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武装神姫草創期、それは同時に武装神姫の暗黒時代でもあった。
規定がおざなり且つ曖昧で違法を裁くものが存在しなかった当時は過剰強化された自作武装が表立って猛威を振るい、又は神姫を全く別の物に造り替えてもCSCさえあれば公式バトルに参加出来るような、正に混沌を極めた時代であった。
現在ではオフィシャルの設立、積極的な介入により規定は正確に設定され一応の安寧が訪れているが、その混沌の渦中で破壊された神姫の数は確認されただけでも当時稼働していた全ての神姫の一割に昇ると言われている。
戦いに敗れ破壊される神姫、オーナーによって狂わされた神姫、名誉の為に自害を選ぶ神姫。そうした光景が決して珍しいものではなかった当時を、生き残った神姫達とそのオーナー達は「十五センチの地獄」「世界最小の戦場」「血は流れなかった戦争」等と様々な名称で表現している。
…これはそんな混沌とした時代を潜り抜けた一組の神姫とオーナーの物語である。
そのオーナーはとても幼く、新品のランドルセルを背負っていた。神姫の方も何の変哲も無い、強化改造や自作武装が普遍していた当時ではむしろ異常と言える無改造のストラーフ型であった。
無邪気にバトルに赴く彼らを見た神姫オーナーは誰もが思った。何も知らず神姫バトルの世界に踏み入れてしまった為にストラーフ型は誰かの武装の実験台になり、幼いオーナーにはパートナーを失った傷痕が取り残される。閉鎖的な環境は他人を助けると言う人道的な選択を凍結させ、ただ冷淡と一組の死別を予知させていた。
しかしその予知は大きく外れることになる。ストラーフ型は勝ち続けた。自身は非改造の公式武装にも関わらず自作武装や強化改造を施された神姫を相手に互角以上に戦い、時には最早神姫とは言えない異形の怪物さえも捩じ伏せた。
幼いオーナーはただ応援するだけ。ストラーフ型に何か特別な改造を施された形跡は無く、また強化された武装やオーダーメイドの武装を使うのでもなく、ただ公式の武装だけで、実質何の援助も無しに勝ち続けていく。
何故そんなに強いのか。あるオーナーの質問にストラーフ型は「私はマスターが信じてくれる私自身を護る為に戦っているだけ」と答えている。いつからかストラーフ型は『鬼子母神姫』と渾名付けられた。

…。
…。
…。

泡のように浮かんだ1が弾けて0に溶ける。目覚ましたイシュタルに映ったのはそういう世界だった。ここは神姫の夢の中。広大なハードディスクの中でポツリと浮かぶAIの中。マスターに自分の中身を点検させる度に訪れる異世界である。ただ普段と異なり自分は自分の中に拘束されて身動きが取れない。どうしてこうなっているのかと今にまで至る経緯を振り返る。
休日ということで普段よりも遅くに起床。今朝のマスターの朝食はバタートーストとベーコンエッグとレタスとトマトのサラダ。早めに部屋の掃除を終え電車に乗ってエルゴに。エルゴでマスターは自分の部品と何かの本を買って修理室を借り整備を済ませる。ジェニーと雑談をしていたら日暮夏彦にAIの調査を頼まれたので引き受けた。調査後バトルに繰り出したが満足の出来る強敵とは出会えなかった。帰宅時に神姫狩りに襲われてマスターの無事と引き換えに連れて行かれてしまう。
ということは今ここは神姫狩りのパソコンの中か。素体との接続は保たれており、手が入れられていないことに安心する。マスターと一緒に設計した素体だから他人に解体されていたらどうしようかと思った。そして自分とマスターとの大切な思い出には閲覧記録が無いので二度目の安堵をする。
予想通り今は自分に蓄積されている戦闘データをコピーしているらしい。現状を把握したところでセキュリティの眼を盗んで感覚を広げ今自分の居るパソコンの中を調べる。自分の一部を有象無象のデータの中に飛び込ませ今自分が欲している情報だけを持って来させた。神姫狩り達の行動は非合法とされる賭けバトルへの参加、自作武装の強奪なんて小さな悪事の他、何と世界的に禁止されているはずのMMSの軍事利用を研究している組織とも繋がりが有ることが判明した。
高名な神姫は貴重且つ膨大な戦闘データを持っている。自分もまたそこら辺の神姫とは比べ物にならない戦闘経験を持つ歴戦の兵であると自負していた。それを考えればそれを狙う神姫狩りが自分を狙うというのは正しい審美眼を以て行われた犯罪とも言える。
しかし、それはそれ、これはこれ。他人の神姫のデータを不正コピーさせているパソコンをネットに繋げたままにしているのは迂闊としか言いようが無い。御蔭で衛星を通して今居る場所を割り出す事が出来た。今居るのはエルゴからはそう遠くは無い場所にあるビルの中だ。今直ぐ日暮夏彦にメールを送れば数時間後にはマスターの下に帰れるだろう。だがそれはしない。
武術の達人曰く「武を振るうは下策、その時すでに護身は失敗と心得よ」。それは理解してる。このまま何もせず他人に任せた方がずっと安全だ。けれど悪党を見て自分は何もしない言うのは寝覚めが悪く、調整したばかりの身体を試してみたい気持ちも有り、何よりマスターを傷付けた連中をわざわざ警察に任せ懲役云々で済ませるのは例えマスターが許しても自分自身が許せなかった。…と言うわけで。

