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 第二十一話  「どっちが美味しいんでショー」




 ※※※




 あれは、今年に入ってちょっとした頃だった。


 ……その男の子を初めて見た時、なんだか子犬みたいだと思った。
 それも、家の中で暖かそうに、幸せそうにごろごろしてるんじゃなくて、雨の中ダンボールにうずくまって、くしゃみして震えている捨て犬のような。
 転校生なんて今まで見たことなかったクラスのみんなの視線を、ちらりとも見ようとしないで、先生がチョークで書いた名前の前にじっと立っているその男の子を、わたしも前から二番目の席で、やっぱり珍しいものを見る目で見ていたのだった。
「じゃあ、自己紹介して」
 先生に促されて、男の子が口を開いた。顔をちょっと上げた時、わたしと一瞬目があったような気がした。けど、すぐまた視線をそらしてしまって、つっかえながら名前を言った。
「えっと、ぼ、僕は」
 その子の名前は……






 ※※※







「……水野君、クッキーもらってくれるかなぁ」
 夏休みももう半ばを過ぎたある日のこと。わたしは久しぶりに、宿題のチェックを兼ねて水野君のお家にお見舞いに行くことにした。せっかくだから手作りのクッキーを持ってきたけど、喜んでくれるかなあ。
「なぁリコ、オイラにも一個くれよ」ショルダーバッグから、ガブがにゅっと顔を出した。
「ダメだよ、ガブ。これは水野君に作ったんだから」
「けちんぼーっ!」水野君は神姫が好きだからと思ってガブとレンを連れてきたけど、やっぱりやめたほうが良かったのかな。かえって迷惑になりそう。
「そうじゃぞ、ガブ。リコはケンゴにお熱での、ほれ、あれじゃ、『あべっく』とかいうのになりたいのじゃから、あまり無粋な真似をするでない」
「なっ、なに言ってるの!」
「熱っ!? 大変だリコ、お前ビョーキなのか! 早く帰ってお医者に診てもらわねーと!」
「病気って言わないの! そうじゃなくって……ああもう!!」
 ああ、本当に失敗だったかも。



 ※※※




 水野君のお家はきれいなマンションの六階で、エレベーターで上へ上がるのだけど、その間もわたしの胸はドキドキと高鳴っていた。水野君のお家に行くのは初めてだし、近くでくわしくお話をするのも初めて。水野君は、どこか人を避けているようなところがあったから。
『でも、だんだん明るくなってくれたみたいで、よかった……』食堂の輝さんのおかげかもしれない。頼りになりそうな人だし、水野君もいつか大人になったら、あんなしっかり……。


「……ねえ、璃子ちゃん?」


「ひゃあっ!?」
 エレベーターのドアが開くと、すぐ目の前に水野君が立っていた。想像が広がりすぎて、その場に固まってしまっていたらしい。
「大丈夫? 迎えに行こうと思ったら、ここに……」
「あ、なっ、なんでもないの! ごめんなさい、お手数おかけします!」
「……う、うん……。じゃあ、こっちだから」
 わー! 混乱して電話の応対みたいになっちゃったーっ! 引かれちゃったかもしれないと思いつつ、水野君の後ろについて行く。ひそかに心の中で、本当によくないことが起きるかもしれないって予感がした。




 水野君のお部屋に通された。わたしが来るから準備してくれたのか、お部屋の真ん中にちっちゃなテーブルが置いてある。
“きれいに整頓してあるなぁ……”お部屋を見渡して考えた。机の上もベッドも、本棚にもほこり一つ無い。男の子のお部屋ってもっとちらかってるイメージだったけど、この方が水野君らしいかも。
 水野君はクッキーを渡したら、とても喜んでくれた。ちょっと緊張したけど、よし、好印象みたい。
「お茶とジュース、どっちがいい?」
「え? あ、じゃ、ジュースで……」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
 水野君がお部屋を出て行って、わたしはそっとまた辺りを見回した。
 机の上には図鑑や参考書が目立って、漫画みたいなものはあまり無い。同じ世代の男の子に比べたら、少し寂しい印象を受ける。学校の技術室で見たような、工具か機械みたいなものはあるけど……。

「……う~ん……」
 ……え?
「あれ、どなたですかぁ……」

 見れば、水野君の机のパソコンからつながった機械に、黒い色の人形が寝そべっていた。眠たそうに目をこすって、何度かまばたきをした後、急に顔を輝かせた。
「あっ、委員長の天貝さんですね!」
 そうか、この子が水野君の神姫、クレアちゃんだ。そのまま、わたしの傍まで走ってきた。水野君がお祭りに連れてきていた時は、明るくはきはきと話をしていたっけ。あれ、でも前に見た時はピンク色だったような。
「マスターのお部屋へようこそ来て下さいました! マスターは天貝さんがいらっしゃると聞いて、ずっと前から準備していたんです」
「あ、ありがとう。……ねえ、クレアちゃんだよね? どうして……」
 わたしがそう言いかけた時、

