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 第十三話 「灰染の女神」




 「……きらさん、輝さん、起きてよ」
 「んあ」
 「もうすぐ新宿駅だよ」
 俺と健五は新宿に向かって、電車に揺られていた。
 それというのも、直也から『すげえ奴が来てるらしいから、今すぐ健五と神姫センターに来い』とメールが来たからだ。
 「土曜ぐらい休ませろっての。人の迷惑も考えやがれ」
 「でも、凄い人って誰なんだろう?」
 「さあな」
 とりあえずメリーとクレアを連れて来たはいいものの、具体的に何をするのかは分からないまま、俺たちは新宿に行く。



 直也はアッシュを連れて、駅にあるセンター方面の通路で待っていた。
 「おっ、やっと来たな……って、お前その袋なんだよ?」
 「ああ、まだ時間あったからよ、そこのデパートの北海道物産展でイカめし買ってた」
 「アホかお前! 何しに行くと思ってんだ」
 「そりゃこっちの台詞だ。センターでなんかあんのか?」
 「ご名答。この辺にな、すげえランカーが来てるってネットで流れてたんだよ」
 「ランカーって、誰だ? ファーストの?」
 「そこは分かんねえんだけど、ネットに書き込まれるくらいの奴だから実力はあるだろ」
 そう話しながらセンターに向かうと、前にアンリの一件で来た時とは明らかに様子が違っていた。
 「何だ、こりゃ?」
 センターは一階に入った時点で既に人であふれかえっていて、対戦コーナーまで行くとそれはもう大変な事になった。
 「おい、あれって池袋のランカーだぜ」
 直也が言ったように、中には東京各地の有名オーナーも混じっていて、俺はいよいよこれから何が起きるのか分からなくなる。
 しかし、そのままぼうっと突っ立っていた俺の後ろから、いきなり声がかけられた。

 「もし、そこのメリエンダよ。お前、もしやメリーではないか?」

 振り返ると、青いTシャツに浅黒い肌のでかい男の肩に、サソリの尻尾の形をしたステッカーを貼ったグラフィオスがいた。声の主はそのグラフィオスらしく、気付いたメリーは次の瞬間心底嬉しそうに笑った。
 「ケイティさん!」
 「おお、やはりメリーか! 久しぶりだな!」
 笑顔で言葉を交わす二人を、俺たちは目を丸くして見ていたが、やがて男が口を開いた。
 「ケイティ、彼女は?」
 「マスター、彼女がメリーだ。以前わたしを救ってくれたメリエンダの話をしただろう?」
 「おお、そうか……。しかし信じられないな、どう見てもノーマルだが」
 「ふふ。マスターよ、あまり彼女を甘く見ない方が良いぞ」
 その会話を聞いた俺は、ふっとこの人を思い出した。そうか、あの『熱砂の戦鬼』、ケイティと佐名木一馬か!
 「な、おい輝! この人お台場の有名人だぞ! なんで知り合いなんだ!?」
 「いや、俺が知り合いって言うより、メリーが?」
 自分の神姫と言葉を交わした佐名木さんは、今度は俺の方を向いた。
 「ああ、済まない。俺は佐名木。以前ケイティが世話になったようだね」
 「あ、俺は島津っす。こっちこそメリーが世話になったみてーで」
 「俺森本っす! 会えて光栄っす! あ、俺カスタム武装の販売とかやってるんで、よかったらこのサイト使って下さい」
 「ぼ、僕水野です」
 佐名木さんは俺たち三人(と神姫三人)をぐるっと見てから、
 「良ければ、少しコーヒーでも飲みながら話をしないか?」




