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えむえむえす ~My marriage story~

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 朝一番に訪れた事務所。
 二組分の出発の支度をしていた少年を招いたのは、この自転車便を束ねる若き女社長だった。
「え……? 今、何て……?」
 彼女から言われた第一声を、少年は思わず聞き返してみせる。
「峡次くんもそろそろ独り立ちしてもいいんじゃない? って」
「マジですか! 碧さん!」
 さらに問い返した少年の様子がそれほどおかしかったのか、事務机に座ったままの碧はくすくすと笑っている。
「うん。キリコとかゲイナーとか、プライムもまあ大丈夫でしょって言ってるし……」
 いずれも碧とは付き合いも長く、信頼の置けるスタッフ達だ。彼らが峡次のこの半月間の仕事ぶりを認めたというなら、おそらく問題は無いだろう。
 業務内容もひととおり身に付いているようだったし、彼自身の勤務態度は初めからさほど心配はしていない。
「あの、だったら……」
「うん。ノリコちゃんも連れていって。ただし、お客さんの所では出さないように気を付けてね?」
「ホントですか!」
 その言葉に、事務机の隅にいた十五センチの小柄な娘も思わず碧のもとに駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 そして喜ぶ少年達の中に割り込んでくる、非難の声が一つ。
 少年の腰ほどの高さもない小柄な自動人形だ。
「ちょっと碧! このチビチビ神姫、何の役にも立たないですよ! まだまだミドリがOJTを……」
「はいはい。ミドリは遊び相手いなくなって寂しいだろうけど、我慢なさいね」
 碧の言葉にミドリと呼ばれた自動人形はふわりと広がるスカートを握りしめ、わなわなと小さな肩を震わせている。
「あ、遊び相手じゃないのです! ミドリは、こいつに地獄の特訓をしてやっているのです! 碧も次の大会で……」
 ミドリが毎日、これ以上ないほど楽しそうにノリコの相手をしているのは知っていた。もちろんその特訓とやらの内容も。
 そしてそれは、碧の目的にも十分合致するものではあったが……。
「あれだけミドリの特訓について行ければ十分だって」
 それに、目の前の少年のやる気にも直結するだろう。
 まあ暫くは、機嫌の悪くなったお姫さまのご機嫌を取る事にもなるのだろうけれど……。それは、自律可動ロボットの最高峰とも言われる自動人形オーナーの義務であり、また特権の一つでもあった。
「峡次くん。今日の最初の行き先はここね。ノリコちゃんは現場初めてだから、慣れるまではキットも持って行くこと。分かった?」
「分かりました! ありがとうございます!」
 受け取った地図をメッセンジャーバッグに放り込み。
「ほら、行くぞ。ノリ!」
「はいっ!」
 伸ばした手に飛び乗ってくるのは彼の小さなパートナー。
 事務所を飛び出していく二人を、碧は穏やかに。
 そして彼女の自動人形は、どこか名残惜しげに見送るのだった。


マイナスから始める初めての武装神姫

その17



 事務所の階段を降りるのは、今日は俺一人だけ。
 そして肩にはノリが乗っている。
 今までは、それは帰りの俺達の組み合わせだったけど……今日からは、これが仕事の標準になるんだ。
「峡次さん。今日の行き先って?」
 もらった地図を開いて、場所を確認。
 ……うん。百式さんやキリコさん達と、今までに何度も通ったエリアだ。
「この辺だな。トイズからなら、片道二十分もありゃ余裕ってトコか」
 約束の時間は三十分後。その後の配達希望時間はなし。
 一人で行くのは初めてだから、余裕のある配達を任せてくれたらしい。
「今日はノリは、どんな感じか慣れる所からな」
「え? この位なら、ナビも……」
 まあ、気持ちは分かる。
 俺も最初は全部まとめて覚えていこう……なんて思ってたけど、すぐにそれがどれだけ甘いか思い知らされたわけで。
「一つずつだよ。いきなり全部は大変だから、ゆっくりやっていこう」
 ノリは明らかに納得していない様子だったけど、まあ、こればっかりは時間を掛けて分かってもらうしかないよな。
 仕事の間は難しいだろうから、帰り……かな。
 そんな事を考えながら、いつもの黒いユニットを取り上げる。慣れた動作でステムに付けて、起動スイッチを押し込んだ。
「やあ、マイケル。今日はエイプリルもご一緒ですか? エイプリルにしては随分と小さいようですが」
「エイプリル?」
 いきなり呼ばれたその名前に、ノリは不思議そうな顔をしてみせる。
「このナビ、男はデボンかマイケルで、女はボニーかエイプリルなんだと」
 俺の場合は、三台に二台がマイケルで、残りはデボンと認識される。何を基準に呼び方を変えてるのかは、正直よく分かんないけど。
「へえ……」
 ナビに位置情報を指示して、アシスト開始。
 この地図の辺りなら迷わずに行けるだろうけど、万が一って事もあるからな。初めての一人の仕事でつまんない失敗をするのだけは、何としても避けたい所だ。
「なら、ナビは頼むぜ。K.I.T.T.T.T.」
「お任せ下さい、マイケル」
 基本的に頼りにならない電子音声も、今日は……あんまり頼りになりそうにないけど、ないよりマシと思うことにする。
「…………峡次さん」
 そしてポケットに入ってる、小さな相棒も。
 ……ああ、明らかにK.I.T.T.T.T.に仕事を取られたように感じてるっぽいなぁ。
「……なら、二人に頼むよ。ナビ」
「はいっ! 任せて下さい!」
 少しだけ機嫌を直してくれたらしいノリの様子を確かめて、俺はペダルを踏み込んだ。


