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<朝霧の紅眼> - (2006/10/23 (月) 02:01:29) のソース
[[凪さん家の十兵衛さん]] 第六話<朝霧の紅眼> それは誰も知らなかった。 それはついに姿を現した。 しかしそのすべてを見た者はいない。 残るのは、紅き殺意の記憶のみ…。 <凪さん家の十兵衛さん第六話『朝霧の紅眼』> 「全小隊!第三小隊の活路を開け!今日で決めるぞ!」 『了解!』 私達は進撃を始める。 既に敵は大軍勢で待ち構えていた。 『ふふふ…待っていたわよ…さぁ、踊りなさい…私の歌で』 「くっ!」 私達の前に立ちふさがった神姫達がいっせいに同じ単語を発する。 私達は身構え、覚悟を決める。 「皆!行くよ!」 『ラジャー!!』 私達の勢いが増す。今日はいける。絶対にやれる!今日こそ終わらすんだ! 迫りくる操られた神姫達。手には今までの戦いで奪ってきたであろう様々な武器が装備されていた。 「はぁぁぁ!」 私はそれらを電磁警棒の一撃で黙らせる。別に今回に限ったことではないが、作戦はあくまでも「原因となる神姫の確保、または撃破」である。 そのため、私達の基本装備は電磁警棒と、相手に文字通りの衝撃を与える弾丸を放つショックライフルだ。 もちろんしっかりとした装備も持たされてはいるが、それを使うことを許される相手は敵の武装神姫 「セイレーン…」 だ。あの屈辱…必ず倒してやる。 それに…そんなこと考えたくも無いが…たとえ私がやられても、今回はあの「十兵衛」ちゃんがいる。 今まで私が見た神姫の中で過去最高の狙撃能力を持ち、確実に相手を撃ち抜く心眼の持ち主だ。 どうやら巷ではその名前に合わぬ攻撃スタイルから「銃兵衛」と呼ばれていたり、 または左目の眼帯姿から、見た目そのまま「隻眼の悪魔」と呼ばれていたりする。 まぁこちらに関しては「隻脚の悪魔」タイプストラーフ「ルーシー」と混同される可能性 (リーグクラスが違うのだからありえないのだが…)が危惧してか、あまり使われることは無いのだが。 「くっ…」 な、それにしてもなんだこの数は…。この前とは比べ物にならない…。 その数ざっと五十体以上はいるんじゃないだろうか。 それに対してこちらはいっても三十…。 くそ、なんでこちらから出向いたのにこちらの防戦一方なんだ。 おかしいではないか。私達は攻めているのだから。 早くあの憎きセイレーンを早く見つけ出さねば! 「セイレーン…」 ええい、そんな綺麗な名前、あの天使型には似合わない…。今日以降その名は名乗らせない! ピ-ン… 「えいやぁ!」 バリバリバリ!! 電磁警棒がうなりを上げる。 その瞬間…風…。 …何か感じる…この路地の向こう…この気持ち悪い感覚。 「いる…」 あの時の恐怖が甦ってくる。怖い、怖い怖い怖い…そんな記憶を、感情を押し殺して私は白銀の翼で翔けていく。 「そこに…そこにいる!」 路地のつき当たり…。 白い羽の悪魔がそこに佇んでいる。 「ふふ…来たのね…かわいい天使さん」 「はぁ…はぁ…」 相手から発せられる強烈なプレッシャー。殺意、欲望…そんな黒い物が私に覆いかぶさってくる。 ぐ、負けない…絶対負けない!! 「せ、セイレーン!!!覚悟!!!」 「あら…。乱暴ねぇ!!」 私は電磁警棒とライフルを排除し、ライトセーバーを構えて突進した。 今度は私が貫いてやる! いくら十兵衛ちゃんがいるといっても、彼女だけにすべてを背負わせるわけにはいかない! 彼女はせっかく地上に戻って明るい世界を取り戻したのだ。裏の世界に干渉させたくはない!十兵衛ちゃんの出番が無いほうが良いに決まっているのだ。 