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 ―PM:12:02 March XX, 203X LosAngels-Time.
 ―MMS-Shop『Hexa』 Century City.
 ―in L.A.
 
 時は遡り、ミラがまだロサンゼルスを発つ数十時間前の事。
 
 MMSショップ『ヘキサ』の自動ドアを開ける人物が、いつに無い深刻な面持ちで来た。
 『ヘキサ』の店主であるラルフ・バーンスタインは入ってきた人物に気軽に声を掛けた。
「おぅ、ミラじゃねぇか。今日は何の用件だ?」
「………」
 ミラは暫く沈黙したままラルフを見据える。
「お、おい? 何だってんだ??」
 店には言ってきたきりずっと沈黙し、ずっと自分を見据えられてはどう対処すればいいか分からない。
「……『アルカナ』が四度目の予告してきた。だから、またアレを貸して欲しい」
 その、爆弾テロリストの名前を聞いてラルフは仰天した。
「な、『アルカナ』だとっ!? ここ暫く、でっかい大会はないと思っていたが、なんでだ?」
 アルカナの狙いは、テレビ中継が行なわれ賞金も莫大な大きなオープンマッチを狙ってきた筈。神出鬼没にして世界中で反抗を繰り返してきたアルカナだが、ミラには三度も阻止された。
「日本だ。日本で行なわれる大会で、22個もの爆弾が仕掛けられる」
「に、に、22個だとぉ!!? 正気とは思えねぇ……ってか、ミラ。幾らお前でもそこまでして行く必要は無いんじゃないのか?」
 老婆心と言うものだろうか、それなりに長い付き合いとなるミラを気遣っての言葉だったが、
「依頼主は、私でなければ阻止出来ないと信じている。それだけだ」
「し、然しだな…幾らなんでも遠すぎる。それに、烈風らがいるとは言え、お前一人では無理に決まっている!」
 それでもミラの、決意から来る言葉は止まらない。
 懐かしむように、昔話を始める。
「……あれは、最初のケースだったな。あの時の主催者は若き私の事など信じず、唯単純に警備を強化させてきた。その過度な警備が裏目に出て、爆弾が一般人に発見されてしまった。お陰で大会は混乱状態になり、参加者達の不信を買って次々と棄権していったがそのまま進められ、主催者は涙からがらに神姫BMAに懇願してきた」
 ミラのその声はあまりに冷たく冷淡だった。
「最初と言うとおよそ一年半近く前…随分と懐かしい話だな。16個もの爆弾が設置されていたあれか。あの後確か開催元の会社は……」
「その翌日に潰れた。世界中での『アルカナ』の9度目の犯行でやっと、神姫の手でないと解体出来ないと世界中の機関が突きとめたにも拘らず、神姫ではなく人間のセキュリティを信じてな。そして、人間の手による解除を推し進めたお陰で、殆どの爆弾を解除不可能にさせた……」
 淡々と、然しミラの声色は低い。それは怒りを通り越した何か故に。
「あの時は……どうやって止めたんだよ?」
「無謀な賭けだったが……連山のドレインシステムを使い、時限爆弾のバッテリーを強制的に吸引して無理矢理止めた。残りの爆弾は烈風と震電、それとクリスのアナトが神姫の武装の中で工具になりそうなものを厳選して何とか解体した」
「………」
 爆弾の正しい解除方法を無視したそれを行った連山に、自らの死の恐怖はなかったのだろうか。そもそも神姫に、人間用の時限爆弾の危険性を教え込む方が無理がある。
 連山でなくとも、リスクの高い爆弾解体にあたった他の神姫BMAのAIESも同様の恐怖を感じていたに違いない。
「……世間的には、現在でも神姫は高価な玩具で定着しているとは言え、神姫を蔑視し信じなかった報いが、私の最初の解体成功となった。だが、腹立たしくて誇りたくもない」
「まあ、そんな主催者じゃ『アルカナ』がいなくとも潰れたかもしれんがよ」
 神姫を唯の商売道具と見た人間の愚かさ故か。
 当時は、『アルカナ』の目論見が結果的に果たせたものだと苦汁を飲んだものだった。
「そして、二度目と三度目からは神姫BMAに依頼するようになったが……二度目の時は莫大な報奨金を掛けて裏で一般オーナーまで巻き込もうとし、三度目の時に至っては神姫BMAそのものに経済的圧力を掛けてきた」
「あんときゃ俺もムカついたぜ。けど結局、両方とも悪事が発覚して最終的にはポシャッたな」
 何より大事なのは、客そのものではないのだろうか。報奨金を掛けて素人に解体させようと考えるなど信じられない。それどころか依頼する相手に対し脅迫を掛けるなど、まるであり得ない話だ。
 ミラの三度もの奇跡は決して、ミラ自身にとって輝かしいものではなかった。
「だが四度目の相手は、報奨金などではなく本物の誠意を示して私に依頼してきた。大企業の長たる人物が、遥かに若き私に頭を下げて…信じられるか?」
「そうか……お前にとって、断りたくなかったということでもあるワケか」
 そのラルフの言葉の後に続く言葉がなかった。ミラの言いたいことはこれで全てだった。
 ラルフは大きな溜息を吐きながら、
「…しゃぁねぇ、分かった。あれで三度目の正直になると思っていたがな……シーミュー!!」
 と、ラルフは店の奥で在庫整理をしていた忍者型MMSを呼びかけた。
「はい、どうしました?」
「…『アルカナ』の四度目の予告だ。神姫専用EODキットを大至急取ってこい。ナイフのコーナーにある筈だ」
 表情を作れない忍者型MMSはぱちくりと瞳を瞬かせた。
「分かりました。あの……ミラさん」
「?」
 シーミューがミラに何か言いたそうだった。
「あの、その……気をつけてくださいね」
 それだけ言うとシーミューは店の奥へと駆け出した。
 続いてラルフが喋りかけてきた。
「四度目で22個もか……『アルカナ』も本気って訳だ。いつも通りの解体が通じると思うなよ」
「それは承知済みだ」
 と、ミラが言うと同時に三つの小箱を抱えたシーミューが戻ってきた。
「全く、唯のMMSショップにEODキットの製作を頼んできたあの時のミラは忘れらんねぇな」
「こっそり違法品も扱っておいて何を言っている」
 ミラはシーミューから小箱を受け取りトランクに仕舞い、すぐに店を出ようとしたが、
「お前なら問題ないと思うがよ、こういうのは常にポーカーフェイスだぜ……無事に戻ってこいよ」
 ラルフの言葉を背に受け、ミラは『ヘキサ』を後にした。
 
