「ヒト」は根本的に、闘争能力を研鑽するのがスキな動物である
自らの肉体が猛獣たちに劣ると気付いた時には無骨な岩石でもってその差を縮めようとし、科学技術が未成熟な頃は、武術の腕を磨いて迄戦闘能力の底上げを図り
敵が居ない時には外国の政治に介入して迄敵を作り、相手より強い武力を欲する
俺の親達はそういう「研鑽」に一役買っている人々だ
俺はそれを始めて知った時、猛烈に家族を嫌悪し、誰かが流した血によって育てられた自分自身を嫌悪したりもした
自らの肉体が猛獣たちに劣ると気付いた時には無骨な岩石でもってその差を縮めようとし、科学技術が未成熟な頃は、武術の腕を磨いて迄戦闘能力の底上げを図り
敵が居ない時には外国の政治に介入して迄敵を作り、相手より強い武力を欲する
俺の親達はそういう「研鑽」に一役買っている人々だ
俺はそれを始めて知った時、猛烈に家族を嫌悪し、誰かが流した血によって育てられた自分自身を嫌悪したりもした
今また、人間の模倣をする必要性の薄い人口の妖精達に迄武装を施し、「最初から完璧な戦闘能力」をインプットしておけば良いものを、わざわざ未成熟な状態で、個体間の性能のランダムな「ゆらぎ」まで設けて戦闘能力を研鑽させる
そして俺も、華墨をそういう場に立たせるべく購入し、今現実にたたせている
親達と俺のやっている事に、実際の所どれ程の差があるのか・・・
親達と俺のやっている事に、実際の所どれ程の差があるのか・・・
西暦2030年代、第三次世界大戦もなかったし、宇宙人の襲来も無かった
スペースコロニーが独立戦争を始めなかったし、謎の秘密結社が世界征服もしなかった
超人達が力で支配する闘争の荒野にもならなかったし、悪徳と企業とサイバーウェアが巷に溢れる世界にもならなかった
だが
華墨は俺の欲望のままに、「俺自身が傷付かずに闘争を疑似体験したい」という欲望のままに戦場に向かっている
西暦2030年代
人造の戦女神達が戦いを繰り広げる世界・・・
スペースコロニーが独立戦争を始めなかったし、謎の秘密結社が世界征服もしなかった
超人達が力で支配する闘争の荒野にもならなかったし、悪徳と企業とサイバーウェアが巷に溢れる世界にもならなかった
だが
華墨は俺の欲望のままに、「俺自身が傷付かずに闘争を疑似体験したい」という欲望のままに戦場に向かっている
西暦2030年代
人造の戦女神達が戦いを繰り広げる世界・・・
第参幕 「神の星」
「紅緒」の装備をほぼ一式、メインボードとしてセットする。
華墨以外の神姫を持っていない上に、「紅緒」以外のパーツも持っていないのだから、これはまぁ仕方が無いだろう
さすがに「気炎万丈」とかいう火縄銃はギャグだなと感じたのでサイドボードイン。十字戟と腰の大小だけを携えて、鬼面の武者装束がバーチャルスペースに出現してゆく
それにしても・・・
オーナーブースにしつらえられた三面ディスプレイを見つつ、昔読んだロボットものの漫画を思い出す
(あれの時代設定は今から数十年未来だったような気がするが・・・)
既にその漫画で描かれた未来を越える現実の世界観に眩暈を覚える
『マスター、ログインした』
華墨の声で我に返り、モニタを見る。薄暗い廃工場の中・・・って所か
「おーけい!華墨、お前の力を見せてもらうぜ。今回はびびるんじゃねーぞ」
『ボナパルト君はもういい!!』
思いっ切り動揺する華墨。からかい甲斐のあるやつだな・・・む?
「華墨!何か来たぜ」
『相手のようだな』
華墨より少し遅れて転送されて来た神姫が、俺のディスプレイに光点として映し出される
「遮蔽物の裏に隠れてやがるな・・・華墨、あそこの瓦礫ごと叩き斬ってやれ!」
『応ッ!!』
戟を地面に対して水平に構え、鬼面の武者が疾駆する・・・俺が想像していた以上に、迅い!!