「おっ、見ろレン! クレアの奴がいるぞ!」
「おやっ! ひひひ、またからかってやろうかの」

 ショルダーバッグからひょっこりわたしの神姫が出て、会話を邪魔してしまった。
「ああっ、天国と地獄の神姫さん!」
「ガルル! ようクレア、まだビートルAなんて子どもの番組見てんのか? お前もオイラたちと『日曜怪奇劇場 ウルフマンVSフランケン』見ようぜ」
「どちらが勝っても、墓場に安息は訪れない……という恐怖満載のシロモノじゃぞぉ、ひひひ」
「こ、恐いのは苦手だって言ってるじゃないですかぁ」
「ガァルルぅ! それっ、やっちまえーっ!」
「やだぁ~~~っ!」
 ガブとレンが、クレアちゃんを部屋中追いかけ始める。もう、これじゃただのいじめっ子みたいじゃない!
「やめなさい二人とも! それ以上クレアちゃんにイタズラするなら、ここから出て行って!」
 こんなことしてて、水野君が戻ってきたらなんて言われちゃうか分からないよ~……と、あわててガブとレンの胴体を掴んで引き離した。
「ガルルッ! 離せよリコっ!」
「だったら小学生みたいなことしないで! ……ごめんねクレアちゃん。もうバッグから出さないから」
「い、いいえそんな! あたしはそんな気にしてませんから」
 でも、せっかくお呼ばれしたのにこんなことして、あとで水野君に嫌われたら……。って、それにしても水野君遅いなぁ。ちょっとドアを開けてみると、
「あっ、来た!」
 と、クレアちゃんが勢いよく部屋の外へ出て行ってしまった。ま、待って!





 ※※※




 クレアちゃんの後を追ってみると、玄関で水野君と誰かが話しているようだった。

「……はい、これがビートルAのチケット。こっちが、プロレスのDVDだよ」
「ありがとう。クレアがどうしてもって言うから」
「これくらいはお安い御用だよ」

 ……誰? 女の子?

 壁の陰に隠れて、様子をうかがう。そっと頭を出したわたしは、息を呑んだ。



 水野君と、知らない女の子が話していた。


「直也さんはどう?」
「この前一緒にパパのところに行ったの。でもね、パパがまた一緒に暮らしてみないかって聞いたら、怒って帰っちゃった。きっと恥ずかしかったんだって思う」
「直也さんらしいなぁ」


 ううん、“知らない”女の子じゃない。だって、学校でみんなの噂になっていた、
 “アイドルの、カズハちゃん……!!”
 どう見ても、雑誌の写真で見た女の子そのものだ。ちょっと落ち着いた服装だけど、注意して見れば間違いない。その子が笑いながら、水野君と話している。とても信じられなかった。
 “なんで、なんで……!?”混乱している間に、あっちと目があった。
「あ、和葉ちゃん、ごめんね。今友達が来てて……」
「友達? ……。え、……」
 その時、女の子の目つきがはっきり変わった。水野君に見せていた朗らかさは全くなくて、驚きと疑いが半分ずつ入り混じった目つきだった。
 ……。ああ、わたしもなんとなく分かった。頭がすっと醒めるような感覚。たぶん、あの女の子にも、わたしが水野君に対して抱いているのと同じ感情がある。相手も、それを理解したみたいだ。
 振り向いた水野君は、本当になにも知らない子犬のように、ぽうっとした顔だった。
 やがて、少しの間があってから、わたしはちょっと上ずった声で、相手はそれに非難の色を混ぜた声で、ほぼ同時に言った。


