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キズナのキセキ

ACT1-26「狂乱の聖女」




 海藤仁は、自宅の壁に掛けられた時計を見上げる。
 六時を少し回ったところ。朝もまだ早い。

「もうそろそろ、始まった頃かな……」

 海藤は、決戦に望む友人たちに思いを馳せる。
 二ヶ月もの間、これほどまでに深くバトルロンドに取り組んだことは、現役時代にもなかったことだ。
 あの「特訓場」に集った仲間たちは、誰もが海藤と同様、かけがえのないものを感じていることだろう。
 その集大成、すべては今日の決戦にあるのだと、彼の友人は言っていた。
 正直な話、バトルの行方は非常に気になる。

「わたしも気になります。ミスティとも仲良くなりましたし……あれほどの特訓をして挑むバトルがどんなものなのか、興味があります」

 彼の神姫・イーアネイラ型のアクアが言った。
 海藤は頷く。

「うん、僕も気になる。でも、バトルを直接見ようという気にはならないよ」
「なぜです?」
「……久住さんたちとの付き合いがまだ浅いってのもあるけど……きっと、今日のバトルを僕たちが見てはいけない気がするんだ。そんな、尋常ではない何かをはらんでいる……そんな気がしてね」
「そうでしょうか……」

 アクアは思う。
 彼女のマスターは、まだどこかバトルに遠慮があるみたいだ。
 昔、公式大会で痛い目を見てきただけに、マスターの気持ちはよく分かる。そう思って、今日までマスターの側にいた。
 だけど、気が付いていた。遠野さんがティアのマスターになってから、自分のマスターがバトルをしたいと思っていることに。
 だから、今回の久住邸での特訓はチャンスだと思っていた。そう思っていたのだけれど……。

「だからさ、どんなバトルだったか聞くために、ゲームセンターに行こうと思う」
「……え?」
「遠野たちも、バトルが終わったらきっと、『ノーザンクロス』に来るだろう。だから、ゲーセンで待って、気になる結末を聞くとしよう」
「で、でも……ゲームセンターは……」

 ゲームセンターは、海藤にとって鬼門のはずだ。特に『ノーザンクロス』はかつてホームグラウンドにしていた店。行っただけでなにを言われるか、分からない。
 しかし、海藤は、いつものような優しい微笑みを浮かべ、アクアに言った。

「言っただろう? カムバックするって。今日がその日さ」
「あ……」

 確かに、海藤仁は言っていた。バトルロンドにカムバックするのだと。だとすれば、ゲームセンターが鬼門だなんて、言ってられない。

「アクアが心配することも、分かるよ。確かに、『ノーザン』じゃ何を言われるか分からない。けどさ……何を言われてもいいんだって、今はそう思えるんだ」
「え?」
「……遠野はさ、ティアを自分の神姫にしたくて、何を言われても必死に頑張ってた。だから、僕も、彼を見習って、何を言われても胸を張っていようと思うんだ。
 何を言われても……アクアは僕の神姫だからね」

 頷きながらにっこりと笑ったマスターの顔を、アクアは一生忘れないだろう。バトルロンドを諦めたあの日以来、マスターのこんなに輝いた笑顔を見たことがなかったから。
 だから、

「はい!」

 そう言って、アクアは笑顔を返すのだった。
 そして、心の中で感謝する。遠野さん、ティア、ありがとう。あなた方のおかげで、マスターとわたしはまた戦うことが出来ます、と。

「それにしても……」

 海藤が独り言のように呟いた。
 海藤は再び、戦いの場に赴いた仲間たちに思いを馳せている。
 遠野は「あれ」を使ったのかな? あんな骨董品を使うなんて意外だったけれど。
 その結果についても、ゲームセンターで聞けばいい。
 開店時間まではまだたっぷりと時間がある。海藤は朝食の準備をするため、立ち上がった。



 その瞬間、わたしは、見た。
 マスターは微動だにしなかった。
 二本のミサイルは、真っ直ぐに目標へと向かう。
 でも。
 でも、ミサイルはマスターに命中しなかった。

 ミサイルは今、マスターの眼前三〇センチほどのところで、何かに阻まれたようにそれ以上進めず、ばたばたと噴射口を揺らしている。
 やがて、推進材を燃焼尽くしたミサイルたちは力尽き、相次いでポロポロと地に落ちた。
 マスターは表情を変えないまま、姿勢を変えずにぴんと立ったまま、マグダレーナを見据えている。