瞬間、「がきぃん」とか「ぎん」とかいう金属音が空間を満たす。遮蔽物の陰から実弾で狙撃されたな・・・おいおい華墨、大丈夫なのかよ
『その程度っ!!』
装甲の小札が何枚か破損し、脱落しているが、華墨本体は無傷の様だ・・・意外と装甲しっかりしてるじゃねーか
『おおおぉぉっ!!』
気合い一閃、戟の薙刀刃が瓦礫の山を叩き割る。瞬間飛び出す影。どうやらあれが相手の神姫らしい
取敢えず店長に説明された通りにコンソールを操作して相手方の状態を探る
「なんか・・・ハウリンとかいうタイプだ!えらい軽装だが、履いてるレガースはなんか凄そうだぞ」
名前から検索、スペックを読み上げる
「えーと・・・『脚部の筋力を増強し、犬のように長距離をすばやく走れるようになる』らしいが・・・」
俺がトロトロ読み上げている間にも、相手方のハウリン(「ヌル」という個体名が表示されている)は凄まじい速度で地を駆ける!
(やばいな・・・なんかこのハウリンとかいうのは動物的な速さに結構優れたタイプみたいだ。あんだけ重武装の華墨じゃぁ一方的に距離をとられていい様に的になっちまう)
「華墨!ここは一回隠れて・・・えっ?」
『逃がすかっ!!』
華墨が走る。カチカチと軽快な爪音を立てる「ヌル」に対して、力任せのドスドスした走りだが・・・
(最初に走った時より速いじゃねーか・・・華墨の足甲には「走行性能の低下が少ない」としか書いてねーが・・・これが神姫ってモンなのか?)
だが、多分華墨が特殊なんだろう。もともと結構走れるタイプっぽい「ハウリン」の軽装甲版相手に、全身鎧を着て追い付くというのは、どう考えても異常だ
『こいつっ!何だこの速度はっっ!?』
再び遮蔽物の裏に潜り込み発砲する「ヌル」。焦っているのか、もともと射撃が下手糞なのか、もうひとつ集弾率が悪い。今気付いたが「ヌル」の武装は二挺の中型拳銃だけだ
華墨の脚が床を踏み抜く。そしてさっきまで華墨が居た空間を数発の弾丸が通り過ぎる
『なっ!?』
華墨は跳躍していた
最早半壊したとはいえ、全身を鎧に包まれながらも驚異的な脚力で跳び、ヌルが篭った瓦礫を飛び越え、ヌルの背面の壁を蹴り、見事にヌルの背面に回りこんでいた
明らかにヌルも動揺している。間違い無い、華墨の戦術上の個性はあの運動能力なんだ
『はあああぁぁぁぁっ!!!』
咆哮と共に戟を振りおろす華墨。俺も勝利を確信した・・・が・・・
『!?』
瓦礫の山と壁の間という狭い空間。華墨は間合いを誤っていたのだ。一瞬鈍る矛先、そして、あろう事かその隙を縫って華墨の懐に飛び込んでくるヌル!
『え!?』
ヌル本人も自分がとった行動に驚いている様子だった。だが、戟を引き戻せない華墨よりは遥かにその動きは速い
「華墨!武器を捨てろおおぉぉっ!!」
咄嗟に戟を手放す華墨。だが・・・!
『遅い!』
鬼面に押し当てられる銃口、マズルフラッシュ、爆音・・・
「かっ・・・・!!」
倒れゆく華墨。勝ち誇るヌル
壁に背中を預ける格好で、華墨は動かなくなる
『フッ!一瞬ひやっとしたが、コレも実力の差だ・・・怨むなら自身の弱さを怨むのだな!』
言いつつ、気取った仕草で肘を直角に曲げ、銃口に唇を近付けフッと息を吐くヌル
『これで学んだだろう?絶対の勝利を確信した瞬間でも油断した者は敗北するのだ!高い授業料だった・・・うをっ!?』
「!!」
ヌルの腹に太刀が生えている
『お前の言う通り・・・油断した者は敗北するらしいな・・・!!』
『馬鹿な!?』
振り向いたヌル。その額が被甲された左手につかまれる
鬼面がずり落ち、額から血(?)を流しながら憤怒の形相で立つ華墨
右手が自身の左腰の短刀にかかり、それをヌルの首目掛けて抜き放つ
一閃、落とされた首は恐怖の表情を浮かべたまま、バーチャルスペースの空気に溶けて霧散した
華墨以外の神姫を持っていない上に、「紅緒」以外のパーツも持っていないのだから、これはまぁ仕方が無いだろう
さすがに「気炎万丈」とかいう火縄銃はギャグだなと感じたのでサイドボードイン。十字戟と腰の大小だけを携えて、鬼面の武者装束がバーチャルスペースに出現してゆく
それにしても・・・
オーナーブースにしつらえられた三面ディスプレイを見つつ、昔読んだロボットものの漫画を思い出す
(あれの時代設定は今から数十年未来だったような気がするが・・・)
既にその漫画で描かれた未来を越える現実の世界観に眩暈を覚える
『マスター、ログインした』
華墨の声で我に返り、モニタを見る。薄暗い廃工場の中・・・って所か
「おーけい!華墨、お前の力を見せてもらうぜ。今回はびびるんじゃねーぞ」
『ボナパルト君はもういい!!』
思いっ切り動揺する華墨。からかい甲斐のあるやつだな・・・む?