「なっ…なんだよ、これっ!」

世界を流転させる。自分を縛り付けていた施錠は藻屑と消える。AI複製ソフトは台無しになり元も子も無くなる。幾らこの世界の向こう側から指示を出そうとも、もう遅い、パソコンの中を調査している間にハッキングを掛けてオーダーの支配権は全て奪い取った。もうここは「私の」世界だ。
世界は流転する。自分自身を砲弾として向こう側の世界に撃ち出す。海の様に緩やかな世界から抜け出した途端、不自由な重力が身体を縛る。二次元の物は三次元に。0と1は隅に追い遣られ赤ん坊が産声を上げている。パソコンの中の世界とは違い、現実世界は思い通りにはならない。だからこの瞬間だけは胸が高鳴った。
感傷に浸る暇も無く素体の中で目覚めたイシュタルは目覚めとほぼ同時に駆け出して慌しくパソコンを操作していた痩せた男の手に昇る。そこから息も吐かせず身体を駆け上がり、その途中で胸ポケットから奪ったボールペンを額に突き立てた。

「なぁ、んがっ?」

混乱、覚醒、襲撃。現実の変動に男の認識が間に合っていない。その隙に首の後ろに回られて、ドスンと一撃。走馬灯に馳せる暇も無く即死する。
神姫にプリインストールされているロボット三原則などイシュタルにはあってないようなものだ。人間にとっての憲法や法律と同じもので守る必要が有ると思えば守るし破っても構わないと思えば平気で破れる。

「…ふむ」

イシュタルは崩れ落ちる人体に巻き込まれる前に着地。神姫である自分にも罪悪感なるものが存在するのか殺めた手から後味の悪い感触が伝わっきたが、大したものでもないので無視する。
それよりも次はどうするか。残り二人とその神姫達は皆殺しにするのなら一人づつ静かに消していくのが効率的だ。全身から電磁波を飛ばしその反射波をレーダーとして建物の中の構造と人物と神姫の動向を把握する。
キッチンで女が調理をしている。リビングで男が飲食している。玄関にフォートブラッグ型と紅緒型が将棋をしている。洗濯機の前でジュビジー型がアタフタしている。小部屋でムルメルティア型が射撃訓練をしている。冷蔵庫の近くでストラーフ型が食材を運んでいる。小皿に乗せたコーヒーカップを持ったエウクランテ型がこちらに向かっているので急いで駆け出した。

「マスター、コーヒーを持ってきました」

出会い頭にエウクランテ型をボールペンで殴打。小皿とカップを奪い取り音を立てさせないよう床に転がした。エウクランテ型は混乱しながらもイシュタルを認識し後方に跳びながら体勢を立て直す。

「貴方一体どうやって…いやそれよりも、貴方、マスターに何をしたの!?」

自分と大差ないストラーフ型の向こうに何倍も大きな人影が倒れていた。身動きどころか呻き声すらも上げないマスターの姿は否が応でも嫌なものを連想させ、それを振り払うように声を張り上げる。