さっきはやられても…と言ったが、いや、やられるわけにはいかない! 「はぁぁぁぁぁぁ!!」 「ふん、美しく無いわね…」 セイレーンはひらりと攻撃を受け流した。 私は突き貫いた剣先を翻し、もう一振りする。 「やぁぁぁ!!」 「ふふ、どうしたの?こっちよ?」 またもやかわされる剣。 「ミーシャ!落ち着け!見切られている!」 「り、了解!」 くそ、私としたことが…焦っているとでもいうのか! 私は剣を構えなおす。 「ふふ、小手調べは終了かしら?本部の奴隷天使さん?」 「なっ!」 き、貴様…私が誇りを持っているこの地位を「奴隷」扱いだと…! 「ふ、あなたが犬型だったならちょうど良いのに…ねぇ?」 「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」 こいつ!絶対に許さない! 「ふふふふふ…いいわ、その表情…さぁ、もっと怒りをあらわになさい!」 「ふ、ぐあ!み、ミーシャ…」 と、私とセイレーンの声以外の声が響く。 「!?」 振り向くとそこには様々な神姫達に雁字搦めにされた犬型、ハウリンがいた。 あの装備、あれはまさしく私達の部隊の第一小隊隊長神姫だ。 「シン!!」 無事だったんだ!まだ生きていてくれた!私はその事実に素直に喜んだ。 「ふふ…呑気ね…喜んでいて良いのかしら?」 「なに!?」 「う、うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」 シンにまとわり付いた神姫が動き出す。 「シン!!!!!!」 「さぁ、お聞きなさい…美しい歌を…叫びの歌をね!!」 そう言うと無数の神姫達がシンの全身に力を加える。 「ぎあぁぁぁぁぁ!!!!」 「シン!!!」 私はシンを救うべく下降、電磁警棒を拾い上げブースターを噴かした。 が…。 「はぐぅ!!」 私の背後からチェーンが飛び出し、そしてそれは私の首に巻きついた。 「ひぁ!」 背部に強い衝撃が走る近づいていたシンとの距離が離れていく。 「し、シン!」 「み、みー…シャ…」 「ふぐっ!」 真横にはいつ間にか、セイレーンの歪んだ笑顔があった。 「ふふ、そうはさせないわ…貴女には十分に味わってもらわなきゃね」 そう言って私の首に巻きついたチェーンを引く 「ぐ、ぐぬぅ…」 「さぁ!私のかわいい人形達!その哀れな犬に悲痛な歌を歌わせてあげなさい!」 「ぐ、ぎ…あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!!!」 「シン!!!!!」 「あなたはまだおとなしくなさいな」 「ぐっ…!」 チェーンの締りが強くなる。 「シ、ン…」 「さぁ、楽しみなさい…思う存分ね…ほうら御覧なさい」 「ぐあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」 まとわり付いた神姫がシンの腕を持つ、既に腕部アーマー類は剥がされて素体部分が露出しているその腕を、本来曲がるはずの無い方向に曲げようとする。 「あ、あが、ぎ!!がぁぁぁぁ!!」 路地裏の攻防が行われている喧騒の中、シンの叫びが木霊する。 「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 私は叫ぶ、叫ぶことしか出来ない。 「まずは~み~ぎっ…」 と甘ったるい声でセイレーンがつぶやく。 びき、ぷち、ばち…ぼき…シンの右腕が悲鳴を上げる。それとともにシン自体も悲鳴を上げ、残酷な二重奏を奏でる。 「が!うぎあぁぁぁぁぁ!!!!」 