「遠征、覚醒、」(2009/01/29 (木) 01:15:10) の最新版変更点
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<p> 一週間後、デフォルトの武装と追加の武装を引っさげ隣の市に向かっていた。<br />
メルトが相当楽しみにしていたらしく、早朝からたたき起こされ始発の閑散とした電車に揺られている。正直…眠い。<br />
そのメルトは窓に張り付き流れる景色に夢中だ。うとうとし始めるたびに質問を浴びせられ、寝過ごすことなく到着できた。<br />
「ふぁー。」<br />
駅前に降り立ち、伸びとあくびを同時にやる。周囲の視線より寝ぼけた頭をどうにかするのが先決だ。<br />
「メルト、やっぱり早く着きすぎだって、」<br />
胸ポケットに収まったメルトに文句を言う俺。<br />
「いえ、そんなことはありません。あれを見てください。」<br />
メルトが指差す先、様々な年代の男が同じ半被に鉢巻、プラカードをもって集まっていた。しっかりと神姫GPの文字も見える。いつの間に。<br />
ほら、みたいな自慢げな顔のメルト。何も言う気力をなくし、近場のファーストフード店に入る事にした。<br />
モーニングのセットを頬張りつつ、モバイルPCで神姫GPの情報を集める。このモバイルPC実家に帰ったとき親父からなんでか電子辞書と間違えられた。電子辞書なんて携帯電話の一機能だろうに。まあ、それはおいておいて、神姫GPの参加年代は意外と高め、昔のミニ四駆が流行った世代がそのまま参加しているらしい、で以前対戦したノアロークのオーナーはその世代とは外れた俺と同じぐらいの年代で女性とのこと、さらにこの市内で女性の神姫GP参加オーナーは多いらしい。神姫オーナーで女性はまだまだ珍しく、おじ様たちに人気なのだろう。<br />
と、て、も、いやな予感がするが、メルトはモバイルPCの情報を穴が開くほど見ている。やっぱ帰ろうなんて言えねーな。<br />
いろいろ考えている間に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み。神姫センターに向かった。</p>
<p>
到着後、パーツショップを見て回るがほとんどレース用の物しかない。もともとラジコンの専門店だったショップを改装したらしい、そのもともとのラジコンが隅っこで『神姫も乗れます』なんてPOP付きで売られている。メルトの視界に入る前に足早に立ち去る。<br />
バーチャルのバトルフィールドも様々なレース用のコースが用意されているとのこと。神姫サイズの市街地ラリーコースなら地形を生かせるが、普通のレーシング場になったらただの闘技場と変わらない。まだ使う予定のない追加の武装の出番となるだろう。<br />
この店でのバトルロンドは避けたいな。<br />
「なんだか騒がしいですよ、マイスター。」<br />
モバイルPCで武装のプログラム調整をしていたらもう開催時間になっていたらしい。あわてて観戦席に向かうがもう満席。元がラジコンショップだから席が元から少ないのは予測できたはず、すねてしまったメルトだけ特設の神姫用の観戦席に行かせた。<br />
先にいたアーンヴァルタイプが快くメルトの事を面倒見るといっていたのは助かった。同じ会社の後輩神姫にはお姉さんぶりたいのだろうか?オーナーにはお礼を言っておこう。<br />
俺はおとなしく休憩スペースで店のモニターに映っている神姫GPを横目にプログラムの続きをする。<br />
どうにも俺とメルトを見る目線に嫌なものが混じってる気がする。自意識過剰と言われればそこまでだが、備えていれば憂いは少なくてすむ。<br />
プログラム終了と同時にグランプリは終わった。モニターにはランキングと神姫の簡単な紹介が流れていた。ノアロークは7位か。参加神姫は15体だったから後列のほうになるのか?<br />
メルトを迎えに行ったところで、メルトが他の神姫に囲まれていた。さっきのアーンヴァルが庇っているが、あんまり良くない状況。<br />
「なにやってるんだお前ら!」<br />
思わず声に出して後悔、神姫たちの視線がこっちに向く。<br />
「あなたが、この神姫のオーナーか!」<br />
「お前らのせいでノアロークちゃんが優勝できなかったんたぞ!」<br />
なことを、口々に言って来る。<br />
「関係ないね。帰るぞメルト。」<br />
メルトに手を差し伸べ席から離れようと立ち上がった。<br />
「いや、そうはいかないぞ、赤い目の戦車型のオーナー。」<br />
半被を着た団体の一人が俺の前に立ちふさがる。横幅だけは迫力あるな。なんて余計なことを考える。<br />
「じゃあ、何をしろと?土下座で謝ればいいのか?ま、しないけどな。」<br />
