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キズナのキセキ

ACT1-11「夕暮れの対峙」




「……で、どーすんだよ、遠野」

 居心地がよくなさそうに、縮こまらせた身体を揺する。
 俺は大城の方を向いて首を傾げる。

「どうする、とは?」
「いや、菜々子ちゃんとミスティの過去まで探るのにどんな意味があるってんだ? 今の菜々子ちゃんをどうするつもりだ?」

 なんだ、そんなことか。
 俺は椅子に座り直し、その場にいる面々を見回す。
 そして気付く。俺が今しなくてはならないことを、まだ誰にも伝えていないことに。
 俺はゆっくりと語り出す。

「菜々子さんの過去を調べていたのは、俺たちの知らない『エトランゼ』としての彼女を知る必要があったからだ」
「は?」
「彼女が本当は一体何を考え、何をしてきたのか……これからどうしたいのか。それを知りたかった。
 それを知らずに、菜々子さんを助けることなんてできない」

 おぼろげながら、それが分かってきた。
 菜々子さんは、桐島あおいと決別したあの日から、前に進めないままでいる。
 そして、彼女を助け、望みを叶えることで、きっと彼女は一歩踏み出すことができるのだろう。
 そして、菜々子さんに深く関わってきた『七星』やエルゴの常連たち、日暮店長、頼子さん、ひいては姐さん……そして、桐島あおいも、きっと心のどこかで、立ち止まったままなのだ。
 この事件を解決することで、彼らもまた前に進むことができるのだと、俺は思っている。

「まずは、菜々子さんをこっちに取り戻す」
「……あてはあんのかよ?」
「……あることはある」
「なんだよ、歯切れがわりぃな」

 大城に返す言葉もない。
 菜々子さんと桐島あおいが次にどう動くかは分かるが、どうやって菜々子さんを取り戻すかは、俺もまだ考えあぐねていた。

「次に二人が動き出すまでにまだ時間がある」

 俺は自分に言い聞かせるように呟く。

「その時までには、何か策を考える」
「まあ、それならいいがよ……一人で抱え込むなよ?」

 大城は少し心配そうな顔だった。
 俺はそんなに信用がないか? そう思ったのと同時、いろいろと心当たりを思いつく。
 俺は苦笑しながら、軽く頷いてみせるしかない。
 そんな俺たちの様子を見ていた日暮店長が、PCの脇から何かを取り出した。

「それから、頼まれていたこと、調べておいたぜ」

 プリントアウトした紙を一枚、俺に手渡してくる。
 そこには簡単な箇条書きでいくつか項目が書かれていた。

「ネットの情報はもう調べてるだろうから、警察あたりの情報を中心に当たってみたんだが……知り合いに頼んで、ようやくたどり着いたのがそれだ」

 まず、桐島あおいについては、特に大きな裏はない。女子大には今も通ってはいるようで、ごく普通の一般人だ。
 しかし、裏バトルの出入りについては警察も確認しているらしい。

 マグダレーナについては、素性が一切不明だ。
 市販品を超える性能はただのハーモニーグレイス型ではないことを示しているが、どうしてマグダレーナがそれほどの性能を有しているのかは分かっていない。
 しかし、注目すべき記述がある。
 裏バトル壊滅時に摘発された、神姫マスターたちの証言の中にあった、二つの言葉。
 アカシック・レコードとスターゲイザー。

「聞いたことねぇな。装備か、スキルかなんかか?」

 紙を横からのぞき込む大城の問い。俺は考えを思いついたまま口にする。

「アカシック・レコードは、この世界のすべてを記録した図書館のことだ」
「はあ? そんなもんあんのか?」
「ない……というか、超自然的な存在らしいから、まあ概念上のものだな。
 スターゲイザーは天体観測者のことだ。長じて、すべてを見渡す者のことを指す」
「……わけがわからん」

 大城は早々に匙を投げた。
 確かに、取り留めのない言葉である。
 だが、俺の頭の中で、結びつく言葉がある。
 マグダラ・システム。
 推測だが、マグダラ・システムを構成する、装備かスキルの名称ではないか。聞き覚えがない、ということは公式でない、市販品にはない、おそらくマグダレーナ固有のものということだ。
 それにしても、すべてを知る者と、すべてを見渡す者とは、どういう能力だというのだろう?

