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『大魔法少女』-2/3



「ご大層な教義の後でスマンけど、ソッコー終わらせてもらうで!」
開始のコールの音がまだ鳴り止まないうちに、ギンの神殺槍の口から赤い光が迸った。
反動がかなり重いのか、腰を落としてしっかり構えていても伸びたブレードは大きく暴れた。
細く、一見すると頼りなさそに見えるビームソードだが、ギンの位置からステージの反対側の端まで軽々と届くそれを見た観衆はどよめいた。
察しの良い者ならばすぐに見当がつくだろう。
これだけ長い距離でもソードとしての形を保っていられるならば、その威力たるや尋常ではないと。
そして、性格はともかくとしても、誰もが認める強者であるアリベも、神殺槍の性質を見違えることはなかった。
「危ない、アリベ!」
肩の使い魔が叫ぶと同時、あらぬ方向を向いていたレーザービームがアリベのほうへと走った。
いや、正確に私が見たものは赤い光が走った後の軌跡だった。
金属の実体を持った剣とはわけが違う。
煙の中で懐中電灯を振り回して走る光線と同じ速さだ。
一度ソードを放出してしまえば、後は振りさえすれば通過した線を容赦なく斬ってしまう。
斬ってしまう、はずだった。
アリベを中心として赤と緑、スタングレネードが爆発したような強烈な白のフラッシュがステージ全域に焼き付いた。
目と耳を塞ぐのなんて間に合うはずもなく、しばらく音と光の区別すらつかないような混乱に陥ってしまう。
「な、何が起こったんだ……ホノカ、無事か」
隣にいるはずのハルの声が、随分と遠く聞こえた。
「頭痛い……ハルも大丈夫?」
「なんとか、な。神様はどうだ」
「ん? ああ、僕なら問題ない。それより君たち、早く目を開けてみろよ。戦場はなかなか超エキサイティンしてるぜ」
神様はまるで「始めからサングラスと耳栓を用意していた」とでも言わんばかりに平然としゃべっている。
クレイドルを飛ばすような神姫だし、用意していたっておかしくない。
私もムキになって目を開いたが、まだ爆発的な光が焼き付いたままで、痛みにすぐ瞼が勝手に降りてしまう。
空戦型の鷹の目が仇になってしまった。
目を慣らしながら時間をかけてゆっくりと開いていくと、ようやくステージを見れるくらいには回復した。
まず目に入ったのは、ギンの赤いビームソード。
どこに向けて振られるでもなく、ピンと張った糸のように空間に縫いつけられている。
それをアリベがいる方まで辿っていくと、次に目に入ったのは淡い緑色の魔方陣だった。
バトル開始前にアリベが描き、背負っていたアレだ。
ギンの赤とアリベの緑がぶつかり合い、七色の火花を散らしている。
信じられないことにアリベは、ギンの神殺槍を止めてしまった。
「ぐっ! な、なんて、強い力なの……!」
「ふざけたやっちゃでホンマ! ボクの神殺槍を止めれる神姫がおるとは夢にも思わんかったで!」
元々開いているのか閉じているのか分からない目が幸いしたのか、ギンはさっきの光の爆発の中でもビームソードをブレさせずに済んだようだ。
観衆の視覚聴覚もだいたい元に戻ってきたのか、うめき声から一転して歓声に変わった。
うおおおおお! とか、ほわあああああ! とか、感動のあまり言葉になっていない。
「そういえば、大魔法少女が防御に回る姿は久しぶりだな」
ハルが言うように、アリベは強大すぎるがゆえに、こうしてまともな勝負になることはかなり少ない。
背中の魔方陣が防御にも使えることは知ってたけど、両手の前に持ってきて支える必死な姿なんて私は初めて見るくらいだ。
ギンが負けじとビームソードを押しこみ、空中に浮かんだ小柄な魔法少女がじりじりと押されていく。
「アリベ! シールドが壊れそうだよっ!」
「わかってるっ! でも……!」
「なんやその魔方陣、壊せるものなんかいな。それ聞いて安心したで」
ギンが言うや、レーザービームが一回り太くなった。
魔方陣を削るように飛び散る火花の勢いが一気に増した。
「うわああああああっ!?」
「ア、アリベェーッ!」
完全にアリベが押し負け、ステージの端まで追いやられてしまった。
背中の壁とレーザービームに挟まれ、ギリギリのところで踏ん張ってはいるが、もう絶体絶命のように見える。
「しぶといやっちゃで。その根性は認めたるさかい、早いとこ楽になりや」
「も、もうダメッ! シールドが!」
「くじけちゃだめだよ! あの二人のことを思い出すんだ!」
あの二人?