 
   ANOTHER PHASE-03
                『LeadingDancing』
 
 
 ―AM:08:28 March XX, 203X.
 ―Defence Headquarters, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 ―in Japan.
 
 開会はまだだと言うのに、スタジアムの周囲はすさまじい熱気で覆われていた。
 一般参加者だけではない、スタジアムのスタッフが彼方此方駆け巡り、更にはテレビクルーまで殺到していた。
「うひょぉ、初日だってのにすっげぇ人数だな」
「そうだな。戦いに来たオーナーは何人いるか分からないが、明日で一気に16人に絞られるのか」
「ところでよ、今日でノルマ11個って事になるわけだが…本当に大丈夫か?」
 ミラの肩の上で器用に逆立ちをしつつ烈風が訊ねてきた。
「今日中に14個は解除しておきたいものだが…せめて遅れを取りたくないものだ」
 そう言いながらミラは関係者専用スペースの、警備隊本部に足を運んだ。
 
 テーブルに広げられた施設の全体図を前に、桜は報告書を軽くまとめていた。
「おはよう御座います、ミラさん」
「現状は……何も無しのようだな」
 と、ミラは施設の全体像を見渡した。最初に解体すべき爆弾のあると踏んだ位置を睨んでいた。
「はい。ですが、今は人の出入りが多い為、捜索困難となっております」
「警備員にあまりちょろちょろと動いてもらってはそれはそれで困る。万が一発見されたとしても今まで通りなら、一見爆弾のように見えないのが救いだ……烈風、震電、連山。通常装備に加え、例のEODキットを装備し始めるんだ」
 机の上にどかっと大きなトランクを置いて、大きく開けた。中で眠っていた震電と連山はほぼ同時に目を覚ました。
「…了解した」
「わ~い、みんなで~頑張ろ~ね~♪」
「へへっ、やってやるぜ…!」
 と、烈風もミラの肩から下りて、武器庫の様になっているトランクの中に入って装備を始めた。
 その様子を眺めつつミラは、熱いコーヒーポットの中身を紙コップに移しながら桜に喋りかけた。
「それで水無月様には、不審物及び不審者に不審神姫の発見に務めるようお願いする」
「承知しております」
 淹れたての熱いコーヒーを飲んで睡魔を払いながらミラは言葉を続けた。
「それと……私の勘ではここにも設置されているかもしれない」
「そ、そんな!?」
「……烈風、匂いはするか?」
 とミラが一言訊ねると、烈風は軽く匂いをかいだ。
「……おぅ、コーヒーの匂いと一緒にTNTっぽいのが微かにな」
「だが、ここで速やかに解除しては『アルカナ』の思う壺だ。まぁ、これからの解体も奴の手の上に乗せられている可能性もあるが」
 淡々と言う烈風とミラに、桜は問い訊ねる。
「勝算は……あるのですか?」
 その問いにミラはこう返した
「三度の挑戦に勝ってきたとは言え、今回の『アルカナ』は本気だ。二日に分けられて行なわれる大会に、22個もの爆弾が設置されている。勝率は嘗ての三例より遥かに低い」
「………」
 それでも、ミラは桜の顔を真っ直ぐに見つめながら言った。
「だが、私は兼房様にこの解体の成功を誓った……負けるつもりはない」
 そう言った時に烈風ら3体が、
「いいから、さっさとやりにいこうぜ」
 烈風は通常の黒き翼は変わらず身に付け非武装にしつつも左右非対称のシルエットを取り、
「…準備完了した」
 震電は、”フレスヴェルグ”を右肩に担ぎ、
「えへ~ミラちゃん、張~りきっていこ~♪」
 連山は普段より身軽に構えつつ、スラスターを持つパーツだけを装備していた。
 爆発物解体とは言え、普通の神姫が人間用に作られた爆発物に耐えられることはない為、バーニアや飛行ユニットを重視した機動性重視の装備にしてあるのだ。幾ら神姫に、人間用のボムスーツを改良して何とか着せたところで、その激しい衝撃に耐え切れるものか、当然だが答えは否である。
 準備万端だと思われたが、ミラは連山に、
「こら……『ミラージュコロイド』を忘れていないか?」
「ふぇ? ふにゃ~うっかり~っ!!」
 大いに慌てる連山と、大いに溜息を吐いたミラと震電と、少し不安そうな桜と烈風だった。
 
