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第二十二話  「コノ頃都ニ流行ルモノ」




 それは、三条 初菜が桐皮町で璃子と出会う、数日前までさかのぼる。





 ※※※


 その日は、朝日がまぶしかった。
「ん……よし、っと」
 部屋にしゅるしゅると、衣擦れの音が響く。真っ白いワンピースに、初菜が袖を通し終わったのだった。
 ここ、京都市街・丸太町通りと東大路通り付近にある旅館『さんじょう』の朝は早い。初菜は洋服に着替え、眠い目をこすりながら居間へ向かう。昨晩の団体客の世話がこたえたらしい。もっとも、小学校の時分から慣れっこであったから、辛いと思ったことはない。

 初菜が居間へ向かうと、テレビの音とともに話し声がした。
「……ハン、こりゃダメだね。ま、関の山は秋場所に期待だよ」
「……いえ、まだです。ここから一撃必殺の押し出しが……、あ」
「そら見たことかい。こりゃアタシのもんだ」
 居間を覗き込むと、そこでは白髪の老女と、ちゃぶ台の上の牡丹が、テレビをのぞきながら大量の十円玉を前に賭け事をしているのだった。。初菜は眉をひそめた。
「おばあちゃん、またお相撲で賭けしちゃいけんよ?」
「おや、初菜かい。別にお前は気にすることじゃないだろうさ」
 老女が不機嫌な表情を見せる。初菜の言うとおり、この老女こそ初菜の祖母にして泣く子も黙る『さんじょう』の大女将、三条 ツネである。きつそうな性格を表した、銀縁眼鏡がきらりと光る。
「もう。牡丹もきちんと注意してよ」
「……申し訳ありません。しかし、これほど負けたのならば、次こそは勝てると思うと、つい……」
 初菜は首を振った。こんな勝負に熱くなって、いつもの牡丹らしくもない。
「初菜、そろそろ学校じゃないのかい」
「分かってるよ。ほな牡丹、行くよ」
 牡丹はこくんとうなずくと、音もなく姿を消した。こうして、普段は姿は見えなくとも、初菜の周囲を見守っているのである。
 しかし。初菜がバッグの肩ひもをかけなおした時、
「そういえば、初菜」
「なあに? おばあちゃん」
「おまえ、最近よく東京まで遊びに行くようじゃないか」
 ぴたりと、初菜の足が止まった。ツネがそれを見逃さず、眼鏡の奥で、鋭い眼光を光らせる。
「いつも言っているだろう。島津の孫とつき合うのはよしなと」
「……おばあちゃんには関係ないわ」
「関係ないものかい。おまえのためを思って言っているんだよ」
 ツネは、苦々しい表情で吐き捨てる。
「島津の男と関わった女はね、みんな不幸になっちまうのさ」
「違うっ!」
 初菜が珍しく声を荒げた。
「輝はんは違う……! 誰も不幸になんてなってない、雅ちゃんもメリーちゃんも幸せに暮らしてるわ!」
「ハン、それは神姫の話だろう? それに、どうせ今だけのことさね。……あの家の男たちは呪われてるんだ。そういう家系なんだよ」
 とうとうこらえきれなくなった初菜は振り向きもせずに、玄関までかけて行く。その途中では、母親に出くわした。
「あら、初菜おはよう。これから学校?」
「……行ってきます」
「気を付けてね。横断歩道は周りを見て、注意してから渡るのよ」
 祖母とは違って人の良い笑顔を向ける母だったが、今の初菜にとってはかえって心労が深まるばかりだった。