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ふふふふふふ…」 バギャアァッ!!!腕がへし折られる音がした。 「がはぁ!!!!……」 崩れ落ちるシン。 「シン!シン!!!!!」 「ふふ、おねんねしちゃったのかしら?でも~さ~せない…!」 神姫がシンの右足を持ち上げた。そしてその膝を。 ベギッァァ!! 「っっっっつ!!!ぐぁ!!!」 シンがその痛みに耐え切れずビクンと反応する。 その顔は涙やら涎やらでぐちゃぐちゃに汚れている。 「あ、あが…う、うぅぐ…」 「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇぇ!!!」 「ふふふ、まだまだ…お楽しみはこれからよ…」 「ぎはぁぁぁぁ!うが!あぁぁぁ!!!!」 ・ ・ ごぉごぉごぉごぉ…。風が強い。作戦が開始されてすでに一時間…一体今下では何が行われているのだろうか。 私達…第X小隊は私を中心にX2さんが右側、X3さんが左側の警護をしている。 私はというと、レーザーライフルを構えた射撃姿勢のまま来るべきチャンスを狙っていた。 「皆、大丈夫なのかなぁ」 私は視線を動かすことなく口を開く。 「回線が時折混乱しているが、まだ全滅はしていない。膠着状態かと」 と右側から声。 「そ、そうなんですか?」 「ええ、あなたももっと落ち着きなさい」 とX2さんに言われてしまった。 「は、はい…でも…」 「?」 「ただここで見ているしか出来ないなんて…」 「何を言ってるの?」 左から声。 「え…」 今度はX3さんが口を開く。 「貴女の任務は「目標神姫の狙撃」でしょう?貴女はは何もしていないわけでは無いわ。 狙撃は非常に高度な技術。それをするあなたは間違いなく今回の鍵よ」 「X3さん…」 「だから自信を持ちなさい。皆あなたを信じている」 「はい…」 そうだ、私には皆がついている。皆私を信じてくれているんだ。応えなきゃ、皆の想いに! 「しかし…まだ狙撃ポイントに連れ出せてはいないようね…」 「電波状況が悪くて状況が把握しづらい…注意が必要だ」 「十兵衛さん、貴女はただ撃つ事だけに集中して頂戴。それ以外は私達が何とかするわ」 「は、はい」 私は左目のカメラを起動し、確実に相手を射抜くためにライフルを構えなおした。 「ま、目を瞑ってでも当ててみせるけど」 私の中の何かがそうつぶやいた。 ・ ・ ・ 「がはぁ…う、うぬぁ…」 ドサッ 崩れ落ちる音。勇ましき戦士は見るも無残な姿になっていた。 「ふふ、どうかしら?」 悪魔のささやきが路地に響く。 「う、うぅ、いやぁ…も、もうやめてぇ…」 泣き崩れる天使。 「ええ、もうじき終わりにしてあげるわよ?」 「え」 「ぐはぁぁっぁぁぁぁあぁあぁぁぁああぁ!!!」 ベキ…ミシ…ベキベキ 「だって~、もう体しか音を奏でられる箇所が無いんですもの…」 シンの腰に負荷がかかる。 「あ、あが!がぎゃ!」 苦痛を超えた表情、その瞳孔も口も涙腺も既に開ききっている。 そして… バギャ!今までで一番大きな破壊音がした。 「がァxかおgbじゃgじぇrjgぽあrkごあr!!!!!!!!」 その音の主は声にならない音を発した。その瞬間、シンと呼ばれていた犬型武装神姫は機能を停止した。 「あ、あぁ…」 「ふふふ、お楽しみいただけたかしら?」 「…」 この野郎… 「?どうしたの?何かご感想は?」 「…」 ふざけるな… 「あまりにも美しすぎて声も出ないかしら?」 「る…せない…」 私の仲間をよくも… 「…?なぁに?」 「許せない!!!!!」 私は拳に力をこめた 「ぐ!?」 