対決、黒のシュートレイ 其の二
正月休みも終わり、私、都村いずるはホーリーの身体を診てもらうために、恒一に案内されて神姫センターに行く事にした。この前の事もあって、恒一に言われたとおり検査してもらう事にしたのだ。
「ねえいずる、どうしても行かなくちゃだめ?」
不安そうにポケットの中でふるえるホーリーを見て、私は慰めるように優しい言葉で彼女を落ち着かせた。
「大丈夫さ、検査といっても別に怖がる事はないんだよ。それにセンターにいる人は優しいから心配しなくてもいいんだ」
ホーリーは安心したのか、少し落ち着いた顔になった。
「…分かったよ、検査を受けるよ。ホーリー、いい子にしてるから…」
よかった、検査の事で不安がって、受けたくないって言い出すのかと思った。これで安心して彼女を検査に出せる。
電車に40分ほど乗り、バスで20分ほど乗り継いだところにそれはあった。
「付いたぞ、ここが俺の通っているセンターの場所だ」
恒一は畑の真ん中に建っている白い建物を指差した。
「ここって研究所みたいな場所だな」
その建物はセンターと言うよりは何かの研究施設のようなところだった。とりあえず私達は入り口で手続きをすませて、白い建物の中に入って行った。
「今日は3階にいるんだったかな?そこに検査してくれる人がいるらしいんだけど…」
恒一の案内でエレベーターで3階まで上がり、通路の突き当たりの部屋までまっすぐ進むと、入り口に制服を着た女性が待っていた。
「恒一、その子が前に話してくれた都村いずる君ね」
「姉さん、よろしく」
恒一は女性と握手を交わした。
「この人は一体誰なんだ?」
「この人は俺がお世話になってる父さんの知り合いの研究員さ。詳しい事は中にはいってから」
部屋の中に入った私達は面接室のような部屋で話をすることになった。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は和智小百合。ここの神姫研究所の研究員よ。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
私は小百合さんを前にしてかたくなってしまっていた。まさかあんなにきれいな女性がホーリーを見てくれるのだから、緊張するのも無理はない。
「どうしたんだ、お前ガチガチだぞ」
「だ、大丈夫さ」
カチカチになっている私を見るに見かねたのか、小百合さんはこんな事を言ってくれた。
「リラックスした方がいいわよ。別に面接に来てるわけじゃないんだし。ほら、お友達の家に遊びに来た感じでいればいいのよ。だから私の事も面倒見がいいお姉さんだと思ってくれればいいの」
「そうですか…」
小百合さんの言葉のおかげで少しは緊張の糸が緩んだ気がした。
「それじゃ、さっそくあなたの神姫、ホーリーベルを見せて頂戴」
小百合さんの言葉に従い、私はポケットにいるホーリーを出した。ホーリー自身はまだ不安そうな顔だったが、それでもさっきよりはましだった。
「それでは、お願いします。ホーリー、ちゃんと見てもらうんだぞ」
私はホーリーを小百合さんに預けると、小百合さんは驚いた表情になった。
「この子は、この前私がなくしたはずの津軽型の神姫…!」
え?どういうことだ?ホーリーが本当のオーナーが小百合さんということなのか?