 
 ―AM:08:43 March XX, 203X.
 ―Entrance Hall, 1F, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
 ミラが最初にきたのは、多くの一般参加者が最初に集まるフロアだった。
 バトルへの参加登録が行なわれており、多くの行列が出来上がっていた。
 現在、ミラが連れている神姫は烈風と連山の二体だった。震電は、警備隊本部に仕掛けられた爆弾を探索しており、早やかな合流を期待しての分担だ。
「魔術師の札…1は全ての始まりだ」
 ミラは出来る限り隅の方に立ち、参加者達の上空を飛ぶ烈風を見つめていた。
 多くの参加者が最初は立ち寄る場所がこの、特設スタジアムのエントランスホールである。彼らの思い出もこれからの出来事も、すべてここから始まる。
「くっそ、込み過ぎて匂いどころじゃ……ん?」
 そこで烈風は何かに気づいた。
 人込みに紛れてふらふらと歩く奇妙な神姫、恐らくサムライタイプだろう。全く何も装備せず、完全な非武装の状態で歩いていた。
 それどころか、夢見がちに真上を見上げて歩いていた。一般参加者達はこの熱狂の渦に紛れて気付いていないようだが、この奇妙なサムライタイプはこれから何処へ向かうのだろうか?
「ミラぁ、何か変なサムライタイプを見つけたんだがどうするよ?」
 少し想定外ではあったが、『アルカナ』の爆弾の一つである可能性も否めない。
 そこで、
「連山。烈風が発見したそのサムライタイプを慎重に追尾し、不審な点が無いか確かめるように」
「あいにゃ~変なサムライを追っかけてきま~す~♪」
 連山はミラの肩から高く飛び上がると、その奇妙なサムライタイプを目視した。そしてそのまま床の上に着地すると追いかけ始めた。
「さて烈風、見つかったか?」
 と、ミラは小型マイクを通じてこの辺りを飛び回っている烈風に語りかける。
「少し高く飛んだら匂いが強くなったぜ…お、アレか?」
 と、烈風は入場門の内側の『非常口』の印の真上に、無限を示すインフィニティマークの形状のオブジェを見つけた。
 慎重に近づく度に烈風の嗅覚センサーが、それがC4の火薬であることを通知した。プラスチック爆弾は加工がしやすく、直接火にかけても爆発しない特殊な性質を持っている。
 通信ユニットからミラの声が聞こえてきた。
『見つけたか? 形状は?』
「8の字を横倒しにした形状のプラスチック爆弾と、小っちぇ制御装置の様なのを確認したぜ。それと……」
 爆弾の傍の壁に固定されていた小さな金属板を見つけた。それは、8ミリ×3ミリ四方の非常に小さなタロットカードであり、『魔術師』が描かれていた。
「こいつは…『THE MAGICIAN』のタロットっぽい奴だな。壁に貼り付けられている」
『正位置、逆位置どっちだ?』
「あ? 地面に足をつけているから…正位置ってやつじゃねぇのか」
『そうか、では制御装置はどのようになっている?』
「ちと待てってばよ……今開けて中身を見てみる」
 と言って、烈風はツールボックスからドライバーを取り出し、4センチ四方程度の制御装置の外蓋を外した。その中には、22本もの太さ0.3ミリのコードが綺麗に整列されて並んでいた。
「22本ものコードが並んでいるぜ。内、一本だけ赤いな」
『電通はチェックしたか?』
「どうやらどのコードも、フェイクはないみたいだぜ」
 通信ユニットからの返答は暫くなかったが、
『赤いコードに、何か特徴は無いか?』
「特徴も何も……ん、この赤い奴だけ弱冠太いぜ。っても、他のに比べて0.15ミリ程度だが」
 ミラはそれを聞いて、
『烈風、その赤いコードをそっと軽く削れ。うっかり切らない様に注意を払ってな』
「チッ、そういう細工は苦手だってのに…」
 と毒づきながらも烈風は、ツールからヤスリを取り出して赤色のコードを慎重に、ゆっくりと削っていく。隣接する他のコードに触れたら、一巻の終わりとなるかも知れない。
 5分くらい経った時、ゆっくりと削っていた赤いコードの内側に白いコードが見えた。どうやら赤いコードは普通の白いコードに赤い塗料を塗って赤く染めたものらしい。
「赤色と思っていたら白いコードが露出したぜ?」
 それを聞いてミラは言った。
『白い衣を纏う魔術師は赤いローブを纏う。やはりその赤いコードが魔術師を意味するのだろう。それを切るんだ』
「やはりってよ、そう思ってたんなら最初から切れと言えよな…」
『確信の無い解体はしたくない』
 それは確かにそうかもしれないが、この苛立ちは適当な何処かにぶつけてやれ。
 ツールから超小型ナイフを取り出し、慎重に狙いを定めてナイフの先端を赤いコードに当てる。そして力を込めて一気に赤いコードを切断した。
 すると、制御装置に取り付けられていた緑色の発光ダイオードが点灯した。
「……セーフって事らしいな」
 一息つく烈風だったがミラは、
『烈風、面倒かもしれないがその装置をもう少し調べて欲しい』
「何を調べろってんだよ、オイ?」
『白いコードの行き先だ。恐らくは…』
 ここでミラに反論したところで何一つとして得しない。渋々ながら烈風は、小型ノコギリで制御装置の一部を完全に取り外した。
 すると、
「残りのコードが21本のアンテナっぽいのに繋がってるぜ」
『やはりか……これで残りの21個が起動した可能性が高い』
 ミラの突然の推測に烈風は慌てる。
「ちょ、おいそれってどう言うことだっ!?」
『タロットの魔術師の数字は1だ。即ち1から全てが始まることを意味しているわけだ。そして正位置の魔術師の意味に、物事の第一歩と言った、全てのスタートとなるような意味がある』
 故に、『魔術師』を意味する爆弾を一番最初に解除しなければならなかった。それが、他の爆弾の起動装置であり、解除する事で初めて本格的な爆弾解体の幕が開くのである。
 尤も、烈風にとって気分のいいことではない。だからと言ってこれを解除しなければ残る21個の爆弾を解除出来ない。
「くっそ、アルカナの奴……会ったら唯じゃ済ませねぇ…!」
『いいから次は、ここから最も近いレギュレーション検査席を調べに行くぞ』
「クソッ、分かってるよ!」
 ここまでコケにしてくれたのならなんとしてでも全部解除して『アルカナ』の鼻を明かし、出来ることならぶっ飛ばしてやる……と烈風は誓った。
『さて、震電と連山にも…』
 