※※※



 その日の午後。
「初菜、初菜ぁ」
 不意に名前を呼ばれて、初菜の意識はハッと、大学の食堂に引き戻された。丁度、午後の強い日差しが彼女の眼を刺す。
「大丈夫? あんた朝からずっとその調子やんか」
「んん、平気よシューちゃん。昨日団体のお客様が来られたから、つい遅うなってね」
 本当は、理由はそれだけではないのだが。言いつつ、初菜はペンを置き、茶を飲みほした。目の前の茶髪の女性は豪快にトンカツにかじりつく。
「ほんまに~? 頑張りすぎると、いつかパンクしてまうで」
 初菜の目の前に座る女性の名は、和泉舟子という。初菜とは同じ大学に通い、学年も学部も同じだった。今は丁度昼食をかねて課題の確認をしていたらしく、手元にペンケースと布製の奇妙な色の筆箱、初菜のノートと全く同じ内容が写されたルーズリーフがあった。そして、
「……和泉様、フライの衣がこぼれております」
 机の上でいつものように姿勢よく正座していた牡丹が言った。舟子は牡丹の言葉を気にせず、口いっぱいにトンカツをほおばりながら、
「え~、別にええやん。今はオトコがおるわけでもあらへんし」
「―――ほんに浅ましい女じゃて。これがわらわのマスターかと思うと、己の生まれを呪いたい気分じゃ」
 急に、舟子の筆箱がのそりと動くと、牡丹と同じく正座した。なんとジルダリアタイプの神姫だったのだ。布製の筆箱のように見えたのは十二単のような大きな着物をまとっているからで、彼女は袂から白い扇を取り出すと優雅に口元を隠した。
「うるさいわ撫子。ここに置いてったろか」
「ホホ、ならばそうするがよい。誰ぞ気の優しく誠実な男がもらってくれるであろうからな、お主と違っての」
「なんやとぅ!?」
 勢いよく立ち上がった舟子の口元からまたトンカツの衣がポロポロとこぼれて、同時に後ろの席の男子学生が何事かと舟子を見る。舟子はあわてて口の端をぬぐいながら、真っ赤な顔で撫子をにらみつけた。――この撫子と呼ばれたジルダリアこそ、マスターである舟子とともに初菜・牡丹のコンビと肩を並べる『京都六華仙』の一員である。もっとも、彼女からはそんな強豪の発する覇気や殺気は伝わらない。口元を隠したまま上品に笑い、次いで、牡丹に微笑みかける。
「しかし話を聞くに、災難であったな牡丹よ」
「……はい。非常に不可解な事件でした」
 不可解な事件、とは、数日前に彼女らが遭遇したゲームセンターでの出来事であった。そのゲームセンターで出会った男が使った飛鳥型の神姫が、爆発を起こしたのである。目を閉じた牡丹の表情からは、感情がうかがい知れない。しかし、初菜と舟子は心情を理解したようで、深刻な面持ちで目を合わせた。
「なあ初菜。今日のアレ、行くん?」
「うん。きちんとお話だけはしとかなあかんし」
「はあ、正直めんどいわ。うち薙刀部の練習行きたかったんやけど」
「けどシューちゃん、やっぱり正直になにがあったか、お話せなあかんよ」
 彼女らの言う『アレ』とは、この後予定されている会合だった。そう、『京都六華仙』が集まる会合である。
「は~、それにつけても初菜ぁ。アンタはええなあホンマ。東京にカッコええカレシがおって」背もたれに寄りかかって、なんともなしに突然放たれた舟子の言葉に、初菜が両手を舟子の顔の前でぶんぶんと振る。
「ち、違うわシューちゃん! もうっ、輝はんとはそんなん違うから!」
「え~、じゃあなんで輝はんとか呼ぶん。呼び捨てにしたらええやん。……あーあ、えーなーホンマ。事件に巻き込まれよっても、『平気か初菜。心配するな、俺がずっとそばにいてやるから』てなるんやろ?」
「ならないわ! 輝はんは……そのっ、」
 鈍いんよ、と続けようとしたが、口の中でもごもごと舌が動くだけだった。しかし、舟子の言ったことは、現時点ではとても事実になりそうでないのである。輝の性格を考えれば、初菜になにかあればもちろん心配するだろうが、それは好意を抱いているからではないだろう。
 しかも、今朝のツネとの会話が頭をよぎる。そう考えると、初菜の苦悩は深まるばかりだった。




