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キズナのキセキ

ACT1-20「親友だから その2」




 よくもまあ、こんなに神姫マスターが集まるものだと、涼子は少し呆れていた。
 久住邸の一階の広間……通称「特訓場」には十台のVRマシンが設置されているが、すべて対戦中の神姫マスターで埋まっている。他にも、順番待ちや観戦、四方山話をしているマスターたちもいて、この日も集まったマスターは二十人を下らない。
 自分たちを除く神姫マスターのいずれも、全国レベル級の実力者だというのだから、驚きを通り越して呆れてしまう。
 みんなそんなに暇なのか。あの人の本性を知らないで、のんきに対戦などしている場合なのか。
 しかし、和気藹々と盛り上がるこの対戦場で、自分の否定的意見を叫ぶ気にはなれなかった。
 そんなことをしたら、自分の方が浮いてしまうし、なによりこの場を仕切る遠野に迷惑をかけてしまう。
 ここで菜々子の罪をぶちまけたら、ここに集まる人たちは、あるいは神姫たちは、どんな反応を示すだろう?
 菜々子がまた打ちのめされたら、少しは気が晴れるのだろうか。
 だが、そんな菜々子の姿を見たくはないと思う自分もまた心の奥底にいるのだった。

 そんなことを悶々と考えていると、涼子の背後にある襖が開き、今日も新たな神姫マスターが入ってきた。

「これは……なかなか壮観ですね」
「来てる人も凄そうですよ、師範」

 その声に、涼子のすぐ近くで世間話をしていた高村が振り向く。

「誰かと思えば、エンドウ君とフェフィーじゃないですか。まさか『弾丸』まで呼ばれているとは」
「それはこっちのセリフですよ、高村さん。センカンドリーグのチャンプがこんなところにいるなんて、ね」
「なにっ、『弾丸』だと!?」

 高村と、エンドウと呼ばれた青年の会話に驚いたのは、世間話の輪に入っていた鳴滝である。

「君たちがあの『弾丸』なのか。近接格闘戦だけでセカンドリーグ総合九位まで上り詰めた実力者!」
「あなたは?」
「お初にお目にかかる。俺は鳴滝修一。こいつはランティスだ」
「僕は遠藤健太郎と言います。神姫は……ご存じですね」

 遠藤が言うと、彼の肩にいたウェルクストラ型の神姫が挨拶した。

「フェフィーです。お見知り置きを」
「ランティスです。お目にかかれて光栄です」

 ランティスは礼儀正しく頭を下げたが、顔がぜんぜん笑っていない。
 フェフィーの瞳にも挑戦的な光が揺らいでいる。
 二人の神姫の視線が空中で交差した。交差点で火花の散る音が聞こえてきそうだ。
 一瞬、あたりの空気が緊張をはらむ。
 だが。

「盛り上がってるところを申し訳ないが、こっちを優先してくれるか」
「え?」

 緊張をほどいたのは、一人の青年の声だった。
 遠藤が声の方を向くと、左腕を吊したケガ人が一人、こちらに視線を向けている。
 すると、高村も鳴滝も、彼らの神姫たちも肩をすくめて苦笑する。

「仕方がないですね。ここでは彼がルールだから」

 高村はそう言って、そのケガ人……遠野と、対戦を終えて顔を上げている菜々子の方に、遠藤を促した。



 誤解されると困るのだが、この場では俺がルールという高村の言葉は少し誇張されており、先に話した決まり事以外に、俺から何かを強制することはほとんどない。
 新たに入ってきた神姫マスターにきちんと説明し、この場を円滑に運営するのは俺の役目だ。
 それだけのことなのに、俺がこの場を牛耳るボス的な表現は、なんとも心外である。

 遠藤とフェフィー、二人が『弾丸』という異名を持つ有名人であることを知らなかった俺は、また大城に呆れられた。そろそろ俺も有名な神姫マスターの状況を調べておくべきだろうか、と本気で考えてしまう。
 菜々子さんと遠藤は、もちろん知り合いだった。出会った頃は、フェフィーがめきめきと実力を付けているところだったという。その神姫がいまやセカンドリーグの一桁ランカーだというのだから、大したものである。

