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クラブハンド・フォートブラッグ
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
ウサギのナミダ
アスカ・シンカロン
引きこもりと神姫
キズナのキセキ
魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン
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えむえむえす ~My marriage story~

2014年

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デュアル・マインド
15cm程度の死闘
悪魔に憑かれた微駄男
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えむえむえす ~My marriage story~

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キズナのキセキ
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類は神姫を呼ぶ
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引きこもりと神姫
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おまかせ♪ホーリーベル
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The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
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武装神姫のリン
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戦う神姫は好きですか
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ホワイトファング・ハウリングソウル
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「マスター、朝です。起きてください」
 誰だよ・・・眠いんだっつの、目覚まし鳴ってないだろ。
「マスター、起きてください」
 アーアー聞こえなーい。つーか誰だ、寝かせろ。
「マスター!・・・もう、全然起きてくれないんですから」
 どっかの誰かが言ってたぞ、朝の五分は夜の二時間より貴重だって。だから寝かせろ。
「強硬手段です、起きないマスターが悪いんですからね・・・!」

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



「ったく・・・マスターの手にいきなりペン刺す神姫が何処に居るんだよ」
「すみません。でも、マスターが全然起きてくれないからああするしか無かったんです」
「だいたい時計見ろよ!まだ五時じゃないか・・・あと二時間寝てても文句は言われないよ」
 早朝、手の甲にシャーペン(製図用)をぶっ刺されて叩き起された挙句、起きて見ればまだ薄暗い早朝だと来たもんだ。昨日は十二時に寝てまだまだ眠いし七時に起きれば会社の始業にも余裕で間に合う。何が悲しくてこんな早朝に手を消毒せにゃならんのだ。「いいえ、もう朝です。それに早起きは三文の徳と言います。」
「三文って確か60円くらいでしょ、だったら60円払うから寝かせてくれよ・・・」
「駄目です。金銭価値なんてどうでもいいんです、肝心なのは徳を積むことです」
 忘れられがちだが三文の得では無く徳なのだ、マダレムジエン様にそう書いてあのだから正しいのだろう。諸説あるし定説も無いのだが正直僕はどっちでも良い、早起きしないし。
「徳って・・・僕は僧侶になるつもりは無いってば、仙人になれる訳でもあるまいし」
『あー、それよりさ。電話、取り次いでくれるんじゃなかったっけ』
 唐突に声、周りを見渡してみれば枕元の携帯が開いている。更に良く見れば通話画面。
「ジュダ?」
「そうでした、忘れていました。マスターを強引に起こしのは政弘様からお電話が来ていたから、というのもあるのです。ですがマスター、電話が無くても起きる時間であることに変わりはありません。できるだけ長く寝たいのであれば早く寝れば良いだけです。そもそも人間というものは太陽と共に生き、太陽に生かされるものです。ですから夜更かしなどとする必要はないのです、確かに時間と言うのはかけがえの無い物です、ですが長く活動すればそれだけ能率は低下します。適度な活動と適度な睡眠、それは勿論毎日決まった時間に行って初めて最大の効果を発揮します。それなのに貴方ときたら・・・なんですか、徹夜って!昨晩の政弘様との電話、聞いてました。貴方はバイオリズムって言葉を知らないんですか?それに徹夜の日数なんて誇ってどうするんですか!むしろ恥じてください!古来より夜に生きるのは魔の物と相場が決まっているじゃないですか!貴方は仙人になれないとか言ってましたけど悪魔にでもなる心算なんですか?そんなの私は認めません、絶対に認めません。ですから私が居る限り徹夜など認めません、毎日規則正しく生活して頂きますからね!解りましたか!?」
「『はい、すみませんでした』」
「宜しいです、では電話をどうぞ」
 ありったけ喋った彼女が充電スタンドから携帯を外して突きつけてきた。散々に恐ろしいので素直に受け取り「ありがとう」と頭を下げておいた所、少しは気が晴れたらしく般若のような面だった(って言ったらまた般若のように怒り出すのだろうが)のが和らぎしかめ面クラスまで戻っていた。内心ホッとしつつ電話に出る。
「もしもし」
『正直すまんかった』
「許さない。なんだってあんなにきっつい性格にしたんだよ・・・」
『ぶっちゃけ予想外、あんなに凄いのになるとは』
「は?お前がプログラム組んだんじゃないのか?」
 そもそも神姫の人格と言うのは陽電子頭脳が行うプログラムの実行結果に過ぎない、神姫はあくまで機械であり人間ではない。機械であれば動作にプログラムが必要なのは当然なのは言うまでも無く、その作成はプログラマがするのは必然だ。確かに神姫の人格が変化する事はある、オーナーの下へ行って稼動していけば経験が溜まる、その経験のフィードバックを行い人格が変化していくのは自然な事だ。だがこの場合彼女の稼働時間は一時間程度しかない、起動してからなら休眠していた時間を含めても五時間強といった所だ。こんな短時間でここまで劇的な人格の変化は起こらない、そもそもベースとなる人格から大きく逸脱する事はほぼ無い。つまりそれはプログラマの作った結果であるのだからそのプログラマが知らない訳は無い。
『いやね、面白い事思いついてさー。実は姫さんの人格の構築は姫さん自身にやらせたのよ』
「は?え?何それ」
『有無、説明してしんぜよう』