※※※



 というわけで、佐名木さん先導でセンターの一階にあるスタバで話をすることになった。何の迷いも無くスタバに入るとはさすがランカー、豪気なもんだと言うべきなのか。一応述べておくと、スタバのメニューは結構高いのだ。
 「直也、お前金大丈夫なのか? 金欠とか言ってただろ」
 「い、いんだよ。有名人と話ができるんなら安いもんだ」
 俺と直也がアイスティー、健五がオレンジジュースを注文すると、佐名木さんは「甘い物は好きになれなくてね」とアメリカーノとサンドイッチを持っていった。
 壁際の席に着くと、まず神姫が談笑を始める。
 「ケイティさん、私の友達です」
 「お初にお目に掛かります。わたくし、アッシュと申します」
 「は、初めまして! く、クレアです!」
 「はっは、そうかしこまらんでいいぞ。メリーの友はわたしの友でもあるのだからな」
 「そういうわけにもゆきません。……しかしこの堂々とした態度、マスター直也にも見習って頂きたいものです。そもそもマスター直也は……(クドクド)」
 その姿を眺めながら、俺たちも食事しつつ本題の話をすることに。
 「それで、今日はなんの騒ぎなんすか?」
俺がそう聞くと、佐名木さんはかじりかけのサンドイッチを置いて、不思議そうな顔をした。

 「なんだ、知らなかったのか? 今日は『あの』城ヶ崎が来ると聞いて皆集まっているんだ」

 瞬間、俺はアイスティーを吹き出しそうになった。
 「エッ! 城ヶ崎が!?」
 直也が驚くのも無理は無い。俺だってそうだ。
 ただ一人、「誰なの?」と首をかしげる健五に、直也はタイミング良く持ってきていたらしい雑誌を興奮した様子で見せた。
 『城ヶ崎玲子、名古屋の川名兄弟&イーダコンビに快勝』……カラーページを華々しく飾る、ポニーテールに派手目なファッションの女。これが城ヶ崎だ。
 「強い人なんですか?」
 「ああ。普段は横浜の方が拠点らしいんだが、たまにふらっと他のバトル激戦区に来ちゃ求められるままバトルするっつーファーストランカーだ」
 「俺とケイティもまだ修行中の身なんでね、是非とも戦いたいと、ここまで来たわけさ」
 「……やべえ、イカめしなんか買うんじゃなかった」
 「だーから言っただろうが! 城ヶ崎だぜ? マジの」
 直也がそう言い終わった時、エスカレーターの方が騒がしくなった。
 「む、来たか。行こう」


 しかし対戦コーナーに戻っても、城ヶ崎らしき姿は見えなかった。と言うか混みすぎだろ。ちょっとした芸能人並みだ。
 こりゃ迷子でも出そうだな……。
 「あっ……待ってよ、輝さーん!」
 「あ、健五!」
 俺がそう思ったそばから、人の波に呑まれて健五の姿が見えなくなってしまった。




※※※



 「……うーん、輝さん達どこに行っちゃったんだろう?」
 流されてしまった僕とクレアは、エレベーターの近くまで来てしまった。
 「早く戻らないと……あっ! ご、ごめんなさい……」
 「ってーな! どこ見てんだガキ!」
 「うあっ!」男の人にぶつかった僕は、はじき飛ばされてしまう。
 「マスター! ……あなた、マスターに謝って下さい!」
 「ああ?」
 クレアが男の人を睨んだ時だった。


 「きみ~、今のはちょっちマナー悪いわよー」


 後ろから声がして、紫のワンピースを着た女の人が歩いて来る。
 「なっ……、じょうがさき……さん!」
 「センターはみんなの遊び場なんだからさー、もうちょっと節度ある行動をお願いしたいなー。はい君、どうぞ」
 「え、あ、ありがとうございます……」
 転んだままだった僕に、女の人は手を貸してくれた。って、この人、さっき見せてもらった雑誌に載ってた人じゃ!?
 女の人の肩には、見た事の無い神姫が座っていた。……うーん、見た事が無いって言うよりは、何って言ったら良いんだろう……。黒い……?
 「貴方、前の秋葉原大会にもいたわね」
 「えっ!?」
 「……消えなさい。私たちに取り巻きは必要ないし、仮に名乗りたいのであれば、もう少し常識を身につけることね」
 「ぐっ……」
 そう言った黒い神姫にとても冷たい目で睨まれて、男の人は逃げるようにどこかへ行ってしまった。
 「あの、ありがとうございました……」
 「んーん、いいのよ。君、迷子かな?」
 「うっ、まあ……そう、です」
 「そっかー。じゃあ一緒に探そっか?」
 十四歳なのに迷子扱いされるなんて……輝さんのバカ!
 でも、女の人と神姫はなんて言うか凄くキレイで、クレアはあこがれの先輩でも見るような目でずっと黒い神姫を見ていた。



