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 ―AM:10:44 March XX, 203X.
 ―Rest Station, 1F.
 
 予選リーグが始まって10分程度が過ぎ、二戦目の敗北者達がぞろぞろと現れかける頃。
 本格的な祭りの始まりとなろうとしかけていた。
「これまでに解体したのは、『愚者』、『魔術師』、『法王』、『力』、『節制』、『塔』の6つだ。見当がついていたのもあったとは言えこのペースで進めることが出来れば、初日から先手を打てることだろう」
 と、ミラは机の上にいる烈風達に語った。
 8時40分くらいから解体を始め、僅か1時間半で6つもの解体に成功したのは快進撃と言うべきだ。
「んで、他に見当がついている奴はあんのか?」
 と、最初に烈風が訊ねた。
「ふむ、『運命の輪』と『正義』と『吊された男』は、ほぼ確定したようなものだ。だが、これからの爆弾は解体方法が独特のものとなる可能性が高い。因って、これからは役割分担を行なわず、一つの爆弾に対し君達の中で最適と判断したのに行なわせたい」
 最初は分担せざるを得なかったが、これからはもっと慎重に挑まなければならないのかもしれない。
 そこで震電が挙手してきた。
「ドーム上空で発見された『THE LOVERS』と『THE MOON』と『THE SUN』の三種だが、三つともまだ起動していなかった」
 それを聞いたミラは少し意外に思ったが、すぐに納得したらしく返答した。
「私の推測では、『月』と『太陽』を意味する爆弾は、開閉式ドーム付近で見つかったのではないか?」
 その問いに震電はこくりと頷いた。
 嫌な予感はしていたが、光学センサー式爆弾が二つも用意されていたという事である。開閉式ドームと言う大掛かりなギミックが、『月』と『太陽』にどのような影響を齎すのか。
「それで、『恋人たち』は何処に仕掛けられていた?」
「大型トーナメント表付近にあった」
 ミラは更に新たな難題にぶつかってしまった。『恋人たち』とは基本的に喜ばしい意味、特に恋愛成就の時に出ると嬉しいカードと錯覚されがちだが、おおまかには『選択』を意味する。
 選択、少なくてそれは二者択一となるそれが何故、トーナメント表に仕掛けれらているのだろうか?
 少なくとも、トーナメント表が使用される、二日目の決勝リーグにならなければ答えを導き出すことは出来ないのかもしれない。
「……参ったな、全く見当がつかないとは…」
「それは~明日になってから~考えればいいじゃない~?」
 悩めるミラを、連山はミラの頭に登って優しく撫でてあげるのだった。
「明日にならないと解除出来ない…その可能性もあるか」
 そう言うとミラは立ち上がって、震電と連山の二体をトランクの中に入るように指示し、目指すべき場所に向かって歩き始めた。
「おわっ、ボクを置いていくなーーーっ!!」
 
 
   ANOTHER PHASE-04
                『Silhouette of Tarot』
 
 
 ―AM:11:07 March XX, 203X.
 ―West Passage, 1F.
 
 ここは何てことはない西側の通路である。予選試合を見に来たオーナーが少し出歩いている程度で、近くには売店がある程度だった。
 何てことないそんな通路にて、ミラが求めるものを見つけた。
「後、3分か…!」
 ミラが探し求めていたのは、壁に掛けられたアナログ式の時計だった。昨日のうちに、全ての小物の位置も把握しておいたのだった。
「烈風、あの時計の周辺を調べてくれ。私の勘が正しければ……」
「へいへい、何かあるんだろ何か」
 渋々ながら烈風は黒い翼を羽ばたかせ、壁掛け時計の近くに寄った。
 時計の上部や脇を調べていると、
「おっ、ミラぁ~ビンゴだぜ。輪っかのカードで逆さまじゃないぜ」
 と言って、烈風は時計のある箇所に人差し指で指した。そこには8×4ミリ四方の金属製のカードが取りつけられていた。
 ミラはすぐにその時計の近くまで寄って、時計の近くで羽ばたいていた烈風を呼ぶ。
「やはり、『運命の輪』だったか。よく聞け、この時計の長針が10分丁度を指し示す一瞬だけが解除のチャンスだ」
「道理で、蓋らしいモンがないと思ったぜ」
 そう言いながらミラが時計を見上げると、秒針が11時10分まで後1分を刻み始めたところだった。烈風は、制御装置の動きそうな箇所を狙った。
「烈風、中にあるのがコードではなく、プラグかジャンパー(回路を繋ぐ為の鉄線)である可能性もある。今回はレーザーで切断、プラグなら即効で引き抜くんだ」
「チッ、超タイミング勝負じゃねぇかよ」
 そうこう言っている間に後、20秒となった。
「失敗したら、また一時間後にやり直しだ」
「うるせぇ、余計なプレッシャーをかけんじゃねぇ!!」
 
 残り、5秒。
 烈風は右手にレーザーを持ち、左腕は装置に向けて真っ直ぐに伸ばしていた。
(「まだか、まだかよ……っ!!」)
 そして、時計の秒針が真上を向き、長針が10分を指し示した瞬間、制御装置の一部がスライドした。
(「くっそ、やっぱこれかよ!?」)
 その中に見えたものを即座に見分け、烈風は左腕を差し伸ばし、制御装置の中に手を入れた。
 その一瞬の後、制御装置の蓋がスライドして閉ざされた。
 ミラはその結果に納得して、
「上手くいったようだな」
 と、烈風の左手に握られた小さなプラグを見つめた。
「へへっ、この程度なら楽勝過ぎ……てぇっ!?」
 満足しかかっていた烈風だったが、制御装置に緑色のダイオードが輝いていないことに気づいた。
「残念だが、それでは完全な解除とは言えない。『運命の輪』は10番目のカード。ありふれたアナログ式時計に仕込んだ事を考えれば、制御装置には共有性があり全ての解除を達成して初めて『運命の輪』の解除と見なされるのだろう。そして、『運命の輪』の制御装置は後9箇所だろうな」
「う、嘘だろ…」
 げんなりする烈風だったがミラは追撃に、
「更に言えばこの位置から、ドームを時計回りにアナログ式時計を探して解除する必要があると見た。そして次は12時10分に次のアナログ式時計を見つける必要がある」
 この、『運命の輪』の解除には最低でも10時間も掛かる。だが、今日中に全ての『運命の輪』を解除しようとすれば、深夜までこのドームに居座り続けなければならない。だがそれでは神姫のバッテリーが持たない。
 となれば、続きは明日に持ち込んで解除を再開する必要がある。
「…すっげぇ、やる気削がれたんだけど?」
 ひらひらと、ミラの方に軟着陸してへたり込む烈風だったがミラは、
「いいから、他の場所を調べに行くぞ」
 烈風の気疲れを他所に、ミラは別の場所へ向かった。
 
 
 ―AM:11:46 March XX, 203X.
 ―Main Electricity Floor, B1F.
 