「まあ、マグダレーナはかなりの重装備らしいから、装備の名前でもおかしくないかもな」
「は? 重装備?」

 日暮店長の話に食いついてきたのは、意外にも虎実である。

「そりゃちがうぜ。ライトアーマー程度の……そう、通常のハーモニーグレイスの腰アーマーを少し派手にした程度だったぜ、奴は」
「何言ってんの、虎実。あいつはグラフィオス並にでっかい装備を背負ってるでしょ」
「おまえこそ何言ってんだ。アタシはつい昨日戦ってんだから、間違いねぇ!」
「わたしだって、週末に戦ったばっかりよ!」

 虎実の話に、さらに食いついてきたのはミスティだった。
 二人の口論は続き、虎実の意見には大城が賛同している。
 少なくとも、昨日現れたマグダレーナは軽装備だったようだ。
 しかし、ミスティが嘘を言っているとも思えない。そもそも、今ここで嘘をついて得などない。
 ミスティもまた、直接マグダレーナを相手にしているのだから、見間違うはずがない。
 結局、二人の舌戦は、マグダレーナに完敗したことをお互いに自ら暴露して墓穴を掘り、双方自己嫌悪に陥って、なし崩しに終わった。

 だが、俺はそんな二人の神姫の口論の結末を意識していなかった。
 二人の口論の内容に違和感を覚え、沈思していたからだ。

 なぜ、虎実とミスティが見たマグダレーナの装備が違う?
 ゲームセンターに来たときは軽装だった、と言うことは、マグダレーナが『ノーザンクロス』の神姫たちを侮っていたということだろうか。
 いや、万が一にも負けたら、桐島あおいが企んでいたこと……菜々子さんを追いつめることが失敗してしまう。
 使い慣れたフル装備の方が、より確実に勝てたはずだ。
 それは、週末リアルバトルで対決したミスティが物語っている。ミスティほどの実力者に、フル装備のマグダレーナは完勝できるのだ。
 しかも、裏バトルで一戦終えた直後に。
 ゲームセンターで装備を使わない理由がない。なのに使わなかった。そこに激しい違和感を覚える。
 ……それとも、使えない理由があったのか?
 もしかすると、ゲームセンターの緩いレギュレーションさえ満たせない、特殊な装備があるのかも知れない。
 だとすれば、相当に規格外の装備なのか……。

「どうした?」

 日暮店長の呼びかけに、はっと我に返る。
 気が付くと、その場にいた全員が俺を見ていた。随分長く物思いに沈んでしまっていたのだろうか。
 俺は頭を掻きながら、

「いえ……ちょっと考え事してただけです」

 歯切れ悪くそう答えた。
 事件の概要は未だ謎だらけだ。
 手にしたなけなしの情報で動く以外に、俺たちに道はなかった。



 結局、良策を思いつかなかった俺は、正攻法で行くしかなかった。
 菜々子さんが桐島あおいと一緒に現れる時と場所は分かっている。
 そこで待ち伏せ、罠を張る。
 大城と相談し、結局二人だけで動くことにした。
 これ以上、チームのみんなを巻き込んで、いらぬ心配をかけたくない。
 また、協力を仰ぐには、菜々子さんのことも詳細に話さなくてはならないだろう。本人の承諾なしに、彼女の過去を広めるのははばかられた。

 唯一、頼子さんには協力してもらうことにした。
 菜々子さんの家での様子や、外出状況について、メールで連絡をもらう。
 先日、久住家を訪れて以来、頼子さんはメル友である。
 頼子さんは快く引き受けてくれた。一緒に暮らしているのだから、菜々子さんの異変に気付いているだろうし、心配しているに違いない。
 頼子さんの報告によれば、菜々子さんはよく外出する。だが、夕方には戻って来るという。大学は休みの期間だから、いたって普通の行動である。
 問題は「誰と会っているか」なわけだが、菜々子さんの後をつけてそれを確かめるのは至難の業だ。
 そこまでしなくても、彼女と会うチャンスはある。
 俺は週末まで待ち続けた。



 冬の夕暮れは早い。
 夕方もまだ早いというのに、オレンジ色の夕日はすでに建物の陰に隠れ、空は夜闇が染み出してきている。
 日が落ちて、いっそう寒く感じられる。
 アスファルトと飾り気のない建物ばかりが並ぶ倉庫街ならなおさらだ。
 そんな寒風が吹き抜ける路地に、人影が二つ現れた。
 二人とも女性である。
 一人は、いまなお最凶の神姫マスターとして名を馳せる美女。
 もう一人は、その最凶の神姫を追い続けた神姫マスターである。
 かつて『二重螺旋』と呼ばれた二人組は、寒そうにコートの襟を立てながらも、穏やかな表情で歩いている。
 手には無骨なアタッシュケース。神姫収納用のものだ。
 行き先は、この先にあるA街区の空き倉庫。
 そこは裏バトルの会場になっている。
 二人が顔を上げる。一区画先の会場の方に視線を投げる。
 閑散とした倉庫街。
 そこに。
 倉庫の陰から、人影が一つ、現れた。
 数歩歩いて立ち止まり、二人と向かい合う。
 二人の内の一人……久住菜々子には、その姿に覚えがあった。

