないか?
 店頭に置ききれない分は、検索端末で在庫確認、注文もできるようになっているみたいだ。
 端から物色したい気持ちになるが、今日は久住さんの付き添いである。
 とりあえず我慢して、久住さんに目を移す。

「おひさしぶり、静香さん!」
「あら、菜々子さん、元気だった?」

 久しぶりの再会に、エプロンをつけた女性店員とハイタッチなんかしている。
 女性店員はめちゃくちゃ美人だった。流れるような黒髪が印象的な美人。
 久住さんとはタイプが違うが、男だったら思わず振り向いてしまうほどの美貌だ。
 武装淑女にはえらく美人が多い気がするが……美人じゃないとバトルロンドをやってはいけないという掟でもあるんだろうか。
 なんて、腐った思考をしていた俺に、その店員さんが視線を向けてきた。
 俺の上から下までさらり、と視線を流し……

「彼氏?」

 久住さんへの問いに、俺は思わず吹き出した。
 久住さんは、店員さんの耳元へ口を寄せ、何事か囁いている。
 そして、

「ふぅん……」

 また俺をさらりと見渡した後、なにか納得げに頷いていた。
 ……なんなんだ。

「ところで、店長は?」
「奥で作業中。呼んでくる?」
「ううん、いいわ。こっちに戻ってきたら、わたしが来たこと伝えてくれますか? 言えばわかりますから」
「わかったわ」

 店員さんが頷くのを確認して、久住さんは俺のそばに戻ってきた。

「先にティアとミスティを預けてしまいましょう」
「え?」

 神姫を預ける?
 久住さんは俺を店の一角に案内する。
 そこは神姫サイズの机や椅子が並ぶスペースだった。
 いまも数人の神姫がたむろしている。
 あとで説明を受けたが、神姫学校と言って、エルゴで神姫を預かるサービスなのだそうだ。

「ティアはこっちね」
「ミ、ミスティ……ちょっとぉ!?」

 ミスティはティアに腕を絡めて、ぐいぐい引っ張っていく。
 以前にも利用したことがあるようで、勝手知ったる、という感じだった。

「わたしたちは、上ね」

 久住さんは俺を店舗の二階へと案内する。
 店の二階はバトル用のスペースになっており、バトルロンド用の筐体が並んでいた。
 筐体の数こそ、ゲームセンターに比べれば見劣りするが、観戦用の大型ディスプレイも設置されているし、多人数対戦用の設備も備わっている。
 休憩スペースで観戦もできるようになっていて、いたれりつくせりだった。
 小さな店なのに、多くの常連が通うのも、当然だと思う。
 近くにあったら、俺だって常連になっているだろう。
 久住さんは差し向かいになれる小さなテーブルのある休憩スペースに、俺を連れてきた。ちょうど誰もいない。俺たちは向かい合って腰掛けた。

 大型ディスプレイでは、現在プレイ中のバトルロンドの様子が映し出されている。
 思わず目がいってしまう。
 バトルをしているのは、アーンヴァルとマオチャオ。
 アーンヴァルはノーマル装備の組み替えのカスタムらしい。
 一方のマオチャオは、巨大なブースターを背負い、高速で滑空している。
 バトルは白熱している。その動きから、両者ともかなりの手練れだとわかる。

「あの神姫……両方とも見たことあるな……」
「ああ……マイティとねここ、有名だもの」

 久住さんのさも当たり前のような答えに、俺は吹き出した。
 『公式武装主義者』と『雷光の舞い手』かよ!?
 俺でもその二つ名を知っている、有名な武装神姫だ。
 その二人が普通に草バトルしているこの状況って……。
 いきつけのゲーセンにしか行ったことのない俺にしてみれば、スタープレイヤー同士のバトルをあっさり観戦できるこの状況が、とんでもなく贅沢なことに思えた。

「さっきの、店員の女の子もね、有名よ?」
「へえ……?」
「ドキドキハウリンのマスター」
「ぶっ」

 俺が驚く様を、久住さんは面白そうに見ている。
 まったく、俺は井の中の蛙だ。
 彼女が『天才』戸田静香か。
 秋葉原の神姫バトルミュージアムで、バトルロイヤル五二機撃墜を達成したハウリン。
 そのマスターはあらゆる技術を身につけており、武装、ソフトウェア、果ては神姫用の衣服まで作成するとか。
 バトルも強いが、ショーマンシップでバトルを盛り上げることを一番とする、趣味人。
 どんな人物かと思っていたが、まさかあんな美人が……。
 俺は首を振った。
 世の中、わからないことが多すぎる。

 俺たち二人は、そこでしばらくバトルロンドを観戦していた。
 白熱の攻防を見ていると、やはり血が騒ぐ。
 俺もバトルしてみたい、と思う。俺の、武装神姫と。

「やっぱり、バトルロンドはいいな……」

 心からそう思う。
 ティアに、バトルしなくてもいい、なんて言ってやるつもりだったが、心の底では納得していなかったのかも知れない。
 バトルに挑む神姫達の美しい姿、マスターが繰り出す知略の攻防、そして神姫とマスターがともに掴む勝利の達成感。
 何物にも代え難い、と思う。

「遠野くんは……どうして武装神姫をはじめたの?」

 唐突な、久住さんの問い。

「どうしてティアを自分の神姫にしたの? あのレッグパーツはどこで手に入れたの? どうしてあの戦い方にこだわるの? ねえ……」

 まっすぐな視線に射抜かれて、俺は身動きすることができなかった。

「教えて。わたし、あなたのこと……あなたたちのこと、何も知らない」



 ミスティはわたしの腕を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。
 わたしは歩調を合わせるのがやっと。
 彼女は妙に楽しそうに見えた。
 神姫学校のスペースには、何人かの神姫が集まって、グループを作って歓談しているようだった。
 ミスティは、グループの一つに近づいていく。
 グループの輪で、中心になっていた神姫が、近寄ってくるわたしたちに気がついて、顔を上げた。
 ツガル・タイプだ。
 瞳に少し気位の高そうな光を宿している。

「あら、珍しい……ミスティ、ひさしぶりね」
「ごきげんよう。調子はどう?」

 まずまずね、なんて答えたツガル・タイプは、ミスティに腕を抱えられているわたしを見た。

「その子は?」
「この子はティア。わたしの親友」
「親友? あなたの?」

 何か信じられない珍獣を見るような視線。
 それでも、ツガル・タイプの彼女は、微笑んで挨拶してくれた。

「はじめまして、ティア。わたしはシルヴィア。ミスティの昔なじみよ。よろしくね」
「は、はい……ティアです……よろしく……」

 お辞儀をしたわたしの頭の中に、浮かんでくるものがある。
 ツガル・タイプのシルヴィア……?
 聞いたことがある。確か……

「レッド・ホット・クリスマス……?」

 シルヴィアさんは頷いた。
 その二つ名は全国大会でも知られた有名な神姫の名だった。









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