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ウサギのナミダ
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えむえむえす ~My marriage story~

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キズナのキセキ
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戦うことを忘れた武装神姫
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The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
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アルトアイネス奮闘姫
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武装神姫のリン
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戦う神姫は好きですか
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 例えるなら、それは羊水の中を漂うようで。
 それは春の木漏れ日の中で日光浴をするようで。
 それは絶景を肴に露天風呂に漬かる様で。
 ひどく心が休まり、心地が良く、そのまま永遠に過ごしたくなる様な。
 それはまるで麻薬の用に五臓六腑に染み渡り、無意識の海にそのまま沈んでいたくなる。
 この世で最も過酷な事は、睡眠をとらない事だろうと俺こと倉内 恵太郎は混濁した意識の中でぼんやりと考えていた。
「……ス…………だ…が…………お………」
 誰かが俺に話しかけてくる気がしないでもないが、人間の根本に存在する三大欲求の一つに抗って応えられるほど俺は人間が出来ちゃいない。
 そんなこんなで狭いシングルベッドの上で毛布に包まり、再び惰眠を貪ろうと身体を捩らせた。
 その瞬間、俺の毎日のささやかな幸福の時間は非情にもすっ飛んでった。
 頭部に奔る鈍い激痛、頭蓋骨の中で轟音が響き渡るような錯覚。
 そのお陰で、俺の意識は一気に覚醒してしまった。
「おはようございます、マスター。今日も清々しい朝ですね」
 俺の相棒であるストラーフ型神姫のナルが専用装備である対神姫用実体剣「刃鋼」を小脇に携えて朝の挨拶をしてきた。
「ああ……おはよう」
 俺は痛む頭を抑えながら、手厳しい目覚ましで起こしてくれた相棒に挨拶で反す。
 朝が弱い俺をナルが刃鋼の腹で俺の頭をブッ叩く。
 いつもと同じ清々しい朝だ。
「マスター、お目覚め早々ですが、一限目の講義まで後20分しかありません」
 全く、鬱陶しくなるくらいにいつもと同じ清々しい朝だった。


 俺は県内の大学に通っている。
 工業系、主にロボット工学がメインの大学で、そこそこ名が知られているらしく時折テレビの取材がくるらしい。
 もっとも、三十余年前までは余り人気が無くて経営はやばかったらしいが、今は何処吹く風と言うほどの盛況ぶりだ。
 情報技術が発達し終えたと言われた202X年、世界は低迷していた。
 医学・物理学・天文学・情報工学、人類の主要な技術の殆どが発展を終え、進化の袋小路に追い込まれていた。
 世間では世紀末だのノストラダムスの予言だの騒いだらしく、暗黒時代とも呼ばれたらしい。
 そこに救世主の如く現れたのが、ロボット工学と情報工学そして人間心理学それら全てを終結させた全長15cm、心と感情を持つMMSと呼ばれる機械仕掛けのお姫様である。
 大手玩具メーカーから発売されたMMSは瞬く間に普及し、ありとあらゆる分野に応用され始めた。