肩の使い魔がそう言うと、アリベはハッ! と何かを思い出したようだった。
「約束したじゃないか! もう戦えないメロディとバニラのために、このバトルはきっと勝つって!」
「きっと、勝つ……」
「アリベは希望を託されたんだ! 二年前の【あの事件】から、アリベは二人の希望を背負うって約束したじゃないか! だからこんなところで弱音を吐いちゃいけないよ!」
「なあ、ホノカ」と、ステージの中とは随分と違う温度でハルが口を開いた。
「あの使い魔、ゲットセットだったか? 私の記憶が確かなら、アリベの腹話術でしゃべってるんだよな?」
「そうね。噂の域を出ないけど、たぶん間違いないわ」
「私は腹話術に明るいわけではないから分からないんだが、腹話術というものは、練習すればあれだけ過酷な状況下でも使えるものなのか?」
「そりゃあ、難しいんじゃない? 私だってよく分かんないけど」
だろうなぁ、と首を傾げるハルと同じ疑問を持つ者は多く、『大魔法少女』の最大の謎はまだ解答には至っていない。
こうして生のバトルを見る限り、あの苦しげな声が【演技】であり【演出】だとは思えないのだが。
痺れを切らしたギンは瓶を取り出し、神殺槍に差し込んだ。
私とハルの勝負の時、最後の最後で苦しめられた毒だ。
ついに勝負が動く――そう見たより、アリベがわずかに早かった。
「やぁらああっ!!」
掛け声勇ましく、魔方陣を勢い良く上に跳ね上げてビームソードを逸らすことに成功した。
「なんやてェ――ッ!?」
どこにそない力隠し持っとったんや、とでも言いたげな驚き様だった。
慌ててビームソードをアリベに向け直そうとしたところで、その顔にベタリと、4足歩行獣がへばりついた。
いつの間にかアリベの肩を離れていた使い魔だ。
ただへばりつくだけで、「今だアリベ! 僕ごと攻撃するんだ!」なんて言いそうなのに言わず無言でいることが、腹話術と疑われている所以だ。
ギンが使い魔をひっぺがすのに苦戦している間、いよいよアリベの反撃が始まった。
無駄に装飾されたステッキ『インペリアルハート』を前に突き出すと、防御に使っていた魔方陣も正面に据えられ、中に描かれた幾何学模様がゆっくりと速度を落とし、そのまま逆回転を始めた。
「メロディとバニラだけじゃない……世界中の誰もが、今この時も戦っている」
魔方陣の回転はどんどん加速していき、ついには水面に広がる波紋のような幾重の円になった。
ついに来るか、と観客が目を見開く。
ギンは使い魔を引き剥がせず、シッチャカメッチャカにビームソードを振り回すことしかできない。
そして『大魔法少女』の最初にして最後の攻撃が放たれた。
「すべての勝利のマイルストーンとなる聖なる光」
『ラグナロク・レイ』
魔方陣の中心から、神姫を五人くらいまとめて消し炭にできるくらいの極太のレーザーが放たれた。
使い魔に視界を塞がれていなかったとしても、巨大なバッテリーボックスが付いた神殺槍を持つギンでは絶対に躱すことはできなかっただろう。
私ですら、あの太さのビームは無理だ。
緑色の光に浄化されるようにレーザーを全身に浴びて、ギンのライフポイントは瞬く間にゼロになった。
ついでのように大爆発したバッテリーボックスがアリベの勝利を完全なものへと演出した。


◆――――◆


「オイオイ絶望するには早すぎるぜ君ィ。考える時間はあと六日もあるじゃないか」
「たったの六日で私に何しろってのよ。見たでしょ昼間のバケモノっぷり。裏でお金渡して『勝ちを譲ってください』って土下座でもしてみろっての?」