※※※


 どこに行ったんだ健五は。対戦コーナーの隅っこで待っていても一向に現れない。
 「城ヶ崎も来ねえしな。どうしたんだ」
 その時、エスカレーターの方の人混みが急に割れた。
 「あ、いたいた! おーい、買い物袋の君ー!」
 買い物袋の君って、俺か? ……って、おい……。
 「ありゃん? ワオ! 佐名木クンじゃない?」
 「城ヶ崎!?」健五と城ヶ崎が手をつないでやって来た!? どういう事だおい。
 「ハーイ! 佐名木クン。相変わらずおっきな体してるわね。友達も一緒なの?」
 「……城ヶ崎、君と詳しく話をするのはまだ二度目なんだが。それに今日は世間話をしに来たんじゃなくて、対戦に来たんだ」
 「いいじゃないの。同じオーナー同士のつながりって大事よ」
 全国区のランカーともなると個性的な人物が多いが、群がってくるファンをあしらいつつ佐名木さんに話しかける城ヶ崎は、なるほど雑誌のインタビュー記事通りに美人でかつハイテンションだった。俺は本人を見るのは初めてだったが、この女性は終始こうなのだ。
 俺と健五、ガチガチに固まっている直也にも明るく話しかけてきた。
 「へー、ミズリンって佐名木クンの友達だったのね。彼はお兄さん?」
 「違いますよっ。それにミズリンってなんですか」
 「普通に話してる……あ、俺島津っす。こいつは森本」
 「イエ―イ! よろしくー。あ、あたし城ヶ崎ね。はいこれ名刺」
 そしてオーナーの左肩に超然とした態度で居座る、黒い神姫。俺たちの神姫四人を見たそいつは、オーナーのテンションに呆れたように溜息をついた。
 「うるさくてごめんなさい、皆さん。それにしてもクレア、貴女の交友関係って面白いのね。ここでケイティに会えるとは思ってもみなかったわ」
 「はいっ! それに、メリーさんもアッシュさんも凄く強いんですよ!」
 「はっは、何だか分からんが、また会えて嬉しいぞ、アテナよ」
 城ヶ崎の神姫、アテナ。タイプはラプティアスだが、ボディは黒と灰色。髪は緑という『エアドミナンス』なるモデルになっている。
 「申し遅れたわ、私はアテナ。よろしく、ケイティのご友人方」


※※※


 「渋谷系の彼の神姫がフォートブラッグなのね? あっ、この子ってテレビに出てた子じゃない? ウェイトレスの?」
 ファンから逃れて休憩室で軽く会話をしたら、迷子になった健五を城ヶ崎が助けた、というのが分かった。しっかしよくしゃべる人だ。俺  と、横で完全に浮かれきった様子でへらへらしている直也が話しかけられている間、メリーとアッシュの視線が痛かった。
 「それで城ヶ崎さん、このミサイルランチャーなんすけど、お値段なんと……」
 「うーん、ちょっと高いなー。でもいいなあこーゆー空気。しまぴー、君も神姫と働いてるんでしょ? いいねいいね、健全な神姫ラーイフ! って感じ」
 しまぴーって何だよ。……まあそりゃともかくとして、思ったより神姫達も仲よさそうで良かった。
 「あの、全国ってどんなところですか?」
 「そうね、とても面白いところよ。でも一筋縄ではいかないわね」
 「ハハハ、アテナよ、そうルーキーを不安にさせるようなことを言うな。……さて、世間話はここまで、そろそろ試合をしようか」
 ケイティとアテナの周りの空気が変わる。
 「オッケー。じゃあレッツロンド!ってことで」
 城ヶ崎と佐名木さんが席を立ったが、その時、クレアがある爆弾発言をしたのだ。


