隣は何をする姫ぞ──あるいは晩秋
秋である。景色がセピア色からモノトーンへと遷移し、人々や神姫の
“心”にも変化をもたらす時期である……そして、『何とかの秋』と
散々使われるフレーズが示す通りに、その変化は様々なアクションを
行わせる不思議な力を持っている。何故、わざわざ秋なのだろうか?
MMS部品を買いこんだ客を見送りつつ、私・槇野晶はそう考える。
“心”にも変化をもたらす時期である……そして、『何とかの秋』と
散々使われるフレーズが示す通りに、その変化は様々なアクションを
行わせる不思議な力を持っている。何故、わざわざ秋なのだろうか?
MMS部品を買いこんだ客を見送りつつ、私・槇野晶はそう考える。
「はむはむ……やっぱり焼きたてが一番おいしいですの~♪あむあむ」
「こらこらロッテ、食べすぎると……ガスは出ぬが、腹に溜まるぞ?」
「今なら大丈夫ですの!食事機能のエネルギー変換効率がいいですの」
「……そう言う物なのか?さしずめロッテは“食欲の秋”という所か」
「こらこらロッテ、食べすぎると……ガスは出ぬが、腹に溜まるぞ?」
「今なら大丈夫ですの!食事機能のエネルギー変換効率がいいですの」
「……そう言う物なのか?さしずめロッテは“食欲の秋”という所か」
そう。人と若干異なるとは言え、“心”を備える神姫も例外ではない。
流石に普通の神姫であれば有り得ぬが、ロッテが発現させたのはまさに
人で言う“食欲の秋”であった。私がおやつに買ってきた石焼き芋を、
彼女はかれこれ一個半は平らげていた……何?ってちょっと待てっ!?
流石に普通の神姫であれば有り得ぬが、ロッテが発現させたのはまさに
人で言う“食欲の秋”であった。私がおやつに買ってきた石焼き芋を、
彼女はかれこれ一個半は平らげていた……何?ってちょっと待てっ!?
「ロッテ!私や皆の分はどうしたのだ、四個しか買っていない筈だぞ」
「あ゛っ!ご、ごめんなさいですの~!?甘くて美味しいからついっ」
「はぁ……仕方ない、今食べかけのを私と半分だ。いいなロッテよ?」
「は、はいですの~……でもマイスターとコレで間接……きゃ~っ♪」
「ぶぐっ!?ぐ、ごふぅっ!!な、なんて事を言うかこの娘はッ!?」
「あ゛っ!ご、ごめんなさいですの~!?甘くて美味しいからついっ」
「はぁ……仕方ない、今食べかけのを私と半分だ。いいなロッテよ?」
「は、はいですの~……でもマイスターとコレで間接……きゃ~っ♪」
「ぶぐっ!?ぐ、ごふぅっ!!な、なんて事を言うかこの娘はッ!?」
ロッテから半分取り上げた芋を口に運んだ所で、思いっきり噴き出す。
た、確かにこれは間接キスだがな……いきなりそんな事を言われると、
此方も一気に来て、堪らなくなってしまう……何だ、何か文句あるか?
変に意識すると意識が乱れる、ただそれだけだ。それ以外にはないッ!
た、確かにこれは間接キスだがな……いきなりそんな事を言われると、
此方も一気に来て、堪らなくなってしまう……何だ、何か文句あるか?
変に意識すると意識が乱れる、ただそれだけだ。それ以外にはないッ!
「全く……そう言えば、アルマとクララは何処で何をしているのだ」
「あ、アルマお姉ちゃんはブースにいますの♪お芋、運びますのっ」
「有無。では、肩に乗って持っていてくれ……っと、アルマや~?」
「ふっ、せあっ!まだまだ、もっと打ち込んでくださいモリアン!」
『No problem(では続けます、回避行動を選択してください)』
「あ、アルマお姉ちゃんはブースにいますの♪お芋、運びますのっ」
「有無。では、肩に乗って持っていてくれ……っと、アルマや~?」
「ふっ、せあっ!まだまだ、もっと打ち込んでくださいモリアン!」
『No problem(では続けます、回避行動を選択してください)』
という訳で私は芋の入った紙をロッテに持たせ、アルマの元へ向かった。
戦闘訓練用のウレタン式ブースでは、両手に“ヨルムンガルド”を持った
アルマと、同じく両手に“デストロイ・マチェット”を携えたモリアンが
真剣での組み手をやっている所だった。これは……少々過激ではある物の
“スポーツの秋”と言えなくもないか?とりあえず、声を掛けてみるか。
戦闘訓練用のウレタン式ブースでは、両手に“ヨルムンガルド”を持った
アルマと、同じく両手に“デストロイ・マチェット”を携えたモリアンが
真剣での組み手をやっている所だった。これは……少々過激ではある物の
“スポーツの秋”と言えなくもないか?とりあえず、声を掛けてみるか。
「アルマ、これアルマや。随分と精が出る様だが、休憩も必要だぞ?」
「え?あ、マイスター!そうですね、三十分は打ち込んでました……」
『Negative(バッテリー残量に不安があります)』
「そう、ですか?じゃあ、モリアンは充電して下さい。ありがとうっ」
『No problem(マスターのお役に立てたのならば)』
「我が“妹”ながら感心だな。重量級ランクのバトルが近いとは言え」
「えっと……なんだか気分が高揚して、躯を動かしたくなったんです」
「え?あ、マイスター!そうですね、三十分は打ち込んでました……」
『Negative(バッテリー残量に不安があります)』
「そう、ですか?じゃあ、モリアンは充電して下さい。ありがとうっ」
『No problem(マスターのお役に立てたのならば)』
「我が“妹”ながら感心だな。重量級ランクのバトルが近いとは言え」
「えっと……なんだか気分が高揚して、躯を動かしたくなったんです」
充電用のポッドに戻るモリアンを見送って、アルマのボディチェックを
眼鏡の機能で行う。傷は殆ど無く、機能不全も無し…実に健康的だな。
清々しい彼女の顔は、幸せそうに食べていたロッテの顔とは別の意味で
眩しかった。神姫でも関節用モーターの不全等、“躯の鈍り”はある。
それを予防する意味でも、適度な運動は実に良いのだ……可愛い奴め!