「華墨!何か来たぜ」
『相手のようだな』
華墨より少し遅れて転送されて来た神姫が、俺のディスプレイに光点として映し出される
「遮蔽物の裏に隠れてやがるな・・・華墨、あそこの瓦礫ごと叩き斬ってやれ!」
『応ッ!!』
戟を地面に対して水平に構え、鬼面の武者が疾駆する・・・俺が想像していた以上に、迅い!!
瞬間、「がきぃん」とか「ぎん」とかいう金属音が空間を満たす。遮蔽物の陰から実弾で狙撃されたな・・・おいおい華墨、大丈夫なのかよ
『その程度っ!!』
装甲の小札が何枚か破損し、脱落しているが、華墨本体は無傷の様だ・・・意外と装甲しっかりしてるじゃねーか
『おおおぉぉっ!!』
気合い一閃、戟の薙刀刃が瓦礫の山を叩き割る。瞬間飛び出す影。どうやらあれが相手の神姫らしい
取敢えず店長に説明された通りにコンソールを操作して相手方の状態を探る
「なんか・・・ハウリンとかいうタイプだ!えらい軽装だが、履いてるレガースはなんか凄そうだぞ」
名前から検索、スペックを読み上げる
「えーと・・・『脚部の筋力を増強し、犬のように長距離をすばやく走れるようになる』らしいが・・・」
俺がトロトロ読み上げている間にも、相手方のハウリン(「ヌル」という個体名が表示されている)は凄まじい速度で地を駆ける!
(やばいな・・・なんかこのハウリンとかいうのは動物的な速さに結構優れたタイプみたいだ。あんだけ重武装の華墨じゃぁ一方的に距離をとられていい様に的になっちまう)
「華墨!ここは一回隠れて・・・えっ?」
『逃がすかっ!!』
華墨が走る。カチカチと軽快な爪音を立てる「ヌル」に対して、力任せのドスドスした走りだが・・・
(最初に走った時より速いじゃねーか・・・華墨の足甲には「走行性能の低下が少ない」としか書いてねーが・・・これが神姫ってモンなのか?)
だが、多分華墨が特殊なんだろう。もともと結構走れるタイプっぽい「ハウリン」の軽装甲版相手に、全身鎧を着て追い付くというのは、どう考えても異常だ
『こいつっ!何だこの速度はっっ!?』
再び遮蔽物の裏に潜り込み発砲する「ヌル」。焦っているのか、もともと射撃が下手糞なのか、もうひとつ集弾率が悪い。今気付いたが「ヌル」の武装は二挺の中型拳銃だけだ
華墨の脚が床を踏み抜く。そしてさっきまで華墨が居た空間を数発の弾丸が通り過ぎる
『なっ!?』
華墨は跳躍していた
最早半壊したとはいえ、全身を鎧に包まれながらも驚異的な脚力で跳び、ヌルが篭った瓦礫を飛び越え、ヌルの背面の壁を蹴り、見事にヌルの背面に回りこんでいた
明らかにヌルも動揺している。間違い無い、華墨の戦術上の個性はあの運動能力なんだ
『はあああぁぁぁぁっ!!!』
咆哮と共に戟を振りおろす華墨。俺も勝利を確信した・・・が・・・
『!?』
瓦礫の山と壁の間という狭い空間。華墨は間合いを誤っていたのだ。一瞬鈍る矛先、そして、あろう事かその隙を縫って華墨の懐に飛び込んでくるヌル!
『え!?』
ヌル本人も自分がとった行動に驚いている様子だった。だが、戟を引き戻せない華墨よりは遥かにその動きは速い
「華墨!武器を捨てろおおぉぉっ!!」
咄嗟に戟を手放す華墨。だが・・・!
