低空を高速で飛行する。フィールドは『丘』。見晴らしが良く、隠れられる場所はない、まさに一騎打ちには持ってこいなフィールド。そんな場所を、両手にエウロスを握り締めながら飛んでいく。今度、柏木さんのところの筺体でこのフィールドを使いたい。こんなに気持のいい丘を、おもいっきり飛んでみたい。
だが、それは今度。今は目の前に迫る相手と対峙しないといけない。
相手は刀を真正面に構えている。剣道の構えに似ている。どの角度から来ても大丈夫なようにだろう。それに対して私は左腕を前に構える。
残り8s、私は左腕を下げた。相手から見れば下から来るように見えるはず。
そして腕を振る時、私は肘から先をあげた。そして、振り下ろす。横から見れば、筆記体のLを描くようにだ。
しかしそれも、真正面に構えた刀の前には意味を成さない。すぐに対処されてしまう。
刃と刃がぶつかり合う。相手の方が力が強い。なら、それを利用するまで。
私はあえて左手に力を込める。相手もそれに対抗して力を強める。
だが、それは今度。今は目の前に迫る相手と対峙しないといけない。
相手は刀を真正面に構えている。剣道の構えに似ている。どの角度から来ても大丈夫なようにだろう。それに対して私は左腕を前に構える。
残り8s、私は左腕を下げた。相手から見れば下から来るように見えるはず。
そして腕を振る時、私は肘から先をあげた。そして、振り下ろす。横から見れば、筆記体のLを描くようにだ。
しかしそれも、真正面に構えた刀の前には意味を成さない。すぐに対処されてしまう。
刃と刃がぶつかり合う。相手の方が力が強い。なら、それを利用するまで。
私はあえて左手に力を込める。相手もそれに対抗して力を強める。
(シリアっ!)
(任せて!)
(任せて!)
次の瞬間、私の体は右に回転しながら斜め左前に跳ねた。回転する視界の中、アイオロスの羽が生き物のように動く。
シリアが動かしてくれているんだ。私は一人じゃない。シリアと一緒に戦っているんだ。改めてそう思う。胸の中の暖かさは、きっとシリアなんだ。
私はアイオロスの隙間から見える相手を見る。相手が刀を構え直している。それに対して、私は遠心力を乗せた右腕で容赦なく薙いだ。
再び刃と刃がぶつかる音が辺りに響く。その瞬間、今度は私は真上に跳ねた。相手を飛び越えるように。しかし、そのまま降りるようなことはしない。体は右に回転し続けている。両手のエウロスは消え、薙刀――トルネードを握る。相手は刀を真上に振りあげる。エウロスでは足りなかったパワーも、トルネードならなんとかなる。
シリアが動かしてくれているんだ。私は一人じゃない。シリアと一緒に戦っているんだ。改めてそう思う。胸の中の暖かさは、きっとシリアなんだ。
私はアイオロスの隙間から見える相手を見る。相手が刀を構え直している。それに対して、私は遠心力を乗せた右腕で容赦なく薙いだ。
再び刃と刃がぶつかる音が辺りに響く。その瞬間、今度は私は真上に跳ねた。相手を飛び越えるように。しかし、そのまま降りるようなことはしない。体は右に回転し続けている。両手のエウロスは消え、薙刀――トルネードを握る。相手は刀を真上に振りあげる。エウロスでは足りなかったパワーも、トルネードならなんとかなる。
「はあっ!!」
全力でトルネードを相手の刀に叩き付ける。歯を食い縛り、相手の刀を押しきるつもりでさらに力を加える。
「っ……!」
ふっと相手の力が消える。相手は身を捻り、トルネードの軌道からそれる。
何もない空を裂く刃、その瞬間私は左手をスライドさせて柄の後ろの方を握った。
何もない空を裂く刃、その瞬間私は左手をスライドさせて柄の後ろの方を握った。
「はっ!!」
相手の刀が私がいる場所を薙ぐ。それをトルネードでギリギリガードしながら、私はそのまま後方へ吹き飛ばされた。これは、私がブースターを使いながら。
(ストームっ!)