 新しくここに来た神姫には、まず実力を見せてもらうことにしている。
 ミスティとフェフィーがまず一戦。
 その後は、俺や八重樫さんがミスティとの対戦の組み合わせを指示するまでは自由である。

「それではやりましょうか、ランティスさん」
「おお。噂に名高い『弾丸』。一度戦ってみたかった!」

 二人の対戦に誰もが手を止め、注目している。もちろん俺も例外ではない。
 俺はPCを操作すると、床の間の大画面液晶に、フェフィーとランティスの試合を映すようにセッティングした。
 すると、菜々子さんが、

「ねえ、わたしもこの試合、見てもいい?」

 と訊くので、俺はもちろん首肯した。
 こんな、滅多に見られない対戦カードをやっているのに、ミスティのスパーリングに付き合いたいと思う神姫もマスターもいないだろう。

 名だたる神姫マスターたちも注目する中、格闘戦特化の神姫二人によるバトルが始まった。
 それはいろいろな意味で興味深く、また語り草になる一戦となった。



 『弾丸』対『塔の騎士』のバトルは、武道をたしなむ涼子が見ても、手に汗握る一戦だった。悶々とした気持ちを忘れ、興奮してしまった。
 興奮の余韻もさめやらぬ中、おもむろに肩を小さく叩かれた。

「マスター、マスター」
「なあに、涼姫」

 肩にいた彼女の神姫・涼姫が、思い詰めたような表情を見せる。だが、悲壮感は感じられない。
 続く涼姫の言葉は涼子を驚愕させた。

「わたしに合気道を教えてください!」
「……はあ?」

 言いたいことを言い切った涼姫は、もはや期待の二文字を顔に貼り付かせ、興奮に声がうわずっている。

「だって、マスターは合気道の有段者なのでしょう? その技を教えてもらえれば、きっとバトルでも役に立ちますよ!」
「いや、涼姫、あなたね……」
「そもそも今の戦法では武器が少ないんですから、格闘技が使えるようになれば、戦いの幅も広がります!」
「そ、それはそうなんだけど……」

 だめだ。涼姫は今の一戦に感化されてしまったらしい。しかも困ったことに、涼姫の意見は正論だ。限られた装備の中で戦いの幅を広げることは、二人にとって、目下最大の課題である。
 涼姫が格闘技を身につけるというのは、実に理にかなっている。

 結局、涼子は反対する理由もなくなり、渋々ながら、涼姫に合気道の手ほどきをすることになった。



「なあ、君」
「ん?」

 背中から声をかけられ、有紀は振り向いた。
 目の前に立っていたのは、大人の男性である。遠野や大城よりも年上か。この場にいるのだから、神姫マスターであることは間違いない。
 男性は、人の良さそうな微笑を見せながら、有紀に言う。

「君は菜々子ちゃんの弟子なんだろう?」
「……誰がそんなことを言っていたんです?」
「大城くん……だっけ。あのエアバイクに乗ってるティグリース型のマスターだよ」

 有紀は内心舌打ちする。あの人はどこまでおしゃべりなんだか! 余計なこと話さなくてもいいのに。
 有紀はわずかに表情を険しくしたが、彼は気付かなかったようだ。

「君のバトルを見ていたんだ。君とそのヴァローナ型の戦いぶりは、昔の菜々子ちゃんによく似ているよ」

 この男の話に、有紀は少し苛立った。
 有紀と菜々子が絶縁状態にあることを、この男性はまだ知らないらしい。だから遠慮なしに言ってくるのだろう。
 有紀は苛立ちに任せて、口調を堅くした。

