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ウサギのナミダ
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引きこもりと神姫
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えむえむえす ~My marriage story~

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キズナのキセキ
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The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
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双子神姫
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犬子さんの土下座ライフ。
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武装神姫のリン
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戦う神姫は好きですか
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妄想神姫
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ホワイトファング・ハウリングソウル
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 闇の中に流れたのは、単調なトーンで刻まれた電子音だった。
 和音にMIDI、MP3と順調に進化を続けてきた携帯の着信音。20xx年現在のブームは、ふた巡りを過ぎてシンプル極まりないBEEP音だ。
「もしもしぃ……」
 続くのは、愛らしい少女の声。どん底のテンションは、彼女が寝起きであることを示していた。
「あ。もしもし、あたしー」
 それとは対照的にテンションが高いのは、携帯のスピーカーから流れる女の声だ。少女が知るよしもないが、よほど気分のいいことでもあったらしい。
「あたしあたし詐欺はもう三十年前に絶滅しましたよ、教授……」
「今日のお昼頃にさ、二階のバトルセンターに行ってきて欲しいんだけどなー。っていうか行けー」
 少女の皮肉を颯爽と無視しておいて、教授と呼ばれた女性の声は自分の用件だけを一方的に紡いでいく。
「えぇぇ。言われたレポートで三徹して、超眠いんですけどー」
 ようやく眠りにつけたのはほんの三時間前。若いとはいえ、正直、体力の限界だった。
「初希が視たヤツだからさ、かなり当たると思うのよね。女の子の格好したちっこいのがターゲットだから。OK?」
 多分、答えは聞いてない。
 教授がしろと言えば、それは絶対なのだ。
「教授ぅ。レポート、ちゃんと見てもらえました?」
「隆芳には、三時に研究室に『ファイズ』持って来いって言っといたから。頼んだわよー」
 レポートの件を全無視したまま、早朝の電話は最後までワンサイドゲームのまま終話状態へ。
「……相変わらず人の話、聞かない人ですね」
 スピーカーから流れる無常な終話音に、少女は合成音のため息をひとつ、ほぅと吐いた。