 「あの、あたしも戦いたいです!」


 「「え?」」
 「ええ?」
 クレアのその発言に、俺たち全員が耳を疑った。
 「いやいやいやいや! 駄目だろクレア!」
 「そうだよ! 絶対勝てないって!」
 「でも、全国レベルの人と戦える機会ですよ? あたし、強くなりたいんです!」
 「強く……なりたい?」おいおい、勘弁してくれ。と思ったがしかし、事態は余計にややこしくなっていった。
 「……私も、戦いたいです」
 何故か、さっきから城ヶ崎とアテナをじっと睨んでいたメリーまでもがバトルに参加したいと言い出したのだ。
 「ちょっ、メリー止せって!」
 「こら、先にわたしが戦おうと思ったのだぞ。お前たちは駄目だ」
 「でも! ……」
 「んーんー、そうよねえ、あたしとしてはオッケーなんだけどさ、ケイティっちが納得しないかもだし、時間も押してるしなあ……。ねえしまぴー、なんか良い考え無い? どうぞ!」
 「え!? いやっ、いきなり言われても」
 余計な事を言うようだが、さっきは厄介でしかなかったイカめしが、城ヶ崎の注目を直也よりも俺に引きつける役目を果たしているみたいだ。グッジョブイカめし。俺だっていっちょまえに美人と話をしたいと思いもす……おほん。
 「ふう。人をおもちゃのように取り合わないでくれるかしら?」
 アテナが困っていると、城ヶ崎は一人で大変な結論を出してしまった。


 「そーか! 三対一で戦えばいいのよ!」


※※※


 「何で俺は参加できねえんだ……」
 「日頃の行いで精神がたるみきっているからです、マスター直也。そもそも男子たる者は即断即決……(クドクド)」
 数分後、対戦コーナーの一角はギャラリーで埋め尽くされていた。
 俺と健五は隣り合ったシートに座り、バトル前の事前設定をする。
 「輝さん、大丈夫かな?」
 「もうやるしかあるめーよ。決まっちまった以上は全力でかかるしかねえ」
 城ヶ崎の提示した条件にどのオーナー、神姫にも異論は無く(俺と健五は渋々従ったものの)、立ち上がったアテナの「早く始めてしまいましょう」の一言で試合開始は決定されてしまった。鶴の一声ってやつね。
 「楽しみですね、マスター!」
 セッティングの間、クレアの意気込みとは反対に、メリーはずっと思い詰めたような表情だった。
 「メリー、どうしたんだよ?」
 「……」
 返事は無い。そうこうしている間に、
 「みんなー、準備オッケーかしら?」
 城ヶ崎から通信が入り、釈然としない気分のまま、試合が開始された。


※※※



 今回のフィールドは砂漠だ。『熱砂の戦鬼』の異名を持つ佐名木さんのケイティと、飛行能力を持つアテナには有利な場所かもしれない。
 グラフィオスの武装をベースにストラーフMK2などの重装甲パーツでカスタムされたケイティは、メリーとクレアを振り返る。
 「……メリー、こんな流れになってしまうとは予想しなかったが、仕方有るまい。お前になら背中を預けられる。頼むぞ」
 「はい」
 何だって、さっきからメリーはこうも余裕の無い様子なんだ。そう考えていると、アテナも転送されてきたようだった。

 「いつも思うけど、あまりやかましい聴衆は好きじゃ無いわね」

 そうこぼすアテナの武装は、ボディのカラーと同じく黒だった。ただ、普通のラプティアスの武装をリペイントしただけのものじゃなく、右手には追加武装のポールアックスがある。
 「油断するなよ」

 ……しかし、試合開始が宣言されても一向に戦闘が始まらない。
 「……あの」
 それというのも、クレアが目を輝かせてアテナをずっと見ているからだ。
 どうしたらいいのかといったような顔で、アテナは笑った。
 「そんなにじっと見られると、やりづらいわ」
 「あっ、す、すみません! あのっ、こんなに強い人がいっぱいなのって初めてで……え、えへへ……」
 「ふふっ、そう硬くならなくていいわ。さ、始めましょう」
 気を取り直して、アテナは宙に舞い上がった。