あえて挑発。<br />
「ふざけるな、テメェ!」<br />
「マスター、冷静に。わたくしにやらせてくださいな。」<br />
半被野郎(仮)の神姫がバックから顔を出し間に入る、ヘッドコアは見たことないタイプだ。カスタムメーカー製なら性能や特性が分からず戦略が組みにくい、やっかいだな。<br />
いっそ挑発に乗ってくれたほうが楽だったのに。<br />
「あ、ああそうだな。神姫バトルで勝負だ。逃げたら負け犬と言いふらしてやる。」<br />
「だってさ、どうするよメルト?」<br />
負け犬呼ばわりされても、メルトの戦歴に傷はつかないし、俺は言われることを気にしないが、<br />
「もちろん戦います、マイスターが馬鹿にされるのは、我慢なりません。」<br />
いつになく怒っているようだな、<br />
「それに、マイスターが居てくれれば、私は無敗ですから。」 <br />
うれしい事を言ってくれる。じゃあ、売られた喧嘩を買ってやるか、<br />
「やるなら、早くしろ。でなければ、帰れ!」<br />
ビシッっと指差し挑発追い討ち。<br />
「んだと!お前こそにげんじゃねーぞ!」<br />
<br />
ところ変わってバトルロンド筐体。<br />
「メルト、装備と戦術はいつもどおり。だが、やばくなったらハンガーに追加でつけたプチマスィーンを起動。入っているフォルダのデータを使え。」<br />
「どういうことですか?マイスター」<br />
アクセスポットを閉じ、メルトを送り出す。深呼吸してマップと相手神姫の情報を見比べる。<br />
ステージは神姫サイズの市街地ラリー、広域ステージか。相手は飛行タイプではないが、エクステンドブースター4本で飛行も可能、空から来るか。メインボードの基本情報しか閲覧できないし、相手の半被野郎(仮)フリーだからってゴテゴテつけてやがるな、相手の有効な情報が拾えない。<br />
バトルのセットアップ完了イヤホンマイクを微調整してメルトの様子を見る。<br />
装備は“見た目だけ”はデフォルト装備だが、背面のサブアームユニット一式はスペースドアーマーにしての軽量化、レッグアーマーは中身はサバーカの小型版とも言うべきパワーと安定性のカスタムレッグユニットだったりする。<br />
インターメラルの威力から移動砲台や超重戦車として扱うユーザーが多いらしいが、機動性両立のため脚部換装は正解だった。砲撃ポイントは自由自在だし。<br />
モニターに映るメルトは帽子と眼帯を調整している、音響センサー一式での周囲の警戒を怠っていない。教えたとおりだ。<br />
「メルト、脅しで真正面に距離2000、弾種徹甲で撃て。」<br />
「ヤー、マイスター。」<br />
ヴィントシュトゥース、サブアームユニット右肩のインターメラルが火を噴く。<br />
砲弾が突き抜けていくビル群は結構悲惨なことになっているがバーチャルだし、気にしない。<br />
表示パラメーターに変化なし。やっぱり正面はなし、か。<br />
「次弾、弾種拡散、直上距離150。」<br />
「ヤー、マイスター。」 <br />
相手神姫のパラメーターに微妙に変動がある。流石にないと思ったが真上な。<br />
「メルト、左前方のビル内に退避。装備はそのままで入れる。あと、離れるから戦闘は任せる。大丈夫メルトならやれるさ。」<br />
ちと、先に片付けるか。イヤホンマイクを外し操作にパスワードロックをかける。<br />
「で、何か用かお前ら?」<br />
振り返ると半被軍団が俺を囲んでいる。<br />
「ノアロークたんの美しい戦跡に傷をつけたお前にちょっと話があるだけだ。」 <br />
俺の戦術でメルトが勝ってきたのはばれてるみたいだな。無視してもいいが、ほっといたら戦闘中に邪魔してくるだろう。<br />
「あいよ。俺が居なくてもメルトは強い。つまらない話だったら怒るよ?」<br />
半被集団にとりあえずは大人しくついて行く。 </p>
<p> </p>
<p>⑥<br />
『メルト、左前方のビル内に退避。装備はそのままで入れる。あと、離れるから戦闘は任せる。大丈夫メルトならやれるさ。』<br />
ビル内に入った後、マイスターはそういってそれから通信が切れてしまった。<br />
ショッピングセンターなのか天井が高く通路も広い。とりあえず、落ち着いて奥に隠れましょう。<br />
―――いや、表に出たほうが無難。ビルが崩されたら負ける――<br />
やっぱり、外で迎え撃ちます。<br />
「きゃっ!」<br />
裏口から出たところで今まで居たビルと周辺の建物が倒れました。危ないところでした。<br />
「みーつけた。御馬鹿な神姫。さあ、どういたぶって差し上げましょうか?」<br />