 現在は予選リーグが開催されている予選会場の32台のV.B.B.S.筐体及びその他の施設に電力が賄われており、電力制御室そのものは薄暗かった。
 ドームの電力を統括するエリアに、一般人など立ち入る事は許されないが、無断で立ち入る事は可能ではある。もっともそれは、悪巧みをしようとする人間の話だが。
 電力施設なだけあり相当なの広さを誇る。烈風達に、ミラ自身も慎重に隅々を見渡して爆弾を発見しようと務めるが……。
「絵柄的に電気と関係のある『塔』は既に解除した……が、ここが停止すれば数億円近い損害が出る。それに、VR筐体の命綱を『アルカナ』が見落とすとは思えない」
「でも~~全っ然見つかんないよ~~っ!?」
 と、コンデンサーらしき設備の奥から、連山の草臥れた声が聞こえてきた。
 かれこれ30分以上ここを探索しているのだが、烈風が火薬の匂いを感知することも出来ないまま時間を浪費していた。
「おまけにこういうのって、必ず予備電源があるんだからよ……」
 ここから予備電源室まで更に数十メートル以上の距離となる。そちらにも仕掛けられているなら非常に厄介だが、そちらにだけ仕掛けられている可能性は皆無だと言える。
 主が停止しての予備なのだから当然だ。
『……ミラ、連絡だ』
 その時、震電から連絡が入った。
 烈風も連山もそうだが、無数の電量設備の障害物で各自が分断されてしまっており、頼りになるのは大声か通信だけである。
「爆弾を発見したのか?」
『……いや、そうではないが天井部の通気ダクトに、微かなズレを確認した』
「ならば至急、ダクトに潜入し…」
 すると震電にしては珍しく困ったように、
『…不可能だ。手持ちのツールでは、ダクトの蓋を開ける事が出来ない』
「ふむ……震電、君は今何処にいる?」
『制御用端末の近くだ』
 ミラは暫く考えた後、
「分かった。烈風と連山を呼集して向かおう」
 
 
 ―2 Minute passed... 
 
 空を羽ばたいて戻ってきた烈風と、電力施設の迷路で迷子になっていた連山を呼び戻し、ミラは震電のいる位置に向かった。
 コンソールにもたれかかっていた震電が無言で指を示した先に、狭いダクトがあった。
「…あのネジを外したいのだが、もっと大型の工具でなければ不可能だと判断した」
「なら、ぶっ壊しゃいいじゃねぇか」
「……烈風、ここは他人の施設だ。トレーニング筐体ではない」
 それはほんの数ミリ程度のズレだったが、ダクトを固定する9mm近いサイズのマイナスの丸頭ネジが微かに緩んでいたこともあり、疑いが益々濃くなっていった。
 震電の言うことは確かなのだが、
「と言われても、私は点検作業員ではないし、力尽くで破壊する訳にはいかないし、工具を借りにいけば次の『運命の輪』に間に合わない……」
 目の前の事も大事だが、これからの事がもっと大事になる。
 工具が無ければ……そう考えた時、連山が言った。
「ね~~! これ使えない~~っ?」
 と言って、ミラのトランクに潜り込んでいた連山が取り出したのは、騎士型神姫の武装である戦斧『クリニエール』だった。ドライバーとは形状がまるで異なるが、マイナスの溝にはピッタリと合うことだろう。
 ミラも同じような事を考えていた最中であり、連山からクリニエールを受け取る。
「震電、代用品にはなる筈だ」
「……ふん、笑ってばかりと思っていたが」
 震電はミラからクリニエールを受け取ると、”フレスヴェルグ”の上に乗ってダクト付近まで上昇した。
 神姫用の戦斧として設計されたそれでネジを回すにはややコツが必要だったが、刃の背を支点にしつつ、押さえつつも柄の端で反時計回りに捻れば……何とか神姫でも回すことができた。
 蓋を押さえる四隅の内の三つのネジを捻りきって、外れたネジをミラに手渡す。残り一本のネジは軽く緩める程度にし、ダクトの蓋をくるりとスライドさせた。
 更に”フレスヴェルグ”を上昇させ、震電はダクト内部の様子を見つめていたが、
「……ミラ、ここからでは爆弾を確認出来ない。だが、『THE HERMIT』の正位置を確認」
 とだけ告げた。タロットが見つかった為、ダクト内部にあるのは確実だが、すぐ近くに爆弾がある訳ではないようだ。それに対しミラは、
「震電。『隠者』は、”真理の探究”を意味する。暗くて果てしない通気ダクト内部を探求し求めよ……と言うことだろう。だが、真理と言う名の爆弾の探求に無駄な時間を掛ける訳にはいかない。そこで君に、ダクトの奥へ潜りこみ、何処にあるか分からない爆弾の解体を命令する。爆弾を発見次第、私に連絡を」
 それはあまりにも無謀な賭けだったが、
「……初めからそのつもりだ」
 それだけを告げると、震電は”フレスヴェルグ”をグライダーの様に乗ると、ダクトの中を高速飛行していった。
 
 
 ―4 Minute passed... 
 
 私は嘗て、アメリカでもダクトの内部を飛んだことがあった。
 恐ろしく狭い上に、赤外線ゴーグルが無ければ何も見えない暗闇の迷宮。そんな場所を自動車並みの速度で飛行するなど正気の沙汰ではないと、私の最大の友人が言った。
(「…左折を確認。時速12mphに減速しつつ左へ90度ロール開始」)
 だが、やらねばならなかった時があった。いつの事件だったか、”IllegalType”同士を戦わせる裏リーグ、通称『アナザーデュエル』を摘発する為に、廃ビルの通気ダクト内部を飛んだことがあった。
(「ブースター角度調整。ライト及びレフトピッチ+30度、ライトヨー-22度・レフトヨー+22度」)
 それで、神姫BMAの協力を経て摘発に成功はしたが、廃ビルのオーナーが地下を爆破しミラもろとも『アナザーデュエル』の証拠を消し去ろうとした。
(「レフトターン成功。全ブースター角度修正、再度時速25mphを維持」)
 ミラがどうやって脱出したか聞かされていない。だが、私の逃げ道は偵察に利用した通気ダクトだけだった。迫り来る炎から逃げる為、ビルから2秒で脱出する必要があった。だが私は、あの時の出来事を恐怖と感じたことはない。
(「前方28フィートに微光を放つ異物を確認。エアブレーキ開始」)
 何故なら、精密機器の塊である私に可能な事だったからだ。
 私は微光を放つそれに、数十インチ程の距離を取って”フレスヴェルグ”を停止させつつ、
「……目標捕捉。これより解体に移る」
『そうか、流石に早い。第一段階は終了かな』
 私は『THE HERMIT』の爆弾に近づき初めに検流チェックを行い、次いでビスを外しに掛かる。
 そして蓋を開けると、9本の差込口に2本のプラグを確認した。
「……3×3のプラグ差込口と、2本のプラグ、9つの緑ランプを確認。プラグを差し込むことで制御装置が作動する模様」
『計36パターンか……が、【隠者】のテーマは探求だ。パターンを間違えたところですぐに起爆するとは思えない。落ち着いて正しく二つのプラグを差し込むんだ』
「…了解」
 通信を切ると最初に、左上の差込口に一本目のプラグを差し込んだ。後は、二本目のプラグを順番に差し込んでいき、それで駄目だったら一本目のプラグの位置を変え、また順番に差し込んでいく。その度に取り付けられた緑色のランプが幾つか点灯するが、恐らく全て点灯しなければならないのだろう。
(「14パターンで駄目か」)
 手間と時間が少し掛かるだけで全く難しくもないが、短気な烈風にやらせたら、多く見積もっても5分以上は浪費しそうだ。
 まだ始まったばかりだ。30秒程度で頓挫してはならない。
(「22パターン…」)
 一本目のプラグを四本目の穴に挿し込みすぐ隣に二本目のプラグを差し込んだ瞬間、九つの緑色のランプが全て点灯した。
 私は通信ユニットを取り、ミラに連絡を取った。
「9つ全ての緑ランプの点灯を確認。装置からの電力、低下中」
『震電、お疲れだ。来た道くらいは戻ってこれるな?』
「無論」
 私は通信ユニットを切って、半身とも言える”フレスヴェルグ”を稼動させつつ、Uターンした。
 