「失礼ですけど、あなたは?」
「ああ、ごめん。俺は藤堂亮輔。こっちは俺の神姫で、リン」
「……え?」

 有紀が目を見張ると、藤堂の肩の上にいたストラーフ型がお辞儀をした。
 ストラーフのリン、そしてマスターが藤堂って……つまり。

「こ……『黒衣の戦乙女』!?」
「うん」

 あまりにもあっさり頷くものだから、有紀は自分で口にした言葉さえ嘘なのではないかと疑いそうになる。

 ストラーフ型のマスターなら誰でも『黒衣の戦乙女』の名を知っている。
 公式リーグこそセカンドリーグの上位だが、その戦いぶりと逸話には枚挙に暇がない。
 特徴的な空中戦法は「エアリエル」と呼ばれ、一般的なストラーフのバトルスタイルとは一線を画している。
 有紀の神姫・カイはヴァローナ型だが、ストラーフの武装とヴァローナの武装を組み替えた大鎌で戦っている。
 だから、ストラーフ型で特徴的な戦いをする『黒衣の戦乙女』には注目しており、雑誌記事や対戦動画は何度も目を通していた。
 そのマスターから対戦の誘いがあるなんて、驚きである。
 滅多にある機会ではない。対戦好きの有紀が断る理由が見あたらない。

「いいですよ。やりましょう」
「それじゃあ早速」

 二人は一番入り口に近い、向かい合うVRマシンの前に座った。
 数人のギャラリーが、自分たちの対戦に視線を向けてきているのを感じる。有紀にもおなじみのこの感覚は、ゲームセンターでの対戦の時の感覚に酷似している。
 ゲームセンターでは、いつでもギャラリーがいる……つまり、他人にバトルを見られている状態だ。それは意識的にも、無意識のうちにも、対戦に影響を与えているものなのだ。
 ここ「特訓場」でも、ギャラリーはいる。それはつまり、VRマシンによる家でのトレーニングとは違い、より実戦に近い対戦なのだ。

 有紀はむしろ都合がいい、と思った。
 実戦に近い環境での対戦は望むところである。ゲーセンに戻っても、ここでの経験はきっと対戦で生かされるはずだ。
 VRマシンの画面に対戦カードが表示される。

燐 vs カイ

 『エトランゼ』レベルかそれ以上の神姫マスターとの対戦がこんなに簡単にかなうとは。
 有紀は改めて思う。
 『エトランゼ』に手を貸すのは気が引ける。だが、この状況を利用しない手はない。これほどの実力者がたくさん集まってフリー対戦なんて状況は他にあり得ない。対戦に明け暮れよう。そしてわたしたちは強くなる。強くなければならないのだ。



 俺がフルタワーPCの前で、ミスティのバトルログを分析していると、

「遠野さん、ちょっとお話、いいですか?」

 珍しく江崎梨々香さんが声をかけてきた。
 彼女と俺はチームメイトだから、当然話す機会もある。だが、二人で話す機会は滅多になかった。
 江崎さんは、バトルよりも、神姫にオシャレさせたりすることに重点を置いているから、バトルメインの俺とはあまり接点がなかったからかも知れない。

「改まって、どうした?」
「わたしの師匠をここに連れてきてもいいですか?」
「師匠? ……裁縫か何かの?」

 ここでの江崎さんは戸田静香さんと、よく神姫の服飾の話で盛り上がっている。だからそっち方面の友達かと思ったのだが。
 江崎さんはコロコロと笑いながら、言った。

「ちがいますよう。バトルロンドの師匠なんです。たまに手が空いたときに教えてもらっているんです」
「へえ……」

 そう言えば、最近江崎さんとモナカが強くなってきた、という話を八重樫さんから聞いたことがある。江崎さんから俺にバトルの相談を持ちかけられることがあまりないから、彼女のバトルをつぶさに見たことはなかったが、どうやらその師匠の元で実力を付けているらしい。

「どんな人物なんだ?」
「それは秘密です。でも、真面目だし、とっても強い人なんで、お役に立てると思いますよ?」

 江崎さんはいたずらっぽくそう言った。こういうときの江崎さんはやたらと可愛い。

「まあ、連れてきてもかまわんが……」

 だから、俺でなくてもそう呟いていただろう。相変わらず女の子はガード不能の武器ばかり持っていると思う。
 それにしても、江崎さんの師匠とは……どんな人物なのだろうか?



 おかしなことになった。
 久住邸に通い始めて数日、涼子は首を傾げていた。
 最初は、嫌々ながら久住邸に来ていた。菜々子への反感が先に立ち、仕方がなく足を運んでいたはずだった。
 なのにどうして。
 どうして今、わたしは、久住邸の広い庭で、鳴滝さんと一緒に、頼子さんから太極拳の型なんて教わっているんだろう?