・・・

 つまりはこうだ。起動前の彼女には区切られた記憶領域があって、そこには記憶が格納されていた。起動に失敗したらログを取ってからフォーマットするのだがその領域だけは消去されないようにプロテクトを施していたらしい。起動に失敗してるのに何故記憶があるのかと言うと、起動テストやらなんやらを隠し撮りしていたらしい。新しいデータを毎回OSに仕込んで僕に渡す、そうしたら起動テストで彼女の電源を入れる度に格納される。更にエラーで起動が止まってしまい、且つ聴覚センサーが生きているときは僕らの会話なんかを録音したりしていたらしい。それに加えプリセットされている知識から人格構成に役立つ知識をピックアップして加工、それ等を基本となる人格に組み込んで彼女の人格を構成した、と。
「はぁ・・・」
 ただでさえジュダから長い長い説教貰ったのにべらぼうに長くて無駄がやたらと多くて脱線しまくるあいつの話を聞かされて正直僕は疲弊していた、うんざりもしていた、会社を忘れて寝たかった。
「なんでその努力をもっと別のところに使わないのかなぁ・・・」
『だって楽しかったんだからしゃーないじゃんよ』
「何時から仕込んでた?」
『確か三度目の起動試験の時、あんときのOSって実はこのプログラムとパーテーション作るプログラム追加しただけだったんだよねー』
「だけだったって・・・道理で同じ所でエラー出す訳だ・・・」
『あんときのお前すっげぇしょんぼりしてたかんな、あれが最初の記憶だと思うぜ』
「待て!彼女はそんなの覚えてるのか!?」
 だとしたら嫌だ、相当に。なんせいい歳した大人が頭抱えて落ち込んで、いじけて支離滅裂な事喚いてるのが最初の記憶だなんて・・・。
『大丈夫、そのデータは完全に起動したら自動で削除されるから姫さんは覚えてない。万が一削除されなかったとしても姫さんはその領域にアクセスする権限を持って無い。まぁ、その検査は今日会社でするつもりだからまだどうなったかわかんねーが』
「そうか・・・良かった、安心したよ」
『残ってたら再生して姫さんにも見せてやるか』
「止めてくれ・・・僕が写真とか嫌いなの解ってるだろ」
『ちぇー、面白そうなのに。ま、消えてるさ。俺を信じやがれ』
「はいはい・・・ふぅ」
 いい加減に気疲れしたので煙草を吸おうと探すが見当たらない、昨日の夜吸ったので机の上にある筈なのだが。
「あれ・・・無いな」
『ん、どうしたよ?』
「いや、煙草が見当たらないんだ・・・ジュダ、煙草何処にあるか知らない?」
 朝のお祈りを終えて暇を持て余してしまい部屋の中をふらついていた彼女に尋ねる。お祈りしてたのはあいつが酔狂にも聖書をプリセットしたから予想通りクリスチャンになったらしい。
「煙草、ですか。あれなら私が処分しました」
「・・・はい?」
「ですから、処分しました。ゴミ箱にあります」
「・・・今日は厄日だ、間違い無い」
『ついてねーな、オイ』
「お前のせいだろう!全く・・・」
 ゴミ箱を見れば確かに煙草が捨ててあった。ご丁寧に一本一本吸えない様に葉とフィルターを分けて、なんの恨みがあるのかは知らないが葉の部分なんか巻紙を裂いて別々にして箱に詰めてあった。
「毎朝の日課が・・・目覚めの煙草が無いと起きれないのに」
「そんな日課はいりません、煙草は毒でしかありませんから。それにあの臭いは非常に不快です」
 また説教が始まりそうだったので手をひらひら振ってからベッドに腰掛ける、昨夜すぐに消した煙草に淡い期待を寄せてみたが灰皿には灰しか残っていなかった。
「あー、もう。今日絶対殴るからな」
『貴様の拳などー我には届かぬわーぐははははー』
「手加減しないからね、決定した。変更は認めない」
『このパンチはーみっ見えないー速過ぎるーこれが伝説のペガサス流星ぎゃー!』
「はいはい。で、今更だけど何の用事だったの?」
『あー、壮絶に忘れた。ちっと待て、思い出す』
「二秒で思い出せ、煙草が吸えなくて無為な時間がやたらと苦痛だから」
『・・・・・・・・・あー!はいはいはいはい、思い出した。さっき貰った姫さんの初期起動レポートの解析済んだ、異常は全く無し、オールグリーン』
「そうか、良かった。とりあえずは安心だな」
『んだんだ、とりあえずな。予想外のエラー出るかもしれないし未完成で制限かけてるプログラムもあるからちょくちょく更新はするけどよ』
「それはしょうがないよ。僕の担当部分は前部仕上がってるから大変なのはお前だけだ、遊んでた報いだ」
『それは酷いんじゃな~い~?少しはぷりちーらぶりゃーな愛する俺様を手伝うとかそんな発想は無いのかよー』
「無いね、ミリ単位も無い。そもそも僕はソフト方面はからっきしなんだから」
 流石に最低限の知識はあるけどそんな知識じゃOSから作るようなあいつの前ではお荷物にしかならない、手伝ったところで効率が下がるのは目に見えてる。忘れがちだがこいつは研究畑に居れる、それも認めたくない程一流のプログラマなのだ。
『ケチー。ま、いいや。俺は一眠りしてから会社に行くよ、報告は以上!解散!』
 ブツッ。こっちの返事を待たずに電話を切る、寝るとか言ったら僕が寝るなって言うのは目に見えていたんだろう。携帯を置いて軽く伸びをする、いつの間にか窓が開いていた。きっと彼女が作業机にあったAAU7を使って開けたんだろう。あれにはフロートシステムの試作品が組み込んであったから静粛性は充分だ。気付かなかったしても無理は無い。ベランダに出て早朝の新鮮な空気をいっぱいに吸う、煙草があったら尚気持ち良いだろうなとか言ったら彼女は怒るのだろう。少しばかりしか一緒に居ないのにその顔が想像できてしまい軽く笑った。一階に降りたであろう彼女が怒る前にさっさと準備をしようと思い、早速に着替え始めた。



