与太話7 : 週刊少年ジャンプのように
「マ、マママスターッ!! えらいこっちゃぁー!!」
特にすることもない退屈な日曜日。
たまには何もしないのもいいかとダラダラ漫画を読んでいたわけだが、あまりに唐突にエルが叫ぶものだから驚いた拍子に椅子ごとひっくり返ってしまった。
自画自賛したくなるほどの反応速度で後頭部へのダメージを回避した分、負荷はすべて腰に回った。これぞ今呼んでいた漫画の悪役が駆使する過負荷 『不慮の事故(エンカウンター)』 である。ダメージを押し付ける対象が他ならぬ自分であるあたり不完全ではあるが、そもそも過負荷というのは負完全なものなんだし、きっとそのへんの違いは瑣末なものだろう。
いやはや実に恐ろしい。こうもあっさりと漫画の世界の能力を再現してしまうとは、自分の才能が恐ろしい。実は俺も素敵な能力の持ち主であったらどうしよう。その素敵な能力で武装して、分不相応に武装して、箱庭学園なる学校の生徒会長にケンカを売りに行くべきだろうか。
いや、やっぱやめとこう。姫乃を残して二次元の世界に旅立つわけにはいかないし、何より腰が痛くて立ち上がれそうにない。
「いつまでひっくり返ってるんですかマスター! 一大事ですよ! 武装神姫界に永久に残る記念碑的なアレですよ!」
「……あ、ああ、うん。今ちょっと起き上がれないからエル、何があったか言ってくれ」
「えへへ~/// 知りたいですか? そんなに知りたいんですか?」
よく分からないが、エルの言う【記念碑的なアレ】は神姫がウザくなる成分を含んでいるらしい。そんなものに触っては駄目だぞ、と手を伸ばしかけると腰にズキリと突き刺さるような痛みが走った。
この調子だと頭を上げることもできそうになくて、机の上でエルがどんな顔をしているのかも分からない。
もしかしたらわざと俺をひっくり返して、痛みに耐える俺を見下ろしてニヤニヤしていたりするのだろうか。俺が過負荷(マイナス)になったせいでエルまで過負荷に堕ちてしまったとか。
ウザ迷惑な能力である。
「ではでは、発表します! なんと! なんとなんとなんと! 戦乙女型アルトレーネの再販が! 誰もが待ちに待ち焦がれ恋に恋焦がれたアルトレーネの再販が! 決☆定! したのでしたー!!」
パチパチパチ! と力強くも小さな拍手の音が聞こえてきた。
アルトレーネ再販か、良かったな、うん。
これであの神姫センター名物になりかけた戦乙女戦争は恒久的に防がれたってわけだ。世界の平和に万歳。みんな、折り鶴はゴミになるから作らないでおこうぜ。
「んん~? ノリが悪いですねマスター。ああ、もしかして今が嬉しすぎるあまり将来が愁しすぎるんですね! 私達ももう長い付き合いになりますから、マスターの考えていることはよ~く分かっていますとも。でも大丈夫です! 私さえいればマスターはずっと幸せです! 具体的に言うと姫乃さんとの付き合いでは決して得られない【おっぱい成分】は私が補填しますから!」
エルが言った直後、机を蹴ったような音がした。その音に不吉なものを感じたのも束の間、ひっくり返ったままの俺の腹の上にエルが飛び降りてきた。
身長15cm程度のからくり人形、武装神姫。
その身体が華奢で小さなものであっても。
飛び降りた場所が低い場所であっても。
腹から腰に伝達された衝撃は、十分なトドメとなった。
「ふごおおおおおっ!」
特にすることもない退屈な日曜日。
たまには何もしないのもいいかとダラダラ漫画を読んでいたわけだが、あまりに唐突にエルが叫ぶものだから驚いた拍子に椅子ごとひっくり返ってしまった。
自画自賛したくなるほどの反応速度で後頭部へのダメージを回避した分、負荷はすべて腰に回った。これぞ今呼んでいた漫画の悪役が駆使する過負荷 『不慮の事故(エンカウンター)』 である。ダメージを押し付ける対象が他ならぬ自分であるあたり不完全ではあるが、そもそも過負荷というのは負完全なものなんだし、きっとそのへんの違いは瑣末なものだろう。
いやはや実に恐ろしい。こうもあっさりと漫画の世界の能力を再現してしまうとは、自分の才能が恐ろしい。実は俺も素敵な能力の持ち主であったらどうしよう。その素敵な能力で武装して、分不相応に武装して、箱庭学園なる学校の生徒会長にケンカを売りに行くべきだろうか。
いや、やっぱやめとこう。姫乃を残して二次元の世界に旅立つわけにはいかないし、何より腰が痛くて立ち上がれそうにない。
「いつまでひっくり返ってるんですかマスター! 一大事ですよ! 武装神姫界に永久に残る記念碑的なアレですよ!」
「……あ、ああ、うん。今ちょっと起き上がれないからエル、何があったか言ってくれ」
「えへへ~/// 知りたいですか? そんなに知りたいんですか?」
よく分からないが、エルの言う【記念碑的なアレ】は神姫がウザくなる成分を含んでいるらしい。そんなものに触っては駄目だぞ、と手を伸ばしかけると腰にズキリと突き刺さるような痛みが走った。
この調子だと頭を上げることもできそうになくて、机の上でエルがどんな顔をしているのかも分からない。
もしかしたらわざと俺をひっくり返して、痛みに耐える俺を見下ろしてニヤニヤしていたりするのだろうか。俺が過負荷(マイナス)になったせいでエルまで過負荷に堕ちてしまったとか。
ウザ迷惑な能力である。
「ではでは、発表します! なんと! なんとなんとなんと! 戦乙女型アルトレーネの再販が! 誰もが待ちに待ち焦がれ恋に恋焦がれたアルトレーネの再販が! 決☆定! したのでしたー!!」
パチパチパチ! と力強くも小さな拍手の音が聞こえてきた。
アルトレーネ再販か、良かったな、うん。
これであの神姫センター名物になりかけた戦乙女戦争は恒久的に防がれたってわけだ。世界の平和に万歳。みんな、折り鶴はゴミになるから作らないでおこうぜ。
「んん~? ノリが悪いですねマスター。ああ、もしかして今が嬉しすぎるあまり将来が愁しすぎるんですね! 私達ももう長い付き合いになりますから、マスターの考えていることはよ~く分かっていますとも。でも大丈夫です! 私さえいればマスターはずっと幸せです! 具体的に言うと姫乃さんとの付き合いでは決して得られない【おっぱい成分】は私が補填しますから!」
エルが言った直後、机を蹴ったような音がした。その音に不吉なものを感じたのも束の間、ひっくり返ったままの俺の腹の上にエルが飛び降りてきた。