マイナスから始める初めての武装神姫

番外編1 前編



 今日もショップは盛況だった。
 四月に入って春休みもあと少ししかないし、新リーグのバーチャルファーストが始まったこともあって、二階の対戦筐体はどれもプレイヤーで埋まっている。
「なぁ、十貴子ぉ」
 かく言うボクも三戦ほどこなして、小休止。賑やかな筐体の様子を、休憩コーナーでぼんやりと眺めている。
「どうしたの? ジル」
「お前さ……」
 ジルがそう言いかけると、携帯にメールが入ってきた。
 この音だと……静姉か。静姉は急ぎの用でも平然とメールで言ってくるからな。ジルの話を聞きながら、とりあえず確認することにする。
「へぇ。静姉、これからメーカーの人と会うんだってさ」
 ただの自慢で、急ぎの用でも何でもなかった。簡単な相槌だけ返信して、っと。
 送信ボタンを押した瞬間、ボクの髪がぐいと引っ張られた。
「人の話はちゃんと聞けって教わらなかったかこのガキ!」
「いたた! 引っ張らないでよ!」
 カツラ取れたらどうするの! ボク、ここで女装趣味バラす気はないよ!?
「……そうか。やっと趣味と言えるようになったか」
 って、趣味じゃない!
 そもそも人のモノローグ読まないでよ!
「……で、何? ジル」
 荒い息を吐いているジルをなだめつつ、ボクは今度こそ向き直る。静姉自身のメールの返事は遅いから、しばらく送って来ることはないはずだ。
「お前、これからどうすんの?」
「どうするって……?」
 とりあえずもう何戦かして、ポイントを稼ぐ予定だけど。今年はファーストの上位を目指すのが目標だしね。
「するって、じゃねえよ。大学のことだよ、大学」
「……ああ」
 それは、果てしなく気の重い問題だった。
 進学先が決まってないわけじゃない。
 ボクが今年の春から進むのは、東条学園の工学部。神姫の研究に力を入れてる学校だから、申請さえすれば自前の神姫を持ち込んでも何も言われない。
 それはありがたい話なんだけど……ここで問題なのは、ジルのオーナーは『鋼月十貴子』って一点だ。
 オーナーの登録名は本名でなくても良いから、十貴子って名前だけなら特に問題はない。
 問題なのは、ジルと鋼月十貴子が、この辺りでもそれなりに知られた顔だって事。そのジルを『鋼月十貴』なんていう無関係者が連れているとなると……。
 神姫オーナーと知られるのは問題ないけど、女装趣味……趣味じゃないけど……がバレるのは嫌だった。
 神姫趣味を隠すための女装が、今度は別の意味で足を引っ張ってるわけで……。
「偽名でも使おうか? ジル」
「ンなもん、ID見りゃ一発でバレるだろうが」
「だよねぇ……」
 対戦を申し込まれたら、登録名は相手のコンソールに表示されてしまう。そうなったら、ボクが『鋼月十貴子』ってバレるのは一瞬だ。
 それが嫌だから、こうしてわざわざ十貴子の格好でショップに来てるっていうのに。
「ああ、ボク達の番だよ」
 暗い顔をしていると、筐体のひとつが空いたらしい。
「ま、後でゆっくり考えりゃいいか……」
 さしあたり、今日はポイントを取る事だけを考えよう。入学式まではもう少しだけ、時間がある。
 筐体に着き、武装をセット。
「それよりジル。ホントにこの装備でいいの?」
 ジルの選んだ装備は通常のチーグルと、装甲脚のみ。
「ああ。今日はあんまり強いヤツいねえし、十分だろ」
 確かに今日は、強い相手は見当たらないけど……。セカンドどころかサードでもフル装備の全力攻撃で叩きのめす『鋼帝』が、珍しい。
 でも、朝システムチェックした時も、特に異常はなかったしな……。
 ジルから送られてくるデータも、オールグリーン。
 まあ、問題ないならいいか。ジルだってそういう気分になる事もあるんだろう。
「行くぜ、十貴子!」
 そして戦闘開始の合図が響き。
 電脳空間の様子を示すディスプレイに、ジルの姿が浮かび上がる。



