ウサギのナミダ
ACT 1-1
□
廃墟の街に砂塵が吹き抜ける。
裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。
駆け抜ける黒い影は、少女。
愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。
彼女は、俺の武装神姫。
廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。
これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。
彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。
朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。
裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。
駆け抜ける黒い影は、少女。
愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。
彼女は、俺の武装神姫。
廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。
これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。
彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。
朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。
「よくアレを振り回すな」
半分感心、半分あきれた口調で、俺はつぶやいた。
あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫はあまりいない。
地上での高速機動には適しているが、取り回しがしづらく、接近戦には向かない。空中戦も、飛行タイプの装備と比べると能力は数段劣る。
戦闘機動においては中途半端なのだ。特に武装神姫のバトルにおいては。
しかも、高速域に達するようなレーシングタイプに組み替えてある。
あれでは操作系も相当にじゃじゃ馬なはずだ。
それでも、ファスト・オーガを使いこなそうというのは、よほどの物好きなのか……。
俺は、対戦筐体の向こう側でエキサイトしている、相手のマスターを見た。
派手に染めた髪に、革ジャン、銀のアクセサリーをこれでもかと身につけた、いかにもヤンキーと言った感じのあんちゃんである。
きっとバイクが好きなのだろう。
そういえば、この店の外にも派手なバイクが止まっていた。いかにも相手のマスターが乗り回してそうなやつだ。
そんなことを考えながら、エアバイクに仕掛けるタイミングを探る。
少し耳からずれた、片耳用ワイヤレスヘッドセットをつまんで、位置をなおしながら、俺は指示を出した。
あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫はあまりいない。
地上での高速機動には適しているが、取り回しがしづらく、接近戦には向かない。空中戦も、飛行タイプの装備と比べると能力は数段劣る。
戦闘機動においては中途半端なのだ。特に武装神姫のバトルにおいては。
しかも、高速域に達するようなレーシングタイプに組み替えてある。
あれでは操作系も相当にじゃじゃ馬なはずだ。
それでも、ファスト・オーガを使いこなそうというのは、よほどの物好きなのか……。
俺は、対戦筐体の向こう側でエキサイトしている、相手のマスターを見た。
派手に染めた髪に、革ジャン、銀のアクセサリーをこれでもかと身につけた、いかにもヤンキーと言った感じのあんちゃんである。
きっとバイクが好きなのだろう。
そういえば、この店の外にも派手なバイクが止まっていた。いかにも相手のマスターが乗り回してそうなやつだ。
そんなことを考えながら、エアバイクに仕掛けるタイミングを探る。
少し耳からずれた、片耳用ワイヤレスヘッドセットをつまんで、位置をなおしながら、俺は指示を出した。
