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 八畳の部屋に響いたのは、ぱり、という固い物を噛み切る音だった。そのまま音はぱりぱりと続き、飲み込まれてから言葉が続く。
「……大会? ショップで?」
 向かいに座る少女の誘いに、峡次は馴染みの店の名前を出してみる。
「駅前のセンターだよ。昼からなんだけど、峡次も来ない?」
 彼女が誘う大会といえば、意味するところはただ一つ。
 三人分の姿が囲む卓袱台の上。四人分の食器の合間で食事を摂っている、四人の小さな少女たち……神姫の大会の事に違いない。
「俺ぁバイトだから無理。倉太さんか鳥小さんと行ってきなよ」
 中央に置かれた玉子焼きの大皿に箸を伸ばしつつ、峡次は卓袱台を囲む残りの二人の名を呼んだ。
「だって、鳥小さんはバトルしないでしょ」
 呼ばれた鳥小は口をもぐもぐ動かしながら、無言で首を傾げてみせた。相棒の金髪の神姫も、卓袱台の上で姿勢良く座ったまま、無言で箸を動かしている。
「それに倉太は、また今日から研究室で泊まりなんだってー」
 少女はそう言うと重心を後ろへずらし、そのまま遠慮無く倒れ込む。
 もちろん畳の上に倒れたりはしない。少しへたれた白いシャツの胸元に、後頭部をぽすんと埋めるだけ。
「ごめんね。研究、忙しくってさ」
 彼が倉太。場にいる四人目。
 卓袱台を囲む人影が四人ではなく三人に見えたのは、彼の膝の上に少女が腰掛けていたからに他ならない。
「って、平然と俺の皿から取らないでくださいよ倉太さん。まだあるじゃないですか、玉子焼き」
「僕、端っこが好きなんだよね」
 少女を膝の上に乗せていることなど気にも留めず、倉太は薄く焼かれた玉子の切れ端を美味しそうに頬張っている。
 見ている峡次や鳥小が何も言わないのは、これがいつもの光景だからだ。
「うー」
「ほら千喜、そんなに暴れると……」
「つまんな……んぶっ!」
 もちろん、膝の上で暴れる千喜の頭が倉太の顎に下から頭突きをぶちかますのも、いつもの光景だ。
「そうだ、峡次さん。あれ」
 だから、悶絶する倉太と少女を前にしても。
 峡次の前にちょこんと腰掛けている引っ込み思案な少女さえ、いつも通りのままだった。
「おお、そうだ。プシュケ」
「なんですの? 峡次さん」
 いきなり呼ばれた自分の名前に、プシュケは口元を拭いていた手を止める。彼女は千喜の神姫だが、主の心配をする気はあまりないようだった。
「これなんだけどさ」
 だがそんな彼女も、峡次とその神姫から渡された物には……。
「これは……え?」
 思わず言葉を失っていた。
「それ、ノリコ用の……?」
 ようやく食事を終えた金髪の神姫も、続く言葉を見つけられない。
「……フィールドシュナイダー」
 黒鞘に納められたそれは、神姫の身長に匹敵する機械式の大太刀だ。内部のマガジンに高電圧のユニットを装填することで、ただでさえ大きな斬撃力を数倍に跳ね上げる機構を持つ、一撃必殺の重武装。
「……いいんですの? ノリコ」
 その大太刀は、峡次がやがて来る自らの神姫のために特別に誂えたものだと聞いていた。この街に来る前から大切に組み上げ、調整していたそれを……。
 ノリコは、他人に譲るという。
「私、近接武器は使えませんから。良かったら、使ってください」
 確かにフォートブラッグは砲戦能力に特化している分、他の武装の扱いは不得手だ。
 適性だけで見るのなら、近・中距離を得意とするジルダリアタイプのプシュケの方が、相性が良いのは間違いないが……。
「それにプシュケ、前からハイパーモードまでに使えそうな武器、探してたろ?」
「それは、そうですけれど……」
 それも、間違いではない。
 ジルダリアの真価は、背面武装を駆使した高速立体戦闘だ。しかし、そのシステムを起動させるまでには幾分かの時間が必要となる。