「そんな真似してみろよ、たぶん君は滅ぼすべき悪として一生つきまとわれるだろうな」
「ああもう、なんだってあんなに強い神姫がいるのよ。私だって同じ神姫なのよ? しかも飛鳥ってばシュメッターリングの後に発売されて、ちょこっとだけ初期性能も高いはずなのに、この差は何なわけ?」
「カスタマイズされた神姫に初期性能は関係ないだろう」
「うっさいわね、分かってるわよそんくらい」
人間としての生を得るため、そして生きた身体であの人に気持ちを伝えるための試練は、七人中二人目で早くも頓挫しそうだった。
哀れにもバトルに負けた上、衆目に神殺槍を晒してしまったギンを見た時と同じように、『大魔法少女』に勝利するビジョンがまったく見えてこないのだ。
「今だから言えるけどね。ギンの対策を考えてた時は勝率が2%くらいかなって考えてたのよ。運良く神殺槍が壊れるとかギンがインフルエンザにかかるとか、あり得ない話じゃないでしょ?」
「神姫がインフルになるのはあり得る話か?」
「でも今度のアリベはそんなレベルじゃない。ゼロよゼロ、勝率0%。戦う前から手も足も出ないわ」
それにアリベは、ハルと力を合わせてやっとギリギリ勝てたギンよりもはるかに強いのだ。
私の手が届くレベルじゃないことは単純明快、疑う余地もありゃしない。
空中格闘戦のスペシャリスト?
セイブドマイスターのフルオート?
それがどうしたコンチクショウ。
弱い私にはもう、来週の【予告日】まで何も考えずに、こうしてクレイドルにうつぶせになって不貞寝するくらいしかできない。
枕が濡れているのはきっと、飲み過ぎたヂェリーが目から出てきただけだ。
「ちょっと力の差を見せつけられただけで情けないヤツだなあ。愛しの彼と手を繋ぐ夢はどこへ行ったんだ」
「夢……人の夢は儚い……知ってる? 『儚い』って『果無い』とも書くのよ。ふふっ、私は実のならない果物の木みたいなものなのよ」
べそをかく他に何もできない私の肩を、神様が「元気出せよ」とベシベシと叩いた。
痛いけど怒る気にもなれない。
「『大魔法少女』にケンカを売った【悪役】がそんな体たらくでどうする。君はこのままだと、アリベ勝利の騒ぎに乗じて罪のないオールベルンを傷めつけたクズ神姫として名を馳せることになるぞ。ん? そこんとこ分かってるのか?」
「誰のせいだァ!」
一転して怒る気になれた。
「ドサクサに紛れて自分で腕引っこ抜いといて何が「こ、この飛鳥型がいきなりッ!? た、たすけて大魔法少女ォ~!」だ! あんたのしょーもない三文芝居のせいであたしゃ完全にあのバケモノの敵よ!」
バトルを終えて次の対戦相手――正義の鉄槌を下すべき悪を探していた『大魔法少女』の目に留まってしまった私は、弁解の余地すら与えられなかった。
「『清水研究室を影で操る黒幕』だもんな。良かったな、これで『セイブドマイスター』の名は広く知れ渡ったぞ。君は実に運がいいな」
「『黒幕』なんて肩書きで喜ぶのは思春期の子供だけよ。どーしてくれんのよ本当、これから神姫センター行く度に変な目で見られるじゃない」
「サクッと残り六人倒して、さっさと人間になってしまえばいいじゃないか。ヂェリ缶に代わって缶ビールをあおる君を見ても、誰も黒幕だとは気づかないぜ」
なんで人間になったら呑んだくれになることが決まってんだ。