 試合展開はのっけから速いものになった。
 まずはメリーがけん制の一射。しかしアテナは軽くかわす。
 「チェストー!」
 そこにケイティが長刀を振り下ろすも、これもかわして背中に『レッドスプライト』の正確な一発を撃ち込んでくる。
 「ケイティ、メリーの援護に回るんだ!」
 「よし、クレアはその後ろから頼む!」
 佐名木さんと俺の指示が飛び、神姫達が陣形を作る。メリーが切り込み、ケイティが防御。クレアは援護射撃のバックアップ。即席のチームだが、なんとかやってみれば出来るはずだ。
 今度はメリーがフォークを抱えて突撃するが、さっと横にかわしたアテナは蹴りをいれてはじき飛ばし、クレアへとポールアックスで斬りかかる。
 「わわっ!」
 だがケイティが飛び出すと、その装甲を使って体で受け止めた。
 「ぬんっ!」
 「!」
 ダメージなど気にもとめない、荒々しい戦法。これが戦鬼と呼ばれるゆえんなのか。アテナが距離を離す。
 「大丈夫か?」
 「は、はいっ」
 「焦ることは無い。もっと肩の力を抜け」
 「はいっ! よ、よ~し、いきますよ! ……っとわああっ!」
 勢い込んで走り出そうとしたクレアは、砂に足を取られて転んでしまった。ギャラリーからは笑いが漏れる。
 「う~っ……。へ、平気平気! ええい!」
 体勢を整えたクレアは、バックパックのバリスティックブレイズを掃射する。その射線は意外にも、当たらなくとも的確にアテナの軌道を追っていて、俺は舌を巻いた。
 やはり少しずつ練習の成果が出てきていて、クレアもそれを実感しているのだろう。援護がしっかり固まってきた事で、前の二人にも安心感が生まれる。
 「メリー、パンチで行け!」
 「はい!」
 「やはり一筋縄ではいかんか……。マスターよ、『蛇の牙』を頼む!」
 メリーがスプーンの先端を盾のように手首のジョイントに接続し、ケイティが転送された二叉の槍を手にする。
 「やあっ!」メリーが格闘戦を仕掛け、アテナが右手で防いだ隙に、ケイティが反対から挟み撃ちにする。
 「そこだ!」
 アテナはシールドで防ぐも、なんと槍が当たった部分が溶け出した。急いでシールドを切り離すと、地面に落ちてじゅうと音を立てて消える。
 「酸の槍……か。面白い武器を使うわね」
 「本当は次の地区大会まで取っておくつもりだったんだがな。だが、女神を相手に全力で向かわぬ訳にはいかんだろう」
 ケイティの言葉にも、しかしアテナは面白いと言っておきながら笑わない。ただ涼しいというか余裕の表情のまま戦闘を続ける。



※※※

 中盤までは、互いに戦況は膠着していた。
 実際、あのアテナを相手にここまで立ち回れたのは充分だろう。次第に、ギャラリーのテンションも上がってくる。
 しかし、ここに来て勝負の女神は……アテナの味方をする方を選んだのだ。



 きっかけは小さなことだった。
 後退射撃をするアテナに、メリーが追いすがる。
 ここまでで、アテナの損傷は僅か。何としてでもダメージを与えたい。メリーが銃弾をかわし、アテナに肉迫する。
 しかしその時だった。

 「ええーい!」
 「あっ……きゃあっ!?」

 クレアの撃った弾が、タイミング悪くメリーを直撃してしまったのだ。
 「あっ、メリーさん!?」
 「大丈夫です! それよりも相手を!」
 「は、はい……」
 「クレアよ、失敗は戦果で取り戻せばよいのだ」
 クレアは武器をフェリス・ファングに変更して、改めて戦闘に戻る。
 俺たちはここでフォローしたつもりだった。だが、あくまでそれはつもりであったのだ。そしてそのために俺たちは、大きな代償を払うはめになってしまった。




 それからも、アテナにダメージを与えることは出来ないでいた。
 ケイティは飛び道具が少なく、メリーにも高速で三次元軌道をする相手に当てられる銃器は無い。かといって接近戦にも持ち込めない。
 よし。ならばあれだ。
 「健五、ここは協力プレーで行くぜ。俺の指示した動きをクレアに伝えるんだ」
 「え?」



 「……」
 アテナの目が、何か状況が変わったというのを捉えたようだ。
 さすがは『女神』の異名を取る神姫の勘か。いや、特別製神姫としての性能と、日々の研鑽がそうさせるのかもしれない。いわば、努力する天才ってところか。

