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すとれい・しーぷ007


「最初は勝たなくてもいいさ」
ふと、ルキスの頭に碧の言葉が蘇る。
いいえ、この戦いは、負けられません。
メルのためにも、オーナーのためにも。
そして何より、自分のためにも。


アクセスポッドに寝かされたルキスは、電子の海を通過し、バトルステージへと降り立った。
広い海原が視界に入る。燦々と照りつける太陽はまるで彼女を焦がすかの如く注ぎ足元の砂を焼いた。見渡す限りでは、そう広くはない。対岸のビーチに、天使が舞うのが見えた。
索敵機能のついた武装をしていないルキスにとっては好都合と言えるだろう。
緊張を和らげようと、ルキスは自分の頬を軽く張った。すぐに状況の分析に入る。
ステージは浜辺。打ち寄せる波のギミックがこのステージ最大の特徴だ。
泳ぐ手段のない神姫が流されれば、即THE・END。ルキスはぞくりと背筋が凍るのを感じた。
(ユノはまず、オーナーの指示を待っていた・・・わたしも、オーナーの指示を待って・・・)
先ほどメルに見せてもらったメモリーを思い出す。この戦闘は、先ほどのおさらい。ルキスは心の中で繰り返す。
しかし、いつまで経ってもオーナーの指示は飛んでこない。
ルキスは困惑する。目の前に天使が詰め寄ったからだ。
『棒立ちでは、勝てないわよ!』
アーンヴァルの特徴である飛行ユニットを吹かし、突進してくる相手。
ルキスはオーナーの指示を待てず、横にステップすると、その突進を避けた。
『お、オーナー!どうぞ、ご指示をっ!』
ドッ、ドッ、と早鐘を打つCSCをおさめようと、ルキスは自身の豊満な胸にそっと手を触れた。
その間にも、アーンヴァルはライトセイバーを抜きルキスに襲い掛かって来る。
『あはは、貴女達みたいなヒヨコちゃんを狩るのって、たまらなく楽しいわぁ!』
狂ったように蒼眼を見開いて叫ぶアーンヴァルにルキスは恐怖した。
神姫とは、オーナーに似るものだ、と自ずと考えていたからだ。
きっと目の前の天使も、起動したては、正々堂々のバトルを楽しんでいたに違いない。
しかし、あの不良オーナーの指示に逆らえず、非道なバトルを強いられ、ついには壊れた。
身体が、ではなく、心が。否、心はまだ壊れていない。最後の一欠片を守るため、自ら狂ったのだ。
まるで堕天した神の御遣い。
『オーナー、指示を!オーナー!』
その姿は何処となく、己のオーナーに似ている、とルキスは思った。
『あははは、哀れ哀れぇ!初心者オーナーの指示なんてあてになんないわぁぁ!!』
堕天使は快感を貪るかの如くその光の剣を横に振り抜く。
ガッと鈍い音がして、寸前で身をかわそうとしたルキスの胸部パーツを僅かに削った。
『次は貴女のCSC、もしくはコアユニットを貫くわ』
うっとりしたような声で相手が言った。ルキスは身震いをした。


「アベル、指示を出せ!」
碧は思わず叫んでいた。先ほどから棒立ちで、まともにルキスに指示を出さない瑠璃を見つめて。その両肩は震えている。
ディスプレイ越しに見えるルキスはいたく焦った様子で健気に彼女に助けを求めているというのに・・・。
「くくく、ほれみろ、やっぱ初心者じゃねぇか!」
そんな瑠璃を見て、不良は笑った。嘲笑を込めて。
ギャラリーもがっかりしたように肩を落す。やはり有名プレイヤーの語りか、と。
やはり瑠璃には早すぎた復帰だったのかもしれない。
完全に場の空気がアウェイになりつつある中、大型ディスプレイから、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
『きゃぁぁぁぁぁぁあ!』
脚パーツを打ち抜かれたルキスが熱された砂の上に倒れた。
『うふふふふふ、終わりね』
堕天使は先ほど換装したのであろう大型のレザーライフルを構えた。
エネルギーがその禍々しい口径に充填される。
終わった、誰もがそう思った瞬間、人混みを割いて紅が現れた。
「どうなってる!?なんで瑠璃が?」
「おせぇよ、紅・・・いや、カイン。今、瑠璃って呼ぶとまたどやされるぜ」
紅は大型のディスプレイに映し出される光景を見て、瞬時に状況を理解する。
「オーケー、そういう事なら任せておけ」
おもむろに取り出したのは後生大事に抱えていた大きな袋。
そこから顔を出したのは使い込まれた、しかし丁寧に磨きあげられたアコースティックギターだった。
「エレキじゃなくて悪いが・・・聴け、アベル!」
乱暴にかき鳴らされたそれは、オーナーの耳に届いて、彼女の中に消えた。
先ほどまで硬直していた指先が踊り出す。