「……遠野くん」

 呼びかけに、顔を上げた遠野貴樹は視線を合わせてくる。
 いつものように、真っ直ぐに。



 菜々子さんのその一言で、彼女の異常を確信した。
 なにしろ、俺に下の名前で呼ばせることを強要するために、神姫バトルまで仕掛けてくる人だ。
 いまさら俺を名字で呼ぶなんて、ありえない。
 俺は対峙する二人を観察する。
 菜々子さんは、いつもどおり、濃い色のコートにジーパンという快活そうな出で立ちだ。
 左の耳に、小型のワイヤレスヘッドセットを発見する。なるほど、園田さんが言っていたとおりだ。

 そして、菜々子さんの隣。
 俺でも思わず息を飲むほどの美人が、穏やかに微笑んでいる。
 薄い色のコートに、ロングスカート、ウェーブのかかった長い髪に、えんじ色のベレー帽。
 菜々子さんとは対照的な出で立ちの、落ち着いた雰囲気の女性。
 いろいろな人から話を聞いた。
 だが初めて見る。
 これがあの、桐島あおいか……。
 話に聞くような凶悪なプレイヤーにはとても見えない。

「菜々子、彼は誰?」
「遠野貴樹くん。『ハイスピードバニー』ティアのマスターです」
「へえ……彼が……」

 初めて聞く桐島あおいの声は、恐ろしいほど澄んでいた。
 俺は緊張する。
 少なくとも、俺の素性を少しは知っているわけだ、桐島あおいは。
 菜々子さんは穏やかな表情のまま、俺に言う。

「……どうしたの、遠野くん。こんなところで」
「君を迎えに来た」

 菜々子さんの問いに、間髪入れずに答える。

「この先には裏バトル会場があるんだろう? 君をそこに行かせるわけには……まして参戦させるわけにはいかない」
「……なぜ?」
「裏バトル会場にいるところを見つかれば警察に捕まる。君を犯罪者にしたくない」
「……わたしを見捨てたあなたが、今さらそんなことを言うの?」

 菜々子さんは笑った。
 彼女には全く似合わない、卑屈な苦笑。

「ねえ、遠野くん。わたし、新しい武装神姫を手に入れたの。今日は彼女のデビュー戦なのよ。たとえあなたでも、邪魔されたくないわ」
「新しい……神姫だと……!?」
「そうよ。今度もまた……ミスティって名付けたわ」

 何を言い出すんだ。
 菜々子さんには見えていないのか?
 彼女の本当の神姫、イーダ型のミスティは、彼女の真っ正面、俺が着ているシャツの左胸ポケットにいるというのに!



「何言ってんの、ナナコ……」

 わたしの頭上から、ミスティの呟きが聞こえる。
 ミスティはマスターの胸ポケットにいて、わたしはジャンパーのポケットの中で待機している。
 菜々子さんはどうかしている。
 菜々子さんの位置からなら、ミスティの姿は見えているはずなのに。

「ナナコ! 目を覚ましなさいっ! あなたの神姫はここにいるでしょ!?」

 言葉は強気だったけど、響きが悲痛だった。
 そんな声を出すミスティは初めて見る。
 だけど、彼女の声もなぜか菜々子さんには届いていないみたいだった。
 穏やかな笑みを浮かべたまま、マスターを見つめている。

 その菜々子さんの微笑を見ていると、わたしはなんだかとても嫌な気持ちになった。
 あれは菜々子さんの本当の笑顔じゃない。
 菜々子さんはもっと素敵に笑う。わたしが憧れてしまうほど、眩しく笑う。
 そんな笑顔をマスターに向けられることが、とても羨ましく思ったりもする。
 今のような、ぜんぜん気持ちのこもっていない、ただ顔に貼り付けただけの微笑みは、菜々子さんのと違う。