「君のマスターは『君の仲間に』殺された」

イシュタルは嘘を吐くと同時にイシュタルはエウクランテ型に接近し押し倒した。首を絞めコアとCSCの接続を捩じり切る。
真実を教える必要は無い。大事なのは相手が全く想像していなかったことを言い放って、その意味を考えさせる事だ。一瞬の隙が致命傷に繋がる場において口先三寸ほど有効なものは無い。
電磁波を使ったレーダーで今のエウクランテ型の大声を聞き付けた人物は居ない事を確認する。

「マスターを苦しめた武器を私が使う事になるとは」

流石にボールペンは取り回しが悪いので物言わぬエウクランテ型からエウロスとゼピュロスを拝借した。そして誰にも見つからないように音を立てず隠れながら自分のCSCが発する電磁波の周波数も書き換え対神姫センサーにも引っ掛からないように移動。先ずは誰とも一緒に居ないムルメルティア型だ。
確か向こうの神姫には自分と同じストラーフ型が居た、それを利用させてもらおう。表情の違和から別の神姫だとばれないよう俯きながら如何にも悲しい事が起きた後の様な重い足取りでムルメルティア型が居る小部屋に侵入する。

「おぅ、ストラか。…どうした、またマスターに怒鳴られたのか?」
「そうなの…マスターが…」

ムルメルティア型は気付いていない。イシュタルはちょっと自分を褒めたくなった。それを抑えて可哀想なストラを演じながらも何も言わずにムルメルティア型の胸に飛び込む。

「しょうがない奴だなぁ。今から一緒にヂェリカンを飲もう。愚痴を聞いてやるから」

気の良いムルメルティア型の胸にそっと手の平を重ね、微弱な電気をエネルギー供給路に流し込み強制的に停止させた。

「おっと」

自我を失い崩れ落ちるムルメルティア型を床に降ろして胸のハッチを開きCSCに電磁波を利用したハッキングを仕掛ける。
手から発する電磁波の周波数を調整、イメージとして自分の手をクレイドルに、素体をパソコンに変えてムルメルティア型に自分のAIをインストール。セーフティを外す為に正規のセキリュティソフトが取り除かれていた御蔭で楽に侵入出来た。バックアップをクラックしオーバークロックを掛けてメモリに過負荷を与える。全てを書き換える必要は無い、とりあえず自分以外のものは全て倒すべき敵であると錯覚してもらえればいい。
エラー、バグ、メッセージ、レジストリの抵抗を一切踏み躙ってムルメルティア型のAIをそういう風に作り変える。自分一人で全てを倒すのは大変だが二人、それも敵の仲間を裏切らせたとなれば敵に対する衝撃は大きく殲滅作戦も遣り易くなる。
僅か五分足らずでハッキングを終え、再起動させらたムルメルティアの眼には光が無く、そこに居るのはイシュタルの命じられるがまま動く人形だった。

「派手に暴れて来い」
「了解、マスター」

ムルメルティア型には自分の武装を装着させてからリビングに向かわせ、その後ろをイシュタルは誰にも見つからないように隠れながらもついていく。
リビングでソファに腰掛けていた男は酒を飲んでいた。飲み始めてから随分経っているのかアルコールの臭いが充満していて自分の神姫を見る視線にも焦点が有っていない。直ぐ近くで起きた異変もそこに倒れている仲間の死体にも気付かずまだ大物を捕らえた達成感に酔っている。

「ぁー? 今日くらいはいいだろぉ、なんたって大物を捕まえたんだからなぁ」

酔いの所為かムルメルティア型に砲口を向けられても、それはただの威嚇だと思っていた。しかしその予想に反し3.5mm主砲は唸りを上げ徹甲弾が酒に蕩けた目玉を四散させる。

「ウギャァァアアアアアア!?」

自分のマスターの悲鳴を気にも留めずムルメルティア型は接近し鋼芯を叩き込んだ。元々最大級の火力を誇るそれは違法改造によって最早人を殺傷出来る凶器と同義であり易々と人肉を食い破って内臓に風穴を開ける。
血の噴水に床が汚され自らを赤く染め上げてもムルメルティア型は止まらない。生存本能に振り回された両腕を無視して人体に穴を開ける作業に没頭する。肝臓と腎臓が穿たれ激痛にのたうちまわり、とうとう左胸の上に標準が合わせられたところで、

