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キズナのキセキ

ACT1-22「決戦前夜」




 その日、俺はいきつけのゲームセンター「ノーザンクロス」に開店直後から入った。
 開店直後はさすがに人はいなかったが、そこは春休み、午前中から神姫マスターたちがバトルを求めて集まってきた。

「久しぶりだな、何やってたんだ? それにその腕はどうした?」

 『ヘルハウンド・ハウリング』の伊達たち常連陣が声をかけてきてくれた。
 俺たちがいなかったこの二ヶ月の間も、大して変わったことはなかったらしい。バトルロンドコーナーは相変わらずの盛況ぶりである。結構なことだ。
 一通りの挨拶が終わると、常連たちはまたバトルに戻っていく。
 一人になった俺は、いつもの定位置で壁に背を付け、見るともなしにバトル実況用の大型ディスプレイを見ていた。
 今日、チームのメンバーは来ない。久住邸で、「特訓場」最後の日を名残惜しんでいるはずだ。
 胸ポケットにはティアがいる。
 緊張を紛らわすために、ティアと他愛のない話をする。
 そう言えば、最近いろいろとあったから、こうしてティアと話をするのも久しぶりのような気がする。
 俺たちはできるだけ、「特訓場」の話題を避け、ミスティたちと関係のない話を続けた。

 昼過ぎくらいに、一人の客が入ってきた。
 ここに陣取ってから、入店してくる客の一人一人をチェックしていた俺は、すぐに気づいた。
 淡い色のコートを着て、えんじのベレー帽、サングラスを身につけたその女性。
 俺の待ち人である。
 彼女は、まっすぐ俺に向かって歩いてきた。
 目の前に来たところで、視線を合わせる。
 振り向かずにはいられないほどの美貌が目の前にある。
 差し向かいで話すのはこれが初めての相手。

 桐島あおい、その人だった。

「随分と無礼な呼び出しではないか、黒兎」

 しわがれた声が俺を非難する。
 桐島あおいの口は動いてはいない。彼女が手に提げているアタッシュケースから聞こえている。

「それは仕方がない。君らの連絡先がわからないのだから。それに、呼び出しに応じない、という手もあったはずだが?」
「応じないわけにもいくまい。それに、こちらにも貴様に用がある」
「……俺に?」

 それは予想されたことではあったが、俺はさらに緊張した。
 命を狙われた相手からの要求となれば、緊張しない者はいないだろう。
 一瞬の沈黙の後、口を開いたのは桐島あおいだった。

「それで、あなたの用は何かしら」

 来た。
 今までで最大のアドバンテージをここで使い切る。
 俺は事前に用意していた言葉を思い浮かべ、ゆっくりと口に出した。

「明朝六時、花咲川公園表の入り口。そこで『エトランゼ』が待っています。正々堂々、一対一の勝負です」
「……わたしたちがそのバトルを受ける理由がある?」
「あります。他でもない久住菜々子の挑戦を、桐島あおいが受けないはずがない。それに、いつまでも『エトランゼ』にまとわりつかれるのも、あなたたちには不都合では?」
「……」

 桐島あおいの瞳からは、感情が読みとれない。
 この沈黙は、余裕の現れか、それとも逡巡の結果か。
 今度は俺の方から問いかける。

「そちらの用件は?」
「……そなたが持ち去ったヘッドセットを返してもらいたい」
「ヘッドセット?」
「あの日、久住菜々子が耳に着けていたものだ」

 応じたのは、アタッシュケースのしわがれた声。桐島あおいの神姫・マグダレーナ。
 俺は切るカードを選ぶように、慎重に言葉を選んで口にする。

「返すのはかまわないが……今手元にない」
「本当か?」
「そもそも、あのヘッドセットが君たちの物だとは知らなかった。いつも持ち歩いているわけないだろう」
「……ふん、嘘はついていないようだ」

 マグダレーナとの会話はひやひやする。大ケガを負わされた相手なのだから、緊張するのも仕方あるまい。
 そして、理由はもう一つある。俺がマグダレーナの秘密に感づいていることを、決して悟られてはならない。
 だからこそ、話す言葉にも慎重になる。
 マグダレーナは続ける。

「ならば、今すぐ持って来い」
「……断る」
「なんだと?」
「正直、面倒くさい。明日、バトル終了後に渡すのはどうだ?」
「……痛い目を見るのが足りないか?」
「もうこれ以上はうんざりだ。だけど、お前がここで俺を傷つけると、君らには面倒なことになる」
「何?」
「俺に不審な様子があったり、合図したりすれば、ここの店長がすぐに警察を呼ぶ手はずになっている。そうすると困るのは君らじゃないのか?」