 頼子に倣い、涼子と鳴滝は両腕をゆるりとした動きで振る。二人とも武道に親しんでいるだけに、動きに隙がなく、飲み込みも早い。
 涼子たちだけではない。彼女たちの神姫も、縁側に並んで、マスターたちの動きを真似ている。涼姫はまだまだだが、ランティスは三冬の動きを見事になぞっていた。

 元はといえば、昨日、鳴滝が突然言い出したことが原因だった。

「頼子さん、太極拳をランティスに教えてやってくれませんか?」
「是非ともご教授願います」

 そう言って、彼の神姫も頭を下げる。
 ランティスは様々な格闘技を身につけることを目標とした神姫である。太極拳ももちろん修得したいと思ったし、実際に修得している人物から教えを受ける機会はなかなかない。このチャンスを逃す手はないのだった。

「ええ、いいわよ」

 頼子は二つ返事で頷いた。
 すると涼姫が、すかさず言った。

「涼子! わたしも太極拳、教えてもらいたいです!」
「ええっ!?」

 突然の申し出に戸惑う涼子。しかし、その一瞬にも話はどんどん進んでしまう。

「いいわ。涼姫ちゃんも一緒にやりましょう。三冬も二人についてあげなさい」
「やった!」
「はい、奥様」
「それと、鳴滝くん、あなたも一緒にどう?」
「いいですね。でも俺、足があんまり良くないんで、激しい動きはできないかもですけど」
「大丈夫。負担にならないようにするわ。涼子ちゃんも入りなさいな。太極拳は健康にいいのよ」
「え……ええっ?」

 あれよあれよと言う間に話が進み、こうして太極拳講座が行われているというわけなのだった。

 わたしはここに何をしに来ているんだっけ?
 遠野さんに真実を問いただし、久住菜々子への手伝いをやめさせる。あるいは、猛者たちが集うこの特訓場で実力を付け、バトルロンドで菜々子を負かす。
 そんな刺々しい気持ちが先に立っていたはずだ。
 しかし、そんな気持ちはなぜかしぼんでしまう。
 ここは実に居心地がいい。みんな和気藹々としながらも、真剣にバトルをしている。涼子が通う合気道の道場の雰囲気にも通じるところがある。
 なぜか太極拳講座を受講することになったことも、嫌ではなく、むしろ楽しいサプライズだ。
 こんな時間は久しぶりだ。こんな場所こそ、ここしばらく彼女が求めていたものだった。
 そして気付く。
 この居心地のいい場所を形作る中心は、間違いなく久住菜々子だということに。



 一方、有紀は対戦にのめり込んでいた。
 ここに集まるマスターたちに片っ端からバトルを申し込んだ。
 彼らはいずれも、過去の菜々子を知っている。彼らに勝つことで、少しでも菜々子に近づき、追い越したい。そうしなければ前に進めないと有紀は思っていた。
 しかし、彼女が挑んだ神姫マスターたちは、いずれ劣らぬ実力者ばかり。有紀とカイは圧倒的な大敗を何度も繰り返し、なけなしのプライドは木っ端微塵に打ち砕かれた。
 それでも有紀はバトルを申し込み続ける。ほとんどヤケクソである。こんなことで強くはなれない。それは有紀が一番よく知っていた。

 バトルを三戦も続ければ、誰しも疲労に達し、休まざるを得ない。
 圧倒的実力で相手を瞬殺し続けるなら別だが、本気で戦って負けている有紀には、三戦ごとにはインターバルが必要だ。
 テーブルから離れ、床の間の対戦実況ディスプレイを見るともなしに見る。

「ミスティ……やっぱりすごい」

 呟いたのはカイ。彼女もまた有紀の気持ちに賛同しているが、それでもそう呟いてしまう。

 そう、確かにすごい。
 今のミスティの相手は『黒衣の戦乙女』だった。有紀とカイが全力で挑んであしらわれた相手。必殺のリバーサル・スクラッチ三連撃も、カイの動きを上回るアクロバティックな機動でかわされ、破られた。
 その実力者を向こうに回して、ミスティは互角の勝負を繰り広げている。ミスティは新装備なのにも関わらず、リンを苦戦させているのだ。