 
 ―AM:08:55 March XX, 203X.
 ―Defence Headquarters, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
「…爆弾が起動したか」
 震電は、ロッカーとデスクの隙間にそれを発見していた。だが、制御装置らしい物の前に二つの小さな水差しを模したタンクがクレイドルのような物体の上に置かれていた。このタンクは一体何を意味するのだろうか?
 近くには、小さな『節制』のカードが正位置に貼り付けられていた。
 震電は的確にその制御装置をミラに説明する。
「……二つの小型タンクがあるが、片方は水銀で満たされており、もう片方は空。『TEMPERANCE』のカードが近くに付けられており正位置だった。制御装置は先程の二つのタンクと繋がっている」
『成る程、【節制】は妥協、調節、節度……そして、カードに描かれているのは、天使が両手に持った水差しに生命の泉の水を量り分ける姿だ。空のタンクに水銀を注いで両方とも均等の分量になるようにすればいいだろう。だが、両方のタンクが接すると爆発する恐れがある』
 簡単に言ってくれるが、ほんの数ミリリットルの誤差すら許されないという事である。
「……了解した」
 震電はミラにそれだけを告げると、通信を断った。
 そしてすぐに目の前にある二つのタンクを目にして、あることが思い立ったようだ。
「……サクラ…と言ったか? 頼みがある」
「は、はい。何でしょうか?」
 いきなり名前を呼ばれ、桜は一瞬焦ったがすぐに応答した。
「…接着テープがあるなら貸して欲しい。無ければ別に構わない」
「テープ…ですか? それならすぐに…」
 桜はセロハンテープを持ってきたが、震電は爆弾に近づかせないように合図した。そして、震電の方から桜に近づき、神姫に取っては大きなセロハンテープを受け取った。
「……解体に成功したとしても極力近づくな」
「は、はい」
 そう言うと震電は爆弾に近づき、右手に水銀で満ちたタンクを、左手に空のタンクを持った。
 桜はゆっくり下がりながらその様子を眺めることしか出来なかった。どうやら、テープはここで使うものではないらしい。
(「タンクの通電チェックは自殺行為になるが、絶縁処理は比重を狂わす」)
 そう思いながら、右手に持ったタンクを左手のタンクに一滴ずつ、慎重に水銀を垂らしていく。
 