「人間になるってそんなの、アリベを倒すこと前提の話じゃない。勝率は夢も希望もないゼロだっての。ギンの時はたまたまハルが力を貸してくれたってだけで、元から私には荷が勝ってたのよ。あんたが提示した条件は今更だけど妥当だったわ。神姫が人間になるなんてそんなの、できっこないじゃない。だから達成不能の無理難題なんでしょ。いいわよいいわよ、一時でも夢見せてくれたんだからそれで十分よ怒らないわよ。あの人のことはずっとハルの影から見守るのが分相応ってもんよ。黒幕ですって? ハッ、そんな洒落たもんじゃないわ。雑魚な私にはストーカーがお似合いよ…………ぐすん」
「いつリタイヤしたって君の勝手だが、こうも早いと僕がつまらないじゃないか。仕方ないな、ほら、『大魔法少女』攻略のヒントをやるから泣くなよ」
「ヒント!?」思わず食いついてしまったけど、ニヤニヤしたオールベルンの顔を見るなり、期待はへなへなと萎んでいった。
どうせギンの時みたく、ひねくれたヒントで役に立たないに決まってる。
バトルが始まってからヒントの意味を理解できたって遅いのだ。
「遠まわしなヒントもらったって混乱するだけよ。っていうか混乱させたいんでしょ? 私が頭抱えて悩むの見て笑いたいんでしょ? いいわよいいわよ、好きなだけ笑えばいいじゃない」
「武装神姫の風上に置けないな。バトルの模範解答をもらって勝ってもつまらないだろうに」
「だって、あんたとの約束はあくまで人間になるためにあるんだもん。バトルに勝つことは目的じゃなくて手段よ、しゅ・だ・ん。汚い手を使ってでも勝てばよかろうなのよ」
「呆れたもんだな。ま、そういうことなら模範解答を用意してやらんでもないがね。君は本当に運がいいヤツだな」
「そうこなくっちゃ!」
勇み立つ私を「まあ待て」と留める神様。
「そう慌てるなよ、模範解答を教えてやるのはバトル当日になってからだ。それと対策武装を用意しておくから、バトルには必ずそれを装備して臨んでもらう」
「武装? まぁいいけど、今どんなのか教えなさいよ。ケチケチしないで」
「出血大サービスに文句言うヤツがあるか」
汚い手を使ってでも勝てばよかろうと、さっきは確かに言った。
言ったけれども、それは武装神姫としての倫理に反するものとは違う。
闇討ちとか、バトル前に使い魔を拉致するとか、発覚したらハルとあの人に軽蔑されるようなことは本末転倒でよろしくない(いや勿論、そんなことをするほど私は落ちぶれちゃいない)。
神様が用意する模範解答がもしも卑劣なものだったらどうしようと考えながら決戦の日を待っていたけど、それは杞憂だった。
期待を裏切る、直球ド真ん中ストレートの真っ向勝負だった。
愛と勇気と正義のCSCを胸に秘めた『大魔法少女』を相手に真っ向勝負を挑むということ。
つまり――――。


◆――――◆


目には目を、歯には歯を。
ハムラビ法典を出典とする仕返しの原則。
目玉をくり抜かれたら、仕返しも目玉をくり抜くまでにしときなさいよ、という言葉のニュアンスからは外れてしまうけど、神様の用意したヒントとやらはつまり、こういうことだった。
魔法少女には魔法少女を。

「焼け付く銃身巫女服焦がし、あなたに届けるガソリン臭い風」

ポージングで重要なのは腰だ、とのアドバイス通り腰を振ると、ピラリと簡単にめくれ上がったミニスカートもといミニ袴。

「『魔法少女セイブドマイスター』ホノカ、流星のカタパルトからいざ発☆進!」

決めポーズはばっちり決まった。