身長15cm程度のからくり人形、武装神姫。
その身体が華奢で小さなものであっても。
飛び降りた場所が低い場所であっても。
腹から腰に伝達された衝撃は、十分なトドメとなった。
「ふごおおおおおっ!」
姫乃に付き添ってもらって(か弱い姫乃に肩を貸してもらってもかえって俺の負担が増えるだけだった)病院に行くと、医者から「湿布貼っとけば治るんじゃね」とだけ言われて帰ってきた。ヤブ医者の言うことは無視するとして、俺にできることは大人しく横になるくらいだった。無力なものである。これでは二次元の世界で学園バトルに巻き込まれたとしても、メインキャラ達と戦うどころかコマの隅っこで驚く群衆が関の山だ。
「気持ちは分かるけど、あんまり弧域くんを困らせちゃ駄目よ」
「すみません……」
残りの湿布を片付けてくれる姫乃が話しかける先、エルは机の下でしょぼーんと影を落としていた。さっきまでのはしゃぎ様からここまで落ち込まれると、なんだか俺がエルを苛めているみたいで申し訳なく思えてくる。俺も姫乃も怒っているわけじゃないけど、エルは浮かれていた分だけ過剰に落ち込んでしまったのだ。
椅子の足に寄りかかったニーキはアルトレーネ再販なんて関係無く、いつもどおりエルに呆れている。
「君は悪くない、と言うわけではないがそろそろ出てきたらどうだ。せっかくのアルトレーネ型再販なのだから今は喜んでおくべきだぞ」
「そう、ですけど……でも……」
「面倒な性格だな君は。少しは至極単純な君のマスターを見習うといい」
「ヒトが動けないことをいいのにコノヤロウ。じゃあ俺が今、何考えてるか当ててみろよ」
「フン、造作もな………………っ!? な、なにを考えているんだ君は! そんな破廉恥な格好でヒメに看護させる気か!」
「弧域くん!? 私になにさせる気よ!?」
「いやあ、その、ナースキャップの着用だけは認めてもいいかなと」
「意味がわからない!」
エルの深い深い溜め息が机の下から漏れた。
本当にアルトレーネ再販が嬉しかったんだろうな。再販プロジェクトではアルトアイネスのみ条件を達成してアルトレーネは見送られたけど、今回の再販はそれだけディオーネに要望があった、つまりそれだけアルトレーネが望まれたってことだし、絶対に不人気なんかじゃない。
その嬉しさを、何らかの形で表したかったんだろう。
かつて自分達が不人気ではないと、声高に叫んだように。
「ごめんなエル、今日は神姫センターに行ってバトルしたかったんだよな」
「…………」
「俺だって記念にバトルして、エルが強い神姫相手に勝って、二人で再販と勝利の喜びを味わいたかったぜ。俺はビールとか大っ嫌いだけどさ、今日だけは電気ブラン以外の酒もがぶ飲みできそうだ」
「……マスターを動けなくしちゃったのは私です。全部、私のせいなんです……」
はあ……と再び大きく重い溜め息。
ちょっと腰を打ったくらいで動けなくなったのは情けないけど、俺だっていつまでもエルの溜め息を聞いてやれるほど心が広いわけじゃない。
「勘違いしてないかエル。バトルは神姫センターでしなきゃいけないって決まりはないんだぜ」
「でも、このあたりでバトルできる一番近い場所が電車で二駅のあの神姫センターです。それ以前にマスターは起き上がることだって……」
「そういうことじゃなくてだな。神姫の強度は並じゃないからな、案外どんな場所でも戦えたりするぞ。たぶん」
ニーキだけは俺の言いたいことを早いうちに理解して、やれやれと首を振った。なんだかんだ言われるだろうけど、バトルには付き合ってくれるだろう。ニーキはこれでかなり付き合いのいい奴なのだ。
「どんなステージでも戦いますけど、その筐体が無いと――――あ、もしかして」
「そう、そのもしかしてだ。ニーキも付き合ってくれるよな」
「君や姫乃に怪我をさせてしまう可能性がある。物が壊れたらどうする。片付けは誰がやる。近所に知られて騒ぎになったらどうする」
「全部そうならないよう頑張ってくれ。エルとニーキならできるだろ?」
「はいっ!」
「はあ……」
「どういうこと? 弧域くんはこの部屋どころかベッドからも出られない、のに?」
やはりというか、わざとそうしたというか、姫乃だけが一人置いてけぼりになっていた。姫乃は漫画で非常に重宝されるタイプだな。意味不明な能力や黒幕の正体を解説するキッカケになってくれてすごく助かる。
でも今回はそんなに難しいことじゃないしニーキの台詞もあって分かりやすいと思うんだけどな、と自分の彼女の鈍さが心配になってきた。
とはいえ姫乃に解説をしてやるのは隣に立つ俺の役目だ。大した能力もないくせに異能バトルに巻き込まれるよりは、そのバトルを遠くから眺めて解説役に徹するほうがいいだろうし。
「ベッドから出られないのなら、寝転がったまま見える場所で二人にバトルしてもらえばいい。今回のバトルステージは “この部屋” だ」
「 !? 」
目をまん丸にして姫乃はいっそわざとらしいくらい驚いてくれた。
うむ、今日も俺の彼女はかわいい。
「気持ちは分かるけど、あんまり弧域くんを困らせちゃ駄目よ」
「すみません……」
残りの湿布を片付けてくれる姫乃が話しかける先、エルは机の下でしょぼーんと影を落としていた。さっきまでのはしゃぎ様からここまで落ち込まれると、なんだか俺がエルを苛めているみたいで申し訳なく思えてくる。俺も姫乃も怒っているわけじゃないけど、エルは浮かれていた分だけ過剰に落ち込んでしまったのだ。
椅子の足に寄りかかったニーキはアルトレーネ再販なんて関係無く、いつもどおりエルに呆れている。
「君は悪くない、と言うわけではないがそろそろ出てきたらどうだ。せっかくのアルトレーネ型再販なのだから今は喜んでおくべきだぞ」
「そう、ですけど……でも……」
「面倒な性格だな君は。少しは至極単純な君のマスターを見習うといい」
「ヒトが動けないことをいいのにコノヤロウ。じゃあ俺が今、何考えてるか当ててみろよ」
「フン、造作もな………………っ!? な、なにを考えているんだ君は! そんな破廉恥な格好でヒメに看護させる気か!」
「弧域くん!? 私になにさせる気よ!?」
「いやあ、その、ナースキャップの着用だけは認めてもいいかなと」
「意味がわからない!」
エルの深い深い溜め息が机の下から漏れた。