 果たして一回に降りてみれば彼女はリビングに居た。
「改めておはよう、ジュダ。ごめんね、暇だったでしょ」
「いいえ、そんな事ありませんよ。この子のお陰でお家の中も見て回れましたし」
 この子、とはAAU7の事だろう。上手にくるりと後ろを向いて見せた。どうも気に入ったらしい、いい事だ。彼女の基本装備にはフロートシステムの完成版が組み込まれているから気に入って貰えたならきっと基本装備も大丈夫だろう。
「それにほら、見てください。簡単ですが朝食も用意できましたよ」
「ん・・・ほー、凄いじゃないか」
 リビングのテーブルには椅子に隠れて見えなかったが朝食が並んでいた。トーストにサラダという簡単なメニューだが変なところも無く、普通に美味そうだった。
「いえ・・・あ、でも・・・」
「ん?どうしたの?」
「あのっ、冷蔵庫開けられなくて・・・ドレッシングやマーガリンとかが取れなくて。チルド室は開いたんですけど・・・その、半端でごめんなさい」
 恥らう彼女を初めて見た、そう言えば起動させてから怒らせてばっかりだったな。自分で作っておいてなんだがちょっと可愛い。
「気にしなくていいよ、確かに神姫の腕力じゃ開けにくいのは確かだし」
 冷蔵庫の扉って言ったら内側にも物が詰まってるのが常だし、我が家では特に飲み物なんかのストックが詰まってるから重いのは当然だ。チルド室が開いたのは単に野菜が少ないだけだからだ。冷蔵庫からマーガリンを取り出してからキッチンで塩を持って彼女の前に置く、きっと最後までやりたい筈だ。
「後は宜しく。解ってるだろうけど塩はサラダにね、パンに振るのは好きじゃないから」
「はい。ドレッシングじゃなくて良いんですか?」
「家は父さんも僕も塩で食べるんだ、あんまり作らないけど。だからドレッシングなんて気の利いた物は家には無いんだよ・・・っと、コーヒーまで飲むなとか言わないよね?」
 キッチンでお湯を沸かしながらインスタントコーヒーの瓶を取り出してて気付いた、嗜好品は全部駄目とか言われそうな気がして。どうやら煙草惨殺事件は僕のトラウマになったようだ。
「そこまで酷いとお思いなんですか・・・ショックです」
「いや!そうじゃないんだけどちょっと不安になって・・・ごめん」
 さっきまで笑ってたのに急にしょんぼりされると流石に焦る、こんなんだから彼女できないとか言われるんだ。反省。
「いいですよ。飲み物に関しては凄く強いお酒飲んだりしない限り何も言いませんから安心してください。飲みすぎとかは注意しますけど」
 そう言ってクスリと笑う彼女はやはり愛らしかった。ずっと怒らせてばっかりで怖いイメージしか無かったがこっちの方が本当の彼女なのだろう。良かったな政弘、打撃Lv1ダウンだ。
 その後、彼女は黙々とマーガリンを塗り、僕はお湯が沸くまで新聞を読んでいた。これまた彼女がポストから取って来たのだから凄い。
「うっし、準備完了。頂きま」
「待ってください!」
「・・・あ?」
 今まさにパンに齧り付こうとしてたら何故か彼女からストップがかかった。きっと凄い間抜け面してるんだろうな、僕は。「お祈りが済んでません。さぁ、一緒に神様に感謝を」
「マジ?」
「はい。食事の前にお祈りは基本です」
 こんなところまでしっかりクリスチャンですか・・・些か辟易したが昔は良くやってた事だし、僅かな時間で済むから気にしないでおこう。
「分かったよ。じゃ、お願い」
「はい・・・では、天にまします我等が父よ、願わくば御名を崇めさせ給え。御国を来たらせ給え、御心の天に成る如く地にも成させ給え・・・」
 懐かしいなぁ・・・なんとなく彼女の声が一段と美しく聞こえる。まるで鈴を振った様な、とか自然に言ってしまいそうになる。普段よりトーンを抑え、抑揚を抑えて一心に祈っている女性の声はこうも美しく聞こえるものかと思ってしまう。
「・・・国と力と栄とは限りなく汝の物なればなり。アーメン。」
「アーメン」
「さ、頂きましょう」
「うぃ、頂きまーす」
 当然だが彼女は食事をしない。彼女の胸部は特別なパーツの密集体であるから機構を組み込むスペースが無い。神姫が食事する事を可能にした装備があるのだがそれも他社の技術、おいそれと組み込む訳にはいかないしその必然性も感じないしな。そういうのは愛玩者に任せる。そうなると彼女が祈る必要も無いのだが。
「あの、マスター」
「ふぁい」
「感想を頂きたいのですが・・・」
 口をモゴモゴさせながら食べてたら彼女がこっちを見ながらもじもじしてるからなんだと思ってたらそういう事か。口に詰めた分を急いで嚥下してしまう。
「ん、うん。普通に美味しいよ」
「普通、ですか」
「あ、いや。そういうアレじゃなくてね・・・なんつーかほら、予想よりちゃんとしてたからさ」
 我ながら苦しい言い訳な気がする。しかしパン焼くのはトースターだし、野菜は切って洗うだけだから農家の実力だ。食パンは普段表面を軽く焼くだけだからいつもより焼けすぎてるんだけど普通に時間通り焼けばこうなるのは当然だし、別に嫌な訳でもない。野菜を切って洗った努力は当然評価してるが丹念に洗ったとしても味が良くなる訳でも無いから評価が普通になるのは当然なのだが。
「・・・マスター、女性に好かれないでしょう?」
「んぐっ・・・何故分かった」
「女性から手料理を振舞われたら一段階上の評価を下すのが好ましい男性の反応です。それを普通だなんて捻りの無い・・・それとも、マスターは私の作った朝食にご不満がおありでしたか?」
「無いです、断じて無いです」
「ふふっ、なら宜しいです。今回の事は大目に見ますからさっきの話、覚えててくださいね」
 また説教が始まるのかと思って引き攣った笑い顔で否定したのが功を奏したのか、彼女はそれ以上何も言わずに僕の食事をニコニコと見ていた。見られてて食べ辛い等とは口が裂けても言えない。