「ティア、次のT字路。ビルの上からジャンプして、直上から撃て。そのあとは背後から追撃」
『はいっ!』
はきはきとした声が短く応答する。
ティアは直後に軽く地を蹴ると、そのまま朽ちたビルの壁面を斜め上に走る。
そのまま、交差点の角にあるビルの屋上に躍り出る。
ティアは直後に軽く地を蹴ると、そのまま朽ちたビルの壁面を斜め上に走る。
そのまま、交差点の角にあるビルの屋上に躍り出る。
◆
「やべえ、やべえ、やべえやべえっ!!」
エアバイク「ファスト・オーガ」に乗る、ティグリース・タイプの神姫は、悪態を風に流しながら逃走していた。
こんなのは想定外だ。
バトルを始めてこれまでに五戦五勝。
いずれも、相手の神姫を追いかけ回し、背後から重火器で撃ちまくって勝利してきた。
図体の大きなファスト・オーガであるが、マスターの教えてくれたライディングを駆使すれば、思った以上の小回りを発揮できる。
巨体に目を奪われて、動きが鈍いと判断した浅はかな相手こそは格好の獲物だった。
彼女に言わせれば、飛行型のアーンヴァルやエウクランテの方が、ターンするのが鈍い。大きな弧を描いてターンしてくる相手を、様々なバイクのターン技でかわして背後をとる。
そして、重くなるのもかまわずに「これでもか」と積んだ武装を撃ちまくる。
あなどった相手を手玉に取る、最高に気分がいい必勝パターンだった。
接近戦メインの猫型や武士型はもっと簡単だ。全開で走り回って撃ちまくれば、それだけで勝てる。
今日の相手も、そういう楽でおいしい相手だと思っていた。
こんなのは想定外だ。
バトルを始めてこれまでに五戦五勝。
いずれも、相手の神姫を追いかけ回し、背後から重火器で撃ちまくって勝利してきた。
図体の大きなファスト・オーガであるが、マスターの教えてくれたライディングを駆使すれば、思った以上の小回りを発揮できる。
巨体に目を奪われて、動きが鈍いと判断した浅はかな相手こそは格好の獲物だった。
彼女に言わせれば、飛行型のアーンヴァルやエウクランテの方が、ターンするのが鈍い。大きな弧を描いてターンしてくる相手を、様々なバイクのターン技でかわして背後をとる。
そして、重くなるのもかまわずに「これでもか」と積んだ武装を撃ちまくる。
あなどった相手を手玉に取る、最高に気分がいい必勝パターンだった。
接近戦メインの猫型や武士型はもっと簡単だ。全開で走り回って撃ちまくれば、それだけで勝てる。
今日の相手も、そういう楽でおいしい相手だと思っていた。
『虎実』
「アニキ!」
「アニキ!」
彼女は自分マスターをこう呼んでいる。
「アニキ、話が違うじゃねぇか! 今回もラクショーとか言ってなかったか!?」
『文句垂れてんじゃねーよ。武装じゃこっちが勝ってるんだ。文句言う前にあのバニーガールに当ててみやがれ』
『文句垂れてんじゃねーよ。武装じゃこっちが勝ってるんだ。文句言う前にあのバニーガールに当ててみやがれ』
バニーガールのところで声が甘くなった。
アタシというものがありながら、ケシカランことを考えていたに違いない。
虎実は不機嫌をさらにまき散らす。
アタシというものがありながら、ケシカランことを考えていたに違いない。
虎実は不機嫌をさらにまき散らす。
「マトが小さくて、あったんねーんだよ! なんかいい手はねーのか、バカアニキ!!」
『ふむ……なら、誘い込んでやるか』
「なんか手があるのか?」
『こういうのはどうだ……』
『ふむ……なら、誘い込んでやるか』
「なんか手があるのか?」
『こういうのはどうだ……』
虎実のマスターは、声を潜めて策を授けた。
それを聞いて、虎実はニヤリと笑う。
アニキはバカでエロで喧嘩っ早いが、ことバイクを使っての勝負になると悪知恵が働く。
虎実がアニキを一番気に入っているところだ。
それを聞いて、虎実はニヤリと笑う。
アニキはバカでエロで喧嘩っ早いが、ことバイクを使っての勝負になると悪知恵が働く。
虎実がアニキを一番気に入っているところだ。
「いい手だね」
『あのちょろちょろうるさいウサギちゃんに一発かましてやれ』
「よっしゃぁ!」
『あのちょろちょろうるさいウサギちゃんに一発かましてやれ』
「よっしゃぁ!」
