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キズナのキセキ

ACT1-18「強者たちの宴」




「また負けた……」

 家庭用VRマシンのアクセスポッドが開くと、ミスティはため息つきながら出てきた。菜々子を見上げると、今の対戦のリザルトデータに目を通している。

「まだ、新装備に馴染んでいないわ。以前の装備のように勝ちには行けないでしょう」
「わかってるけど……」

 それでもため息をつきたくなってしまう。
 遠野が用意してくれたミスティの新装備は、以前のイーダ型とストラーフの「サバーカ」レッグパーツの組み合わせよりも、性能はアップしている。主要なパーツ構成も大きな変化はない。
 しかし、ミスティが実際に装備して戦ってみると、大きな違和感を感じる。そのため、動きが鈍くなったり、思うように動けなかったりするのが主な敗因だった。
 以前と同じような動きになれば、格段の性能アップを果たせるはずなのだが、今のミスティはその段階には至っていない。
 それはよく分かっているのだが、こうも負けが込むと、ため息をつきたくなるのも仕方がないではないか。

「とにかく、まずはその装備をものにしなくちゃ」
「……わかってるわよ」

 菜々子は笑わず、いつも真剣な表情で、冷静にミスティを説得する。
 ミスティには分かっていた。
 本当は、ミスティ以上に、菜々子は焦っている。遅々として進まない新装備とのマッチング。ひたすらに対戦を続けるだけの毎日。断片的な指示だけで、全貌の見えない遠野の考え。本当にこんなことをしていて、あの『狂乱の聖女』に勝てるのか。大きな不安を抱えているはずだった。
 それでも、焦燥を表に出さず、ひたすらに特訓に取り組む姿勢を見せられては、ミスティも愚痴を言うタイミングを失ってしまう。

 次の対戦相手が正面の席に着く。大城と虎実。虎実はここぞとばかりに、今までの負けを取り戻そうとしているかのように、容赦なく攻め立て、勝ちを奪っていく。
 虎実と目が合う。にやりと笑うその歪んだ口元が、ミスティには憎らしい。

「見てなさいよ、今度こそ!」

 ミスティと菜々子は、倦むことなく特訓に勤しんでいる。



 久住頼子が不意に発した一言は、鳴滝修平にとってなかなかに衝撃的だった。

「ねえ、鳴滝くん。よかったら、わたしたちと手合わせしない?」
「え……マジですか!?」
「マジよマジ。VRマシンが余ってるんだもの。待っている間、いろんな人と対戦しなくちゃ損でしょ」

 驚く鳴滝に、頼子はにこやかに頷いた。
 近接格闘戦特化の神姫マスターで『街頭覇王』の名を知らぬ者はいない。彼女たちの存在は、近接格闘メインでもファーストリーグを渡り合える、その証拠であり希望なのだ。
 ファーストランカーと在野の一プレイヤーが対戦する機会は稀である。鳴滝にとっては願ってもない申し出だ。
 ランティスは頼子と三冬に向かい、最敬礼した。

「それは願ってもない。一手ご教授願います」
「こちらこそ、名高き『塔の騎士』と手合わせできること、光栄の至りです」

 三冬も礼儀正しくお辞儀をした。
 頼子と三冬もまた、『塔の騎士』についてはよく知っていた。大会に出ない在野の神姫ながら、「塔」ステージで無敗の格闘型神姫。頼子は常々、一度対戦してみたいと言っていた。
 その対戦希望相手が、自宅に来ていて、おまけにVRマシンがある。声をかけない理由がどこにあろう。
 頼子と鳴滝は、笑顔を隠そうともせず、いそいそと対戦の準備を始めた。

 安藤は思いもしなかった成り行きに、少し驚いている。
 いつもならば決して実現しない対戦カードが、こんな住宅街の一室で見られるなど信じられない。
 しかも、自分から挑むことも出来るのだ。全国レベルに匹敵する神姫プレイヤーとの対戦は、またとない機会であり、自身のレベルアップも見込める。
 『エトランゼ』と対戦しているとき以外は、基本的に暇だ。だから、待ち時間の間はいくらでも、手の空いている神姫と対戦するチャンスがある。
 たくさんVRマシンを用意したのも、そのために違いない。これだけの台数があれば、タッグマッチも変則マッチも、バトルロイヤルだって出来る。