※※※




 数十分後、舟子と初菜は集合場所に指定された、哲学の道へと進んでいた。

 そもそも六華仙というものがいつごろ結成されたのかは、初菜たちにもよく分かっていない。元は華道や日本舞踊、剣道など様々な分野の名人が集まったものだったらしいが、それがいつの間にかバトルロンドの強豪プレイヤーたちを指す言葉になっていたのだという。
 起源はともかくとして、現在の六華仙の役目は、京都市内のバトルロンド界の、言うなれば取りまとめ役であった。現在の六華仙は、それぞれの地区で最も高い実力を持つ六人、ということになっている。
 さて、初菜と舟子が集合場所に着くと、すでに三人の男が到着していた。

「遅かったな。和泉、三条」
「おはよーさん。ま、遅刻やゆーても特にペナルティあらへんから、楽にしたってや」

 体格の良い青年、線の細い眼鏡の男、優しげな顔立ちの男。それぞれ名は、
「フン! この非常時に遅刻など、危機意識がないのではないか」
「よせ、鬼灯。今日はこちらが無理を言ったのだ」
 中京区を取り締まる、六華仙最強の男・平田 清守、パートナーである紅緒タイプの神姫・『紫紺の武神』鬼灯。
「まあまあ、ちぃと落ち着いてえな鬼灯ちゃん。ほれ、こうやって集まれんのもめったにあれへんやろ」
「しかし御師様、事態は一刻を争います。ゆっくりと談笑をしている場合でもありません」
 上京区を司る六華仙のブレイン、加賀 貴氏とハウリンタイプ・『禍刃剥命』水蓮。
「……」
「早乙女くん……」
「あっ。いや三条さん、気にしないで。ごめんね、今日はわざわざ」
 右京区の早乙女 天満と、『春風の一閃』と呼ばれた飛鳥タイプ・小梅。しかし、今回その小梅の姿は無かった。
 そして舟子・撫子のペア、初菜・牡丹のペア。これが、今日集まったメンバーであった。
 しばし彼ら彼女らは、すっかり緑の葉をつけた桜の木の下で、互いに無言で佇んだ。加賀の言うとおり、こうして六華仙が一ところに集合することは、今まであまり無かったからだ。神姫たちはすべて武装をすでに施しており、一部の者はぴりぴりとした緊張感を漂わせていた。
 やがて、平田が口を開いた。
「……さて、今回集まってもらった理由は聞いているな?」
 加賀と早乙女と、初菜がうなずいたが、舟子は唇を尖らせた。
「わーっとるわ。余計な前置きはいらんから、さっさと始めたってや」
「シューちゃん、喧嘩腰じゃあかんよ」
 初菜が舟子をなだめたので、平田は話を続ける。
「では。……今月の初め、和泉の管轄のゲームセンターで、神姫の爆発事故があった。その原因が――――」



 事の発端は、今月の初めに初菜と舟子が出会った男であった。
「和泉は、まず三条を連れて京都駅前のゲームセンターに行った。そうだな?」
「そうやで」
「それで、準決勝で例の男に出会ったと」
 その男というのが、黒い飛鳥タイプの神姫を連れていたのだ。神姫は全く感情の見えない表情で、文字通りただのフィギュアのようですらあった。
「その神姫が小梅であったんだな。ではそこから先を、当事者に詳しく話してもらいたい」
「……始めな、男の人が入って来はったんよ。なんだか横柄な人でね、他の人の試合を見るでもなくて、試合中もずっと神姫にまかせっきりで」
「なして三条ちゃんは小梅ちゃんやって気づいたん?」
「太刀筋がおんなじやったからよ。牡丹も戦ってて気づいたみたいやし」
「……小梅は、上段から斬りつけた後必ず、手首を返す癖がありました」
 なるほどと、三人の男はうなずいた。
「でもな、黒いボディやったから、うちらはじめは小梅ちゃんて分からんかったのよ」
「……黒いボディ?」
 初菜に続いた舟子の言葉に、水蓮が首をかしげた。
「和泉様、小梅は白いノーマルの飛鳥だったはずですが」
「そうや。うちも知っとるで。でも、あのドロボーといた小梅ちゃんは黒いボディやった。あれは夜戦仕様の飛鳥とちゃうか」
 話すうち、早乙女の眉がゆがみ始めた。だんだんと、自分の神姫がどうなっていたのか聞いて、胸が苦しくなったのだった。相当に自分の神姫を大切にしていたようである。他の四人は、早乙女の様子を見て心を痛めた。
「早乙女くん、小梅ちゃんは、目を離した隙にいなくなったのよね?」
「う、うん……。僕のいつも行ってたゲームセンターで、ちょっと飲み物を買ってこようと思って、小梅を休憩所に置いて行ったら……」
「……男の人はね、小梅ちゃんを『もらった』って言ってたんよ」
「えっ、そんな! 小梅を!?」
「それで……、現在男は?」
 初菜と舟子は、早乙女の様子に、話を続けるのを一瞬ためらった。が、
「……この前お見舞いに行ったらね、なしてあないなことしたんやろうなって、ずうっと後悔してたんよ。それでね、……小梅ちゃんが爆発した時の炎で、目ぇが見えへんようになってたんよ」
 と、言うと、早乙女は顔を覆って崩れ落ちた。初菜は言ってしまわなければよかったと後悔した。
「なんと……」
「あの小梅が、人を傷つけるとは……」
 鬼灯たちが、うめき声を漏らした。それまで微笑をたたえていたあの撫子までもが、扇で隠しているとはいえ、笑うのをやめた。