 目的の場所に着いたのは、それからきっちり二十分後の事だった。
 約束の時間まであと五分。自転車を駐めて向かえば、ちょうど良いくらいかな。
「うぅ……」
 そして、落ち込んでいる様子のノリも……予想通り。
 地図データが入ってて、いつも俺と一緒にロードに乗るのも慣れてるって言っても、いきなり道路状況や最短ルートを考えながらのナビなんて難しいよなぁ。
「ほら。だから、一つずつって……」
 とりあえず今までの通勤で自転車酔いはしなくなったんだし。その調子で一つずつ出来るようになってくれれば、俺としては十分なんだけど。
「おかしいです……。ちゃんとミドリさんの特訓、受けたのに……」
「……あれか」
 ノリ、あれが自転車便用の特訓だったって、いまだに信じてたのか……。
 やっぱ、言っといた方が良いだろうなあ。
「ちゃんと再照準のスピードも、遠距離の精密狙撃も、ミドリさんの合格がもらえるくらいまで練習したのに……」
「……言いにくいんだがな、ノリ」
 自転車のロックを掛け終えて。
 誤魔化すように小さな頭を撫でれば、ノリは不思議そうな顔をしながらも喜んでくれる。
「はい?」
 うぅ、なんか逆に言いにくくなっちゃったぞ。
 でもこのタイミングじゃ、言うしかないよなぁ。
「ミドリさんのあれ……メイドハンマーの特訓で、別に自転車便の特訓ってワケじゃないぞ」
「…………え?」
 あ、撫でられても表情が変わらなくなった。
「じゃ、じゃあ……ターゲットを見失った後に出来るだけ早く再捕捉する特訓も、百メートル先の高速移動するバルキリーに速射で当てる特訓も……?」
「……少なくとも自転車便じゃ、使わないスキルだな」
 そもそもどのタイミングで使うと思ってたんだ?
 上手く応用するとすれば、道路状況に応じた素早いルート把握くらいだろうけど……。あれはあれで、考え方にパターンがあるからなぁ。
「そんなぁ……」
 うぅ、これ明らかにタイミング悪かったな。
 でも今を逃して、言うタイミングも思いつかなかったし……気が付いた時にちゃんと言っとけばよかったか。
 まあ仮に初めのうちに言ったとしても、ミドリさんのする事は変わらなかった気もするけど。
「俺の手伝いは、少しずつ覚えて行ってくれたら良いからさ。それじゃ、荷物受け取ってくるから、ちょっと待っててな」
 もう一度小さな頭を撫でておいて、俺はお客さんのいるビルへと向かうことにした。