虎実はさらにアクセルを踏み込んだ。
先はT字路。
狂ったようなスピードで、朽ちたビルの壁が迫り来る。
虎実は、最小限のブレーキングをかけると、エアバイクの左舷から身を乗り出した。
ハングオンで美しい弧を描き、ハイスピードのまま左折した。
瞬間、左手のビルの上から、小さな影が虎実の上に出現した。
先はT字路。
狂ったようなスピードで、朽ちたビルの壁が迫り来る。
虎実は、最小限のブレーキングをかけると、エアバイクの左舷から身を乗り出した。
ハングオンで美しい弧を描き、ハイスピードのまま左折した。
瞬間、左手のビルの上から、小さな影が虎実の上に出現した。
「来たな……」
小さな敵影を確認すると、虎実は猛然とアクセルをふかす。
■
わたしがビルの屋上から飛び出したとき、エアバイクはちょうど左折したところで、真下に来ていた。
対戦相手の神姫は、虎実さん、という名前だったか……が見上げていたところから、ある程度奇襲を予測していたようだ。
わたしは空中で狙いをつけ、両手に持ったサブマシンガンの引き金を絞る。
サブマシンガンが火を噴くのと同時、エアバイクがさらに加速する。
はたして地面に弾着し、小さな砂埃を上げた。
その砂埃を踏みしめるように、着地。膝のクッションで衝撃を殺して、その反発を利用して、上体を前に出す。
一気に加速、虎実さんの追跡を開始する。
エアバイクは、道幅の広いメインストリートを猛スピードで駈けてゆく。
次第に小さくなるエアバイクに追いすがるため、わたしは全力滑走した。
重心を身体の前に出した軸足に乗せ、反対のけり足で自分の後方の地面を蹴る。上体は前傾姿勢。腕は左右に大きく振る。
スピードスケートの選手と同様のフォームだ。
左右の足が地面を蹴る度に、軸足のホイールが回転数を上げ、加速する。
エアバイクとの差は徐々に詰まってきた。
ライダーの虎実さんが、ちらりとこちらを振り返る。
さらに差が詰まった。
サブマシンガンの射程には十分な距離。
わたしは走りながら、右手のマシンガンを構え、撃った。
ファスト・オーガがひらりと横滑りして、銃撃を回避。車体をストリートの右側に寄せる。
相手の左翼にスペースが出来る。一気に追いつくチャンス。
わたしはさらに加速し、そのスペースへと飛び込もうとした。
その時。
わたしの瞳に、不適に笑う虎実さんの顔が映った。
確信のある笑い。
虎実さんがファスト・オーガを一瞬だけ加速した。
少し前に出ると、なんと機首を持ち上げ、後方のフローティングユニットを中心にして、駒のように回転する!
対戦相手の神姫は、虎実さん、という名前だったか……が見上げていたところから、ある程度奇襲を予測していたようだ。
わたしは空中で狙いをつけ、両手に持ったサブマシンガンの引き金を絞る。
サブマシンガンが火を噴くのと同時、エアバイクがさらに加速する。
はたして地面に弾着し、小さな砂埃を上げた。
その砂埃を踏みしめるように、着地。膝のクッションで衝撃を殺して、その反発を利用して、上体を前に出す。
一気に加速、虎実さんの追跡を開始する。
エアバイクは、道幅の広いメインストリートを猛スピードで駈けてゆく。
次第に小さくなるエアバイクに追いすがるため、わたしは全力滑走した。
重心を身体の前に出した軸足に乗せ、反対のけり足で自分の後方の地面を蹴る。上体は前傾姿勢。腕は左右に大きく振る。
スピードスケートの選手と同様のフォームだ。
左右の足が地面を蹴る度に、軸足のホイールが回転数を上げ、加速する。
エアバイクとの差は徐々に詰まってきた。
ライダーの虎実さんが、ちらりとこちらを振り返る。
さらに差が詰まった。
サブマシンガンの射程には十分な距離。
わたしは走りながら、右手のマシンガンを構え、撃った。
ファスト・オーガがひらりと横滑りして、銃撃を回避。車体をストリートの右側に寄せる。
相手の左翼にスペースが出来る。一気に追いつくチャンス。
わたしはさらに加速し、そのスペースへと飛び込もうとした。
その時。
わたしの瞳に、不適に笑う虎実さんの顔が映った。
確信のある笑い。
虎実さんがファスト・オーガを一瞬だけ加速した。
少し前に出ると、なんと機首を持ち上げ、後方のフローティングユニットを中心にして、駒のように回転する!