「「……その子、誰?」」


「え……」











 ※※※




「水野君のクラスの委員長で、天貝 璃子です」
「健五君の友達の、森本 和葉です」



 しばらくのち、わたしたちは水野君のお部屋で、テーブルを囲んで座っていた。
「……」
 名前を名乗った後は全員黙ったままで、誰から口を開こうか考えている様子だった。特に水野君はこの場の空気に耐え切れない様子で下を向いている。神姫の方はといえば、
「クレアをいじめるなじゃん!」
「いじめてなんてねーよ! 一緒に遊んでただけだ!」
「先に来たのはわしらじゃぞ! お主らはさっさと帰らんか!」
「なによ! カズハ姉の方が仲いいんだよ! そっちこそ帰ってよおチビさん!」
「むかーっ! 誰がおチビさんじゃっ!」
 こんな風にテーブルの上で左右に分かれて口げんかをしている。クレアちゃんは、水野君よりもおろおろして、ピンクの神姫の後ろに隠れていた。
 わたしはごほんと咳を一つついて、水野君を見た。なにか言いたげなのがとっても、とってももどかしい。
「説明してよ、水野君」
 説明って? という感じの水野君の表情が、また子犬みたい。
「だから、この子とはどういう関係なの?」
「えっと……」水野君は少し間を開けて、「僕の友達だよ」
「友達?」そこで、相手が言った。
「友達……だよね、うん」
「えっ? 和葉ちゃんは、僕の大事な友達……って、あっ! あのことは、その……」
 水野君と“カズハちゃん”の頬が、同時にちょっと赤くなった。ごめんね、とか、ううん、とかつぶやいているのが、こっちまで聞こえた。
 ―――なんだろう。なんとなくだけど、きっとこの二人には、わたしの知らない特別な絆がある。
「それで、その子は?」
「ええとね、僕の学校の友達で、」
「水野君と同じクラスで、学級委員長をやっているんです」水野君がうじうじしてるから、先に言っちゃった。相手は、少し不満な顔をした。
「今日は、なんの用事で水野君のお家に?」
「健五君に、映画のチケットを持ってきてあげたんです。クレアちゃんが前からずっと見たいって言ってた映画で」
 わたしも出演させてもらったから、特別にもらったんですと言って、そのチケットを差し出してきた。のぞいてみると、クラスで一部の男子が時々話している特撮ヒーローのものだった。すると、ガブがテーブルから首を伸ばして覗き込んで、
「わっ! またビートルAだぜ、だっせー!」とゲラゲラ笑いだした。
「だ、ださくないですよぉ」
「やっぱりいじめてるんじゃん!」
クレアちゃんがちっちゃな声で反論して、相手の小さいほうの神姫が強い口調で言った。かあっと顔が熱くなる。今すぐガブをトートバッグに放り込みたい気分だったけど、ぐっとこらえた。
「あなたの方は、今日はなんの用事で来たんですか?」
 相手の目は、はっきりわたしを見据えていた。
「……水野君と一緒に、学校の宿題をやろうと思ってきたんです」 
「なのに、いじめてるんだ」ピンクの神姫が、むすっと突っ立っているレンを指さして言った。
「ち、ちがっ……。それはこの子たちが勝手にやったことで」
「自分の神姫も満足に扱えないなんて、オーナー失格じゃん」
 なんなのこの子たち? 相手の子、カズハちゃんはともかくとして、あまりにも敵意がむき出しすぎる。こっちの方も言えた話じゃないけど。大体水野君も、女の子みたいな顔してるのに女の子とつき合うなんて。それに、わたしはまだ名前で呼ばせてもらってないのに、この子には呼ばせてるんだ。―――なんて、頭の中で悶々と考えが回る。
「……そうだ健五君、わたしパウンドケーキ作ってきたんだよ。はい」
しかも、わたしがしたのと同じように、水野君にお菓子を渡した。水野君はとまどったけど、明らかにちょっとうれしそうだ。
 もう怒った。やがて、相手と目を合わせて、
「……ねえ水野君、もうお昼だよね。わたしがケーキよりもいいもの作ってあげるから。ちょっと、キッチン借りるね」
「……! なら、わたしも。あ、エプロンと冷蔵庫の中のものも借りるから」
「えっ、あの……」
 あたふたする水野君を尻目に立ち上がった。ふーんだ。どっちも、考えることはおんなじらしい。




※※※




「……ちょっと、どいてよ。指切っちゃうでしょ」
「知らない。そっちこそ、火傷したらどう責任とってくれるの」
 キッチンで並んで、エプロンをかけたまま押し合いへし合いしながら、フライパン(相手は包丁)を動かす。
 カズハちゃんは、棚からとったビンの中身をボウルに振り掛けた。ナツメグ、オールスパイス、コリアンダー、シナモン。ふん、そんな手の込んだことしなくたっていいのに。基本が一番おいしいんだって、思い知らせてあげる。わたしは仕上げに、白いビンをもう一回振った。