振り返ると道路の正面、距離は500といったところでしょうか、原型が想像できないほどの数多の神姫の装甲に覆われた対戦相手が居ます。<br />
堂々とでてくるなんて、インターメラルを、<br />
―――左後方からミサイル1。5秒後――<br />
切り離して、タイミングを見て路地に退避、サブアームで防御姿勢。あれ?<br />
「あらあら?ミサイルを探知するなんて良いセンサーを積んでいるのね。」<br />
爆風の防御成功、音響センサーで相手の足跡が近づいているのがわかる。<br />
―――サバーカベースの改造品か。――<br />
装甲の軋みが聞こえますが、装備品が擦れ合ってますね。<br />
ヴィントシュトゥースでの接近戦は苦手ですがやってみますか。<br />
「やっと顔を出したのね、子ねずみちゃん。じゃあ、こちらから行きますよ?」<br />
エクステンドブースターでこちらにダッシュをかける神姫、素体直付けのチーグルに持っているのは、フォービトブレード。サブアームをクロスして防御姿勢で受け止める。引き摺られましたが何とか受け止められましたね、装甲もかすり傷。後ろにバックステップして距離を置きます。<br />
顔も見えないから、相手のタイプがほんとに読めません。メルテュラーではあの装甲は抜けませんし。<br />
制限時間もないデスマッチ設定なので、逃げ続けてもだめでしょう。<br />
私の体勢に合わせるようにサブアームもファイティングポーズをとる。マイスターに恥を掻かせる訳には行きませんから!<br />
「‥‥‥。」<br />
左目をいったん閉じ、眼帯裏のモニターに集中、ミサイルは来ないようですね。<br />
「さぁ、行きますわよ!」<br />
左斜め上から迫るフォービトブレードの動きを見据え、右のサブアームを合わせるように跳ね上げるように振り上げる。<br />
ゴツッ!という手ごたえとともに、互いの拳がぶつかり相手のチーグルの拳が砕け、フォービトブレードは吹き飛ばされ、離れた路面に突き刺さる。<br />
パワーではチーグルを超える改良が功を奏しました。<br />
「やりますわね。わたくし、本気になりますわよ?」<br />
武装がポリゴンの塊になり、別の武装が組みあがる。ストラーフの改造されたチーグルとサバーカ一式と持っているのは見たことないジェットがついた大きなハンマーのみ。<br />
マイスターが居れば私もインターメラルの予備を付けてもらえるんですけど。<br />
「さぁ、御逝きなさいな!」<br />
横から振られたハンマー。またサブアームをクロスして防御と軽くジャンプして衝撃を緩和、飛ばされながらも姿勢を建て直して、何とか着地。<br />
「次、イきますわよ!」<br />
また今度は左からの横殴りの一撃。サブアームで!<br />
「右が動かない?」<br />
左のサブアームだけでは受け止めきれない。<br />
「きゃぁぁぁ。」<br />
気づいたときには壁に叩き付けられていた、ダメージも酷いですが意識があるだけましですね。サブアームの装甲には杭で打たれたような穴が開いています、これが原因で動かなくなったようですね。<br />
―――まだ負けてはいない――<br />
「好い声で鳴くのね、子ねずみちゃん。もっと聞かせてくださいな?」<br />
余裕そうな素振りでハンマーを弄んでいる対戦相手。<br />
こうなったら、<br />
―――ぷちマスィーンを――<br />
マイスターの指示にあったぷちマスィーンを起動。<br />
「まずは足から潰してあげ――。」<br />
振り上げられたハンマーは横から飛んできた何かに邪魔され、私に届くことはなかった。<br />
「ぷちマスィーンなんて隠していたなんて、でも残念。」<br />
私の前で庇うように浮いている犬型プチマスィーン。マイスターの後ろ姿と重なるような気がした、<br />
こんなときでもマイスターに庇ってもらわないと何もできないなんて。<br />
「ぷちマスィーンなんて隠していたなんて、でも残念。」<br />
一気に振りぬかれたハンマーで破壊され、私の足元に破片が転がってくる。<br />
「……マイスター。」<br />
背中のプチマスィーン起動と同時に開いたフォルダ内のプチマスィーン制御プログラムがインストールされた、それなのに私が弱いばっかりにもう1体無駄にしてしまった。せっかくの武装が‥‥。<br />
「面倒くさいから、次で終わらさせていただきますわ。」<br />
スローモーションのように迫るハンマーの軌道。<br />
もうダメだ。‥‥‥マイスター、ごめんなさい。<br />
目を瞑って次に来る衝撃に身を縮ませた。<br />
―――はぁ、我ながら諦めが早いな。――<br />
まるで時間が止まったような感じ、暗闇の中シルエットだけ見えるだれか。<br />