 桐島あおいがゆっくりと後ろにある従業員カウンターを見た。
 そこには、小柄で童顔な、この店の店長が俺たちをじっと見つめている。
 俺が今日、ゲーセンに入ってすぐ、店長に協力を要請したのだ。
 店長は快諾してくれた。

「なぜ我々が警察を呼ばれると困る、というのだ」
「C港でのバトルの時、パトカーのサイレンで、君らはあわてて逃げ出したじゃないか」

 アタッシュケースから、小さな舌打ちが聞こえてきた。
 マグダレーナはいらついている。つまり、追いつめている、という証拠だ。
 再び、短い沈黙。
 やがて、しわがれた声が一言発する。

「……仕方があるまい」
「わかったわ。受けましょう、そのバトル」

 マグダレーナの意を汲んで、桐島あおいがそう言った。
 よし。
 目的は達成した。
 俺は心の中だけでガッツポーズする。
 これで舞台は整った。
 あとは明日の準備を残すのみである。
 俺の思考が先へと進んでいるその時、マグダレーナが意外なことを言った。

「……もう一つ、そなたに用件がある」
「……俺にまだ何かあるのか」
「そうだ。遠野貴樹……我々の仲間にならぬか?」
「……な……」

 絶句する。こいつは一体、何を言って……

「なにを……何を言ってるんですか、いまさら! あれほどのことをしておきながらっ!」

 俺より先に、胸ポケットのティアがまくし立てた。
 また、これほどに怒りの感情を見せるティアも珍しく、俺は重ねて驚いてしまった。

「……わたしは初めから、そなたたちと事を構えるつもりはない」
「バカなことを! マスターにあんなケガさせておいて、そんなこと信じられるものですか!」
「本当なのだ。神姫風俗から多くの神姫を救った男、遠野貴樹と、その神姫・ティア……そなたたちと我々は協力できるはずだと思っている」

 しわがれた声は、少し困ったような口調でそう言った。
 さらに、桐島あおいが補足するように話を続ける。

「わたしたちは、裏バトルや神姫風俗で不当な扱いを受けて苦しんでいる神姫たちを保護しているわ。もう百体近いかしら」
「……!?」

 あまりにも予想の斜め上を行った話に、俺は思考が止まりそうになる。
 つまり……これが『狂乱の聖女』の真の目的だというのか。
 混乱し、高ぶりそうになる感情を、無理矢理押さえ込む。
 落ち着け。
 一つ大きく深呼吸し、大きく鳴る胸の拍動を隠しながら、俺はつとめて冷静な声を出そうとした。

「……そのために、各地の裏バトル場を荒らし回っていた、と?」
「そう。わたしたちは、あらゆる神姫を破壊してきたわけじゃないの。
 裏バトルでは、傲慢なマスターによって、望まない改造、望まない過酷なバトルを強いられる神姫がたくさんいるわ。
 そうした苦しみに堪えている神姫を保護し、神姫虐待の温床でもある裏バトル場を閉鎖に追い込む。
 それがわたしたちの目的よ」
「もっとも、戦闘の快楽に酔っておかしくなった神姫は容赦なくつぶしたが」

 いともあっさりと肯定された。
 俺は桐島あおいを見た。
 彼女はサングラスをはずし、視線を合わせてくる。
 頼子さんの言ったとおりだ。
 桐島あおいの瞳に、狂気は感じられない。明確な目的意識と、強い意志を宿した視線。
 俺は唇を開く。声が少し震える。

「俺は……俺とティアは、裏バトルで勝ち続けられるほど強くない」
「そなたたちにバトルを任せたいわけではない。保護した神姫のケアをしてもらいたい」
「ケア?」
「保護した神姫の多くは、心に傷を負っている。百を数える彼女たちのケアには、あおいだけでは足らぬのだ。神姫の……風俗の神姫の苦しみを知りながら、自らの神姫としたそなたなら……適役だと考えている」

 マグダレーナがそんなことを考えていたとは意外だった。
 自らにたてつく者は容赦なく排除する、冷徹な神姫だと思っていたが、それは俺の先入観らしい。しかし、それも仕方のないことだと思う。まともな会話をするのはこれが初めてなのだ。
 マグダレーナの申し出には驚いたが、俺の答えは決まっている。