 
 ぽたっ…………ぽたっ…………ぽたっ…………
 
 
 事前に桜に、『重大な話がある』として、人払いをする様にお願いした。集中力をそがれた時は終わりとなるからだ。その為桜もすぐに承知してくれた。
(「後、8滴程か…?」)
 次第に左腕が重たくなっていくが、相応に右肩・肘間接・手首・全指の出力を相応に調節すればいいだけのことだ。逆に、軽くなっていく右腕に特に注意を払わなければならない。
 力加減を誤り、水銀が溢れてしまえばその時点で解体不能、或いは爆破だろう。だが、震電には恐怖らしい感情が芽生える事はなかった。
 慣れと言うものなのだろうか。だが、慣れてしまうことがもっとも恐ろしい事だと、幾多のバトルを通じて十分に承知している。
 
 
 ぽたっ、ぽたっ……!!
 
 
(「今か…っ!」)
 14滴垂らしたところで、右手のタンクを持ち上げて止める。両腕に掛かる負荷は多分、均等だ。
 そして両腕に持ったタンクを、クレイドルのような物体の元の位置に置いた。
「………」
 すると、制御装置に緑色のランプが光った。これで解体に成功したと言うことだろう。そのまま、桜から借りたセロハンテープを伸ばすと、小型ブレードで適切な長さに切断し、テープを念入りに貼り付けて二つのタンクを固定した。ついでに念の為、水銀が溢れないように両方のタンクにテープで蓋もしておいた。
「……解体成功…」
 震電はそう言いながら出てきて、桜にセロハンテープを返した。
「お疲れ様です」
 桜はそう言って、震電の為にドアを開けた。
「……誰にも悟られるな…では、行かせてもらう」
 そう言うと震電は、”フレスヴェルグ”をホバリングさせ、ハンググライダーの様に掴まってエクステンドブースターの出力を上げた。そして、飛行機のエンジン音に近い甲高い音を立てて、風切り音を残してあっという間に警備隊本部から出て行ってしまった。
 
 
 ―AM:09:02 March XX, 203X.
 ―South Passage, 2F.
 
(「うみゃぁ~師匠はあんな間抜けな格好で~歩かないもんね~」)
 なんて事を考えながら連山は、人々の雑踏を避けながら奇妙なサムライタイプの神姫を追いかけていた。特に何か目的がある訳でもなく、唯何となく彷徨い歩いていると言うべきだろうか。
 明らかにおかしいのは、例のサムライタイプの神姫にオーナーらしき人物がいないことだろう。
 その時、ミラから連絡が来た。
『そっちはどうなっている?』
「ふにょ、今は2階だよ~あの神姫に~オーナーがいない事以外は~異常なし~……あっ」
 と、連山は何かに気づいた。奇妙なサムライタイプの神姫の行き先が、レストランテラスへ向かっていることだった。
 だが、件のサムライタイプがこのまま真っ直ぐ歩けば、ドームから転落してしまうのである。
「うにゃぁ~あの神姫が~2階から真っ逆さまに落ちる~っ!?」
『何だと、急いで止めにいくんだ』
 それを聞くや否や、連山は疾風の如く、一瞬で件のサムライタイプに駆けつけた。すぐに肩を掴み、移動を阻止した。すると、サムライタイプの胸部に何かを見つけた。
「あれ~変なカードが上下逆さまに付けられてる~?」
『…どんなカードだ?』
「ん~っと~……旅人が~崖から足を踏み外そうとしているよ~?」
 連山の説明を聞いてミラは、
『それは恐らく、愚者のカードだろう。新しい道へ一歩踏み出そうとする者の意味でもある。無知の知、それが崖から足を踏み出すと言う行為だ。だが、上下逆さまと言う事はそれが失敗に終わる。即ち落下して…爆発する』
「い、いいから~解除の仕方~教えて………あれぇ?」
『今度はどうした?』
 連山に取り押さえられ、サムライタイプの神姫はジタバタ暴れていたが、次第に動きが鈍くなり、そしてピクリとも動かなくなってしまった。
「うみぃ……バッテリー切れで動かなくなっちゃったみたい~?」
 それを聞いて、通信ユニットの向こうからミラの溜息が聞こえてきた。
『……真の意味で、愚者だったのかもしれんな。取り敢えず人目に付かないところに隠せ。それから合流だ』
「あいよ~♪ 人目のつかない暗がりで~コソコソするのは~どんな人~♪」
 と、どうでもいい事を歌いながら、サムライタイプの神姫の頭部と股間を押さえるようにして頭上に大きく担ぎ上げて隠し場所を探しにいった。
 
 
 ―AM:09:08 March XX, 203X.
 ―Inspection Section, 1F.
 