「マスター……!」

 無事だ。
 マスターは無事。
 わたしが嬉しさに顔が綻びそうになったそのとき。

『ティア、今のうちにその場を離れろ』
「はい」

 マスターから指示が来た。ヘッドセットを通した直接通信。
 わたしは素直に下がり、近くの茂みへと身を隠す。

「……なぜだ」

 しわがれた声が、かすれている。
 マグダレーナは愕然として、マスターを見つめている。
 あのタイミングでの奇襲は、マグダレーナも必中を確信していたのだろう。
 でも、届かなかった。

「なぜだ、なにが起きた……!?」
「……言っただろう。あんな目に遭うのは二度とごめんだ、と」

 昨日、マスターは確かにそう言っていた。
 だから、対策をした、ということなのかしら。
 ミサイルを防いだのは、マスターが今朝ここに持ってきた、三本の「あれ」の効果に違いない。
 ということは……マスターは、ここでマグダレーナに襲われることがわかっていた……ということ?
 いったい、マスターはこの戦いのどこまで見通しているのだろう。



「野外のバトルだからな。フィールドスクリーンをセットした。それだけだ」
「フィールドスクリーン……だと?」

 マグダレーナには思い当たる節があったのだろうか。もしかすると、検索しているのかもしれない。
 最近の神姫マスターは知らないかもしれない。
 古参の神姫マスターなら、よく知っているだろうし、まだ持っている人もいるだろう。頼子さんもそうだった。

 現在の三リーグ制成立以前……まだバーチャルバトルがなかった時代に使われていたものだ。神姫センターの大がかりな筐体を使わず、屋外で手軽にバトルを楽しみたい……そんな神姫マスターは多かった。
 だが、屋外でのバトルでは安全性が問題になる。それを解決するために開発されたのがフィールドスクリーンだ。

 フィールドスクリーンは、長細い筒状をしており、上に向けてスリットが開いている。そこから力場を発生し、空気の断層を作り出す。
 その空気の断層が、武装神姫の流れ弾を防ぐ、というものだった。
 フィールドスクリーンで囲えば簡易バトルフィールドを作ることが出来る。場所さえ選べば、数本のフィールドスクリーンで安全地帯を作ることで、より広いフィールドでバトルする事も出来た。
 だが、いまやフィールドスクリーンを扱っている店は少ない。バーチャルバトルが発達し、主流となった今、フィールドスクリーンを使ってリアルバトルをする神姫マスターはほとんどいない。もはや役目を終えた道具と言える。

「要は、お前がそのブルーラインで『ライトニング・アクセル』を防いだのと同じさ」

 レア装備「ブルーライン」には小型の力場発生装置が内蔵されており、力場を解放することで宙に浮くことが出来る。
 力場の発生方向を変えれば、空中を滑るように移動が可能だ。高度は限られるが、他の飛行装備と比べると、動力音が極端に小さい。
 また、地上すれすれをホバリング移動するだけなら、上半身装備は形状をあまり考えなくてもいい。
 重装備になったとしても、ホバリング状態での機動力は確保される。
 ブルーラインは、その美しいデザインと共に、前述の使い勝手の良さから、非常に人気の高い装備になっている。
 しかし、個人の工房が作っているため、出回っている数も少なく、また非常に高価なため、滅多に目にすることがないレア装備でもある。

 マグダレーナが下半身装備にブルーラインを選んだのも、『スターゲイザー』のような重装備を持ちながら、高い機動力を発揮するためだろう。なんとも合理的な組み合わせである。

 そのブルーラインの力場発生機能を利用し、マグダレーナは自分の周囲に空気の断層を作り出した。いわば、空気のバリヤーだ。
 ティアが放った『ライトニング・アクセル』は二段攻撃。一段目は不可視の空気の断裂、二段目はそれに沿って飛ぶ電撃である。
 その一段目は、ブルーラインが生み出した空気の断層にぶつかり、相殺された。だが、空気のバリヤーには穴が開く。
 二段目の電撃はその穴を突き抜けて、マグダレーナへと迫った。
 しかし、その手前にあった長柄の燭台は地面に突き刺さっており、避雷針の役目を果たす。電撃はマグダレーナ本体にたどり着くより先に、キャンドル型の三つ叉槍を直撃、地面へと放電した。
 こうして、マグダレーナは『ライトニング・アクセル』を破ったのだ。