(……なるほど、遠野さんが言っていた「期待していい」っていうのは、このことか)

 安藤は一人で納得していた。
 彼の予想はおおむね間違っていなかった。
 だが、遠野の考えはさらに先にあったことを、今の安藤は知る由もない。



 美緒と梨々香は、翌日も久住邸に顔を出した。
 ゲームセンターでため息をついてばかりいるより、遠野の仕事を手伝う方がよほどに建設的だと思う。もっとも、久住邸は今やゲームセンター的状況になり果てているのだが。
 涼子と有紀には内緒で来ていることが少し心苦しいが、今彼女たちにこのことを説明しても理解してもらえないし、ましてや連れて来て感情的に暴れられでもしたら、遠野の策も滅茶苦茶になってしまう。
 それに、美緒自信、まだ割り切れていないところがある。
 だから、二人には時期を見て説明するつもりだった。
 美緒と安藤、梨々香の三人が、久住邸の特訓場(一階の、居間と和室が一続きになった広間)に入ると、高村と鳴滝は先に来ていた。この二人、ほぼ毎日姿を見せる。

「ていうか、こんなところで油売ってて大丈夫なんですか?」
「何がです?」
「その、学校とか、秋葉原のゲーセンとか……」
「大学は今、春休みですよ。遠野くんも久住さんも、学校に行っている様子はないでしょう?」
「それは、まあ……」
「秋葉原の方は、別に僕らがいなくても、勝手に回りますからね。何の問題もありません」

 美緒の問いに、高村はいつも通りニコニコして答えた。あまりにも簡潔な答えに、美緒は拍子抜けしてしまう。

 そこで呼び鈴が鳴った。頼子さんが玄関に向かう。
 なにやら、がやがやとした話し声が、廊下の先から伝わってくる。
 何事かと思っていると、頼子さんが戻ってきて、襖から顔を出した。

「菜々子、遠野くん、団体さんがお着きよ」



 来たか。
 今日来ると言っていたので、待ちかねていたのだ。
 俺はデスクトップPCに表示されているウィンドウをいくつか消して、顔を上げた。
 ちょうど襖が大きく開き、数人の男女が入ってくるところだった。
 菜々子さんもちょうど対戦を終え、顔を上げる。入ってきた団体を見て、驚いた様子で声を詰まらせ、思わず立ち上がっていた。

「みんな……!」
「遠いところをようこそ」

 俺も立ち上がると、菜々子さんと二人、来客を出迎えた。
 一番手前にいた戸田静香さんが脳天気な声を上げる。

「やっほー、菜々子さん。ミスティの新装備、見に来たよ~」

 その後から、二人の男性が荷物を抱えて入ってきた。

「ついでにVRマシンも持ってきた」
「店長からも、貸し出し機を借りてきたぜ」

 にこやかに笑いながら、彼らは言う。肩にはそれぞれ、いずれも初期型のアーンヴァルとストラーフが座っていた。
 俺は荷物を海藤に渡すように促す。VRマシンや神姫のメンテナンスは、海藤にお願いしている。彼のメカニックとしての腕を見込んで、今回の計画に参加してもらっているのだ。
 その後、ポニーテールの美少女が、俺に声をかけてきた。

「とりあえず声をかけてみたけど……このメンバーで良かったかしら?」
「ありがとう。十分ですよ」

 俺は風見美砂さんに頷いた。彼女は常連さんたちの間では調整役のような立場で、過去のいくつかの事件でも橋渡し役を務めたと聞いている。
 今日のメンバーを見れば、彼女の調整役としての能力と信頼がよく分かる。

「おい、遠野……誰だよ、その連中」

 大城の声に振り向けば、目をまん丸くして驚いていた。大城だけでなく、みんな一様に、突然現れた団体に呆然としている様子だ。
 そうか、みんなにはまだ説明していなかったな。

「ああ……ホビーショップ・エルゴの常連さんたちだ。菜々子さんの特訓を手伝ってくれる」

 俺が言うと、来客たちは「よろしく~」と声をそろえて挨拶した。
 大城はさらに目をまん丸にしている。

「……そう言われりゃ、みんな有名人じゃねぇか! 『ドキドキハウリン』に『公式武装主義者』、『黒衣の戦乙女』に『雷光の舞手』、奥にいるのは『レッド・ホット・クリスマス』と『十兵衛ちゃん』か!?」