 全ての解体が終わったら私は、この国の空を最高速度で飛び回りたいと思った。
 これはこれでスリルはあるが、ダクトの中では心地良い風を感じることが出来ない。
 
 
 ―PM:12:11 March XX, 203X.
 ―NorthWest Passage, 1F.
 
 電力制御室での解体を終えて震電を回収し、烈風が二つ目のアナログ式壁掛け時計に仕掛けられた制御装置を難なく解除した後。
 次の爆弾の設置箇所の目処は立っているが、
「流石にそろそろ、休憩を取っておくか」
「あぁ? なんだってこんな時に……」
「私の体が求めているのだ。と言うより空腹で頭がイマイチ働かない」
 単純明快な話である。そう言ってミラは軽く身体を伸ばした。
 実際に爆弾解体を行うのは烈風達3体の神姫だが、初日の午後を迎える前に22個中7個もの解体成功までに導いたのは他ならぬミラである。
 幾ら烈風達3体がまだ大丈夫であっても、ミラ自身が昼食時なのである。
「何処で何を食べるとするかな…?」
「アメリカはさほどじゃねぇが、日本のこういうとこの売店は結構金を取るぜ~。ま、健康への良さならこっちに軍配が上がるだろうけどよ」
「…烈風、君は何処でそんな知識を覚えてくる?」
 なんて喋りながら取り敢えず警備隊本部に戻ろうとしていた時、ある広告が目に入った。
「喫茶店『LEN』……?」
「何だよミラ、気付かなかったのか? 昨日からでっけぇトレーラーが出入りしてたじゃねぇか」
 烈風に突っ込まれてミラは思い出そうとするが、
「…他の企業のトラックじゃなかったのか?」
「おいおい、ミラはそうやって考え事をしながら歩いているから周りが見えてねぇんだ」
「やれやれ、烈風はそうやって余所見などしているから肝心な事ばかり見落とすのだ」
 子供の喧嘩以下の反論だった。
「しっかし驚いたぜぇ、唯のトレーラーだと思ってのが目の前で変形してよぉ、唯の空き地をオープンカフェに変えやがった」
「そうなのか、日本にもなかなかの趣味人がいるようだな。折角だし寄ってみるか」
 
 
 ―PM:12:36 March XX, 203X.
 ―Tearoom『LEN』, Booth area.
 
 カウンター席の前にてミラは、メニューを片手に大いに悩んでいた。
「ふむ…何を食べるべきかな?」
「それを、ボクに聞いてどーすんだよ?」
 暫し熟考。マスターらしき女性がちらりと見つめたようだが、ミラは気付かなかった。
 取り敢えず、コーヒーを注文してもう少し考えてみる。
 久々になかなか美味しいコーヒーを飲みつつ、また暫し熟考。
「いっその事、縁起担いでカツサンドにすりゃいいじゃねぇか」
 アメリカ出身の神姫らしくない発言である。無論、チキンサンドは初めから目に入っていない。
「”三度”は確定した。だが、四度目は保障出来ないな」
 ミラもこれまた、らしくない発言をする。ついでに、飲み干したコーヒーの追加を頼む。
「じゃあ、ウインナー辺りはどうだ? またコーヒーになるけどよ」
「私は手の上で踊らされ続け、”勝者”気分は奴だけだろう」
 いい加減にしろと烈風がキレ掛かっていた時、メニューの隅にあるものを見つける。
「おい、梨のフルーツサンドだってよ。もう文句は無しだ」
「成る程な。為しで成し、か…良い感性だ」
 と、ミラはこれで妥協したようだ。
 この結論に至るまで、厚かましくもコーヒーを8杯も追加したのだった。
 
「ここはランチもコーヒーも美味しい。明日も寄ろうか」
「明日もナニ頼むかって迷ってんじゃねぇぞ、オイ?」
 実に迷惑な話である。
 
 
 ―PM:13:19 March XX, 203X.
 ―NorthWest Passage, 2F.
 
 喫茶店でのんびりとしていたお陰で、『運命の輪』の三つ目の制御装置の解体に出遅れそうになったが、何とかギリギリのところで解体に成功する。
 よりにもよって、人の集まりやすいレストランに設置されていたが、ミラが周囲の気をひきつけている間に烈風が解除した。不審だったかもしれないが、一般人の視線を時計に集める訳にはいかないのだ。
 その後暫く烈風に怒鳴られたが、取り敢えず現在は順調なところである。
 ミラは内部の通路を経て、観客席に出ていた。休憩時間と言うこともあり、ここに残る一般客はあまり多くはない。明日の第四試合はもう少し経ってからとなるのだろう。
「さて、座席を調べまわる。と言っても、こんな目立つところに仕掛けられている可能性は非常に低いが、座席にも1から22まで番号は割り当てられている。震電・連山、君達も協力して欲しい」
『了解した。”フレスヴェルグ”……スタンバイ』
『ね~ほんとに22番までの座席だけで大丈夫なの~?』
 と、最初にトランクから連山が飛び上がってきてミラに尋ねてきた。
 この特設ドームは一万五千人も収容出来る。1から22番に割り当てられた座席など、ほんの一握りに過ぎない。
「出来れば調べておきたいところだが、不必要に他の箇所を調べても時間の無駄だ。それにタロットは22までしかない。烈風は北部座席、連山は西部座席、震電は東部座席と南部座席のチェックに廻って欲しい」
「へいへい……こんな場所にあるとは思えねぇけどなぁ」
「天竺行かないけど~いざ西へ~♪」
「……」
 と、各々が何かを言いながら分散して行った。
 ミラ自身、あまり期待していないが、タロットが絵柄だけでなく数字もある以上、数字が割り当てられている箇所は徹底的に疑うべきなのだ。
 
 
 ―15 minute passed...
 