魔法の杖と呼ぶにはあまりに長く無骨で機械的な機関砲を縦に構え、眼をちょん切るように開いたピースサインはきっと、観衆を虜にしてしまったことだろう。
惜しむらくは、あまりの羞恥に耐えかねた私のコアが演算機能を半ば停止させてしまったため、視覚情報を全然処理できずに何も見えない。
ついには三個つあるCSCのうち一つがエラーを吐き出してしまい、強制再起動したおかげでまともな感覚が戻ってきた。
晴れた視界、そこには誰も彼も口をあんぐりと空けて唖然とする姿があった。
筐体を囲む神姫、オーナー、そしてあのアリベですら、火星人か何かを見る目をしていた。
こんな景色なら見なきゃよかった、そう思ったのを最後に私の意識は途切れた。
今度はCSCが二つもダウンしたため、再起動には長い時間を要した。



「そ……そう、あなたも魔法少女だったのね。えっと、で、でもどうして清水研究室を影で操るような真似を!」
「気をつけてアリベ、ぼくも知らない魔法少女だ」
さすがはプロの魔法少女(?)、インスタントラーメン並の即興魔法少女を相手にしてもちゃんと話を合わせてくれる。
でもどうしよう、この『魔法少女には魔法少女を』作戦を聞かされたのが今日の朝だったもんだから、さっきの「焼け付く銃身」云々の名乗りの他には何も考えていない。
押し黙る私にアリベが訝しみだした時、ヘッドホン(魔法少女アクセサリのひとつ)からピピーガガガ……とのノイズに乗って声が聞こえてきた。
《あー、あー、てすてす。こちら神様。聞こえるか、オーバー》
「こんな無駄なもん用意しなくても、筐体の外からしゃべってくれれば聞こえるわよ」
《ノイズは多いが感度そこそこ良好だな。魔法少女にこういったバックアップはつきものだろう。ハルヴァヤ君と代わってやろうか》
「ハルも来てるの!?」
心強い応援と思った、が、冷静になって考えると、今、私は魔法少女だ。
ストライカーが巻き起こす風で袴がピラピラとまくり上がり、神様が「これはズボンだ」と言い張る真っ白いパンツが晒され放題。
きっと、これから一生、今日この日を私は忘れないだろう。
飛鳥型としての誇りを埃のように捨て去った日として。
《聞こえるかホノカ、ハルヴァヤだ》
今だけはハルの声を聞きたくなかった。
この恥辱に満ちた格好を見られたくなかった。
東京スカイツリーからストライカーなしで飛び降りたい。
《神様から聞いたぞ、アリベの【魔法少女という設定】に対抗するには、こちらも魔法少女になるしかないと。……うん、よく分からないが、きっと良い作戦なんだろう。すまないが私からは何もアドバイスできない》
侮蔑された様子がないだけでもありがたくて安心できた。
次の言葉を聞くまでは。
《それともう一つ。余計なお世話だったかもしれないが、私の主人は他の場所に行かせてある。心置きなくバトルで腕を振るってくれ。では健闘を祈る》
聞いたことを理解する前に、プツリと通信が切られた。
しばらく頭の中を「私の主人」という言葉がグルグルと回って、その渦の中心にあるのが「他の場所に行かせてある」という言葉で、この格好を見られたわけでなくても、あの人の存在を聞かされるだけで冷静ではいられなかった。
考えるべきことを覆い隠すように無関係なことが記憶の底からどんどん溢れてきて、しっちゃかめっちゃかの映像をボーッと見ているような気分だった。
ブルース・リーがマリリン・モンローからカツアゲされてるような渾沌から、ひとつだけ、意味のある考えを見つけた。
ハルの気遣いって、何?