 それがどれほど大変なことなのか、有紀には分かる。
 ストラーフ装備を中古で手に入れ、カイに武装させた当時、二人はろくに勝つことができなかった。
 武装さえ良くなれば勝てるようになる、と思っていたが、そんなに簡単なものではない。どんなに強力な武装でも、使いこなせなければ宝の持ち腐れである。それを思い知った。
 今のミスティは、以前の装備に似ているとはいえ、オリジナルの新装備である。装備を手にしてから半月ほどしか経っていないはずなのに、『黒衣の戦乙女』と互角に戦えるとは、有紀には驚きだった。
 そして、ディスプレイ上のミスティの動きは力強く、それでいて華麗だった。

 有紀はミスティのバトルに見入ってしまう。
 彼女はずっと菜々子とミスティのバトルスタイルに憧れていた。
 もちろん、女性の神姫マスターとしても素晴らしいと思っていたが、有紀は菜々子の強さに憧れた。ゲームセンターの三強を蹴散らし、すべての神姫マスターを敵に回しても、自分の信念を、大切な人を守ろうとするその姿に、強くあることの尊さを思い知らされた。
 有紀の憧れは、今もまだ、床の間のディスプレイに投影されている。

 だが、そんな菜々子が神姫で人を傷つけた。それは神姫マスターにとって禁忌であり、有紀にとって許し難い暴挙だった。有紀はこう見えて正義感が強く、曲がったことが大嫌いだった。
 だから病院では、つい菜々子を怒鳴りつけてしまった。感情的になりすぎていたことは、あとでちょっと反省した。
 しかし、有紀は心の中で望んでいたのだ。菜々子が、自分の罵倒などものともせず、立ち上がって自らの潔白を高らかに宣言する様を。
 打ちのめされ、背中を丸めてうずくまる菜々子など見たくはなかったのに。それでは、自分のやったことを肯定しているのも同然ではないか。
 そしてまた有紀は葛藤する。今も胸を高鳴らせる憧れの気持ちと、心を沈ませる菜々子の罪。菜々子を好きでいたいのに、嫌う気持ちがブレーキをかける。どっちが自分の本当の気持ちなのだろう。
 ひたすらに対戦を続けるのは、過去の菜々子を追い抜くためと言いながら、実はそんな複雑な気持ちを紛らわせるためなのかも知れなかった。



 菜々子さんとミスティも、何戦かすればインターバルを取る。
 菜々子さんは休息しなくてはいけないし、わたしのマスターの指示で、ミスティはデータを整理するためにクレイドルで休む必要がある。
 データのバックアップを終え、ミスティが目覚めた。
 よし。
 わたしは胸の前で手を握り、意を決して声をかける。

「ミスティ……」
「ティア。……どうしたの、そんな深刻な顔して」
「あなたに、話しておかなくちゃいけないことがあるの」
「何よ、改まって」

 ミスティはくすり、と笑う。
 ミスティはようやく笑えるようになってきた。それは嬉しいことなのだけど、今わたしは笑って応えられない。大事な、とても大事な話だから。

「わたしね……あなたのお姉さんに会ったの」
「は? 姉さん? わたしに姉なんていないでしょ」
「あなたの前にミスティを名乗っていた……白いストラーフに会ったの」

 わたしがそう言った瞬間、ミスティの表情が固まった。
 淡い笑顔はみるみると険悪な表情に塗りつぶされてゆく。

「……何言ってんの、もうあいつはいないわ。会えるわけが……」
「あなたがマグダレーナと戦って壊れて、意識を失っていた時よ。同じクレイドルで眠ったときに、ネットワーク上で会ったの」
「……」
「どうして会って話ができるようになったのかは、わからない。でも、ストラーフのミスティさんに会ったことは本当。
 彼女は、わたしにマグダレーナの情報を教えてくれた。それから、菜々子さんとあなたのことをとても心配していた。あなたに伝えてほしいいことがあるって……」
「やめて!」