言い終える前にトルネードは消え、そして少し大きな短機関銃が姿を表す。地面に着地、滑りながら体勢を立て直す。
滑ることが安定したところでストームを腰だめに構える。そして、フルオートで引き金を引いた。
銃口から吐き出された無数の弾は、相手がいる地面を根こそぎ削っていく。当の相手はと言えば、そんな銃弾の嵐をものともせず、綺麗に傷一つつくことなくこちらに向かってきていた。あら、実弾武器が弾けないなら全部よければいいじゃない?
そんなことを考えている間に相手はもう目前に迫っていた。さらに狙いを定めて引き金を引き続ける。しかし、相手は目の前から突然消えた。レールアクションか?
滑ることが安定したところでストームを腰だめに構える。そして、フルオートで引き金を引いた。
銃口から吐き出された無数の弾は、相手がいる地面を根こそぎ削っていく。当の相手はと言えば、そんな銃弾の嵐をものともせず、綺麗に傷一つつくことなくこちらに向かってきていた。あら、実弾武器が弾けないなら全部よければいいじゃない?
そんなことを考えている間に相手はもう目前に迫っていた。さらに狙いを定めて引き金を引き続ける。しかし、相手は目の前から突然消えた。レールアクションか?
(上から来るよ! 気を付けて!!)
シリアの指示で、上を見上げる。そこには、太陽を遮るように黒い陰があった。
「くっ!」
私はとっさに手にした物で対抗した。
いつの間にか手にしていた薙刀で。
さっきとは真逆の立ち位置で刃が接触する。似たような構図を、エリーゼともやった。このまま押し切ることは可能だ。しかし、それではまた振りだしに戻ってしまうだけ。
ならば、違うことをすればいいだけではないか?
そう思った私は即座に右手と左手を順番に逆手に持ち変えた。そして左手を押し出して右手を引く。
すると、柄の先に付いたピックが相手の脇腹に突き刺さる――はしなかった。とっさのバリア。こちらの攻撃を完全に読んだバリアだ。だがダメージは通るし、衝撃もダイレクトに伝わる。そのまま相手を引き倒す形で薙刀を振った。腕だけでなく、体全体を使って振る。
空中にいる相手の体勢は崩れ、地面へと叩き附けられる。
薙刀を振った勢いを殺さず、そのまま回転しながら飛び上がる。薙刀を握り直し、相手の胴体を切り裂くように――
いつの間にか手にしていた薙刀で。
さっきとは真逆の立ち位置で刃が接触する。似たような構図を、エリーゼともやった。このまま押し切ることは可能だ。しかし、それではまた振りだしに戻ってしまうだけ。
ならば、違うことをすればいいだけではないか?
そう思った私は即座に右手と左手を順番に逆手に持ち変えた。そして左手を押し出して右手を引く。
すると、柄の先に付いたピックが相手の脇腹に突き刺さる――はしなかった。とっさのバリア。こちらの攻撃を完全に読んだバリアだ。だがダメージは通るし、衝撃もダイレクトに伝わる。そのまま相手を引き倒す形で薙刀を振った。腕だけでなく、体全体を使って振る。
空中にいる相手の体勢は崩れ、地面へと叩き附けられる。
薙刀を振った勢いを殺さず、そのまま回転しながら飛び上がる。薙刀を握り直し、相手の胴体を切り裂くように――
「なっ……!」
瞬間、相手の姿が掻き消える。右に消えたように見えた。
地面に着地し、右に振り返ると、数メートル離れたところに相手は立っていた。あのタイミングでのレールアクション、きっとこっちが行動を起こす前に起動していたのだろう。起動までのタイムラグを完璧に読んだのだ。
地面に着地し、右に振り返ると、数メートル離れたところに相手は立っていた。あのタイミングでのレールアクション、きっとこっちが行動を起こす前に起動していたのだろう。起動までのタイムラグを完璧に読んだのだ。
「……見事、とても見事です」
相手が開いた口からは独白のように言葉が漏れる。
「前回の反省を活かした武器の選択、連撃の精度、とっさの気転、すばらしいです」
「……どうも」
「……どうも」
一応お礼を言っておいた。すでに片手にストーム、両手にゼピュロスを展開している。
