ホワイトファング・ハウリングソウル
第十九話
『砕かれた未来~The broken future~』
時は少し遡る。
ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。
それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。
「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」
都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。
「駄目だ! マスター!!」
「マイスター!!」
都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。
大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから
「――――――――――――――!」
勢いよく、振り下ろされた。
・・・・・・・・アメティスタは、ゆっくりと目を開ける。
自分の体がまだ無事であることに疑問を覚え、横を見る。
そこには都の手があった。
「・・・・壊さないの?」
その手をみながら、彼女は言った。
都は何も言わない。
「・・・・ボクは、キミになら壊されてもいいと思ってたんだけど」
「・・・・・・・・・・いだろう」
と、都が何かを口にする。
「・・・・殺せるわけ、無いだろう・・・!」
都は・・・都は泣いていた。
雨の中でも判るくらい、泣いていた。
「どうして? ボクは武装神姫・・・ただのオモチャだ。それに殺すんじゃない。壊すんだ」
「・・・私は、ハウとノワールを家族だと思ってる。・・・・サラとマイは友達だ・・・!」
「ボクたちを人間と区別していないのか。それは単なる誤解と錯覚だ。ボクたちとキミ達じゃ根本的に・・・・」
「そんなことは判ってる」
都はそういって、アメティスタを押さえつけていた左手を離す。
「・・・・・でも、殺せない」
「・・・・なぜ?」
「・・・・そんな泣いてる奴を、殺せるか」
言われてアメティスタは始めて気づく。
彼女の頬は・・・涙で濡れていた。
「・・・・・・・・・どうして」
「そんなもの私が知るか・・・畜生ッ!」
そういうと都は持っていた石を川に向かって投げつける。
大きな音がして、小さな水柱が上がった。
「・・・よかった。マスター・・・」
「・・・・ん」
と、都を止めようとしていたハウとノワールが溜息をつく。
「・・・悪かった。ついかっとなってな」
その様子を見て都はすぐに謝った。
間違いを起こす前に本気で止めようとしてくれたからというのもあるが、やはり心配をかけたからだろう。
都が謝り、発言するものがいなくなり場を静寂が包む。
その静寂を破ったのはやはり都だった。
「・・・・お前、壊れてなんていないだろう」
その言葉はアメティスタに向けられたものだった。
「・・・・どうしてそう思うのかな?」
都の言葉にアメティスタはそう返した。
「簡単だ。お前、私を怒らせようとしてたな? 昔の事を思い出させて怒らせて・・・自分が真犯人だって言って。そんなことを言われたら私がどうなるか、判っていたんだろう? 小さな予言者さん」
今までのお返しとばかりに皮肉たっぷりに都は言う。
「どうなるか判ってて何故私にそんなことをするのか。何故罪の告白がしたいのに、相手を怒らせるのか。それが判らなかったが・・・お前、もしかして殺して欲しかったんじゃないか」
アメティスタは答えない。
しかしそれは肯定と同義の無言だった。
「さっきの話だと“壊れてるからアシモフコードを無視できる”はずだ。だったら自殺だって・・・できるはずだ。じゃぁなんで私に殺させようとする? それは・・・お前が壊れてないからだ」
「穴だらけで推理とも呼べない。それは殆どがキミの妄想と傲慢と身の程知らずから来た考えにしか思えないね」
ようやくアメティスタが口を開く。
「そもそもボクが自殺したがってるって根拠は何さ。それにボクは衛にぃを・・・殺した。これで壊れていないわけが・・・」
「アシモフコードが未来予知とか、そんな事にまで対応できるわけ無いだろう。元々コードには抵触しないんだよ。・・・・衛のことはな」
「・・・・ボクが見た程度の事じゃ、マスターの死に直結するとは判断されなかったってこと?」
「そうだ」
都は肯く。
アシモフコードは今更言うまでもなくロボット三原則の事だ。その第一条・・・『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない』にアメティスタの予言は抵触するか否か。
するわけが無い。
それはまだ起こっていない事、起こるかどうかすらわからないこと。
そして何より・・・予知は果たして神姫のアシモフコードに認識されているかということ。
「アシモフコードに認識されなければそれはプログラム的には“無い”ことにされるんだろう。もともと予知そのものがイレギュラーな要素だから認識されないのはある意味当然といえる」
「・・・つまり、あれは不幸な事故だったというの?」
「そうだ。アイツが死んだことで、誰か悪者を作り出すなら・・・車の運転手以外にだれもいやしないってことさ」
都はそういって黙る。
雨は、少し酷くなってきていた。
「・・・キミはそれで、納得できるの?」
「理解できないものに何か理由をつけ、理解した気になる。それが悪いこととは言わないがね。納得するさ。だってあそこで・・・私の目の前で起きた出来事には、お前が介入する余地なんかないんだから」
都は迷い無くそういいきった。
それは・・・アメティスタの罪を、許すといっているのと同義だ。
「・・・はぁ。また死に損なっちゃった。いい加減、衛にぃの所に行きたいんだけどな」
「やっと本音を言ったなこの馬鹿魚」
アメティスタのその言葉に、都はキシシと笑う。
その笑顔に偽りは無く・・・本当に楽しそうだった。
「・・・なぁ。お前、今何処に世話になってるんだ」
「山下りたとこにある神社だよ。・・・・ボクを引き取るってんならお断りだよ。ボクは今のこの生活が気に入ってるんだ」
「お見通しか」
「・・・ま、たまには遊びに行ってもいいけど」