『充填完了。さよなら、ヒヨコちゃん』
冷ややかな笑みとともに、光の塊がルキスを飲み込んだ。
画面が白く塗りつぶされる。ギャラリーはなんだ、とつまらなそうに視線をそらし、各々の作業に戻ろうとする。
「ねぇ、あれ見て!!」
一人の少女の声に興味を失っていた観衆の視線がディスプレイに集まる。
そこには雄大な金縁に盾に身を隠し難を逃れた褐色の神姫が立っていた。
砲撃の瞬間、オーナーがサイドボードより咄嗟に送り出したのだ。
『ウールグリーズ・・・?オーナー!』
ルキスは歓喜の声をあげる。同時に役目を終えた盾が0と1に還元され消えた。
「ごめん、ルキス、反撃開始だ」
『はい!・・・はい!』




けたたましく鳴り響くギターの音に合わせ、会場のボルテージが上がっていく。
脈打つ鼓動が音楽に溶ける。言葉が自然と零れ落ち、導となる。
「脚部パーツをパージ、接近戦へ移行、双剣を転送する」
瑠璃の言葉を聞くや、ルキスは動き出した。
確信していた勝利を覆され、アーンヴァルは動揺を隠し切れない。
その隙を突くように、ルキスは脚部パーツの膝を折り曲げ勢いよく伸ばす。
伸びきった頂点、プシュと小気味よい音と共にパーツがパージされる。
抑えをなくした身体は際限なく加速し、目の前の堕天使へと突進する。
『ぐぅぅ・・・!』
その勢いを殺そうと、彼女は腕を胸の前でクロスさせる。
しかしルキスの手元にデータ粒子が集まったかと思うと、それは光の速さで凝縮・固体化し、アーンヴァルの腕を貫いた。
クリアイエローの刀身が偽者の太陽の光を受け煌く。
大きく見開かれた蒼眼は次なる一撃、もう一対の剣を捉えていた。
深く刺さった剣は逃げることを許さない。バチバチと火花を散らし天使を釘付けにする。
『そいつを海のほうに投げろ!』
不良オーナーは咄嗟の判断で叫ぶ。他に策のない堕天使はそれに従い、ルキスを刺さった剣ごと海の方へ放る。
落ちればゲームオーバー。飛行手段を持たないルキスへの対応としては満点だ。
だが、この状況で笑ったのは、むしろオーナーだった。
『お、オーナー、おおお、落ちちゃいますぅぅ!』
ルキスの情けない叫びを飲み込むように、波は巨大なうねりを上げ襲い掛かる。
「ルキス、剣を破棄、眼を開けて!大丈夫、キミは落ちない」
オーナーの優しい声にルキスは決意の眼差しで襲い来る高波を睨んだ。
手元の剣が還元され消えていく。代わりに現れたのは先ほど彼女の身を守った大型の盾。
波間に揺れて、主を待ち構えている。
「はっ、変な所に盾なんか出しやがって!一瞬焦ったが、やっぱ下手糞じゃ・・・」
罵声を浴びせかける不良は目の前の光景に口を閉ざした。否開いた口が塞がらない。
そのまま転落して、海の藻屑になるはずだった羊が、波間に仁王立ちしているのだ。
『おおお、オーナー、やっぱり無理ですぅ!サーフィンなんて、しした事ないんですからぁ!』
がくがくと震える脚は弱気な発言とは裏腹に波をとらえ、確実に浜辺へと向かっている。
アーンヴァルはあまりの光景に動けない。浜辺近く、ここ一番の高波にルキスが乗ると、オーナーは次なる指示を出す。
「上手だよ、ルキス。そこから敵の上空へ飛んで肘を曲げて待機。メリノを送る」
メリノ、あの巨大な強化アームのことだ。ルキスは反射的に反論していた。
自宅で持ち上がらなかったのだ。実践で使えるわけがない。
『こ今度こそ無理です、オーナー!わたしの力じゃああれは持ち上がりませ・・・!』
言い切らぬまま、腕周辺にデータが集まる。それは鈍い音を立てて形を成して行き、禍々しい腕となった。
と、重さに引っ張られルキスの身体が空中で反転し、頭からアーンヴァルに突っ込む。
あまりのスピードにルキスは眼を閉じた。
「ルキス、そのままでいい、怖いだろうから、少し目を閉じておいて」
澄んだ響きで頭にリザーブする声に従う。
と、曲げた肘が微かに熱くなるのを感じると、直ぐにその熱が爆発した。
「ブースト、だと・・・!?」
不良の口からやっと出たのはちんけな台詞で。
重力とブースとで加速した神の腕は、堕天使を頭から押しつぶすように破壊した。
『がぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁあああぁ!』
断末魔と共にデータに還元されたアーンヴァルが消える。
おそらくはポッドに帰還したのだろう。ルキスは放心状態で、地面に突き刺さる己の腕を見ていた。