 そして、烈風達3体が戻ってきた。
「何か発見、或いは異常は?」
 と、ミラが尋ねるものの烈風は、
「あるわけねぇよ、やっぱ…」
 と答え、震電は首を真横に振るうだけだった。
 ところが連山がミラの前に出てきて、あるものを差し出してきた。
「見つかったのは~これだけだよ~?」
「……何処で見つけた?」
 それを見たミラは一瞬ハッとすると、連山に聞いた。
「西C列の~3番座席の真下に~何故かテープで固定されてたよ~??」
 それを聞いてミラは、近くの座席に座りながら一人考え始めた。
 連山が持つ、30ミリ程の小型ボトルは数時間前、烈風が見つけたものと同じものだ。
「そうか。数時間前の第三番筐体。そして客席の3番……3そのものは『女帝』を意味する。だが見つかったのは爆弾ではなく謎のボトルか…」
 ミラは二つも手に入った謎の小型ボトルに興味を示した。すると連山に、
「…少し近寄ってくれ。蓋を開けて、私の顔の近くまで寄せて欲しい」
「ふみゅぅ~…?」
 と、言われるがまま連山はミラの言う通りにして、ミラの顔の近くでボトルを開ける。
 ミラはそのボトルに集中し、手の平をゆっくりと扇ぐ。
 そして何かに気付くと、ミラは連山に蓋を閉じて保管する様に命令した。そして軽く呼吸して、
「間違いない。無臭ながら鼻腔を微かに焼くような……これは、人体に有害な化学物質だろう。烈風が持ってきたほうも恐らくな」
「「「!?」」」
 烈風達3体は、ミラのその意外な結論に動揺した。何故そのようなものが、”3”に纏わる場所にて発見されたのか?
 それも爆弾ではなく、劇薬らしきものが唯の小さなボトルに詰め込まれているだけだ。
 暫くして、震電にあることが閃いた。
「…3に係わりのある他の場所が怪しい。今日、調べていない他のところだ」
「流石だよ、私もそう思っていたところだ。だが、3に纏わる場所は多い…」
 分からない事ばかりで、ミラは考え込んだ。
 そもそも、3番目のカードである『女帝』にはどのような由来があっただろうか。
「正位置にしても逆位置にしても、これは位置に関係するとは思えない。とすると、絵柄に意味がある筈だ。大いなる母性にして…三つにして、『女帝』が作る第三の存在が二つを調停し…大地を象徴し………いや、確か」
 そこまで言ってミラは何かに気づいたようだったが、烈風達はまるで付いて来れないようだった。
「一つがV.B.B.S.筐体にあり、二つが客席。戦う者と眺める者は大会を構築する重大な要素。だが、それだけで大会は成立しない。それを進行させて……そうか、私の勘が正しければ」
 震電と連山にトランクに入るよう指示をして、ミラはすっくと立ち上がった。
「選手と観客、そして進行役がいて初めて大会が成立する。放送席を調べに行ってみるか」
 
 
 ―PM:13:40 March XX, 203X.
 ―Broadcasters Studio, 2F.
 
 警備員にIDカードを見せ、部屋に通してもらった。放送室は翌日から使われるので誰もおらず、綺麗に掃除されているくらいだった。
 ここから会場の殆どは見渡せる上に、向かい側に巨大スクリーンがあった。
 他にもサブモニターや予備マイクなどの十分に整った設備は、実況及び解説などを適切に行う事が出来る最高の環境だった。
「烈風、匂いは?」
「あぁ、バッチリだ。けど、二つ程混じってやがる」
 明日になればこの部屋で空調設備が稼動する。そうなれば、異臭に感づく可能性は低下する。
「二つ、だと?」
「あぁ。両方とも可燃物にゃ違いねぇんだが…片方はカーリットなんだが……」
 烈風が匂いを頼りに辿ると、壁の配電盤に行き着いた。
 ミラは近くのリーダーにIDカードを通すと離れ、次いで烈風が配電盤を慎重に開ける。
「……やはり、『女帝』だったか」
 それを見てミラは静かに呟いた。それは、豊かなる女性の胸像を模った分厚いプレートだった。明らかに世間的に浸透する時限爆弾のイメージからかけ離れたものだった。
「正位置の『THE EMPRESS』だぜ。どうするよ?」
「解体を始めてくれ。それと震電、連山」
『…何だ?』
『えっ、なぁに~?』
 震電と連山は不意に呼びかけられ、トランクの中で返答した。
「例のボトル、二本とも出してきて欲しい。それと震電には……」
 小さな声で烈風にはよく聞き取れなかったが、
「…了解した。大至急、調達に掛かる」
『分かった~♪』
 
 
 ―1 minute passed...
 
「やっぱ二種類か」
 プレートの撤去に成功した烈風は、中のものを見て感心した様に呟く。プレートの半分以上がメインの火薬で占めており、残りのスペースに小型タンクと、その着火装置が取り付けられていた。
 ミラはそれを遠くから眺め、烈風に指示を飛ばした。
「烈風、そのタンクが『女帝』の制御装置だ。時限装置が取り付けられていないところを見ると、これは遠隔操作による爆破を行うものと見て間違いない」
「うぉ、マジかよ…!?」
 ミラの言葉を聞いて烈風は少し後ずさりする。
「だが、センサー類は極めて少ない筈だ。従来のアルカナのセオリー通りなら、人間が最優先で手を伸ばす…メイン火薬及び着火装置に仕掛けられているはずだ」
 そのアドバイスを受け、烈風は慎重に調べまわる。
「…ほんとだ。感圧及び温度ってとこか。つーと、手を触れるべきは小型タンク部分でいいのか?」
「間違いない」
 はっきりと頷くとミラは、
「これより解体に移る。先ずは、小型タンクの蓋を外しに掛かれ」
「もう一つの匂いがする奴だな…と」
 烈風はミラの言葉に従い、小型タンクの上部の蓋を慎重に取り外した。その匂いを嗅いで烈風は違和感に近い不思議な感覚を受けた。
「これまでに嗅いできた匂いと全然違うな……ガソリンでもナフサでもない」
「烈風、取り外した蓋を私のところに持ってきてくれ」
 と、ミラに言われるがまま烈風は取り外した蓋をミラのところまで持っていく。
 烈風が持つ蓋から漂う微かな匂いに、ミラは意識を集中させる。そして、
「…やや不純物が混じっているが、これは植物性油脂だ。パーム油か松根油だろう」
「おいおい?何でそんなものを起爆剤に使うんだ?」
 烈風がそう問いかけた時、”フレスヴェルグ”に乗った震電が戻ってきた。
 その手には細長い棒のようなものが握られていた。
「……ミラ、本当にこんなものが良いのか?」
 と言って、ミラに手渡したのは太さにして2mm程度の細長いストローだった。震電は、先程通った『LEN』と言う店で、店員に頼み調達したのだった。
「それが最適と判断した。震電はこれでトランクの中で休憩。烈風はこのストローを持ってタンクの前へ。連山も同様に、二つのボトルを持って烈風の傍に立って私の命令を待て」
 次々と指示を飛ばしていくミラは、蓋に付いた微かな匂いを嗅いだ時に確信を抱いていた。
 二つの液体のボトルと、効率悪くも着火用の燃料をわざわざ拵えた爆弾。嘗ての解体の時もそうだったが、『アルカナ』の爆弾は解体可能であることを前提にしてあるのだ。
 烈風と連山は爆弾の小型タンクに慎重に近寄って、ミラの指示を仰いだ。
「お~い、どうすればいいんだ?」
「えへへ~共同作業だね~♪」
 連山だけはなんともお気楽だったが、次の『運命の輪』が待っている。
 他の爆弾もそうだが、ここで時間を掛ける必要はない。
 