「ですから、たった今、我が主との全会が一致しました。よって……」
呟く静の回りの空気がだんだんと変化していくのがわかる。冷たく、研ぎ澄まされるような空気。静の持っていた刀が消える。そして今、
「私たちも、本気でいかせてもらいます」
完全に空気が氷ついた。
静の手には再び刀が握られる。目立った装飾もない、決して派手ではないが、存在感ははっきりしている。言ってみれば、何処にでもある普通の刀。
だが、威圧感がまるっきり違った。触れるものを全て切り裂いて――いや、存在そのものを消してしまいかねない、そんな刀。
私は一歩も動けなかった。正確には、微動だにすることすら出来なかった。
動いた瞬間、この空気は砕け散り、私まで砕けてしまいそうになる。
静の手には再び刀が握られる。目立った装飾もない、決して派手ではないが、存在感ははっきりしている。言ってみれば、何処にでもある普通の刀。
だが、威圧感がまるっきり違った。触れるものを全て切り裂いて――いや、存在そのものを消してしまいかねない、そんな刀。
私は一歩も動けなかった。正確には、微動だにすることすら出来なかった。
動いた瞬間、この空気は砕け散り、私まで砕けてしまいそうになる。
「いきます」
氷ついた世界の中、静は音もなくこちらに迫ってきた。
だめだ、あれには勝てない。
心の中の警鐘が鳴る。なのに私は動けないでいる。銀色に輝く刃が真っ直ぐに振られる。
もう、だめだ……!
だめだ、あれには勝てない。
心の中の警鐘が鳴る。なのに私は動けないでいる。銀色に輝く刃が真っ直ぐに振られる。
もう、だめだ……!
(樹羽っ!!!)
がくんっ、と体が斜め後ろに引っ張られる。刃がさっきまで私がいた場所に生えていた草をを切り裂く。私の体はそのまま上空へと舞った。
(しっかりして樹羽! 最後まで一緒に頑張ろうよ!)
(シリア……)
(シリア……)
見えないシリアの声が、私の中で反芻される。
そうだ、諦める理由がない。確かにあの刀は普通じゃないけど、それでもやりようはいくらでもあるはずだ。
私は改めて静を――相手を見据えた。さっきと同じ場所で、こちらを見上げている。
そうだ、諦める理由がない。確かにあの刀は普通じゃないけど、それでもやりようはいくらでもあるはずだ。
私は改めて静を――相手を見据えた。さっきと同じ場所で、こちらを見上げている。
(またレールアクションを使われるかもしれない)
(でも、数に限りがあるし、連続で発動できない。一回かわせばなんとかなるよ!)
(でも、数に限りがあるし、連続で発動できない。一回かわせばなんとかなるよ!)
相手がレールアクションで上空に上がってきても、後は落ちることしか出来ない。そこをストームで撃てばいい。
大丈夫だ、問題ない。
相手の姿が消える。同時にジャミング反応。
確かにレールアクションを使われれば相手がどちらから来るかわからない。だが、一番安全な逃げ道がある。
大丈夫だ、問題ない。
相手の姿が消える。同時にジャミング反応。
確かにレールアクションを使われれば相手がどちらから来るかわからない。だが、一番安全な逃げ道がある。
(視界に相手がいないなら、前によければかわせる!)
空中で前転するように前へ転がり込む。直後、真後ろで何かが高速で通り過ぎる音が聞こえたような気がした。たぶん、刀が振られた音だろう。普通あんな音しないと思うけど。
とにかく、鬼門であった初弾をかわすことが出来た。私は空中で体勢を立て直しながら振り返る。そしてストームを構えようとしたところで、やけにストームが軽いことに気が付いた。
見ると、ストームは真っ二つになっていた。あるはずの銃口はなく、トリガーを引いてもまったく意味がない。
とにかく、鬼門であった初弾をかわすことが出来た。私は空中で体勢を立て直しながら振り返る。そしてストームを構えようとしたところで、やけにストームが軽いことに気が付いた。
見ると、ストームは真っ二つになっていた。あるはずの銃口はなく、トリガーを引いてもまったく意味がない。
(切ら……れた? いつの間に)
(樹羽、前っ!)
(樹羽、前っ!)