『遅い!』
鬼面に押し当てられる銃口、マズルフラッシュ、爆音・・・
「かっ・・・・!!」
倒れゆく華墨。勝ち誇るヌル
壁に背中を預ける格好で、華墨は動かなくなる
『フッ!一瞬ひやっとしたが、コレも実力の差だ・・・怨むなら自身の弱さを怨むのだな!』
言いつつ、気取った仕草で肘を直角に曲げ、銃口に唇を近付けフッと息を吐くヌル
『これで学んだだろう?絶対の勝利を確信した瞬間でも油断した者は敗北するのだ!高い授業料だった・・・うをっ!?』
「!!」
ヌルの腹に太刀が生えている
『お前の言う通り・・・油断した者は敗北するらしいな・・・!!』
『馬鹿な!?』
振り向いたヌル。その額が被甲された左手につかまれる
鬼面がずり落ち、額から血(?)を流しながら憤怒の形相で立つ華墨
右手が自身の左腰の短刀にかかり、それをヌルの首目掛けて抜き放つ
一閃、落とされた首は恐怖の表情を浮かべたまま、バーチャルスペースの空気に溶けて霧散した
「お疲れさん」
クレイドルから出てくる華墨に声を掛ける
「マスター・・・勝てたぞ、なんとかな・・・」
疲労の色が多分に見て取れるが、その表情はもう、俺の部屋に来たばかりの頃の、不安定で頼り無い人形のそれでは無い
「おうよ!よくやったぜ華墨!!」
両手で抱え上げ胴上げ・・・というより赤ん坊に「高い高ーい」してやるみたいになっているが
「ちょっ!?マスター!やめっ!怖っ!きゃあああああああぁぁぁ!!」
訂正、まだ頼り無い不安定な妖精さんは居るようだ
「泥臭かったが、なかなか興味深いバトルだったよ?佐鳴武士君」
「ありがとうよ!皆川さん。俺は実質見てただけだったけど、すげー楽しかったぜ」
「それはそれは」
皆川さん(店長の事だ)に礼を言いつつ
「そういや、相手マスターとも話しておかなきゃな。えっと・・・」
視線を巡らせる
見つかったのは
華墨
俺
店長
ヌル
赤い靴を履いた、見たこと無い神姫がもう一体・・・ストラーフというタイプだと、あとで聞いた
クレイドルから出てくる華墨に声を掛ける
「マスター・・・勝てたぞ、なんとかな・・・」
疲労の色が多分に見て取れるが、その表情はもう、俺の部屋に来たばかりの頃の、不安定で頼り無い人形のそれでは無い
「おうよ!よくやったぜ華墨!!」
両手で抱え上げ胴上げ・・・というより赤ん坊に「高い高ーい」してやるみたいになっているが
「ちょっ!?マスター!やめっ!怖っ!きゃあああああああぁぁぁ!!」
訂正、まだ頼り無い不安定な妖精さんは居るようだ
「泥臭かったが、なかなか興味深いバトルだったよ?佐鳴武士君」
「ありがとうよ!皆川さん。俺は実質見てただけだったけど、すげー楽しかったぜ」
「それはそれは」
皆川さん(店長の事だ)に礼を言いつつ
「そういや、相手マスターとも話しておかなきゃな。えっと・・・」
視線を巡らせる
見つかったのは
華墨
俺
店長
ヌル
赤い靴を履いた、見たこと無い神姫がもう一体・・・ストラーフというタイプだと、あとで聞いた
・・・あれ?ヌルのマスターは?
きょろきょろしていると、足元から声が掛かった
「よくも私の神姫を可愛がってくれたわね?」
え・・・?何?誰・・・?
いくら周りを見渡しても、その台詞を吐いたのは赤い靴のストラーフ以外の誰でもなさそうだった
「まぁ確かに今日は実質この子の初実戦だし、勝負は勝負だけど・・・」
「華墨、それから、佐鳴武士と言ったわね。ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング11位のランカーとして貴女達をマークさせて貰うわ」
おいおい・・・それって・・・
「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへようこそ、おふたりさん!」
きょろきょろしていると、足元から声が掛かった
「よくも私の神姫を可愛がってくれたわね?」
え・・・?何?誰・・・?
いくら周りを見渡しても、その台詞を吐いたのは赤い靴のストラーフ以外の誰でもなさそうだった
「まぁ確かに今日は実質この子の初実戦だし、勝負は勝負だけど・・・」
「華墨、それから、佐鳴武士と言ったわね。ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング11位のランカーとして貴女達をマークさせて貰うわ」
おいおい・・・それって・・・
「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへようこそ、おふたりさん!」