出来上がったものを、水野君の前に持っていく。
「なんで真似するの?」
「だったらあなたが別のものを作ればよかったじゃない」
 お皿を置く間も、お互いに火花が散っているみたいだった。二つのお皿からは、湯気がふわっと立ち上る。ガブが目を光らせた。
「ハンバーグだあっ!!」
 そう、ハンバーグ。冷蔵庫のお肉や玉ねぎを使って、わたしはミニハンバーグを作った。―――なんだけど、カズハちゃんまで同じものを作ってきた。どこまでもこっちに対抗してるみたい。でも、わたしの方が絶対おいしいって言いきれる。
「さ、食べてよ」
「えっ? これ、全部食べるの?」
「うん。不満?」
「え、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
わたしの作ったハンバーグとカズハちゃんのは対照的だった。わたしのは、食べやすいように小さく作ったし、分量もきっちり正確に測った。付け合せにはレタスを添えてある。一方でカズハちゃんのは、
「……」
見られて恥ずかしそう。だって、形は悪いし焦げてるし、変な白いソースがかかってる。
「ほ、ホワイトソースを作ったんだ。ちゃんとブロッコリーを混ぜたし、野菜もとれるようにしてあるんだよっ」
「う、うん。……じゃあ、いただきます」
 水野君がフォークで、ハンバーグを切って口に含む。その場の全員の視線が、水野君の口元に注がれた。
「……」
「ど、どう?」
 水野君はハンバーグを何回か咀嚼して、「……おっ、おいしいよ」
「ほ、本当!?」
「ケンゴ、正直な感想を言うのじゃ! 本当はどんな味がするのかの?」
 レンの言葉とみんなの視線に、水野君はちょっと詰まって、「えっとね、……苦くて、甘くて、じゃりじゃりする」
 わたしの神姫が手を叩きあって、カズハちゃんの神姫がため息をついた。カズハちゃん本人は泣きそうだ。……ちょっと罪悪感にさいなまれる。まあ、本に書いてあったハンバーグにはコリアンダーもシナモンも使ってなかったし、その辺は擁護できないけど。
「じゃあ、次はわたしのを食べて」
 わたしのハンバーグは、ケチャップをかけただけのシンプルなものだ。水野君の表情が少し和らいだ。
「おいしいよ」
「う、うん。いただきます」
 水野君がハンバーグを切って、口に運んで―――


「―――ごほっ! ごほっ、ごほっ!?」
 え、えっ?
「だっ、大丈夫ですか、マスター!?」
「う……。りっ、璃子ちゃん、これ、なに入れたの?」
「えっ!? わたし、普通に作ったよ!?」
 お塩かコショウの分量を間違ったかな!? と思ったけど、水野君が続けた言葉は予想と違った。
「あのね、なんか……ものすごく甘い」
「えええええっ!?」
 素早く、さっきの調理の手順を思い出した。お肉を焼く前に、まずひき肉をこねて、途中でコショウとお塩を―――お塩? そういえば、さっきわたしはカズハちゃんが気になって、それでよそ見をして―――あの時入れたのは、
「あっ。……わたし、もしかしてお砂糖を……」
「砂糖っ!?」
 水野君が泣きそうな顔で口をもぐもぐ動かすから、わたしはいたたまれない気持ちになってしまった。わあっ、失敗したっ!
「ごめん! 本当にごめんなさい」
「ううん、そんなに謝らないでよ」
「こんなの食べたら、ケンゴが虫歯になっちゃうじゃん」
「なんだと! そっちだって、そんなハンバーグ食ったらハライタになるぞ!」
 神姫がまたケンカをはじめた。水野君本人がいいって言ってくれてるんだから、そんなことしなくていいのに。
 こうなったら、
「水野君、ゲームセンターに行こう」



※※※




 神姫がそんなにケンカをしたいなら、もうそれで白黒はっきりつけた方がいい。ということで、
「さあ、どこからでもかかってくるといいわ!」
 わたしたちはゲームセンターにやってきた。クラスの神姫を持ってる男子たちはよくここに来て遊んでいるって聞いたし、決着をつける場所にふさわしいと思ったから。
 ただ、いざレンと一緒に勇ましく宣言したら、ピンクの神姫と紫の神姫にくすくす笑われた。えっ、なんで?
「……璃子ちゃん。神姫バトルをする時はね、まず最初にカードを作って、オーナー情報を登録しなくちゃいけないんだ」
「えっ!? そうなの?」
「うん。まだ作ってないなら、僕が教えるから」
 こっちに来て、と水野君が誘ってくれる。恥ずかしかったけど、でも、少しでも水野君の近くにいて教えてもらえるんだから、ちょっとだけカズハちゃんに対してアドバンテージだよねっ。

 ―――それにしても、神姫がこんなに複雑なものだと思わなかった。一応ガブとレンがいるけど、神姫を持っていればオーナーだっていうイメージしかなくて、普段はバトルなんて考えてもいなかった。
 名前と、神姫の情報を登録して。ガブとレンは武装を持っていないから、データだけの武装っていうものをカードに登録した。
 さあっ、いよいよわたしの初めての神姫バトル。カズハちゃんは待ちかねた様子で、バトルの機械の前で待っていた。
「手加減なんてしないからね」
「もちろん。こっちだってそのつもりよ。勝った方が、今日一日水野君と一緒に遊べるっていうことにしましょう」
「なにそれ。健五君は物じゃないよ」
「じゃああなたは諦めればいいでしょ」
 わたしとカズハちゃんの間で火花が散る。「「ふん!!」」と、お互いそっぽを向いて別れた。
「よーし、リコ! オイラを転送してくれ!」
 張り切っているガブを機械に入れる。すると、画面にガブの姿が現れた。わっ、初めて見るけどすごい。犬の顔の形をしたヘルメットをかぶっていて、なんだか強そう。対して相手のピンクの神姫は、アイドル衣装に似たひらひらしたものをつけていた。
 なんだ、見るからにこっちの方が強そうじゃない。やっちゃえガブ!