 大抵のMMSは有効利用されたが、中にはあくどい事に利用する輩も多くいた様で、一介の玩具のために多くの法律が制定されたらしい。
 他にも色々と問題があったらしいが、今や過去の話。
 MMSは、我々人類の新たな友人として必要不可欠の存在となっている。
 そんなこんなで我が大学のロボット工学部の主な内容は殆どがMMSについてである。
 我が大学にある学科は四つあり、俺はその内の一つである「MMS環境心理学科」に所属している。
 何だかご大層な学科名だが、やっていることは単純明快。神姫バトル、である。
 一応は「MMSと人間との心理作用による行動ロジックの云々」とかいう大層な理念が掲げられているが、要は将来有望なランカーを育成し、大学を宣伝しようという口である。
 もっとも、設備においては国内随一を誇るので競争率は非常に激しいので大学としてはウハウハだろうが。
 まあ、この大学はそういった専門的な設備だけでなく、その他のレジャー的設備も整っているのも人気の一つだと思う。
 現に今、俺が食っている食堂のネギトロ丼も毎朝築地から活きの良いのを仕入れてくるらしく、そんじょそこらの寿司屋よりよっぽど上手い。
 その上、値段も3桁と採算がとれるのかどうか心配になるほどのコストパフォーマンスを発揮している。
学生の身分故、常時金欠な事を考えるとこの食堂は正に天国だった。
「よう、恵太郎!」
 俺が数少ない幸福を噛み締めていると頭部に鈍い痛みが奔り、むさ苦しい声も聞こえてきた。
 思わずネギトロを吹き出しそうになるが歯を食いしばって堪える。
「……裕也先輩、人が飯喰ってる時に頭小突くのやめてもらえませんか?」
「おう? 男が細かい事気にすんなっての!!」
 この図体がでかい筋肉ダルマは一応俺の先輩に当たる人で、名前は佐伯 裕也。
 毎度毎度人の頭を小突くかなり傍迷惑な筋肉ダルマだ。
「こんにちは、佐伯さん」
 しかし、俺の相棒は筋肉ダルマにも嫌な顔せずに挨拶を交わす。
 いやはや、良い娘に育ったものだ。
「こんにちはなのだ~!」
 筋肉ダルマの代わりにナルの挨拶に応えたのは筋肉ダルマの武装神姫、マオチャオ型の蒼蓮華だ。
 今まで何処に居たのか知らないが、今はテーブルの上でナルに向かって骨法の構えを取っている。
「いざ、尋常に勝負なのだ~!」
「おう、そうだ! 今日こそ俺らが祝杯を挙げる日だ!!」
 そう言うなり筋肉ダルマはテーブルに拳を叩きつけた。
「っと、冗談は筋肉だけにしてくださいよ」
 まだ食べかけのネギトロ丼が激しく揺れたので、両手に抱えて空中に避難させる。
「裕子先輩ならまだしも、何度も何度も同じ相手と戦っても意味無いでしょう。」
「ふっふっふっふっふ……」
 筋肉ダルマと蒼蓮華が揃って腕組をしながら怪しく笑った。
「何ですか、不気味ですね」
「コイツが何だか、解るか?」
 そして懐から一枚の紙切れを取り出した。
 どうせまたプロレスやら何やらのチケットだろう。
 以前にも同じパターンは何度もあったし、二年も同じ事をやっていれば嫌でも学習する。
 とりあえずはネギトロ丼を腹に注ぎ込んで、適当にあしらって午後の講義に備えよう。
 確か午後は一般科目だった筈だ。
「マスターの姉上、裕子様の夏祭りでの浴衣ブロマイドなのだ~!」
「どうだ、恵太郎。これを賭けると言ってもまだ首を縦に振らないか?」
「放課後、第四バーチャルマシーンセンターの前で待ってます」
 ナルの視線が痛かった。

 時刻は午後5時過ぎ。
 確か筋肉ダルマも今日の講義は全て終わっている筈なのだが……。
「遅い」
 思わず声に出してしまった。
 ナルはとっくの昔からトレーニングマシーンで模擬戦闘を繰り返している。
 それを横目に俺は三本目の缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れた。
 思えば、あの人に『放課後』と言って講義終了後直ぐに来るとは思えないのも確かだが。