「そうか。ありがとう、和泉、三条。……しかし、なんと痛ましい」
「そいつにも、反省の意思はあったっちゅーことやなぁ。あ、そうや」
 加賀が、ごそごそとかばんを探り、ファイルからプリントを数枚取り出した。
「初菜ちゃん、そいつ小梅ちゃんを『もらった』ってゆったんやろ」
「うん」
「そいでな、同じようなことが起きてたなあと思うて調べたんや。したら、大阪、博多、それから東京で似た事件があったわ」
「なんでそんな。全然知らんかったわ」舟子が目をむいた。
「どれも小さな事故扱いで片づけられたみたいや。ほれ、新聞の隅に小っちゃく載ったくらいでな」
 真夏の盛りだというのに、日陰になった桜の木の下は、そこだけが底冷えのするような涼しさだった。
「早乙女君、ごめんね」
 初菜はというと、うずくまった早乙女の背をしきりにさすっていた。
「違う、三条さんのせいじゃないよ。ハハ、参ったな……一年もたったのに、まだ情が抜けてないなんて」
「ううん、それでええんよ。神姫オーナーなら、当然の気持ちやわ」
 弱々しく笑う早乙女の横顔を、初菜は悲しく思った。誰よりも小梅を大事に思っていた早乙女の心情が、初菜にはよくわかったからだ。
 だが、
「話は分かった。……時に、牡丹よ」
 背後のベンチで平田の神姫、鬼灯が発した一言で、初菜はハッと振り向いた。
「……なんでしょう、鬼灯」
「主の知人から聞いているぞ。貴様、小梅と相対しておきながら、爆発の寸前に筐体から逃げ出したそうではないか」
 鬼灯は、正座した牡丹の肩口に刀の切っ先を突きつけていた。一瞬で、その場の空気が変化する。
「よせ、鬼灯」
「小梅の身よりも、わが身の安全が大事か。大した神姫だ」
「鬼灯ッ!」
 オーナーの言葉にも、鬼灯は耳を貸さない。さらに嘲るように、牡丹の喉元に刃を当てる。
「……確かに私は筐体から離脱しましたが。早乙女様には申し訳ありませんが、あの状況では小梅を救出することは不可能でした」
「ハ。さすがは忍、こすい奴めが。貴様がそれだからこそ、あの箸型と匙型の神姫のように腑抜けた連中が―――」
「いい加減になされよ、鬼灯」
 牡丹が右手で刀身をつかんだ。手のひらからオイルがどろりと垂れ落ちるのも気にせず、また声色に静かな怒りの色が現れ、極寒の吹雪もかくやと思わせるほどになる。
「私がお仕えするのは貴女方六華仙ではなく、主である初菜様のみです。神姫であれば、主の御身をお守り致すのは当然のこと。……それに、貴女の言う腑抜けた神姫たちは、どこぞの立派な侍様とは違って、陰で誰かをあげつらう真似はしないでしょう」
「貴様……ッ! 今日はずいぶんと、舐めた口を利くではないかっ!!」
「はて、いつ誰が敬っているなどとお考えだったのでしょう」
 牡丹が手の甲で刀身を打ち払い、どこからともなく苦無を取り出し、そして三歩下がって距離を取る。そのまま、唸り声を発して突進する鬼灯と、それを迎え撃つ牡丹が、悲鳴と怒声をあげるオーナーたちの前で斬り結ぶ、その瞬間。