「先ずは烈風、ストローをタンクに挿し込みゆっくりと中身をかき回せ」
「そうかい…ったく、これで解体作業なのかよ?」
 文句を零しながらも烈風はミラに言われたとおりの事を行う。
 かき回しているそれが燃料でなければ、科学の実験につき合わされているようだ。
「そろそろ十分か。烈風はストローを止めて連山、一本目のボトルをタンクに注ぐんだ」
「あいよ~♪」
 と言って連山は小型ボトルの中身をタンクの中に注ぎいれた。すると…。
「お、おいミラ! 何かタンクの中身が濁って少し固まってきたぞ!?」
「びっくり~魔法のボトルだったのね~♪」
 それを聞いたミラは、確信だったものが絶対に変わった。大方の予想が確かな結果となったのだ。
「烈風、いいから急いでその状態でかき混ぜろ。ほぼ均一になる様にな」
「わ、分かったよ…」
 何が起きたか説明されず不満だったが、従うしかない。後で聞けばいいだけの事だ。
 暫く経ち、
「烈風、具合は?」
「ほぼ均一だと思うぜ。ドロドロしていて気持ち悪ぃな」
「烈風は再びストローを止める。連山、二本目のボトルを」
「はいな~♪」
 先程と同様に連山は二本目のボトルをタンクの中に注いだ。今度は大きな変化こそ無いものの、内容物が益々粘性を帯びてきたようだった。
 だが、解除を示す緑色の発光ダイオードが時折、ちかちかと点滅していた。
「烈風、攪拌を継続しろ。連山は解除ランプが安定するか確認を」
「チッ…やればいいんだろ、徹底的に!」
「れっぷぅ~がんばれ~♪」
 烈風はやけになって内容物をかき混ぜた。
 そして…。
 
「烈風、終わりだ。成功した」
「グリーンのランプが~ずっと点灯される様になったよ~♪」
「……?」
 気が付けばタンクの中身は最初に見た色よりはるかに淡く、白っぽく濁っていた。そしてほんの微かにだが固まり始めていた。
「おいミラぁ、これはどう言う事なんだ?」
 烈風と連山は胸像を模ったプレートを閉じつつ配電盤から降りた。
「説明がまだだったな。『女帝』の正体は石鹸だったと言うことだ」
「はぁ、石鹸だとぉ!?」
「わ~まるで科学の実験~!!」
 烈風は驚愕していたが、連山は何だか分からず楽しそうだったので笑った。
「あのタンクに入っていたのは、植物性油脂だった。そして二つのボトルに入っていたのは、水酸化ナトリウムの水溶液だった。二つの物質が交じり合う事で鹸化という化学反応を起こし、植物性油脂だったものをグリセリンと高級脂肪酸塩に分解……即ち石鹸になったということだ」
「そーなのかー」
 連山は、理解できたかどうか分からないがそう答えるも、烈風には未だ疑問があった。
「で、どうしてランプがちかちかしたんだ?」
「タンクの中のpH値を検出するセンサーが仕込まれていたのだろう。アルカリ性の強い状態で反応する…な。一応、元々の物質よりも遥かに燃やしにくい物質になったから、解体に成功した事にはなる」
 烈風にはミラの言うことが中途半端に理解できたようで、
「ま、上手く行ったならいいけどよ……そろそろまずいんじゃねぇか、時間?」
 それは、残された『運命の輪』の次の解体の時間である。
「烈風の手際が良かったお陰で後10分だ。さて、急ぐか」
 ミラは連山をトランクに収容し、烈風を肩に担ぎつつ配電盤の蓋を閉じた。
「ところでよぉ、ボトルとストローはどうする?」
「ボトルは欲しいなら貰っておいてもいい。ストローは……適当なゴミ箱に捨ててやる」
 
 
 ―PM:14:09 March XX. 203X.
 ―North Passage, 1F.
 
 優美な装飾が為された大きな時計を前に、烈風は黒き翼をはためかせ睨む。
 そして、長針が『2』をぴったりと指した瞬間、時計の近くに付けられた装置の一部がシャッターのように開いた。烈風は即座に手を伸ばし、中に差し込まれたプラグを抜き去った。
 深い溜息を交えて烈風は、
「や~れやれだぜ。プラグもこれで4本目だぜ」
 ミラの元に戻りつつ、手の平の上で抜き去ったプラグを玩んでいた。
「お疲れだ、烈風。今日の作業は7時までと予定している。明日で、最後の時計を解除する」
 烈風に労いの言葉をかけ、烈風が投げつけた小さなプラグをキャッチした。
「しっかし、何でプラグなんだろな」
「きっと、最後の10番目で使うからだろうな」
 そう言いながらミラは小さなプラグをトランクの隙間に投げ入れた。大体は自分でやるとは言え、神姫サイズ以下の部品を収容する際は震電が中で整頓している。
「そんで、次の奴の目処は立ってるわけ?」
「『女帝』の次とくれば『皇帝』だ。父性にして権力、そしてリーダーシップを意味するとなれば、設置されている場所はかなり限定される」
 
 
 ―PM:14:22 March XX. 203X.
 ―General-Center of 『Houjouin-Group』, Booth area.
 
 ミラが訪れたのは、鳳条院グループ企業ブース兼総合本部。
 ブース内部では様々な製品が展示されていたが、全く目もくれず真っ直ぐに歩く。
「お客様。そちらから先は一般人の立ち入りを禁じております」
 スーツ姿の男に声を掛けられたが、ミラはIDカードを取り出しスーツ姿の男に見せる。スーツ姿の男の胸のネームプレートには、渡辺と記されていた。
「関係者だ、こう見えて一応な」
「え? 警備担当……? し、失礼しました」
 渡辺と言うスーツ姿の男は詫びると、おずおずとミラに道を空けた。
「立場的には、私服警備員というところだろうな」
 それだけ言うと、奥の本部へ足を踏み入れ進んだ。
 