本当にアルトレーネ再販が嬉しかったんだろうな。再販プロジェクトではアルトアイネスのみ条件を達成してアルトレーネは見送られたけど、今回の再販はそれだけディオーネに要望があった、つまりそれだけアルトレーネが望まれたってことだし、絶対に不人気なんかじゃない。
その嬉しさを、何らかの形で表したかったんだろう。
かつて自分達が不人気ではないと、声高に叫んだように。
「ごめんなエル、今日は神姫センターに行ってバトルしたかったんだよな」
「…………」
「俺だって記念にバトルして、エルが強い神姫相手に勝って、二人で再販と勝利の喜びを味わいたかったぜ。俺はビールとか大っ嫌いだけどさ、今日だけは電気ブラン以外の酒もがぶ飲みできそうだ」
「……マスターを動けなくしちゃったのは私です。全部、私のせいなんです……」
はあ……と再び大きく重い溜め息。
ちょっと腰を打ったくらいで動けなくなったのは情けないけど、俺だっていつまでもエルの溜め息を聞いてやれるほど心が広いわけじゃない。
「勘違いしてないかエル。バトルは神姫センターでしなきゃいけないって決まりはないんだぜ」
「でも、このあたりでバトルできる一番近い場所が電車で二駅のあの神姫センターです。それ以前にマスターは起き上がることだって……」
「そういうことじゃなくてだな。神姫の強度は並じゃないからな、案外どんな場所でも戦えたりするぞ。たぶん」
ニーキだけは俺の言いたいことを早いうちに理解して、やれやれと首を振った。なんだかんだ言われるだろうけど、バトルには付き合ってくれるだろう。ニーキはこれでかなり付き合いのいい奴なのだ。
「どんなステージでも戦いますけど、その筐体が無いと――――あ、もしかして」
「そう、そのもしかしてだ。ニーキも付き合ってくれるよな」
「君や姫乃に怪我をさせてしまう可能性がある。物が壊れたらどうする。片付けは誰がやる。近所に知られて騒ぎになったらどうする」
「全部そうならないよう頑張ってくれ。エルとニーキならできるだろ?」
「はいっ!」
「はあ……」
「どういうこと? 弧域くんはこの部屋どころかベッドからも出られない、のに?」
やはりというか、わざとそうしたというか、姫乃だけが一人置いてけぼりになっていた。姫乃は漫画で非常に重宝されるタイプだな。意味不明な能力や黒幕の正体を解説するキッカケになってくれてすごく助かる。
でも今回はそんなに難しいことじゃないしニーキの台詞もあって分かりやすいと思うんだけどな、と自分の彼女の鈍さが心配になってきた。
とはいえ姫乃に解説をしてやるのは隣に立つ俺の役目だ。大した能力もないくせに異能バトルに巻き込まれるよりは、そのバトルを遠くから眺めて解説役に徹するほうがいいだろうし。
「ベッドから出られないのなら、寝転がったまま見える場所で二人にバトルしてもらえばいい。今回のバトルステージは “この部屋” だ」
「 !? 」
目をまん丸にして姫乃はいっそわざとらしいくらい驚いてくれた。
うむ、今日も俺の彼女はかわいい。
一旦姫乃の部屋に戻ったニーキが装備してきた武装は、というか武装と呼んでいいのか、真っ黒の学ランを着ていた。クールなストラーフ型によく似合うと思う。
学ラン主人公が姫乃の最近のトレンドらしくここのところニーキはこの服ばかり着ている。でも俺の中にはさっきまで呼んでいた漫画の影響で 学ラン=気持ち悪い男 という図式が出来上がってしまっていた。というか、この賭けバトルもその男の台詞からの発想である。
いや、発想ではなく丸パクリだった。
学ラン主人公が姫乃の最近のトレンドらしくここのところニーキはこの服ばかり着ている。でも俺の中にはさっきまで呼んでいた漫画の影響で 学ラン=気持ち悪い男 という図式が出来上がってしまっていた。というか、この賭けバトルもその男の台詞からの発想である。
いや、発想ではなく丸パクリだった。
ニーキが勝てば、俺は姫乃の言うことをなんでも1つだけ聞く。
エルが勝てば、姫乃は裸エプロン。
エルが勝てば、姫乃は裸エプロン。
「おまかせ下さいマスター! 必ずやニーキ姉さんを打ち負かし、姫乃さんの恥じらう姿をご覧頂きましょう!」
「なんでそんなにヤル気なの!? 目を覚ましてエル、弧域くんに変なことに利用されてるのよ!」
「変なことだろうと変態的なことだろうと私はマスターのために戦うだけです」
「キメ顔で言わないでよ全然かっこよくないからね!? ニーキも何か言ってよ!」
「心配するなヒメ。私が負けると思うのか」
「そ、それは……でも……」
「万が一私が負けても、ヒメが多少恥ずかしい思いをするだけだ」
「こんなの絶対おかしいよ!」
一人異を唱える姫乃をまた置いてけぼりにして、エルとニーキは机の上で対峙する。
エルの装備はいつも通り、鉛色のロングコートに、両脚には無骨な白い強化パーツ。両手に持つ二振りの大剣をゆったりと構えている。
対するニーキは何も持たず、構えを取るわけでもなく、半身になって立っているだけだ。小道具はすべて学ランの下に隠している。
バトルを繰り返すことでエルが【スピード】に特化していったように、ニーキは【不可解さ】に特化していった。俺がエルと出会って最初に挑んだバトルでニーキが見せた『認識できない移動』は一度はエルが破ったものの、ニーキはそこからさらに発展させて今やレーダーにすら映らなくなり、そんな贅沢品を持たないエルが頼る直感さえも狂わせてしまう。
どういう仕組かをニーキは教えてくれず、その能力は謎に包まれたままだ。かっこよくて羨ましい。健全な大多数の男子が憧れるように、俺もそういう素敵な能力を持ってみたい。学園異能バトルの当事者になってみたい。
「余計なことを考えるのは後にしてくれ。弧域、バトルの合図を」
特段構えているわけではなくても(そしてこんな不真面目なバトルであっても)ニーキの張り詰めた糸のような緊張は感じられる。ニーキだけでなくエルもそうだ。大剣を握る手に必要以上に力が入っている。立ち回りにミスを許されない二人の戦法上、必然的にこの二人のバトル開始前は息苦しいものになってしまう。
「どういうこと?」
ナイス聞き役だ姫乃。
「神姫バトルって単純に火力や防御力が高ければいいってこともあるけどさ、基本的に立ち回りが重要になるんだよ。悪い例だけど、初心者狩りばっかりやってるシケた神姫のほとんどが飛行できるんだ。なんでかって、戦い慣れてない神姫が空を飛び回る奴に攻撃を当てられるわけがないし、ほぼ全方位から来る攻撃を避けられるわけがないだろ」