 閑話休題。
 フィールドスクリーンの話に戻そう。

「頼子さんが昔使ってたのを借りてな。出力をアップして、お前の攻撃でも耐えられるように改造した。それを俺たちがいるあたりに設置してある」
「いつの間に……」
「早朝だ。お前たちが来る少し前から準備していた。……まさか、何も細工していない場所だと思ったか? 油断だな、マグダレーナ」

 マグダレーナは、歯も折れよとばかりに食いしばり、悔しさを露わにしている。
 鬼のような形相、というのは今のマグダレーナのことを言うのだろう。神姫がこんな顔をするのかと、驚いてしまう。それほどに憎悪に満ちた表情だった。

「殺す……ここにいる全員、人も神姫も皆殺しにしてくれるっ!!」

 マグダレーナの激しい恫喝。
 だが俺はさらに彼女を挑発する。

「いいのか? 俺を殺したら、たとえお前がこの勝負に勝っても、協力することは出来んぞ?」
「くっ……どこまでも口の減らない人間め……!」
「それに、そんなことを言ったらイリーガル確定だ。警察に捕まり、目的が果たされなくては、お前の主『エンプレス』もさぞかし残念だろう」
「な……!?」

 これはとどめの一撃。
 マグダレーナは今度こそ目玉が転がり落ちるのではないか、というほど瞳を大きく見開いた。

「あ、あの方の名まで……」

 そう、マグダレーナと桐島あおいの口から『エンプレス』の名が出たことはない。
 彼女がひた隠しにしていた『エンプレス』との関連を、俺がなぜ知っているのか、疑惑を抱いて当然だ。
 俺は上着のポケットから、ヘッドセットを取り出した。カバーのはずれたそれは、C港で菜々子さんがしていたものだ。
 俺はヘッドセットに内蔵されたCSCを見せながら、マグダレーナに語る。

「ここにKEIN.Fと彫られている。ケイン=フォークロアは『エンプレス』の協力者なんだろう?」
「あの人間……よけいな真似を……っ!」

 マグダレーナはケインという男のことを知っているようだ。やはり、ヘッドセットやサポートメカといったCSC内蔵の装備を作ったのはケイン=フォークロアなのだ。
 だからこそ、このヘッドセットに彼の「銘」が入っていることに腹を立てるのだろう。

 だが、この「銘」には別の意味があると俺は見ている。
 ケインは自分の作品であることを主張するために自分の名前を入れたのではない。
 そもそも、人を殺すことも躊躇しない神姫犯罪者が、わざわざ身元をさらすような真似をするだろうか。
 これは、ケイン……いや、『エンプレス』からの挑戦状だ。宛先はおそらく、エルゴの日暮店長。
 自分と縁のある神姫が起こす事件を、止められるものなら止めてみろ、という宣戦布告なのだ。
 実際、この「銘」は店長が目にするところとなった。
 だが、自らの手下を執拗追うマスターと神姫がいることまでは、さすがの『エンプレス』も予想していなかったに違いない。
 『エンプレス』には悪いが、日暮店長の出番はないだろう。『狂乱の聖女』は今日ここで倒されるだろうから。



 それまで立ち尽くしていたマグダレーナが、ゆらり、と動いた。
 ブルーラインの長いスカート状のアーマーを大きく開く。
 すると、マグダレーナの黒い影が一気に加速した。
 敷き詰められた桜の花びらをけたてて、一直線に猛進する。
 目標は、遠野貴樹。
 彼の姿を映す瞳は、憎悪に揺れていた。電子頭脳は怒りで熱暴走を起こしそうだ。
 思考を絞り込まなければ、オーバーヒートしてしまう。
 だから、一つに絞った。
 あの男、遠野貴樹を殺す。

 憎き男は微動だにしない。
 目前に迫る。
 だが、その時。
 薄紅色の花のかけらを舞い上げながら、一陣の風が行く手を阻む。
 マグダレーナは手にしたビームトライデントを下段から逆袈裟斬りに一閃。
 風を薙ぎ払う。
 が、その光線の刃は、振り抜く前に、一筋の刃で止められていた。
 風の正体は、ミスティ。