「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
つつがなく食事も終わりゆっくりとコーヒーを嗜む。なるほど、こんな時間が取れるのは早起きの特権って訳だ。食器を片付けようとした彼女を制してからテレビを点けてニュースを見る、朝のニュースも日課だ、これをしないと全く時事に疎くなるから社会人になってから習慣付けた。映画とゲーム以外でテレビを使わない僕が毎朝テレビを点けるようにするには相当な努力が必要だったが。
 煙草煙草・・・と何時も煙草が入ってるポケットを弄ってしまい例の如くしょんぼりするがコーヒーも切れたのでいい加減に出社する事にした。食器を洗い、乾燥棚に適当に並べてから洗面所へ、歯を磨きつつ鏡で寝癖をチェック、終わったら髭を剃って準備完了。
「ジュダ、出かけるよー」
「イエスマスター、会社に行くんですね?」
「ん、そうだよ。ほれ、フライトユニット外して」
 背中にマウントされたAAU7を外して靴箱の上へ、これで帰ってきたらすぐに装着できる。彼女をスーツの胸ポケットに入れてから外へ。
「苦しいだろうけど我慢してね、行って来まーす」
「行って参ります」

 はてさてどうして彼女が驚いていた。
「あの、マスター」
「何?」
「これで・・・出社するんですか?」
「そうだけど」
「私てっきり車とかバスとか電車とか、普通の手段を使うものだと思ってました・・・」
「あー、紹介しよう。僕の愛機”グレート山田さん”だ」
 驚くのも無理は無い、ガレージに鎮座するのはヤマハVmax12。今時の電動バイクなんかだったらまだ驚かれなかっただろうが、美しい曲線と無骨だが美麗で強靭なエンジン部、そして何より排気量1197ccを誇るエンジンに搭載されたVブーストシステム。中学生の頃に近所の中古バイク屋で一目惚れして以来頑張ってバイトして貯金したお金で大型二輪免許取得直後に購入して以来5年程乗り続けている。今日も赤いボディが眩しいぜ・・・グレート山田さん。
「山田さん・・・?こんなに凄いバイクが山田さん!?」
「否!グレート山田さん、だ!」
「どっちでも良いですけど・・・名前、もっと素敵な名前付けられなかったんですか・・・」
「なんだって!一体何処がおかしいんだー!!」
「ネーミングセンス皆無ですね・・・私の名前は奇跡の産物ですか」
「いいじゃん別に!良く言われるけどさ・・・だー、もう!行くぞ!」
 スーツでこいつに乗るのは甚だ似合わないと思うのだがそうも言ってられない、スーツのボタンを確認してメットを被りゴーグル装着、エンジンを始動させ、回転数が上がって行くと否応無しにテンションも上がって行く。
「ジュダ、今何時?」
「はい、午前6時38分です。始業は9時でしたよね?」
「6時半・・・ふふ、6時半かぁ・・・6時半!素晴らしい!」
「あの・・・マスター?凄く嫌な予感がすると言うか確信に近くて怖いのですけど・・・道路交通法は当然知ってますよね?」
「寄り道して行くぞ!しっかり掴まってな!」
 一気にフルスロットルにしてクラッチを叩き込むと同時にブレーキを開放、獣の如き咆哮を放つと一気にガレージを飛び出す。一気に風を切る感覚に興奮しながら車通りの少ないルートを辿るべく走り出す。自宅も職場も郊外、加えて早朝では車通りの多い道はそんなに無い。興奮に跳ねる心臓のリズムを感じながらぐんぐんと加速させる。何処か遠い所で悲鳴が聞こえた気もした。