「おまえだけは…おまえだけはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 私はセイレーンに向かって突進。体当たりで衝撃を加え、そのままスラスターを最大に噴かして急上昇し、路地から遥か上空まで飛び上がる。 「な、何を!?血迷ったのかしら!?」 「うるさい!この醜い悪魔めぇぇ!!!」 私はセイレーンにありったけの拳を打ちつけた。 「くっ!!」 「この!この!このこのこのこのぉぉぉ!!!!!」 私は憎悪をこめて拳を振り続ける。 その内の一発が顔に当たる。 ガシィ!!! 「!」 セイレーンが私の拳を受け止める。その手の先には歪みきった悪魔の表情。 「言ってくれたわね…この私に醜いと…良いわ、そして…今!この私の顔に傷をつけた罪…死をもって償うがいい!!」 「!?」 「アーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 その顔が口を開け、戦慄という名の歌を歌いだす。 「ぐぅぅぅぅ!!!!」 再び襲いくる精神波。 「アーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」 「く、ぬ…負けない…負けるもんかぁぁぁ!!」 私は拳を握りなおし、構えなおす。 「やぁぁぁぁぁぁ!!」 「アーーーーーーーー!?」 怒りの鉄拳がセイレーンの頬に強烈な一撃を加える。 あまりの衝撃に吹っ飛び、落ちてゆくセイレーン。 しかし途中で体勢を立て直す。 「く、…やったわね…一度ならず二度までもぉぉぉぉぉ!!!!」 セイレーンは上空高く飛び上がり、手を広げた。 「じゃあこれはどうかしら!!!!」 キィィィィィィィィィィィン 「!?」 声じゃない。音としては感知できない。しかし確かに感じる。 「あ、あが…うぐうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 頭が押しつぶされそうな感覚が襲う。 が、 「うぐ!?」 歌が止まった。その歌の主、セイレーンを見る。 「はっ…」 頭を貫く一筋の青い光。レーザーライフルのそれだ。 「まさか…そうか!十兵衛ちゃん!」 その光の大元、そこを辿る。その先には紅眼の狙撃兵がいた。 ・ ・ ・ 「!?」 上空に飛び上がる光が見えた。左目の能力を駆使してその光の正体を見る。 「リミッター解除………!ミーシャさん!!じゃああの神姫が…」 セイレーン…ね。 まただ…私の中の私がささやいた。 さ、交代の時間よ…。 え…? あなたはあなたに出来ることをしたら良いの。だからここは私に任せなさい、十兵衛。 あなたは誰? あら、忘れちゃったの?あなたよ?私はあなた、あなたは私。 あなたは誰? そうね…面倒だから銃兵衛にしておきましょう?だって私の出番は今だけだし。 銃兵衛さん? そう、あなたの狙撃能力を司る者。私は銃兵衛…。もう一つのあなた。もう時間が無いわ。 これ以上の犠牲を出したくないなら変わりなさい。私に。 …銃兵衛さん…分かりました。お任せします。 OK。 「X3、周囲を警戒!」 「了解、X2!」 「やるわ…」 眼帯システム完全起動。全システム同期開始。目標コア検出。電源系統検索。記憶領域を残しつつ、機能を停止させる。 って…ちょっと…接近し過ぎ…。これじゃミーシャ、あなたに当たってしまうじゃない。それにしても…あの子結構漢ね…。 理由は、さっきからミーシャがセイレーンに振り上げた拳を何度も打ち付けているから。 ん?…セイレーンが何かし始めた…。 と、思いきやミーシャの追撃が決まる。墜落するセイレーン。 が、セイレーンがキリモミ飛行をしながら上昇。もう…軌跡の予測が難しいわね… そしてまた動きが止まる。 