「へっへっへぇ~! そんな恰好で地獄の番犬たるオイラに挑もうなんて百億万年早いぜ。今なら死神に許しを請う時間を与えてやろう……だははっ、なあレン、今のカッコよかっただろ!? なあ!」
 ううんガブ、ポーズつけても誰にも受けてないよ。相手も笑ってすらないし。
 なんて呆れていたら、試合が始まる合図が鳴った。
「ガァルるるるう!! 地獄へ落ちろぉーーーっっ!!」
 ガブが相手に突っ込む! いけえ!
「……」
 相手は、マイクを手に持って――――


『チ ャ ― ミ ― ク リ ア ボ イ ス!!!!!』

「キャウウン!」

 ――――あっけなく、ガブはやられた。
「もー! なにやってんのーっ!」思わずそう口走るぐらい、簡単に吹き飛ばされた。
「よわっ」
「ダメダメじゃん」
 相手の子たちにもボソッと言われる。ピンクの神姫は、そのままガブの近くまで無言で歩いた。
「ま、待てっ、話せばわかるっ! そっそうだ、今ならお前に地獄の半分をくれてやろう! それで……ギャウン!」
 ピンクの神姫がガブの頭を踏んづける。カンカンカンカーン! と鐘が鳴って、決着がついた。


「なにをしておるのじゃガブ! あんな奴に負けおって!」
「そうだよっ! かっこつけたくせになんにもできなかったじゃない!」
 こんな時にだけガブは犬のように丸くなる。水野君にいいところ見せようと思ったのにっ。なんであのピンクの神姫も、あんなに強いの?
 しかも水野君ってば、いつの間にかクレアちゃんと一緒に、カズハちゃんのそばに寄ってるし。
「和葉ちゃんすごい。強かったんだ」
「それほどでもないよ。お兄ちゃんと練習はしたけど」
「武装見てもいい? ……あっ、紗羅檀のリアパーツを使ってるんだ」
「リペイントしたら見た目も丁度合うかなって思って。ほら、キャンディは音楽の攻撃を使うから」
 仲良く会話する二人を見てたら、胸がむずむずして、お昼の予感が確信に変わった。やっぱり、この二人には特別な絆があるんだ。わたしが入り込む余地なんてない絆が。
その場から逃げたくなった。しかも、カズハちゃんがこっちを向いて勝ち誇った表情をした。
「……うわあああぁぁぁん!」
「あっ、璃子ちゃん!」
「待つのじゃっ、リコ!」
 ひとりでに涙があふれて、本当にその場から逃げてしまった。





 ※※※




 悔しい、悔しい、悔しい悔しい悔しいっっ!!
 もう宿題とかカズハちゃんと張り合った理由とか、そんなもの関係なく、ただ悔しくて情けない。わたしは最初っから、意味のないことをしていたんだっ―――!
「リぃ~コぉ~、待つのじゃ~! 一度落ち着かんか~!」
「ついてこないでよっ!」
 後ろからレンの声がする。本当はガブもレンも悪くないって分かってる。でも、水野君にこの気持ちが届かないって分かったら、一体どこにぶつければいいんだろう?
 走りすぎて疲れて、立ち止まる。脇目も振らず走ったから気づかなかったけど、ゲームセンターの前の通りをずっと来たからか、いつの間にか駅前の商店街に来ていた。
 すっかり夕日が落ちた商店街は買い物をする人が行き交って、活気にあふれている。だけど、今はわたしだけそこからつまはじきにされた気分だった。
「ひっく、ひっく」もう、このまま家に帰っちゃおうか。目の下をこすりながら一軒の古いお店を通りかかった時。
 わたしのすぐ目の前から、長い黒髪が現れた。
「きゃあっ!?」

「―――輝はんはいけずやわぁぁあっ!!」

 女の人? だった。その人はわたしの横を風のように駆け抜けて、わたしはあっけにとられて立ち止まった。
 後ろから追いついたレンも目を丸くするくらい驚いたようで、さらに女の人が出て行ったすぐあと、「ひゃああっ!!」今度はお店の出口から男の人の頭が、無言でわたしの足元に倒れてきた。
 しかも、顔に人形が張り付いている。

「最っ低! 信じらんないっ、このドスケベ! クズ! スカポンタンっ!」
「なんで初菜さんを泣かせるんですかねぇ~? そんなに大きなお胸がお好きなんですかぁ~?」
「……今すぐ腹をお切りになってください。介錯は私が務めます、さあ!」