 奥には、テーブルの上に乱雑に散った書類の海と、涎を垂らして眠っている………女の子が一人?
 十台半ばか後半程だろうか、それにしても随分と幼い顔立ちである。何処か幸せそうな表情から察するに、きっといい夢を見ているに違いない。
「何だありゃ」
「多分…関係者の連れ子だろう。それは別にいいといて烈風、匂うか?」
 言われて烈風は辺りを一回り飛んでみる。天井から急降下し机を潜り抜け、床のスレスレを軽やかに飛ぶ姿は実に軽快だ。
 烈風がミラのところに戻ると少し複雑な表情を浮かべた。
「ミラぁ、全然ダメってか……香水やコーヒーくらいしか匂わねぇぜ。ついでにそれっぽいパルスも検出できなかったぜ」
「そうか。社長が違うとなれば……って、そういえば社長は何者なんだ?」
 思い返してみれば、ミラが日本に到着してからまだ、鳳条院グループの社長にはまだ会った事がない。
 鳳条院グループに予告状が寄せられたと言うことは依頼主は社長となるのだが、ミラが日本へ行くきっかけになったのは、色々な意味で大物な鳳条院グループ会長の兼房という男の頼みである。
「社長もいいけどよ、このガキどうするよ?」
 うんざりとして烈風は書類の海に突っ伏して眠っている少女を見ていた。ああ何てことだ、涎が書類にポタポタと垂れているじゃないか。
「そうだな…関係者に迷惑を掛ける前に水無月様に保護してもらう事にしよう。ほらお嬢さん、起きるんだ」
 ミラはその少女に近づいて肩を揺り動かす。然しそれでも目を覚ます気配がない。
 更には烈風も加わり、
「おぉミラ、コイツ面白れぇ! 見ろよ頬どころか顔面がゴムみてぇに伸びるぜ。ほら、うみょ~んとな」
 ほっぺたや目尻を摘んでフニフニと伸ばしてみる。まるで日本の漫画から抜け出してきたようだ。
「烈風…面白すぎるからよしてくれないか」
 表情を崩さずミラがクスクスと笑っていると、
「ふにゃぁぁぁ……………あ?」
 どうやら起きたらしい。涎を垂らしたままとろ~んとした表情で烈風を見つめていた。
「おぉ、ナ~イス間抜け面。うちの眠り姫の方がずっと可愛いぜ」
「お嬢さん。こんなところで眠っていたら企業の人の迷惑になってしまうな」
 少女は未だ状況を把握しきれず、ぼーっとして烈風を見つめていた。ミラは脇に回りこんで少女の顔を覗きこむ。
「あれぇ…迷惑…? おかしいなぁ…?」
「誰の連れ子か知らないけど……やれやれ、大事そうな書類が涎まみれだ」
 少女が熟考する事、ジャスト3分。
 すると少女は素っ頓狂に、状況整理をし始めたようだ。
「あああー!! 企業ブースの契約書が~~! それに誰っ!!?」
 幸せそうに眠っていたかと思えば今度は錯乱し始めた。なんとも、見ていて飽きない少女である。
 ミラは軽く溜息をつきながら、
「私は警備関係者だ。それより君は何処の迷子か知らないが、お父さんかお母さんの名前くらいは知っているな?」
 出来る限り穏やかにして、ミラは少女をなだめる様に話しかけた。
 すると、返ってきた言葉はあまりにも意外だった。
「えっ、お父さんは、兼房さんと言って~…」
 少女の発言を聞いて、今度はミラの思考が一瞬停止する。
「……す、凄く歳の離れた子供がいらっしゃった…と言うことなのか?」
「ぼ、ボクに聞くなよ、んな事!」
 ミラは『アルカナ』が仕掛けた時限爆弾より、遥かに難解な事実に直面していた。
 迷子には違いないから放っておく訳にはいかないとミラが思っていた時、
「ふぇぇぇ……さくらぁ…ヘルプミーーーー!!」
 またもや錯乱したか叫んだが、ミラはその名前に覚えがあった。
「さ、桜? ……まさか、秘書の?」
「くすん、桜は私の秘書なんだもん…」
 恐る恐る訊ねるミラと、見た目より遥かに幼い子供のように拗ねる少女。
 ここまで至ってようやく、どうしても容認しづらい真実が明らかとなった。
「ま、まさか……鳳条院グループの社長と言うのは?」
「だからぁ、社長は私なのーー!!」
 朝から快進撃からか、或いは疲労からか、ミラと烈風は眩暈がしたと思った。
 
 まず、少女だと思っていた人物が、鳳条院 伊織と言う名前の鳳条院グループの社長であると言うこと。現在、警備を担当している水無月 桜が彼女の秘書であると言うこと。
 91年の生まれであり、更に二人の子供がいると言うこと。更には、伊織より遥かに年上に見える秘書の桜とは同年代の幼馴染であると言うこと。
 それらを全て知る為に、無線で警備隊を務める桜に連絡を取って確かめたのだった。彼女も多忙だと言うのに、何と下らないことをしたものだと思った。
「……成る程、優秀な秘書を警備に廻したから、必死で事務を担当していると」
「くすん、でも桜がいなくても、私だって頑張れるんだもん…っ!!」
 何だか会話の方向性がずれているとミラは思ったのだが、伊織社長の努力を称えて敢えて突っ込まないようにした。
「つか、どう見てもガキだろ! 大企業の社長って説得力ねぇだろ、威厳といい、特に見た目からして!!」
「はぅっ、そんな事無いもん! みんなから『お綺麗です』とか『お美しい』とかよく言われているんだもん!! 子供じゃないもん幼女じゃないもん、ぷんすかっ」
「おわっ、何だよコイツっ!?」
 怒濤の如き烈風のタメ口に、頬を膨らませて小学生以下の言い訳で返す伊織。ついでに誰も言っていないことにまで立腹し出す始末。これには流石に烈風も退いた。
「烈風、止すんだ。伊織様、度重なる無礼を心よりお詫び申し上げる」
「むぅ~………そういえばところで、あなたは誰なのかしら?」
 伊織自身には全くの悪気の欠片もないのだが、ミラは絶句した。烈風に至っては思わずテーブルの上に墜落しかかったが、涎が広がった書類を寸前で避けた。
 こほんと咳払いを一つ。あまり周りに聞こえない様に注意を払いつつ、
「……私は、カリフォルニア州神姫BMAロサンゼルス支部所属違法神姫調査官、ミラ・ツクモ。この大会を完遂する為、一端の学生に過ぎない私を呼んだのは何方?」
「あっ……………ご、ごめんなさい~だって調査や書類手続きや依頼状は桜に任せっきりで…その、顔写真を見てなかったんですもの…」
 身長では伊織とミラでは殆ど差はない。それなのに伊織を見下す自分と懇願するように見上げる伊織と言う妙な構図。少し頭が痛くなったような気がした。
「……多忙な中、余計な詮索を入れたこともお詫びする。それはそうとして、社長が女性と言うことは『皇帝』とは少し違うか…」
 そこまで言ったところで、ある可能性が閃いた。
「伊織様、この大会の発案者は兼房様…会長ですね?」
「え? ええ、お父さんが考えて主催も兼ねて、2年前から開催されたの。突然の一大プロジェクトで、第一回大会のときは色々と本当に大変だったのよね」
 伊織の言葉を聞き、ミラは推理を改める必要があった。
「…会長は何処でこの大会を閲覧している?」
「お父さんはいつも、主催者席で見守っているわ」
 大会の主催、統べる者の座。それは間違いなく、『皇帝』を象徴する存在に違いない。
 それだけ聞くとミラは伊織に頭を下げた。
「……伊織様。貴方の父御が私に示してくださった誠意と御家族の為に、私は持てる力を以て四度目も阻止してみせます」
「安心しとけよ。ボクらに任せときな」
「お、お願いね。明人が知ったら必ず介入したがるだろうから…」
「親として子供を守るよう、お願いする」
 会釈すると踵を返し、ミラと烈風は総合本部を後にした。