 久しぶりに飛ばした愛機を愛でるように緩やかに駐車場に入る、かれこれ30分程の間散々飛ばしたがまだ走り足りない気分は拭えなかった。でもまぁ気持ちよかったから気にしない。まだ燻ぶる体の熱を逃がすように深呼吸、エンジンを止めてダミータンクを撫でる。道具でしか無いバイクだが僕は親愛を感じている、だから労うのは当然の事。
「いやー・・・気持ち良かった!な、ジュダも気持ち良かったでしょ。この限界の世界は一回味わったら病み付きになるよなぁ!あの恍惚の世界に一生居たくなるわー・・・」
「そんな危険な快楽要りません!麻薬中毒か何かですか貴方は!」
「そう!中毒!そうなんだよなぁ・・・もう後戻りできないこのエクスタシー!駆けるこいつの美しさにはヘラでさえ嫉妬を忘れるさ・・・」
「そんなのどうでもいいです!私がどれだけ怖い思いをしたか解ってないですね!?喉が潰れる程叫んだんですよ!もう止めてって!!」
 昂ぶった心が収まらずにいたから判らなかったが彼女は震えていた、余程怖かったのか泣き顔・・・と言うかとっくに泣いてる。「あー・・・えっと、なんだ、ごめん。そんなに怖かったなんて気付かなくて・・・」
「私いっぱいいっぱい停めてって言ったんですよ!一生懸命マスターの事呼んでだのに・・・叩いても気付かないで一人だけ嬉しそうに!私ホントに死ぬかと思ったんですから!!」
「ホントごめん、反省してるよ。バイクに乗ってるとつい熱くなっちゃって・・・それに風とエンジン音で聞こえなくてさ」
「言い訳は要りません!私聞きましたよね!?道路交通法知ってるかって!全然解ってないじゃないですか!!公道なのに200キロ以上平然と出すとか頭おかしいです!ネジ全部抜けてるんじゃないですか!?むしろ脳髄入ってます!?教習所からやり直してください!!」
 酷い言われようだがしょうがない、それだけ怖かったのだろう。甘んじて受けなければならない、反論なんかしよう物なら日が沈むまで説教され兼ねない、むしろ確実にされる。
「ホント悪かったよ、もう二度と君と一緒の時には飛ばさないから」
「信じません!薬物中毒者みたいな顔して走る人の言う事なんて誰が信じますか!」
「いやホントに、絶対飛ばさない。誓うって」
「嘘!絶対嘘に決まってます!真実なんて1ピコグラムも混じってる訳無い!」
「どうしたら信じてくれるんだ・・・」
「バイク捨てるなり壊すなり売るなりしてください、そうしたら信じてあげます」
「それは・・・ちょっと」
「じゃあ信じません!信じるものですか!全く・・・貴方がそんな人だなんて思っても見なかった!真面目そうだし父親みたいな物ですし安心していた私が馬鹿でした!こんな変態みたいな速度狂だったなんて!」
「むー、解った。今度からバイク乗るときにはナイフでもライトセイバーでもなんでもいいから武器持って乗ってくれ。僕が話を聞かなかったらそれでグサっとやってくれて構わないからさ・・・」
「無理です!逆に転倒したりしたらどうするんですか!自殺するのは勝手ですけど私を巻き込まないでください!大体私は修道士です、刃物なんて使う訳無いじゃないですか!」
「それはそ・・・あのさ、ちょっと聞いてくれる?」
「なんですか!言っておきますが絶対に信用しませんから!」
「いやその・・・冷静に周りを見回してみてくれないかな」
「一体なんだって言うんですか!周りがそん・・・な・・・に・・・」
 気付いたらいつの間にかエントランスに居た、喧嘩しながら無意識に歩いてきたらしい。更に不味い事に結構な人数が居た、皆が皆遠巻きに僕等を見て笑っているって最悪なオマケ付。中にはムービー撮ってるらしく携帯を構えた人まで居る。その状況に気付いた彼女が目の前のデスクの上で振り向いた姿のまま彫像になっていた、僕も岩かなんかになってしまいたい。
「いや・・・その、あははは。お騒がせしてすみませんでした」
 謝ってみた所で火に油を注ぐだけだった、一気に笑いが沸き上がり野次まで飛んでくる始末。どう収めたら良いか全く思いつかない。走ってた時とは全く違う状況だが心臓の鼓動が聞こえるくらいに跳ねている。
「いやー、朝から痴話喧嘩だなんて御暑いこって。起動してから数時間だってのに一体何処まで進展したのやら」
 政弘だ。ニヤニヤしながら歩いてきてこんな事を言う。お陰で更に場が盛り上がる、僕の怒りも湧き上がる。今抱えてる全ての感情が矛先を見つけた。
「女性に縁の無いお前でも神姫は口説けるのな!いやー、兄ちゃん安心しちまっぶべぇ!」
 一閃、ニヤケ顔に拳骨を叩き込む。それはもう全力で、あらん限りの怒りを込めて。
「ってぇ!何すんだお前!本気だったろ!全力投球かお前!殴ったね!親父にも」
「死ね!今すぐ死ね!遠慮せずに死ね!さぁ死ね!2秒と間を置かずに死ね!!」
 更に笑いが沸き上がるのは自明の理だった。