 よく見たら張り付いているのは神姫だった。パッと見、メイドさんっぽい神姫と、着物の神姫と、グレーの神姫。男の人は、顔中をお箸やらフォークやら、刀やらでつつきまわされている。なんでこの人、こんなことされてるの? と思ったら、
「ちょっと輝ぁ!? あんた……っと、あれ。璃子ちゃん」
「あっ、及川さん!?」
 お店から今度は及川さんが出てきた。そして、男の人に張り付いていた神姫が、ゆらりと顔を上げてわたしに話しかけた。
「あ、丁度いいです。そこのあなた、すみませんが私たちとさっきの方を追いかけてもらえませんか?」
「ええっ?」



※※※





 女の人は、公園にいた。
あの男の人の神姫(どうも見たことがあるなと思ったら、いつかの輝さんだった)に言われるまま後を追ったら、女の人は人気のない公園のベンチで泣いていた。わたしが近づいても顔を上げない。
「ぐすっ……」
 なんだか、すごくきれいな人だった。背中くらいまでのつやつやした黒髪に、肩が見える真っ白なワンピース。印象は、かぐや姫が洋服をきてる、みたいな感じ。
「主、お気を確かに。主が気に病むことはありません」
 忍者のような神姫は、気づいたらわたしの肩から女の人に飛び移っていた。いつ移動したのか分からなかったけど。
「下鴨神社に願掛けまでしたんに……」
「主のせいではありません。いざとなれば神主を脅迫してでも輝様との仲を―――」
「そんなこと実行する暇があったら、もう少し現実的な方法を考えたらいいんじゃないですかねぇ」
 メイドさんのような神姫は、わたしの肩の上で、ふてくされた口調でタッチ式の音楽プレーヤーをぴこぴこ動かしている。わたしはどうしたらいいか分からなくて、とりあえず女の人の隣に座ってから、画面を横から覗き込んでみた。
「ねえ、なにをやってるの?」
「これですか? 『小さな神姫になって、お気に入りのカレと甘ぁ~い生活を体験しちゃいましょう!』……っていう触れ込みの女性向け恋愛ゲームですよ。安かったからアキラさんに頼んでダウンロードしてもらったんですけど、あーダメですね、神姫の目から見ると粗が多すぎます。レビュー書いとこっと」
 言葉通り確かに画面には、髪の短い精悍な顔立ちの人が映っている。
「……神姫の身で人間の女性向けゲームにうつつを抜かす貴女のほうが、よほど現実から逃避しているのではないですか」
「だってあのアキラさんの調子を見たらですよ、そりゃあ現実から目を背けたくもなりますよ」
 なんだか会話の内容から察するに、輝さんが関係してるみたい。
「あの~、なにがあったんですか?」
 わたしが聞くと、女の人はやっと泣くのをやめて、ぽつりぽつりと話してくれた。




 女の人は、名前を三条さんといった。
「京都からわざわざ来たんですか!?」
「ぐすっ、今日はっ、輝はんと大事な話をしようと思うてっ。でも、輝はんったら」
 それは、三条さんがお店につく少し前だった。

『お土産も持ったし、洋服も整えたし、もう平気やね』
『はい。縁結びの願掛けも済ませましたし、一切がうまくゆきます』
『うん、きっとうまくいくね』
 三条さんは輝さんに“大事な話”をしようと、ここ桐皮町に来たらしい。大事な話、って……。
「こくはく、ですか!?」
 三条さんは頬を赤らめてうなづいた。うわっ、それは緊張しちゃうなぁ。
「輝さんとは、どういう関係なんですか?」
「幼馴染、というか……」
「うわあっ、素敵ですよそれ!」
 幼馴染の相手に告白って、それはもう一大イベントにもなっちゃうよ。わたしも、今日のことがあるから(告白とまではいかないけど)、気持ちはものすっごく分かる。
「あれ、でもさっきお店から出てきたってことは」―――失敗しちゃったんだろうか。すると今度は、ずっとむすっと黙ってた赤い神姫が口を開いた。
「あれはアキラが悪いのよ。まさかあんな……」



 ※※※

 三条さんがお店につく前、お店では青い神姫のメリーと、赤い神姫の雅が今か今かと待っていた。
『“今日いよいよ、初菜さんが告白……! そうしたら、私はアキラさんの愛人に……!”』
『“あっ、あいつはどんな反応するんだろ……!”』
 事前に相談を受けた二人は、はやる気持ちを心にしまって、午前のお仕事をこなしていた。もちろん、当の輝さんには悟られないように。
「初菜さんがいらしたら、後は若いお二人になんとかかんとかとか言って、私たちは退散するつもりだったんです。でも」


 そして夕方、そろそろ三条さんが来るだろうというころに、お店の戸が開いた。
『おっすー。輝か明石さんいるー?』
 来たのは三条さんじゃなく、及川さんだった。魚を届けに来たみたいで、丁度掃除をしていた輝さんが対応した。
『ういーっす、いますよー』
 輝さんはメリーがピッカピカにモップがけをしたばかりの床を踏んで、及川さんの方まで歩いた。瞬間、
『うおっ!?』
 輝さんは足を滑らせて及川さんもろとも床に倒れこみ、気が付いた時には、
『あいててっ。だ、大丈夫ッスか、めぐみさ―――』