「ふきとべええええええええ!!」
ファスト・オーガの機首部分が金属バットのごとく振り出されてくる。
虎実さんに並ぼうと加速していたわたしは、進路を変えることができない。
ファスト・オーガの大きな機首部分が、ものすごい勢いで、わたしの眼前に迫った。
虎実さんに並ぼうと加速していたわたしは、進路を変えることができない。
ファスト・オーガの大きな機首部分が、ものすごい勢いで、わたしの眼前に迫った。
□
まったくもって、無理矢理な力技である。
まさか、エアバイクをウィリーさせて、前方部分で吹っ飛ばそうとは。
思いもかけない接近戦の奇襲に、俺も肝を冷やした。
ティアは速度を落とすも、勢い余ってエアバイクの攻撃に吸い込まれていく。
二つの影が交差する。
しかし、ティアは、虎実の一撃をすり抜けた。
接地しているホイールをグリップさせながら、身体を地面すれすれまで倒しこむ。
スキーで言うビッテリーターンの要領だ。
ウィリーしていたファスト・オーガは、ティアの身体の上を通り過ぎる。
まさか、エアバイクをウィリーさせて、前方部分で吹っ飛ばそうとは。
思いもかけない接近戦の奇襲に、俺も肝を冷やした。
ティアは速度を落とすも、勢い余ってエアバイクの攻撃に吸い込まれていく。
二つの影が交差する。
しかし、ティアは、虎実の一撃をすり抜けた。
接地しているホイールをグリップさせながら、身体を地面すれすれまで倒しこむ。
スキーで言うビッテリーターンの要領だ。
ウィリーしていたファスト・オーガは、ティアの身体の上を通り過ぎる。
「ちょ……まっ!」
相手の神姫、ティグリースの虎実があわてた声を出す。
彼女にとっては起死回生、必中の一撃だったのだろう。
エアバイクの前部を持ち上げたまま、その場で勢いよく駒のように回りだした。
チャンスである。
指先はサイドボードのコントロールパネルを操作し、俺が望んだ武器を、バーチャル空間内のティアの手元に送り込む。
彼女にとっては起死回生、必中の一撃だったのだろう。
エアバイクの前部を持ち上げたまま、その場で勢いよく駒のように回りだした。
チャンスである。
指先はサイドボードのコントロールパネルを操作し、俺が望んだ武器を、バーチャル空間内のティアの手元に送り込む。
「ティア」
『はいっ』
『はいっ』
同時に短く指示を下す。
「そいつをエアバイクの底面に向けて撃て」
ティアは即座に指示を実行する。
ティアの右手には、大きなハンドガンが握られている。
ただのハンドガンではない。先端に大きな弾頭があり、グリップからはストックも延びている。
ロケットランチャーガン。
装弾数は一発きりだが、威力は破格である。
機動性重視のティアにとっては、虎の子の一発だ。
ティアはランチャーガンを構えると、数瞬を待たずに引き金を絞った。
ファスト・オーガがウィリーターンしていたのも、ほんの数回転だったろう。
虎実がファスト・オーガを押さえ込むよりも早く、まっすぐな白煙を描いた弾頭は、その前方部の底面に直撃した。
ティアの右手には、大きなハンドガンが握られている。
ただのハンドガンではない。先端に大きな弾頭があり、グリップからはストックも延びている。
ロケットランチャーガン。
装弾数は一発きりだが、威力は破格である。
機動性重視のティアにとっては、虎の子の一発だ。
ティアはランチャーガンを構えると、数瞬を待たずに引き金を絞った。
ファスト・オーガがウィリーターンしていたのも、ほんの数回転だったろう。
虎実がファスト・オーガを押さえ込むよりも早く、まっすぐな白煙を描いた弾頭は、その前方部の底面に直撃した。