「つーかよ?俺思うのよ。親友の顔面を予告もなんも無しに全力でぶん殴るクソ野郎が果たしてこの世に存在して良いのかと」
「今朝殴るって言った、大体あの状況であんな野次飛ばすようなアホは友達として不適切だと僕は思う。つまり親友でもないからその条件に当てはまらず僕の存在は否定されない事になる」
「そんな予告された覚えはねぇ!つーかそんな予告されたくねぇ!」
「君より堅実な僕の海馬が記憶してるから間違い無い、言った、確かに言った。全力で殴る予告した」
「な、なんだってキ○ヤシ!ハッ!もしや殴られた衝撃で記憶が抜けたのでは!?ノストラダ」
「うっさい黙れ馬鹿」
 朝の騒ぎをなんとか収め、警備主任のおじさんに非常にソフトタッチで怒られて、医務室で政弘の消毒して貰って、室長の所に行って平謝りして、現在に至る。これから所長に彼女を見せに行く事になっている。因みに彼女は石化が解けてからずっと赤面して俯いたまま僕の掌に収まっている。
「全く・・・今日は厄日どころか大殺界だ、天中殺だ」
「アンタ死ぬわよってばっちゃが言ってた!」
「お前が死ね」
 こんな不毛な会話をしてたらすぐに所長室まで来てしまった、物凄く気が重い。硬い扉をゆっくりと二度ノック。中から返事が返ってきた。
「失礼します」
「しっつれーしゃーっす」
「し、失礼します・・・」

「おはよう、遅かったな馬鹿共」
 軽い木製の扉の向こう、虚飾の欠片も見えない質実剛健な空間。そこの大きなデスクの向こうにおわすのが我等の鹿島技術研究所所長、鹿島美和女史である。無秩序に伸ばしたぼさぼさの茶髪を後頭部で全部まとめただけの頭をボリボリ掻きながらパソコンと書類の山から顔を上げる。こころなしかニヤニヤしている気がする。
「おはようございます所長」
「美和ちんおっはろー」
「おはよう・・・ございます」
 やっぱりニヤニヤしてる、何なんだ。この人の事はさっぱり解らない。元々研究筋だった父親が当時の同僚数人と退職して設立した鹿島研、一時経営が傾いたこの研究所に引き抜かれてやって来た彼女は瞬く間に再建、武装神姫開発計画の末席に居座ると先進技術を吸収し各種装備の基礎研究で更なる躍進を足掛かりに規模拡張を行いプロジェクトから離脱。その後蓄積したノウハウを生かして新技術を次々と開発、ライセンス化して各社へと提供する事により安定した地位を確立して行った。主にソフト面での開発力が強いこから制御プログラム系に関しては業界内でも職人の集合企業として名を馳せている。”制御プログラムの町工場”と呼ばれ、馬鹿にされているようで最大限の賛辞を受けるこの研究所の主である彼女は齢三十(うっかり言ってしまうと非常に恐ろしい事態になるのだが)にして各企業の重鎮からも一目を置かれる存在である。かつての商社勤務経験を生かした経営能力は言うに及ばず、父親から受け継いだ研究能力も優れており、先見性、奇抜な発想と相まって屋台骨と言える存在なのは確かだ。だが天は二物を与えず、唯一の欠点とも言えるその性格の悪さもまた一入。物凄く短気なのは当然として果てなく怠惰なのもそうだ。彼女の部屋を掃除しに行った清掃業者は部屋だと油断して二人で掛かった所、入って数分で断念。増援を引き連れてて突入した所運悪く帰宅した彼女に遭遇、あろうことか不審者と間違われてフルボッコにされてしまっただけには及ばず大人数であることを説教されてしまい、不幸にも選ばれてしまった殉職者・・・もとい清掃業者が泣きながら丸二日間不眠不休、彼女の監視下で掃除させられたと聞く。業者の方は一日寝込んだ後に退職したとか。これが我々の言う”人外魔境の二日”事件。更には飲むと性格が更に悪化する、~上戸と呼ばれているようなあらゆる特性がランダムに発現するから恐ろしい、その上酒豪であるから飲み会はサバト、上司であるから呼ばれれば行かざるを得ないのがミソ。三年前の忘年会、例に漏れず全員で飲みに行った際に事が起こった。へべれけに酔っ払った政弘が所長と何故か意気投合、二人で四次会まで強行してから更に政弘の家での宅呑みに移行。次の日に政弘宅で目覚めて酔いの抜けた所長にいきなり半殺しにされ全治二週間の憂目を見る。が、休暇中もしっかり仕事させられていた。これが”狂乱の贖罪”事件。他にも多々あるのだが割愛。
「聞いたぞ馬鹿共、朝からやらかしたそうだな」
 もう届いてたのか、やけに楽しそうだと思ったらやはりそうだった。ジュダも心なしかさっきより赤くなってる気がする。
「美和ちん聞いてよー、こいつちょっと冷かしてやったらいきなりぶん殴ったんだよ。だから俺被害者?ノット加害者?」
「黙れ馬鹿一号、お前は存在が罪だ」
「マイガッ!酷いにも程がある!」
「それはさて置き、完成したそうじゃないか」
 もう彼女の興味はジュダに移っていた。持てる技術を結集した機体だ、気になるのも当然だろう。
「はい。彼女がジュダ、次世代複合武装開発計画のアーキタイプ一号機です」
「ほぅ・・・これが」
 次世代複合武装開発計画ってのはぶっちゃけ企画を通すためにでっちあげた計画だ、名前に深い意味は無いのだが全身に装備された武装全てを単一の企画で統合し、制御する神姫の武装システムに相反する計画だ。何の因果か知らないが神姫の新作は二機一組で発表する事になってるからもう一機開発しろと言われているから一号機だ。
「えと、私の事・・・ですよね?」
「お前以外に新型の神姫など居ないだろうが。で、何処まで行ったんだ」
「はい、ハード面の開発はほぼ完了しました。残すはマイナーチェンジと武装の改良のみです」
「違うだろ朴念仁。お前たちの関係は何処まで進んだのか、と聞いたんだ」
「なっ・・・!何言ってるんですか所長!僕はべつにそんな!」
 やはりそうだったのか、はぐらかして見たが効かないのは自明の理。見ろ、ジュダが茹蛸のようになってるじゃないか。正直僕も穴があったら入りたい。
「良いじゃないか、別に神姫にナニしようが私は気にしないぞ。お前は私の男ではないのだし」
「じゃあよ、美和ちん。もし俺が神姫ラヴな愛玩者だったら怒ってくれたりすんの?」
「するかクズ、消滅しろ」
「よよよー、俺との事は遊びだったのねー」
「黙れカス。それより、お前等朝の件は報告書にして提出な。期限は明日まで」
「うへぇ、俺は被害者だっつーのに」
「・・・はい」
 生半可な報告書じゃまずアウトだろうな、最低でも時系列順に出来事を主観を省いて羅列して、主観を含めた観察を書くようだろう。僕は朝の騒動あたりも書かないと再提出食らうだろう。
「楽しみにしているぞ・・・さて、一号機はもう戦闘が可能なのか?」
「ジュダ、です。武装のマッチングテストが済み次第戦闘可能になります」
「一時間で終わらせろ。テストが済み次第模擬戦区画まで来い、実験施設は掲示板で確認しろ」
「はい、では失礼します」
「まったねー、美和ちん」
 一時間ではギリギリだろうから直ぐに所長室を後にする。さて、仕事だ。