 振り抜いたチーグルの向こう、山ほどの大砲を装備したムルメルティアの体がポリゴンの欠片となって砕け散る。
 これで、三人。
「ふぅ……っ」
 あたしは小さく息を吐き、延ばしたチーグルを引き戻す。
「ジル。次、来るよ!」
 聴覚センサーに割り込んでくるのは十貴子の声。
「やれやれ、人気者は辛いねぇ……」
 格上の相手を倒せば大量のポイントが手に入る。それは一対一でもバトルロイヤルでも変わらない、神姫バトルの常識だ。
 疲弊した相手を集団でタコ殴りにしてもポイントが貰えるバトルロイヤルで、あたし達ファーストランカーが集中攻撃に遭うのは仕方ない所……なんだけど。
「あんたらの都合に付き合う理由もない……っつの!」
 上空から実弾の雨と共に垂直に落ちてきた飛鳥を、振り上げたチーグルで叩き落と……そうとして。
「……遅いっ!?」
 相手の動きは捕捉済み。
 ブースターを備えた相手の軌道も、十分な誤差をもって予測できていた。シミュレートでは、あたしの爪が落ちてきたキツネ耳を撃ち貫くハズだったのに。
 あたしの爪が、届かない。
 相手が早いんじゃなくて……あたしが、遅い。
「ちっ!」
 スウェイバックとバックステップ。打ち落とせなかった飛鳥が地表スレスレで急旋回し、そのまま刃を振り抜いた。
 回避は出来たけど、完璧じゃない。胸部装甲の表層に走った亀裂からのダメージは、無視出来るレベルだったけど……。
「どうしたの、ジル!」
「ハンデだよ! ハンデ!」
 相手に再上昇させる隙まで与える気は無い。
 サブアームの肩部ロックを解除。引き抜いたそいつを振りかぶり、力任せに放り投げる。
 揃えられた指先が相手の腹を容赦なく貫いて、ポリゴンの欠片へと吹き散らす。
「ジル、後ろ!」
 十貴の声は、あたしのセンサーの反応とほぼ同時。
「見えてるっつの!」
 背後から来たのは基本装備のストラーフ……じゃない、新型のMK-2モデルだ。あたしと同じ大型のサブアームを構え、力比べを挑む気らしい。
「上等!」
 既に放り投げたサブアームは回収済み。接続を復旧させて、瞬時に動作確認を終わらせる。
 あちらも正面。
 こちらも正面。
 基本スペックはあちらが上でも、細かな調整と戦闘経験で負けてやる気はない。
 真っ正面から掴み合う。
 相手はまだサードランク。経験も浅い相手なら、パワーバランスを調整して、一気にひねり込んでやれば……
 やれ……ば……。
「……ジル?」
 あたしのサブアームが、ぎしりと軋む。
 力負け、してる?
 この、あたしが……?
「うるせえっ!」
 右サブアームの接続を緊急解除。
 力を一気にいなされたストラーフが体勢を崩し、前へとつんのめる。
「でえええええいっ!」
 そのストラーフの腹に全力で膝を打ち込んで……
「……っ!」
 膝が、動かない。
-Fatal error-
 視界が霞む。
-Fatal error-
 腕に力が入らない。
-Fatal error-
 相手が体制を立て直し、あたしの右腕を振り上げる。
-Fatal error-
 叩き付けられたサブアームが、あたしの足を打ち砕き。
-Fatal error-
 あたしはその場に、崩れ落ちる。
-Fatal error-
 口の中に広がるはずの土の味も、感じ取れなくて。
-Fatal error-
 最後に見えたのは……。
-Fatal error-
『僕に、釣られてみる?』
-Fatal error-
「……釣りは、嫌いです」
-Fatal error-
 長いロッドでストラーフの爪を受け止めた、長い髪の神姫の姿。
-Fatal error-
-Fatal error-
-Fatal error-
-Fatal error-
-Fatal error-



「……あれ?」
「どうしたの? お姉ちゃん」
 気が付けば、私の顔を一体の神姫が覗き込んでいた。小さく首を傾げ、心配そうな表情を浮かべている。
「いえ、何でも……」
 ジルの悲鳴が聞こえたような気がしたんだけど……気のせいだろう。ジルは今頃、二階でバトルの真っ最中だ。
 あのジルが戦いで悲鳴を上げるなんてあるはずないし。
 むしろ、戦ってる相手が悲鳴を上げてないか心配するほうだろう。
「大丈夫ですよ、花姫。心配してくれてありがとう」
 そう言ってアーンヴァル型の花姫の金髪を軽く撫でてやると、姫はにっこりと笑顔を浮かべてくれる。
 ああもう、可愛いなぁ……。
「姫ぇ。ココが元に戻ったんなら、袋詰め手伝ってくれるよう言ってくれるー?」
「あ……はい。すいません、静香」
 姫を撫でるのに夢中になっていると、上から苦笑混じりの声が投げ掛けられた。
 見れば、カウンターで静香はレジうちの真っ最中。カウンターに立つ私のすぐ側には、カゴから出された神姫のパーツやモーターが山積みになっている。
 私のここでの役目は、マスターの補助。会計の終わった商品を紙袋に詰めることだ。
「姫!」
「はーい!」
 そう呼んだときには、私の妹機はとっくに紙袋の口を展開済み。
 ああもう、可愛いんだから……と思うのは、後回し。私は重く硬いパーツから順に、エルゴのロゴが入った紙袋へと詰め込んでいく。
 静香がお釣りを渡すのと、私達がサッキングを終えるのは、ほぼ同時。
「ありがとうございましたー!」
 三人揃ってお客さんを送り出せば、任務完了……なんだけど。
「よ。三人とも、やってるね」
 そのお客さんと入れ替わりに入ってきたのは、見知った顔だった。