『うわ、うわわわわぁっ!!』
虎実が素っ頓狂な声を上げる。
前方部をはじかれたエアバイクは、後部を支点に反転。
そのままひっくりかえった。
俺が思い描いたとおり。作戦は成功した。
命中を確認したティアは、実弾のなくなったロケットランチャーガンを捨てる。
俺はすぐに新しい武器をティアに送り込んでやる。
ティアはランドスピナーでゆっくりと滑走すると、転覆しているファスト・オーガの反対側に回り込んだ。
前方部をはじかれたエアバイクは、後部を支点に反転。
そのままひっくりかえった。
俺が思い描いたとおり。作戦は成功した。
命中を確認したティアは、実弾のなくなったロケットランチャーガンを捨てる。
俺はすぐに新しい武器をティアに送り込んでやる。
ティアはランドスピナーでゆっくりと滑走すると、転覆しているファスト・オーガの反対側に回り込んだ。
◆
ひっくりかえったファスト・オーガから、いままさに虎実が這いだしてこようとしていた。
「くっそ……」
まさか、あの一撃をかわされるとは思わなかった。
奴の速度も乗っていたし、コースも予想通り。ファスト・オーガを回転させたときに視認したティアは、間違いなく直撃コースだった。
しかし、姿がかき消え、予想していた衝撃は来なかった。
ティアを吹き飛ばした衝撃を利用してブレーキをかけるつもりだったために、勢い余って駒のように回ってしまったのだ。
そして、その隙をつかれ、このありさまだった。
虎実はバイクから這い出そうと力を込める。
バイクはもう使い物にならないだろう。だが武装は健在だ。ありったけの武装を引っ張りだして、それから……
考えている最中の虎実の前で、甲高いホイール音が停止する。
虎実は顔を上げる。
目の前に、ちょっとすまなそうな顔をした、黒い兎がいた。
奴の速度も乗っていたし、コースも予想通り。ファスト・オーガを回転させたときに視認したティアは、間違いなく直撃コースだった。
しかし、姿がかき消え、予想していた衝撃は来なかった。
ティアを吹き飛ばした衝撃を利用してブレーキをかけるつもりだったために、勢い余って駒のように回ってしまったのだ。
そして、その隙をつかれ、このありさまだった。
虎実はバイクから這い出そうと力を込める。
バイクはもう使い物にならないだろう。だが武装は健在だ。ありったけの武装を引っ張りだして、それから……
考えている最中の虎実の前で、甲高いホイール音が停止する。
虎実は顔を上げる。
目の前に、ちょっとすまなそうな顔をした、黒い兎がいた。
「チェックメイトです……」
ちょっと申し訳なさそうに、バニーガールの格好をした神姫が告げる。
虎実は不機嫌になりながら思う。
なんでこいつは、こんなに自信なさげなんだ?
両手でサブマシンガン構えながら言う口調じゃねぇだろ。
虎実はティアを侮ることにした。
無駄なあがきとわかっちゃいるが、こんな奴に素直に降参するほど、虎実はおとなしくもない。
虎実は不機嫌になりながら思う。
なんでこいつは、こんなに自信なさげなんだ?
両手でサブマシンガン構えながら言う口調じゃねぇだろ。
虎実はティアを侮ることにした。
無駄なあがきとわかっちゃいるが、こんな奴に素直に降参するほど、虎実はおとなしくもない。
「そうか……」
虎実はちょっとうつむいて表情を隠す。
端からは、さもギブアップしそうに見えるだろう。
端からは、さもギブアップしそうに見えるだろう。
「しかたがない……なっ!!」
車体の下に差し入れていた右手。
最後の一文字を口から発すると同時、掴んでいた剣を地面スレスレに滑らせた。
自慢のレッグパーツをねらう。
しかし。