 一方、烈風はレギュレーション検査席で爆弾を見つけた。その場で審査を受ける神姫にもオーナーにも検査官にも誰にも見つからないように、スッと内側へ降りる。
 作業用カウンターテーブルの最奥の裏側に取り付けられており、気付きにくい事は確かだった。
 制御装置の近くには、『法王』のカードが取り付けられていた。
「くっそ、机の裏側につけんなよ……外しにくいじゃねぇか」
 烈風はホバリングしつつ悪戦苦闘しながら蓋を外すと、五芒星の形をしたコアが露出した。その近くには、『法王』のカードが取り付けられていた。
「お~い、ペンタグラム型のコアに正位置の『THE HIEROPHANT』のカードを見つけたぞ」
 と、一旦ここでミラに連絡を入れる。解除するのは自分だが、方法を推理するのはミラの仕事だ。
『上出来だ。確か、【法王】は二人の司教に教えを授ける姿で、正位置とするなら……そうだな、二人の司教を切断してしまえばいい筈。それで法王は存在意義を失う』
 それを聞いた烈風は翼の角度を誤り、転落しかけた。
「おいコラ…二人の司教って何だよ?」
『元の絵柄を思い出せ。法王は真ん中に座っている。法王の左右には柱がある。そして、法王にひざまずく様に位置する司教は、カードの下側にいただろう?』
 烈風は苦々しい顔を浮かべながら、
「わっけ分かんねぇ……一般的な絵柄とペンタグラムを見立てたのかよ」
 と毒づきながら小型ノコギリを取り出し、慎重に五芒星の足に当たる二つの角を切断した。
 そして……緑色のランプが点灯した。
「ふぅ、解除できたみたいだぜ」
『ご苦労。一旦私のところに戻れ。連山と対策を練っておきたい』
「レンは無事か…っし、すぐ行くぜ」
 愛する存在の無事を知り、烈風は胸を撫で下ろした。
 
 
 ―AM:09:14 March XX, 203X.
 ―Main Lobby, 1F.
 
(「お、いたいたあそこか」)
 広大な施設内にたくさんの人間が殺到していても、ミラの喪服を見間違えるわけがない。烈風はそれだけを頼りに飛んできた。
 座椅子に座る連山を見つめて、
「レン、お前の方も何とかなったんだな」
「えへ~向こうから~自滅してくれたって言うか~?」
 和やかな空気を展開する二人だったか、ミラが邪魔をした。邪魔と言ってもそれは飽くまで烈風の主観であり、ミラ自身には重要な事なのだが。
「こほん、震電も既に解体に成功し、現在はドーム内会場上空を偵察しに行っている。後、40分程すれば予選が始まる。だが、試合開始のタイミングが乱雑になりやすい予選で『アルカナ』が見立てを行うとは考えにくい」
「ふ~ん、それで?」
 肩を捻りながら烈風が聞いてきたが、どうでもよさげな感じだった。
「これから予選が始まると会場内部での解体は困難だ。次の解体チャンスは深夜になるがこれは出来れば避けたい。そこで今の内に出来る限り、予選会場内部の爆弾を解体しておきたい」
「急がないと~駄目だね~」
 ぺたんと座椅子に座り込む連山は、相変わらずにこやかに笑っていた。
「そう言う事だ。急ぐぞ」
 ミラは連山をトランクの上に座らせ、席を立った。
 
 
 ―AM:09:19 March XX, 203X.
 ―Arena, 1F.
 
 警備員の許可を得て、ミラは他の参加者たちより一足早く会場に入った。
 そこには、計32台ものV.B.B.S.筐体が綺麗に設置されていた。最新技術のそれらが並ぶ光景は実に壮観だが、今はのんびり眺めている場合ではない。
 ミラの存在に気づいたか、アリーナの遥か上空にいた震電は、”フレスヴェルグ”の上に乗ってミラの元へ降りてきた。
「電光式トーナメント表に『THE LOVERS』、最上部に『THE TOWER』、開閉式ドームに『THE MOON』と『THE SUN』を確認。内、解体可能と判断したのは『THE TOWER』だけで、他のは全て逆位置だった」
 降りてきて早速、震電はミラに報告をする。広大な会場の隅々を数分で見渡す事が出来たのは、震電が持つ”フレスヴェルグ”の機動力に他ならない。
「それは重畳。では、『塔』の解体に向かえ。追って指示を出す」
「了解した」
 震電はすぐに”フレスヴェルグ”のブースターを起動させ、ドームの最上部を目指して真っ直ぐに飛んだ。
「へっ、まだ解体できてないってか?」
 烈風は嫌味を飛ばすが、
「君の功績よりは遥かに大収穫だがな。そんな事より、疑わしい筐体は2番から22番の番号が振られた筐体だ。それと、控え室も怪しいが22も控え室はない。1・5・14番以外のそれらを調べに掛かるぞ」
 1と5と14は、既に解体したタロットカードの番号である。0に位置する『愚者』は該当するものがない為、ミラは初めから数えていない。
「それじゃ、行ってみよ~っ!」
「チッ、仕方ねぇ」
 連山の元気な掛け声を合図に、ミラは烈風と連山を見守りながらV.B.B.S.筐体を点検しに行った。
 
 
 ―AM:09:21 March XX, 203X.
 ―Top of Arena.
 
