手にしたのは戦う力
7月23日(土)
そして、今に至るわけである。私はソファに座った。神姫へのライドは、肉体的な疲れは無いが、精神的に疲れる。
「お疲れ様です。何かいれますよ。珈琲でいいですか?」
「カフェ・オ・レで」
「ははは、了解しました」
「カフェ・オ・レで」
「ははは、了解しました」
柏木さんが二人分のカップを持ってくる。そういえば、カフェ・オ・レを直訳すると、温い珈琲牛乳だと誰かから聞いた気がする。
うん、どうでもよかった。
うん、どうでもよかった。
「はい、カフェ・オ・レです」
ベージュ色のカップが渡される。始めから牛乳が入っており、手にちょうどいい温かさが伝わる。
「牛乳とみせかけて練乳」
「ははは、ありませんよ」
「実は豆乳」
「ありません」
「まさかの飲むヨーグルト」
「からかってますよね?」
「バレました」
「ははは、ありませんよ」
「実は豆乳」
「ありません」
「まさかの飲むヨーグルト」
「からかってますよね?」
「バレました」
私はカフェ・オ・レの入ったカップを仰いだ。ほどよい暖かさが、口一杯に広がる。余談だが、この珈琲はインスタントではなく、豆からひいているらしい。柏木さんの実家から送られてくるんだとか。
柏木さんもソファに座る。
柏木さんもソファに座る。
「ここ2、3日で、随分と腕をあげましたね。これなら、近いうちにゲームセンターで戦ってもいいんじゃないですか?」
「そこまでじゃないですよ」
「いやいや、謙遜することないですよー。私も店長もそう言ってるんですから、間違いありませんって」
「そこまでじゃないですよ」
「いやいや、謙遜することないですよー。私も店長もそう言ってるんですから、間違いありませんって」
ここ一週間練習に付き合ってくれたエリーゼも称賛の声をかけてくれる。
砂糖の入っている小瓶の中から。
「エリーゼ、またあなたはそんなところから……」
「ん~、あまりインパクトが足りませんでしたか。今度はカップの中から現れてみせますね店長」
「やめてください」
「ん~、あまりインパクトが足りませんでしたか。今度はカップの中から現れてみせますね店長」
「やめてください」
柏木さんは、ぐっと拳を固めるエリーゼを摘み上げる。
「というかあの中にいて、大丈夫なんですか?」
今度は私の神姫が顔を出した。燈色の髪をサイドでまとめてあるのが特徴だ。
「あ、大丈夫ですよ。中に袋が入ってますから」
「あ、そうなんですか? なら、安心ですね」
「あ、そうなんですか? なら、安心ですね」
もっと別のところにツッコンで欲しかったな、シリア。
「とにかく、明日ゲームセンターに行ってみませんか?」
「……行ってもいいですけど、お店はどうするんです?」
「……行ってもいいですけど、お店はどうするんです?」
店長である柏木さんがいなくなったら、店が空になる。他にスタッフもいないし。
「休みでいいでしょう。どうせそんなにお客さんは来ませんし」
「店長、そういう時に限ってお客さん来ますよ? こう、狙いすましたかのように」
「店長、そういう時に限ってお客さん来ますよ? こう、狙いすましたかのように」
柏木さんは、エリーゼのツッコミに黙ってしまった。
「……じゃあ、明後日はどうですか? 明後日なら、定休日ですし」
「それでいいと思います」
「それでいいと思います」
そもそも私には予定らしい予定もない。
「う~ん、でも押しに欠けますね~……」
柏木さんは軽く考えた後、時計を見た。現在の時間は、午後4時16分。
「この時間ならいますね」
柏木さんは立ち上がり、電話を手にとった。そしてあらかじめ登録してあるのか、ワンプッシュで待機。
「あ、もしもし? えぇ僕です。柏木仁です」
しばらくして、会話が始まる。向こうの声は聞こえない。
「明日、僕のお店に来てもらえますか? 時間は……3時でいいですか?」
柏木さんが数回頷く。
「ありがとうございます。ちゃんと、神姫は連れてきて下さいね?」
そこで電話を切った。柏木さんがこちらに戻ってくる。