 峡次さんがビルの中に消えて。
「…………はぁ」
 自転車の上で思わず出たのは、小さなため息が一つ。
 射撃訓練なんて、自転車便のどこで使うんだろうとは……薄々は疑問に思ってたんです。けど、まさか本当に峡次さんのお仕事と全然関係ない事だったなんて……。
 ショックです。
 これじゃわたし、本当に峡次さんのお仕事に付いてきただけになっちゃいます。
 わたしがしたいのは、峡次さんのお手伝いなのに。
「どうしました、エイプリル」
 そんなわたしに声を掛けてきたのは、電源が入りっぱなしになっている自転車に付けられた黒い箱。
 ナビシステムの……。
「ええっと……キットさん?」
「はい。私はKnight Industries Two Thousand Thirty Two。K.I.T.T.T.T.と呼んでください。キットでも結構」
「は、はあ……」
 Tをどれだけ略せば良いんでしょう。
「あの……キットさんは、お話出来るんですか?」
 そういえば、峡次さんは動作の全てを音声入力で行っていました。色々おしゃべりもしていたみたいですし、キットさんにもAIが入ってるんでしょう。
「お暇ならお相手いたしますが、エイプリル。運転中のあまり熱の入ったおしゃべりは、感心出来ませんね」
「……運転中じゃないです」
 何より運転するのは峡次さんで、わたしじゃありません。
「そうですか。他にも私は、世界三十二カ国のムードに合ったBGMと、十三カ国語でのナビゲートが可能です」
 ムードに合ったBGMというのがどういうものかはよく分かりませんでしたが、十三カ国語も喋れるなんてすごいです。
 わたしは、ベース言語の日本語も上手く喋れないのに。
「すごいなぁ……。じゃあ、今のオススメBGMって?」
 そう聞くと、キットさんはしばらく黙っていましたが……。
「『おい、そば屋』『ヘーイ。いらっしゃい』『何が出来る? おっ、花まきに、しっぽくか? しっぽくをもらおうかな』」
「……何で時そばなんですか」
 お腹が空いてるんでしょうかキットさん。
 しかもあんまり上手じゃありません。
「……『今晩は一稼ぎするぜ』『この屋号を見たからついてるぞ。そばは大好きだ。この屋号を見たら、また来るぜ』」
 ここまで聞いておいて何ですが、ひと稼ぎするって所だけしか合ってない気がします。
「お気に召しましたか? エイプリル」
「よく分かりません」
 そもそも落語はBGMなんでしょうか。
 それに車ならともかく、自転車でスピーカーからBGMが流れるというのも何だか微妙な気がします。
「遅いなぁ……峡次さん」
 ロードバイクは自転車置き場にちゃんと駐めてありますから、怒られる心配はありません。何か起きそうになれば、わたしも上手く逃げて峡次さんに報告することも出来ますし。
 でも、前輪と後輪に合わせて四つも鍵を掛けていれば、さすがの自転車泥棒も手を出すようなことはないと思うんですけど。
 これなら、峡次さんの鞄に入れてもらって行けば良かったな……と、少し思ってしまいます。もちろん碧さんはダメって言いましたから、峡次さんも良いとは言わないでしょうけど。
「では環境音BGMなどいかがでしょう」
 次にスピーカーから流れ出したのは、車の音や人の歩く……秋葉原に電車で行った時に聞いたような音でした。
 こういうのを環境音BGMっていうんですね。
 でもこの音、全部すぐ向こうの通りから聞こえてくる音です。キットさんのセンスは、よく分かりません。
「…………」
 そんなキットさんのBGMを聞きながらぼうっとしていると、ようやくビルから峡次さんが出てきてくれました。
「ごめん。何か書類の用意が出来てなくて、袋詰め手伝ってた」
 それでも、バッグの中には預かった荷物が入っているのをどこか緊張している様子で……。
 そうですよね。これからが、本番です!
「ノリはもう平気?」
「ちょっと休んだから、大丈夫です。それじゃ、行きましょう!」
 今度はナビ、がんばろう!