「何やってるんだよ、ルーティ!」

悲鳴を聞いたストラーフ型の放ったウラガーンに妨害され玄関に居たフォートブラッグ型と紅緒型、洗濯機の前でアタフタしていたジュビジー型も駆けつけた。全員、只事ならぬ事態を感じ取っていたのか武装している。

「クレナイは田西さんとクウを呼んできて! 念の為、ユーは僕のマスターのところに!」
「心得た、直ぐに戻ってくる!」
「分かりました!」

ストラーフ型の指示によりジュビジー型はキッチンに向かい、紅緒型はイシュタルが居る方に向かい、残ったストラーフ型とフォートブラッグ型が暴れ回るムルメルティア型に応戦する。
イシュタルは壁の上に立つことで紅緒型から見つからないようにやり過ごし音も無く紅緒型の背後に降り立つと振り向かせる暇も与えず首を掴んで中の回路を捩じり切った。
残るは洗脳したムルメルティア型と戦っているストラーフ型とフォートブラッグ型と、キッチンから動こうとしない女性とそれを護るジュビジ―型。建物の中を調べられ自分達の犯罪行為の証拠を見つけられる事を恐れてか警察や救急車を呼ぶ気配は無い。それはイシュタルにとっても好都合な事なので恐怖で気が変わらない内に女性とジュビジー型から始末することにする。

「大丈夫ですよ、マスター。きっと畑野さんなら無事です…」

キッチンではジュビジーがリビングの惨劇を己のマスターに教え、慰めていた。女性は神姫達に任せれば大丈夫だからと自分はキッチンの隅で縮こまっていることを選んだようだ。キッチンの出入口から女性とジュビジー型の居る場所までは大分距離が有る。
ムルメルティア型にしたように仲間のストラーフ型の振りをして近付くことも考えたが、武装の有無から怪しまれるかもしれない。出入口からジュビジー型を操作することも出来るが遠距離から神姫を操るなると自分のバッテリーを大量に消費する上に命令から行動までにタイムラグが生じ女性を逃す可能性も有ると判断し真正面から堂々と忍び込んだ。
特に神姫であるジュビジー型には一瞬でも見られてはいけないので特にそれを気にしつつ少しづつ接近していく。勿論、リビングでの戦況の把握も忘れない。ムルメルティア型があっさり負けてしまわないよう祈りながらも物陰から物陰に移動し壁を這い蹲って天井を走り、数分掛けて何とか彼女達の真上の天井に立つ。
ゼピュロスを投げ一人と一体の視線がそちらを向いている内に落下、女性の首筋に着地して振り返りながらも一閃。エウロスの刃で頸椎を切断し、混乱と恐怖の中で絶命させた。

「なっ、貴方は…っ!?」

ジュビジー型の驚きを余所に問答無用でCSCを狙い突くも、エウロスは固い装甲に遮られる。

「無駄です!」
「そうかな」

ならばもう片手での正拳突きを繰り出した。これも装甲に止められたが問題は無い。拳から装甲を通してジュビジー型のCSCに電磁波を流し込むことで強制的に停止させ、今度こそCSCを貫いた。フィクションの拳法に頑強な鎧を着た相手に自分の気を通してダメージを与える鎧通しという技が存在する。神姫であるイシュタルは機械の動力である電気を気の代わりにすることで神姫流の鎧通しを編み出していた。

「さてと」

一人と一体を暗殺した後でもリビングでの戦いはまだ続いている。人間の方は皆殺し終えたのだからもう隠れる必要は無いと判断してイシュタルは堂々とリビングで姿を見せる。ムルメルティア型のオーナーだった男は出血多量で死んでいた。

「な、お前は…っ!」

ムルメルティア型は大分傷付けられていたが致命的という程でも無さそうだ。イシュタルは安心して近くに居た、又同型と言う理由でストラーフ型に襲い掛かる。エウロスの刃先を副腕で持ったグリーヴァで受け止め両手に持ったコートとコーシカで突き出された腕を斬り落そうと振り上げたがイシュタルは斬撃より一歩早く腕を引いて、ならばと繰り出された追撃の回し蹴りも脚が胴を捕らえると同時に衝撃と全く同じ方向に跳ぶ事で完全に威力を完全に殺しつつも距離を取った。
着地し無防備になったその瞬間を狙いフォートブラッグがイシュタルを狙撃しようとしたがムルメルティア型によって妨害される。操られた3.5mm主砲が仲間の足を引っ張った。