 突然の大声に、わたしは思わず絶句してしまう。
 ミスティの表情はいまや、険しいを通り越して憤怒に燃えていた。
 ミスティがわたしを怒鳴りつける。

「あいつのせいで、わたしがどれだけ……どれだけ迷惑だったか、あなたにわかる!?」
「え……えと……」

 迷惑……って。

「あんな奴いなければ、わたしがしなくてもいい苦労をすることもなかった! 目覚めてすぐに、菜々子の神姫だと認めてもらってた! 死ぬ思いをしてまで、わたしが自分の神姫だって、認めさせることなんてなかったのよ!」

 わたしは思わず言葉を失った。
 激しく怒るミスティの瞳に、暗い炎が揺らめいているように見えた。
 いつものミスティとはまるで違う、卑屈で、陰鬱な瞳。
 ミスティが、先代のミスティにこれほどのコンプレックスを持っていたなんて、知らなかった。
 そして、ミスティは、決定的な言葉をわたしに叩きつけた。

「わたしのCSCがあいつのだなんて、考えただけで、頭がおかしくなりそうだわ!」

 それを耳にした瞬間、わたしの頭の中が真っ白になった。
 ぱん、と乾いた音が目の前で聞こえる。
 わたしは無意識のうちに手を挙げ、ミスティの頬を思い切り平手打ちにしていた。

「なにすんの、ティア!」

 言い返したミスティの怒声すら、わたしの耳には遠い。
 心が、痛すぎて。
 平手打ちなんて生ぬるいって、その時のわたしは本気で思っていた。
 ミスティは今、どんな顔をしているだろう。わたしの視界はぼやけていて、彼女の表情は判然としない。
 頬を何かが伝っていく。
 涙、だ。

「ミスティのバカ!」

 それだけ言い捨てるのがやっとだった。
 わたしはミスティに背を向けて走り出す。
 彼女を置き去りにして走り出す。
 悔しくて、悲しくて、情けなくて。
 すべてを失ってなお伝えられた、ミスティさんの想い。わたしはそれを伝えたいのに。伝えたいだけなのに。
 彼女はどうしてこんなにも分からず屋なの。聞く耳さえ持とうとしないの。わたしの言葉なんて、どうでもいいと思っているの。わたしとあなたの絆はこの程度のものだったの。
 友達だ、って泣いてくれたあなたはどこへ行ってしまったの!?

 わたしはテーブルを飛び降りて、少し開いていた襖を滑り抜けるようにして、部屋の外へ。
 それでも止まらず、わたしは玄関までやって来て、ようやく走るのをやめた。
 玄関の上がり框に腰掛けると、涙がぼろぼろとこぼれてきた。
 わたしの瞼の裏に、あの白いストラーフ型の姿が浮かぶ。
 ごめんなさい、ミスティさん。あなたに頼まれた大切な伝言さえ、わたしには伝えることが出来ません。
 彼女の大切な想いを途切れさせてしまう。
 それがわたしには何よりつらくて。わたしはまた涙を流してしまう。

「あ~……ティア……どうしたんだよ、いったい?」

 背後から声がして、わたしは振り向いた。
 そこには、なんだか困ったような顔をして、頭をかく虎実さんがいた。
 わたしはひどい顔をしていた、と思う。虎実さんを見つめていても、次から次へと涙の雫がこぼれてしまう。
 困った様子なのに、虎実さんはわたしの横に腰掛けて、話しかけてくれた。

「……アンタがミスティ叩くなんて、信じられなかった。いつものアンタじゃないよな。……何があった?」

 わたしはしゃくりあげてしまって、まともに声を出せない。
 虎実さんは、こういうのニガテなんだよなぁ、と呟きながら、それでも声をかけてくれる。

「……アタシはさ、こういう性格だから、他の神姫のこと察したり、気遣ったりするの苦手だし……役立たずだけどさ……でも、話くらい聞くことくらいは出来る。だからさ」

 わたしは虎実さんの言葉に首を振った。
 虎実さんは、いつも優しい。
 自分のことを悪く言うけど、言葉遣いもよくないから誤解されるけど、ほんとはとても優しい。
 わたしは涙を拭って、やっと一言だけ、言えた。