「うーん」
「極論、相手の攻撃が当たらず自分の攻撃だけが当たる位置に立ってさえいれば負けようがないよな。実際は相手も動くからそんなことは不可能だろうけど、お互いが動く中でベストポジションを見極めてそこに立たなきゃいけない。そこを見極め損ねた瞬間、相手が有利な位置に来て攻撃されるからな」
「うむむむむん」
「そしてエルとニーキは種類こそ違っても移動に重点を置いていて、それをミスした時にカバーできるだけの火力も防御力も無いだろ。だからミスできない。相手のミスを見逃せない。そんなわけで緊張しちゃうってわけだ」
「……えっと、つまり失敗しちゃいけない、ってこと?」
今のは話が長くなってしまった俺が悪いんだろうか。それとも理解してくれなさすぎる姫乃が悪いんだろうか。
「その『つまり』にどれだけの理解が詰め込まれてるか知らないけど、まあ実際に見たほうが早いな。それじゃ待たせたなエル、ニーキ。いくぜ――」
静かに対峙する二人は気持ち腰を落とした。
二人の頭の中では俺と姫乃のいるベッド以外の場所を足場と捉えている。往慣れたこの場所でどんなバトルが見られるのか、楽しみにしているのは俺だけじゃない。
エルも、ニーキも、薄く笑みを浮かべていた。
「レディ、ゴー!」
同時、エルは机を叩く音を残して、ニーキは気配を残して、その場から消えた。
「なんでそんなにヤル気なの!? 目を覚ましてエル、弧域くんに変なことに利用されてるのよ!」
「変なことだろうと変態的なことだろうと私はマスターのために戦うだけです」
「キメ顔で言わないでよ全然かっこよくないからね!? ニーキも何か言ってよ!」
「心配するなヒメ。私が負けると思うのか」
「そ、それは……でも……」
「万が一私が負けても、ヒメが多少恥ずかしい思いをするだけだ」
「こんなの絶対おかしいよ!」
一人異を唱える姫乃をまた置いてけぼりにして、エルとニーキは机の上で対峙する。
エルの装備はいつも通り、鉛色のロングコートに、両脚には無骨な白い強化パーツ。両手に持つ二振りの大剣をゆったりと構えている。
対するニーキは何も持たず、構えを取るわけでもなく、半身になって立っているだけだ。小道具はすべて学ランの下に隠している。
バトルを繰り返すことでエルが【スピード】に特化していったように、ニーキは【不可解さ】に特化していった。俺がエルと出会って最初に挑んだバトルでニーキが見せた『認識できない移動』は一度はエルが破ったものの、ニーキはそこからさらに発展させて今やレーダーにすら映らなくなり、そんな贅沢品を持たないエルが頼る直感さえも狂わせてしまう。
どういう仕組かをニーキは教えてくれず、その能力は謎に包まれたままだ。かっこよくて羨ましい。健全な大多数の男子が憧れるように、俺もそういう素敵な能力を持ってみたい。学園異能バトルの当事者になってみたい。
「余計なことを考えるのは後にしてくれ。弧域、バトルの合図を」
特段構えているわけではなくても(そしてこんな不真面目なバトルであっても)ニーキの張り詰めた糸のような緊張は感じられる。ニーキだけでなくエルもそうだ。大剣を握る手に必要以上に力が入っている。立ち回りにミスを許されない二人の戦法上、必然的にこの二人のバトル開始前は息苦しいものになってしまう。
「どういうこと?」
ナイス聞き役だ姫乃。
「神姫バトルって単純に火力や防御力が高ければいいってこともあるけどさ、基本的に立ち回りが重要になるんだよ。悪い例だけど、初心者狩りばっかりやってるシケた神姫のほとんどが飛行できるんだ。なんでかって、戦い慣れてない神姫が空を飛び回る奴に攻撃を当てられるわけがないし、ほぼ全方位から来る攻撃を避けられるわけがないだろ」
「うーん」
「極論、相手の攻撃が当たらず自分の攻撃だけが当たる位置に立ってさえいれば負けようがないよな。実際は相手も動くからそんなことは不可能だろうけど、お互いが動く中でベストポジションを見極めてそこに立たなきゃいけない。そこを見極め損ねた瞬間、相手が有利な位置に来て攻撃されるからな」
「うむむむむん」
「そしてエルとニーキは種類こそ違っても移動に重点を置いていて、それをミスした時にカバーできるだけの火力も防御力も無いだろ。だからミスできない。相手のミスを見逃せない。そんなわけで緊張しちゃうってわけだ」
「……えっと、つまり失敗しちゃいけない、ってこと?」
今のは話が長くなってしまった俺が悪いんだろうか。それとも理解してくれなさすぎる姫乃が悪いんだろうか。
「その『つまり』にどれだけの理解が詰め込まれてるか知らないけど、まあ実際に見たほうが早いな。それじゃ待たせたなエル、ニーキ。いくぜ――」
静かに対峙する二人は気持ち腰を落とした。
二人の頭の中では俺と姫乃のいるベッド以外の場所を足場と捉えている。往慣れたこの場所でどんなバトルが見られるのか、楽しみにしているのは俺だけじゃない。
エルも、ニーキも、薄く笑みを浮かべていた。
「レディ、ゴー!」
同時、エルは机を叩く音を残して、ニーキは気配を残して、その場から消えた。
「こ、弧域くん、さっき見れば分かるって言ってたけど、これじゃ見れなひゃっ!?」
ベッドの隣のクローゼットに剣が叩きつけられる音に驚いた姫乃が頭を抱えた。
確かにニーキがいたその場所に剣を振ったエルは目の前でニーキが消えようと驚くこともなく、周囲に目もくれずクローゼットを駆け上がった。直後、“背後にいた”ニーキがエルを追うようにマシンピストルによるフルオートを放つ。しかし既に高く駆け上がっていたエルには当たらなかった。無闇にクローゼットを傷つけただけである。
「姫乃は主にニーキに目がいくだろ。でもニーキが動くと絶対に見失うから、むしろ相手の神姫を見たほうが分かりやすくなるぞ」
「エルも早すぎて全然分かんないんだけど」
「じゃあもうアレだ。二人とも瞬間移動してるって考えたらいいんじゃないか」
「ああ、なるほどね。そうしてみる」
自分の能力を理解してくれない姫乃がマスターだと、ニーキはさぞ戦い甲斐が無いことだろう。かといって俺もニーキの移動法の仕組みを知っているわけじゃないけど。