「・・・・クク、素直じゃないな」
そういって更に笑う都。
雨はもう・・・・降っていなかった。
それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。
「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」
都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。
「駄目だ! マスター!!」
「マイスター!!」
都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。
大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから
「――――――――――――――!」
勢いよく、振り下ろされた。
・・・・・・・・アメティスタは、ゆっくりと目を開ける。
自分の体がまだ無事であることに疑問を覚え、横を見る。
そこには都の手があった。
「・・・・壊さないの?」
その手をみながら、彼女は言った。
都は何も言わない。
「・・・・ボクは、キミになら壊されてもいいと思ってたんだけど」
「・・・・・・・・・・いだろう」
と、都が何かを口にする。
「・・・・殺せるわけ、無いだろう・・・!」
都は・・・都は泣いていた。
雨の中でも判るくらい、泣いていた。
「どうして? ボクは武装神姫・・・ただのオモチャだ。それに殺すんじゃない。壊すんだ」
「・・・私は、ハウとノワールを家族だと思ってる。・・・・サラとマイは友達だ・・・!」
「ボクたちを人間と区別していないのか。それは単なる誤解と錯覚だ。ボクたちとキミ達じゃ根本的に・・・・」
「そんなことは判ってる」
都はそういって、アメティスタを押さえつけていた左手を離す。
「・・・・・でも、殺せない」
「・・・・なぜ?」
「・・・・そんな泣いてる奴を、殺せるか」
言われてアメティスタは始めて気づく。
彼女の頬は・・・涙で濡れていた。
「・・・・・・・・・どうして」
「そんなもの私が知るか・・・畜生ッ!」
そういうと都は持っていた石を川に向かって投げつける。
大きな音がして、小さな水柱が上がった。
「・・・よかった。マスター・・・」
「・・・・ん」
と、都を止めようとしていたハウとノワールが溜息をつく。
「・・・悪かった。ついかっとなってな」
その様子を見て都はすぐに謝った。
間違いを起こす前に本気で止めようとしてくれたからというのもあるが、やはり心配をかけたからだろう。
都が謝り、発言するものがいなくなり場を静寂が包む。
その静寂を破ったのはやはり都だった。
「・・・・お前、壊れてなんていないだろう」
その言葉はアメティスタに向けられたものだった。
「・・・・どうしてそう思うのかな?」
都の言葉にアメティスタはそう返した。
「簡単だ。お前、私を怒らせようとしてたな? 昔の事を思い出させて怒らせて・・・自分が真犯人だって言って。そんなことを言われたら私がどうなるか、判っていたんだろう? 小さな予言者さん」
今までのお返しとばかりに皮肉たっぷりに都は言う。
「どうなるか判ってて何故私にそんなことをするのか。何故罪の告白がしたいのに、相手を怒らせるのか。それが判らなかったが・・・お前、もしかして殺して欲しかったんじゃないか」
アメティスタは答えない。
しかしそれは肯定と同義の無言だった。
「さっきの話だと“壊れてるからアシモフコードを無視できる”はずだ。だったら自殺だって・・・できるはずだ。じゃぁなんで私に殺させようとする? それは・・・お前が壊れてないからだ」
「穴だらけで推理とも呼べない。それは殆どがキミの妄想と傲慢と身の程知らずから来た考えにしか思えないね」
ようやくアメティスタが口を開く。
「そもそもボクが自殺したがってるって根拠は何さ。それにボクは衛にぃを・・・殺した。これで壊れていないわけが・・・」
「アシモフコードが未来予知とか、そんな事にまで対応できるわけ無いだろう。元々コードには抵触しないんだよ。・・・・衛のことはな」
「・・・・ボクが見た程度の事じゃ、マスターの死に直結するとは判断されなかったってこと?」
「そうだ」
都は肯く。
アシモフコードは今更言うまでもなくロボット三原則の事だ。その第一条・・・『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない』にアメティスタの予言は抵触するか否か。
するわけが無い。
それはまだ起こっていない事、起こるかどうかすらわからないこと。
そして何より・・・予知は果たして神姫のアシモフコードに認識されているかということ。
「アシモフコードに認識されなければそれはプログラム的には“無い”ことにされるんだろう。もともと予知そのものがイレギュラーな要素だから認識されないのはある意味当然といえる」
「・・・つまり、あれは不幸な事故だったというの?」
「そうだ。アイツが死んだことで、誰か悪者を作り出すなら・・・車の運転手以外にだれもいやしないってことさ」
都はそういって黙る。
雨は、少し酷くなってきていた。
「・・・キミはそれで、納得できるの?」
「理解できないものに何か理由をつけ、理解した気になる。それが悪いこととは言わないがね。納得するさ。だってあそこで・・・私の目の前で起きた出来事には、お前が介入する余地なんかないんだから」
都は迷い無くそういいきった。
それは・・・アメティスタの罪を、許すといっているのと同義だ。
「・・・はぁ。また死に損なっちゃった。いい加減、衛にぃの所に行きたいんだけどな」
「やっと本音を言ったなこの馬鹿魚」
アメティスタのその言葉に、都はキシシと笑う。
その笑顔に偽りは無く・・・本当に楽しそうだった。
「・・・なぁ。お前、今何処に世話になってるんだ」
「山下りたとこにある神社だよ。・・・・ボクを引き取るってんならお断りだよ。ボクは今のこの生活が気に入ってるんだ」
「お見通しか」
「・・・ま、たまには遊びに行ってもいいけど」
「・・・・クク、素直じゃないな」
そういって更に笑う都。
雨はもう・・・・降っていなかった。