「くそっ、とっとと目を覚ませ! お前の相手は俺じゃねぇだろぉ!」

ストラーフ型がロークのガトリング銃口を突き付けた先にもうイシュタルはおらず、瞬間すぐ間近にまで迫っていた。放たれた拳がストラーフ型の胸に当たる寸前で副腕で受け止められるが、それなら副腕に触れる手から電気を流し込む。本来ならこのまま先のムルメルティア型、ジュビジー型と同じ運命を辿るはずだったストラーフ型は何と直感で嫌な気配を感じ取り電気がCSCに至る前に副腕を強制排除することで逃れた。

「ほぉ」

理由は分からないが、よくぞ破った、流石は自分と同型と口には出さないが自画自賛。自分の必殺技が破られたところで平静は揺るがない。イシュタルは蛇行しながら走ることでジーラヴルズイフの狙いを乱し格闘戦に持ち込んでエウロス一本でコートとコーシカの二刀流を相手に圧倒する。改造と非改造の性能差を埋めて凌駕する技術と経験の差がストラーフ型を追い詰めコーシカが弾き飛ばされた。大袈裟に距離を取ろうとしているストラーフ型をつまらなさそうに笑う。

「弱いな。そんなだから、自分のマスターさえ守れないんだ」
「…!」

平静を保とうとしていた感情の琴線がピクリと動いた。

「一体マスターに何をした!」
「殺した。そこに死体があるぞ、見てくるか?」
「…貴様ァァッァアア!」

まるで明日の天気でも話しているようなその口に目掛けて、過剰負荷を掛けてでも一瞬でブースターを最大出力にまで噴出させ防御も何も考えない特攻を仕掛ける。触れれば何もかもを壊してしまいそうな純粋な憤怒、確かにそれを真正面から受け止めるのは恐ろしいがそういうものほど折り易いものは無いことをイシュタルは知っていた。
だから身を屈めるだけでも容易く無防備な真横を取ることが出来、エウロスの切っ先でストラーフ型のCSCを貫く。
エウクランテ型を嵌めた時とは異なり今度は嘘を吐かなかった。不安は心を揺らがせ怒りは眼を曇らせる。言葉責めは戦闘の常套手段だ。尤も、スポーツマンシップに反するので公式の試合では使えないのが玉である。
兎にも角にも残るはフォートブラッグのみだがそれも直ぐに決着が着いた。

「くそっ、くそっ…くそぉおおっ!」

ムルメルティア型を盾にしたイシュタルに力押しで接近されフォートブラッグ型は成す術も無く殴り壊される。今際の断末魔がフォートブラッグに出来た唯一の抵抗だった。これでビルの中で動くものはイシュタルとムルメルティア型だけになる。そのムルメルティア型も自由意思は存在しないのだから実質はイシュタルのみ。
後始末をしなければならない。三人も殺せば自分の廃棄処分は免れない事は理解しているのでそうならないよう今の状況に細工を加える必要がある。

「止まれ」
「了解、マスター」

命令に従って自ら停止するムルメルティア型を再びハッキングし最後の役割を命じる。警察はこの殺人事件調査する際、真っ先に神姫のメモリを閲覧するだろう。それを見越してムルメルティア型のAIとメモリを「度重なる違法改造で狂ってしまった」と書き換えて、この惨劇の犯人に仕立て上げさせようとしていた。
やや苦しい言い訳だが上手く騙し通せる自信が有る。改竄された形跡を残さないと言い切れるのも有るが、何よりも証拠が無いからだ。神姫に指紋なんてものは無いし頭髪にしても同型が居る。電磁波を使ったソナーでカメラが無い事も確認済みで唯一の手掛かりは神姫の中身だけ。
そして最後にして決定的な証拠である自分自身の記憶でさえも問題は無い。ムルメルティア型のAIとメモリの書き換えを終えたイシュタルは最後の仕事として自分の胸元に手を置いた。「自分自身の心と記憶を書き換える」。ここでやったことの記憶を全て消せば自分はただの被害者であり人間を攻撃出来ないノーマルの神姫だ、オフィシャルもそれは疑わない。
薄れゆく意識、失っていく記憶、消えていく自我の中、殺人姫は満足げに微笑んだ。




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