「残念だが、断らせてもらう」
「……理由を聞かせてもらいたい」
「理由は二つ。お前は俺を買いかぶりすぎだ。俺はただの神姫マスターにすぎない。神姫に注ぐ愛情なんて、ティアの分しか持ち合わせていない。
 二つ目は……さすがに大ケガさせられた相手と仲良くするのは躊躇するものだろう」

 沈黙が降りる。
 マグダレーナも俺が快諾するとは思っていまい。
 やがて聞こえてきたのは、しわがれた神姫の声。

「……ならば、こういうのはどうだ。明日のバトルで我々が勝ったら、そなたに仲間になってもらう、というのは」
「な……そんな賭け、受けられるはずがありません! 受ける必要もないでしょう!」

 俺より先にティアが答えた。
 彼女は未だに憤りを隠さない。珍しいことだ。
 しかし、マグダレーナは冷静な口調で続ける。

「明日のバトル、そちらの要求ばかりでは不公平というものだろう。こちらにもメリットが無くては、やる気も起きない」
「だからって……!」
「そなたが口を挟むことではない、ティア。そなたのマスター、遠野貴樹に尋ねているのだ」

 ティアが悔しそうに口を噤む。
 一瞬だけ間をおいて、俺は答えた。

「……いいだろう」
「マスター!?」

 ティアは驚いて俺を見上げている。……そんなに驚くことでもないだろ。
 マグダレーナが念を押す。

「二言はないな?」
「ああ。ただ、お前が明日、『エトランゼ』に勝てたらの話だ」
「勝つさ。負けるはずもない」

 自信満々だな、マグダレーナ。俺が仲間になるのは確実と思っているのだろう。
 だが、俺は余計なことは何も言わなかった。緊張した表情を崩さず、無言で桐島あおいを見つめる。

「それじゃあ、明日」

 わずかな微笑みを残し、桐島あおいは踵を返した。
 彼女の姿が、ゲームセンターの自動ドアの向こうに消えるまで、緊張は崩せない。
 桐島あおいの姿が見えなくなって、たっぷり二分ほどした後、ようやくどっとため息をついた。
 これで今日の俺の目的は達せられた。
 明日、『狂乱の聖女』は確実に現れる。
 俺は、店員用カウンターに佇む店長に頭を下げた。

「協力、ありがとうございます」
「何事もなくてよかったね」

 にっか、と笑って、店長はサムアップのサインを俺に向けた。
 さすがのマグダレーナも、衆人環視のゲームセンターで事を荒立てるわけにはいかなかっただろう。
 会談の場所をここにして正解だったわけだが、それでも緊張してしまったのは、俺の肝っ玉が小さいからだろうか。

「……どうして、あんな約束したんですか?」
「え?」

 胸ポケットから、不機嫌な声がする。ティアだ。

「なんであんな賭けしたんですか! もしもミスティが負けたら、わたしたち、マグダレーナの仲間に……あんな神姫の仲間にならなくちゃいけないんですよ!?」
「……そうする必要があったんだよ」
「必要って……なんでです!?」
「明日必ず、『狂乱の聖女』たちを菜々子さんの前に引っ張り出すためだ」
「……!?」
「バトルに勝てば仲間になる……そういう風にしておけば、マグダレーナは自らすすんでバトルをしに来るだろう。明日は必ず現れる。そういう風にし向けた」
「そんな……もしミスティが負けたら、どうするつもりなんですか!?」
「考えてない」
「そんな!」
「前に言わなかったか、ティア。今回の件、俺は菜々子さんのためにすべてを賭けると」
「あ……」

 ティアはそれを聞いて、納得したようだ……いや、諦めたのか。自分のマスターがどんな人物であるのか、知らないティアではない。
 それでも、ティアは小さく呟いた。

「でも……わたし、いやです……マグダレーナの仲間になるかもしれないってだけでも……」
「信じることだ。明日ミスティが勝つことをな」

 すべては明日、菜々子さんとミスティの活躍にすべてがかかっている。
 やれることはすべてやったのだ。
 人事を尽くして天命を待つ。後はただ、信じるしかない。
 ……と思ったところで、まだ一つやり残したことがあるのを思い出した。