 鳳条院グループ特設ドームの最上部。そこは普通の人間には到底行く事の出来ない場所だったが、残り時間を刻むデジタル表示式時限装置と、軽量なダイナマイトが何本か固定されていた。
 これを仕掛けたのは間違いなく、人間ではなく神姫或いはそれに匹敵するロボットだろう。ここが爆発してしまえば、ドームの瓦礫が落下して参加者達に大きな被害を齎す事となる。
 震電は通信ユニットでミラに語りかけた。
「目標捕捉。形状は至って普通だが、残り時間がデジタル時計で表示されている。残り、24時間程」
『【塔】の正位置は、破綻を意味する。タロットカードの中でもとくに強烈な意味を持つカードだ。それで形状が普通となると…何が起きるか分からない。慎重に挑めよ』
「了解」
 と言って、震電は制御装置に手を伸ばそうとしたその瞬間……!
 
 
『ピーーッ!!』
 
 
「!!」
 突然、デジタル時計の表示が16秒と表示された。24時間ほどの猶予があった筈なのに。
『どうしたというんだ、何が起きたんだ!?』
「答える暇はない」
 ミラの問いかけを跳ね除け、震電はツールボックスからドライバーを抜いて急いで、蓋を固定するビスを外しに掛かった。
 
 ―14sec...
 嫌味にも、蓋は16本ものビスで固定されていた。
 普通ならその時点で急速退去を提案するのが妥当だ。
 だが、震電はドライバーをドリルの様に素早く回し、全てのビスを取り外した。一本辺り0.2秒で回しきる以外に手はなかった。
 だが、
「……くっ!」
 
 ―10sec...
 蓋を外し、震電は更に焦らされた。
 中にあったのは、横向きに平行に並ぶ16本ものコードだった。
 タロットカードに関して、震電もそれなりに勉強してきたつもりではあった。だが、コードにこれと言った特徴はないのが厄介以外の何ものでもなかった。
 震電はすぐにミラに連絡を取った。
 
 ―8sec...
「16本のコードが横向きに、平行に並んでいる。切るべきは?」
 ミラは一瞬考えた後、すぐに結論を導き出した。
『【塔】のカードは、雷が塔の最上階を打ち砕いた! 答えはそれだ!』
 その叫びに、震電は返答しなかった。
 
 ―3sec...
 時間がない。だが、ミラの推理はしっかりと聞いていた。
(「塔の頂上は両端のいずれ…どっちが最上階を……!?」)
 ふと、近くに固定されていた小さな『塔』のタロットカードが目に入った。
 最初に自分はこれを正位置と言った。即ちこの塔に準拠すれば……!
「…っ!!」
 一か八か、中途半端な確証に賭けて正位置に従って一番上のコードを小型ナイフで切断した。
 
 
 
 
                  ……………………………………
 
 
 
 
 何も起こらない。
 何も聞こえない。
 唯、コードを断ち切った手が麻痺したような錯覚を感じた。
「……?」
 デジタル時計の表記は皮肉か偶然か、『0.16sec』と表示されて停止していた。そして制御装置から、安全を示す緑色のランプが点灯していた。
 すぐに通信ユニットを手に取り、
「解体成功。これより合流する」
『ふぅ、危ないところだったが本当に良』
 それだけを告げると、ミラの労いの通信を途中で断ち、震電はミラの元へ合流しに向かった。
 『塔』の正位置は、逆境・災難・破局などを意味する。爆発までの残り時間が急激に迫ったそれを災難と称すべきか否か、それは震電だけが答えることが出来る。
 
 
 ―AM:09:29 March XX, 203X.
 ―Arena 1F.
 
「ん、何だコレ?」
 第三番筐体の内部をチェックしていた烈風が何かを見つけた。
 それは、何かの液体が30ミリ程の小型ボトルに栓をされていたものだった。
「ミラぁ! 爆弾じゃないが変なモンを見つけたぞ?」
「何かの液体…?」
 ミラは暫くそれを眺め、
「それは、三番筐体で見つけたものだったな?」
「あぁ、間違いねぇな」
 それを聞いて更に考えた後、
「私のトランクの予備スペースに入れて欲しい。私が触ると潰し兼ねない」
「…ったく、訳分かんねぇ」
 と言って、烈風はミラのトランクの中に飛び込んで、予備スペースの中に保管した。
 ミラにとって最も引っかかったのは、そのような不審物が三番筐体で見つかったことだった。
 
 
 ―AM:09:49 March XX, 203X.
 ―Anter Room No.8.
 