 さっきまで防御に回っていたケイティは、今は積極的に前に出ている。一方で、メリーとクレアは互いに距離を置きながら、アテナを挟むように動く。
 「……」
 「くっ、流石に素早いな」
 ケイティの槍がアテナの脇腹をかすめた、その時だ。


 「メリー、クレア、今だ!」

 メリーがスプーンを地面に突き立て足場に使って、アテナめがけて飛ぶ。
 「はっ!?」
 気付いた時には、もう遅い。メリーがアテナの胴に取り付き、クレアがそこを狙い撃ちにするため、プレシジョン・バレルを構える。メリーに組み付かれたアテナは、姿勢制御に手一杯で射線を外す事が出来ない。
 「くっ……しまった!」
 おおっ……っとギャラリーがざわめく。まさに値千金のチャンス。トリガーを引けば、アテナへのダメージは確実。
 「いけ、クレア!」
 何もかも作戦通りだった。健五もクレアも指示した通りに動いてくれた。
 だったが、その先が問題だった。


 「……あ……」


 銃を構えるクレアの手がいきなり震えだしたかと思うと、なんとクレアは銃を下ろしてしまったのだ。
 「っ!? クレアさん、早く!」
 「何をしているのだクレア、撃て!」
 だが動かない。俺たちは一瞬だけ、しんと静まったままだった。
 そして、ここで最初に動いたのは――アテナだった。

 「……何故なの……」

 聞き取れないほどの声で何か言ったかと思うと、それまでなんの感情も表さず、むしろ余裕すら感じさせていたアテナの顔に、はっきりとした憤怒の色が現れた。
 「あっ!」
 メリーを振りほどき、ポールアックスに追加のパーツを装着する。そして、凄まじい速度で棒立ちのままのクレアに斬りかかった。
 「あっ……が!」
 大剣が一閃し、吹き飛ばされたクレアは岩に叩きつけられ動かなくなる。
 「……VGスラッシャーまで使わなくても良かったんじゃないの?」
 城ヶ崎の言葉を無視して、ダウンしたクレアに背を向け、ケイティに接近する。
 「くっ、なんだ?」
 一体どこにそんな力があったのか。そう思わせるほど、今のアテナは鬼気迫っていた。とっさに槍の柄で受け止めようとしたケイティだったが、
 「ぐ、うううっ!?」
 大剣で槍ごと真っ二つに斬られ、消滅。これで二人が戦闘不能に。
 「強い……」
 あっという間の出来事だった。残されたメリーの目にも、僅かな怯えのような色が浮かぶ。
 「あ、あ……」
 そんなメリーを猛禽のような瞳で睨み、アテナが一歩ずつ迫る。
 「う、うわあああああ!」
 闇雲に拳を繰り出そうとしたメリーをかわし、背後から胴に手をまわすと、アテナは空中に飛び上がった。そのまま、雲一つ無い超高空まで達し、今度は地上を目指して落下してゆく。
 この技は……! と、俺は心の中で戦慄した。
 「『イーグルフォール』だ!」
 直也がそう叫ぶのと、連れ去ったメリーをアテナが頭から地面に叩きつけるのがほぼ同時だった。


※※※


 砂が高く舞い上がり、アテナが音も無く着地する。
 「……」
 「う、ううっ……」
 しかしメリーはまだダウンしていない。震える膝を無理に動かして立ち上がると、スプーンを取り出した。
 「……骨はあるみたいね……」
 得意技を食らってもまだ動いていられるメリーに、たったそれだけ感想を漏らし、
 「このっ、このぉぉぉーっ!」
 スプーンを振りかざしながら迫ってくるメリーの胸に、その場から微動だにせずナイフを突き立てた。
 「がうっ……あ、あああ……」
 メリーの目から光が失われ、がくりと崩れ落ちる。
 決着を告げるジャッジのコールと、観衆の熱狂的な歓声の中で、アテナは氷のような目でメリーを見下ろしていた。


