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**戦うことを忘れた武装神姫 その40
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時間はそろそろ18時を廻ろうとする頃。
紫色の冬空を背景に、色とりどりの灯りで飾られ浮かび上がる街。
行き交う人々も、クルマも、すべてが夕闇の街に溶け込み、今日もまたあたりまえの景色を作り出していた。
そんな景色を切り抜く大きなキャンバスのようなショーウインドゥに・・・黒いバイクが風の如く映り込んだ。
今ではすっかり旧式となり、見ることも少なくなった久遠のバイク。
独特のメカノイズに振り返る人はいるものの、やはり都心とあってかさして珍しがって足を止める人もいない。
きれいに整備さた久遠のバイクは、シュラウドにも街の表情を映しこみながら、混みあう国道を軽やかに駆け抜けてゆく。
今宵の久遠は出張帰りであろうか・・・。 ジャケットの胸ポケットからは、マオチャオのエルガがぴょこんと顔を出し、初秋の夜風に緑色の髪をなびかせ、大きな翠色の瞳は流れ行く街の光を湛えていつも以上に輝いていた。
ターミナル駅そばの、大きな交差点の信号につかまったときだった。 まるで潮の流れのようにスクランブル交差点を通り過ぎる人間、ニンゲン。 身体を乗り出し、じーっと眺めていたエルガが、
「にゃーさん、おさかなー。」
と、ぼそり久遠に言った。 おねだりする時ともまた違った口調のエルガに、何事かと考える久遠。 どこかに焼き魚の屋台でもあるのか? いや、そんなものはない。 だいたい魚と言っても、この近辺にあるのは海鮮居酒屋くらい・・・。
「んー、おなかすいたか?」
久遠の問いかけに首を横に振るエルガ。
「ちがうの。 にゃーさんが、おさかな。」
何のことやらさっぱりの久遠に、エルガはなんとも楽しそうな笑みと共に続けた。
「バイクに乗って、街の中を駆けてくにゃーさんがおさかな。 にゃーさんはね、ひかりのうみのなかをおよぐおさかななんだよ!」
・・・あぁ、なるほど・・・。
歩行者用の信号点滅を始め、これから進もうとする道が開けつつあるとき、久遠はエルガの言わんとしていることを理解した。
「光の海を泳ぐお魚、と・・・。」
久遠は呟きながらクラッチを握り、ギアを入れる。 その振動はエルガにも伝わり、半身を乗り出していたエルガは再びポケットに深く納まった。
「にゃーさんも、ひとつの光になって、海を作って、海を泳ぐの。 このおっきな街からみたら、にゃーさんはちっちゃな光のひとつだけど、にゃーにとっては・・・みゅぅ・・・その、あのね・・・街よりもおっきな光なの!」
そういうと、顔を赤らめてぎゅっとジャケットに顔を埋めるエルガ。 前を見る久遠はエルガの動きを知ってか知らずか、使い込まれたグローブをはめたままの右手でちょんとエルガのアタマを突付いた。
「それじゃ・・・珊瑚の脇での休憩はおしまい。 ぼちぼち大海原へと泳ぎだそうか。」
信号が変わり、前方には広い道路が・・・いや、海の回廊がひらけた。
「いくぞっ!」
「うにぁー!」
エルガの声にあわせるかのごとく久遠はアクセルをひねり、光があふれる大海原へと再び飛び込んでいった。
透きとおる眼差しで、街を見つめる神姫がいる。
そう、ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫・・・。
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**戦うことを忘れた武装神姫 その40
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時間はそろそろ18時を廻ろうとする頃。
紫色の初秋の夕暮れを背景に、色とりどりの灯りで飾られ浮かび上がる街。
行き交う人々も、クルマも、すべてが迫る夕闇の街に溶け込み、今日もまたあたりまえの景色を作り出していた。
そんな景色を切り抜く大きなキャンバスのようなショーウインドゥに・・・黒いバイクが風の如く映り込んだ。
今ではすっかり旧式となり、見ることも少なくなった久遠のバイク。
独特のメカノイズに振り返る人はいるものの、やはり都心とあってかさして珍しがって足を止める人もいない。
きれいに整備さた久遠のバイクは、シュラウドにも街の表情を映しこみながら、混みあう国道を軽やかに駆け抜けてゆく。
今宵の久遠は出張帰りであろうか・・・。 ジャケットの胸ポケットからは、マオチャオのエルガがぴょこんと顔を出し、夜風に緑色の髪をなびかせ、大きな翠色の瞳は流れ行く街の光を湛えていつも以上に輝いていた。
ターミナル駅そばの、大きな交差点の信号につかまったときだった。 まるで潮の流れのようにスクランブル交差点を通り過ぎる人間、ニンゲン。 身体を乗り出し、じーっと眺めていたエルガが、
「にゃーさん、おさかなー。」
と、ぼそり久遠に言った。 おねだりする時ともまた違った口調のエルガに、何事かと考える久遠。 どこかに焼き魚の屋台でもあるのか? いや、そんなものはない。 だいたい魚と言っても、この近辺にあるのは海鮮居酒屋くらい・・・。
「んー、おなかすいたか?」
久遠の問いかけに首を横に振るエルガ。
「ちがうの。 にゃーさんが、おさかな。」
何のことやらさっぱりの久遠に、エルガはなんとも楽しそうな笑みと共に続けた。
「バイクに乗って、街の中を駆けてくにゃーさんがおさかな。 にゃーさんはね、ひかりのうみのなかをおよぐおさかななんだよ!」
・・・あぁ、なるほど・・・。
歩行者用の信号点滅を始め、これから進もうとする道が開けつつあるとき、久遠はエルガの言わんとしていることを理解した。
「光の海を泳ぐお魚、と・・・。」
久遠は呟きながらクラッチを握り、ギアを入れる。 その振動はエルガにも伝わり、半身を乗り出していたエルガは再びポケットに身体を深く納めた。
「にゃーさんも、ひとつの光になって、海を作って、海を泳ぐの。 このおっきな街からみたら、にゃーさんはちっちゃな光のひとつだけど、にゃーにとっては・・・みゅぅ・・・その、あのね・・・街よりもおっきな光なの!」
そういうと、顔を赤らめてぎゅっとジャケットに顔を埋めるエルガ。 前を見る久遠はエルガの動きを知ってか知らずか、使い込まれたグローブをはめたままの右手でちょんとエルガのアタマを突付いた。
「それじゃ・・・珊瑚の脇での休憩はおしまい。 ぼちぼち大海原へと泳ぎだそうか。」
信号が変わり、前方には広い道路が・・・いや、海の回廊がひらけた。
「いくぞっ!」
「うにぁー!」
エルガの声にあわせるかのごとく久遠はアクセルをひねり、光があふれる大海原へと再び飛び込んでいった。
透きとおる眼差しで、街を見つめる神姫がいる。
そう、ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫・・・。
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