セイレーンは手を広げ、口を開く。ふふ…隙だらけよ?じゃあ撃たせていただこうかしら。 「っ!?」 いきなり強烈な違和感が襲う。あと少しだったのに…なんなのこの気持ち悪い感覚は…。 「敵の精神波!こんな所まで!」 X3が叫ぶ。ちょっとあまり大声出さないでくれる?万が一という事だってあるのだから。見つかったらどうするの? 「十兵衛さん!」 今度はX2。 「はぁ…わかってるわよ…」 そう、今ならセイレーンは動いていないし、確かに今しかないだろう。 集中するには少し頭が痛いけど。 私は狙いを定め、セイレーンに向かって引き金を引いた。 ズキューーーン! 青白い閃光が照射される。 漆黒の闇を突き進む光。その光はセイレーンの頭部を目掛け、貫いた。 撃たれたセイレーンの顔は驚きに満ちていた。 そしてこちらを向いて?不気味な笑みを浮かべ、墜落していった。 まったく気味が悪い…。 ミーシャがそれを追う。 「やったか!!」 喚起の声を上げる兎兵 「いえ、まだ油断は禁物よ…確認が終わってから安心しなさい」 「え…?あ、はい…」 なに?その表情…そんなに驚くこと言ったかしら? 「一応周囲の警戒をお願いね」 そう言うと私はもう一度、撃った方向に顔を向け視線を定めた。 ・ ・ ・ やった…? 目の前には墜落し、ばらばらになったセイレーンだったものが散らばっていた。 ガチャ… 私はその残骸の中から一つだけ拾い上げた。 「反応無し…よし…」 やった…。 「マスター…、マスター!」 「…ザザ…こえてるよ…ミーシャ」 「セイレーンのコアを回収しました!帰還します!」 「よし!よくやったぞ!」 震えが止まらない。やった、ついにやったのだ。 十兵衛ちゃんという頼もしい力のおかげだ。なんと礼を言ったら良いのだろうか。 とりあえずおもいっきり抱きしめてやろうかな。 「お疲れ様です!あとは我々に!」 回収班のヴァッフェバニーだ。背中には作業用にサブアームが接続されている。 既に回収班の展開が始まっているようだ。 「ええ、よろしくね」 「はい、では!」 私は後を任せワゴンへ向かう。 ・ ・ ・ 「了解」 X2がこちらをむいて。 「任務完了です」 と言った。そう、終わったのね…じゃあ私の出番は終わりかしら。 「ご苦労様…」 じゃ、十兵衛…また会いましょう。 え、は、はい…有難うございました…。 礼なんて良いのよ。じゃ、またね。 「…」 終わった…。 「十兵衛…さん?」 「へ?あ、はい!お疲れ様でした!」 「うぇ?え、えぇ…」 「どうかしましたか?」 「い、いえ別に」 どうしたんだろう?なんかぽけっとしてる。 「さ、帰りましょう」 とX2さん。 「はい!マスター!やりましたぁ!」 わたしはマスターに報告する。 「おう!さすがだぜ!!帰ったら赤飯だな!」 嬉しそうなマスターの声。マスター。十兵衛やりましたよっ! 「えぇ~なんか違う気がしますよ~」 「ははは、じゃあ待ってるぞ~!」 「はい!!じゃあ戻りましょうか」 「ええ」 そして屋上から降りる時。 「あ、そうだ…」 X3さんが思い出したようにこちらに近づいてきた。 「さっきの約束よ。名前、教えてあげなきゃね」 「あぁ、そうだったなX3」 「わぁい、やったぁ!」 「じゃあ私から…」 とX2 「私の名はマヤ」 マヤさんですか。 「短い間でしたが、お世話になりました」 「ええ、あなたのおかげで勝つことが出来たわ。こちらこそ有難う」 「いえいえ、そんな。照れちゃいます」 「では次は私ね…」 「そうだな」 「私の名前は…」 「はい!」 「…セイレーン」 『…!!』 ・ ・ ・ 私はワゴンへ向かう。外でマスターが待ち構えていた。 「お!