「済まなかったねジュダ、疲れただろうがもう一仕事してくれ」
 早速に政弘の研究室に移動するとメンテナンスクレイドルに寝かせて装備の換装を始める。先ほどより彼女の顔色が優れない気がするのが心配だが。神姫にもコンディションがある。メンテナンス、ハードのコンディションは勿論だが精神的なムラもある。擬似感情とはいえ感情は感情だ、人間のそれを模倣して作られた物なのだから昂ぶる時も落ち込むときもある、それが性能に影響する事は開発当初から懸念されていた事だし早々に実証されている。
「大丈夫です。コンディショングリーン、バッテリー残量も交戦可能量を充分に上回ってますから」
 そうじゃないんだがね、生真面目な彼女の事だから精神面を指摘しても大丈夫だと言うのだろう。デスク脇からアタッシュケースを取り出すと早速に開く、中には彼女の装備が入っている。そう、彼女のために作られた僕の最高傑作だ。
「さて、換装を始めよう。ジュダ、痛覚をカットして腕部パージ。政弘はモニタリングと制御プログラムの再確認を」
「もう始めてるー、装備し始めてくり」
「パージ完了、ハードポイントの開放も済みました」
「二人とも仕事が速くて助かるよ」
 苦笑してしまう。時間が少ないので装備を始める。先ず特殊腕部を装備する、ハードポイントと特殊装備を持つ腕部だ。ジョイント部を確認、汚れや傷があるとまずい最重要パーツだから特に念入りに。接続をした後に政弘に確認、エラーは無し。続けて装甲を取り付け始める。開放させたハードポイントに次々と接続する。ヘッドギア、アーマーローブ、ブーツを装着すると修道士のシルエットを模った彼女の本来の姿となる。最後に武器を携行させて完了だ。
「ジュダ、テストシグナル送信。連動を確認して」
「プログラムエラーは無いぞ、流石俺様」
「テストシグナル送信完了、全装備の連動を確認しました」
 これで装備の確認は終了した、後は実際に軽く動かしてみて動くかどうかを確認するだけだ。
「ジュダ、痛覚を復帰、テストモードで武装をアクティブに。データケーブル接続したら動いてみて」
「はい・・・ケーブル接続確認。全武装テストモード起動。あ・・・凄いですね、体が凄く軽いです」
 ジェネレータの駆動音が低く鳴りエネルギーフィールドが発生する。新型のフィールドジェネレータを背部に搭載し限定斥力場を全周囲に展開することが可能なシステムだ。機体周辺に展開した斥力場により実弾を止める事や実体剣の剣戟をほぼ無効化することが出来る、強固な装甲をもう一枚重ねているのと同等の防御能力がある。しかし光学兵器は素通りさせてしまう事や前方向に出力を傾けている為に後方の防御能力が余り高くない事等改良の余地はまだある。
「体が軽くなるのはフィールドの影響だよ、パワーアシスタント機能も正常に働いているようだね」
「はぁ・・・凄いです」
「体に違和感はない?特に腕部とか」
「あ、はい。特にそんな感じはないので大丈夫です。」
「よし、じゃあ聖痕の調整をしよう。掌見せて」
「掌?あ、このスロット・・・」
「君の最大特性のための装備だよ」
 掌中央に開いた小さな孔、これこそが彼女の彼女たる所以である。
 スティグマシステム
 従来の神姫の常識を覆すシステム。三つしか搭載できない筈のCSCを五つ搭載するための拡張スロット、機体特性増設オプションだ。CSCとは特性の追加と性格の決定をする要素である、また演算素子としての特性を持つ事から装備数を増やせば単純に特異な事が増えて頭の回転が良くなる。反面、CSCと追加CSCを使用するための装備が使用する電力が増加する事、同じ理由で通常は素体で補いきれる発熱量が増加する事から戦闘時間の低下を招く事になる。正直まだこのシステムの実力は判り切っていない、シュミレーションではメリットがデメリットを上回る結果が出ているが所詮はシュミレーションの結果だ、実稼動での効率は未知数なのが現状だ。更にメインプロセッサ・・・陽電子頭脳に与える負荷に関しては未知数だ、特に継続稼動させた際の影響は起きるかどうかすら判らない。
「それじゃあCSCのセットアップを行うよ」
 用意した攻撃特性系CSCを二本、左右の掌に挿入する。あとは処理を待つだけだ。
「政弘、セットアップ補助を頼むよ」
「ロンモチ、もうやってる」