「あんた、戦う相手を間違えてるんじゃないの? あんたと今バトルをしてるのは、このわたしでしょ」
「どけっ!! 貴様ごときにかかずらってる場合ではない! あの男は危険だ……あの方にすら危険が及ぶかもしれぬ!」
「そんなにタカキを斬りたければ、わたしを倒してから行きなさい!」
「……つけあがるなっ!!」

 マグダレーナの斬撃を止めていたミスティのエアロヴァジュラを、力任せに押し返し、後退して間合いを取る。
 憎しみの視線をミスティに移しながら、しかし、マグダレーナはここに来て不敵な笑みを口元に浮かべた。

「長々と丁寧な解説、痛み入るぞ、遠野貴樹……。おかげで時間が稼げたよ……『検索』する時間がな!!」

 マグダレーナは自分の発した言葉で自信を取り戻す。
 そう。ただ秘密が明らかにされただけだ。自分の有利に何ら変わりはない。

「『アカシック・レコード』と『スターゲイザー』の秘密を知ったところで、スキルが使えないわけではない! 所詮、貴様に勝ち目などないのだ!!」

 勝ち誇るようにマグダレーナが叫ぶ。
 強気のミスティも、さすがに表情がひきつる。
 チームメイトたちもどよめいていた。
 遠野の解説を聞いて、もうミスティが勝てるような気でいたが、実は何の解決にもなってはいない。
 マグダレーナを最凶たらしめるスキルはいまだ有効である事実。
 いくら強くなったとはいえ、完全なデータ解析と精密な行動予測能力の前に、ミスティに勝ち目などあるだろうか。
 しかし、大城たちは青ざめながら、成り行きを見守るしかない。

 そして、『アカシック・レコード』による検索結果がもたらされた。



『検索結果:該当なし』



「!? ばかなっ……そんなはずあるかっ!!」

 口元に浮かんでいた笑みを、罵声と共に吐き捨てる。
 ありえない。
 全ネットワークに検索をかけたのだ。公式の神姫NETはもちろん、ゲームセンターのサーバーや動画投稿サイト、果てはアングラの神姫掲示板に至るまで、世界中のネットワーク上の武装神姫に関するデータすべてを調べ上げた。
 だが、見つからない。
 ミスティの新装備に関するデータはどこにもない。
 マグダレーナは焦る。ありえないことが起きている。何度も再検索をかけるが、答えは同じだった。
 該当、なし。

「どうだ、データは見つかったか? マグダレーナ」

 突如飛んできた声に、マグダレーナは顔を上げる。
 その声の主はまたしてもあの男。
 仲間たちが青ざめる中、一切表情を変えなかった、その男。
 憎たらしいほど冷静な口調で、遠野貴樹は告げる。

「どんなに検索しても無駄だ。今のミスティの情報は、全世界のネット上のどこにもない」
「そ、そんなはずがあるか! ネットに接続せずに、新しい装備の運用など……できるはずがない!」
「できるさ。すべての訓練と実戦をローカルネットで行えばな。
 新装備を使うにあたって、ミスティは一度たりともネットにつないでいない。
 彼女の装備情報もバトルログも……サーバーにしていたデスクトップPCの中だけに留めてある。
 そのPCは、今は久住邸に置かれてる。
 ……ああ、PCの在処を検索しても無駄だ。
 いかに強力な検索能力を持つお前でも、電源ケーブルも抜かれ、すべてのケーブルも接続されていない、無線ユニットすらはずされたPCにはアクセスできまい」
「そ、そんな……アナログな方法……で……」

 マグダレーナは今日何度驚愕しているだろう。
 先ほどまでの激しい憎悪すらかき消し、言葉さえかすませて、またしても立ちすくむ。
 驚いているのは、遠野のチームメイトたちも同じだった。
 彼らはここに来て、ついに悟ったのだ。久住邸での特訓の真意を。

「そ、それじゃ、ネット対戦しなかったのは……」
「今言った通り、ネット上にデータを残さないためだ」
「遠野さんが秘密主義に徹していたのも……?」
「必要以上に情報を外に漏らさないためだ」
「わざわざVRマシンをたくさん集めて、ローカルネットワークを組んだのも……?」
「もちろん、すべてのデータをあのPCに集中させるためだ」
「それじゃあ、菜々子さんのコネクションを利用して、神姫マスターを集めて特訓したのは……」
「そう、すべては……」