そして声が聞こえる。<br />
―――さて、“私”いい加減私に気づいているだろう?――<br />
貴女は?<br />
―――昔のお前、って言うと語弊があるかな。まあいい、勝ちたいのだろう?――<br />
もちろん!<br />
―――私と一つになれ。もちろんお前は消えたりしない。マイスターへの思いもしっかり残るぞ。――<br />
え?えっと、それは、<br />
―――記憶がつながるだけのこと、いいから手をとれ。――<br />
私は、差し伸べられた手を掴んだ。<br />
目を開けると、手の中にはプチマスィーンが運んできたアングルブレードが握られている。<br />
振り切られたハンマーは切り離されたサブアームユニットを破壊している。切り離した反動でうまく逃げられた。さすが私。<br />
「終わらせるなんて、随分と余裕だな。」<br />
プチマスィーン達は制御が徹底的に簡略化され、近接戦用の武装を運ぶのみの、言うなればプチキャリアー、マイスターも粋なことをする。一体目はプログラムオートランの時間稼ぎ用の囮なんて文が自動メッセージで眼帯裏モニターに流れた。私の絶望感を返せ!!<br />
ま、おかげで助かったのは事実だからチャラか。<br />
立ち上がりながら、もう一体のプチキャリアーからもう一本アングルブレードを受け取る。<br />
「あら?雰囲気が変わりましたわね?」<br />
「マイスターが戻ってこないからな。いい加減可愛い子ぶるのも飽きたし。さて、仕切りなおしだ。先に言って置く、私はお前なんかよりかーなーり強い!」<br />
アングルブレードを突きつけ宣言する。<br />
「あらそう?」<br />
相変わらずブーストハンマーをぶん回すお相手、ブーストタイミングと腕の動きが合ってないね。だから、軌道が丸見えなんだよ!<br />
見ながら体を低く、直後その反動でジャンプ、ハンマーを踏み台に相手の背後に着地。<br />
こっちを振り返りながらまたハンマーが迫る、軽いステップでバク宙。両足の反応も軽い、サブアームユニットが無い分余剰のパワーが機動力となる。<br />
「どうした?素振りの練習か?」<br />
「あら、わたくしとしたことがとんだ粗相を、次は当てますわよ。」<br />
ハンマーを構えた姿勢で突っ込んできた。アングルブレードを交差させ振られたハンマーの柄を受ける。鍔迫り合い状態も一瞬、すぐにパワー不足でこちらの体勢が崩れアングルブレードも歪む、押される勢いを利用してブレードを放しながらバックステップ。反動利用で充分距離が開けられた。<br />
プチキャリアーからフルストゥ・クレインを2本受け取り確かめるように振るう。<br />
「次で倒すけどいいか?」<br />
相手を指差し言ってみる。マイスターの真似で挑発できるか?<br />
「あらあら。次で決めるのはわたくしですわよ?」<br />
「答えは聞いてないけど、」<br />
フルストゥ・クレインを構え駆ける。<br />
相手もハンマーを振りかぶってダッシュをかける。掛かった!<br />
ハンマーをぎりぎりのタイミングでスライディンクの要領で避け、そのまま股の下をすり抜ける。<br />
振り返れば四肢とサブアームの関節にまだ武装をもっているプチキャリアーが突っ込み、動けなくなっている相手神姫。距離スピードなど十分に取り突っ込ませたから関節パーツは破壊されてる、動こうとすれば、<br />
「きゃぁ!」<br />
もちろん倒れる。<br />
仰向けに倒れた相手に歩み寄ると、馬乗りになりフルストゥ・クレインを交差させ首に突きつける。<br />
「ねぇ、降参するのと首を落とされるのどっちが良い?」<br />
武装の換装をしようとすれば、一気に首は落せる。<br />
「あらら?わたくしが倒されるなんて。今日は大人しく負けを認めます。マスター、サレンダーを。」<br />
数秒後、ジャッジAIが《WINNER[メルト]》と表示した。<br />
「そういえば名前聞いてなかったな、私はメルト。あなたは?」<br />
「わたくし、レイニィと申します。何型かは内緒です。」<br />
武装換装のようにレイニィがポリゴンの塊となって消える。同時にステージも簡単なポリゴンの塊となり消えていく、そのまま私の視界も暗転暗転。感覚はアクセスポットの中にもどる。<br />
自動でポットが開く。<br />
無人かもしれない、と覚悟して見上げたオーナーブースには、なぜかクレープを頬張っているマイスターがいた。<br />
「おつかれ。メルト。って痛っ!」<br />
「殴って良いですか?マイスター」<br />
「殴ってから言うなよ。」 <br />
そう言いながらいつものようにバッグに武装をしまい始めるマイスター。<br />
