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キズナのキセキ

ACT0-4「二重螺旋」




 ミスティにしてみれば、戦い方などどうでも良かった。
 マスターである久住菜々子と一緒にバトルロンドができればいいわけで、桐島あおいの言う「個性的な戦い」については特に興味はない。
 菜々子の指示通りに戦うことこそ、彼女に課せられた責務だ。
 だから、今、自らのマスターが、ベッドの上で頭を悩ませ、知恵熱を出していようとも、ミスティが関知することではない。
 ないのだが。

 あおいから言われ、個性的な戦いを模索しはじめて三日。
 すでに菜々子は煮詰まっていた。
 今も、ベッドにうつ伏せになり、考えを巡らせ続けている。
 懊悩は深まっているらしく、時々耐えられなくなったように、手足をばたばたと動かす。
 どうも考えているというより、妄想を増大させているといった方がいいのかもしれない、とミスティは思う。
 ここ三日、ずっとこんな調子だった。
 考えを巡らせはじめると、妄想モードに入り、上の空になる。
 別に学校や家で上の空なのはかまわないが、バトルの最中も上の空なのは勘弁して欲しい。
 ミスティはため息をつく。
 うちのマスターは、ほとほと頭脳労働に向いていない。
 ここでマスターに助け船を出すのも、神姫の務め、か。
 ベッドの上で、知恵熱のあまりオーバーヒートを起こし、冷却モードに入っている菜々子に、ミスティは声をかけた。

「マスターは、勘がいいですよね」
「……そうかしら」
「バトルの時、試合の組立とか、相手に合わせた戦術とか、考えてます?」
「そんなの、考えてるわけないじゃない」

 即答か。
 少しぐらい考えてもらいたい。
 ミスティは、大きなため息を口の中で噛み殺し、気を取り直して続ける。

「つまり、マスターは、勘を使って、その場その場で判断しているわけですね」
「なによ、それじゃあわたしが、何も考えずにバトルしているみたいじゃない」
「でも、現実にそうなのでしょう?」
「うっ」

 自覚はあるらしい。
 ベッドに膝を抱えて座り、シーツの上にのの字を書き始めたマスターの、なんと情けない姿よ。
 しかし、ミスティはめげない。
 これからが話の本題なのだ。

「別に、勘に頼るのが悪いわけじゃありません。それをもっと積極的に活かす戦い方を考えるのはどうでしょう?」
「勘を……活かす?」

 菜々子はきょとんとした。

「今も勘に頼ってるって言ったのは、あなたじゃない」
「そうです。いままでみたいに意識せずに、ではなく、積極的に勘を使う……ってことです」
「それで、具体的には?」
「さあ?」
「さあ、って……」
「それを考えるのは、マスターの仕事じゃないんですか?」
「う……」

 口ごもる菜々子から、ミスティはすました顔で目をそらした。
 かく言うミスティにも、具体的な方策があるわけではない。
 何かしらのヒントを与えれば、それでミスティの役目は終わりだ。

「勘、ねぇ……?」

 菜々子は首を傾げている。
 この後、菜々子の懊悩はさらに深まるのだが、ミスティの知ったことではなかった。

 しばらくのち、菜々子の懊悩が払拭される出来事が起きる。



 それは、あるタッグマッチバトルでの出来事だった。
 菜々子のミスティ、あおいのルミナスは、『七星』の二人を相手にしていた。
 一人はマオチャオ型のカスタムタイプ、もう一人は黒と赤にペイントされたアーンヴァルのカスタム。
 黒赤のアーンヴァルは、限定のリペイントバージョンだ。

 状況は拮抗していた。
 二人とも『七星』だけあって、実力は十分。
 地上では、ミスティとマオチャオが乱戦を繰り広げている。実力派のマオチャオとの近接格闘戦では、ミスティには少々荷が重いか。
 空ではルミナスと黒いアーンヴァルが対峙していた。
 ルミナスは早くミスティを援護したいところだが、黒い天使型はそれを許さない。
 お互いに決め手を欠きながら、刻々と試合時間は過ぎてゆく。

 先に動いたのは相手だった。
 中距離の射撃戦で、不意にミサイルを放ってきた。
 不用意な一発をくらうようなルミナスではない。
 手にしたビームライフルで素早く照準。確実に命中するように、十分引きつけた上で射撃した。
 細いビームが、見事にミサイルを貫いた。
 だが。

「な、なにこれ!?」

 焦ったのはルミナスの方だった。
 破壊したミサイルが発したのは爆炎ではなく、大量の白煙だった。
 視界が煙で白く埋まる。

「狙い通り!」

 快哉を叫び、黒いアーンヴァルが戦場から離脱する。
 ブースターで加速し、狙うのは……ミスティの背後。

「しまった……!」

 ルミナスはビームライフルを構えるが、視界が隠れて相手を狙えない。
 白煙の範囲から離脱した後、狙わなければ。
 しかし、その間にも、黒いアーンヴァルは加速している。
 このままでは、間に合わない。