 特に瞬発的な火力にも乏しいジルダリアとしては、機体状況に関係なく大攻撃力を叩き出せるこの武器は、喉から手が出るほど欲しいもの……ではあるのだが。
「けれど、それは……」
 峡次の神姫に与えられるはずの武器。
 ノリコのための、大太刀だ。
 もしプシュケが主からもらえるはずだった武器を、他人に渡す事になったとしたら……絶対に、うんとは言わないだろう。それが例え、何の役にも立たない武器だったとしてもだ。
「……もらってください、プシュケさん」
 それを、ノリコはくれるという。
「本当に、いいんですの?」
 ノリコはバイザーを落していない。だから、表情も隠れていない。そんな彼女の澄んだ瞳にあるのは、少し寂しげな……けれど、それ以上にある、喜びの色。
「はい。峡次さんには私のための武器、ちゃんと作ってもらい……ひゃっ!」
 その言葉を遮ったのは、プシュケの頭上から伸びた細い指だった。
「いーからもらっときなさい、プシュケ」
 ノリコの頬をそっと撫でている千喜のナゲヤリな言葉に、プシュケは呆れた顔を隠せない。
「これは命令よ。アンタが貰わないんなら、あたしが貰って使わせるから」
「千喜……」
 恐らく、千喜はノリコの心を『読んだ』のだろう。その彼女の内面を読み取ってなお、貰っておけと言うのなら……プシュケにそれ以上、断る理由はない。
 もしノリコが無理をしていると読んだなら、その瞬間に峡次は千喜に殴り飛ばされていただろうから。
「コイツにはちゃんと専用の武器、作るから。余り物で悪いけど、プシュケは遠慮無く使ってくれ」
「……そこまでおっしゃるなら、試させていただきますわ」
 受け取った大太刀は、普通の太刀より随分と重かった。機械的な増強があるから当然ではあるのだが、大会で使う前にシミュレーターで調整をしておく必要がありそうだった。
「さて。それじゃ、私はそろそろ出掛けないと……」
 事の流れを見守っていた鳥小の言葉に時計を見れば、思った以上に時間が過ぎている。
「俺も部屋に帰ります。ノリコ、行くぞ」
「はいっ!」
 卓袱台を立とうとする鳥小に、峡次とノリコも続いて立ち上がる。
「行ってらっしゃーい」
「僕もぼちぼち出ようかなぁ……」
「……いや、私の部屋なんだから、二人も出ていきなさいよ」


マイナスから始める初めての武装神姫

その13



 二階に上がって扉を開けて。
「ほほぅ。本当に来たですか、新入り」
 挨拶を制して掛けられたのは、びっくりするほど上から目線のそんな言葉だった。
「いや、ちゃんと来ますって。ミドリさん」
 ただし、目線は上でも物理的な視線はかなり下。事務机の上に広辞苑を載せてその上に乗っかっても、身長六十センチのミドリではまだ峡次の目の高さには届かない。
「早かったのね、武井君、ノリコちゃん」
「おはようございます!」
「あ、碧さん。おはようございます」
 一方こちらは、ミドリとは全くの逆。
 社長という立場のはずなのに、フランクな物言いの碧はその気配を全く感じさせない。その若さと合わせ、知らない者が見れば内勤担当の若手スタッフとしか思わないだろう。
「それでね、悪いんだけど、私……これから出掛けてくるから」
 その若き女社長の指先でくるくると回るのは、自転車の鍵よりはるかに大きな車の鍵だ。
「後のことはミドリに任せてあるから、頼むわねー」
 ジーンズにスニーカー。事務所にいるときと同じ、とてもフォーマルとは言えない格好のまま、碧は事務所を悠々と後にする。
「え、あ、ちょっと碧さんっ! せめてジムさんとかキリコさんじゃないんですかっ!」
 その問いに答えるのは、ばたんと閉じた扉ではなく。
「みんなとっくに仕事に出掛けているのですっ!」
 机の上に仁王立ちになったままの、六十センチの小さな姿。ばさりとひるがえるスカートの裾が、机の上に積んであった書類の束を景気よく吹き飛ばす。
「役立たずに居場所なんか無いのですよ! とっとと研修を始めるのです!」