 暫くしてから、烈風が聞いてきた。
「で、何で”御家族”なんだ? 大企業の尊厳とかじゃねぇのかよ?」
 表情を変えずに振り向きもせず、ミラは淡々と語った。
「家族、特に親の愛は間違いなく尊いものだ。例え子供がそれを疎んじても、殆ど覚えていないよりは遥かに幸せだと言うことだ」
「ふ~ん、ボクらの場合はオーナーだから、親ってのはピンとこねぇな」
 烈風は退屈そうにミラの肩の上で片腕逆立ちをしながら聞いた。
 
 
 ―PM:14:38 March XX. 203X.
 ―Sponsors Room, 2F.
 
 この大会を取り仕切るのは当然だが鳳条院グループである。その他の企業からも提供があるとは言え、殆どは鳳条院グループによるものだ。
 ミラは、この部屋を利用する人物を『皇帝』と推理し、中に入ろうとしたのだが……。
「ここは立ち入り禁止です」
「私も警備担当なのだが?」
 警備員の一言で止められてしまう。特に大事な人物が集うこの部屋は、警備関係者の中でも限られた人間のみ入室を許されているらしい。ミラはIDカードを差し出すが、警備員は首を真横に振った。
 特別待遇として迎えられている筈なのだが、ミラ自身の立場が非常に特殊であり、増して爆弾解除の為に招待された事など、警備責任者である桜を含む鳳条院グループのほんの一握りの人間しか知らない。が、爆弾のことを内密にする様に願ったのはミラである。
 警備員の頑な態度に苛立った烈風が、
『いい加減にしやがれこのハゲ! 抜け作! ○○野郎が! てめぇが退かなきゃ……』
 怒りきって発音が乱れた英語だった為、警備員に正しく伝わらなかったがミラは烈風の口を塞いだ。
「…失礼。訊ねるが、最後に室内を確認したのは何時だ? 君がここの警備担当か?」
「最後は午前5時です。それ以降、交代制でここより離れぬよう任されております」
「そうか。余計な手間をかけさせたな」
 と言って、ミラは一旦その場を去った。

 ある程度離れたところで、烈風は押さえ込んでいた不満を爆発させた。
「何だよあの石頭は! それにミラ、オマエはあそこが怪しいと踏んでいたんじゃないのか!?」
「あぁ。最後の発言のお陰で、疑わしさが四割ほど増したさ」
 そう言って化粧室に入った。自分以外に誰もいないことを確認し、ミラは言葉を続けた。
「交代制、警備員は一人だけ。たった一人の守護者が、トロイの木馬を通す内通者と言う話は使い古されている程だよ。そこでだ、堂々と入るのは諦めこっそりと侵入する……連山、君の出番だ」
 ミラはトランクを開け、連山を呼びかける。いつもの暢気な笑みと異なり、挑発的にして不敵な態度が金色の瞳に現れていた。
「にひひ~やっちゃうんだね~殺っちゃおっか~♪」
「……思い切り不穏且つ不適切な表現が聞こえたような気もするが、聞かなかったことにする。目的は主催者専用席への侵入、及び『皇帝』の捜索と解体だ。侵入と脱出に辺り『ミラージュコロイド』を使用し、侵入後に随時連絡を頼む」
 V.B.B.S.筐体で行なわれるバトルと平行しながらの解体を予期して借りたのだが、部屋へ通してくれないのでは仕方の無い事だ。また、本格的な運用を試みるいい機会でもあった。
 洗面台の鏡の前に立った連山は早速、『ミラージュコロイド』を起動して姿を消した。
「えへへ~それじゃぁ~行って来るね~♪」
「まあ、慎ましくな」
 声のみとなった連山を、ミラは気配を悟って見送った。
 
 
 ―2 Minute Passed...
 
 そう言えばミラちゃんから離れるのは結構久しぶりかもしれないなあ?
 それに、ミラちゃんと同じくらいの視線で一緒にいるから、床を歩くのもちょっと久しぶりかも。これはこれで楽しいんだけど、歩行者に気を遣わせるってミラちゃんが言ってたなぁ。
 あらら、そこを歩くお姉さん、スカートの中身が丸見えだよ~………ってアレレ? お姉さんの筈なのに、パンティが大きく膨らんでて、付いてたよ?
(「あ~そっか、きっとお兄さんだったんだ~」)
 おっと、いけないいけない。よそ見しちゃいけないって、ミラちゃんに何度も怒られたっけ。
(「あの警備員さんかな? 烈風ちゃんの言う通り、ほんとに剥げてる~♪」)
 烈風ちゃん、やっぱり本当のことは言っちゃいけないよ。でも、ミラちゃんと烈風ちゃんを怒らせるんだから、いい人だなんて思えないな。
 扉は…あ、見上げればハンドル式ノブがついているじゃない。この程度なら、ジャンプして届くもんね。
 師匠は『普通の神姫には出来る事ではない』って言ってたけど、連山がおかしいのかな?
 
『カコン』
 
 よいしょっと、着地成功っ! 折角だから空中三回転を決めてみたんだけど、そう言えば姿が見えない状態だったっけ。
 何とかノブにぶら下がってみたけど、押すのかな? 引くのかな? どっちだろ? 適当にやってたらいつか分かるよね?
(「あらよっと!」)
 
『ガチャッ』
 
 全身を後ろに引いてみたけど駄目みたい。となれば逆だよね。
(「うんしょっと!」)
 
