「わぷっ……」
意識が戻った途端、口の中に何かじゃりじゃりとしたものが入ってきた。恐らく、風に舞い上げられた砂だろう。ステージ『砂漠』が故だ。
(口の中がざらざらする……)
(今のは仕方ないとは思うけどね)
(今のは仕方ないとは思うけどね)
砂漠と言っても、地平線まで砂が続いているわけではない。ステージを囲むように瓦礫のようなもの――それもステージ『コロシアム』の瓦礫――が存在し、まるで朽ち果てたコロシアムの跡のようだった。またステージ中央には大きな砂丘があり、反対側は見えないようになっている。
(相手は忍者をイメージした神姫みたいだね)
(土遁、砂隠れの術?)
(いや、無いと思うけど……)
(土遁、砂隠れの術?)
(いや、無いと思うけど……)
突然後ろから現れてバッサリ、なんてことが起こったり起こらなかったり。無いよね。
(相手の武装は、刀が二本だけ?)
それだけで事足りる、ということだろうか? いや、あるいは防御に重きを置いているとか。
(なんにせよ、ボレアスで牽制射撃。たぶん無駄だけど)
(わかった)
(わかった)
手にランチャーが現れる。刀が二本だけということは、相手はやはり接近型のクロスメイン。忍者型と言うことは、足は速いのだろうか? と言うことは、おそらくそもそも射撃など回避するだろう。そして最接近。うーん……。
(念のために両手にゼピュロス)
(あ、そうだね)
(あ、そうだね)
両手に大きめの鉄甲が現れる。
これで準備は出来た。後は試合開始を待つだけ。
これで準備は出来た。後は試合開始を待つだけ。
(相手は、リアライドみたいだね)
シリアから送られてくる情報に目を通す。宮下さんと静というフブキ型の間には、並々ならぬ主従関係のょうな物が感じ取れた。多分、ライドシステムが発明される前から神姫バトルをやっていたのだろう。それ故のリアライドか。
その時、上空にスクリーンが現れ、試合の開始を告げた。
その時、上空にスクリーンが現れ、試合の開始を告げた。
『Ready……Go!』
とにかくまず飛ばないと話にならない。私はバイザーを降ろし、空へあがった。
このステージは時折砂嵐が吹き荒れる。だからあまり長い間上空にはいたくない。風で煽られて墜落、なんてしょうもなさすぎる結末だ。
砂丘はあまり大きくなく、すぐに相手を黙認することが出来た。相手は試合開始から動いていないのだろうか? じっとしたまま動かない。
ロック範囲まで近付いても、動く気配がない。一昨日のアルトアイネスを思い出す。だが、あれとは違うのは、それが無気力からくる静止では無く、まさに明鏡止水がごとき立ち姿であることだ。
黒く、柔らかな和服を思わせるアーマー、その黒の中に浮かぶ紅いマフラー。そして手には曇りのない刀。
まるでそこでそうあるのが当たり前なように、あるいは初めからそうあったかのように、静はそこにいた。
このステージは時折砂嵐が吹き荒れる。だからあまり長い間上空にはいたくない。風で煽られて墜落、なんてしょうもなさすぎる結末だ。
砂丘はあまり大きくなく、すぐに相手を黙認することが出来た。相手は試合開始から動いていないのだろうか? じっとしたまま動かない。
ロック範囲まで近付いても、動く気配がない。一昨日のアルトアイネスを思い出す。だが、あれとは違うのは、それが無気力からくる静止では無く、まさに明鏡止水がごとき立ち姿であることだ。
黒く、柔らかな和服を思わせるアーマー、その黒の中に浮かぶ紅いマフラー。そして手には曇りのない刀。
まるでそこでそうあるのが当たり前なように、あるいは初めからそうあったかのように、静はそこにいた。
(駄目で元々……!)
空中で静止し、ボレアスを構える。銃口を向けられようが、その頬はピクリとも動かない。
引き金を引く。銃口から放たれた光の帯は、真っ直ぐ静へと向かっていく。
が、そのエネルギーをまるでそこに飛んでた虫を払うかのような自然な動作で刀を振り、切り裂いた。
引き金を引く。銃口から放たれた光の帯は、真っ直ぐ静へと向かっていく。
が、そのエネルギーをまるでそこに飛んでた虫を払うかのような自然な動作で刀を振り、切り裂いた。
(あはは、なんかもうボレアスが信用出来なくなってきた……)
(相手が悪すぎるだけ)
(相手が悪すぎるだけ)
多分、2本ある内の1本だろう。対ビームコーティングでもしてあるのか、そんなところだろう。光学系の武器は全部アウト、結局はインファイトだ。
(とにかく攻めよう。フェイントをかける。エウロスを出して)
(オッケー。ブースターは任せて)
(オッケー。ブースターは任せて)
両手に出した剣を前に構え、風に乗るように飛び出す。相手は未だに動かない。おそらく接近してきたところに一閃を決めるつもりだろうが、そうはいかない。
みるみる内に相手との距離が縮まる。私はエウロスを振り上げる。自然と足は前に投げ出される。そこで手を振り下ろす――フリをする。足のスラスターが起動し、私の体はふわりと上にあがった。これで相手の攻撃は避けられ……
みるみる内に相手との距離が縮まる。私はエウロスを振り上げる。自然と足は前に投げ出される。そこで手を振り下ろす――フリをする。足のスラスターが起動し、私の体はふわりと上にあがった。これで相手の攻撃は避けられ……
(動いて……ない!?)