“WINNER Lchis”
眼前に現れた文字の意味もわからずに。



紅の演奏が終わると同時の決着。
ポッドの蓋が開いた瞬間、ルキスはギャラリーの歓声に包まれていた。
「すげぇ、勝っちまった!」
「本当に狂い羊!?」
「いい乳だった・・・!」
三者三様の歓声に戸惑いながらもルキスはオーナーを見上げた。
当のオーナーもやや惚けた感じで、立ち尽くしていたが、視線に気づいたのだろう、優しく人差し指の腹でルキスの頭を撫でた。
「なんなんだよ!お前ら・・・!」
叫ぶように声を上げたのは、アーンヴァルのオーナーの不良高校生だった。
まさか自分の獲物に負けるとは思わなかったのだろう。拳を握り締め肩を震わせた。
「みゅー。だから最初に言ったのですみゅ。お兄さん達は終わりだって」
楽しそうに笑うメルがおさまる己の腕を不良は天高く持ち上げた。
そして高速で振り下ろす。
「だったら、お前が壊れろよ!」
怒りに満ち満ちた声は一瞬センター内を凍りつかせた。ついで、その氷が一気に溶け出し悲鳴や非難に変わる。
「あ、碧!メルがぁ・・!」
ルキスの弱々しい声を受け、碧は慌てるでもなく、うろたえるでもなく、笑った。
まるでメルは大丈夫だ、といわんばかりに。
「みゅうぅー。中々の投擲ですみゅ。でも、あたしは猫型の神姫ですみゅ。高いところから降りるのは得意なのですみゅ」
くすくすと急速に加算される重力加速度をものともせず、メルは空中で一回転を極めると、体操選手が鉄棒から降りるように両手を挙げシュタッと音を鳴らし地面へと降り立った。
「お兄さん達があたしを掴んだ時から、狂い羊の生贄になることは決まっていたのですみゅ」
ぼそりと、不良に放った言葉は、暗く、ドスの利いた声。メルの瞳には確かに狂気が宿っていた。
「ひ、」
それに臆した不良は生贄の天使と共にセンターから逃げるように姿を消した。
その情けない後姿にセンターの客の罵声が飛ぶ。ルキスは彼を少しだけ哀れに思った。
「おいおいメル、まさか全部計算通り、とか言うんじゃないだろうな?」
碧の呆れた声にメルは小さな舌をぺロリと出して応えただけだった。