 わたしがそんな風に考えて、一瞬眉をひそめたその時。
 堅い音を立てて、菜々子さんのアタッシュケースが開いた。
 そこに、一体の黒い神姫がいた。

「……っ!」

 頭上のミスティが息を飲む気配。
 わたしもとても驚いたけれど、躊躇している場合じゃなかった。
 ジャンパーのポケットから飛び出し、空中で一回転して着地。
 ランドスピナーを操って、マスターの前に立つ。
 菜々子さんの神姫を阻むために、マスターを守るために、わたしは身構える。
 同時に戦慄する。
 あれが……あんなのが自分の神姫と信じているなんて。
 今の菜々子さんは明らかに異常だった。



 菜々子さんの神姫はストラーフBisだった。
 もともと彼女はストラーフ型のマスターだ。相性のいい神姫であるには違いない。
 だが、ティアにとっては相性のよくない相手だ。
 ストラーフBisはストラーフ型の強化装備タイプである。追加武装の「ジレーザ・ロケットハンマー」は強力であるが、むしろ追加された装甲の方がやっかいだ。
 ティアは攻撃力の低い武器しか持てないから、追加装甲に阻まれ、ダメージを与えるのがより厳しくなっているのだ。
 その神姫とリアルバトル、しかも菜々子さんが『アイスドール』と呼ばれていた頃の戦闘スタイルで対峙する……なんて状況は、こんな時でなければ、間髪入れずに拒否しているところだ。
 しかし、戦わないわけにはいかない。
 俺の指示より早く、ティアが一歩前に出る。
 ティアは今の状況をよく理解してくれている。
 ならば俺は勝利への糸口を探すのみ。
 俺が頭脳をフル回転させようとした、その時。
 恐ろしく澄んだ声が、絶望を呼ぶ。

「二対一、でも文句はないわよね?」

 そう言うのと同時、桐島あおいの右手に下がっていたアタッシュケースが、重い音を立てて開いた。
 九○度に開いたアタッシュケースの上に佇んでいる、黒い影。
 俺は息を飲む。
 この一週間、何度もその名、その姿、その戦いぶりを耳にしていた。
 だが、目にするのは初めてだ。

 『狂乱の聖女』マグダレーナ。

 彼女の金色に輝く四つの瞳が、俺を見据えていた。

 マグダレーナの荘厳さを醸しつつも異様な姿が、俺の目を釘付けにする。
 噂に聞くとおり、見た目はハーモニーグレイス型だ。通常のハーモニーグレイスとは異なる、金色の瞳とくすんだ銀髪が印象を変えている。
 装備はさらに大きく異なる。デフォルトの軽装備とは似つかない重装備だ。
 背面の左右に一つずつ、大型の武装が備えられているが、その形状が異様だった。ランプスタンドのような形をしており、正面に向いているカメラのようなものが金色に輝いている。まるで一つ目の化け物を左右に従えているようだ。
 マグダレーナ自身の一対の瞳と合わせ、四つの目がこちらを睨んでいるように見える。
 一つ眼の化け物にはアームがあり、ハーモニーグレイスのデフォルト装備である十字架型の重火器「クロスシンフォニー」を所持している。
 十字架を正面に見えるようにしているため、あたかもマグダレーナの左右に十字架が浮かんでいるかのようだ。
 また、一つ目の頭の上には、各二門ずつマイクロミサイルが装備されている。
 マグダレーナ自身は、長い柄のついた燭台を持っている。
 そして、デフォルト装備と異なる、腰に装備された特徴的なロングアーマー。
 俺は思わず、その装備の名を口にした。

「ブルーライン……」

 それは滅多にお目にかかることができない、個人工房で作成されたレア装備であった。
 「ブルーライン」は、蝶をモチーフとした防具であるが、それ自体が高機動ユニットでもある。
 なるほど、超重装備でありながら、あらゆる攻撃を捌くほどの高機動を有する理由がようやくわかった。

 俺がマグダレーナの装備をつぶさに観察していると、少し不機嫌そうに、その黒い神姫はしゃべった。

「ふん……わたしはそなたたちと事を構える気はないのだが……成り行きだ、仕方があるまい……」

 まるで老婆のようにしわがれた声。
 何とも異様な神姫である。
 その異様な神姫が、長柄の燭台を構えた。やる気だ。
 俺は焦る。
 どうする。
 時間稼ぎが目的だが、菜々子さんの神姫だけならともかく、マグダレーナを含めての二対一では、どこまで持つか、自信がない。
 しかも、女性マスター二人はやる気だ。
 迷いは俺の方にある。
 足下で、ティアが健気にも構えを取る。
 もはや考えている時間はほとんどない。
 どうする、どうする!?
 頭の中で、思考が高速で回転する。
 だから俺は気が付かなかった。
 俺の左側の路地から現れ、俺の横に立った人影に。