 それから、三十分が過ぎました。
「うぅぅ……」
 既に峡次さんは目的地に到着して、預かった荷物を渡しに行っています。
 お留守番のわたしは、自転車置き場に駐められたロードのハンドルの上で、小さくため息を吐くしかありません。
「また負けちゃいました……」
 道案内は、キットさんにまた完敗。
 二連敗です。
 もうぐうの音も出ません。
 ……ぐう。
「キットさん」
「どうしました、エイプリル」
 中央ディスプレイに映ったゲージを上下させながら、キットさんはさっきと同じ調子で静かに答えてくれます。これが勝者の余裕……ってやつなんでしょうか。
「すごいですね、キットさん」
「恐縮です」
 短くそう答えるのも、何だかかっこよく見えてきました。
 多分……ううん、間違いなく、わたしが峡次さんに褒められたらこんなひと言じゃ済まないでしょうし。
「うらやましいなあ……」
 そんなキットさんに、思わず本音が出てしまいました。
 子供っぽい考えなのは何となく分かってますけど……キットさんに笑われてしまうでしょうか。
「申し訳ありませんエイプリル。言葉の意味が理解出来ません」
「……?」
 あれ。
「うらやましい、が?」
「はい。私のAIでは言葉の意味が理解出来ません」
 AIのシミュレート可能な範囲に含まれない……って事かな。キットさんもマグナムさんや百式さん達みたいに、変な質問したらフリーズしちゃうのかな?
 またフリーズさせたら、峡次さんに怒られちゃいます。気を付けて話さないと。
「じゃあ……キットさんは、うらやましいって思ったこと、ないの?」
「うらやましい。羨望。会話用のデータベースにはありますが、私のAIでは言葉の意味が理解出来ません」
「そうなんだ……」
 会話用のデータベースにあるなら、分かりそうな物だけど。キットさん、すごく大人みたいなしゃべり方をするし、トイズでずっと働いてるみたいだから、お話の経験もたくさんあるんじゃないのかな。
「私も、キットさんみたいになれればいいのにな……」
 経験が物を言うなら、わたしの経験は圧倒的に足りない。
 もちろん、起動してまだ三ヶ月も経っていないんだから、経験が足りないのは当たり前なんだけど。
 それでも……ううん、だからこそ、羨ましいって思ってしまう。
「恐縮です」
「うん。峡次さんの行きたい所や、近道もしっかり案内出来て、峡次さんからありがとう、って言われるの」
 けど、まだわたしがそれが出来ない。キットさんみたいな少し早めの経路指示も、渋滞や工事状況を組み合わせたルート選びも、自転車が通れる近道の案内も。
 峡次さんもこの辺りは走り慣れてるらしくて、キットさんの案内を半分くらいは聞いてないようだったけど……そんなマスターの好みや理解度も計算に入れながらナビが出来たら、格好いいんだろうなあと、思う。
「……なれるかな?」
「申し訳ありませんエイプリル。言葉の意味が理解出来ません」
 この質問も、AIのシミュレート範囲外って事か。フリーズしないだけ助かるけど……言い換え可能で、キットさんでも分かりそうな言い方ってなると……。
「……だったら、行けるかな?」
「行き先を入力してください、エイプリル。道さえ続いているならば、私はどこへでも案内可能ですよ」
「行き先かぁ……」
 わたしは、どこに行きたいんだろう。
「行き先未定でしたら、ランダムの行き先を設定可能ですが?」
 ううん。行き先は決まってるんだ。
 神姫の……わたしの、一番したいこと。
 それだけは分かってる。
 そしてそれだけは、絶対に誰にも譲れない。
「しなくていいです。行き先も、どう行くかも……わたしが、決めないとダメだから」
 峡次さんは、少しずつ頑張れば良いって言ってくれた。なら、峡次さんが喜んでくれることを、一つずつ出来るようにしていくしかない。
「良い旅を、エイプリル」
 大変だろうけど……ミドリさんの研修だって何とかなったんだ。キットさんにいろんな事を教えてもらいながらなら、きっと峡次さんが喜んでくれるナビも出来るようになるはず。
「ありがと、キットさん」
「恐縮です」
 それまではいろんな事、たくさん教えて下さい。
 キットさん。



 荷物を渡して、受領印をもらって。
 自転車置き場に戻ってきた俺を待っていたのは、キットが時々垂れ流すよく分からないBGMに合わせて鼻歌を歌う、ノリの姿だった。
「ただいま、ノリ」
 何だかさっきまでと違って、随分機嫌が良い。
 俺が荷物を持っていく前は、ナビ競争でキットにボロ負けしてだいぶ落ち込んでたはずなのに……何か良いことでもあったんだろうか。
「あ、峡次さん。お帰りなさい! お仕事、終わりました?」
「ああ。碧さんに頼まれてたのは終わったんだけど……」
 携帯用のデータ端末には、既に次の目的地が表示されている。どうやらちょっと急ぎの回収物があって、それに一番近いのが俺らしい。
「次、行くよ」
 自転車のロックを端から解除して、ノリを胸元のポケットへ。
「キットさん、出番ですよ!」
「行き先を入力してください、マイケル。道さえ続いているならば、私はどこへでも案内可能ですよ」
 ……あれ。
「ノリは、今度はナビしたいって言わないの?」
 さっきまでのノリなら、キットに張り合おうとしてほっぺの一つも膨らませてるはずなのに。
 今のノリは、むしろキットのお手並み拝見……といった余裕らしきものすら見せている。
 まあ、今はそれくらいの気持ちでいてくれた方がいいんだけど。
「今はまだ、キットさんの方が峡次さんのお役に立ててますから」
「ノリも十分助かってるけどね」
 正直、一人での初めての配達なんて終始ドキドキしっぱなしなんだ。
 安物のAIだから仕方ないとは言え、キットのナビは半分はアテにならないし……走行訓練やトラブルへの対応も先輩達に色々仕込まれはしたけど、一人でどこまで対応出来るかなんか分からない。
 けどノリがいるだけで、一人のはずの作業が、どれだけ心強いと思えたか。
「でも……すぐに、道案内もしっかり出来るようになりますからね!」
「うん。楽しみにしてるからな、ノリ」
 そんなノリが、キットの代わりにナビもしてくれるようになってくれれば、言うことなんかない。
「はいっ!」
 早く二人で一人前になろうな、ノリ!

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