相手はボレアスを向けられた時同様、一切動いていなかった。
(ならっ)
浮かんだ時、慣性により僅かに前に進んでいる。つまり相手の真上。ならば取るべき行動は一つ。
膝を曲げ、落下と共に突き出す。これには反応した。
力を入れているとは思えないゆったりとした動き。相手は右手に握られた刀を真上にかざす。私の足はその刀を踏みつける形になる。
膝を曲げ、落下と共に突き出す。これには反応した。
力を入れているとは思えないゆったりとした動き。相手は右手に握られた刀を真上にかざす。私の足はその刀を踏みつける形になる。
(っ!)
私はその時点で追撃を断念し、その刀を踏み台に後ろへ跳んだ。そこでようやく刀に力が込められていることに気が付く。
着地。そこで勢いを殺さない。バネにした足で大地を蹴り、姿勢を低くして相手に肉薄する。
着地。そこで勢いを殺さない。バネにした足で大地を蹴り、姿勢を低くして相手に肉薄する。
「はっ!」
その体勢から右腕だけを逆袈裟に一閃。それは身を反らされかわされる。それは想定済みだった。
さらに右足を踏み出しながら、今度は左腕を体ごとあげる。それも後ろへ避けられる。これもわかってる。
あげた体を左に捻り、左腕を目一杯下げる。さらに右手で相手の刀を抑えながら左足を前に出す。体重を後ろから前に移しながら左腕を相手の眉間に突き出した。
さらに右足を踏み出しながら、今度は左腕を体ごとあげる。それも後ろへ避けられる。これもわかってる。
あげた体を左に捻り、左腕を目一杯下げる。さらに右手で相手の刀を抑えながら左足を前に出す。体重を後ろから前に移しながら左腕を相手の眉間に突き出した。
「…………!」
しかしそれすらも、相手は最低限の動きだけでかわしてしまう。この場合、首だけを動かして。
「……見事です」
相手が口を開く。刀を左手に持ち換え、右手でエウロスをどかす。
「マスターの攻撃における体重移動、神姫におけるマスターの腕の動きに合わせたリアパーツの動き。とても見事です」
確かに攻撃の最中、アイオロスは行動の邪魔にならなかった。それはシリアがこっちの動きに合わせてせわしなく動かしてくれたおかげだろう。
「しかし……」
相手が右手を静かに刀の柄に添える。
「残念ですが力不足です!」
相手が刀を僅かに下にずらしながら力を込める。私も右腕に力を込めるが、相手は両手、こちらは片手。勝敗は目に見えていた。
相手が刀を押し上げる。こちらのエウロスは刀の鍔で引っ掛かり、結果的にボディが空くことになる。私はさらなる追撃を恐れて左手を動かそうとした。
相手が刀を押し上げる。こちらのエウロスは刀の鍔で引っ掛かり、結果的にボディが空くことになる。私はさらなる追撃を恐れて左手を動かそうとした。
「遅い」
次の瞬間、顎にかなり強い衝撃。それが相手の膝だとはこのときの私は気付いていなかった。
「くあっ……」
目の前がチカチカする。体を支えられない。何とか足を動かして体が崩れるのだけは阻止する。
「終わりです」
声が聞こえ、必死に求めた視界には、すでに相手の姿はなく。
私は体の中に冷たい物が通り抜けるのを感じた。
画面の中で、静が飛び上がるように樹羽の顎目がけて膝蹴りをかます。樹羽が左手を動かすのが見えたが、如何せん瞬発力はフブキ型の方が高い。見事に顎に膝が入る。樹羽は体勢を崩した。あれだけの衝撃だ、たぶん軽い脳震盪だろう。
観戦用のモニターに青い点と線が表示される。レールアクションを使って神姫のレーダーを封じる気だ。静が音もなく樹羽の背後に回る。そして、その背中には刀を突き刺した。うまくリアパーツの合間を縫っての一撃。クリティカルダウンだ。
観戦用のモニターに青い点と線が表示される。レールアクションを使って神姫のレーダーを封じる気だ。静が音もなく樹羽の背後に回る。そして、その背中には刀を突き刺した。うまくリアパーツの合間を縫っての一撃。クリティカルダウンだ。
(終わったわね……)
ゲームエンド。まぁ、当然と言えば当然の結果だ。
宮下亘彦、そしてその神姫である静。彼らは神姫バトルが始まって以来からの古株。あまりにも年期が違いすぎるのだから。
宮下亘彦、そしてその神姫である静。彼らは神姫バトルが始まって以来からの古株。あまりにも年期が違いすぎるのだから。
(にしても、予想通りとは言え、樹羽は大丈夫かしら……)
あまりにも呆気なく、とても善戦したとは言いがたい結果。いや、樹羽のような初心者にしては上出来な方かも知れない。
その時、宮下さんが静を回収しゆっくりと立ち上がった。どうやら連戦する気は最初から無かったらしい。
宮下さんが私の脇を通り抜ける。
その時、宮下さんが静を回収しゆっくりと立ち上がった。どうやら連戦する気は最初から無かったらしい。
宮下さんが私の脇を通り抜ける。
「そう怖い顔するもんじゃねぇぞ」
顔に手を当てて初めて気付いた。あたしの顔は今、相当にこわばっている。
「ああいう成功続きの初心者にはな、一回強制負けイベントってのをやらせねぇと成長しねぇ」
「……それであの子が潰れる可能性があってもですか?」
「そんときはその程度だったと諦めるんだな。お前さん自身のためにも」
「……それであの子が潰れる可能性があってもですか?」
「そんときはその程度だったと諦めるんだな。お前さん自身のためにも」
振り返ると、そこに宮下さんの姿はもう無かった。相変わらず音もなく消える人だ。
「あたし自身のため、ね……」
最後に言ったあのセリフ。あの人はどこまで知っているのだろう。まったく、前々から思っていたが、何者なのだろうかあの人は。
(ま、今あたしが気にすることじゃないわね)
あたしは未だに筐体に座っている樹羽に駆け寄った。