負けた。これはもう、成す術無しだ。理由も全てわかってる。改善の余地はある。だから、やることも分かってるはずなんだけど、何故だか私は椅子から立ち上がることはおろか、ヘッドギアを外すことすら出来なかった。負けたと言う事実は思いの外私の中に深く突き刺さっているらしい。
その時、ヘッドギアが外された。華凛だ。
その時、ヘッドギアが外された。華凛だ。
「華凛、負けた」
「そうね……」
「…………」
「そうね……」
「…………」
どうやら私は気持ちの切り替えがうまくないらしい。どうしても気分がすぐれない。
「……こんなこともあるよね」
「ま、そうね。神姫バトルなんてのは勝って負けての繰り返しだもの。まさか、一回の敗けで嫌になった?」
「そんなことないよ」
「ま、そうね。神姫バトルなんてのは勝って負けての繰り返しだもの。まさか、一回の敗けで嫌になった?」
「そんなことないよ」
そう、課題も見付かった。だから、この敗けをバネにするだけ。問題は……。
「……ごめん、樹羽」
目の前ですっかり小さくなってしまっているシリアだ。
「気にしないで。こういうのはよくある」
「でも! 私、また樹羽の役に立てなかった! 私がバリアをしっかり張れていれば、まだ戦えたのに!」
「でも! 私、また樹羽の役に立てなかった! 私がバリアをしっかり張れていれば、まだ戦えたのに!」
軽い嗚咽混じりの吐露。華凛が何か言おうとするが、私はそれを手で止めた。
「シリア、じゃんけんして。出さなかったら負け」
「え……?」
「え……?」
了承を得る間もなく、私は握り拳を振る。
「最初はグー、じゃんけん、ぽん」
慌てて出したシリアはグー。対するこちらは指が二本のチョキ。私の負け。
「これが、どうしたの?」
シリアが怪訝そうに訪ねる。
「さっきのも、これと同じ。相手がパーを出すのか、グーを出すのか、チョキを出すのかわからない。出さなかったら負けだから、こっちは何かを出す。あの時、私たちはパーを出していた、相手がチョキだったから負けた。それだけ」
つまり、勝負は時の運と言うわけだ。元々あの状態にまで持っていかれたら負けも同然なのだが。
「それに、私の動きに合わせてアイオロスを動かしてくれた。十分役立ってる」
「そっか、そうだよね。ごめん、一番基本的なこと見失ってた」
「そっか、そうだよね。ごめん、一番基本的なこと見失ってた」
シリアの顔が明るくなる。すっかり吹っ切れたようだ。
「華凛」
「ん、何?」
「ん、何?」
私は立ち上がった。もう体の重みは取れている。
「これから柏木さんの所に行くけど、一緒に行く?」
「そうねぇ、特に他にやること無いから行くわ」
「うん」
「そうねぇ、特に他にやること無いから行くわ」
「うん」
私はシリアをポーチに入れ、ゲームセンターを後にした。
目指すは柏木さんのホビーショップだ。
目指すは柏木さんのホビーショップだ。
相変わらず客足のない扉を開ける。この扉は一日に何回開けられているのだろうか。
「いらっしゃいませ! あ、樹羽さん。こんにちは!」
カウンターの所で出迎えてくれたのは、いつもの眼鏡姿ではなくその神姫、エリーゼだった。
「あんれ、仁さんは?」
「店長はお得意様の所に行ってますよ。唯一の稼ぎ口ですからねぇ、時間もかかるってもんですよ」
「店長はお得意様の所に行ってますよ。唯一の稼ぎ口ですからねぇ、時間もかかるってもんですよ」
その間、エリーゼが店番をしていると言うわけらしい。彼女は携帯をペタペタと操作している。入荷状況云々は大体彼女が管理しているんだとか。
「稼ぎ口は一つじゃない」
「ほえ? もしかしてお買い物ですか!?」
「ん」
「ほえ? もしかしてお買い物ですか!?」
「ん」
私が頷くと、エリーゼは両手をあげてくるくると踊り始めた。