でも確かにエル対ニーキの初バトルの時よりも二人のバトルスピードは格段に上がっていて、もはや別世界と言っても過言ではない。エルは単純に速度が向上していて、ニーキは神出鬼没さが増している。それに加えてバトルの経験値も多く積んだ彼女達の戦闘はもはやケチのつけようもないものだった。
「そこですっ!」
何もない場所にエルが斬り込んだ――かに見えたがそこには確かにニーキがいて、咄嗟に突き出されたマシンピストルごと斬り払った。
「くっ!」
「ニーキ姉さんのパターンもちょっとずつ読めてきましたよ。次はこっちです!」
斬られた直後にニーキが姿を消しても慌てることなく、エルはさらに畳み掛けて右のほうに剣を振った。ニーキのトリッキーな動きに騙されそうになるが機動力はあくまで平凡だから、姿を消したとしてもそれほど遠くへ移動しているわけではない。だからパターンさえ読んでしまえばニーキ攻略は難しい話じゃないのだ。
……一昔前のニーキ相手ならば、確かにそれは有効だった。
「えっ……!?」
エルの右に現れたニーキを、エルは確かに斬った。だがそのニーキはダメージを負うでもなく、剣をすり抜けてフッと消えてしまった。
「どうした、私の幻影でも見えたか」
こつん、とエルの後頭部に黒い棒が押し付けられた。
「次に会ったら言っておいてくれ。『囮役ご苦労』とな」
ニーキのハンドガンが火を噴くギリギリ前、エルは頭を体ごと投げ出すように倒して辛うじて射撃を躱した。
倒れかけたエルにニーキがハンドガンを向けるが、ニーキが引き金を引くより先にエルは剣を床に叩きつけてニーキから離れた。
「分身とか忍者ですかニーキ姉さんは! 実はストラーフ型じゃなくてフブキ型なんじゃないですか」
「正真正銘、私は悪魔型だ。それと気をつけるんだなエル。そっちは――」
エルが離脱した先は本棚だった。最上段一列には教科書やノートが並べているが、それ以外は漫画で埋まってしまっていて、入りきらなかった漫画を棚の前に山積みしている。さっきまで読んでいた漫画も山の一部になっている。
漫画の山の麓まで逃れたエルは、恐らく、ニーキが仕掛けたトラップのスイッチを起動したのだろう。
「――そっちは本が崩れて危ないぞ」
ドサドサと音を立てて本の雪崩がエルを飲み込んだ。
これこそがニーキが持つ【不可解さ】の真骨頂だ。
いくら科学が発達したからといって自分の分身を気軽に作り出せるなんて聞いたことがないし、ニーキは今まで一度も分身だか残像だかを作り出したことはなかった。ニーキは「必要だったから分身した」と言うだろう。
エルがニーキの射撃を回避し、逃げた先に丁度罠を仕掛けておくなんてことができるだろうか。ニーキは「エルが逃げた場所に罠があった、それだけだ」と言うだろう。
認識されない移動をベースに、ニーキは不可解なほど自分に都合の良い状況を作り出しては相手を追い詰めていく。
まるで持ち駒を無限に用意した将棋のように。
まるでクイーンのようにポーンを動かせるチェスのように。
「そう、ニーキの能力こそまさに……『デビルワールド!』」
「勝手にセンスの無い名前を付けるな」
冷静につっ込まれた。ニーキだって自分の技にアレな名前付けてるくせに。
「言っておくがな、私の技に名前を付けているのはヒメだぞ」
「ちょ、ちょっとニーキ! それは言わない約そ……ち、違うのよ弧域くん? ほら、あれよ、きっと聞き間違いよ」
「ふ~~ん」
「…………」
「『 血 風 懺 悔 』」
「イヤッ! 言わないで!」
「『 夢 想 指 揮 ・ 護 姫 』」
「やめて恥ずかしくて死ぬっ!」
「『 十 三 回 旋 黒 猫 輪 舞 曲 』」
「いっそ殺してええええええええっ!」
「恥ずかしがるような技名を私に使わせないでくれ……」
いや、俺もカッコイイ名前は悪くないと思う。学園異能バトルならばやっぱり、ちょっと小洒落た技を持っていて然るべきだろうし。そういう意味でニーキは見た目も能力も漫画の登場キャラとして相応しい(敵か味方かはともかく)。
でも忘れないでほしい。
そういう小難しい技を打ち破るのはいつだって単純な技だったりすることを。
例えば、そう。
本の雪崩が殺到する瞬間に離脱できるほどの超スピードの前では、小細工なんて全くの無意味だ。
「技の名前が気に入らないならさ、参考例を聞いて考え直してみろよ――エル、言ってやれ」
「『紅魔――』」
武装やトレーニングで強化するといったレベルを超えた能力を持つニーキだが、その代わり、というわけではないが、普通の神姫ならば誰もが持つ特性を持っていない。そしてそれが決定的な弱点になってしまっている。
「弱点? どういうこと?」
「聞き役ありがとう姫乃。でも今は勝負中だからな、簡潔に言うぜ」
本棚の頂上を蹴りニーキに向かって超スピードで突進する鉛色の弾丸。
呑気に俺や姫乃と会話していたニーキは慌てて姿を消すが、もう遅い。
「ニーキにはさ、第三の目になってくれるマスターがいないんだよ、姫乃」
ベッドの隣のクローゼットに剣が叩きつけられる音に驚いた姫乃が頭を抱えた。
確かにニーキがいたその場所に剣を振ったエルは目の前でニーキが消えようと驚くこともなく、周囲に目もくれずクローゼットを駆け上がった。直後、“背後にいた”ニーキがエルを追うようにマシンピストルによるフルオートを放つ。しかし既に高く駆け上がっていたエルには当たらなかった。無闇にクローゼットを傷つけただけである。
「姫乃は主にニーキに目がいくだろ。でもニーキが動くと絶対に見失うから、むしろ相手の神姫を見たほうが分かりやすくなるぞ」
「エルも早すぎて全然分かんないんだけど」
「じゃあもうアレだ。二人とも瞬間移動してるって考えたらいいんじゃないか」
「ああ、なるほどね。そうしてみる」
自分の能力を理解してくれない姫乃がマスターだと、ニーキはさぞ戦い甲斐が無いことだろう。かといって俺もニーキの移動法の仕組みを知っているわけじゃないけど。
でも確かにエル対ニーキの初バトルの時よりも二人のバトルスピードは格段に上がっていて、もはや別世界と言っても過言ではない。エルは単純に速度が向上していて、ニーキは神出鬼没さが増している。それに加えてバトルの経験値も多く積んだ彼女達の戦闘はもはやケチのつけようもないものだった。
「そこですっ!」
何もない場所にエルが斬り込んだ――かに見えたがそこには確かにニーキがいて、咄嗟に突き出されたマシンピストルごと斬り払った。