「その辺にしないか、お前たち」

と、水蓮の『棘輪』が牡丹の、撫子の袖から伸びた植物のつるが鬼灯の、それぞれの鼻先をくすぐった。辺りに、何とも言えない花の香りが漂う。
「止めるな水蓮!」
「頭を冷やせ鬼灯。ここでお互い争って、一体なんの得がある」
「ホホ、わらわとしては、ここでこやつらの立ち回りを見物するのもまた一興であるがの」
「下らないことを言うんじゃない。それに牡丹もだ。改めて言っておくが、今は非常時なんだ」
 水蓮はくるりと背を向け、腕を組んだ。
「我らのうち一人が倒れた。ということは、次に我らの誰かが狙われないとも限らない。そんな折に、互いに争って関係を悪くする真似をしてどうする」
「ならば貴様らは悔しくないのか! 小梅のためにも、敵をとろうと思わんのか!」
「ホッホッホ。ほんに暑苦しい奴じゃの。敵の姿が分からぬというに、いかにして敵をとるというのかえ?」撫子が、心底おかしいといった調子で、口を隠して笑う。舟子が鬼灯に気づかれないように、してやったりとガッツポーズを決めたのは内緒だ。
「私も撫子に賛成だ。下手人の正体がつかめない以上は、こちらから行動を起こすべきではない」
「貴様らァ……!
 牡丹はどうだ? と聞いた水蓮に、牡丹はうなずきだけで同意を示した。反対に、しぶしぶ従いはしたものの、鬼灯の機嫌はいよいよ悪くなる。
「フン! 私は貴様ら腑抜けとは違うぞ。私一人でも、小梅の敵の首をとってやろうではないか」
 鬼灯が自分の胸をドンと叩き、オーナーの平田は、加賀の隣で困ったように頭をかいた。と、思い出したように加賀に告げる。
「そういえば、羅門の奴が来ていないな。連絡はどうした?」
「ああ、メール来とったわ。えー、『キレーなおねーさんがいたのでちょっとお茶してきますノシ  P.Sこんなこと言ってるけど、一番は初菜ちゃんだよって言っておいてネ』……やて」
「ぬううううううッ、たるんでおるッ! 本当に全く!」
「あいつは王朝人並みに自由やからなァ」
 加賀が苦笑した。舟子はといえば、初菜の脇腹をいたずらっぽく肘でつついている。
「まったくう、ようおモテになってうらやましいですなあ三条はん」
「ちょっとよしてよシューちゃん。うちそんなん違うわ」
 水蓮や牡丹は、やれやれと首を振った。そのまま、会議はなあなあになって解散になってしまうかと思われたのだが、
「……ああ、そういえば。こんな話は知っとるかな」
 と、加賀が居住まいを正した。




「みんな、『反魂香』っちゅーの聞いたことがあるか?」




※※※



 哲学の道を出てから、舟子と初菜は白川通りを上がっていた。舟子はしきりに、さっきのメールの話題を初菜に振った。
「ンモー、アンタってばモテすぎやわ。東京のカレに羅門くんやろ? いや、ホンマにうらやましいわ」
「シューちゃん、いいかげんにしてよ」
 舟子の性格を考えれば、決して悪気があって言っているのではない。それでも、初菜には素直に喜べなかった。
 それに、最後に加賀が話した内容も気になる。



