回の04「たまにはこんな夜」
雪那が居間にあるソファーで寝転びながら、小説を読んでいる。『妖精騎士』と銘打たれたシリーズ物だが、雪那が読んでいるのはその第一巻目。
その横では雪那の母、舞華がお茶を啜りながらTVを見ていた。番組名は『水戸○門』。実に68年にもわたって製作、放映し続けられている、超ロングラン時代劇シリーズ。実際、雪那の祖父、葉月総(はづき・そう)が生まれる前から放映していたという。
ちなみに現在の黄○様は9代目。
その居間の端で、全長約15cmほどの二つの物体があった。
ティキとユーラだ。
二体……二人は体をくねくねと動かしながら何かをやっている。
その動きは、見ようによっては何かの踊り、振り付けのように見えない事も無い。
否定の連続。
とりあえず、現時点でのこの空間において、正確な意味で『生きている』ものは過度の集中によりほかの事を認識できる状態ではない。
だから自然と、活発な活動をしている二人に視線は移る。
「姉さま、なんだかメモリに記憶されているものと大きく違うのです。違うみたいですっ!」
「なんだかうまくいかないのですよぉ~」
どうやらこの二人、アイドルの新曲の振り付けを練習しているらしい。
以前よりティキがファンだった、人と神姫のユニット『ReDoll』の新曲の振り付け。
それぞれアレンジの違う衣装の複数の女性と、それと対になった衣装に身を包む神姫たちのユニットである。
元々は世に神姫が浸透していく過程でイロモノ的に立ち上げられたプロジェクトだったらしいが、いわゆるアイドルオタクだけではなく若年層の女子や神姫たちからの支持までをも獲得してしまった。
『神姫アイドル』というカテゴリーを作り出した、草分け的存在。
メンバーの加入、脱退を繰り返すこのユニットは、デビューから5年たった今でも平均年齢を過度に上げることなく、広い世代に受け入れられている。
と、アイドルの説明は兎も角、今はティキとユーラだ。
「ここ。ここがこんな感じです。こんな感じなのですっ!」
「ふにょーん? こうですかぁ?」
わけのわからないオノマトペ。そしてそんなオノマトペで正しい振り付けなわけがない。大体そんな古いタイプのオノマトペで萌が狙えるか!
「ティキ姉さま、姉さまは何でマオチャオなのにそんなに踊りがダメですか? ダメなのですかっ!?」
「そ……そんなこと言われても困ってしまうのですよぉ~」
マオチャオがどうとか、その点がどうして『~なのに』につながるかはまったく不明。
しかしユーラが言う通りにティキがダンスの類がヘタかと言えば実はそうではない。
実際、ティキは歌うのも、踊るのもうまくこなす。
しかし歌いながら踊る、となると途端に踊れなくなる。
「個体差なのですよぉ~」
ティキ、マジ泣き寸前。
そんなティキを見たユーラの目が、キュピーンと光った……ように見えた。
「大体ティキ姉さまはマオチャオなのに、語尾がおかしいです。おかしいのですっ!」
「ふぇ……」
「普通マオチャオと言えば、『~にゃ』または『~なのだ』口調、もしくはそれに準じた口調なのです。なのですよっ!?」
かなり偏見に満ちた暴言だ! 諸々に謝れ!!
「それにマオチャオがそんなに聞き分けが良くてどうするのです。どうするのですかっ! マオチャオならもっと気ままに。気ままにっ!」
だからそれは偏見だ。書き手に謝れ。
もちろんそんな地の文のツッコミが聞き入れられるわけも無く、ユーラはどこか恍惚とした顔で今にも涙が零れんばかりにしているティキを見つめる。
そして止めとばかりに言ってのけた。
「そんなではとてもマオチャオとは言えません。言う事が出来ませんっ! マオチャオである必要性が無いです! 無いのですよっ!! 読み手に謝りなさい! 謝るのですっ!!」
「うわーん」
うわーん。
とうとうティキは泣き出してしまう。そしてついでに書き手も泣き出した!