「会いたかったわ、もう諦めていたところだったのよ」
ホーリーをギュっと抱きしめる小百合さん。しかホーリー本人はいきなり抱きつかれて迷惑な様子だった。
「い、いや~、放してよ、そんなにくっ付かないで~」
私はそのシーンを唖然として見続けるしかなかった…。
「ねえいずる、どうしても行かなくちゃだめ?」
不安そうにポケットの中でふるえるホーリーを見て、私は慰めるように優しい言葉で彼女を落ち着かせた。
「大丈夫さ、検査といっても別に怖がる事はないんだよ。それにセンターにいる人は優しいから心配しなくてもいいんだ」
ホーリーは安心したのか、少し落ち着いた顔になった。
「…分かったよ、検査を受けるよ。ホーリー、いい子にしてるから…」
よかった、検査の事で不安がって、受けたくないって言い出すのかと思った。これで安心して彼女を検査に出せる。
電車に40分ほど乗り、バスで20分ほど乗り継いだところにそれはあった。
「付いたぞ、ここが俺の通っているセンターの場所だ」
恒一は畑の真ん中に建っている白い建物を指差した。
「ここって研究所みたいな場所だな」
その建物はセンターと言うよりは何かの研究施設のようなところだった。とりあえず私達は入り口で手続きをすませて、白い建物の中に入って行った。
「今日は3階にいるんだったかな?そこに検査してくれる人がいるらしいんだけど…」
恒一の案内でエレベーターで3階まで上がり、通路の突き当たりの部屋までまっすぐ進むと、入り口に制服を着た女性が待っていた。
「恒一、その子が前に話してくれた都村いずる君ね」
「姉さん、よろしく」
恒一は女性と握手を交わした。
「この人は一体誰なんだ?」
「この人は俺がお世話になってる父さんの知り合いの研究員さ。詳しい事は中にはいってから」
部屋の中に入った私達は面接室のような部屋で話をすることになった。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は和智小百合。ここの神姫研究所の研究員よ。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
私は小百合さんを前にしてかたくなってしまっていた。まさかあんなにきれいな女性がホーリーを見てくれるのだから、緊張するのも無理はない。
「どうしたんだ、お前ガチガチだぞ」
「だ、大丈夫さ」
カチカチになっている私を見るに見かねたのか、小百合さんはこんな事を言ってくれた。
「リラックスした方がいいわよ。別に面接に来てるわけじゃないんだし。ほら、お友達の家に遊びに来た感じでいればいいのよ。だから私の事も面倒見がいいお姉さんだと思ってくれればいいの」
「そうですか…」
小百合さんの言葉のおかげで少しは緊張の糸が緩んだ気がした。
「それじゃ、さっそくあなたの神姫、ホーリーベルを見せて頂戴」
小百合さんの言葉に従い、私はポケットにいるホーリーを出した。ホーリー自身はまだ不安そうな顔だったが、それでもさっきよりはましだった。
「それでは、お願いします。ホーリー、ちゃんと見てもらうんだぞ」
私はホーリーを小百合さんに預けると、小百合さんは驚いた表情になった。
「この子は、この前私がなくしたはずの津軽型の神姫…!」
え?どういうことだ?ホーリーが本当のオーナーが小百合さんということなのか?
「会いたかったわ、もう諦めていたところだったのよ」
ホーリーをギュっと抱きしめる小百合さん。しかホーリー本人はいきなり抱きつかれて迷惑な様子だった。
「い、いや~、放してよ、そんなにくっ付かないで~」
私はそのシーンを唖然として見続けるしかなかった…。
「ごめんごめん、さっきはあんなことしてしまって」
ふてくされてるホーリーをハンガーにおき、小百合さんはさっきやったことを謝った。
「さっきの事なんですが、ホーリーの元オーナーって、あなたなんですか?」
私はつかさずさっきの事について質問した。
「ああ、そのことね。実はこの子、私が開発に関わっていた津軽タイプの神姫なのよ。製造ナンバーも一致しているし」
「ではどうして彼女は川に流されたんですか?」
私がそのことを聞くと、小百合さんは少し思いつめた顔になった。
「実は…部屋の中で起動させるのもなんだからと思って、こっそり川の側に行って起動実験をしたのよ。そのときに手が滑ってしまって、川に落としてしまったの。すでに起動スイッチが入ってたから、あの時は慌てふためいたわ。その後落ち着いてから探したんだけど見つからなかったの。会社側には神姫をなくしたことをいわなかったんだけど、まさかこんな形で戻ってくるなんてね」
小百合さんの答えで私はようやく理解した。ホーリーは元々彼女の持ち主であること、そしてそのことが分かった時点でホーリーと別れなければいけないことを…。