『反魂香?』

『実はな、近頃俺の管轄でちょっとした噂になっとるんや。なんでも、神姫の能力を飛躍的に上げる、あるプログラムが存在するんやて。それが反魂香らしいで』

『はて。名を聞く限りでは、死者の魂を黄泉還らせるもののようじゃがの』

『まあ、ただの都市伝説の類に過ぎんと思うけどなぁ。実際に確認された話も聞かへんし、あったとしても、そないな非公式のプログラムはバトロンの運営側が規制するはずやしな』




 ――加賀の言う『反魂香』がなんなのか。考える初菜の隣で、しかしメールの話はいまだに続いていた。
「……そうですね。和泉様のおっしゃる通り、案外と羅門様の方が主を大切になさるかもしれません」
「ちょっと、牡丹までよしてよ」
「ホホホ。しかしのぅ初菜よ」
 撫子が、周囲の古い民家や並木道を見渡して、
「京の都にはその昔、人を食らう鬼が出たそうじゃが」
「うん? ……そうやねぇ、昔話にはよく出てくるね」撫子の真意が読めない初菜は真面目に返したが、
「お前様も気をつけねば、いずれ鬼のごとき男にとって食われてしまうやもしれんぞ。ホホホホ」
「もうっ! また言う!」
「あーん、うちのことも食ってえな」
「ホホ、鬼といえどもイノシシの肉では味気がのうて満足せぬであろう」
「誰がイノシシや! 可憐なカモシカの間違いやろうが」
 などと、気の抜けた会話をしながら、下鴨神社の前を通りがかった、直後だった。

「……あら?」

 初菜の視線の先、神社の石段を、赤と肌色の足が軽やかに飛び上がっていくのが見えたのだ。あの小ささと動作では、忘れるはずもない……。
「雅ちゃん?」
「え?」
 初菜の突然の一言に、舟子が戸惑う。初菜はそのまま、ふらふらと導かれるように石段を登っていこうとするが、牡丹が静かにその前に降り立った。
「……主、どこへ行かれるのですか」
「え。牡丹、見えへんかったの? 雅ちゃんに似た神姫がおって」
「お気を確かに。雅がたった一人でここへ来られるとお思いですか。仮にそうであるとしても、輝様がいずこかにおられるはずです」
「なんや? さっきからどうしたん?」
 背後から追いついた舟子が、二人を交互に見比べる。と、「!!」撫子が刃のような視線を石段の上に向けた。
「……なんじゃ」
 舟子と初菜が視線を追う。石段の上から、かすかに人の泣き声と話し声がするようだった。
 ざわりと、舟子と初菜は、身体が総毛立つような感覚を覚えた。互いに顔を見合わせ、石段を駆け上がる。
「主、私と撫子から離れませんよう」
「ホホ、期待するでないぞ。いざとなれば真っ先に逃げてやるわ」
 一番上の段に飛び上がると同時に、四人は見た。

「……で、……を返してっ……!」


 神社の本殿へつながる道の上で、地面に膝をついて泣き崩れる少女と、
「……グるるる」
 その奥の木の上にいる、銀色の人形を。


「っ!」
 一瞬の出来事だったが、初菜は息を呑んだ。
 こちらを向いた銀色の人形は、ウェスペリオータイプの神姫に似ていた。しかし、普通の神姫より明らかに違う点は、汚れたボロきれをまとった一回り大きいシルエットに、背後からは黒く縁どられた銀の翼が伸び、同じく銀色の尻尾がうねうねとのたくっていること。しかもただの尻尾ではない。とげだらけの、竜かトカゲの頭に似たものが先端にくっついていて、生きているように精巧な動きで、あごを上下に咀嚼しているのだ。ガムを噛むかのような動きだ。
 しかも尻尾がくちゃくちゃとあごを動かすその真下の地面には、ジュビジータイプの下半身と思われる残骸と、数本の髪の毛が、透明な液体に濡れて散らばっている。
「ひ……」
 人形の尻尾の頭についた黄色い眼がうごめき、初菜を射る。心臓が凍り、背筋からつま先まで冷水を差し込まれたような感覚に、初菜は口の中で小さい悲鳴を漏らした。
「……ギッギギ」
 しかし初菜と舟子を見つめていた人形は、くつくつと頭を揺らすと、静かに、溶けるように姿を消した。