 さすがは大城、有名な神姫マスターはよく知っている。
 他のメンバーも大城の通り名紹介でようやく理解したらしい。雑誌に紹介されたり、大会にも名前が上がってくる有名人ばかりだということに。
 特に目を輝かせていたのは、高村と雪華である。

「ほほう……これは誰もが一度は対戦したい顔ぶれですね」
「ここに通い詰めた甲斐があったというものです。まさか『公式武装主義者』とまみえようとは……」

 それはエルゴの常連陣とて同じである。

「それはこっちの台詞だ。セカンドリーグ・チャンピオンがこんなところにいるとはね……」
「願ってもない。『エトランゼ』だけじゃなく、『アーンヴァル・クイーン』とも対戦できるなんて」
「遠くまで足を運んだ苦労も吹き飛ぶわ」

 皆不適な笑みを浮かべている。早く対戦したくてうずうずしている様子がありありとわかった。

「それじゃとりあえず、菜々子さんと対戦する相手は、その都度指名するから来てください。他の人は余ってるVRマシンで対戦してくれてかまわないので」

 俺がそう言うと、おー、とみんなからかけ声が上がった。
 にわかに賑やかに、そして熱気が増した久住邸。
 強者同士の対戦がいくつも行われ、いやが上にも盛り上がる。



 翌日は、また別の団体がやってきた。

「……やあ」

 ばつの悪そうな顔をして、頭を掻きながら入ってきたのは、『ポーラスター』古参神姫マスター・花村耕太郎である。
 来客に気付いた遠野が、対戦中の菜々子に代わり、彼を出迎えた。

「花村さん、待ってましたよ」
「……僕らが来てもいいのかなって、ずっと悩んでたんだけど……」
「何を言っているんですか。あなた方『七星』は菜々子さんとは深い間柄だ。来てもらわなくては、むしろ困ります」
「そう言ってもらえると助かるよ……」

 花村に続いて、四人の男女が入ってきた。現『七星』は五人。みんな、やはり遠慮がちな顔をしていた。
 マグダレーナに神姫のAIを奪われ、菜々子にバトルを強要したのは『七星』だった。彼らは、菜々子が一度神姫を破壊され、どんな思いをしたのか知っているのにも関わらず、神姫の使い捨てを提案したのだ。
 あの時は自分の神姫を守るためには仕方がなかった。だが、後で思えば、なんというむごいことを菜々子に言ったのだろう。花村たちは、菜々子を気にかけながらも、彼女と向き合う勇気がなかったのだ。

「……でも、だからこそ……罪滅ぼしってんじゃないけど、何か協力させてもらいたくてさ」
「家庭用VRマシン……持ってきた。好きに使ってくれ」

 花村と『七星』の一人が大きなバッグを肩から下ろす。一台ずつ、計二台のVRマシンだ。
 遠野が大きく頷く。

「これはありがたい。早速使わせてもらいます……それよりもみなさん、そんなところに立ってないで、楽しんでいってください」
「楽しむ?」

 遠野が手をかざした先は、久住邸の広いリビングと客間の和室をつなげ、広大な一つの部屋になっている。
 そこにはすでに八台のVRマシンがつながれ、菜々子と対戦する以外のメンバーは、思い思いにバトルにいそしんでいる。

「ええ。武装神姫は、本来、楽しいものでしょう。そんな風にしょぼくれていては、自分も神姫も、対戦相手もみんな楽しめない。みんなで集まってフリー対戦なんて、滅多にない機会なんですから、楽しんでいきましょう」

 くそ真面目な顔をして、遠野がそう言うものだから、花村は思わず吹き出してしまった。
 でも、遠野の言うことは正しい。バトルロンドは楽しいものだ。僕たちはいつから、バトルに無駄なものをたくさん背負わせてしまったのだろう。
 大城と海藤が、早速VRマシンの接続作業を始める。
 『七星』たちはみんなで顔を見合わせ、遠慮がちながらも、やっと微笑みを見せた。



「こんなにすごいメンバー……どうやって来てもらったんですか?」

 デスクトップPCに向かい、データチェックをしている遠野に、美緒は疑問を投げかける。
 マウスを使って作業は出来るが、やはり片腕がきかないのは不自由そうだ。
 遠野はしかめっ面で画面を睨んだまま答えた。