「くそっ……」

 ルミナスが、移動しながら悪態をついた、その時。
 唐突に、菜々子の声が飛んだ。

『ミスティ! 相手を踏んづけて、背面跳び!』

 菜々子の言葉の意味を、ルミナスは瞬時に理解できなかった。
 おそらくは、相手の神姫たちも同様だったろう。
 その刹那の間隙を突いて、ミスティは菜々子の指示を反射的にかつ忠実に実行した。
 格闘戦の最中、いきなりのショートジャンプ。

「みぎゃ!?」

 あろうことか、強化脚「サバーカ」で、目の前のマオチャオ型の顔を踏んづけた。
 そしてそのまま、背を弓なりに反らしながら、ジャンプ。

「わ、わたしを踏み台にしたにゃ!?」

 マオチャオの声が背後に聞こえる。
 それと同時に、菜々子の声が来た。

『そのままキック!』

 どっちの方向に、とかいう指示はない。
 しかし、ミスティは迷うことなく、右脚を宙に振り上げた。
 サッカーの、オーバーヘッドキックのような体勢。

「な、なんだとおおぉぉ……!?」

 その声と共に、何かが右足首に接触した。
 振り抜いた右足首は、衝撃で砕け散る。
 しかし、相手のダメージはさらに大きかった。
 右足首に装着されたナイフは、いましがた急加速で通り抜けた黒いアーンヴァルの半身を切り裂いていた。
 コントロールを失い、落下してゆく。
 そこに、視界を取り戻したルミナスが現れた。
 手にしていたビームライフルを素早く照準。
 引き金を絞る。

「うわあああぁぁっ!」

 地表に着く前に、ビームが黒いアーンヴァルを貫いた。
 コントロールを取り戻すことなく、地面に激突。
 ポリゴンの欠片となって、砕け散った。
 一機撃墜。

「……あれ?」

 ミスティは空中で体勢を変え、片足で着地した。
 振り向く。
 マオチャオが、あまりと言えばあんまりな展開に、目を白黒させていた。

「あのー……サレンダーするなら、今のうちだと思いますよ?」

 なんのフォローにもなっていないミスティの言葉に、さすがのマオチャオも憤慨し、突撃してきた。
 ミスティはそれを迎撃する。
 先ほどまでは押されていたが、今は空中からルミナスの援護がある。
 片脚でも、マオチャオの攻撃を難なく封殺する。
 抜き手の連打で動きを封じると、マオチャオの脇をサブアーム「チーグル」で捕まえた。

「な、なにする……みぎゃーーーー!?」

 ミスティはブレンバスターの要領で、マオチャオを背後に放り投げた。
 空中で待っていたのは、二刀流でライトセイバーを持つルミナス。
 舞い踊る。
 マオチャオはかわす術もなく、ルミナスの斬撃を受けて敗北した。


「ふう……」

 菜々子は勝利に安堵し、軽く息をつく。
 瞬間、周囲がいきなり歓声に沸いた。
 菜々子はびっくりして、目を白黒させる。
 周りを見渡すと、自分たちの対戦を観ていたギャラリーが盛り上がっているようだ。

「ほら、ギャラリーに応えて応えて」

 笑いながら、あおいお姉さまが菜々子の手を取った。
 筐体の前から立つと、菜々子の手が上に挙げられた。
 わっ、と歓声がさらに沸く。

「すげえオーバーヘッドキック!」
「あのタイミング、エスパーかよ!?」
「『アイスドール』があんな派手に戦うなんて!」

 どうやら、菜々子の戦いぶりが観客を盛り上げた、らしい。
 本人がそう気付いても、まったく実感がわかない。
 開いたアクセスポッドから、ミスティが出てくる。
 菜々子と視線を合わせると、ウィンクを一つ送ってきた。
 菜々子は困ったように笑うしかなかった。
 しかし、この一戦は、菜々子の今後の戦い方を示す指針となった。



 その日以来、菜々子の対戦の様子は変わった。
 菜々子が対戦すると、必ずギャラリーがつくようになった。
 しかも、日に日に増えている。

「いまよ! 副腕を伸ばして回転っ!」

 大きな声でミスティに指示を出す。
 すると、

「キターーーーーー!」

 ギャラリーがそう声を合わせた。
 待ってました、とばかりに盛り上がる。

「きた、『アイスドール』のムチャぶり!」
「急加速中に回転なんて、ムリムリ!」
「意味わかんねー!」

 ギャラリーは言葉が悪かったが、口調はいたって明るい。
 菜々子もまったく気にしていない。

 ミスティはいままさに、地面スレスレを急加速中だった。
 ブースターによる強襲。
 相手の神姫も、こちらに向かって加速してくる。
 すれ違いざまの攻防になる。
 そう思った瞬間の、菜々子の指示である。
 考える間もない。
 菜々子の指示を、脊髄反射的かつ忠実に実行する。
 ブースターの出力を調整し、進行方向は変えずに、身体を回転させる。
 「チーグル」の拳を握り、肩と水平に伸ばす。
 二回転ほどしたところで、手応えがあったが、かまわず振り抜いた。
 すると、一瞬後にファンファーレがフィールドに鳴り響いた。