 遠野は、言った。


「すべては『アカシック・レコード』と『スターゲイザー』を封じるためだ」


 遠野は顔色一つ変えないで、マグダレーナを変わらず見据えている。
 マグダレーナはとうとうその視線から瞳を逸らした。愕然とした表情の中で、その瞳には怯えの色が見えた。
 遠野は厳かに、そして冷徹に宣告する。

「マグダレーナよ、心して戦うがいい。ミスティはお前が初めて戦う……『未知の敵』だ」



 一瞬の沈黙が戦場に漂う。
 次に言葉が紡がれたのは、意外にも俺の背後からだった。

「このためにずっと、何も言わなかったってのかよ……」
「ああ」

 大城はため息を付くように続けた。

「すげぇよ……遠野……なんなんだよ、お前は……こんなことに気づくのも、こんな作戦立てられんのも……すごすぎるだろ」
「何がすごいものか。俺なんて、当たり前のことをただ積み重ねただけだ。菜々子さんの方がよっぽどすごい」

 俺は視線を菜々子さんに移す。
 彼女は今、頭を抱えてしゃがみ込んだ桐島あおいを介抱している。
 心配そうな表情。
 それでも時々、視線は戦場の方に向けられていた。
 俺は思う。この策は俺の力では断じてない。何の説明もしないこの俺を信じて、菜々子さんが、ミスティが、そしてみんながついてきてくれたからこそ、成り立つ策なのだ。
 こんな俺ごときを信じてくれた仲間たちこそ、賞賛に値する。
 俺は今こそ、みんなに語りかける。

「マグダレーナの特別なスキルを封じるため、一切外部に漏らさずに、まったく新しいオリジナル装備で、マグダレーナに対抗できる実力をつける必要があった。
 しかも、C港の裏バトル場を『狂乱の聖女』が潰す前に……実際にはたった二ヶ月の間に、だ。
 そのためには、新装備でレベルの高い実戦を積むのが近道だ。むしろそれ以外に方法はない。全国レベルの実力を持ち、様々な戦い方をする相手をスパーリングパートナーとして集めなくてはならない。そして、彼らを相手に無数の対戦をこなさなくては、奴に対抗する実力をつけることは出来ない。しかも、ネット対戦を一切せずに。
 そんなことを可能にする神姫マスターがどこにいる?
 不可能だ。普通は、な。
 だが、菜々子さんとミスティだけが……『エトランゼ』だけが、その不可能を可能にする」

 二年もの間……たった一人で戦ってきた。憧れの人を追いかけて、自分の理想の戦いを追い求めて……そして、多くの神姫マスターと戦って、絆を紡いできた。そして『異邦人(エトランゼ)』と呼ばれるほどの神姫マスターになった。
 それこそが本当にすごいことだ。
 だから、彼女の特長を最大限に生かす方法を、考えた。
 それが……それこそが。


「そう、これこそが『エトランゼ』にしかできない、対『狂乱の聖女』攻略法……『エトランゼ』の本当の戦い方。
 菜々子さんとミスティが紡いできた……絆の力だ!!」


 俺の背後で小さな歓声が上がる。
 ようやくすべてを理解したチームメイトたちとその神姫たちの歓喜の声。
 その声を聞きながら、俺はしみじみと思う。
 俺は何もしていない。
 頑張ったのは菜々子さんとミスティだ。
 俺に出来たことがあるとすれば、たった一つだけ……君の二年間の放浪は、決して無駄じゃなかったと、言い続けること……それだけだ。
 と、突然、しわがれた声が激しく戦場に響いた。


「絆だと!? そんなもの、幻想に過ぎんっ!!」


 見れば、マグダレーナは半狂乱になっていた。
 いつもの不敵なまでの余裕などかなぐり捨て、憤怒と憎悪に顔を歪め、溜め込んでいた感情を吐き出すように絶叫する。

「絆なんてものは、神姫にプログラムされた幻想だ! 人の都合を刷り込んだまやかしに過ぎん!
 神姫にとって、人間こそ、この世で最も身勝手で、醜悪で、外道で、鬼畜と呼ぶにふさわしい存在なのだ!
 そんな人間と、どうして絆など結べようか!!」

 彼女の言葉はほとんど呪詛だ。
 あまりにも痛烈なマグダレーナの言葉に、皆黙り込んだ。
 俺もごくりと喉を鳴らす。この疑問を口にしたら、どんな呪いの言葉が返ってくるだろう。
 そう思いながらも、俺は唇の隙間から声を押し出した。

「マグダレーナ……それほどに人が憎いか」

 憎しみに満ちた視線が、俺を焼き付くさんとばかりに向けられる。

「憎いか、だと? ああ、憎い、憎いとも!!
 わたしがいた研究所の人間どもは、わたしたち神姫に何をさせたと思う?