「何のことはない。菜々子さんに携帯端末借りて、メールを出しただけさ」
「メール……ですか?」
「そう。菜々子さんの昔なじみ宛に、『ミスティの新装備の特訓をやるので手伝って欲しい。フリープレイもやるよ』ってな」

 さも当然という口調。むしろケガをしたままPCをいじる方がもどかしそうに、遠野はマウス相手に悪戦苦闘している。
 そんなメールだけで、これだけの有名、もしくは実力ある神姫マスターが集まるものだろうか。それだけで集まるのだとしたら、それは菜々子が『エトランゼ』と呼ばれるほどに、あちこちのゲームセンターを渡り歩いてきた成果なのだろうか。

 今の美緒は、菜々子の特訓のおこぼれに預かっている状況だ。
 集まってきたマスターたちの手が空いているときには、対戦を申し込むことも出来る。有名なマスターたちが、気安く対戦してくれるのだ。対戦の後は、戦い方のアドバイスをもらったりしている。
 自分のバトルスタイルを模索中の美緒や安藤にとって、こんなに有意義なことはない。
 さらに、目の前で、有名神姫たちのバトルを観戦できるのだ。いつ、どのVRマシンの対戦を覗いても、ゲームセンターにいては決してお目にかかれないカードばかりである。

 神姫マスターとしてこんなにおいしい状況にありながら、美緒は菜々子の特訓に何も貢献できていない気がしていた。
 何しろ集まった猛者たちとは実力が違いすぎる。美緒の神姫・パティはノーマルのウェルクストラ型で、装備も実力も足りていない。
 菜々子とミスティは新装備で苦戦していると言うが、一対一では勝てる気がしなかった。
 このままでは、ただのお荷物なのではないか、と悶々と考え始めたときである。
 遠野がPCの前から立ち上がりながら、美緒に声をかけてきた。

「さて……八重樫さん、俺はちょっと出かけてくるから、菜々子さんの対戦の組み合わせ指示、頼む」
「……え?」

 遠野の言葉を一瞬理解できずにいた。
 頭の中で言葉の意味をよくかみ砕き、理解して……美緒は慌てた。

「そ、そ、そんなの無理ですっ」
「大丈夫。PCに対戦の組み合わせのデータは残っているから、それを参考にして、君が好きなように対戦を組んでくれていい。どんな組み合わせであっても、誰も文句は言わない。もちろん、俺もだ」
「そんなこと言われても……」

 美緒は突然の指名に驚き、慌て、戸惑ったが、遠野はもう決まりきったことのように言った。

「八重樫さんじゃないと、この役目は頼めないんだ。他の誰も代わりにならない」
「はあ……なんでわたしなんですか……?」
「チームで一番、バトルを論理的に考えられるからだよ。それに、シスターズのリーダーだけあって、責任感も強いし」
「……」

 あの遠野にそこまで言われては、美緒に断る言葉は見つからなかった。
 こんな重大な役目を受け持っていいのかと自問自答しながら、美緒は部屋を出ていく遠野の背中を見送った。



 八重樫さんが早いうちに来てくれたことは、俺にしてみれば大変助かっている。
 俺の意図を見抜き、自分でその続きを構築できる論理性を備えているのは、八重樫さんくらいだ。彼女が考えた対戦の組み合わせなら、俺の意図を大きくはずすこともないだろうし、後で修正することも容易なはずだ。
 八重樫さんに対戦相手の仕切を任せた分、俺は自由に動くことが出来る。
 こう見えて、俺はいろいろと忙しい。病院を強引に退院してきたので、ケガの治療に行かなくてはならない。それから、俺の方でも探っておかなくてはならないこともある。
 今日は後者の理由だ。俺は電車を乗り継ぎ、ここへやってきた。
 ホビーショップ・エルゴへと。