「あら、おじさま。いらっしゃい」
 十貴のお父様だ。玩具好きがそのまま大きくなって玩具ライターになってしまったおじさまは、週に三度はこのエルゴに顔を出す。
「何かお探しですか?」
 ここしばらくは、おじさまや店長さんが目の色を変えるような新製品の発売はない……はずなのだけれど。
 再来月発売の超合金壮絶魂シリーズも発表と同時に予約したはずだし、保存用の追加予約だろうか。
「ちょっと人をね」
「店長さんですか?」
「いや……」
 おじさまにいつもの歯切れの良さがない。そもそもおじさまの性格なら、用があるならすぐに店長さんを呼ぶはずだ。
「あ、雄歩さん。いらっしゃい」
 そんな事を話していると、店の奥から店長さんが顔を出してきた。
「や、久しぶり。えっと……朱美から電話、あった?」
「……ええ」
 おじさまの言葉に、店長さんも普段と違う微妙な表情。
「朱美さん?」
 誰だろう。おじさまや店長さん周りのデータベースを手繰っても、朱美という固有名詞は出てこない。
「おじさまの奥さんよ。……昔の」
「うっせ。今でもラブラブだっつの」
 静香がぽそりと付け加えたひと言に、おじさまは過剰に反応する。
 でも前に聞いた十貴の話だと、おじさまは奥さんと離婚していたはずだから……『昔の』という言葉は問題ないはずだけど。
 それに……。
「店長さんも、おじさまの昔の奥さまを……?」
「昔言うな」
「学生の頃、連れて行かれた学会で何度かね。大学は別だったけど」
 あまり思い出したくない過去なんだろう。店長さんも、それっきり言葉を濁す。
「で、もう一人来るんですよね?」
「そのはずだが……」
 もう一人?
 静香は何となく話の流れが分かっているようで、黙ったまま。分からない私は、同じく状況を理解していない花姫と顔を見合わせる。
「静香、これから何が……」
 珍しく神妙な表情を浮かべている静香が、私の問いに口を開こうとしたその時。
 二階から誰かが駆け下りてきた。
「店長! 二階で、十貴子ちゃんのジルが!」
「え……?」
 呟いた私と姫の体を、静香が無言ですくい上げる。
「ち、ちょっと、静香!」
 何が起こったか分からないけど、ジルが大変なことにって!
「いいから黙ってなさい。二人とも」
「……っ」
 見れば、花姫も不安そうな表情を浮かべている。
 ……。
「……大丈夫ですよ、花姫」
「……うん」
 確証どころか、そもそも何が大丈夫なのかさえ分からなかったけれど。小さく震える姫の体を抱いて、優しく撫でてやる。
 神姫の不安を取り除くことは、マスターの役目の一つ。姫に対してそれができるのは、姉貴分にして彼女のマスターである私しかいない。
 けど、ジルに何が起きたんだろう……。
「早過ぎるぞ……!」
 ……早過ぎる。
 店長さんは、確かにそう言った。
 それって、ジルに何か起きるって分かってた……って事?
「とりあえず、二階へ」
 多分、おじさまもそれを知っていたんだろう。真剣な顔はしていたけれど、私達のように慌てたり不安がったりしている様子はない。
「ですね。……静香ちゃん。東条学園からの人が来たら、上に案内してくれる?」
「はい」
 そしておじさまと店長さんは、私達を残して二階へと姿を消した。