 ひらひらと舞う書類を見なかったことにして、ミドリは偉そうに平たい胸を張ってみせる。
 それに答えるように開いたのは。
「碧さんっ!?」
 いま閉まったばかりの、事務所の扉だった。



 そこに立っていたのは、当然のように碧ではない。
「戻りまし……た」
 身長は峡次と同じくらいだろう。短めの髪に、保温性より通気性を重視した薄手の軽装も、峡次とさして変わりない。
 ただ一つ違うのは、その人物が少女だった、ということか。
「……誰?」
 驚いているらしい割には変化の薄い表情に、むしろ峡次のほうが戸惑い気味に。
 驚かないのはこの場ではただ一人、事務机の上のミドリだけ。
「百式。ちょうど良かったのです」
「この人が……百式さん?」
 ノリコも彼女を見るのは初めてだったが、その名前だけは聞き覚えがあった。
 峡次が初めてトイズ・メッセンジャーに来た時、急に休むことになったスタッフの名前だ。彼女の欠席があったからこそ峡次の採用が決まった面もあるのだから、ある意味トイズで一番因縁のある人物……と言えなくもない。
「何ですか? ミドリさん」
「こいつの面倒、お前が見るのです。初めての後輩なのだから、研修してやれです」
 いきなりの無茶振りにも、百式と呼ばれた少女は表情ひとつ変える様子がない。
「……まだ私、仕事が残ってるんですけど」
「実地でいいのです。今日一日、こいつを連れ歩くのですよ!」
 ばさりとひるがえるスカートに、今度は机の上のペン立てが吹き飛んだ。
「……今日、お昼までなんですけど」
 百式はそう呟くと、事務所の隅にあるホワイトボードにちらりと視線を向けてみせる。
 彼女の言うとおり、百式と書かれたマーカーから伸びる青い矢印は、十二時のラインでぴったりと止まっていた。
「……じゃあそれでもいいのです。昼からプライムが来るから、後はあいつにやらせるのです」
 百式の矢印から入れ替わるように伸びる真っ赤な矢印とマーカーを見て、ミドリはもう一度スカートをひるがえす。
 机の上から、今度は『FAX済み』と書かれたゴム印が飛んでいった。
「あの、いきなり実地って……仕事ですか? 研修って、もうちょっといろいろ説明が……」
「どーせ居眠りするに決まってるから、そんなものいらないのです! 百式もいいですねっ!」
 百式はいつの間にやら峡次の脇を抜け、事務所の隅に置かれた冷蔵庫をがさがさと漁っている。
「……邪魔にならないなら。行くわよ」
 結局スポーツドリンクらしきボトルをひとつ取り出すと、そのまま開けっ放しになっていた出口へと。
「あ、はいっ」
 それを峡次も追い掛けようとして……。
「ちょっと待つのです!」
 ミドリの声に、足を止める。
「何ですか、ミドリさん」
 廊下の向こうからは、百式が事務所の階段を降りる音が聞こえている。乗り気でない彼女のことだから、追い付かなければ先に行ってしまうかもしれない。
「その前に、ミドリをさっさと床に下ろすのです!」
「え……? 降りられないんすか?」
 事務机の高さは、ミドリの身長より少し高い程度しかない。峡次はもちろん、身長十五センチしかない神姫のノリコでさえ、軽く飛び降りられる高さだ。
「ミ……ミドリたちドールのボディはとっても繊細でデリケートなのですっ! つべこべ言わずにとっとと下ろすのですよ!」
 どこまでが本当なのかは分からなかったが、ドールの機構が繊細だというのは峡次も聞いたことがある。本当にこの高さから落ちたら、膝関節が壊れてしまうのかもしれない。
「……はいはい」
 なんとなく、人間用のドアを跳び蹴りで開けていた事があったような気もしたが……あえて思い出さない事にした。
 片手で持つのは流石に気が引けたので、ふわふわのドレスに覆われた脇の下にそっと手を入れてみる。
「こらっ、そんな持ち方するんじゃないです! ちゃんとだっこするのです!」
「……はいはい」
 ばたばたと暴れるミドリに言われるがまま、峡次は膝の裏に右腕を回し、残る左手で小さな背中を抱えるように支えてみた。