「よう、来たな。ケガは大丈夫か?」
「ええ、まあなんとか」
「君のおかげで、こちとら商売上がったりだぜ」

 恨みがましい言葉ながら、日暮店長は笑って出迎えてくれた。今、エルゴの常連さんたちは久住さんのところに行ってばかりだから、店長がそう言いたくなるのも無理はない。

「すみません、ご迷惑おかけします」
「言ってみただけだ。気にすんな……それで、見てもらいたいものって?」
「店頭ではちょっと……」

 店長には事前に連絡を入れておいたので、話が早い。
 店長は頷くと、俺をいつもの奥の部屋へと促した。
 この部屋に入るのは三度目になる。そのたびに、日暮店長と密談を交わしている。随分と陰謀めいたことをしているな、などと考えて、俺は苦笑した。
 三度目ともなると、言われずともお互いの指定席はわかっている。店長の向かいのイスに座り、俺はポケットからハンカチの包みを取り出した。
 小さな机の上に置いて、包みを開く。
 日暮店長がはっとなった。思い当たる節があるようだ。

「これは……もしかして、あれか」
「はい。菜々子さんが耳にしていたワイヤレスヘッドセットです」

 俺が大ケガを負ったときに、菜々子さんの耳からはずしたものだ。
 このヘッドセットをしているときに、菜々子さんは様子がおかしかった。これには何らかの細工がされていると見ていいだろう。

「自分で分解しても良かったんですが、今はこのケガなので……仲間の手を借りなければなりません。でもそうすると、ちょっと問題があるので」
「ふむ……まあいい。俺が分解すればいいんだな?」
「お願いします」

 理解が早くて助かる。
 俺の推測通りなら、このヘッドセットにされている細工は、マグダレーナの秘密の核心に触れる。それを仲間たちには秘密にしなければならない。そうしなければならない理由がある。
 店長が器具を使い、慎重にヘッドセットのカバーを開ける。手慣れた手つきはさすがホビーショップの店長である。
 カバーが開き、内部が俺たちの前にさらけ出された。

「……これは!?」

 店長が驚きに息を飲んだ。俺は小さく頷く。
 ヘッドセットの中身は、俺が想像していたとおりの代物だった。
 日暮店長は珍しく深刻な表情で、眉間にしわを寄せ、じっとヘッドセットを見ていた。
 すると、店長はヘッドセット内部の一点を指さす。

「ここに何か書いてあるな」

 見れば、彼の指の先に小さな文字が書いてある。アルファベットが数文字。何か意味をなす単語だろうか。
 店長は机の引き出しから、作業用のルーペを取り出した。
 ヘッドセットをつまみ、ルーペで文字をのぞき込む。
 次の瞬間、日暮店長の瞳がさらなる驚きに見開かれるのを、俺は見逃さなかった。

「なんて書いてあるんです?」

 店長は、ゆっくりとテーブルの上に、分解されたヘッドセットとルーペを置いた。
 表情はさらに険しくなっている。
 俺は机上を指さし、店長を見た。彼は軽く頷く。見てもいい、ということだ。
 俺もヘッドセットをつまみ、ルーペをのぞき込む。
 小さな文字が鮮明に拡大されて見える。銀色に鈍く光る金属パーツの表面に彫り込まれていた。

「KEIN.F」

 ……どうやら人の名前のようだ。
 だが、何でこんなところに名前が彫られている?
 俺が考えを巡らせたところへ、日暮店長が固い口調でこう言った。

「遠野くん、悪いことは言わん、マグダレーナから手を引け」
「できません……ていうか、何を今更……」

 菜々子さんを頼むと言った張本人が、ここへ来て手を引けとは、納得行くはずがない。
 店長は難しい表情を崩さない。
 俺は追求する。

「ここに書いてあるのは、人の名前ですか?」
「そうだ」
「店長が知っている人なんですね? だからこそ手を引けと」
「ああ、こいつのことはよく知っているよ……まさかこんなところで、この名前を見るとは思わなかったがな」
「誰です?」

 店長は一瞬、視線をさまよわせる。俺に聞かせるべきか否か、本当に迷っている様子だ。
 これは踏み込んではいけない領域の話なのだろうか?
 だが、マグダレーナとの対決の前には、出来る限り疑問を解決しておく必要がある。マグダレーナに関わる品に書かれた人名なら、なおさらだ。
 店長が俺の方を盗み見る。俺の視線は変わることがない。こっちだって、少しでも情報が欲しいところなのだ。
 店長はため息をつき、両手を上げた。

「まったく……強情だな、君は。降参だ」
「……で、誰なんです?」
「ケイン・フォークロア。国籍はたぶんアメリカ。白人男性だ。重度のオタクで、神姫の装備設計なんかの才能がある。そして……」