「くっ!」
「ニーキ姉さんのパターンもちょっとずつ読めてきましたよ。次はこっちです!」
斬られた直後にニーキが姿を消しても慌てることなく、エルはさらに畳み掛けて右のほうに剣を振った。ニーキのトリッキーな動きに騙されそうになるが機動力はあくまで平凡だから、姿を消したとしてもそれほど遠くへ移動しているわけではない。だからパターンさえ読んでしまえばニーキ攻略は難しい話じゃないのだ。
……一昔前のニーキ相手ならば、確かにそれは有効だった。
「えっ……!?」
エルの右に現れたニーキを、エルは確かに斬った。だがそのニーキはダメージを負うでもなく、剣をすり抜けてフッと消えてしまった。
「どうした、私の幻影でも見えたか」
こつん、とエルの後頭部に黒い棒が押し付けられた。
「次に会ったら言っておいてくれ。『囮役ご苦労』とな」
ニーキのハンドガンが火を噴くギリギリ前、エルは頭を体ごと投げ出すように倒して辛うじて射撃を躱した。
倒れかけたエルにニーキがハンドガンを向けるが、ニーキが引き金を引くより先にエルは剣を床に叩きつけてニーキから離れた。
「分身とか忍者ですかニーキ姉さんは! 実はストラーフ型じゃなくてフブキ型なんじゃないですか」
「正真正銘、私は悪魔型だ。それと気をつけるんだなエル。そっちは――」
エルが離脱した先は本棚だった。最上段一列には教科書やノートが並べているが、それ以外は漫画で埋まってしまっていて、入りきらなかった漫画を棚の前に山積みしている。さっきまで読んでいた漫画も山の一部になっている。
漫画の山の麓まで逃れたエルは、恐らく、ニーキが仕掛けたトラップのスイッチを起動したのだろう。
「――そっちは本が崩れて危ないぞ」
ドサドサと音を立てて本の雪崩がエルを飲み込んだ。
これこそがニーキが持つ【不可解さ】の真骨頂だ。
いくら科学が発達したからといって自分の分身を気軽に作り出せるなんて聞いたことがないし、ニーキは今まで一度も分身だか残像だかを作り出したことはなかった。ニーキは「必要だったから分身した」と言うだろう。
エルがニーキの射撃を回避し、逃げた先に丁度罠を仕掛けておくなんてことができるだろうか。ニーキは「エルが逃げた場所に罠があった、それだけだ」と言うだろう。
認識されない移動をベースに、ニーキは不可解なほど自分に都合の良い状況を作り出しては相手を追い詰めていく。
まるで持ち駒を無限に用意した将棋のように。
まるでクイーンのようにポーンを動かせるチェスのように。
「そう、ニーキの能力こそまさに……『デビルワールド!』」
「勝手にセンスの無い名前を付けるな」
冷静につっ込まれた。ニーキだって自分の技にアレな名前付けてるくせに。
「言っておくがな、私の技に名前を付けているのはヒメだぞ」
「ちょ、ちょっとニーキ! それは言わない約そ……ち、違うのよ弧域くん? ほら、あれよ、きっと聞き間違いよ」
「ふ~~ん」
「…………」
「『 血 風 懺 悔 』」
「イヤッ! 言わないで!」
「『 夢 想 指 揮 ・ 護 姫 』」
「やめて恥ずかしくて死ぬっ!」
「『 十 三 回 旋 黒 猫 輪 舞 曲 』」
「いっそ殺してええええええええっ!」
「恥ずかしがるような技名を私に使わせないでくれ……」
いや、俺もカッコイイ名前は悪くないと思う。学園異能バトルならばやっぱり、ちょっと小洒落た技を持っていて然るべきだろうし。そういう意味でニーキは見た目も能力も漫画の登場キャラとして相応しい(敵か味方かはともかく)。
でも忘れないでほしい。
そういう小難しい技を打ち破るのはいつだって単純な技だったりすることを。
例えば、そう。
本の雪崩が殺到する瞬間に離脱できるほどの超スピードの前では、小細工なんて全くの無意味だ。
「技の名前が気に入らないならさ、参考例を聞いて考え直してみろよ――エル、言ってやれ」
「『紅魔――』」
武装やトレーニングで強化するといったレベルを超えた能力を持つニーキだが、その代わり、というわけではないが、普通の神姫ならば誰もが持つ特性を持っていない。そしてそれが決定的な弱点になってしまっている。
「弱点? どういうこと?」
「聞き役ありがとう姫乃。でも今は勝負中だからな、簡潔に言うぜ」
本棚の頂上を蹴りニーキに向かって超スピードで突進する鉛色の弾丸。
呑気に俺や姫乃と会話していたニーキは慌てて姿を消すが、もう遅い。
「ニーキにはさ、第三の目になってくれるマスターがいないんだよ、姫乃」
「『 ス カ ー レ ッ ト デ ビ ル ! 』」
「あ、メルですか? お姉ちゃんで――――うんうん、ありがとうございますっ! ついに姉妹揃って再販ですね! ――発売日ですか? そこまで贅沢は言いません。発売はまだまだ先ですけど、今工場で眠っているアルトレーネ達が優しいオーナーに出会える日を楽しみにしています! ――――――第三次戦乙女戦争? えっ、それはどういう――――ふんふん――――な、なんですかそれ!? そんなの許せません! 今すぐオーメストラーダに電凸を――――もう解決? またコタマ姉さんですか。ん? マシロさん、ですか。聞いたことない名前ですね。――ああ、コタマ姉さんのお姉さんですか、それなら納得です。それよりメル、今マスターの部屋の流し台の前に姫乃さんが立ってるんですけどね、どんな格好してると思います? ――――いい勘してますね、そのまさかです! ――ナースキャップ? そういえばマスターもそんなことを言ってましたけど、どういうことですか?」
「ちょ、ちょっとエル!? なにしゃべってるのよ!」
身体を隠すように縮こまった姫乃が流しから戻ってきて、エルが話していた携帯電話を奪い取った。
腕二本だけでは隠そうにも限界があり、またエプロンが必要最低限の布面積のものしかなかったため、どうしても隠し切れない場所というのが出てくる。
それは例えば、肩紐からストンとほぼ垂直に落ちる布の隙間からだったり。
それは例えば、料理とは前を向いて行うものでありカバーする必要の無い背後だったり。
実に。
実に眼福である。
もう俺は死んでもいいんじゃなかろうか、とさっき口に出したところ「そうすべきだ。君はさっさと死ね」と割とキツい捨て台詞を残してニーキは姫乃の部屋に帰っていった。
さっきの負け方がよほど悔しかったらしい。