「それにしても、すごかったな・・・まだ現役なんじゃないか?」
夕暮れの綺麗なグラデーションが空を支配する。
港の風は、ほんのりと潮の香りが混ざり、特別な気分になった。
そんな中出た、碧の茶化すような言葉にオーナーはかぶりを振る。
「なんでですみゅ?地形と落下を利用した、アーちゃんリーダーらしい戦い方でしたみゅ」
オーナーの反応にメルも大きな瞳を丸くして声を上げた。確かに、完全に不意を突いた、狂い羊らしい戦い方だった。
ユノの戦いのログを見せてもらったルキスも、先の戦いは完璧だったと思っている。
なのにオーナーは、何故否定するのか。
ふと、オーナーの肩に鎮座していたルキスに、白い手が伸びる。
それはルキスの身体を掬い、優しく包んだ。そして、そっと壊れ物を扱うが如く、ルキスの胸パーツに細い指が触れる。
思わずビクリと身体を硬直させてしまったが、上から降ってきたオーナーの優しい声に、緊張は解けて消えた。
「一発もらった。私のせいで、ね。・・・バーチャルだったから傷は残らない。でも、これがリアルファイトだったら?・・・それに、紅の演奏がなければ、ずっとあのままだった。ルキスを見殺しにしてた」
搾り出すような苦しい声。さらにオーナーは声を詰まらせる。
海に堕ちていく夕日を眺めて、たっぷり息を吸った。
後に続く言葉は予想すらしていなかった言葉で。
「あれは、ユノの戦い方だ。ルキスはルキスの戦い方が、必ずある。それを見つけるまで、狂い羊は還って来られない」
わたしの戦い方・・・ルキスは考える。いままで戦う事など考えもしなかった。
なのにオーナーは、わたしにしかできない戦い方がある、と言う。
ルキスの瞳を見つめるオーナーの目は慈愛に満ちた聖女のようであり、同時に悲しみに支配された少女そのものでもあった。
そんなオーナーの頭にそっと手を置いたのは、先ほどから終始黙っていた紅。
半分飲み込まれた夕日が海に反射して、全員の顔を橙の染める。
「俺は神姫オーナーじゃないから、なにも言えないし、わからないが・・・よく言った、と思う」
不器用ながら、実直。紅のそんなところはルキスも好きだった。
談笑の中、メルが碧の胸ポケットからひょこりと顔を出した。
「だったらカイさんも、オーナーになればいいのですみゅ!」
名案だ、と胸を張るメルに紅は苦笑する。
「俺は機械は苦手なんだ」
複雑な表情のまま紅は呟いた。今はまだ、誰もその表情の意味を解する者はおらず、ただ、カーネリアンの海だけが、静かに彼を見守った。




漣の音色。藍の空を映す海。境界の消失した世界がそこにはあった。
小さなポーチから覗く世界。湿った潮風が頬を撫でた。
ルキスはゆっくりと双眼を開く。はて、わたしはホテルに備え付けられたクレイドルで眠っていたはずだったが・・・
たおやかな潮風に乗って聴こえたのは小さな小さな鎮魂歌。

どこか・・・遠くの星にいるなら・・・私に会いに来てよ・・・

胸を打つ鼓動が早まる。悲しみと静寂の均衡を破るように。囁くように。途切れないように。
「オーナー・・・?」
「ごめん、起こしてしまったね・・・本当はホテルに置いて出ようと思ったんだけど・・・」
遠く藍の空を見たオーナーの瞳が僅かに揺れて、月の光を反射した。
「離れたら、もう会えない気がした・・・だから」
それ以上の言葉はいらなかった。聞きたくなかった。これ以上はオーナーの悲しみを煽ることを知っていたから。
「わ、わたし、どこにも行きません。オーナーの隣にずっといます。謳ってください、歌の続き・・・」
オーナーはもう以前のように歌を聴かれまいとはしなかった。
小さく小さく、囁くように、ゆっくりと歌詞を紡ぐ。
オーナーのように、わたしも謳えたら。淡い幻想に抱かれながら、二人の秘密の時間を共有しながら、そのことが妙に心地よく、誇らしく、ルキスは再び眠りについた。


翌朝、まだ眠たげな眼をこすりながら、オーナー達は電車乗り場にいた。
「今度の大型連休は地元に帰るから」
碧はにぃ、と人の良さそうな顔お綻ばせ手を振った。胸ポケットのメルも、同様に手を振ると猫型特有の素早さで、オーナーのポーチに飛び移るとルキスに耳打ちをした。
「アーちゃんリーダーのこと、お願いしますみゅ。ルキルキなら、きっと、リーダーを失意の沼から救い出すことができますみゅ」
だって、とメルは続ける。
「ルキルキは、アーちゃんリーダーの希望を具現化した神姫ですみゅ。だからきっと・・・」
電車の発射のアナウンスが鳴る。メルはポーチに下りた時と同じように、身軽に身体を翻し、碧のポケットへと戻って行った。
あわただしく電車に駆け込む二人を見送って碧はメルに小さく問うた。
「ルキスに何言ったんだ?」
「秘密ですみゅ」
碧ははぁ、とため息を漏らしたが、すぐに笑顔に戻った。メルのことだ、きっとルキスを励ましたに違いない、と。


翌週の週刊誌に小さな枠で『狂い羊復活!?』の記事が載ることを、まだオーナーは知らなかった。
それが彼女達を更なる戦禍に巻き込むということも。








※ 歌詞参照 ふみP『一輪の花』

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