 日暮店長は一瞬言葉を切って、それから一気に言った。

「武装神姫『エンプレス』のマスター……じゃないな、協力者といったところだ。おそらく、このヘッドセットを作ったのも、マグダレーナの装備も奴の手によるものだろう」
「協力者?」
「ああ。ケインの方がエンプレスをマスターと呼んでいたくらいだからな……」
「店長は、そのケインとかいう外国人と面識があるんですか?」
「ああ……実はここしばらく忙しかったのも、そのケイン……というかエンプレスの動きが慌ただしかったからなんだ」

 日暮店長が小さくため息をつきながら苦笑する。

「まさか、奴とマグダレーナが繋がっているとはな……」
「……さっきから疑問に思っているんですが」
「なんだ?」
「その、『エンプレス』っていうのは何者……どういう神姫なんですか?」
「……俺が知っている中では、最強の、そして最悪の神姫だ」
「……マグダレーナよりも?」

 店長が躊躇もせずに頷くものだから、俺の方が思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
 日暮店長の表情がいっそう深刻の度を増した。

「奴は……エンプレスは、人間を殺すことさえ何とも思っちゃいない。人間も神姫も、自分の目的のためなら、いくらでも犠牲にする。危険だ。だから、君たちはもう関わらない方がいい」
「すみませんが、それは出来ません」
「なぜだ……なんて、聞くまでもないか」

 日暮店長は苦笑する。
 そう、俺は今更諦める気なんてさらさらなかった。マグダレーナ以上の最凶神姫が出てこようと変わらない。もう俺たちだけの戦いではないのだ。
 店長は表情を引き締めて、俺を見た。

「まあ、エンプレスの方は俺に任せろ。あいつを止めるのは俺の仕事だからな。君たちはマグダレーナに集中してくれ」
「お願いします」
「それから……これを渡しておく」

 店長は背後のPCの脇から、小さな長細い木箱を取り出し、俺の目の前に置いた。

「……これは?」
「俺からの、せめてもの餞別だよ」



 ミスティと菜々子さんの特訓は、日に日に激しさを増していく。
 一対一から二対一、連続で四戦、五戦こなすこともざらだった。
 圧倒的な実力差があれば、何戦でも戦えるけれど、相手は名だたる猛者ばかり。一戦交えただけでも相当に消耗する。
 それでも、ミスティも菜々子さんも、愚痴一つ言わずに挑み続けていた。

 対戦相手の指示は全部、わたしのマスターが行っている。久住さんの家では、みんな自由に対戦しているけれど、マスターの指名だけは絶対の不文律だった。
 もちろん、その指名を無視する人なんていなかったけれど。
 それほどに皆、菜々子さんのことを気にかけているんだって、わたしは実感していた。

 わたしはマスターについて、特訓状況を見守ることが多かった。時にはミスティと対戦することもあるけれど、マスターが指示やデータ分析に忙しいので、自由に対戦することはあまりなかった。
 でも、他の神姫と話をする機会はたくさんあって、とても楽しい。
 ある時、ツガル型の神姫が、なんだかばつの悪そうな顔をしながら、わたしに話しかけてきてくれた。

「あー……ティア……わたしのこと、覚えてる?」
「もちろんです、シルヴィアさん」
「なんか、ごめんなさい。前にエルゴで会った時、ちょっとひどいこと言った気がして……」
「もう気にしないでください。今のわたしは……マスターの手のひらに乗れていますから」

 頭を掻きながら神妙そうにシルヴィアさんが言うから、わたしは笑って見せた。
 すると、シルヴィアさんも相好を崩して、

「ふうん……うまくいってるみたいね。何よりだわ」

 そう言って、頷いてくれた。
 シルヴィアさんと会った頃、マスターとわたしはまだ絶望の淵にいた。それから後、いろいろあった。本当にいろいろあって……今こうして、シルヴィアさんの前で笑えている。