虎実の剣が届くより早く、ティアの両手のマシンガンが火を噴いた。
虎実の繰り出した剣は、柄の根本から破壊された。
地面に穴をうがち、バイクに風穴をあけ、弾着が点線を描き出す。
虎実は小さな悲鳴を上げて、頭を抱えた。
弾着の点線は虎実の身体を囲うように円を描いていた。
ティアが静かに告げる。
最後の一文字を口から発すると同時、掴んでいた剣を地面スレスレに滑らせた。
自慢のレッグパーツをねらう。
しかし。
虎実の剣が届くより早く、ティアの両手のマシンガンが火を噴いた。
虎実の繰り出した剣は、柄の根本から破壊された。
地面に穴をうがち、バイクに風穴をあけ、弾着が点線を描き出す。
虎実は小さな悲鳴を上げて、頭を抱えた。
弾着の点線は虎実の身体を囲うように円を描いていた。
ティアが静かに告げる。
「降参してください……」
またしても申し訳なさそうな顔をしている。
それが虎実には無性に気に食わなかった。
でも、それをどうにかする術はない。
ティアの銃口はぴたりと虎実向けられている。
それが虎実には無性に気に食わなかった。
でも、それをどうにかする術はない。
ティアの銃口はぴたりと虎実向けられている。
「ちくしょ……ちくしょう、ちくしょーーーーーっ!!」
虎実の叫びが廃墟の彼方に消えていく。
やがて、ファンファーレとともに、フィールド上に巨大な立体文字の列が浮かび上がった。
やがて、ファンファーレとともに、フィールド上に巨大な立体文字の列が浮かび上がった。
『WINNER:ティア』
■
バーチャルバトルが終了し、周囲の廃墟が消えていく。
わたしの認識はリアルに戻され、ゆっくりと目を開く。
暗く、狭いポッドの中。
こわい、と認識するまもなく、目の前の壁に一筋の光の線が引かれ、やがて大きく開いた。
溢れてくる光。現実の光。
わたしは目を細めながら、ゆっくりとポッドから身を乗り出して振り向く。
わたしの認識はリアルに戻され、ゆっくりと目を開く。
暗く、狭いポッドの中。
こわい、と認識するまもなく、目の前の壁に一筋の光の線が引かれ、やがて大きく開いた。
溢れてくる光。現実の光。
わたしは目を細めながら、ゆっくりとポッドから身を乗り出して振り向く。
「か、勝ちました。マスター」
わたしは自らの主の姿を見上げた。
どんな表情をしているのか、とてもとても気になる。
彼は、やっぱりいつものように事務的な無表情で、自分のモバイルPCのキーを叩いている。
わたしはちょっとだけ落胆する。
でも、
どんな表情をしているのか、とてもとても気になる。
彼は、やっぱりいつものように事務的な無表情で、自分のモバイルPCのキーを叩いている。
わたしはちょっとだけ落胆する。
でも、
「うん。よくやった」
マスターがわたしを見て、かすかに笑ってくれたから。
わたしは嬉しくなって、思わず笑みを返した。
わたしのマスターは、あまり表情を変えない人だ。
だから、時々見せてくれる笑顔は、わたしの大切な宝物だった。
その時だ。
わたしは嬉しくなって、思わず笑みを返した。
わたしのマスターは、あまり表情を変えない人だ。
だから、時々見せてくれる笑顔は、わたしの大切な宝物だった。
その時だ。
「おいおいっ! 今のは反則じゃねえのか!?」
大きな声でマスターに近づいて来る人がいる。
バトルの相手、ティグリース・タイプのマスターだ。
バトルの相手、ティグリース・タイプのマスターだ。
「なにがだ」
マスターの声は至って冷静……それどころか、わたしが身をすくませたほどに冷たい声。
「だってそうだろ! そっちのバニーちゃんの装備なんざ、見たことも聞いたこともねぇ!