「何でそんなこと言うですかぁ~ ひどいのですよぉ~~」
まったくその通りだ!
その姿をみて、ユーラの心が高鳴り締め付けられる。
と言っても罪悪感とかそんなものは欠片ほども、毛ほども無い。
純粋なトキメキ。
「姉さま、言い過ぎました。言い過ぎでしたっ」
そう言うとユーラはそっとティキに近づき、そして抱きしめる。
グズグズとしゃくりをあげるティキに、ユーラはなんともいえない快感を覚える。
そしてティキを強く抱きしめた。
「ティキ姉さま、泣かないで。泣かないで下さいっ」
自分で、しかも故意に泣かせたくせに何を言いやがってますかこの娘は。
そんな野暮な突っ込みを完膚なきまでに黙殺し、ユーラはティキの涙を舌で掬い取る。
「ふにゃっ!」
「ふふふふ…… 姉さま、可愛いです。可愛すぎですっ!」
異様に目を輝かせたユーラはそのままティキに体重をかけ……ようとした所で何かに体をつかまれる。
「二人とも、こんな所で何やってんだよ……」
ユーラをつかんだのは雪那であった。雪那のその顔は、呆れ半分羞恥半分。
「マスタ~」
「主(ぬし)さん」
その雪那を見る二人の表情はそれぞれで。
ティキは甘えるような表情で雪那を見上げて。
ユーラを拗ねたような顔で雪那を見据える。
「あのなぁ、母さんも居るのに、こんな所でそんなこと始めんじゃないよ~」
雪那は小声で言った。つまり母は『水○黄門』に夢中でまだ気が付いていない。
コクコクと頷くティキ。顔が真っ赤。
そんなティキに対してユーラは興奮冷めやらぬ口調で。
「なら主さんの部屋に戻れば続けて良いという事ですか? 事ですね!?」
「「ちっがーう」のですよぉ~」
雪那とティキの声が一気に大きくなった。
それに対して一言。
「うっさい!」
母の短い一言でTVから流れる音声以外の音が無くなる。
母は強し。
その横では雪那の母、舞華がお茶を啜りながらTVを見ていた。番組名は『水戸○門』。実に68年にもわたって製作、放映し続けられている、超ロングラン時代劇シリーズ。実際、雪那の祖父、葉月総(はづき・そう)が生まれる前から放映していたという。
ちなみに現在の黄○様は9代目。
その居間の端で、全長約15cmほどの二つの物体があった。
ティキとユーラだ。
二体……二人は体をくねくねと動かしながら何かをやっている。
その動きは、見ようによっては何かの踊り、振り付けのように見えない事も無い。
否定の連続。
とりあえず、現時点でのこの空間において、正確な意味で『生きている』ものは過度の集中によりほかの事を認識できる状態ではない。
だから自然と、活発な活動をしている二人に視線は移る。
「姉さま、なんだかメモリに記憶されているものと大きく違うのです。違うみたいですっ!」
「なんだかうまくいかないのですよぉ~」
どうやらこの二人、アイドルの新曲の振り付けを練習しているらしい。
以前よりティキがファンだった、人と神姫のユニット『ReDoll』の新曲の振り付け。
それぞれアレンジの違う衣装の複数の女性と、それと対になった衣装に身を包む神姫たちのユニットである。
元々は世に神姫が浸透していく過程でイロモノ的に立ち上げられたプロジェクトだったらしいが、いわゆるアイドルオタクだけではなく若年層の女子や神姫たちからの支持までをも獲得してしまった。
『神姫アイドル』というカテゴリーを作り出した、草分け的存在。
メンバーの加入、脱退を繰り返すこのユニットは、デビューから5年たった今でも平均年齢を過度に上げることなく、広い世代に受け入れられている。
と、アイドルの説明は兎も角、今はティキとユーラだ。
「ここ。ここがこんな感じです。こんな感じなのですっ!」
「ふにょーん? こうですかぁ?」
わけのわからないオノマトペ。そしてそんなオノマトペで正しい振り付けなわけがない。大体そんな古いタイプのオノマトペで萌が狙えるか!