「マイスターは私の変化に驚かないのか?」<br />
こちらを向いたところで話しかける。<br />
「変化な。太った?」<br />
「ヴィントシュトゥースで殴りますよ?」<br />
「それは勘弁してくれ、変化って言っても変わってないぞ?」<br />
過去の記憶とつながり、言動表情その他変化があるはずなのに、マイスターは気づかないほど鈍感なのか、ちょっと悲しくなった。<br />
「戦闘が終わって俺のこと今も不安げに見上げてるくせに、変化って何だよ。」<br />
そういって優しい笑顔で私の頭を指先でなでるマイスター。<br />
「それは‥‥‥、マイスターが居なくなったままでちょっと心細いというかなんと言うか。」<br />
安心してしまって、言葉が見つからない。<br />
「俺の知らない過去の融姫のままなら俺のことは関係ないからそんな表情な訳は無いと思ったが。簡単に変わるほど、出会ってからの俺たちの生活は過去に上書きされるほどに希薄なものか?」<br />
いや、そんなことは無い!!<br />
「ま、公衆の面前であーだこうだ言いあうのも馬鹿らしいし。帰ってからゆっくり話し合うか。」<br />
「‥‥そうだな。というかマイスター、その前にかなり恥ずかしい台詞を言ってないか?」<br />
「そう?」<br />
目を細めてのニヒルな笑み。わざと言いましたね?<br />
「それで、戦闘中の指揮の放棄の理由を聞きたいのですが?」<br />
マイスターが差し伸べた右手に乗りながら聞いてみる。<br />
「ああ、あれ?そこの半被のお兄さん方が話があるって言ったからついてっただけ。なんでか、一番厳ついオニーサンが悪いモノ食べたのか。お腹抱えて途中で倒れてね。あればびっくりした。」<br />
マイスター目が笑ってませんよ?なまじ顔立ちが整ってるからとても怖いです。それに意味深に握っているその左手は何でしょう?半被の方々が青ざめて震えだしそうなのは何故ですか?<br />
「でもなんでか、クレープおごってもらった。なんでだろうね?」<br />
な、なんででしょうね?バトルをしていた私は、まさかマイスターが殴りかかってきた一番厳ついオニーサンを一撃で倒して、半被の方々を脅迫したなんてそんなことは想像もできませんからね。<br />
「さ、さぁ?理解に苦しむな。」<br />
と言っておこう。私の平穏のために。マイスターは怒らせると怖い。最重要データに入力。</p>
<p> </p>
<p><br />
メルトを胸ポケットに入れてやり、とりあえずあのアーンヴァルのオーナーでも探すか。<br />
筐体から離れると半被野郎(仮)はこっちを驚いた顔で見てきた。<br />
ジト目で見てから横を通り過ぎる。何も言ってこないから問題無いだろう。<br />
アーンヴァルタイプのオーナーって結構いるんだな。うろ覚えな記憶をたどりながら、見回してみる。<br />
「あ、すいません。先ほどは俺のメルトが大変お世話になったみたいで、ご迷惑をおかけしました。」<br />
肩に乗ったメルトが見つけ、指差す先でアーンヴァルとともにコーヒーを飲んでいた、格好からOLっぽい女性に話しかけ頭を下げる。年は二つぐらい上かな?<br />
「え?ああ、いいのよ。この子が勝手にやったことだから。」<br />
なんで目を合わせようとしないかな?勝手に向かいの席に座る俺。<br />
「いえ、神姫の性格はオーナーの影響が大きいと聞きます。俺のメルトを庇ってくれたのもオーナーのあなたあってのことだと思いますよ?」<br />
メルトはポケットから出てアーンヴァルにお礼を言っていた。<br />
「そ、そんな事無いわよ。そうよねシュネー?」<br />
アーンヴァルに話を振るその女性。シュネーというのか覚えておこう。<br />
「マスター。褒められているのですから素直にお礼を言ったらどうですか?」<br />
「え?」<br />
俺の顔を見てまた目をそむける。怖い顔をしてるつもりは無いが、何なんだろう?<br />
「お邪魔をして申し訳なかったですね。メルト、アドレスデータをシュネーさんに渡しておいて。お礼といっては何ですが、武装神姫のメンテナンス修理などをする店で働いていますので何かありましたら連絡をください。ではまた。メルト帰るよ。」<br />
メルトを肩に乗せて出口に向かう、メルトはシュネーの姿が見えなくなるまで手を振っている。メルトにとってタマッチの次に友人ができた、ということでは無駄ではなかったな。<br />
「もう来たくないな。この市の神姫センター。」<br />
帰りの電車で思わずもれた言葉。<br />
「同感だな、マイスター。」<br />
メルトが同意するのは意外だな。<br />
「楽しみにしていたのが嘘みたいだな、メルト?」<br />