 ―――むにむにっ。


 と、及川さんの左胸をわしづかみにしていた。
『あ、輝……。手が、その……』
『うおわああああああっ!?』

 そしてそこに、三条さんが意を決して扉を開け、

『こっ、こんにちはですっ! 島津、あきら、さん、は……』

『……はっ、初菜?』
 床に及川さんを押し倒している輝さんを見つけたという。

『……輝はん……』
『はっ!?』
『お店に誰もおらんからって、女の人連れ込んで……』
『いや違うっ! これは完全に事故だっ!』
『なにが違うん!? ……もうっ、輝はんは……輝はんはいけずやわぁぁあっ!!』

 ―――これが、事件の一部始終らしかった。



 ※※※



 ……うーん。
 話を聞き終わって、なんというか、
「三条さん。それ、輝さんの言うとおり事故で間違いないと思いますよ」
「そうやろうか?」
 というか、そんな事故があることにびっくりだよ。
「なんですかね、タイミングが悪かったというか」
「タイミングが……」
 三条さんはわたしの言葉を聞くたびにコクコクうなづいて、前髪を上下に揺らした。なんだか、とても素直な人だなと思った。
「でもさ、傷つけられた初菜の気持ちはどうなるのよ」
「そうですよ。違うとか言っときながら、アキラさんってば絶対まんざらでもない気分ですよ」
「……主、いっそ輝様を追いかけるのは止めにいたしませんか。主のお気持ちは理解できますが、これ以上あのうつけに振り回され続けるのであれば、いずれ私の思考ルーチンまで狂ってしまいかねません。さすれば、主をお守りできなくなるやもしれませんよ」
 神姫たちはどこまでも厳しかった。なんでこんなに嫌われてるんだろう。前に幽霊屋敷についてきてもらった時は頼れそうな人だったんだけど。
「まぁまぁそれくらいにせんか。年頃の男というのは難しい生き物だと、いつかばあ様が言っておったような気がするぞい」
「レンが言うとうさん臭くて説得力ないよっ」
 わたしはそう言っちゃったけど、そうだなぁ、年頃の男の子は……ぐあああああぁ。
「うぁああああ~……」
「ど、どうしたん急に?」
「すいません、実はわたしも今日……」
 今度は、わたしが今日の事を話す番だった。


―――「なるほどねぇ、そうやったん」
 しばらく、わたしたちは恋愛談義に花を咲かせた。誰かに愚痴を聞いてもらうと、少し心がすっきりするみたいだった。
「へぇ、あの健五が意外なことするもんね」
「まあ、健五さんに関しては、あの事があったら仕方ないかもしれませんね」
 メリーと雅はなにか知ってるようだったけど、なにか深い理由があるみたいで、詳しくは教えてくれなかった。
「けど水野君ってば今日に限った話じゃないんだよっ。探検とかお祭りに一緒に行っても全然気づいてくれないし、ずっと申し訳なさそ~~にしてるしで」
「そこなのよ。アキラもそうなの。鈍感も大概にしろってのよ。そこの貧乳はいいにしても、初菜を意識しないのはいかがなものなのって感じ」
「男の子って、難しいもんやねぇ」
「そうですよね! 自分の思いばっかりっていうか、こっちの気持ちまで汲みとってくれないんですよ」
「分かりますよそれ~。私も何度苦しめられたことか。今日の朝だってですよ、私のいるすぐ横で雅さんの歯を磨いてあられもない声を出させるんです」
「あられもないとか言うなっ! 大体あんたが通りかかっただけでしょ」
「えっ、神姫って歯を磨くんですか?」
「うん。神姫にも一応食べ物を食べる機能がついてるから、神姫用の歯ブラシとか歯磨き粉が売ってるんよ。普通は使わなくても問題あらへんけど、雅ちゃんは仕事柄よくものを食べるから、やっぱり口の掃除に使うことが多くなるねぇ」
 三条さんの意外な言葉にわたしは驚いた。他にも、神姫用のシャンプーなんかがあるんだとか。神姫も人と同じようなものを使うなんて知らなかった。
「それとねぇ天貝ちゃん。そのカズハちゃんとのバトルのことやけど、神姫は一人じゃ戦えへんのよ。オーナーは神姫に見えてないものを見る、もう一つの目にならなくちゃいけへんの。そこは、もう一度レンちゃんとガブちゃんと考えてみてね」
「……神姫の側でも、オーナーの意思を信頼し、またオーナーから戦いを任されているのだということを、意識せねばなりませんが」
 三条さんと牡丹が優しく、諭すように言って、ふと、わたしはレンを見た。今まで、わたしの中で神姫は単に『不思議なロボット』ぐらいの感覚で、それ以上のことを深く考えたことはなかった。
 ―――ガブにまかせっきりにして、勝手に一人で怒って、ちょっと悪かったかな。って、ちょっぴり反省した。
「ねえレン、その、ごめんね」
「む? なんのことじゃ?」
 このボケッとした能天気さに、腹が立ちも、助けられもするんだな。もう一度、改めてこの子たちと向き合ってみるべきかもしれない。この、人にそっくりな、不思議な不思議なロボットと。
 そして、三条さんと神姫たちにお話を聞いて、勇気が出た。
「そうだ。三条さん、携帯のアドレス交換しませんか? 同じ志を持つ先輩として、お話を聞きたいです」
「ええなぁ、うちも天貝ちゃんともっとお話したいわぁ。天貝ちゃんは可愛いし、好きな人の近くにおるし、うちより先にゴールしそうやけどなぁ」
「そんなことないですよ~。三条さんだってすごく素敵なんですから。髪のお手入れって、いつもどうしてるんですか?」
 まだまだ、この取り留めもないけど大事な時間は続いた。