「……やればできるじゃないですか」
 それで合格だったのか、ミドリは今度は妙にしおらしく、峡次の右肩にきゅっとしがみついてくる。
「…………」
 そこに、ふと、視線。
 ミドリを抱きかかえたままその源に視線をやれば、事務机の上に立っているノリコと目が合った。
 どうやら三人が話している間、飛んでいったペンや書類を集めてくれていたらしい。
「どした、ノリ」
「……いえ、べつに」
 それだけ言うとノリコはバイザーを下ろし、机の上から峡次の肩へひょいと飛び移ろうとして。
「チビチビ神姫! お前はこっちなのです!」
 踏み込んだ足とミドリの声は、全くの同時。
「はいっ!?」
 だが、踏み込んだ足はもう止まらない。思わず揺れた踏み切りの具合を重心の切り替えで慌てて修正し、目標点を峡次の肩から床の上へと切り替える。
 マオチャオほどではないにせよ、ノリコの体は宙を何度かくるくると回り、無事床へ。かなり無理のある軌道修正だったが、二、三度たたらを踏んで、何とか体勢を整える。
「お前は別にやる事があるのです! 新入りは百式の言うことを良く聞くのですよ!」



 階段を慌てて駆け下りて、最後の三段は一気にジャンプ。
 たたらを踏んで体勢を整えた所で、そこにいたのは件の少女だった。
「えっと……」
「百式でいい。みんなもそう呼んでるし」
 トイズのメンバーは、全員がメイドハンマー参戦者だ。男性陣のケンプやキリコもそうだったが、女性スタッフの百式も例に漏れず、ユニット名がそのまま通称になっているらしい。
「じゃ、百式さん。今日は……」
 備品庫らしい棚を漁っている百式は、峡次のほうを振り返る様子もない。
「私、説明とか苦手だから……今日はとりあえず、付いてくるだけでいい。プライムさんは教え方上手だから、詳しい事はプライムさんに聞いて」
 ようやく振り返った百式は、備品らしき物体をそっと峡次に手渡した。
「……これは?」
「ナビ。さっきの子、来ないんでしょ」
「ええ。でもこれがナビ、ですか」
 両手に収まるほどの黒い箱だ。底に自転車に取り付けられる金具が付いている点を除けば、なだらかな流線型を描くそれは、車のフロントをそのまま切り取ってきたようにも見える。
 箱の背面側、切断面に当たる場所に液晶パネルが組み込まれているから、そこに地図が写るようになっているのだろう。
「紙の地図の方が良い? それとも、東京の道は全部覚えてる?」
 そう問う百式のロードにも、峡次に渡された黒い箱と同じ物が取り付けてあった。
 そちらは既に起動状態にあるらしく、液晶パネルには……なぜか地図とは全く関係のない、オーディオのボリューム表示のような図形が映し出されている。
「百式さんは、ナビに百式とか使わないんですか?」
「……普通のGFFはそういうこと向きじゃないから。さっきの神姫を使う気なのかもしれないけど、慣れるまではそれ使って」
「……了解です」
 先輩に倣ってロードのステムに箱を取り付け、スイッチをオンにする。AI搭載型の音声対話方式らしく、ボタンはその一つしか付いていない。
 やがて液晶パネルに例の奇妙な図形が浮かび上がり、フロントに刻まれた溝の間を、赤い光がゆっくりと左右に往復し始めた。
「おはようございます、マイケル」
 そして、第一声。
「……マイケル?」
「このナビのAI、安物だから。男の人はぜんぶマイケルかデボンなの」
 意味が分からない。
「彼はニューフェイスですか? ボニー」
 そのうえ、液晶パネルのボリューム表示はAIの音声出力と同期しているらしく、AIが声を放つたびにメーターが上下していたりする。
「……ボニー?」
「ちなみに女の人はぜんぶボニーかエイプリル」
「…………」
 買った方も買った方だが、作った方も作った方だと峡次は思った。
「初めまして、マイケル。私はKnight Industries Two Thousand Thirty Two。K.I.T.T.T.T.と呼んでください。キットでも結構」