「小百合さん、ホーリーのこと、よろしくお願いします」
「ええっ、そんな!」
私が小百合さんにお辞儀をしたのを見て、ホーリーは目に涙を浮べた。
「いずると別れるなんて、そんなのいやっ!!ホーリーはずっといずるの側にいたいの!!」
でも持ち主が分かってしまった以上、ホーリーは小百合さんの側で暮らさなければならない。なぜなら、最初に起動させた相手が本当のオーナーなのだから。
しかしそれを見た小百合さんは、何を言い出したのか分からないような顔で私を見つめた。
「え?別にそんな事言い出さなくても…」
「でもホーリーのオーナーはあなたなんでしょう?だったら本当のオーナーに帰さないといけないと思って…」
小百合さんは首を横に振ってこう答えた。
「確かに彼女を起動させたのはこの私。でも彼女に名前をつけたのはあなたでしょう?だから本当のオーナーは都村いずる君、あなたなのよ」
一体どういうことなんだ?私は状況が飲み込めなかった。
「あなたは彼女に『ホーリーベル』という名前を付けてあげた。その時点であなたが彼女のオーナーになったのよ。神姫はね、起動してもオーナーに名前を付けてもらわないとオーナーの認知が完了しないのよ。だから、彼女と別れるなんてことはしなくて良いわけ。彼女と一緒にいられないのは辛いけど、仕方ないわ」
小百合さんは一瞬少し寂しそうな表情をしたが、すぐさま元の表情に戻った。
「その代わりホーリーをメンテナンスするときは私に連絡して。私のほうがホーリーの身体のことを知ってるし、万が一の時に対応できないでしょ」
「それは助かります。私はまだホーリーと出合ってからそんなに時間が経っていませんし、神姫の事についても殆ど知りません。いろいろと教えてもらいたいんです」
「そうよね。恒一にも聞いたけど、あなた、つい最近まで神姫を持ちたくないと思ってたんですって?だったらなおさらよ。後で色々教えてあげるわ」
「お願いします」
これからもホーリーと一緒にいるんだから、まずは彼女の身体について知っておかなくちゃ。私は改めて心に誓った。
ふてくされてるホーリーをハンガーにおき、小百合さんはさっきやったことを謝った。
「さっきの事なんですが、ホーリーの元オーナーって、あなたなんですか?」
私はつかさずさっきの事について質問した。
「ああ、そのことね。実はこの子、私が開発に関わっていた津軽タイプの神姫なのよ。製造ナンバーも一致しているし」
「ではどうして彼女は川に流されたんですか?」
私がそのことを聞くと、小百合さんは少し思いつめた顔になった。
「実は…部屋の中で起動させるのもなんだからと思って、こっそり川の側に行って起動実験をしたのよ。そのときに手が滑ってしまって、川に落としてしまったの。すでに起動スイッチが入ってたから、あの時は慌てふためいたわ。その後落ち着いてから探したんだけど見つからなかったの。会社側には神姫をなくしたことをいわなかったんだけど、まさかこんな形で戻ってくるなんてね」
小百合さんの答えで私はようやく理解した。ホーリーは元々彼女の持ち主であること、そしてそのことが分かった時点でホーリーと別れなければいけないことを…。
「小百合さん、ホーリーのこと、よろしくお願いします」
「ええっ、そんな!」
私が小百合さんにお辞儀をしたのを見て、ホーリーは目に涙を浮べた。
「いずると別れるなんて、そんなのいやっ!!ホーリーはずっといずるの側にいたいの!!」
でも持ち主が分かってしまった以上、ホーリーは小百合さんの側で暮らさなければならない。なぜなら、最初に起動させた相手が本当のオーナーなのだから。
しかしそれを見た小百合さんは、何を言い出したのか分からないような顔で私を見つめた。
「え?別にそんな事言い出さなくても…」
「でもホーリーのオーナーはあなたなんでしょう?だったら本当のオーナーに帰さないといけないと思って…」
小百合さんは首を横に振ってこう答えた。
「確かに彼女を起動させたのはこの私。でも彼女に名前をつけたのはあなたでしょう?だから本当のオーナーは都村いずる君、あなたなのよ」
一体どういうことなんだ?私は状況が飲み込めなかった。
「あなたは彼女に『ホーリーベル』という名前を付けてあげた。その時点であなたが彼女のオーナーになったのよ。神姫はね、起動してもオーナーに名前を付けてもらわないとオーナーの認知が完了しないのよ。だから、彼女と別れるなんてことはしなくて良いわけ。彼女と一緒にいられないのは辛いけど、仕方ないわ」
小百合さんは一瞬少し寂しそうな表情をしたが、すぐさま元の表情に戻った。
「その代わりホーリーをメンテナンスするときは私に連絡して。私のほうがホーリーの身体のことを知ってるし、万が一の時に対応できないでしょ」