「メル? 今エルが言ったことは全部デタラメだからね――――嘘! 全然分かってないでしょ! お願いだから貞方くんには――――――怒るよ? ――――――うん、ホントにしゃべっちゃ駄目だからね。約束よ、いい? ――うん、ありがとう。それじゃあね、はーい」
半ば強引に通話を切ったらしい姫乃は携帯をエルに返して、俺に凝視されていることに気付いた。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ……」
「なに言ってんだ。ジロジロ見なきゃ裸エプロンの意味が無いだろ」
この男のロマンをまさか実現できる日が来ようとは、いや実は姫乃が正式に俺の彼女になってくれた時点で期待はしていたわけだけど、こうしてリアルで目の当たりにできたとなるとその感慨もひとしおだ。
王道の学園異能バトルもいいけど、やっぱりちょいエロを含んだラブコメも外せないな。ただし絶対領域が僅かに解放されてるから少年誌には載せられないけど。
くそっ、未だズキズキ痛む腰が恨めしい。立ち上がることができたらキャベツを刻む姫乃の背後にまわってエプロンの隙間に手を差し込めるってのに。
「あっち向いててよぉ。料理してると手が塞がっちゃうから隠せないじゃない」
「隠せないのなら隠さなければいいじゃない」
「そ、それじゃただの痴女じゃない! あくまで弧域くんにやらされてるんだからね! それに私の身体なんて見ても面白くない、でしょ?」
「全然そんなことないぜ。具体的に言おうか、上から順に鎖骨――」
「言わなくていいから! ……もう、分かったから、せめてそんなに目を大きくして見ないでよね」
そう言って前を隠したまま流し台までバックで移動して、しばらくそのまま俺と見つめ合い固まったままだったが、意を決したのかクルリと流し台のほうを向き、再び料理に取り掛かった。
「ちょ、ちょっとエル!? なにしゃべってるのよ!」
身体を隠すように縮こまった姫乃が流しから戻ってきて、エルが話していた携帯電話を奪い取った。
腕二本だけでは隠そうにも限界があり、またエプロンが必要最低限の布面積のものしかなかったため、どうしても隠し切れない場所というのが出てくる。
それは例えば、肩紐からストンとほぼ垂直に落ちる布の隙間からだったり。
それは例えば、料理とは前を向いて行うものでありカバーする必要の無い背後だったり。
実に。
実に眼福である。
もう俺は死んでもいいんじゃなかろうか、とさっき口に出したところ「そうすべきだ。君はさっさと死ね」と割とキツい捨て台詞を残してニーキは姫乃の部屋に帰っていった。
さっきの負け方がよほど悔しかったらしい。
「メル? 今エルが言ったことは全部デタラメだからね――――嘘! 全然分かってないでしょ! お願いだから貞方くんには――――――怒るよ? ――――――うん、ホントにしゃべっちゃ駄目だからね。約束よ、いい? ――うん、ありがとう。それじゃあね、はーい」
半ば強引に通話を切ったらしい姫乃は携帯をエルに返して、俺に凝視されていることに気付いた。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ……」
「なに言ってんだ。ジロジロ見なきゃ裸エプロンの意味が無いだろ」
この男のロマンをまさか実現できる日が来ようとは、いや実は姫乃が正式に俺の彼女になってくれた時点で期待はしていたわけだけど、こうしてリアルで目の当たりにできたとなるとその感慨もひとしおだ。
王道の学園異能バトルもいいけど、やっぱりちょいエロを含んだラブコメも外せないな。ただし絶対領域が僅かに解放されてるから少年誌には載せられないけど。
くそっ、未だズキズキ痛む腰が恨めしい。立ち上がることができたらキャベツを刻む姫乃の背後にまわってエプロンの隙間に手を差し込めるってのに。
「あっち向いててよぉ。料理してると手が塞がっちゃうから隠せないじゃない」
「隠せないのなら隠さなければいいじゃない」
「そ、それじゃただの痴女じゃない! あくまで弧域くんにやらされてるんだからね! それに私の身体なんて見ても面白くない、でしょ?」
「全然そんなことないぜ。具体的に言おうか、上から順に鎖骨――」
「言わなくていいから! ……もう、分かったから、せめてそんなに目を大きくして見ないでよね」
そう言って前を隠したまま流し台までバックで移動して、しばらくそのまま俺と見つめ合い固まったままだったが、意を決したのかクルリと流し台のほうを向き、再び料理に取り掛かった。
美桃!
「はあ……なんだか私はお邪魔みたいですね」
姫乃に通話を切られたエルはやれやれ、と携帯を置いて玄関へ向かった。
エルのおかげで男のロマンを叶えることができたという男として最低の事実が、今更になって罪悪感として重くのしかかってきた。
「私も姫乃さんの部屋に行ってます。終わったら呼んでください」
料理中の姫乃の下を通り過ぎ 「こ、コラっ! 下から覗き込まないでっ!」 玄関を自力で開けて出ていってしまった。
俺の部屋で、姫乃とふたりっきりになった。
裸エプロンとふたりっきりになってしまった。
包丁がまな板を叩く音と電気コンロの上で水が沸騰する音だけが聞こえてくる。
「えーと……母さんや、今日の晩飯はなに?」
何となく気まずくなったこの雰囲気をごまかしたかったのだが、姫乃は返事をしてくれずに野菜を切る手を止めた。
玄関の外から隣室の扉が閉まる音が聞こえてきた。
「な、なあ母さんや。晩飯……」
包丁を置いてゆっくりとこちらを向いた姫乃は、口を開いた。手は身体を隠さずに。
「今更聞くのもなんだけど……晩ご飯、何がいい?」
「えっ? そ、そうだな。母さんの作るものなら何でもいいよ」
「コレが食べたい、とか言ってくれないと、献立を考えるのって結構大変なんだからね」
「ご、ごめん」
電気コンロを止めて、姫乃はベッドに歩み寄ってきた。僅かに上気した頬が艶かしい。
「じゃあ、3つの中から好きなのを選んでね。1番、肉じゃが。2番、オムレツ。3番――私」
「…………」
「にはは。せっかくだから言ってみたけど、本当の夫婦ってこんなこと、言うの、かな。ん~恥ずかし~!」
「――3番」
「ん?」
「3番でお願いします」
思わず敬語になってしまった。
ここで1番や2番を選ぶ男は漢じゃない!