「……わたしの方こそ、すみません。初対面から、ご心配おかけして」
「ああ、そんなのはいいのよ。あなたが今、幸せならそれで、ね」

 シルヴィアさんはわたしに向かって一つウィンク。とても魅力的な表情に、わたしでさえ、どぎまぎとしてしまう。神姫でも、恋をしていると、魅力的になれるものなのだろうか。
 そんなことを考えていると、ホビーショップ・エルゴの常連さんの神姫たちが、わたしたちのまわりに集まってきた。
 いずれ名だたる神姫だというのに、みんなやたらと気さくに話しかけてくる。
 そう、世間の評判など関係なく。
 ここには、ただ神姫たちの憩いの時間があるだけ。
 当たり前のようでありながら、なかなか得ることの出来ない、貴重な時間をわたしはすごしているのだと、そう気付いて、今このときの気持ちをしっかりとメモリーに刻んだ。



「何も知らないわ」
「え?」
「だって、彼は何も教えてくれないもの」

 驚く美緒に、菜々子は弱々しい口調でそう答えた。
 遠野が留守の時には、美緒が対戦指示を出すことになっているが、遠野の意向通りに出来ているかどうか自信がない。しかし、遠野は自分の策をまったく話そうとしない。
 だから、当事者である菜々子ならば、何か聞いているのではないか、と尋ねた答えがこれだった。
 つまり、菜々子はこの特訓の意味さえ伝えられぬままに、ひたすらに対戦し続けているのだ。
 どんなに遠野を信じているからと言って、何も知らされていないのでは、真っ暗闇の中をただ手を引かれているだけに等しい。

「そんな……不安じゃないんですか」
「うん……不安よね……先が見えない怖さは確かにあるけれど……でもね」

 菜々子は肩をすくめて、かすかに笑って見せた。

「それ以上に、貴樹くんを信じているから……だから、大丈夫……かな」
「……」

 それは、遠野の指示で、彼の代わりを務める美緒の指示も信じている、ということなのか。菜々子は美緒の対戦指示にも、一切、意見も反論もしてこない。
 その態度が無気力を示しているのかと言えば、それは違うと美緒は断言できる。
 対戦しているときの菜々子とミスティの真剣さは鬼気迫るほどなのだ。
 美緒も菜々子たちの真剣さに応えるようなマッチメイクをしなければならない。そう考える。
 でも、本当にわたしの指示で、遠野さんや菜々子さんの期待に応えられているだろうか。自問しながらの模索はさらに続いていた。



 確かに遠野の代わりを務めるのは、美緒にとってはプレッシャーのかかる役目だった。だが、それでも久住邸に通い続けるのは、仕事に対する責任感だけではなかった。
 そう、久住邸での集まりは楽しく、居心地のいいものなのだ。
 毎日のように、腕に覚えのある神姫プレイヤーたちが集まり、対戦を繰り広げる。
 『七星』は毎日のようにやってくるし、遠いはずのホビーショップ・エルゴの面々も毎日かわるがわるやってくる。特に、戸田静香などはほぼ毎日、風見美砂も二日と開けずに顔を見せた。
 もちろん、お馴染みの高村と雪華、鳴滝とランティスも毎日通ってくる。
 全国大会でさえ見られないような対戦カードが、目の前で見られるのだ。望むならば、そんな強者たちに挑むこともできる。戦い方について議論することもできる。
 安藤や大城は、ここぞとばかりに対戦に熱中している。

 梨々香はバトルもするが、やってくる神姫たちのファッションに興味津々だった。特に、戸田静香とは意気投合したらしく、神姫の服についてデザインから制作方法まで、しょっちゅう話し込んでいる。
 そういえば、梨々香は以前よりも随分とバトルがうまくなってきているような気がする。どこかで練習しているのかしら、と美緒は不思議に思った。

 遠野がいるときには、美緒は出来るだけ側にいて、ミスティへの対戦相手の指示のパターンや傾向を掴むように努力していた。
 直接遠野に尋ねるときもある。
 ようやく分かってきたのは、意外にも、遠野自身が『エトランゼ』のマッチメイクを楽しみながらやっている……つまり、厳密な経験値アップのためだけでなく、個人的に見てみたい対戦も組んでいるらしいのだ。
 遠野はいつも表情が読めないから伺い知ることは出来ないが、おそらく遠野が一番、ミスティの対戦を面白がっている、と美緒は思っている。
 今日のマッチメイクでそれを確信した。

「それじゃあ次は、二対一で行こう。ミスティに対して、一人はティア、もう一人は……ランティス」
「はあ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、当の菜々子とミスティである。