「神姫の可能性ということで、バトルロンド以外に興味があったし、未知への期待が大きかったんだろうな。マイスターを失うようなことが無ければ楽しめた。変なのにかかわるのは御免だ。だがいいのか?シュネーのオーナーの綾峰紗貴との接点はなくなるぞ?」<br />
あのOLっぽい人は綾峰さんね。窓の外を向いたまま言うメルト、<br />
「接点ね。向こうが興味か何かあればメールするだろうし。お礼言えたから別にいいけど?」<br />
「マイスターはもっと人間に興味を持ったほうがいいと思うんだけど。」<br />
メルトはこっちを向いてあからさまな溜め息をつく。<br />
「そうかな?」<br />
他人に興味が無いのは昔からだ。人と接するのは半分演じている気がする。処世術って奴かな。見るものすべて気に入らなくて荒れていたころに比べればマシなんだけどね。<br />
「マイスターの評価を改める必要がありそうだな。」<br />
「俺はメルトがいれば十分だと思うけど?」<br />
「な?、ちょっと待て!マイスター。そ、そういう事を臆面無く言うんじゃない!」<br />
お、珍しく慌ててる。顔まで赤いし、<br />
「じゃあ、照れながらボソボソいったほうがよかったか?」<br />
「そ、そういう問題ではなくて‥‥‥マイスター話をそらしましたね?」<br />
ばれたか。<br />
まぁ、その後徹底的にメルトにあーだこうだ説教じみた事を言われながら家に着いた。</p>
<p><a href="http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2036.html">SR-topへ</a></p>
<p> 一週間後、デフォルトの武装と追加の武装を引っさげ隣の市に向かっていた。<br />
メルトが相当楽しみにしていたらしく、早朝からたたき起こされ始発の閑散とした電車に揺られている。正直…眠い。<br />
そのメルトは窓に張り付き流れる景色に夢中だ。うとうとし始めるたびに質問を浴びせられ、寝過ごすことなく到着できた。<br />
「ふぁー。」<br />
駅前に降り立ち、伸びとあくびを同時にやる。周囲の視線より寝ぼけた頭をどうにかするのが先決だ。<br />
「メルト、やっぱり早く着きすぎだって、」<br />
胸ポケットに収まったメルトに文句を言う俺。<br />
「いえ、そんなことはありません。あれを見てください。」<br />
メルトが指差す先、様々な年代の男が同じ半被に鉢巻、プラカードをもって集まっていた。しっかりと神姫GPの文字も見える。いつの間に。<br />
ほら、みたいな自慢げな顔のメルト。何も言う気力をなくし、近場のファーストフード店に入る事にした。<br />
モーニングのセットを頬張りつつ、モバイルPCで神姫GPの情報を集める。このモバイルPC実家に帰ったとき親父からなんでか電子辞書と間違えられた。電子辞書なんて携帯電話の一機能だろうに。まあ、それはおいておいて、神姫GPの参加年代は意外と高め、昔のミニ四駆が流行った世代がそのまま参加しているらしい、で以前対戦したノアロークのオーナーはその世代とは外れた俺と同じぐらいの年代で女性とのこと、さらにこの市内で女性の神姫GP参加オーナーは多いらしい。神姫オーナーで女性はまだまだ珍しく、おじ様たちに人気なのだろう。<br />
と、て、も、いやな予感がするが、メルトはモバイルPCの情報を穴が開くほど見ている。やっぱ帰ろうなんて言えねーな。<br />
いろいろ考えている間に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み。神姫センターに向かった。</p>
<p>
到着後、パーツショップを見て回るがほとんどレース用の物しかない。もともとラジコンの専門店だったショップを改装したらしい、そのもともとのラジコンが隅っこで『神姫も乗れます』なんてPOP付きで売られている。メルトの視界に入る前に足早に立ち去る。<br />
バーチャルのバトルフィールドも様々なレース用のコースが用意されているとのこと。神姫サイズの市街地ラリーコースなら地形を生かせるが、普通のレーシング場になったらただの闘技場と変わらない。まだ使う予定のない追加の武装の出番となるだろう。<br />
この店でのバトルロンドは避けたいな。<br />
「なんだか騒がしいですよ、マイスター。」<br />
モバイルPCで武装のプログラム調整をしていたらもう開催時間になっていたらしい。あわてて観戦席に向かうがもう満席。元がラジコンショップだから席が元から少ないのは予測できたはず、すねてしまったメルトだけ特設の神姫用の観戦席に行かせた。<br />
先にいたアーンヴァルタイプが快くメルトの事を面倒見るといっていたのは助かった。同じ会社の後輩神姫にはお姉さんぶりたいのだろうか?オーナーにはお礼を言っておこう。<br />