「うおぉぉっ、マジですか!? 本気と書いてマジですか!? ここで『もちろん嘘☆』なんて言われたら何にも信じられなくなりますよ!?」
「大丈夫、購入」
「大丈夫、購入」
うおっしゃぁぁぁっ! やりました店長! 顔見知りのお客様とは言えついに商品が売れますよぉぉっ!! というエリーゼの魂の叫びを聞きながら、私は武装の棚を眺めた。この商品棚は大剣や小剣、槍など大まかにカテゴライズされている。だからどんな物が欲しいのかハッキリしていればピンポイントに探せるのだ。
私がまず向かったのは、ライトガンの中の短機関銃の棚だ。今回の敗因の一つである“実弾武装の未装備”。これをまずどうにかする。
たくさん並べられた商品の中で、取り回し易く段数が多い物。やっぱり沢山ありすぎてよくわからない。神姫カードを確認してみる。sptは軽く貯まっていて武装を買うには十分だった。
私がまず向かったのは、ライトガンの中の短機関銃の棚だ。今回の敗因の一つである“実弾武装の未装備”。これをまずどうにかする。
たくさん並べられた商品の中で、取り回し易く段数が多い物。やっぱり沢山ありすぎてよくわからない。神姫カードを確認してみる。sptは軽く貯まっていて武装を買うには十分だった。
(出来るだけ使いやすいやつがいいんだけど……)
どれもこれも似たような物ばかりでどれを選んでいいのかさっぱりわからない。
「短機関銃のオススメはこれ」
その時、華凛が一つの武装を手にとる。それはどの神姫の純正装備でもない無名の銃だった。一応メーカーはエウクランテやイーアネイラと同じマジックマーケット。
「弾数もお手頃、ちょっと大きいけど、そんなブレなくて結構使いやすいよ」
「使いやすい?」
「使いやすい?」
華凛はハッとして慌てて手をぶんぶんと振った。
「そ、そう! 使いやすいって聞いたの! 使ってる人少ないけど割りとわかる人にはわかる武器ってわけ!」
「ふーん……」
「ふーん……」
手に取ってみる。確かに神姫には少し大きいかもしれない。だがそれも、この間楓さんが使っていたアサルトライフルより僅かに大きいぐらいだ。これで短機関銃というのだから安定制は抜群だろう。
色は白とメタリックバイオレットと黄色、ワンポイントで赤が入っている。
短機関銃はこれでいいだろう。あともう一つの課題である“圧倒的パワー不足”を解消出来る近接武器を探さなければならない。
エウロスは確かに強い。長さも小剣並にあるし、その形状から突いた時の威力は最高クラスだと思う。
だがしかし片手で一本しか装備できないと言う欠点がある。よって鍔競り合いに発展したり、切り合いになった際にパワー負けしてしまう。両手に装備出来るとは言え、どうあっても攻めがパターン化しやすいと言うのがある。
色は白とメタリックバイオレットと黄色、ワンポイントで赤が入っている。
短機関銃はこれでいいだろう。あともう一つの課題である“圧倒的パワー不足”を解消出来る近接武器を探さなければならない。
エウロスは確かに強い。長さも小剣並にあるし、その形状から突いた時の威力は最高クラスだと思う。
だがしかし片手で一本しか装備できないと言う欠点がある。よって鍔競り合いに発展したり、切り合いになった際にパワー負けしてしまう。両手に装備出来るとは言え、どうあっても攻めがパターン化しやすいと言うのがある。
「シリアはどんなのがいいと思う?」
「そうだなぁ、槍……とか?」
「そうだなぁ、槍……とか?」
私は円錐型の馬上槍を思い浮かべた。やることがエウロスより単調になる気がする。パワーがあるのは事実だけど。
だがヒントはもらった。槍は不味いが、これならいけるかもしれない。
私は一つの武装を手にとった。
だがヒントはもらった。槍は不味いが、これならいけるかもしれない。