ミーシャ!!」 マスターがこちらに向かって走ってくる。 「マスター!!」 私は飛び上がり、マスターの手に着陸する。 「お帰り、ミーシャ!」 「ただいま、マスター!」 「これか…」 マスターが私の持っているものを見る。 「はい、セイレーンの頭部コアです」 「よし、早速調べよう」 「はい!」 私達はワゴンへ向かう。その時だ。 「凪?」 凪様がワゴンから凄い勢いで降りてこちらへ向かってくる。 「お~い凪!どうした?」 「大変だ!!十兵衛が!!」 「ん?どうしたんだ?」 私とマスターは首をかしげる。 「…アラ…モウキヅイタノネ…」 「!?マスター!!」 「ミーシャ、それは!」 セイレーンの頭部が動き出した。 「フフフ、ザンネンデシタ…マズハ…ウサバラシニ、アノコヲコワシテアゲル…」 それだけ言い残して頭部は再び停止する。 「十兵衛ちゃん!!」 私はビルに向かって飛び上がった。 「く、くそ!!ミーシャ!!急ごう!!」 「十兵衛ぇぇ!!」 ・ ・ ・ 「ぐ、うぅ」 動けない…。 「ふふ、良い光景ね」 目の前には旧式の神姫の姿が。 「まさか私が本体だなんて気付かなかったでしょうね?うふふ」 「こ、このぉ」 私を羽交い絞めにしているのはX3さんをはじめとする無数の神姫。恐らくセイレーンに操られてしまっている。 「まったく…貴女やあの白い子は何故か操れないのよねぇ…ほんと残念」 「くっ!」 ガシィ。しっかりとホールドされてしまっている。 一方、屋上の端っこにはX2ことマヤさんが壁に打ち付けられていた。 「じ、十兵衛…さん…」 もう動くことだけで精一杯のはずだ、それでもセイレーンに向けて銃を構える。 「貴女もずいぶんしぶといわね?」 セイレーンがマヤさんの方へ向かう。 「な、なにを…」 「ふんっ!」 セイレーンはマヤさんが手に持っている銃を蹴り飛ばす。 「はい、丸腰」 「!?」 今度は顔。 「ぐはぁ!」 今度は踏みつけ。 「がは!」 「ふん、この雑魚風情が。あまり調子に乗らないことね」 「こ、このぉ!それ以上マヤさんに近づくなぁ!」 私はサブアームに力をこめる。 「そこ、黙っていなさい」 ビギィ! 「っつ!」 サブアームが悲鳴を上げる。 「ちょうど良いから少し痛い目見なさい」 「う、うあぁぁぁ!!」 サブアームに更なる負荷がくわえられる。痛覚が私に伝わり、苦痛が走る。 べキャッ! 「イッ!アァァァァァ!」 引きちぎられる巨大な腕。気が遠のきそうになるが、痛みがそれを許してはくれない。 「く…」 「ふふ…じゃあ歌ってもらいましょうか?兎さん?」 「え…」 そう言うとセイレーンはあの精神波を放ち始めた。 「くっ!むぅぅぅぅぅ!!」 頭が痛い。気持ち悪い…。 「きゃぁぁぁぁぁ!!」 「!…マヤさん!!」 「ふふふ、これであなたの体は私の意のままよ?ふふふ」 「う、うあ、ぁ」 「さて、じゃあ開演といきましょうか」 セイレーンはそう言うと、さっき蹴り飛ばした銃を拾い上げ、マヤさんを操って手に持たせた。 「じゃあまずはぁ~こうね!」 「う、いやぁ」 本人の意思を無視して、銃を持つ腕が上がる。そしてもう片方の腕に銃口が向けられ バァン!! 「ギャァァァァ!」 撃ち抜いた。 「マヤさん!!!」 「ふふまだまだよ?こんどはぁ~こ・こ」 そう言うと左足へ。 バァン!! 「ウァァァ!!」 ガクリと崩れ落ちるマヤさん。 「もうやめてぇぇ!」 私は叫んでいた。 それに対してセイレーンは笑顔で 「ふふ、何を言ってるの?こんどは~えいっ」 バァン!! 「ぐぅっぅぅぅぅ!!」 右足を撃ち抜いた。 「いやぁぁぁぁぁ!!」 もう見たくない!私は目をつぶった。 「あら?しっかり見なさいよ?」 