 再びメンテナンスクレイドルに寝たジュダがCSCの最適化と着床を開始する。特別なプログラムを常時走らせて稼動状況を監視しているのでパソコンのモニタに現在の状況が表示される、僕が見ても良く解らないのだが政弘がなんともない様子だからまぁ大丈夫の筈だ。
「モニタリングは俺がやるからお前は少し休んでおけよ、ハード系は終わったろ?」
「いや、大丈夫だ。それに彼女は僕達の作品だろ」
 僕が伸びをしているのに気付いた政弘に気遣われてしまう、そんなに疲れているように見えるのだろうか。
「なんだかんだで心配か。まー、気を詰めずにな」
「おっけ、信頼してるよ」
「まーかしてちょ」
 さて、せっかくだから少し気を抜いておこう。ついいつもの癖で煙草を漁るが今朝彼女に惨殺された事を思い出して苦笑してしまう。仕方ないのでコーヒーを飲む事にした、濃いだけのインスタントコーヒーだが無いよりはマシだ。壁際に常備してあるドリンクサーバーから二杯出して口をつける、もう一杯は政弘のぶんだ。
「おぅ、さんきゅ」
「調子はどうなの?」
「んー、問題は特に無いよ。たださっきのデータ比較してたんだが予定値よりちーっとばかし低いっぽい」
「予定出力出てないの?」
「そうなんだよ、フィールドジェネレータの稼働率も微妙。でもさ、機械的なトラブルとかじゃ無いかもしれないな、単純に姫さんが慣れてないから出力のバランス取り難いとかかも。だから調整すんじゃなくて慣熟訓練してみるのが良いだろうな」
「そっか・・・そういやこの装備って本部の審査通ったの?この前出すって持って行ったじゃん」
 どのような武装も一旦神姫BMAに預けてレギュレーションを満たしているかどうか検査する必要がある。許可を貰わずにバトルすればそれは違法バトルとなる。特に攻撃兵器に関しては出力制限が厳しい、草創期に多発した自作武器による神姫の破壊が大きな理由となっている。当時から禁止されてはいたが頭部及び胸部への直撃による重要部位の破損で神姫が機能停止する事が多発したためにバトル離れが進んでしまった。これの対抗策として神姫BMAが施行したのが出力制限と武装の検査制度の施行である。これにより事故は激減、更にバーチャルバトルシステムの発表により武装データをシステムに反映する必要が発生したために現在まで変わらずに使われている。
「それなんだがよー、通らなかった」
「はぁ!?ちょ・・・それってこの装備使えないってことじゃん!」
「いや、あれなんだ。問題あったのは武装の出力だけなんだ」
「それって一番まずいじゃんか!お前の言った通りのスペック出したってのになんだってそんな・・・」
「いやー、企業用レギュレーション厳しくなってるの忘れててよ。民間用の企画で仕様書書いたから微妙にオーバーしたんだよね」
「お前ほんと馬鹿だわ・・・じゃあ何、作り直す必要がある訳?」
「大丈夫、俺がリミッタープログラム仕込み忘れただけだから」
「死ねばいいのに。ったく勘弁しろよ・・・」
「わーるいわるいー、今晩中に仕上げるさ。明日にはライセンスも発行されるって」
「ならいいけど・・・っと、終わったみたいだね」
 モニターにセットアップ完了のシグナルが踊る、これで準備は完了した。
「さて、それじゃ時間もあれだし実験施設に移動しようか。ジュダ、動けるよね?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃ肩にでも乗って。政弘は行くよね?」
 未だにキーボード叩いている、行かないって事はないだろうが。如何にソフト担当があまりする事が無いと言えど人情的に来て当然だ。
「いや、パス」
「ハァ?何言ってんのお前」
「だから俺は行かないって」
「そこまで馬鹿だとは終ぞ思ってなかった、ありえない」
「ちげーぞ馬鹿、俺はこっちでデータ解析するんだよ。研究室に着いたら回線開いてくれ」
「早く言え馬鹿。分かった、じゃあ待っててくれ」
「んむ、待ってるぞ」
「じゃあ行ってくる。ジュダ、行くよ」
「イエスマスター。行ってきます政弘様」
「いってらー」
 いよいよ稼動試験だ・・・これで彼女の行き先が決まる。さて、僕も頑張らないと。


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