 時間がない。会場の外から聞こえる参加客達の喧騒がより大きく聞こえてくる。
 出来る限りもう一つ爆弾を何とかしておきたいものだが…。
「ミラちゃ~ん! 爆弾だけど~変なのを~見つけたよ~!」
 8番控え室を調査していた連山がミラを呼んだ。
 ミラはすぐに急いで駆けつけた。
「ほら~コレコレ~!!」
 と、連山が指を指し示す方向、部屋の隅の物置台の上に、獅子の様な形状のオブジェがあった。他の控え室にも物置台はあったが、オブジェが置いてあったのはこの部屋だけだった。
「ライオンさんと~女の人の~カードだね~?」
 近くには、『力』のタロットカードが正位置に固定されていた。
(「力の象徴にして荒れ狂う本能的欲望を体現するのが『力』の獅子…それを押さえ込みコントロールする存在がカードの女性……」)
「わ~い~♪ 進め~進め~♪」
 ミラが暫く考えている中、連山は獅子のオブジェに乗っかっていた。
「ひあ~うぃ~ご~~……おりょ?」
 連山は調子に乗って、ライオンの鬣を掴んだその時、ぱっくりと獅子の顎が開いた。
 それを見たミラは、すぐにそれが何を意味するのか解り、
「連山、そのまま上顎に手を伸ばして獅子の顎を上げっぱなしにするんだ」
「ふぇ? 分かった~~??」
 ミラに言われるまま、連山は獅子の上顎に手を伸ばして口を開かせたままでいた。
 自分の推理が正しければ、もう少しの時間でこの『力』のタロットは解除される。
「これで~い~の~?」
「途中で飽きて放り出すなよ。獅子が大きく開けた顎を閉ざす時は、獲物の命を断ち切る時だ」
 その言葉の意味を連山はよく理解できなかったが、ミラの言う事を聞けば問題ないと信じ、そうすることにした。
(「荒れ狂う獅子を従える、それは自分自身の真の姿と対面する勇気そのもの。獅子のオブジェ型爆弾を手なずけ、解除せよとでも言いたいのか? 並みの神姫なら耐え切れないところだが、連山は何も分かっていないようだな…」)
「口開けて~ぼ~っとしてたら~間抜けの証拠~♪」
 と、笑顔のまま暢気に歌っている連山を見るのだった。
 
 
 ―7 Minute passed...
 ―AM:09:56 March XX, 203X.
 ―Anter Room No.8.
 
 後、4分で予選リーグが幕を開ける。
 烈風と震電も流石に潮時と感じ、ミラの元へ集まっていた。
 最初は、獅子のオブジェにまたがって口を開かせっぱなしにしている連山に、烈風は驚き震電は呆れていたが、それが爆弾である事を知ると何も言わずに黙ってそれを見つめていた。
「ふにゅ~腕が~疲れてくるよ~…っ!」
「我慢だ。あと少し、後一分……!」
 警備員から退去を命じられたが、それどころではない。警備関係者の間でミラは特別扱いにされていた(と言ってもミラの素性と目的を知る者はいない)のが功を奏し、限界までの滞在を許された。
 会場内部の控え室越しからでも、外からの観客達の様々な声が響いてくる。
 鳳条院グループの面目と、何千何万と集まる神姫を愛する彼らを守る為にも、ミラは残り16個の爆弾に屈するわけにはいかない。
 その時、
 
『ガオォッ!!』
 
 突然、獅子のオブジェが吠え、同時に両目が緑色に輝いた。
「うわぁぉっ!?」
 連山は驚いて、獅子のオブジェからひっくり返ってしまった。顎が下ろされるが、全くの無反応だった。
「よし、連山よくやった。烈風、震電、連山、すぐに撤収するぞ」
「頑張ったよ~♪」
「了解」
 と、震電と連山はミラのトランクの中に入り込んだが、
「それはいいけどよ、こんな怪しげなモンを見た他の奴等をどうすりゃいいんだ?」
 と、烈風がミラに意見した。確かに、両目が緑色に光る獅子のオブジェは確かに不気味だろう。何も知らない参加者が、余計なちょっかいをして迂闊に触ったら目も当てられない。
 ミラは仕方無さそうに、どこから取り出したマジックで獅子の両目を塗りつぶし、何かを記した張り紙を獅子の顔面に貼り付けた。
 
 
『故障中』
 
 
「そんなのありかよ…」
 大いにげんなりする烈風だったが、この緊急時に何とか触らないようにさせるにはこれ以外に手はないとミラは思ったのだった。
 
『これ以上は無理です、急いで出てきてください!!』
 
 部屋の外から警備員が呼びかけてきた。
 結果的に解体に成功したとは言え、警備員に爆弾の存在を知らせ不審感を抱かせる訳にはいかない。
「失礼、不審物の様なものを見つけたが、杞憂だった」
 と言いながら、ミラは8番控え室を出るとそのまま警備員に誘導される形で、会場内から出て行った。
 暫くして、予選リーグの開幕を知らせる開会宣言が、ミラの背後から聞こえてきた。
 
 事実を知る人物はほんの一握り。それもそう簡単に出会う事の出来ない人物ばかりだ。その為、自分の神姫を連れてずっと、孤独な戦いに挑まなければならない。

 
 

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