俺はおとなしく休憩スペースで店のモニターに映っている神姫GPを横目にプログラムの続きをする。<br />
どうにも俺とメルトを見る目線に嫌なものが混じってる気がする。自意識過剰と言われればそこまでだが、備えていれば憂いは少なくてすむ。<br />
プログラム終了と同時にグランプリは終わった。モニターにはランキングと神姫の簡単な紹介が流れていた。ノアロークは7位か。参加神姫は15体だったから後列のほうになるのか?<br />
メルトを迎えに行ったところで、メルトが他の神姫に囲まれていた。さっきのアーンヴァルが庇っているが、あんまり良くない状況。<br />
「なにやってるんだお前ら!」<br />
思わず声に出して後悔、神姫たちの視線がこっちに向く。<br />
「あなたが、この神姫のオーナーか!」<br />
「お前らのせいでノアロークちゃんが優勝できなかったんたぞ!」<br />
なことを、口々に言って来る。<br />
「関係ないね。帰るぞメルト。」<br />
メルトに手を差し伸べ席から離れようと立ち上がった。<br />
「いや、そうはいかないぞ、赤い目の戦車型のオーナー。」<br />
半被を着た団体の一人が俺の前に立ちふさがる。横幅だけは迫力あるな。なんて余計なことを考える。<br />
「じゃあ、何をしろと?土下座で謝ればいいのか?ま、しないけどな。」<br />
あえて挑発。<br />
「ふざけるな、テメェ!」<br />
「マスター、冷静に。わたくしにやらせてくださいな。」<br />
半被野郎(仮)の神姫がバックから顔を出し間に入る、ヘッドコアは見たことないタイプだ。カスタムメーカー製なら性能や特性が分からず戦略が組みにくい、やっかいだな。<br />
いっそ挑発に乗ってくれたほうが楽だったのに。<br />
「あ、ああそうだな。神姫バトルで勝負だ。逃げたら負け犬と言いふらしてやる。」<br />
「だってさ、どうするよメルト?」<br />
負け犬呼ばわりされても、メルトの戦歴に傷はつかないし、俺は言われることを気にしないが、<br />
「もちろん戦います、マイスターが馬鹿にされるのは、我慢なりません。」<br />
いつになく怒っているようだな、<br />
「それに、マイスターが居てくれれば、私は無敗ですから。」 <br />
うれしい事を言ってくれる。じゃあ、売られた喧嘩を買ってやるか、<br />
「やるなら、早くしろ。でなければ、帰れ!」<br />
ビシッっと指差し挑発追い討ち。<br />
「んだと!お前こそにげんじゃねーぞ!」<br />
<br />
ところ変わってバトルロンド筐体。<br />
「メルト、装備と戦術はいつもどおり。だが、やばくなったらハンガーに追加でつけたプチマスィーンを起動。入っているフォルダのデータを使え。」<br />
「どういうことですか?マイスター」<br />
アクセスポットを閉じ、メルトを送り出す。深呼吸してマップと相手神姫の情報を見比べる。<br />
ステージは神姫サイズの市街地ラリー、広域ステージか。相手は飛行タイプではないが、エクステンドブースター4本で飛行も可能、空から来るか。メインボードの基本情報しか閲覧できないし、相手の半被野郎(仮)フリーだからってゴテゴテつけてやがるな、相手の有効な情報が拾えない。<br />
バトルのセットアップ完了イヤホンマイクを微調整してメルトの様子を見る。<br />
装備は“見た目だけ”はデフォルト装備だが、背面のサブアームユニット一式はスペースドアーマーにしての軽量化、レッグアーマーは中身はサバーカの小型版とも言うべきパワーと安定性のカスタムレッグユニットだったりする。<br />
インターメラルの威力から移動砲台や超重戦車として扱うユーザーが多いらしいが、機動性両立のため脚部換装は正解だった。砲撃ポイントは自由自在だし。<br />
モニターに映るメルトは帽子と眼帯を調整している、音響センサー一式での周囲の警戒を怠っていない。教えたとおりだ。<br />
「メルト、脅しで真正面に距離2000、弾種徹甲で撃て。」<br />
「ヤー、マイスター。」<br />
ヴィントシュトゥース、サブアームユニット右肩のインターメラルが火を噴く。<br />
砲弾が突き抜けていくビル群は結構悲惨なことになっているがバーチャルだし、気にしない。<br />
表示パラメーターに変化なし。やっぱり正面はなし、か。<br />
「次弾、弾種拡散、直上距離150。」<br />
「ヤー、マイスター。」 <br />
相手神姫のパラメーターに微妙に変動がある。流石にないと思ったが真上な。<br />
「メルト、左前方のビル内に退避。装備はそのままで入れる。あと、離れるから戦闘は任せる。大丈夫メルトならやれるさ。」<br />