「ティキ姉さま、姉さまは何でマオチャオなのにそんなに踊りがダメですか? ダメなのですかっ!?」
「そ……そんなこと言われても困ってしまうのですよぉ~」
マオチャオがどうとか、その点がどうして『~なのに』につながるかはまったく不明。
しかしユーラが言う通りにティキがダンスの類がヘタかと言えば実はそうではない。
実際、ティキは歌うのも、踊るのもうまくこなす。
しかし歌いながら踊る、となると途端に踊れなくなる。
「個体差なのですよぉ~」
ティキ、マジ泣き寸前。
そんなティキを見たユーラの目が、キュピーンと光った……ように見えた。
「大体ティキ姉さまはマオチャオなのに、語尾がおかしいです。おかしいのですっ!」
「ふぇ……」
「普通マオチャオと言えば、『~にゃ』または『~なのだ』口調、もしくはそれに準じた口調なのです。なのですよっ!?」
かなり偏見に満ちた暴言だ! 諸々に謝れ!!
「それにマオチャオがそんなに聞き分けが良くてどうするのです。どうするのですかっ! マオチャオならもっと気ままに。気ままにっ!」
だからそれは偏見だ。書き手に謝れ。
もちろんそんな地の文のツッコミが聞き入れられるわけも無く、ユーラはどこか恍惚とした顔で今にも涙が零れんばかりにしているティキを見つめる。
そして止めとばかりに言ってのけた。
「そんなではとてもマオチャオとは言えません。言う事が出来ませんっ! マオチャオである必要性が無いです! 無いのですよっ!! 読み手に謝りなさい! 謝るのですっ!!」
「うわーん」
うわーん。
とうとうティキは泣き出してしまう。そしてついでに書き手も泣き出した!
「何でそんなこと言うですかぁ~ ひどいのですよぉ~~」
まったくその通りだ!
その姿をみて、ユーラの心が高鳴り締め付けられる。
と言っても罪悪感とかそんなものは欠片ほども、毛ほども無い。
純粋なトキメキ。
「姉さま、言い過ぎました。言い過ぎでしたっ」
そう言うとユーラはそっとティキに近づき、そして抱きしめる。
グズグズとしゃくりをあげるティキに、ユーラはなんともいえない快感を覚える。
そしてティキを強く抱きしめた。
「ティキ姉さま、泣かないで。泣かないで下さいっ」
自分で、しかも故意に泣かせたくせに何を言いやがってますかこの娘は。
そんな野暮な突っ込みを完膚なきまでに黙殺し、ユーラはティキの涙を舌で掬い取る。
「ふにゃっ!」
「ふふふふ…… 姉さま、可愛いです。可愛すぎですっ!」
異様に目を輝かせたユーラはそのままティキに体重をかけ……ようとした所で何かに体をつかまれる。
「二人とも、こんな所で何やってんだよ……」
ユーラをつかんだのは雪那であった。雪那のその顔は、呆れ半分羞恥半分。
「マスタ~」
「主(ぬし)さん」
その雪那を見る二人の表情はそれぞれで。
ティキは甘えるような表情で雪那を見上げて。
ユーラを拗ねたような顔で雪那を見据える。
「あのなぁ、母さんも居るのに、こんな所でそんなこと始めんじゃないよ~」
雪那は小声で言った。つまり母は『水○黄門』に夢中でまだ気が付いていない。
コクコクと頷くティキ。顔が真っ赤。
そんなティキに対してユーラは興奮冷めやらぬ口調で。
「なら主さんの部屋に戻れば続けて良いという事ですか? 事ですね!?」
「「ちっがーう」のですよぉ~」
雪那とティキの声が一気に大きくなった。
それに対して一言。
「うっさい!」
母の短い一言でTVから流れる音声以外の音が無くなる。
母は強し。