「それは助かります。私はまだホーリーと出合ってからそんなに時間が経っていませんし、神姫の事についても殆ど知りません。いろいろと教えてもらいたいんです」
「そうよね。恒一にも聞いたけど、あなた、つい最近まで神姫を持ちたくないと思ってたんですって?だったらなおさらよ。後で色々教えてあげるわ」
「お願いします」
これからもホーリーと一緒にいるんだから、まずは彼女の身体について知っておかなくちゃ。私は改めて心に誓った。
「はい、診察終わり」
小百合さんの手で検査されたホーリーはいくつものチェックをくぐり抜け、すべての診察を修了した。
「どうですか、ホーリーの様子は?」
「異常なしよ。むしろあんなことになったのに何も異常がないのはすごいと思ったわ」
小百合さんはホーリーの頭を撫でた。
「ちょっと、何すんのよ」
さっきの件があったのか、ホーリーは小百合さんのことが少し嫌になっているようだ。
「ホーリー、これからも小百合さんにお世話になるんだから、もう少し素直になりなよ」
「で、でも…もう二度とあんなことされたくないもんっ!!」
まだホーリーはご機嫌斜めみたいだ。しょうがないので、私は彼女を手に乗せてあげて慰めてあげた。
「大丈夫だよ、もう小百合さんもあんなことしないっていってるし。そうですよね、小百合さん」
私は小百合さんのほうを見た。本人はというと、ちょっと残念そうな顔でこちらを見つめた。
「そ、そうよ、もう抱きしめたりしないから大丈夫よ」
「ほんとにほんと?もうしないってホーリーに誓う?」
「ち、誓うわよ」
すこしたじろぐ小百合さん。どうやら反省してるみたいだ。
「それならいいの。もう絶対にしないでね。ぜ~ったいだよ!!」
「はいはい。ところで恒一が言ってたこと話のことなんだけど、これからやってみない?」
話というのは、あの事だな…。
「そうですね、ホーリーを診せていただきましたし、私に出来る事なら…」
本当なら私はホーリーをバトルに出させたくなかった。でも約束は約束だから仕方ない。
「よし、それじゃさっそくやる事にしよう。姉さん、例のシミュレータールームへ行こうぜ」
「その前にいずる君にいくつか言っておきたい事があるから、恒一は先にルームにいってて」
恒一は手を振ると、この部屋を出て行った。
「さていずる君、バトルする前に言っておきたいことがあるわ。バトルに出すと言う事は神姫の、つまりホーリーを危険な目にあわせるということになるの。その覚悟は今のあなたにはないと思うのよ。今回はバーチャルシミュレーターで戦うことになるけど、本リーグに出る事になればリアルで戦うことになる。そのことを頭に入れてほしいのよ」
小百合さんは真面目な表情で私を見つめた。たしかに今の私にはそんな覚悟はない。今回だって本当は反対だったのだから…。
「…彼女をどのようにするかはあなたが決める事。このまま戦わせないで平和な日々を送るのもいいでしょうし、恒一のように戦わせて有名になってもかまわない。すべてはあなたの育て方しだいね」
「…考えておきます…」
今はこの答えしか言えなかった。私はテレビで何度も神姫同士の戦いを見てきた。そのたびに私の心の中で、ちくちくと何かが刺して痛めてしまうのだ。きっと彼女達が壊れるのを見たくないんだと思ってるからだろう。だから私は神姫なんか持ちたくなかったのかもしれない。
「…後もう一つ、あなたに渡さないといけないものがあるの。私のささやかなプレゼント、受けとってくれる?」
小百合さんは奥から何かを出してきた。それは神姫の両腕につける小手みたいなものと、背中につけることが出来るトンファー状の接近戦用の武器2つ、それと取り回しの利くショートライフルのようなもの2丁だった。
「これって、戦闘用の装備ですか?」
「そう。今のホーリーちゃんは戦闘用の装備持ってないでしょう?だから追加装備、と言うわけ」
確かに今のホーリーには戦闘用の装備はない。クリスマスに買ったドレスセットしか持っていないのだ。でもこれをホーリーに装備した方がいいのかどうか…。
「これからバーチャルバトルをするんだからこれくらいつけたほうがいいわよ。それに相手は連勝街道まっしぐらのあのシュートレイだからね、覚悟してかからないと痛い目に会うわ」
小百合さんは自らの手でホーリーにその装備を付けてあげた。それをつけてもらったホーリーはというと…。
「すご~い!何かかっこよくなっちゃった~」
なんと喜んでるじゃないか。意外な反応に私は頭を抱えてしまった。
「いずる!これでホーリー強くなったかな?」
「ああ、強いと思うよ…」
もうどうでもよくなってしまった。これから戦うというのに、本人はやる気まんまんのようだから、止めても無駄だろうな…。
「あらホーリーちゃん、気合入ってるわね。その調子でがんばってね!」
不安だ…。ものすごく不安になってきた。ホーリーの奴、本気で戦うつもりなんだろうか?