「どんだけT略すんだよ」
「野暮なツッコミはレディに嫌われるもとですよ、マイケル」
 呼称設定は出来ないクセに、こちらのツッコミはジョークで受け流せるらしい。妙にアメリカンナイズされた口調で、キットと名乗ったAIはメーターを上下させている。
「…………他にナビないんすか?」
 無言で指差した百式の先を見てみれば。
 キットと同じ黒い箱が、備品庫の上の棚にずらりと並べてあった。
「無いよりはマシだから。行くわよ」
 どうやら選択の余地はないらしい。
「……ういっす」
 早く一人前になって、ノリコにナビを頼もう。
 走り出す百式の背中を追い掛けながら、峡次は本気でそう思うのだった。



 窓の外を、峡次のロードが走っていく。
 角を曲がって見えなくなったところで、ノリコはようやく部屋に視線を戻した。
「あの、ミドリさん……」
「なんなのですか、チビチビ神姫」
 散らばった書類を拾い集めながら、ミドリはノリコの問いに返事を寄越すだけ。
「ジムさんやキリコさんは、マスターと一緒にお仕事してるんですか?」
 トイズの社内にいるのは、今はノリコとミドリだけ。百式も百式を連れてはいないようだったが、かといってマスター待ちの彼らが社内にいる様子も見当たらない。
「あいつらは戦闘用モデルだから、普段から起動したりはしないのですよ。ロッカーに入ってなければ、家にあるんじゃないのですか?」
「そうなんですか……」
 窓枠からひょいと飛び降り、ノリコも散らばったボールペンを拾っていく。大して重いものではないが、神姫の身ほどもあるボールペンはバランスを取るのが少々面倒だ。
「どうしたですか。ミドリだけじゃ不満ですか?」
「そうじゃ、ないんですけど……。他のフィギュアのかたとお話しする事とか、滅多にないですし」
 学校でも巴荘でも、神姫と話す機会はいくらでもある。だがノリコにとって、それ以外の規格のAI……ドールやGFF、SRWの人工知能と話をするのは、トイズに来てからが初めてだったのだ。
「でも、いつでも起動させてもらえないのって、寂しくないんですかね?」
 椅子を踏み台に机の上に飛び上がり、ペン立ての中にボールペンを放り込む。ついでにミドリが机に書類を載せようとしていたので、机の上から書類を引き上げてみた。
「そんなこと、あいつらに聞かないと分からないのです。……でもあんまり難しいこと考えると、フリーズするですよ?」
 最後にゴム印を置いて、机の上の惨状は何とか片付いたらしい。
 机の上に伸ばしてくれたミドリのてのひらに載って、ノリコも床へと下ろしてもらう。
「ま、メイドハンマーが始まればイヤでも話すのです。それよ……り……………」
 言葉を詰まらせたミドリの表情はわずかに歪み、動きも鈍くなっている。
「……ミドリさん?」
 その症状は神姫と全く同じ。
 典型的な、電圧低下症状だ。
「……碧のバカ、充電忘れてるのです……っ! チビチビ神姫!」
「は、はいっ」
 脇机の引き出しから取り出した小さな箱とケーブルを、ミドリは床に投げ出した。投げると言うより落すと言うべきその動きは、ミドリの手に力がほとんど入らなくなっている事を示している。
「そっちのコンセントに……っ、このアダプターを……繋ぐ…です……」
 ミドリは出したままの引き出しに寄りかかったきり。もはや自力で立つ事も厳しいらしい。
「え……? ミドリさん、有線なんですか?」
 アダプターを組み立てて、コンセントにプラグを差し込んで。ノートPCのそれと組み立て方は同じだから、さして困ることはなかったが……。
「有線で何か文句あるですか! ドールの消費電力は、チビチビと違って大きいのですよっ! さっさと……繋ぐ、です……っ」
「って、どこに……?」
 神姫の充電は非接触型だ。クレイドルにお尻を乗せておけば、勝手に充電してくれる。