「い、いやいや弧域くん、さっきのは」
「俺の食べたいものを言って欲しいんだろ。3番」
「そ、そうは言ったけど、でも今は料理中だし……」
「栄養はいつでも補給できるけど、今は姫乃分を摂取したい。だから3番――姫乃を食べたい」
「…………そんなに、食べ、たいの?」
俺が頷くと、姫乃はさらに顔を真っ赤にしてベッドに腰掛けた。
姫乃を真横から見る位置になって、エプロンの絶対領域が完全に解放された。
裸エプロンを最初に考えた紳士は間違い無く天災的な天才だ。見慣れたはずの薄い胸とエプロンに触れている先端に、俺はこれほどまでに目を奪われてしまっている。
「でも腰、痛くないの?」
「腰が使えないのなら使わなければいいじゃない」
「さっきからどうしてアントワネットなのよ」
ビバ☆ラブコメ!
今もし二次元の神様が現れて異能バトルができるだけの力を与えてくれると言ったならば、俺は迷わず 「そんなことはいいから朝の曲がり角で食パン咥えた可愛い転校生とぶつからせてくれ」 と頼むね。
いや、違うか。
俺はハーレムって柄じゃないし、姫乃一人とずっとイチャイチャしていればいいや。
少年誌のラブコメのような八方美人なんて良くないに決まってる。
攻略するのは、姫乃一人で十分だ。
姫乃に通話を切られたエルはやれやれ、と携帯を置いて玄関へ向かった。
エルのおかげで男のロマンを叶えることができたという男として最低の事実が、今更になって罪悪感として重くのしかかってきた。
「私も姫乃さんの部屋に行ってます。終わったら呼んでください」
料理中の姫乃の下を通り過ぎ 「こ、コラっ! 下から覗き込まないでっ!」 玄関を自力で開けて出ていってしまった。
俺の部屋で、姫乃とふたりっきりになった。
裸エプロンとふたりっきりになってしまった。
包丁がまな板を叩く音と電気コンロの上で水が沸騰する音だけが聞こえてくる。
「えーと……母さんや、今日の晩飯はなに?」
何となく気まずくなったこの雰囲気をごまかしたかったのだが、姫乃は返事をしてくれずに野菜を切る手を止めた。
玄関の外から隣室の扉が閉まる音が聞こえてきた。
「な、なあ母さんや。晩飯……」
包丁を置いてゆっくりとこちらを向いた姫乃は、口を開いた。手は身体を隠さずに。
「今更聞くのもなんだけど……晩ご飯、何がいい?」
「えっ? そ、そうだな。母さんの作るものなら何でもいいよ」
「コレが食べたい、とか言ってくれないと、献立を考えるのって結構大変なんだからね」
「ご、ごめん」
電気コンロを止めて、姫乃はベッドに歩み寄ってきた。僅かに上気した頬が艶かしい。
「じゃあ、3つの中から好きなのを選んでね。1番、肉じゃが。2番、オムレツ。3番――私」
「…………」
「にはは。せっかくだから言ってみたけど、本当の夫婦ってこんなこと、言うの、かな。ん~恥ずかし~!」
「――3番」
「ん?」
「3番でお願いします」
思わず敬語になってしまった。
ここで1番や2番を選ぶ男は漢じゃない!
「い、いやいや弧域くん、さっきのは」
「俺の食べたいものを言って欲しいんだろ。3番」
「そ、そうは言ったけど、でも今は料理中だし……」
「栄養はいつでも補給できるけど、今は姫乃分を摂取したい。だから3番――姫乃を食べたい」
「…………そんなに、食べ、たいの?」
俺が頷くと、姫乃はさらに顔を真っ赤にしてベッドに腰掛けた。
姫乃を真横から見る位置になって、エプロンの絶対領域が完全に解放された。
裸エプロンを最初に考えた紳士は間違い無く天災的な天才だ。見慣れたはずの薄い胸とエプロンに触れている先端に、俺はこれほどまでに目を奪われてしまっている。
「でも腰、痛くないの?」
「腰が使えないのなら使わなければいいじゃない」
「さっきからどうしてアントワネットなのよ」
ビバ☆ラブコメ!
今もし二次元の神様が現れて異能バトルができるだけの力を与えてくれると言ったならば、俺は迷わず 「そんなことはいいから朝の曲がり角で食パン咥えた可愛い転校生とぶつからせてくれ」 と頼むね。
いや、違うか。
俺はハーレムって柄じゃないし、姫乃一人とずっとイチャイチャしていればいいや。
少年誌のラブコメのような八方美人なんて良くないに決まってる。
攻略するのは、姫乃一人で十分だ。
祝 ☆ ア ル ト レ ー ネ 再 販 !
おめでとうございます!
これで多くのレーネ難民が救われることでしょう!
躊躇うことなくポチりました!
既にエルが一体ウチにいますが、そんなことは瑣末なことです。
一体いるのなら、もう一体お迎えすればいいじゃない。
名前はもう『アマティ』で決定しています。
ああアマティよ、早くその可愛いお顔を見せておくれ。
武装をせずに何が武装神姫か、とは思うわけですが、バトルをするなら少しくらい超科学的な能力があってもいいんじゃないかと思う今日このごろです。
全身がゴムでできた神姫素体とか。
13kmまで伸ばせるビームサーベルとか。
美味しいヂェリーを飲む毎に強くなる神姫とか。
いっそ素体の中に九尾を封印しちゃったり。
もういっそすべてをなかったことにしてしまったり。
全身がゴムでできた神姫素体とか。
13kmまで伸ばせるビームサーベルとか。
美味しいヂェリーを飲む毎に強くなる神姫とか。
いっそ素体の中に九尾を封印しちゃったり。
もういっそすべてをなかったことにしてしまったり。
まあ、どんな能力も裸エプロンの前では霞んでしまいますが。