「ずいぶん思いきったことをしましたね?」
「わかってるわ。でも、誰かが言わなきゃいけなかった。それがあたしだっただけよ」
「わかってるわ。でも、誰かが言わなきゃいけなかった。それがあたしだっただけよ」
暗い店内で、話声がする。華凛と仁だ。
「それでも、相当な覚悟をしましたよね? 信頼しあってる親友ですから、なおさら」
「…………」
「…………」
華凛は答えない。いつもの明るさはどこへやら。ただ、黙っているだけだ。
黙って、堪えているのだ。
黙って、堪えているのだ。
「大丈夫。あの子は頭のいい子です」
仁が華凛の頭を撫でる。
「よく頑張りましたね、華凛さん」
「……ぐすっ」
「……ぐすっ」
強がっていた。堪えていた何かが決壊し、奥から押し殺していた感情が流れ出す。
泣いた。もう過ぎたことのはずなのに。もしかしたらそうなっていたかもしれない未来を恐れて、泣いた。
泣いた。もう過ぎたことのはずなのに。もしかしたらそうなっていたかもしれない未来を恐れて、泣いた。
「仁さん……あたし……ぐすっ……あの子に嫌われたらどうしようって……ずっと……ずっと……」
華凛は仁にすがるように泣き続けた。そんな彼女を仁は、まるで娘をあやすように頭を撫でた。
「大丈夫ですよ」
「仁さん……」
「仁さん……」
華凛が、泣きはらした目で仁を見上げる。眼鏡の奥の瞳は、どこまでも穏やかで――。
「あの神姫が直ったら、彼女に神姫バトルを教えてあげるつもりです。その時は、あなたも一緒に」
「……うん。その時は、一緒に」
「……うん。その時は、一緒に」
華凛はそう言ってまた泣いた。
この時のこの涙は別の意味での涙であることは、仁にも、そして誰にも分かりはしなかった。
あとエリーゼは空気を読んで黙っていた。