シリアのアラートに前を向くと、黒い羽が目の前に舞った。
それの本体は相手の背中から生えている。真っ黒な翼は、カラスを連想させた。それを使って、相手は空に浮いている。
それの本体は相手の背中から生えている。真っ黒な翼は、カラスを連想させた。それを使って、相手は空に浮いている。
「空中も、私たちの領域です」
言葉とともに刀を構え直す。私たちは身の危険を感じ、揃って戦略的撤退を選択した。
見た感じ、向こうにはブースターらしい物はない。つまり、移動速度はこちらが上。
見た感じ、向こうにはブースターらしい物はない。つまり、移動速度はこちらが上。
(ストームは回収、エウロス出して)
役に立たなくなったストームを素早く消して、使い易いエウロスを出す。まだ諦めない。諦めるわけにはいかない。
(また消えたっ!)
後ろから反応が消える。今度はきっと、前。
斜め前に黒い影が出現する。今から止まったのでは間に合わない。全力で向かってぎりぎりでかわす。
さらに速度をあげる。迫る刃をバレルロールする形でかわす。なんとかかわせたが、視界の端でエウロスの切っ先がスッパリ切れるのを見た。今、手に負荷が一切かからなかった気がする。
斜め前に黒い影が出現する。今から止まったのでは間に合わない。全力で向かってぎりぎりでかわす。
さらに速度をあげる。迫る刃をバレルロールする形でかわす。なんとかかわせたが、視界の端でエウロスの切っ先がスッパリ切れるのを見た。今、手に負荷が一切かからなかった気がする。
(なんという切味)
(関心してないで次どうするの!?)
(関心してないで次どうするの!?)
ボレアスも前の刀を併用されたら意味がない。かと言って遠距離武器がないが故に接近する他ない。相手のレールアクションはいつ切れるかわからないし、かわし続けられる自信がない。
ならば、一か八かやってみるしかないではないか。
ならば、一か八かやってみるしかないではないか。
(エウロスはもういい。トルネード出して)
(……わかった)
(……わかった)
エウロスを握っていた手にそのままトルネードが収まる。相手の刀はおそらく異常なまでの代物だろう。クラスはおそらくチートクラスだ。そんな物にまともにやりあっても勝てっこない。
でも、だからこそ出来る精一杯をしたい。
でも、だからこそ出来る精一杯をしたい。
(来るよっ!)
後方から相手が消失する。完全にジャンケンになるが、後は野となれ山となれ。
(前に向かってレールアクション!)
前方にくの字を描くように動くレールアクションを起動する。まずジャミングが働く。動くのに僅かなタイムラグが生まれる。
相手が目の前に現れた。予想通りだ。
相手が目の前に現れた。予想通りだ。
(間に合えっ)
振り上げられた刃が、太陽の光に照らされる。袈裟掛けに迫る刃をただ見上げる。大丈夫だと信じて。
ふっと体が軽くなるのを感じた。次の瞬間、相手の背後が見えた。うまく回り込めたらしい。
手に力を込める。これが本当のラストチャンスだ。
相手は空を切った勢いのまま回転しようとする。その時、視線がぶつかり合った。宮下さんと同じどこまでも真っ黒な瞳。見間違いでなければ今、微かに笑ったように見えた。
ふっと体が軽くなるのを感じた。次の瞬間、相手の背後が見えた。うまく回り込めたらしい。
手に力を込める。これが本当のラストチャンスだ。
相手は空を切った勢いのまま回転しようとする。その時、視線がぶつかり合った。宮下さんと同じどこまでも真っ黒な瞳。見間違いでなければ今、微かに笑ったように見えた。
「はあぁぁぁっ!!」
「やあぁぁぁぁっ!!」
「やあぁぁぁぁっ!!」
二つの影が交錯する。鍔競り合いになる時、トルネードにひびが入るのを私は見逃さなかった。高々刀を三回受け止めただけなのに何故。
砕ける刃。迫る銀。お互いの腕は完全に振り抜かれ、場違いなブザーの音が辺りに響いた。
砕ける刃。迫る銀。お互いの腕は完全に振り抜かれ、場違いなブザーの音が辺りに響いた。