 ほんのり嫌気が刺してきて、ぼちぼち帰ろうかと思い出したその瞬間に聞きなれてしまった大声が聞こえてきた。
「よぉ、待たせたな!」
 余りの能天気振りに怒る気力も消え失せた。
「……先輩、とっととやりましょう」
 溜息の一つもついてやりたかったが、一応堪えておいた。
「尋常に勝負なのだ~!」
 蒼蓮華は今まで何処に居たのか、何時の間にかバーチャル・バトルマシーンのクレイドルの上で仁王立ちしていた。
「ナル、準備は良いかい?」
「何時でも」
 トレーニングンマシーンから出てきたナルに一応確認を取り、蓮と筋肉ダルマが待つバーチャル・バトルマシーンへと向かう。
「先輩、例のブツはちゃんと持ってきていますよね?」
「おう、男に二言は無ぇ!」
 バーチャル・バトルマシーンのディスプレイを挟んで筋肉ダルマに今回の最優先事項を確認する。
「なら結構。では、始めましょうか」
「応ッ!」

 バーチャル・バトルマシーンに備え付けられたクレイドル。
 私はその上に横たわり、無線通信回路を開く。
 頭部コアユニットからバーチャル・バトルマシーンへと、自身のあらゆるデータが転送されているのを感じる。
 まるで頭の内側を何かが這い回るような奇妙な感覚。
 それに伴い、私の身体の感覚が少しずつ消えていく。
 最初に触覚。
 背中に当たっていたクレイドルの感覚が感じられなくなる、というより重さを感じられなくなる。
 次に嗅覚。
 少し油臭いバーチャルマシーンセンターに充満する空気が感じられなくなる。
 そして聴覚。
 ごぅ、という空気の流れる音や、モーターの駆動音が一切聞こえなくなる。
 最後に、視覚。
 視界に映る高い天井がまるで夜の闇に溶け込む様に黒く塗り潰されていく。
 身体の感覚が全て消えたその瞬間、意識が飛んだ。
 今のこの身体には何も感じない。
 モノに触る事も、モノの匂いを嗅ぐ事も、モノの音を聞く事も、モノを視る事も叶わない。
 ただ一つ感じる事。
 私の精神を司る電子の魂が、本来の機械の身体を離れて異なる場所に向かっていると言う事。
 ソレを感じている時間は、実際には数秒程度だろうか。
 その奇妙な感覚が薄れるのと逆に、身体の感覚が甦ってくる。
 最初に触覚。
 足の裏側から地面の反力。頬を撫ぜる湿っぽい風。いつもと違う重さを感じる。
 次に嗅覚。
 噎せ返るような木の匂い。生ぬるい風の匂い。現実は異なる匂いを感じる。
 そして聴覚。
 野鳥などの羽音や鳴き声。草と草が擦れ合う音。そして聞きなれた駆動音を感じる。
 最後に、視覚。
 まるで夜が明ける様に視界がクリアになっていく。
 全身の感覚が元に戻る。
 一つ違う事、それはこの身体が0と1との信号によって作られた仮想現実の身体であること。
 そして普段の非武装形態ではない事。
 今の私は戦闘形態。
 右腕は高出力粒子砲と化し、左腕は巨大な腕と剣を持つ。
 そして腰には追加アーマー。
 我が主が自ら作って下さった、私の一番の宝物たち。
 クリアな視界に映るのは、青々と生い茂る木々が立ち並ぶ熱帯雨林。
 視界は生い茂る木々と立ち込める靄によって10sm先も確認できない程に悪い。
 蒼蓮華も同じタイミングでログインしてきているのだろう。
 ドップラーセンサを最大限稼動させ、動体を探るが……。
「ナル、このフィールドじゃセンサ類は恐らく役に立たない」
 マスターの言うとおりだった。
 動体を検出するドップラーセンサは検出する対象を制限できない。
 よって、再現された野鳥や虫などの動体すらも検出してしまうので、センサには異常な検出結果がはじき出されている。
 超音波センサはどうかと思ったがこちらも役に立ちそうに無い。
 超音波センサは、超音波を照射して跳ね返ってくるまでの時間などの結果から対象の大きさや距離を検出するものだ。
 だが、検出されるのは直ぐ近くの木々ばかり、肉視確認の方が余程視野が広い。