「……たいせつな……」
「ん?」
「……大切な想いが……どうしても伝えなくちゃならない想いがあって……でも、わたしじゃ伝えられない……」

 さっきのミスティのかたくなな態度を思い出し、また涙が溢れそうになる。
 すると。

「なぁんだよ、そんなことか」

 虎実さんはそんな風に言い捨てた。
 そんなこと、って。
 わたしが次に動き出すより先に、虎実さんはわたしの肩を抱き寄せた。

「伝わるさ、想いは必ず伝わる。アタシが絶対保証する」
「え?」

 虎実さんは明るい口調でそう言った。
 わたしは泣くのも忘れて、目を白黒させた。

「な、なんで……そんなこと……」
「はあ? あったりまえだろ。アタシは信じてるんだ。想いは伝わる。どんなに離れていても、どんな状況でも……それを証明したのがアンタだからさ、ティア」
「わ、わたしが……!?」

 親友に、想いの一つも伝えられないわたしが?
 でも、虎実さんは笑いながら頷いた。

「そうだよ。トオノの想いに……わたしたちの想いに応えて、アンタは戻ってきたじゃんか!」

 そう、だった。
 思い出す。あの時、あのクロコダイルとの戦いの中で、わたしは意識を遠くのサーバーに飛ばされていた。
 マスターが、みんなが呼んでくれたから、わたしは戻って来られて……今わたしは、こうしてここにいることが出来る。
 想いは、届く。それは本当のことなのだ。

「だからよ、あきらめんな。あきらめたら、そこで途切れちまう。伝わるものも伝わらない。ミスティだって、きっと分かってくれる。だってよ……」

 虎実さんは、ニッと笑って見せた。

「ミスティは、アンタの親友なんだろ?」
「……はい!」

 わたしの瞳の端には、まだ涙が溜まっていたけれど。虎実さんに笑顔を向けることが出来た。
 虎実さんが役に立たずなんて、うそ。
 だって、彼女はわたしの心をしっかりと支えてくれのだから。いつかの、わたしがバトルに戻って来たときも。そして、今日も。
 彼女がいてくれるから、わたしはここにいられるのだ。



 呼び鈴が鳴った。
 俺は指定席のPCの前から立ち上がる。
 今の時間、頼子さんは買い物に出かけて留守だった。菜々子さんはただいま絶賛バトル中だ。
 その二人を除けば、この場の責任者は俺、ということになる。
 久住家の来客を出迎えるのは、今この場では俺の役目だった。
 「特訓場」の襖を開け、玄関へと続く板張りの廊下に出る。
 すると、

「だいたい、何でお前までついて来てるんだよ!」
「いいじゃない。わたしだって『エトランゼ』に興味あるんだから!」
「呼ばれたのは俺だけなんだ。部外者は帰れ!」
「こんな面白そうなこと、独り占めさせるもんですか!……わたしが一緒でもいいわよねぇ、梨々香ちゃん」
「そうですねぇ」

 などと玄関先がなにやら賑やかだ。
 俺は鍵をはずし、玄関扉を開ける。

「あ、遠野さん」

 そう言って笑顔を見せたのは江崎さんだ。
 小柄な彼女の後ろに、俺と同じ年頃の男女が取っ組み合い寸前で停止していた。
 二人とも、目を丸くして俺を見ている。
 江崎さんはそんな背後の様子も気にせず、俺に言った。

「遠野さん、お話しした通り、わたしの師匠を連れてきました」
「あ、ああ……彼らが?」
「はい。師匠の尊さんと、そのお仲間の真那さんです」

 尊……だって?
 そのバトルネームには聞き覚えがある。
 そう、それはあまりにも有名な神姫マスターの名前……。

「もしかして……『双姫主』か!?」
「会いたかったぜ、『ハイスピード・バニー』のマスター」

 応えた男が、眼鏡の奥で、ニヤリと笑う。
 彼が手に提げるカバンから、半分がフブキ、もう半分がミズキの忍者型と、イーダ型の、二人の神姫が顔を覗かせていた。










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