「!?」 め、目が勝手にぃぃぃ! 「うふ、これくらいはあなたにも通じるみたいね?」 「い、いや、いやぁ…」 見たくないのにぃ!! 「さぁ続きよ?兎さん?」 「う、うぁ…」 バァン!! 「グホァ!!」 その銃口は腹部へ。 「いや、いやぁ…もうやめて、やめてよぉぉ…」 見ているしか出来ないのか私は!くそ!なんて非力なんだ私は!!泣き叫ぶ事しかできないなんて! 「ん~意外と盛り上がらないわね?」 な、なんて事を…! 「じゃあもう用済みよ。死になさい」 「!!」 バァン…!! ドサッ… その時、兎型MMS「マヤ」は自分のこめかみに銃を向け、ためらいも無く引き金を引いた。 しかしその表情は恐怖でゆがみ、涙を流していた。 「あ、あぁ…ま、やさん…」 声が出ない。今目の前で一体の神姫が死んだ…? 私の目の前で? この…。 「さて…じゃぁ次はあなたに歌ってもらおうかしら?」 許せない…。 倒したい…この神姫を、セイレーンを…。 ワレヲホッスルカ?ムクナジュウベエヨ…。 死にたく無い…私はもっともっと生きたい…マヤさんの分まで生きなきゃ… ワレナラバソレガデキル。カワレ、ワレニ…。 「さぁ、いくわよ。良い声で歌って頂戴」 セイレーンの手が私に伸びる。 いやだ、イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!! 寄るな!触るな!いや!いや!!いや! 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 ギョイ…ワレニマカセタマエ… 「!?」 その時、目の前が真っ白になった。 ・ ・ ・ う、うぅ…い、生きてる? あぁ…痛い…辛うじて無事らしい。 良かった。私は生きている。 重いまぶたを開ける。あ、あれは十兵衛ちゃん…霧?でよく見えないけどたぶんそうだ。 そしてセイレーンもいる…くそ…あいつめ…今度は十兵衛ちゃんが…!! 「な、なんなの!」 屋上に響くセイレーンの声…何? ヒュウウウウウウウ!!! 突風がふく。 霧が吹き飛び、中からライトセーバーを構えた十兵衛ちゃんが素体状態で姿を現す。 左目の眼帯に仕込まれたカメラアイが紅く光り、一種の不気味さを醸し出している。 「…」 無言で歩を進める十兵衛ちゃん。 「こ、この!!お行きなさい!お前達!」 十兵衛ちゃんに無数の神姫が迫る。 あ、危ない!十兵衛ちゃんじゃ! ブンッ! シュバッ! 容赦なく剣を振るう隻眼の悪魔。 え、そんな…。一瞬で神姫達の首が切り落とされる。 「ふ、なに?ずいぶんと残酷ね?あなた!」 セイレーンが言う。すると十兵衛ちゃんが 「…殺してはいない…」 と呟いた。 な、私は絶句した。生きている…。斬られた神姫のコアからしっかりと起動反応が出ている。 う、うそ…そんな馬鹿な…まさかコアと体の接合点のみを斬っているというのか? 「あ、あなた…」 たじろぐセイレーン。 「…貴様は斬る…」 一体どうしたというのだろうか。さっきの狙撃時もだが、まったく別人のようになっているではないか。 「え、えぇぇぇい!もっと!もっとよ!!」 そう言うとセイレーンの後方からおびただしい数の神姫が沸いて出てきた。 「やってしまいなさい!!」 セイレーンの指示により、十兵衛ちゃんに迫る神姫の群れ。 「…」 しかし十兵衛ちゃんは次々と神姫達の首を切り落とし、何食わぬ顔でセイレーンに向かって歩を進める。 その光景に私は味方ながらに恐怖した。いくら殺してはいないといっても、そのビジュアルは見ていて気持ちの良いものではない。 「…」 「ぐっっ!!な、なんなのよあなた!!」 「…」 「ええい!!いいわ!とっておきよ!!」 