 ―――あれ。なにか、忘れてるような……。



 ※※※



 三条さんがもう一度挨拶してから帰りたいたいというので、明石食堂に戻ってみたら、それを思い出した。
「リぃコおおおぉぉぉ~~!! ひどいぞお前っ!!」
 ガブをゲームセンターに忘れてしまったんだった。水野君が食堂に預けようとしてくれたみたいで、なんとカズハちゃんの手のひらにいる。ガブはわたしと対面するなり怒り出した。
「ごめんね。呼び止めようとしたんだけど、璃子ちゃんったらどんどん行っちゃうから」
「そうだぞっ! おかげでクレアのやつに腕立て伏せとかマラソンとかずっとやらされたんだからな!」
「嫌々やったら、せっかく運動しても身に付きませんよ」
「これで少しは懲りただろうじゃん。もうクレアをいじめようなんて気は起きないはずじゃんね」
「チクショー! お前らいつか覚えてろよっ!」
 わたしのいないうちに力関係が逆転してしまったみたいで、わたしは苦笑いした。……するとカズハちゃんが、ずんずん歩いてきたかと思うと、ガブをゆっくりわたしに手渡してくれた。
「……はい」
「あ」
「神姫は悪くないから。もっと大事にしてあげなくちゃ、ダメだよ?」
 わたしは、思わず頬がほころんでしまった。ああ、これは超えるのが難しそうだなって。でも、
「わたし、負けないからね」
「?」
 なんのことか分からなそうなカズハちゃんに、わたしは宣言する。まだ、わたしは負けを認めたわけじゃないからねって。そして、水野君には腰に手を当てて、人差し指をびしっと突きつけて、
「水野君!!」
「な、なに?」
「わたし、もっとガブとレンを強くするから。だからこれからは一緒に特訓をすること。委員長命令だよっ!」
 水野君ははじめ困惑したようだったけど、それでも優しく微笑んでくれた。やっぱり、水野君はとっても素直だ。


 一方で輝さんは、複数の女の子からお叱りを受けていた。
「まったく、次やったら承知しないからね! ほら、その子にも謝んな」
「すまん初菜。あれは事故なんだ、信じてくれよ」
「ん~、ほんまかな~? ずぅっと事故って言われると、うち反対に信じられんようになるわぁ」
「アハハ、それいい! 次からアキラがバカなことしたらそれでいきましょ」
「お前らもういい加減にしろおおおぉっ!!」
「平気ですよアキラさん。そうしたら私がもらってあげますから」
「ああっ、メリーちゃんそれはズルいわぁ」
 なんて、はたから見たら仲のいい会話を繰り広げている。でも、ふと、三条さんがハッと思い詰めた表情になって、言ったのだった。


「そうやった。……ねえ雅ちゃん」
「ん? なによ?」
「雅ちゃんと輝はんって、最近京都に来た?」
「京都? いや、行ってないけど」
「俺も行った覚えはねえな」
「そう……。じゃあ、あれは……」三条さんは指を頬に当てて、考える仕草をした。
「どうかした?」
「ううん、なんでもないんよ。うちそそっかしいから」
「前からだろ」
「もうっ、うちやっぱり輝はんのこと嫌いになったかもっ」



※※※




 このささいな会話が、あの驚くべき事件につながっていたなんて、まだこの時は思いもしなかったんだけれど―――。








 ~次回予告~


 はい、つぎはうちが主役のお話っていうことで、舞台は京都に移ります。
 京都はほんまにええところですよ、時間がゆったり流れてて、うちにはとっても住みやすくてねえ……
 でもね、最近はおかしな事件がおこってるみたいで、みんなピリピリしとるんです―――


 はあ、それにしても、シューちゃんももう少し落ち着いてくれはったらいいのになぁ。




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