「そのヘッドホン、いったい誰としゃべっているの? まさかこの世界とは違う、どこか別の……」
アリベは律儀に待ってくれていた。
いくら対策を用意したって集中しないと勝てる相手じゃないのに、なに他のことに気を取られてるんだ私は。
頭を切り替えて、改めてアリベに向き直った。
「そうよ。このヘッドホンは別の世界に繋がってる。私はねアリベ、私の元の世界を救うためにここにいるの」
「元の世界……」
気のせいかもしれないが、アリベの目の輝きが少しばかり増したような……。
とにかく、話を続ける。
「平和だった私の世界は、ある日突然現れた【ネウロイ】ってバケモノに侵略されたわ。大きさも、数も、火力も圧倒的なネウロイに私たち人類は次々と住む場所を奪われていった。この日本――あっちの世界で言う扶桑皇国だって、もうとっくに人の住める場所じゃなくなってるのよ」
「私たち人類って、まさか君は」
「その通りよゲットセット。私は元は人間であり、魔女だった。ネウロイと互角に戦うことのできる私たちは【ストライクウィッチーズ】と呼ばれていたわ」
仰け反るほどの衝撃を受けるアリベ。
どうやら漫画の存在を知らないらしい。
マスターがレトロコミックマニアであることにこれほど感謝するのは最初で最後だろう。
ここ最近繰り返し読んでいたものの中身を、とにかく口から出るに任せてしゃべった。
「私はスオムスで戦っていたわ。とても寒いところでね、でもネウロイは小型の編隊が三日に一回くらい侵攻してくるだけの、比較的ラクなポイントだったわ。そこでチームのエースとして飛んでいた私に、ある日異動の命令が下ったの。北アフリカはハルファヤ峠。そこはスオムスの雪をすべて熱砂に変えたような場所で、今にも陥落しそうだって聞いてたわ」
アリベだけじゃなく、アリベの信者たちも一緒になって私の話に耳を傾けている。
ヘッドホンの向こうで神様が笑いを噛み殺している雰囲気を感じた。
どうでもいいけど、ハルヴァヤじゃないわよ、ハルファヤよ。
扶桑皇国と違って実在する地名だからね。
「チームのみんなは私の異動を惜しんでくれたわ。ま、エースの私がいなくなったら戦闘が楽じゃなくなるからってのもあるでしょうけどね。出発の前日、観測チームから襲撃の情報もなくて、私たちは消灯時間を過ぎてもお酒を飲んでいたわ。蝋燭の火を囲んで、スオムスでの思い出を語らっていて、誰かがそろそろ寝ようって言った直後……爆発音と共に警報が鳴り響いたわ」
ゴクリ、とつばを飲むアリベ。
なんだか私まで、それっぽい気分になってきた。
「無線越しに観測チームに怒鳴っていた人もいたけど、反応はなかった。たぶん、とっくに全滅していたんでしょうね。酔いと眠気が一気に覚めた私達は銃を持って格納庫へ走った。でもそこはもう火の海で、消化器を使う暇もなくネウロイの攻撃が飛んできた。撤退命令の放送が繰り返し流れて、引き返そうとしたけどネウロイに囲まれた私たちに逃げ道はなかった。ストライカーがなければシールドもろくに張れないし、飛び回る敵を相手に銃弾なんて当たらない。絶体絶命、もう駄目だって思った時……チームのみんなが、私に覆いかぶさって、ありったけの魔力を放出し始めたの」
「みんなでシールドを……あなたを守ったのね」
そうじゃないと私は頭を振った。
「チームの中にひとり、空間転移魔法が使える子がいたの。でもその子の魔力量はあまり多くなかったから、その子自身を1メートルくらい移動させるのがやっとだったわ。だからみんな、その子に魔力を集めた。……私ひとりを、逃がすために」
よほど私の演技が堂に入っているのか、観客の中に口元を押さえて泣き出す神姫が出てきた。
いや、もう私も演技じゃなく、心は完全にストライクウィッチーズのメンバーだった。