小百合さんの手で検査されたホーリーはいくつものチェックをくぐり抜け、すべての診察を修了した。
「どうですか、ホーリーの様子は?」
「異常なしよ。むしろあんなことになったのに何も異常がないのはすごいと思ったわ」
小百合さんはホーリーの頭を撫でた。
「ちょっと、何すんのよ」
さっきの件があったのか、ホーリーは小百合さんのことが少し嫌になっているようだ。
「ホーリー、これからも小百合さんにお世話になるんだから、もう少し素直になりなよ」
「で、でも…もう二度とあんなことされたくないもんっ!!」
まだホーリーはご機嫌斜めみたいだ。しょうがないので、私は彼女を手に乗せてあげて慰めてあげた。
「大丈夫だよ、もう小百合さんもあんなことしないっていってるし。そうですよね、小百合さん」
私は小百合さんのほうを見た。本人はというと、ちょっと残念そうな顔でこちらを見つめた。
「そ、そうよ、もう抱きしめたりしないから大丈夫よ」
「ほんとにほんと?もうしないってホーリーに誓う?」
「ち、誓うわよ」
すこしたじろぐ小百合さん。どうやら反省してるみたいだ。
「それならいいの。もう絶対にしないでね。ぜ~ったいだよ!!」
「はいはい。ところで恒一が言ってたこと話のことなんだけど、これからやってみない?」
話というのは、あの事だな…。
「そうですね、ホーリーを診せていただきましたし、私に出来る事なら…」
本当なら私はホーリーをバトルに出させたくなかった。でも約束は約束だから仕方ない。
「よし、それじゃさっそくやる事にしよう。姉さん、例のシミュレータールームへ行こうぜ」
「その前にいずる君にいくつか言っておきたい事があるから、恒一は先にルームにいってて」
恒一は手を振ると、この部屋を出て行った。
「さていずる君、バトルする前に言っておきたいことがあるわ。バトルに出すと言う事は神姫の、つまりホーリーを危険な目にあわせるということになるの。その覚悟は今のあなたにはないと思うのよ。今回はバーチャルシミュレーターで戦うことになるけど、本リーグに出る事になればリアルで戦うことになる。そのことを頭に入れてほしいのよ」
小百合さんは真面目な表情で私を見つめた。たしかに今の私にはそんな覚悟はない。今回だって本当は反対だったのだから…。
「…彼女をどのようにするかはあなたが決める事。このまま戦わせないで平和な日々を送るのもいいでしょうし、恒一のように戦わせて有名になってもかまわない。すべてはあなたの育て方しだいね」
「…考えておきます…」
今はこの答えしか言えなかった。私はテレビで何度も神姫同士の戦いを見てきた。そのたびに私の心の中で、ちくちくと何かが刺して痛めてしまうのだ。きっと彼女達が壊れるのを見たくないんだと思ってるからだろう。だから私は神姫なんか持ちたくなかったのかもしれない。
「…後もう一つ、あなたに渡さないといけないものがあるの。私のささやかなプレゼント、受けとってくれる?」
小百合さんは奥から何かを出してきた。それは神姫の両腕につける小手みたいなものと、背中につけることが出来るトンファー状の接近戦用の武器2つ、それと取り回しの利くショートライフルのようなもの2丁だった。
「これって、戦闘用の装備ですか?」
「そう。今のホーリーちゃんは戦闘用の装備持ってないでしょう?だから追加装備、と言うわけ」
確かに今のホーリーには戦闘用の装備はない。クリスマスに買ったドレスセットしか持っていないのだ。でもこれをホーリーに装備した方がいいのかどうか…。
「これからバーチャルバトルをするんだからこれくらいつけたほうがいいわよ。それに相手は連勝街道まっしぐらのあのシュートレイだからね、覚悟してかからないと痛い目に会うわ」
小百合さんは自らの手でホーリーにその装備を付けてあげた。それをつけてもらったホーリーはというと…。
「すご~い!何かかっこよくなっちゃった~」
なんと喜んでるじゃないか。意外な反応に私は頭を抱えてしまった。
「いずる!これでホーリー強くなったかな?」
「ああ、強いと思うよ…」
もうどうでもよくなってしまった。これから戦うというのに、本人はやる気まんまんのようだから、止めても無駄だろうな…。
「あらホーリーちゃん、気合入ってるわね。その調子でがんばってね!」
不安だ…。ものすごく不安になってきた。ホーリーの奴、本気で戦うつもりなんだろうか?