第3話 「呼名」
「じゃ、その専用パーツとかいうのもさっそく買ってみるか?」
一通りの説明を受けてから何気なく提案してみたが、
「最初から色々と揃えてつまみ食い状態になるより、少しずつ理解して必要なものを買い足した方がよろしいかと思いますよ」
と控えめな答えが返ってきた。
「それにオーナーはわりと飽きっぽい性格のようですし、最初から熱を込めるとお金の無駄になりかねません」
昨日の今日ですっかり俺を把握したらしい。 ……ったく女ってのはコレだから。
「つっても、もう何年もオモチャとか触ってなかったからなぁ。 流用出来るようなの持ってないぜ?」
「一応私たちのパッケージには基本的な武装が入っていますから、まずはそれから慣れていきましょう」
「あれ?でもそんなの入ってたっけ?」
「私が入っていた箱の2段目に」
……単に俺がチェックしてなかっただけかい。
しかし2重構造とは、今時のオモチャってのはホントに至れり尽せりだ。 つくづく俺がガキの頃とは(以下略)
ちなみにチビ曰く「ユーザー登録をすると、最初の1体限定でボーナスアイテムが送られてくる」らしい。 どんなアイテムがもらえるかはランダムだそうだが、ちょっとしたお楽しみ要素って感じかな。
というワケで、忘れないうちにさっさとネットからユーザー登録を……
「なぁ、このニックネームって欄には何を書くんだ?」
「オーナーによっては自分の神姫に名前をつける方がいらっしゃるんですよ」
「ふーん……例えば?」
「一概にこう、とは言えませんが……単純に正式名称を縮めて呼ぶなら、天使型のアーンヴァルは『アン』や『ヴァル』、私の場合なら『ストラ』……といった感じでしょうか。 オーナー様によってはオリジナリティに凝った名前を付ける方もいらっしゃるようですが」
……何だかよく分からない世界だ。 掃除機や冷蔵庫や車やPCに名前をつけてるヤツを見たような違和感というか。
いや、コイツは家電製品じゃなくてオモチャなんだから、自分が改造したプラモを「パーフェクトなんちゃら」とか「グレートなんたら」みたいに呼ぶのと同じか。
…そーいや昔、ゲーセンで取ってきたぬいぐるみを弟にやったらファンシーな名前つけて喜んでたっけなぁ。
「お前もそういう名前欲しい?」
「あ、えぇと……『お前』で呼び続けられるよりはその方が……」
そういえば昨日今日と、コイツに話し掛ける時は「なぁ」「おい」「お前」のどれかだった。
「んー、悪魔の女の子……デビ子とかどう?」
「そ……れは、ちょっと……単純というか簡単すぎるというか」
「じゃあスクアルチャルーピあ痛てッ」
「舌噛みますよ、っていうか噛んでます」
「ビルカバンバ」
「焼肉屋さんのチラシ参考にしないで下さい。 なんですか『期間限定カルビ&ビビンバセット1人前¥380』って」
「ドライフルーツ略してドイツ」
「お腹すいてるんですか」
「ゴンザえもん」
「私が女って忘れてるでしょう」
「ディスカヴィリーア」
「そろそろ濁音から離れませんか」
「素直クール」
「それ名前じゃなくて属性です」
「……結構ワガママだなお前」
「……高望みしてますか私?」
何故かチビが泣きそうな顔してきたんで、仕方なく作戦タイム。 妹が持っていた「古今東西悪魔妖怪魑魅魍魎ゴッタMIX大百科辞典」を参考に思案をば……
……この俺が真剣に考えてるのに、このチビはなんでまた今にも死にそうな顔でこんなん→ il||li _| ̄|○ il||li なってんだか。
「ルーシーってどうよ」
「……」
「またダメ?」
「いえ……あの、さっきまでと比べてずいぶん普通だなぁ、と」
「んじゃもっとヒネって」
「いえっ! ルーシーでお願いします! 気に入りました大好きですその名前!」
力のこもった感じで言われると、悩んだこちらも快いというもの。 さっそく休眠状態になってたPCを起こして登録完了。
……しかしPCのユーザー登録だってロクにしない横着者の俺がねぇ……と自分でちょっと感心。
ま、これで正式にこのチビ悪魔改めルーシーと俺はパートナーになれたってワケ。
なんかちょっとくすぐったい気もするが、まぁこういうのは気分の問題だ。 コイツも喜んでるしな。
「ヤケに嬉しそうじゃん」
「ハイ、やっぱり『自分だけの名前』をもらえると嬉しいですよ……ありがとうございます。 そして改めて、よろしくお願いします」
「改めて、こちらこそ」
「……ところで、名前の由来は何だったんですか?」
「あー、『天国で神様の次にエラかったんだけど色々あって地獄に落っこちて魔王になった天使』の名前をちょっと伸ばしてみただけ。 別名から取って『サっちゃん』とかの方が良かったか?」
「ルーシーでいいです本当にありがとうございました」
「……何故また泣く?」