「ティアとランティス、同時に相手にしろって言うの!?」
「どっちか一人だって苦労するのに、二人同時なんて無理よ無理!」

 二人の抗議はまったく無視し、遠野はランティスのマスター・鳴滝に素知らぬ顔で声をかけている。

「おーい、鳴滝。こっちの対戦、すぐに出られるか?」
「おお、もちろん」

 鳴滝がランティスを連れてくると、菜々子の向かいのVRマシンの前に座る。ランティスをテーブルの上にそっと降ろす。
 隣のVRマシンの前には、ティアがいた。ランティスは静かに笑い出す。

「ふふふ……」
「どうかしました? ランティスさん」
「ふふ、いや……面白いものだな、まさか貴女に背中を任せて戦うときが来ようとは……初めて出会ったときには、思いも寄らなかった」
「そうですね……でも、わたし、楽しみです」
「うん、わたしもだ。ならば、我らの初タッグ、思う存分楽しもうではないか」
「はい!」

 なんて、ティアとランティスが仲良くしているものだから、当然ミスティは面白くない。
 だいたいなんでティアが前に暴言を吐いたランティスと組むのよ親友のわたしを差し置いてなどと、アクセスポッドに入ってもなおぶちぶちと愚痴を連ねていた。

 バトルが始まると、ミスティは思った以上に苦戦した。この即席コンビが思いのほか噛み合っている。ティアがミスティを翻弄し、隙を突いてランティスが強烈な一撃を叩き込んでくる。足を止めてランティスと打ち合えば、ティアに背後を取られ放題、いつ必殺技を放ってくるか、気が気ではない。
 二人のコンビネーションに翻弄され、ミスティは自滅した。

 ギャラリーは、即席コンビにやんやの喝采を送る。
 美緒は、このバトルがミスティの特訓であることを忘れそうになるほどに、バトルの観戦を楽しんでしまった。集まったみんなも楽しげに盛り上がっている。
 それにつられて、菜々子もミスティも、笑顔になった。負けたけど、笑っている。
 二人の笑顔を目にして、美緒ははっとなる。
 もしかすると、遠野は、この特訓を通して、菜々子に知らせたいのかもしれない。バトルロンドは、強くなるよりもまず先に、楽しいものだということを。
 そのために、今の久住邸を、楽しくて居心地がよくて、エルゴの常連や『七星』、そのほかのメンバーも足繁く通って来たくなるような場所に仕立てているのではないか。
 つまり、みんなが楽しく通ってくることさえ、遠野の策のうちなのだ。
 もちろん、美緒や安藤、梨々香でさえ、遠野の策に乗ってしまっている。



 その間、ゲームセンターでくすぶっていたのは、涼子と有紀である。
 二人は『ノーザンクロス』で対戦を続けていたが、ろくな成果を上げていなかった。
 土日に開催されるランキングバトルにも出場したが、かつて三強と呼ばれた連中にはほとんど歯が立たなかった。以前より実力がアップしているとはいえ、自分たちはまだまだ弱いと打ちのめされた。
 せめて三強に勝てるくらいにならなくては、菜々子を見返すことも、チームの柱になることも出来ない。
 二人の気持ちは焦るばかりだ。
 そんな時に、他のメンバーは誰もゲームセンターに現れなくなった。
 美緒と梨々香もゲームセンターに来なくなり、ついには週末、姿を現すどころか、連絡もよこさなかった。
 さすがに二人とも憤慨した。
 ケガをしている遠野はともかく、大城や、安藤と美緒、梨々香はいったい何を考えているのか。
 だから、月曜日の放課後、

「ごめん、わたしたち、今日も用事あるから」

 と言って、さっさと立ち去ろうとした美緒の肩を、有紀は掴んだ。

「ちょっと待てよ」
「なに?」

 睨みつける有紀と涼子。
 しかし、美緒もまた、強い視線を送り返していた。背後には、安藤と梨々香がいる。梨々香も珍しく真面目な顔で成り行きを見ている。
 思わず二人の仲裁に入ろうとした安藤を、美緒は手を上げて、無言で制した。
 美緒もまた、ここで逃げるつもりはなかった。ライトアーマー・シスターズと呼ばれる四人のリーダー格として、また、菜々子の心、遠野の意志を知った者として。
 今こそ、親友と対峙し、戦わなければならない。
 そして、伝えなくてはならない言葉が、想いがある。











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