「てめぇ……それ本気で言ってんのか!?」

 俺は大城に胸ぐら捕まれて、絞り上げられた。
 眉をつり上げた大男の顔が間近にある。かなり怖い。
 だが、大城のこの反応は予想済みである。一発殴られるくらいは覚悟すれば、大城のドスの利いた視線も受け流せる。
 俺は努めて冷静な口調で言い返した。

「そうだ。俺の策に最初から参加しているお前にしか頼めない」
「……お前がティアにやらせりゃいいんじゃねぇのか」
「ティアには別の仕事がある。この仕事はティア以外の神姫にやってもらう必要がある」
「だからって……そんな卑怯な真似、俺たちにしろってか!?」

 俺たちが話しているのは、久住邸の裏である。
 「ノーザンクロス」を出た俺は、まっすぐに久住邸にやってきた。
 ここでは、最後の仕上げの対戦と、借りていた機材の後片づけが行われている。
 チームのみんなに仕事を任せていた俺だったが、ここはもうしばらく任せて、大城を呼びだした。
 誰にも知られてはならないため、場所を変えての内緒話である。

「……確かに卑怯に見えるかもしれないが、結果がそうならないことは保証する」
「言ってる意味がわかんねぇ……だいたい、なんだってそんなことをする?」
「悪いが、言えない」
「……秘密主義もたいがいにしろよ!?」
「明日になれば……バトルの時にすべて分かる。だから、大城。何も言わずにやってくれ。もしお前ができないというなら、安藤に頼む。だが、安藤とオルフェはまだバトルを始めて日が浅い。お前と虎実の方が安心して任せられる」
「だからってよ……」

 大城は見た目で勘違いされやすいが、一本気な性格で、卑怯なことが大嫌いだ。
 俺の頼みの内容にどうしても納得行かないのだろう。
 もっとも、こんな話をチームの誰に持ちかけても、同じように納得しないだろう。
 だからこそ、大城一人に相談しているのだ。
 俺を見つめる大男の瞳に、苦渋の色が見て取れる。
 こいつのこんな顔は俺だって見たくない。申し訳ない、と思う気持ちが俺の中に生まれたとき、

「トオノ……」

 大城の肩の上で、じっと話を聞いていた虎実が口を開いた。

「アンタが言ってることに嘘はないんだな?」
「ああ」
「……ならやるよ」

 大城の肩から俺を見る虎実の顔は苦渋に満ちている。
 視線はナイフのように鋭い。

「トオノは信じられる。だから、どんなに卑怯臭いことだって、アンタの言うとおりにやってやる。
 だけど、アタシとアニキを裏切ったりしたら……タダじゃおかねぇ」

 俺は虎実にうなずいて見せた。

「明日、もし俺が君らの信頼を裏切ったと思うなら……煮るなり焼くなり好きにしてくれていい」
「……覚えておくぜ、その言葉……」

 大城は突き飛ばすようにして、俺から手を離した。
 俺は少しせき込みながら、襟元を正す。
 これでようやく、明日の策について話すことができる。
 大城も虎実も、心の内では全然納得していないように見えた。
 すまんな。お前たちに嫌な思いをさせているのは、不器用な俺のせいだ。
 もっとうまい策、うまい話し方があるのかもしれない。
 だけど、今の俺には無理だ。だから、ごめん。
 俺は心の中で二人に頭を下げる。
 明日、すべてが終わったら、しっかり口に出して言おうと心に決めて。



 この事件に関わりはじめた頃、夕闇があたりを包むのはもっと早い時間だったように思う。
 今は四月。あの頃に比べれば、日が射す時間も長くなった。
 まだ夕闇が空を覆おう前に、チームメイトたちは帰って行った。
 俺は一人、最後の片づけをしていて、久住邸を辞する頃には、もうあたりは真っ暗になっていた。

「駅まで送るわ」

 一人帰ろうとする俺に、菜々子さんがついてきた。ミスティも一緒だ。
 俺に断る理由もなく、二人並んで駅まで歩き始めた。
 夜闇が降りるこの時刻ともなれば、住宅街といえど人影はほとんどない。二人の足音だけが静かに響く。
 思えばここ数ヶ月、二人でゆっくり話す時間もなかったような気がする。
 せっかく二人きりなのだ。何か気の利いたことを言うべきだろうか。
 だが、そんな言葉がすぐに思い浮かぶはずもない。気の利いた言葉がすらすら出てくるようなら、苦労はしていない。
 俺がぐるぐるとそんなことを考えていると、菜々子さんが小さく言った。