「それなら、二対二、でもかまわないわよね?」

 不意に隣で発せられた声に、俺はびくりと身体を震わせる。
 声は女性。しかも聞き覚えがある。
 俺は驚きとともに、隣の人物を見る。

「……頼子さん!?」

 確かに、久住頼子さんだった。
 だが、一瞬、本当に頼子さんかどうか、疑ってしまった。
 表情が違う。纏っている雰囲気が違う。
 孫娘の心配をする祖母の姿はそこにはない。
 強敵を前にしたベテランの神姫マスターがそこにいた。
 緊張と歓喜の入り交じった、凄絶な笑みを浮かべている。

「……どうしてここに?」
「だいたい想像がつくわ。菜々子があおいちゃんと組んだのなら、次に行くのは裏バトル。それなら、一番最近、あおいちゃんが関わっていた会場。待ち伏せるなら、菜々子が倒れていた場所……会場に行くには、そこを必ず通る。そうでしょ?」
「ご明察です」

 頼子さんにはすべてを話したわけではなかったのだが。
 この深い洞察は、やはり人生経験のたまものであろうか。本人が聞いたら怖いことになりそうだったので、あえて口には出さずにおく。
 頼子さんは、菜々子さんとあおいに意識を向けながらも、ちらりと俺に視線をよこした。

「だけど、あなたともあろう人が不用意すぎるわね、遠野くん。二対一になることを想定していなかったの?」
「……すみません」
「助太刀してあげる。感謝なさい」
「助かります!」

 俺は素直に頷いた。
 願ってもない援軍である。俺の知り合いの神姫で『狂乱の聖女』を相手にしうるとすれば、頼子さんの三冬か、クイーン・雪華くらいしか思いつかない。
 頼子さんと三冬が手伝ってくれるのであれば、まだこちらに勝算がある。
 その時、マグダレーナが低く嗤った。

「ふ……ロートルが出てきて、今さら何の役に立つ?」
「我が奥様に対し、無礼千万な物言い。万死に値するぞ、『狂乱の聖女』よ」

 間髪入れずに答えた声がある。
 それは、頼子さんが左手に下げた銀色のアタッシュケースから聞こえてきていた。
 頼子さんが不適な笑みを深くする。
 重い音がして、頼子さんのアタッシュケースが開いた。
 赤を基調にリペイントされたハウリン型が、片膝を着いた姿勢で出現する。
 自らの姿を見せつけるがごとく、ゆっくりと立ち上がった。
 頼子さんの神姫・三冬である。
 彼女の自宅で一度会っているが、武装状態を見るのは初めてだ。

 三冬の装備は、基本構成はノーマルと変わらないように見える。ハウリン型独特のアーマーが上半身を覆っている。
 しかし、よく見ると間接部など細かいところが異なっている。よりシャープに動けそうな構成だ。
 背面にマウントされた大型砲「吠莱壱式」は、フレキシブルアームで保持されている。
 そして、背面には急加速用のバーニアが見える。
 それ以外に、特別な武装はなさそうだった。
 三冬の装備は、コンセプトが実に明快だ。基本はハウリン型と同じ地上格闘型であり、高機動型の神姫に対処するために増設バーニアでの瞬発力を得る。
 しかし、この装備で、なみいる重装備のファーストランカーを向こうに回して戦うのだから、頼子さんと三冬には、よほどの戦術と技があるに違いなかった。

「ファーストリーグ四七位が相手では不服か、『狂乱の聖女』」

 三冬の言葉の後、少しの間をおいて、マグダレーナが答える。

「四七位……『街頭覇王』か」
「そう、『街頭覇王』……またの名を『ストリートファイター』。お気に入りの異名なのよね。
 それに……ぴったりでしょう? この状況に」

 そう言った頼子さんの声は楽しげでありながら、剣呑な響きが込められている。
 俺は思わず左足を引き、半身の姿勢を取る。
 足下のティアは、構え直す。
 三冬がアタッシュケースから一挙動で飛び降りると、ティアの隣で構えた。
 対峙している二人の神姫マスターも、さすがに余裕の笑顔を引っ込めた。
 この場でいまだ笑顔のままなのは頼子さんのみ。
 不適に笑うベテラン神姫マスターは、言い切った。

「これからやるのはまさに、ストリート・ファイトなんだから」

 寒々しい港の路地に緊張が満ちる。
 その場にいた四人と四体の神姫は、同時に身構え、動き出した。











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