私は一つの武装を手にとった。
「薙刀?」
これまた無名の薙刀。長さは13、4cmぐらいで刃が3cm程あり、さらに1.5cmほどプレート状になっている。後の部分は全て柄だが、最後の部分だけ刃と同じ向きに小さなピックのようなものが付いている。これのメーカーはよくわからない所だった。華凛曰くすごくマイナーだそうだ。
「シリア、どう?」
「いいんじゃないかな? 薙刀っていろんな使い方が出来るし」
「いいんじゃないかな? 薙刀っていろんな使い方が出来るし」
と言うわけで購入確定。私はその二つを持ってカウンターへ行った。
そこでは既にエリーゼが準備万端と言った面持ちで待っていた。
そこでは既にエリーゼが準備万端と言った面持ちで待っていた。
「この二つ」
「はいはい、えっと番号はっと……」
「はいはい、えっと番号はっと……」
携帯をペチペチと叩き、整理番号のような数字を入力していく。
「じゃあ、神姫カードをここに入れて下さい!」
指差す先にあったのは、カードリーダーのような装置だった。そこに神姫カードを通す。ピピッ、と言う短い音が鳴った。
「これで購入完了です! ついでに装備しておきましたから! またの御利用お待ちしておりますね!」
頼んでもいないのに装備までしてくれたらしい。願ってもないことだ。
神姫の武装はデータ管理である。だからフィギュアはあくまでオマケみたいな物らしい。
私はその足で練習用の筐体に向かった。筐体に神姫カードを入れてスタートボタンを押す。さすがに新しい武装をぶっつけ本番と言うわけにはいかない。
神姫の武装はデータ管理である。だからフィギュアはあくまでオマケみたいな物らしい。
私はその足で練習用の筐体に向かった。筐体に神姫カードを入れてスタートボタンを押す。さすがに新しい武装をぶっつけ本番と言うわけにはいかない。
「華凛、私は練習してるけど華凛はどうする?」
「んー、練習の様子見たり武装見たり、まぁ適当に時間潰しておくわ」
「んー、練習の様子見たり武装見たり、まぁ適当に時間潰しておくわ」
その答えを聞いて安心した。これで心おきなく練習出来る。
「シリア、行くよ」
「うん。ちゃんと使いこなせるようになっておかなきゃね!」
「うん。ちゃんと使いこなせるようになっておかなきゃね!」
シリアが筐体の中に入り込み、私も筐体の中にライドした。
樹羽がライドした事を確認して、あたしは一息ついた。よかった、ちゃんと良い方向に向かっている。
あたしは無意識の内にカレンダーを見ていた。今日は28日。もうすぐ7月が終わる。これなら完璧とは言わないものの、上出来クラスではあるだろう。
筐体の中の様子はパソコンの画面に映し出されている。画面内の樹羽は、短機関銃の反動が予想以上で慌てていたり、薙刀がリアパーツに当たったりしたりしていた。樹羽は割りと、と言うか結構器用な子だ。たぶん明日ぐらいにはマスターしているだろう。
時間に待ったは効かない。けれど速まりもしない。だから一定の速度で進むこの世界であがくしか、私たちには出来ないのかもしれないな、と思いながら、私は画面を見続けた。
あたしは無意識の内にカレンダーを見ていた。今日は28日。もうすぐ7月が終わる。これなら完璧とは言わないものの、上出来クラスではあるだろう。
筐体の中の様子はパソコンの画面に映し出されている。画面内の樹羽は、短機関銃の反動が予想以上で慌てていたり、薙刀がリアパーツに当たったりしたりしていた。樹羽は割りと、と言うか結構器用な子だ。たぶん明日ぐらいにはマスターしているだろう。
時間に待ったは効かない。けれど速まりもしない。だから一定の速度で進むこの世界であがくしか、私たちには出来ないのかもしれないな、と思いながら、私は画面を見続けた。