「ね、ねえ! 平気か? どないしたん!?」
 ややあって、舟子がひざまずいて少女に声をかけた。少女はぶるぶると震える指で神姫の残骸を指しながら、こう答えた。
「あ……たしの、サニーが……神姫がっ……!」
「ああ、泣かなくてええよ。もうあいつはおらへんし、いたとしてもうちらがぶっ飛ばしたるわ。……それで、神姫がどないしたって?」
「さっきのに、食べられてっ!」
 初菜と舟子は、耳を疑った。
「たっ、食べられたぁ!?」
「はいっ……。あたし、修学旅行でここに来たんですけどっ、そしたらあの人形が来て、ペルセポネーがどうとか言って……。う、うううっ、サニー……サニー!」
 少女はその瞬間を思い出したのだろう、制服のスカートをつかんで再び泣き出した。恐らくはあの尻尾がジュビジーに噛みつき、砕き――舟子はジュビジーの残骸に手を伸ばしたが、
「それに触れるでない、舟子ッ!」と、撫子が鋭く一喝した。
「な、なんや?」
 撫子は無言で、液体に濡れた残骸に近づくと、真っ白な扇の先端でちょんとつつく。すると、見る間に触れた部分が毒々しい赤に染まった。
「酸性の液体じゃ。成分は判別できぬが、むやみに触れるのは避けるべきであろう。……舟子よ。もしこれに触れておったら、お主の手指は今頃爛れて……ホホホ、その先は想像したくなかろう?」
 撫子が意地の悪い笑みを浮かべる。舟子は額に冷や汗をにじませながら、手を伸ばしたままのポーズで後ずさりした。
「は、はは。た、たまには役に立つやんか」
「ホホホ、感謝するがよいぞ。さて、時に舟子よ、新しい扇が必要じゃ。その辺りで新しいリトマス試験紙を買ってきてたもれ」
 何事もなかったかのように、撫子は伸ばしたままの手に飛び乗る。初菜はというと、牡丹に声をかけられるまで、自分の足が固まっていたことにさえ気づかなかった。
「……主」
「う、うん……」
 再度、あの人形がいた木の上を見やる。しかし、もう何の痕跡も残されてはいなかった。
 壊れたジュビジーの残骸を除いては。
「……主、あの人形は『ペルセポネー』と残したそうですが」
「そう、みたいやね」
「何かの手がかりであると思えます」
「今は、なんとも言えんね」
 牡丹の話を上の空で聞きながら、初菜は考えた。あの時、人形に見つめられた時に覚えた感覚はなんであったか。神姫の残骸を飲み込んだあごが、『次はお前だ』とばかりに開き、頭上に広がる――そんな妄想を、初菜は頭から振り払った。
「……輝はん」
 気づけば、震える声で輝の名前を呼んでいた。夏だというのに、木陰の中だけが、そこが別世界であるかのように冷たかった。





 ※※※

















 さて、人形――クロノスはその後、自らの根城に戻った。

薄暗い通路を通り、人間に比べればはるかに小さい体には不釣り合いな、重い金属の扉に、音声入力のパスコードを入れると、それをくぐる。
すぐさま、少女のすすり泣きの声と、剣の打ち合う音が聞こえた。