眼鏡の機能で行う。傷は殆ど無く、機能不全も無し…実に健康的だな。
清々しい彼女の顔は、幸せそうに食べていたロッテの顔とは別の意味で
眩しかった。神姫でも関節用モーターの不全等、“躯の鈍り”はある。
それを予防する意味でも、適度な運動は実に良いのだ……可愛い奴め!
「動いたら栄養補給だ。まずはコレを食べて、それから充電だな?」
「わあ……温かそうなお芋、ですね。じゃあ、遠慮無く頂きますっ」
「有無、さて。茶を用意せねばならん……クララも呼ぶか。クララ」
「……返事がないですの。さっきテーブルで読書してたんですけど」
「わあ……温かそうなお芋、ですね。じゃあ、遠慮無く頂きますっ」
「有無、さて。茶を用意せねばならん……クララも呼ぶか。クララ」
「……返事がないですの。さっきテーブルで読書してたんですけど」
アルマを肩に乗せ、ロッテから芋を受け取って渡す……その間も、私は
クララの名を呼ぶが、反応がないな。ロッテの言っていた大テーブルへ
向かってみない事には見つかりそうもない。三人で、彼女の元に赴く。
テーブルの上には……見事に突っ伏して寝ているクララの姿があった。
クララの名を呼ぶが、反応がないな。ロッテの言っていた大テーブルへ
向かってみない事には見つかりそうもない。三人で、彼女の元に赴く。
テーブルの上には……見事に突っ伏して寝ているクララの姿があった。
「……すぅ、すぅ……むにゃ、マイスター。そんな所触ったらダメだよ」
「この娘は……どんな夢を見ているのだ?というか、“寝言”なのか?」
「えっと、休眠時はデータ整理をしてる事もありますし……多分きっと」
「人間でも眠りで整理をする、って前にマイスターが言ってましたの♪」
「この娘は……どんな夢を見ているのだ?というか、“寝言”なのか?」
「えっと、休眠時はデータ整理をしてる事もありますし……多分きっと」
「人間でも眠りで整理をする、って前にマイスターが言ってましたの♪」
ロッテの言う通りなのだが……彼女の寝言は、ちょっとドキドキする。
私の何を整理して何を夢見ているのか、期待と不安が一瞬よぎるのだ。
だが、このまま寝かせておく訳にも行かない。何故か?彼女の下にある
人間サイズの本が、クララの寝返りでクシャクシャになりそうなのだ。
これを見る限り彼女の場合、“読書の秋”という事らしかったが……。
私の何を整理して何を夢見ているのか、期待と不安が一瞬よぎるのだ。
だが、このまま寝かせておく訳にも行かない。何故か?彼女の下にある
人間サイズの本が、クララの寝返りでクシャクシャになりそうなのだ。
これを見る限り彼女の場合、“読書の秋”という事らしかったが……。
「クララ、クララ!起きてくれんと、本が皺だらけになってしまうぞ」
「ん……?むにゃ、マイスター……?あれ、止めちゃったのかな……」
「止めた?……止めたって、一体何をだ。“夢”の話か、クララよ?」
「ん……?むにゃ、マイスター……?あれ、止めちゃったのかな……」
「止めた?……止めたって、一体何をだ。“夢”の話か、クララよ?」
とりあえず本から降りたクララにも芋を差し出して、私は茶を準備する。
だがその背に、思いも掛けない言葉が浴びせかけられたのだ……うぅッ!
本当に、本当に……可愛い奴らめ!後で、色々とお返ししてやらぬとな。
だがその背に、思いも掛けない言葉が浴びせかけられたのだ……うぅッ!
本当に、本当に……可愛い奴らめ!後で、色々とお返ししてやらぬとな。
「うん。ボクを一杯抱きしめて撫でた上で、頬にキスまでしたんだよ」
「な゛ッ!!?ななななっ、なんて夢を見ているのだ!クララッ!?」
「あー……だってマイスター、最近作業と仕事ばかりでしたからねっ」
「だからマイスターは“恋の秋”を満喫するといいですの、ってね♪」
「茶化すな三人ともッ!でも……そうだな、夕方は適当にぶらつくか」
「な゛ッ!!?ななななっ、なんて夢を見ているのだ!クララッ!?」
「あー……だってマイスター、最近作業と仕事ばかりでしたからねっ」
「だからマイスターは“恋の秋”を満喫するといいですの、ってね♪」
「茶化すな三人ともッ!でも……そうだな、夕方は適当にぶらつくか」
──────恋する、なんて言葉には……まだならないからね。