しかも、バトル前にフィールドまで指定しやがって……。
勝つためには何をしてもいいってのか!? あぁ!?」
「はじめに確認を取ったはずだ。君はそれを了承しただろ」
しかも、バトル前にフィールドまで指定しやがって……。
勝つためには何をしてもいいってのか!? あぁ!?」
「はじめに確認を取ったはずだ。君はそれを了承しただろ」
確かにマスターは、バトル前に確認をしている。
わたしは武装の特性上、市街地や廃墟のステージでしかバトルしない。
それは有利になるからというよりも、他のステージではパフォーマンスを発揮出来ないからだった。
わたしは武装の特性上、市街地や廃墟のステージでしかバトルしない。
それは有利になるからというよりも、他のステージではパフォーマンスを発揮出来ないからだった。
「だけど、てめえの神姫の武装は公式じゃねえだろが!」
「確かに、ティアの武装はオリジナルだ。
だが、君の神姫の武装に勝っているとは思えない。
こっちはライトアーマー並みの軽量武装で、装備は手持ち武器をサイドボードから送り込んでいるだけだ。
単純な火力は君達の方が圧倒的だと思うけどね」
「ぐっ……」
「確かに、ティアの武装はオリジナルだ。
だが、君の神姫の武装に勝っているとは思えない。
こっちはライトアーマー並みの軽量武装で、装備は手持ち武器をサイドボードから送り込んでいるだけだ。
単純な火力は君達の方が圧倒的だと思うけどね」
「ぐっ……」
マスターは冷たい視線で相手を見る。
体の大きな相手のマスターがあきらかにひるんでいる。
マスターは淡々と言葉を紡ぐ。
体の大きな相手のマスターがあきらかにひるんでいる。
マスターは淡々と言葉を紡ぐ。
「それに、ここは公式の神姫センターじゃない。
ゲームセンターの非公式の草バトルだ。
パーツがオリジナルだろうが、武装が非公式だろうが、どんな相手が出てきたって文句は言えない。
ここにはそういう神姫が集まっている。
公式装備のバトルがしたければ、神姫センターに行けばいい」
ゲームセンターの非公式の草バトルだ。
パーツがオリジナルだろうが、武装が非公式だろうが、どんな相手が出てきたって文句は言えない。
ここにはそういう神姫が集まっている。
公式装備のバトルがしたければ、神姫センターに行けばいい」
マスターの言葉は冷たく、事務的で、しかも正論だった。
会話を聞いていた、周りの神姫マスターのみなさんも、口々に言う。
会話を聞いていた、周りの神姫マスターのみなさんも、口々に言う。
「そうだそうだ! ここじゃ武装は何でもありだ!」
「公式武装バトルがお望みなら、他へ行け!」
「負けたからって見苦しいぞ!」
「だいたい、火力で勝っているのに、いいわけがましいったらないよな」
「文句言うより、装備見直す方が先なんじゃね?」
「公式武装バトルがお望みなら、他へ行け!」
「負けたからって見苦しいぞ!」
「だいたい、火力で勝っているのに、いいわけがましいったらないよな」
「文句言うより、装備見直す方が先なんじゃね?」
そして、マスターがとどめの一言。
「それに、いまのバトルは、君から申し込んできたんだろ」
その一言に、周りがどよめいた。
相手のマスターは反論も出来ずに、うつむいている。
けれど、いきなり顔を上げると、びしっとわたしのマスターに人差し指を突きつけた。
肩の上のティグリースも一緒に。
相手のマスターは反論も出来ずに、うつむいている。
けれど、いきなり顔を上げると、びしっとわたしのマスターに人差し指を突きつけた。
肩の上のティグリースも一緒に。
「こ、これで勝ったと思うなよ! おぼえてろおおおおおぉぉ!!」
そう言い捨てて、相手のマスターは駆け足でお店を出ていった。
マスターを見上げると、彼は肩をすくめて軽くため息をついた。
マスターを見上げると、彼は肩をすくめて軽くため息をついた。
「まったく、うるさいやつだったな……心配するな」
最後の一言でわたしを見て、マスターは右手を差し出した。
後かたづけが終わった証拠。
わたしはマスターの右手の甲に乗る。
すると、マスターの右手はわたしを乗せて、左胸のシャツのポケットに到着する。
わたしは右手から降りて、マスターの胸ポケットに滑り込んだ。
ここはわたしの定位置。
後かたづけが終わった証拠。
わたしはマスターの右手の甲に乗る。
すると、マスターの右手はわたしを乗せて、左胸のシャツのポケットに到着する。
わたしは右手から降りて、マスターの胸ポケットに滑り込んだ。
ここはわたしの定位置。
「よし、帰ろう」
ゲームセンターの、武装神姫コーナーの周りは、さっきの騒ぎの名残で、まだざわめいていた。
マスターはそれが気に入らないのだと思う。
他のバトルを観戦もせず、すり抜けるようにコーナーを離れ、店を後にした。
マスターはそれが気に入らないのだと思う。
他のバトルを観戦もせず、すり抜けるようにコーナーを離れ、店を後にした。