「ギギギッ」

クロノスが中央の玉座につくと、部屋の全貌が明らかとなる。
玉座の前では、武装を施した二体の神姫が、闘技場に似せて作ったエリアの中で死闘を演じていたのだ。
やがて、一方のアーンヴァルの剣が相手のマオチャオの胸部を貫き、勝敗が決する。すると、クロノスがにたにたと笑みをたたえて玉座から立ち上がった。
「素晴らしい。おめでとう、キミが勝者だ」
「い、いやぁ……助けッ」
「ギギ、キキキキキ!」
 クロノスは、抵抗するアーンヴァルの髪を巨大な爪でつかみ、牙を輝かせ喉元に食らいつく。しばしぴくぴくと強張っていたアーンヴァルの手が、やがてだらりと垂れさがった。
 クロノスは満足げに、動かなくなったアーンヴァルをその場に捨て、玉座に座る。すると、部屋のモニターの一つが明かりをともした。
「クロノス、帰ってたんですか」アキュート・ダイナミックス所属の科学者、楢夢だった。
 クロノスは、ゴロゴロと喉をならす、自らの尻尾を撫でた。
「アア、なかなか良い散歩だったよ。ギギ、武装もただ持っているだけでは意味がないからね」
「そうじゃありませんよ。勝手に出歩かないで下さいと言ってるんです」
 楢夢は強い語調で言った。
「あまり勝手に出歩かれると、そのうち面倒なことが起きますよ」
「ギギ、しかしだね楢夢君、私の楽しみはこれくらいしかないのだよ。ギギッ、そう、『食事』こそが私の最大の楽しみだからねェ」
 楢夢のしかめっ面に向かって、クロノスはとりなすように言う。
「しかし、そう悲観するばかりではあるまい。予定通りにきっちりと『ペルセポネー』のデータを回収できたよ」
「そうですか。まあ、それはそれで良しとしましょう。『アポロン』の方は、現在『ヘルメス』が捜索中で……」
「ギギギ! もっとも、オーナーの方が素直に渡さないのでね。ついついカッとなって壊してしまった」
「ちょ、なんですって! あなたねぇ、事件にでもなったらどうするんですか。もみ消すのにも限界がありますよ……って、ちょっと! 聞いてるんですか!?」
「ギギギ。子供は嫌いなのだよ。……ああ、それとだ」
 クロノスの口が開き、牙がぬらぬらと煌めいた。
「データを回収し終えた時にだね、『六華仙』の神姫に出会ったよ。『遊びの達人』と『毒花院』だったかな」
 にやにやといやらしく、銀の人形は笑う。
「どうやら例の件を嗅ぎまわっているようでね。ギギギ、いずれケリをつけさせてもらわねばなるまい。……アア、楽しみだ! 『六華仙』に『盗賊姫』、『仮面の白百合』、味わいたい神姫が山ほどいる!」
 興奮したクロノスは、玉座から立ち上がると部屋を後にした。



※※※



 クロノスがやってきたのは、別の一室であった。
 今までいた部屋よりもさらに薄暗く、先が見えない。
 扉を開けたクロノスは、暗闇に向かって話しかけた。

「ヤア。気分はどうかな、ギギッ」

「……」
「プログラム、ずいぶんと噂になっておるようだよ。ギギッ、『反魂香』などと大層な名前を付けられていてね。どこから漏れたのかは知らんがな」

「……?」


「ギギッ。そうかそうか。いや、ところで聞きたいのだがね。今しがた『ペルセポネー』のデータを手に入れたのだが、……あれはなんだね? ずいぶんと小さなデータだったが。ろくな情報が記録されていないよ」

「……」

「ギ、ギギギ、ギギギャギャギャ! おかしなことを言う。機械のワタシが腹を壊すだと? ギギ、良い冗談だ」
 クロノスは牙をむき出しにして笑った。
「しかしだ。どうも『ペルセポネー』には納得がいかない。ギギ、これはワタシの勝手な想像だがね。あれはヒョっとするとダミーのデータではないのかな?」

「……!」

「ギギギギギッ! 気づいていないとでも思ったのかね? 君もアレを、『ネクター』を開発した者の一人だからネえ。――おっと、そうだ。君にも言っておくがね、いずれ六華仙に挨拶をさせてもらおうと――ギギッ、その顔は知っているぞ。子を想う親の表情だ。ギャギャギャッ、つまり君は、六華仙の誰かが傷つくと都合が悪いのだね? ギギギ、これは楽しみだ、ギギ、ギャギャギャギャギャ!!」

 闇の中で、悪鬼は一人笑い続けた。













 ~次回予告~

  あたしは時々、夢を見る。

  それは、永久に刻まれた記憶。そして、永遠に届かない、あのころの思い出。





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