『ガチャッ』
 
 腕に力を込めて前にグイッて押し出してみたけど、やっぱりダメみたい。
 あわわ、警備員さんが不審がっちゃった! 急いで降りないと。
「ん、何の音だ?」
 あれ、警備員さんが懐から何か取り出して…ん~カードキーと言うことは、ロックが掛かっていたのかぁ。そんなミラちゃ~ん、電子ロックなんて解除できるわけ無いよぉ。
 でも、警備員さんがロックを解除して室内を見渡しているね。じゃ、今がチャンスって事かなぁ。
「気の所為か」
 後ろから警備員さんの声が聞こえたよ。あはは、気の所為じゃないのにね。
(「ふ~危ない危ない。侵入成功っと」)
 明日から使われるのかなぁ、だ~れもいないや。監視カメラも無い事だし、ミラコロ解いちゃおっと。
 顔の前に両手を差し出してみる…うん、連山の手が見えるから大丈夫かな。
 いちお、ミラちゃんに連絡を入れておこう。通信ユニットをピッピッと。
『連山、どうなっている?』
「侵入成功! も~ミラちゃんってばぁ~!」
『何か不満か?』
「あの扉~ロックされてたんだよ~警備員さんが~怪しんだお陰でロックを解除してくれたんだからぁ」
『時には人を欺き、人を遣う。新技術の助けがあったとは言え、それが出来たのだから大したものだよ』
 あれ、よく分からないけどミラちゃんに褒められちゃったみたい?
『では続けて【皇帝】の捜索に務めてくれ。以上』
 う~ん、何だか要領を得なかったけど、褒めてくれたんだから喜ぶべきなんだよね?
 まいっか、さてさて『THE EMPEROR』は何処かなぁ? 烈風ちゃんか震電ちゃんがいてくれたら楽に見つけてくれるのになぁ。
 戦闘能力では一番だってミラちゃんに言われた事があるけど、烈風ちゃんの嗅覚や震電ちゃんのセンサーの方がずっと優れた武器のように思えるのになぁ。
 ゆっくり探してみよう。うっかり蹴飛ばすようなところに設置してあるとは思えないし、だからと言ってあまりに離れたところにあるとは思えないなぁ。
(「確か~数字の4を意味するカードだから~それかなぁ? あ、でも日本では~4と言う数字は縁起が悪いから避けられているって話を~師匠から聞いたっけ。そうなると~数字の4じゃなくて、4番目と考えた方がいいのかも~?」)
 そうだといいんだけどなぁ。えっと、最初の席が『東杜田技研』って書かれてる。次が『國崎技研』で、その次に『EDEN-PLASTICS』かぁ。となると四つめがぁ、
「……鶴畑コンツェルン?」
 あれぇ、鳳条院グループじゃないの? あ、でもよく考えれば鳳条院グループの人が一番偉いんだから、特別な位置に席があってもおかしくないよね。取り敢えず、この人の席を探してみよっと。
 多分、座席に何かがあってもおかしくは……あ、よく見ると座席の底のネジが少しだけなめられている。ネジの頭を回そうとする時、力の掛け方を間違えるとこうなるんだよね。
 これくらいなら、震電ちゃんに貸したクリニエールじゃなくてもツールでも外せるかも。でも、ちょっと高い位置にあるからスラスターを使用しながらじゃないと少し難しいかな。おっとっと~姿勢制御がちょっと難しいよ。 よいしょっと、固定された蓋を外すと……やっぱり変な装置発見! どうすればいいか分かんないから、一旦着地してからミラちゃんに連絡してみよ。
「ミラちゃんミラちゃん~聞こえてる~?」
『声色が良い。どうやら発見したようだな』
「えへへ~少しは頑張ったんだよ~♪」
『悪くは無いタイムだ。それで、どんな感じだ?』
 座席の底にある装置をじっと見上げてみる。
「えっとね~座席の底に~トランプの四つのマークが組み合わさったような変な装置がくっついていたよ~」
『【皇帝】は正位置か、逆位置か?』
 あれ、そう言えばまだ見つけてなかった。ちょっと見渡してみよう。
 椅子の脚にひげを生やしたお爺さんが描かれたカードが取り付けられてるのを見つけたけど、何で上下逆さまなんだろ。
「見つけたけど~上下逆さまだったよ~?」
『【皇帝】の逆位置は主に、支配・野心・傲慢を意味する。強烈な皮肉だな。それで解体方法だが、トランプのマークは小アルカナと呼ばれるものが原型と言われ、ハートは聖杯、スペードは剣、ダイヤは金貨、クラブは棒と言った具合だ。それら四つは地水火風の四元素であり、物事が完成された状態を意味する』
 上下逆さまの意味は分かったけど、何だかチンプンカンプンになってきた。
『四つのマークが組み合わさったような、と言ったな? となれば、四元素たるその四つのマークを寸分の狂いなく分断させればいい筈だ。出来る事ならナイフを使うべきだが、火薬に触れないと判断すればレーザーを使ってもいいだろう。だが、四つ揃って均衡する為、0.1mm以下の狂いも許されない』
「あいなっ、それじゃやってみるね~」
『……』
 あ、通信切る前に溜息が聞こえた気がするけど…まいっか。
 えっと、四つのマークを綺麗に分けるのかぁ。ケーキを三等分にするよりは簡単だよね。
 そうだなぁ、最初は~ハートとスペードを切り離そうかな。もう一度スラスターで浮いて……と。
(「んも~上下逆さまだと姿勢が取りづらいよぉ~」)
 見上げながらの作業って難しいんだよぉ。でも椅子は下手に倒せないしなぁ。
 んー…余計な事を考えるのは止めよっと。ミラちゃんも師匠もそう言ってたことだしね。
 最初はハートとスペードを切り離してみよう。よく見てみるとジグソーパズルみたいに歪な形同士でくっついているから、真っ直ぐに切る事が出来ないなぁ。
 まずはスタート地点から突き刺して、ゆっくりと先端を滑らして……。
(「中途半端に曲がっているのが嫌らしいなぁ~」)
 切断成功っと、次はダイヤとクラブかな。
 ここでゆっくりと刃を返して……うんしょっと。
 0.1mm以下のズレがダメって事は、すれすれに回路が通っているのかなぁ。
(「ダメダメ余計な事を考えちゃ~次はハートとダイヤ~」)
 くりくりっと、波状になっているけど等間隔だからそんなに難しくないな。
 最後はスペードとクラブ! 今のところうんともすんとも言ってないけど、これで最後かな?
 ちょっと嫌らしいなぁ~ギザギザなんだけど中途半端に曲線を描いているし。
(「でも~そんなに難しくなかった~♪」)
 最後で引ききって……あっ、緑ランプが点灯したよ♪ ミラちゃんに教えないと~♪
「終わったよぉ~」
『2分36秒か。一先ずお疲れと言っておこう。目立つ位置にあるなら、元に戻して隠しておくんだ』
「あ~そうだね~座席の真下だけど~蓋を外しちゃったし~」
『やはり座席か。多分、鳳条院グループの会長の座席にあったのではないか?』
「違うよ~えっとぉ~鶴畑コンツェルンっていう人~」
『何だと? となると、4番目の座席が偶然……と言うことか?』
 どうしたんだろ、ミラちゃんが聞き返してくるなんて珍しいなぁ。
「左から数えて4番目だったけど~…あれぇ、右から数えれば~い~ち、に~、さ~ん……??」
『……一応聞いておくが、他に爆弾はないな? 特に鳳条院グループ関係者の席に、だ』
「無いよ~この、鶴畑って人の席だけ~♪」
 あれ、今度は考え込んじゃった。
『タロットに右と左を意味する要素はない……偶然か? まあいい、【皇帝】を隠蔽したら、その部屋に入ってきた時と同じ要領で脱出せよ』
「は~い」
 隠蔽って事は、座席の底の蓋を閉めなきゃね…って、上下逆さまだから難しいんだってば!
 蓋を持ち上げながらネジを回……あぅ、蓋が勝手にずれるぅ。右足で抑えないとなぁ。でも、一つネジが回りきれば後は簡単だね。
 後は外にいる警備員さんをもう一度遣って、扉を開けさせよ~……の前にミラコロミラコロ~っ。


 

 

 

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