 けれど、有線式だというドールのミドリにはそれらしき外装部は見当たらない。
「ここ……です………」
 そう言ってミドリが示したのは、スカートの中。
「ミドリじゃ、手が届かないですよ……んっ」
 力の入らない手で何とかスカートの裾をたくし上げ、その内側にノリコを招き入れる。
「で、でも、私も……手が届かないですよ……」
 スカートの中に入ったは良いが、六十センチドールの足は神姫の身長よりもはるかに長い。足首やすねあたりにコネクタがあるならともかく、ドロワーズに覆われてない所にそれらしき箇所は無いように見えた。
「もぅ……使えない、のです……これで、いい……ですか……?」
 小さな舌打ちと共に、はるか頭上にあった白布の天幕がゆっくりと降りてくる。周りを囲むスカートの布地がたわみ、折り重なり、入り込む光が遮られ。
「あ……はい……」
 ノリコはバイザーを下ろして視界のモードを暗視モードへと。自身が高い温度を発しないドール相手なので、赤外線ライトを併用したアクティブモードにすることも忘れない。
「も、もぅ……。恥ずかしい、ですから……さっさと、やるですよ……」
 真っ白なドロワーズに覆われた小さなお尻は、小刻みに震えている。無理な姿勢で力が入らないのか、本当に恥ずかしいのか……いずれにせよ、峡次には見せられない光景だと、ノリコは思った。
「ミドリさん……あの……」
「なんなのです、か……もぅ……っ」
「このパンツ……どうやって、脱がせるんですか……?」
 たっぷりとした布の幕が折り重なるドロワーズを脱がせる作業は、どうみても神姫一人の作業量を超えている。せめてストラーフやムルメルティア、グラップラップのサブアームがあれば何とかなるかもしれないが……。
「ぬ……っ、脱がせる必要なんか、ないです……っ! ん……っ、お尻の方、に……ちゃんと、穴……がぁ……」
 ミドリに言われるがまま。ふりふり揺れるドロワーズの布をかき分けていけば、布の合間に小さな切れ目が開けられていた。
「あ……ありましたぁ……」
 布幕の合間に埋もれてしまわないよう片手を突っ込んだまま、脇の下に挟んでいたコネクタケーブルを取り上げる。
「ひぁ……っ! さ、触ってないで……んっ、は、早く……挿れる、です……。も……電池、が……」
「え、っと……こうやって……」
 意外と古い世代のドールなのだろうか。指先に伝わるのは、金属質のジャックの感触。
「……ぁ、ひ……っ! こ、こら……ぁ……。そ、そこ……なの、で……す」
 向きや極性があるかと思ってジャックの表面をつるりと撫でれば、ミドリの口から漏れるのは甘い声。特に変わった突起などは無いようだから、とりあえず差し込んでみれば大丈夫そうだ。
「えい……っ!」
 昔ながらのプラグ式のコネクタを突っ込んで、接続。
「んふ……ぅ……っ!」
 それと同時に、周りを囲む布の天幕がぐらりと傾ぐ。
 どさ、という思ったよりも軽い音がして、ミドリはその場に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫……です、か…………?」
 ノリコは崩折れた布の天幕から抜け出し、バイザーを跳ね上げる。
「大丈夫な……わけ……ない、ですぅ………。ミドリ、だって……恥ずかしいこと、くらい……んっ……あるの、です…よ………」
 顔の側に回り込んでみれば、倒れたままのミドリはお尻を天井に突き上げたまま、荒い息を吐いていたが……少なくとも、憎まれ口を叩く程度の余力は残っているようだった。
「んぅ………この事は、内緒に……する、ですよ……?」
「あ……。はい」

 だが。

「やあ、今日も一日頑張ろう! サイ○トロン戦士、アターック!」
 扉を開けて大股で入って来たその男に投げ付けられたのは。
 悲鳴をまとって飛翔する、ノリコだった。





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