「この状況で最も有利なセンサ、それは……」
 マスターの声にはっとする。
 五感の中で視覚の次に重要視される感覚、それは聴覚。音、である。
 密室かよほど入り組んだ地形で無い限り、音は関係なしに進んでいく。
 それはこの仮想現実でも同様だ。
 そして、聴覚センサがデフォルトで強化されているのは、ヴォッフェバニー、ハウリン、マオチャオ。
 蒼蓮華はマオチャオ型。
 ヴォッフェバニーより数段劣るとしても、私とは比べ物にならない。
 それこそ、小さな駆動音からこの場所を探り当ててくるだろう。
 この状況で最も有利な戦法、それは奇襲。
 蒼蓮華は脚部に追加武装「紅蓮脚」を搭載している。
 大出力のスラスターとショックアブソーバー、そして至射炸裂型榴弾。
 簡単に言えば一撃必殺型装備。
 当たれば大ダメージを受ける事は間違いない。
 当たればだが。
「にゃんだぁぁ~~~きぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅ!!」
 大声を上げ、右方向から水平に蹴り込んで来た蒼蓮華を軽いバックステップで避ける。
「にゃ!? にゃにゃにゃにゃにゃ~~~~~~」
 勢いを殺しきれず、進路にある木々を蹴り倒しながら突き進んでいく蒼蓮華を見送る。
「またか……」
 マスターの溜息混じりの声が聞こえてきた。
 私も溜息をつきたくなった。
 大人しく黙って奇襲すれば良いものを、何でわざわざ大声なんか出して自分の居場所を知らせるのか。
 以前聞いたときは「そこにロマンがあるからなのだ~」としか言わなかった。
 私には理解できないが、当人にとっては大事な事なのだろう。
 もうやる気が八割くらい無くなって気が緩んだ、その瞬間。
「隙ありなのだ~!」
 何時の間に近づいていたのか、顔面目掛けて回し蹴りをかまそうとする蒼蓮華の姿があった。
 マオチャオの消音機能はMMSの中でも随一であり、蒼蓮華も健在のようだ。
「……っ」
 刃鋼で何とかガードしたものの、足の踏ん張りが効かずに吹き飛ばされた。
 すぐさま体勢を立て直そうとするが。
「まだまだなのだ!」
 宙を舞う私目掛けて、蒼蓮華が一気に飛び込んできた。
 一瞬。ほんの一瞬で蒼蓮華の顔が間近に迫っていた。
 瞬発力だけで言えば、神姫の中でも随一だろう。
 何時もは「なのだ~」とか言いながら能天気な顔をしているが、今の顔つき、そして目つきは真剣そのものだ。
 その真剣な眼は確かに私の頭部を見つめている。
 まるで野生のライオンが得物に飛び掛る瞬間、そんな眼だ。
 蒼蓮華の右足が頭部目掛けて迫ってくるのを視界の隅で捕らえた。
 萎んだやる気が膨らんできた。
 頭を切り替える。
 戦う事だけを考える。
 勝つ事だけを考える。
 それが武装神姫たる私の存在意義であり、マスターもそれを望んでいる……今回は微妙だが。
 全身に備え付けられた推進装置の全てをフル稼働させる。
 ただし、右側だけ。
 均衡を崩した私の身体は独楽の様に回転した。
 回転のエネルギーを乗せる様に、右腕の銃鋼をバックハンドブローの要領で錬の右足に叩き込む。
 蒼蓮華の至射炸裂型榴弾のエネルギーと私の遠心力と質量を合わせたエネルギーがぶつかり合う。
 そのエネルギーは衝撃となって蒼蓮華と私に等しく分布され、お互いに弾かれあった。
 私は地面に刃鋼を突きたてて着地、衝撃を無理やりに殺す。
 そして右腕を確認。
 残っていたのは腕と銃鋼を繋ぐコネクタ部分のみ。
 ぞっとする。
 三又の粒子加速装置と一本の砲身は跡形も無く吹き飛んでいた。
 対する蒼蓮華はおよそ10sm先で至射炸裂型榴弾を撃った際に生じたガスの中、仁王立ちしていた。
 等しく分布された筈のエネルギーは、蒼蓮華の右足に傷一つ付けてはいなかった。
 本当に、ぞっとする。
 最初に声を潜めて奇襲していたら。
 後ろ回し蹴りの時黙っていたら。
 私は、多分負けていた。