 しゅっという軽い音を立て、バーチャルポッドが口を開く。
「ジル!」
 この時点で神姫には意識が戻っているはず。それなのに、ポッドの中のジルは無言で立っているだけだ。
「ジル! ジルってば!」
 いつもなら、不機嫌そうに暴れるか、崩れた笑みを浮かべてくれるはずなのに……。
「十貴子ちゃん!」
 二階にいた店の人が呼んでくれたんだろう。ざわつくフロアをかき分けて、店長さんが来てくれた。
「店長さん! ジルが……」
 ジルはボクの手の中で、無表情に横たわっているだけ。
 完全に動作を止めていないのは、かすかに焦点を変えるカメラアイの動きで分かるけど……それに感情が宿っているのか、単に電源が通っているだけなのかは、判別しきれない。
「……兆候は?」
「いえ。朝もシステムチェックしましたけど、特に問題は……」
 素体もCSCもコアユニットも、全て正常に動作していた。記憶の処理やシステムチェックのログだって、何のエラーも出ていなかったはず。
 けどさっきのジルの動きは、明らかにシステム系のエラーだった。それも、かなり致命的なレベルの。
 そんな深刻なエラーが、この一戦でいきなり出るはずがない。少なくとも、今朝まで何の兆候もないなんて……。
「まさか……ウィルス、ですか?」
 ボクの問いに、店長さんは答えない。
 代わりに来たのは……。
「はい。すいません、どいてくださーい!」
 少し甲高い、女の子の声だった。


「……あなたは?」
 人ごみの中から現れたのは、女の子ではなくて……神姫を肩に乗せた男の人だった。
 細身だけど、ボクより随分と背が高い。180くらいはあるんじゃないだろうか。
「申し遅れました。わたくし、東条学園大学院工学科網延ゼミ所属神姫、RD-04bエリアーデと申します」
 肩に乗っていた長い髪の神姫が、さっき聞こえた高めの声でそう名乗り、気取った礼をしてみせる。
 正面から見るとロングヘアに見えたけど、後ろでポニーテールにしているらしい。
 ……髪型はともかく、三角錐のセンサーアンテナや青地の素体は、ボクの記憶にない型だった。多分、ネイキッドをベースにしたオリジナルモデルなんだろう。
 って、そんな分析してる場合じゃない!
 まずはジルを……っ。
「僕は同ゼミ所属、伊小野倉太。初めまして、可愛らしいお嬢さん」
 そう思ったとき、長身の男の人がボクの手を取り上げ、うやうやしく頭を下げてきた。
「……」
 いや、あの……。
 ボク、ですね。
「良かったら、一緒にデートでもいかがはあっ!」
 あ。神姫にぶん殴られた。
「……すいません、バカなマスターで。基本的に頭の中身がエロいだけで周りに害はありませんから……あんまり気にしないで下さいね」
 エリアーデと名乗った神姫は、そう言って上品に笑ってみせるけど……。この暴虐っぷり、どこかで見た事あるぞ。
「……あのボク、これから……」
 っていうか、こんな漫才に付き合ってる場合じゃないんだけど。
「えっと、時間ないんでかいつまんで言います。その子を助けたいなら、一緒に来てもらえませんか?」
 ……え?
 ボクは掌の中のジルを見て、もう一度エリアーデに視線を戻してみた。
 彼女の瞳は真剣だ。少なくとも、ボクをからかうとか、嘘をついているようには見えない。
「でも……」
 ボクは今度は店長さんに視線を向ける。
 店長さんの技術は超一流だ。ジルのいきなりの異変だって、店長さんならきっと何とかしてくれるはず。
「いや、彼らと一緒に行った方が良い」
「店長さん!?」
 店長さんも、この人達を知ってるって事?
「だから、ぜひデートをってげふっ!」
 次に倉太さんをぶん殴ったのは……。
「急ぐんだろ、乗っていけ」
 なぜか、ボクの父さんだった。


 もう、ワケが分かんないよ!





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