生身の背中でネウロイの攻撃を受ける仲間の表情がゾッとするほど鮮明にフラッシュバックする。
「臆病でいつもネウロイから逃げまわってばかりだった子も、撃墜数にばかり拘って個人プレーでまわりを困らせていたヤツも、私がどんなに叫んでも、最後まで止めようとしなかった」
「最後って、そんな」
「でも君が今ここにいるってことは」
「空間転移魔法は発動したわ。でも何が起こったのか空間どころか次元すらも飛び越えて、気がつくとこの世界にいて、この姿になってた。元の世界や体に戻る方法は分からない。でも私は絶望しなかった。希望すら見てる。なんでか分かる? この世界が私のいた場所から時間軸上を大きく進んだ未来だってことは、完全自律のオートマタがいることからすぐに分かったわ。未来に移動できるなら、過去にも移動できるはず。なら、元の世界の【あの日】の前に戻ることができれば、運命を変えることができる。姿はこのままでもいい。過去に戻ってみんなに危険を知らせなきゃいけないんだ」
それが私の覚悟。
絶対に、どんな手段を使ってでも、もう一度転移魔法を発動させること。
転移魔法の使い方も分からないし、発動に成功したとしても狙った時と世界に辿りつけないかもしれない。
最悪、次元の狭間を漂うことになって、もう二度と世界の枠の中に入ることすらできなくなるかもって考えると……すごく、怖い。
だけどこんな恐怖、あの子たちが耐えた痛みに比べればなんてことはない。
「こんなこと、あなたに話すのは筋違いよね。私がいた世界を知る人はこの世界には誰もいないんだし、歴史を変えてしまう危険なことに誰も巻き込むわけにはいかない。でもアリベには、戦う前に知っておいてほしかった。私の弾に詰まった火薬のような覚悟を。さあ、ネガティブトークはこれくらいにして、バトルを始めましょうか。これ以上ギャラリーを待たせちゃいけないわ」
愛用していた30mm機関砲セイブドマイスターのレプリカが、今は本物の冷たさと重さを得たように感じた。
少ない装弾数を疎ましく思ったこともあったけど、装甲の厚いネウロイから仲間を守れるのは私だけだった。
物資の調達が十全とは言えなかったスオムスとは違って、今はあらゆるサブウェポンを試せるから、昔の私よりも空中戦の幅はかなり広がっている。
みんな、待ってて。
絶対に元の世界に戻って、今度こそ守ってみせるから――!
「ねえ、ゲットセット」
話を受け止めてくれたアリベが使い魔に語りかける。
使い魔はやれやれといった感じで首を振った。
「この戦いはあくまで君のものだよアリベ。だから君が思う通りにしたらいい」
「うん。ありがとう」
二人の話の意味を測りかねていると、アリベは構えていた杖、インペリアルハートをゆっくりと下げた。
そしてあっさりと、「降参。私の負け」と言った。
「そんな、どうして」
「ホノカちゃん。正義とは何かって、考えたことある?」
質問の意味を測りかねていると、アリベは続けた。
「私はね、昔は【強さこそ正義】だって思ってた。悪がなくならないならば、悪を否定できる力こそ正義なんだって、目覚めた時から信じてた。勝って、勝ち続けて、正しい在り方を一方的に押し付けてきた。……それが間違ったことだったって、気づいた時にはもう遅かった」
「何か、あったのね」
頷いたアリベは、口から出かかった言葉を一度飲み込んだ。
その言葉がとても苦いものだってことを、アリベの目元に浮き上がった皺が教えてくれた。
胸に手を当てて気持ちを落ち着かせて、苦しくてどうしようもなくて、取り返しのつかない昔話が語られる。










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