と言うとセイレーンは口を開け 「アーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 歌いだした! ぐ、ぐはぁぁぁぁ!!頭がかき回される。だめ、今度こそ駄目!! 「アーーーーーーーーー!ガッ!?」 が、すぐに歌が止まる。 いつの間にかそこに十兵衛ちゃんがいた。 さっきまでセイレーンとの距離はかなり開いていた。 でも今、セイレーンの目の前にいる。 神速。そんな単語が出てきた。 そしてセイレーンの首には 「がっ!は…」 十兵衛ちゃんのライトセ-バーが突き刺さっていた。 「…十兵衛…」 十兵衛ちゃんは呟く。 「!?」 「…我が名は十兵衛…刻むと良い…」 「ぎ、がはっ」 セイレーンは声にならない音を発している。 「…刹那の見切り誤まりしが、運のつき…」 「!?」 その瞬間繰り出される剣戟。頭部コア以外のセイレーンのパーツがバラバラに切り刻まれ、舞い上がる。 「…秘剣…乱れ桜…」 十兵衛ちゃんはそう呟いた。 乱れ桜…確かにそうみたいだ…舞い上がったパーツがはらりはらりと舞い落ち、散る桜を連想させる。 綺麗…不覚にもそんなことを思ってしまった。 ピーピーピー…アラームが鳴る。 強制シャットダウンに移行します。と表示された。 そうか、さすがに無理しちゃったかな私…。 あぁ、まぶた重いや…それにしてもかっこよかったわよ…十兵衛ちゃ…ん。 そこで私の意識が途切れた。 ・ ・ ・ 俺は走る、ひたすら走る! 「はぁ、はぁ、はぁ!」 十兵衛!待ってろ!!今行くからな!! 階段を駆け上がり、一目散に屋上を目指す! 見えた!!あれか!!!俺はドアノブに手を伸ばし、一気に開く! ガチャン!! 「十兵衛!!!!」 こぉぉぉおぉぉぉぉ… 吹き抜ける風。朝日が出てきている。そうか、もうそんな時間なのか…。 朝靄が広がっている。 靄の間からビルが顔を出し、一種の幻想的な風景を見せている。 その靄の中。紅く光る左目を持つ一体の武装神姫が佇んでいた。周囲には大量の神姫が倒れている。見るとすべての神姫の首と体に分解されていた。 「じ、十兵衛…?」 その異様な雰囲気に息を呑む。 十兵衛は俺の声に気付き、振り向いた。 「…主…」 そう呟くとこちらに歩いてきた。 俺も十兵衛に向かって歩き出す。ある程度近づいたところでしゃがんだ。 「大丈夫か…十兵衛…」 「異常は無い…」 ぼそりと呟く 「主…後は頼む…」 そう言うと十兵衛は俺の手の中でぱたりと倒れた。 「十兵衛!?」 「くぅ~…」 寝息…か……びっくりしたぜ…。 きっと想像を絶する体験をしたんだろうな…。よくがんばったぞ…十兵衛。 「凪!十兵衛ちゃんは!」 「十兵衛ちゃん!!」 と創とミーシャが入ってくる。そんな二人に俺は人差し指を口に当てて合図した。 「し~~~~~」 「凪?」 「あ、十兵衛ちゃん…」 「寝ちまった。疲れたんだろ」 俺達は可愛らしく眠る十兵衛を覗き込んだ。 「よく寝てる」 とミーシャが俺の手に降り立ち、十兵衛の頭を撫でた。 「お疲れ様、十兵衛ちゃん」 「うん、そうだね。本当にお疲れ様、十兵衛ちゃん」 二人がねぎらいの言葉をかける。 「よし、ミーシャ、回収班に連絡を、後の事は任せよう」 「了解。マスター」 「凪」 「ん…」 「とりあえず本部に行こう。十兵衛ちゃんの損傷箇所やら武装やらを治さなきゃ」 「あぁ、そうだな」 俺は屋上から出る時、もう一度景色を見渡した。朝日が俺達を照らしている。 明るく、まるで太陽が十兵衛を祝福しているようだ。なんかそんな感じがした。 こうして、一つの戦いが幕を下ろし、新しい日々が幕をあけた。 [[第七話も読む><冬の日>]]