※※※


 シートから立った俺は、複雑な気持ちだった。
 『女神』が相手じゃしょうがないという気持ちが七割、勝てなかったのは悔しいと言う気持ちが三割。
 「輝……大丈夫かよ?」
 もうギャラリーはほとんどいなくなり、近づいてきた直也がそう言った。
 「ああ、俺はいいんだけどな」
 肩のメリーは、俺と目を合わせたくないかのように視線を外す。さっきからどうしたってんだ。
 そこに城ヶ崎とアテナがやって来て、床の上で放心したように座り込むクレアの前に立った。
 「……話があるの」
 クレアを見下ろして、アテナは言った。
 「何故あの時撃たなかったの?」
 「……怖かったんです。……またメリーさんに当たったら、どうしようって……」
 力無くそう言ったクレアに、アテナは、


「そう。なら、もうバトルなんてやめてしまいなさい」


 「えっ!?」
 「自分が引き金を引くのをためらっても、相手がそうしてくれるとは限らないわ。貴女の判断が状況を瓦解させ、チームを敗北に追いやったのよ」
 アテナはそう言うと背を向け、城ヶ崎の肩に戻ると、最後にこう言った。
 「バトルからは足を洗うことね。貴女には向いていないし、何より不愉快だわ」
 心の底から軽蔑した声だった。
 アテナはそれ以上は何も言わず、下を向く健五とクレアを見た城ヶ崎は、
 「あちゃー。……まあ、なんか困った事あったら連絡してね。じゃー、時間だから」
 と言って去って行った。
 俺も佐名木さんも、誰も彼も押し黙っていた。
 「……う、ぐ……えっく……ごめっ、ごめんなさい……ひくっ、ごめんなざいぃ……う、うあああぁぁ……うわあぁぁぁ~……ああ……」
 ただクレアだけが、涙でぐちゃぐちゃの顔で、ずっと泣き続けていた。
 一体誰に謝っているのか、もう分からなかった。



※※※

 サインや握手を求めてくるファンを笑顔であしらいながら、城ヶ崎玲子はセンターの駐車場へ向かった。
 止めてあった赤い軽自動車の座席に座って、ハンドバッグからキーを取り出しながら、隣のアテナに言う。
 「珍しいわね。あなたがあそこまで言うなんて」
 「別に。あの子はバトルの世界にいたら後悔すると、そう思っただけよ」
 「ふーん。……昔の事でも思い出しちゃった?」
 ぴくり、とアテナの眉が跳ねる。
 「……貴女のそういうデリカシーの無いところ、私大嫌いだわ」
 「はいはい。じゃ、主任に怒られるし、早く行きましょうかね」
 二人を乗せた車は、出口へと走り去っていった。


※※※

 結局あの後はうやむやになって終わってしまい、俺たちは重い足取りで店まで帰ってきた。
 佐名木さんとケイティは別れ際まで「気にするな」と言ってくれたが、メリーはずっとぶすくれたままで、部屋に入るとすぐクレイドルに横になってしまった。
 話を聞いた雅は「ま、たまには良い薬でしょ」と言っていたが、俺は心配で仕方ない。
 仕事が終わってからまた部屋に戻ると、メリーは寝付いていた。俺も布団に寝転がって、今日のことを考える。
 なんでメリーが戦いたがったのか、アテナがキレたのか……。まるで分からない。
 こんな時、相談できそうな人は……。
 「よし」
 俺は思いきって携帯を取り、電話をかけた。


※※※


 目が覚めると、もう朝になっていた。クレイドルで寝ていた私の頭はもうすっきりしていて、昨日のことも冷静に考えられた。
 昨日はアキラさんにもみんなにも、たくさん迷惑をかけた。
 あの時アテナさんを見てから、私もやれば出来るんだって証明したくなって、でも結局は負けてしまった。
 別に気にしなくても良かったのかもしれない。私はあの時アキラさんに出会って、生まれ変われた、はず、なのに、なのに――。
 「……ううん、切り替え切り替え」
 クレイドルから降りてお店の方へ出ると、おじさまがいた。
 「おじさま。お早うございます」
 「ああ、おはよう」
 「あら? アキラさんはどちらに?」
 「ああ、出かけたよ。城ヶ崎さんっていう人と会うって言ったけど」


 ……え?


~次回予告~
輝と城ヶ崎が……なんとデート!?
「きいぃ~っ!」
しかも事態はますます混迷を深めることに!?
「浮気者!」
次回、 第十四話 チョコレートケーキを追跡せよ! お楽しみに!

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