「ちょっと……寄り道していかない?」
「寄り道?」
「うん。少し、話したいことがあるの」

 俺の胸がドキリとした。
 決戦を明日に控え、彼女は何を話したいというのか。
 俺には想像もつかない。
 だが、俺には彼女の言葉を聞く責任があった。明日の決戦の参謀として、チームメイトとして、そして……恋人として。
 菜々子さんは先に歩いていく。
 住宅街の中、目印もないような角をいくつか曲がり、たどりついたのは……小さな公園だった。
 小さな遊具さえない、ベンチと砂場と植木があるだけの、誰からも忘れられたような、小さな公園。

「ここは……」

 俺は既視感を感じている。
 この公園に来るのは初めてのはずだ。
 だが、なぜかこの場所を知っている気がする。
 薄暗い街灯の光を受け、菜々子さんはゆっくりと振り向いた。
 愁いを帯びた微笑。
 いつもと違う雰囲気にドキリとする。
 今の菜々子さんは、儚く美しい。

「ここは……わたしがあおいお姉さまに負けた場所」
「……!」

 そうか。
 二年以上前、暑い夏の日、白いストラーフを従えた菜々子さんは、黒い修道女を相棒にした桐島あおいと、ここで対決したのだ。
 ここは初代ミスティ最後の戦場であり、墓標でもある。

「明日のバトルの前に……貴樹くんには、ちゃんと話しておきたかったの。わたしとお姉さまのことを」
「ああ……」
「……聞いてくれる?」
「いいとも」

 俺はベンチに腰掛ける。
 菜々子さんは俺と一人分のスペースを空けて座った。
 これが、今俺と菜々子さんが取らなければならない距離感。
 夜空に瞬く星を見上げながら、菜々子さんは静かに語り始めた。



 菜々子さんの肩にいるミスティが、マスターの胸ポケットにいるわたしをずっと見つめている。
 頑なな表情で、何か言いたそうにしている。唇が開きかけては、言葉を出さずに、また噤んでしまう。
 きっと、わたしも今、同じ顔をしていると思う。
 わたしもミスティを見つめ返していた。
 言いたいことがある。伝えなければならないことがある。
 でも、ミスティは耳を貸してくれないだろう。ここが白いストラーフのミスティにまつわる場所であるならば、なおさら。
 あのネット上で出会った、初代ミスティの言葉を、わたしはまだ彼女に伝えられずにいた。
 想いは必ず伝わるって、虎実さんは言っていたけれど。
 結局、あれから後、ミスティと話をすることはできずにいた。
 ぎくしゃくした雰囲気のまま、わたしとミスティは大事なバトルの日を迎えようとしている。
 それが嫌で、声をかけようとするけれど、何を話せばいいのか、わたしには見当がつかない。
 それはミスティも同じようで、だからわたしたちは奇妙な見つめあいを続けているのだった。



 菜々子さんの口から、彼女の過去がかいつまんで語られる。
 両親の死、頼子さんから贈られた神姫、桐島あおいとの出会い、『アイスドール』と呼ばれた頃、コンビ『二重螺旋』の結成と解散、再び現れた桐島あおいの豹変、そしてミスティの敗北と破壊……。
 知っているよ。
 君を思う人たちが、俺に多くを語ってくれたから。
 しかし、俺はその言葉を口にせず、じっと彼女の語りに耳を傾ける。
 これは儀式だ。
 菜々子さんが、明日、桐島あおいと戦う覚悟を決めるための儀式。
 話は続く。
 イーダのミスティを相棒とし、『エトランゼ』とあだ名されるほどに遠征を繰り返した。
 桐島あおいの行方を追いかけるため、そして、『狂乱の聖女』を倒せるだけの実力を身につけるために。
 そして……。

「遠征から帰ってきたときにね、「ポーラスター」の七星メンバーから、噂を聞いたの。珍しい戦い方をする神姫が、最近有名になってきているって。もちろん、対戦しに行ったわ」

 俺は何となく相づちを打つ。
 この先は、俺も知らない彼女の過去、彼女の想い。
 そして、菜々子さんは、言った。

「そこで会った神姫マスターは、ある意味、わたしとお姉さまが目指していた理想通りのバトルをする人だった」

 そんな人物がいるのか。
 菜々子さんと桐島あおいが目指した理想を体現する神姫マスター。

「あなたのことよ、貴樹くん」

 ……この時の俺は、今までで一番間抜けな顔をさらしていたに違いない。










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