「というわけで、明日3時に来てください」
「いいですけど、何するんですか?」
「いいですけど、何するんですか?」
柏木さんは眼鏡を直す。
「ま、卒業試験ですかね」
7月24日(日)
翌日、現在2時45分。私は柏木さんの店に来ていた。
「早いですねぇ、中々良心的なタイムですよ」
「基本は10分前行動ですので」
「基本は10分前行動ですので」
店に入る。相変わらず客はいなかった。
箱に入った神姫たちが、すこし憂いを帯て見えるのは気のせいだろうか? 多分、気のせいじゃないと思う。
箱に入った神姫たちが、すこし憂いを帯て見えるのは気のせいだろうか? 多分、気のせいじゃないと思う。
「まだ、相手の人は来てないんですか?」
「う~ん、まだみたいですね」
「もう少しで来ると思いますけどね~」
「う~ん、まだみたいですね」
「もう少しで来ると思いますけどね~」
エリーゼも首を傾げる。
陳列された箱の中で。
「かなり分かりづらいよ、そこ」
「う~ん、最近スランプですね~、どこかにネタは転がってはいませんかね~……。すいません、ちょっと出してくれませんか?」
「う~ん、最近スランプですね~、どこかにネタは転がってはいませんかね~……。すいません、ちょっと出してくれませんか?」
蓋がテープで閉じられているが、どうやって入ったのだろう。
「ま、もう少ししたら来るでしょう。僕は筐体のチェックをしてきます」
柏木さんは練習用のブースに行くと、筐体を調べ始めた。
その時、店のドアが荒々しく開いた。
その時、店のドアが荒々しく開いた。
「あ、よかった。まだ始まってないわね」
「華凛?」
「華凛?」
現れたのは制服姿の華凛だった。普段着の時とは違い、長い髪をそのまま垂らしている。
「華凛が相手なの?」
「違うわ。私は観客。昨日仁さんから連絡もらってね。走って来ちゃった」
「違うわ。私は観客。昨日仁さんから連絡もらってね。走って来ちゃった」
そういえば今日は日曜日のはずだが、何故制服なのだろう。
「いやぁ、日曜日だってすっかり忘れてて学校に行ったら、同じ様に学校に来てた先生に捕まっちゃってね。朝から補習よ補習」
それは災難だったと言うか、ドジだったと言うべきか。
「いらっしゃい、華凛さん。どうぞ、座ってまってて下さい」
「はい、お言葉に甘えて失礼しますっと」
「はい、お言葉に甘えて失礼しますっと」
華凛がソファに座ろうとした時だった。
「トゥットゥルー」
「うわぁっ!?」
「うわぁっ!?」
ソファがパカッと開き、中からエリーゼが飛び出した。このソファ、中が収納スペースらしい。
「も、もうっ! ビックリさせないでよ」
「あ、あぁ……」
「あ、あぁ……」
エリーゼは肩を振るわせている。
「これですよ、この反応が欲しかったんですよ……」
そんな泣くほどだろうか? というかいつの間に入ったんだろう?
「よかったわね。それより早く退いてくれない? 座れないんだけど」
「あ、すみません」
「あ、すみません」
エリーゼがピョンとソファから降りる。華凛もソファに座った。
「仁さんに聞いたけど、結構上達したんだって?」
「別に、そこまでじゃないよ」
「って言ってるけど、相方はどうなのかな?」
「別に、そこまでじゃないよ」
「って言ってるけど、相方はどうなのかな?」
華凛が私のバックの中に話しかける。シリアはバックの中から顔だけをだす。
「んしょっと、樹羽は筋いいと思いますよ。結構バトルにも慣れてきたみたいですし」
「だって。相方にも認めてもらえてるじゃん」
「そんなことないって」
「だって。相方にも認めてもらえてるじゃん」
「そんなことないって」
言いながら、私は嬉しく思っていた。
シリアが認めてくれる。相方に認めてもらえることほど、嬉しいことはない。
シリアが認めてくれる。相方に認めてもらえることほど、嬉しいことはない。
「どんな人なんだろうね」
「うん、楽しみ」
「うん、楽しみ」
私はまだ見ぬ対戦相手に思いをはせた。