ちと、先に片付けるか。イヤホンマイクを外し操作にパスワードロックをかける。<br />
「で、何か用かお前ら?」<br />
振り返ると半被軍団が俺を囲んでいる。<br />
「ノアロークたんの美しい戦跡に傷をつけたお前にちょっと話があるだけだ。」 <br />
俺の戦術でメルトが勝ってきたのはばれてるみたいだな。無視してもいいが、ほっといたら戦闘中に邪魔してくるだろう。<br />
「あいよ。俺が居なくてもメルトは強い。つまらない話だったら怒るよ?」<br />
半被集団にとりあえずは大人しくついて行く。 </p>
<p><br />
『メルト、左前方のビル内に退避。装備はそのままで入れる。あと、離れるから戦闘は任せる。大丈夫メルトならやれるさ。』<br />
ビル内に入った後、マイスターはそういってそれから通信が切れてしまった。<br />
ショッピングセンターなのか天井が高く通路も広い。とりあえず、落ち着いて奥に隠れましょう。<br />
―――いや、表に出たほうが無難。ビルが崩されたら負ける――<br />
やっぱり、外で迎え撃ちます。<br />
「きゃっ!」<br />
裏口から出たところで今まで居たビルと周辺の建物が倒れました。危ないところでした。<br />
「みーつけた。御馬鹿な神姫。さあ、どういたぶって差し上げましょうか?」<br />
振り返ると道路の正面、距離は500といったところでしょうか、原型が想像できないほどの数多の神姫の装甲に覆われた対戦相手が居ます。<br />
堂々とでてくるなんて、インターメラルを、<br />
―――左後方からミサイル1。5秒後――<br />
切り離して、タイミングを見て路地に退避、サブアームで防御姿勢。あれ?<br />
「あらあら?ミサイルを探知するなんて良いセンサーを積んでいるのね。」<br />
爆風の防御成功、音響センサーで相手の足跡が近づいているのがわかる。<br />
―――サバーカベースの改造品か。――<br />
装甲の軋みが聞こえますが、装備品が擦れ合ってますね。<br />
ヴィントシュトゥースでの接近戦は苦手ですがやってみますか。<br />
「やっと顔を出したのね、子ねずみちゃん。じゃあ、こちらから行きますよ?」<br />
エクステンドブースターでこちらにダッシュをかける神姫、素体直付けのチーグルに持っているのは、フォービトブレード。サブアームをクロスして防御姿勢で受け止める。引き摺られましたが何とか受け止められましたね、装甲もかすり傷。後ろにバックステップして距離を置きます。<br />
顔も見えないから、相手のタイプがほんとに読めません。メルテュラーではあの装甲は抜けませんし。<br />
制限時間もないデスマッチ設定なので、逃げ続けてもだめでしょう。<br />
私の体勢に合わせるようにサブアームもファイティングポーズをとる。マイスターに恥を掻かせる訳には行きませんから!<br />
「‥‥‥。」<br />
左目をいったん閉じ、眼帯裏のモニターに集中、ミサイルは来ないようですね。<br />
「さぁ、行きますわよ!」<br />
左斜め上から迫るフォービトブレードの動きを見据え、右のサブアームを合わせるように跳ね上げるように振り上げる。<br />
ゴツッ!という手ごたえとともに、互いの拳がぶつかり相手のチーグルの拳が砕け、フォービトブレードは吹き飛ばされ、離れた路面に突き刺さる。<br />
パワーではチーグルを超える改良が功を奏しました。<br />
「やりますわね。わたくし、本気になりますわよ?」<br />
武装がポリゴンの塊になり、別の武装が組みあがる。ストラーフの改造されたチーグルとサバーカ一式と持っているのは見たことないジェットがついた大きなハンマーのみ。<br />
マイスターが居れば私もインターメラルの予備を付けてもらえるんですけど。<br />
「さぁ、御逝きなさいな!」<br />
横から振られたハンマー。またサブアームをクロスして防御と軽くジャンプして衝撃を緩和、飛ばされながらも姿勢を建て直して、何とか着地。<br />
「次、イきますわよ!」<br />
また今度は左からの横殴りの一撃。サブアームで!<br />
「右が動かない?」<br />
左のサブアームだけでは受け止めきれない。<br />
「きゃぁぁぁ。」<br />
気づいたときには壁に叩き付けられていた、ダメージも酷いですが意識があるだけましですね。サブアームの装甲には杭で打たれたような穴が開いています、これが原因で動かなくなったようですね。<br />
―――まだ負けてはいない――<br />
「好い声で鳴くのね、子ねずみちゃん。もっと聞かせて</p>
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