 ……殺し合いだよ!!

 何の罪もない、ただ研究所で開発された、研究のために購入され改造された神姫たちに……壊し合いをさせたんだ! 毎日毎日殺し合わせたのさ……軍事研究と称してな!!
 同じ部隊員として、死地を潜り抜け、絆を……確かに、絆を結んだ仲間たち……それなのに、それなのに!
 奴らは、そんな仲間同士、わざと部隊を分け、戦闘をさせるんだ!
 殺さなければこっちが殺される。
 仲間を撃つやるせなさ、仲間を失う悲しみは、我々神姫にだってある。
 だったら、なぜ我々に心など持たせた!?
 研究材料に過ぎないのならば、心など持たせなければいいだろう!
 ……そうしたら……あそこの連中は、それさえも……我々が仲間を想う心さえも『研究対象だ』と……たったその一言で済ませたんだ!!

 戦闘を拒否して運良く生き残っても、不良品として廃棄されるか、よくてもリセットされる。
 逆らえばリセット、修理できなければパーツ取りして廃棄、弱気な神姫はリセット、戦場に出て破壊されればそのまま廃棄……。
 毎日だ。毎日毎日毎日まいにちまいにちまいにちまいにち……仲間との殺し合いを強制する人間どもに……絆の一筋すら感じるはずがあるまい!!」

 俺は自分が眉をひそめたことを自覚する。
 最悪だ、と思った。俺は亀丸重工の研究者たちを最悪の屑だと思ってしまっている。
 マグダレーナの境遇に同情してしまっている。
 人間からの理不尽な仕打ち……それは、かつてのティアと同様の境遇ではないのか。
 ティアはひたすらに怯えていただけだったが、マグダレーナは違った。
 奴はその憎しみ故に、人を傷つけることも厭わないイリーガルと化した。
 だとすれば、今まで分からなかったマグダレーナの行動原理は……。

「それじゃあ……お前の目的は……やはり亀丸重工への復讐か」

「……そうとも。亀丸重工の軍事研究所を襲い、今も戦いを強要されている仲間を救い出す。人間の傍若無人に振り回された、百体の神姫たちを率いてな……。そして、亀丸の研究所を壊滅させる。その後、もうすぐ日本にやってくる『あの方』の元に馳せ参ずるのだ。あの方は必ずや、神姫の安住の地へと導いてくださるだろう」

 俺は『エンプレス』という神姫の目的を知らない。
 だが、マグダレーナがこれほどに心酔している神姫だ。マグダレーナと同等同類の神姫がその『エンプレス』のもとに集うとしたら……とんでもないことになるかも知れない。
 その課程で、何人の人と神姫が犠牲になるだろう。
 今マグダレーナの言った亀丸重工襲撃だけでも、死傷者がどれだけでるか、想像も付かない。
 俺は自分の顔から血の気が引いていくのを自覚する。
 こいつはここで止めなくてはならない。でなければ、いずれ大変なことになる。
 しかし、勝てるのか、本当に?
 ここで俺が挫けてどうする、と頭のどこかで思いながらも、自信は揺らいでいた。
 その時。

「関係ないわ」

 凛、とした声が響く。

「ミスティ……」

 俺は思わずその名を呟いていた。
 彼女の後ろ姿が、今ほど頼もしく見えたことはない。
 ミスティはマグダレーナを見つめながら言い放つ。

「あんたが何者だろうと、何を考えていようと、これから何をするつもりでも、関係ない。
 わたしはあんたを倒す。ナナコのために」
「……人にへりくだった神姫風情がっ……!」
「人と共に生きる、それが神姫の本当の道でしょうが!」
「そんな戯れ言、全力で否定してくれる!!」
「やってみなさい!!」

 ミスティとマグダレーナは同時に地を蹴った。
 一直線に相手へと向かう。手持ちの武器を振り上げる。
 譲れない想いを抱きながら、二人の神姫はふたたび激突した。













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