 銃鋼の接続設定を変更し、銃鋼をパージする。
 地面を覆う腐葉土の中にドスっという音と共に沈んでいく。
 そして左手の刃鋼を逆手に持ち替える。
 インファイター相手には、この剣は長すぎる。
 この間、数秒の隙があったが蓮は先程と同じく仁王立ちしたままだった。
 私の準備が整うのを待っているつもりか……。
 内心首を捻りながら、私は左手を前に半身の構えを取る。
「いくのだ~!」
 それを見た蒼蓮華は掛け声と共に駆ける。
 やっぱり、速い。
 10smの距離をぐんぐん縮めてくる。
 私と蒼蓮華との距離が3smを切った時、跳んだ。
 私目掛けて両足を揃えて飛んでくる。
 私の顔目掛けてその紅蓮脚を叩き込もうと飛んでくる。
 しかし、蒼蓮華の紅蓮脚には欠点がある。
 車は急に止まれないように。
 弾丸が途中で曲がれないように。
 その速度は時に欠点となりえる。
 だから私は、身体を右に逸らして蒼蓮華の紅蓮脚をやり過ごす。
 背中の補助スラスターやらセンサ類が蹴り飛ばされたが気にしない。
 蒼蓮華と目が合った。
 その眼に映るのは私だけ。
 その眼に灯るのは戦意だけ。
 その表情は、まさに戦士。
 その顔に、私は振り上げた左手を叩き込んだ。
 この左腕は殴る為のものでは無いが、元の神姫の腕より一回りも二回りも太いく大きい。
 その上、刃鋼を持ったままなので更に質量が上乗せされる。
 その一撃をもろに顔面に貰った蒼蓮華は、その衝撃で地面に叩きつけられた。
 蒼蓮華は目をぐるぐる回し、頭上にはヒヨコがピヨピヨ飛んでいる……様に見えた。 

「ぬぁぁぁぁ~!!」
「さぁて……先輩、出すモン出して貰いましょうか」
 バーチャル・バトルマシーンのクレイドルから起き上がったら佐伯さんが頭を抱えて吠えていた。
 それにしても、マスターの裕子さんフリークはどうしたものか。
 現に目付きとか言葉遣いとか随分違う。
「……男の約束だ」
 そういうと佐伯さんはマスターに一枚の写真を手渡した。
 それを受け取ったマスターは一瞬、誰にも、私にも見せたことのない優しい表情になった。
「……確かに。ナル、帰ろう」
 マスターはそう言うと私を抱えて胸ポケットの中に入れてくれた。
 その前に蒼蓮華に挨拶しておこうと思ったが、それは出来なかった。
「あらあら、裕也。神姫バトルも良いけれど、モノを賭けるのは禁止してた筈でしょう?」
 人影まばらなセンターに女性の声が響く。
 その声を聞いた瞬間、マスターと佐伯さんは石像のように硬直した。
「約束を破る子には、オシオキが必要よね?」
 その刹那、身体に急激な衝撃が加わった。
 マスターが全速力で走り出したのだ。
 その顔を見ると、まるで警察から逃れる銀行強盗のような切羽詰った表情をしている。
「恵太郎くんも……ダメじゃない」
「ゆ、裕子先輩……」
 もう慣れたが、佐伯さんの姉上である裕子さんが何時の間にか目の前に立っていた。
 私はとばっちりを受けないようにマスターの胸ポケットから飛び降りた。
「これは違うんです…」
「何も、違わないわ」
 裕子さんはとても綺麗な方で、神姫の私から見てもとても魅力的な女性だと思う。
 誰にでも、神姫にでも優しい裕子さんを嫌う人を私は見たことが無い。
 ……もっとも、裕子さんを恐れる人なら幾らでもいるのだが。
「神姫は賭け事の道具じゃないとあれほど言ったのに……」
 裕子さんは哀しそうな表情で一歩一歩マスターへと近づいてくる。
 私は佐伯さんの事を思い出し、遥か後方を振り返った。
 しかして、そこにいたのは佐伯さんだったモノだった。
 その物体は真っ白くなり口から煙を吐いている……ように見えた。
 余程恐ろしい目にあったのだろう。
 ……そして、マスターも。
「も、もうしませんから許してくださいぃぃぃぃ~~~~」
「ダメ、絶対」






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