『WINNER:ミスティ』

 空中に表示された、ジャッジAIの勝利宣言。
 加速と回転をやめ、振り向く。
 相手神姫は、身体をのけぞらせたまま地に伏し、ポリゴンの欠片となって散るところだった。
 ミスティはすれ違いざま、見事なウェスタンラリアットを決めていた。
 実のところ、なんで今の技が決まったのか、そもそも何で勝ったのか、ミスティにはよくわかっていない。
 まさに、菜々子の「女の勘」がなせる技であった。


 ゲームセンター『ポーラスター』に集う神姫マスターたちからは、「『アイスドール』のムチャぶり戦法」などと呼ばれている。
 菜々子とミスティが、最近よく使う戦法だ。
 バトルの最中、菜々子がいきなり、理解不能な指示を出す。ミスティはそれを迅速かつ忠実に実行する。
 すると、なぜかその一撃が、試合の趨勢を決める一撃となるのだ。
 パターンを読もうと思っても、まったくのランダムなので、いつどんな指示が来るかは分からない。なにしろ、ミスティだけでなく、菜々子本人すらもよく分かっていない。完全に菜々子の「勘」まかせなのだから、パターンなどあるはずもない。
 しかも、菜々子からミスティへの指示は、他のマスターから見れば、無理で無茶なものばかり。
 ゆえに、「『アイスドール』のムチャぶり戦法」と呼ばれるようになったのだ。

 ギャラリーはこれを観るために、菜々子が対戦する筐体に集まる。
 ギャラリーとは勝手なもので、ミスティが勝っても、ムチャぶり指示が出ないと、

「あー……」

 と言って盛り下がる。
 菜々子にはこれが、なぜだかとても不快だった。

 逆に、菜々子がミスティにムチャぶりすると、負けても、

「今回は残念だったけど、次がんばれよ!」

 と声をかけてきたりする。
 そうなると、意地でもムチャぶり戦法で勝ちたくなる。
 久住菜々子は負けず嫌いだった。

 菜々子がムチャぶり戦法を続けていると、分かってきたことがある。
 ムチャぶり攻撃をミスティに決めさせるためには、従来の『アイスドール』の戦い方ではやりにくい。
 今までは、菜々子の勘で相手の動きを見抜き、弱点を突いていた。
 しかし、この戦い方では、相手を封殺することが多く、ムチャぶり攻撃する余裕がないのだ。
 ムチャぶり攻撃をするためには、相手の動きに自由度を持たせ、ムチャぶりを誘発するように仕向ける必要がある。
 そのためには、ミスティ自身が、自由闊達なバトルをしなくてはならない。
 ミスティの戦いぶりは、徐々に変わっていった。
 『アイスドール』の容赦ない戦い方から、自由かつ豪快な戦い方へ。
 そしてとどめは、菜々子の勘をフルに活かした、ムチャぶり攻撃。
 その攻撃が決まり、勝利するたびに、菜々子の対戦を観るギャラリーは増えていった。

 この時、菜々子は対戦に楽しさを感じていた。
 『七星』になるまで、どうしても勝ち続けなくてはならない、という心の呪縛から解放され、思うがままにバトルを繰り広げる。
 その戦いぶりをみんなが認めてくれる。
 それはなんと気持ちのいいことだろう。
 菜々子はもはや勝利だけを求めてはいない。
 もちろん、勝ちたくはあるが、試合の内容が面白いか、自分らしい戦い方ができているか、の方が大切だ。
 明日、自分たちの戦い方を突き詰め、さらに成長することはもっと大事だ。
 そうすれば、勝利はあとからついてくる。
 その考えが、以前の自分の考えとまったく違っていることに気付いた時、菜々子はひどく驚いた。
 日々の対戦の中で、菜々子自身も変わっていたのである。



「最近、調子いいみたいね、菜々子」
「はい、絶好調です」

 菜々子はあおいににっこりと笑いかける。
 彼女の肩で、ミスティも笑っている。
 菜々子は最近、よく笑うようになった、とあおいは思う。
 出会った頃の陰はなりを潜め、今は明るく親しみやすい。
 おそらく、こっちが本当の菜々子なのだろう。
 最近は、菜々子も他のマスターたちとの輪に入り、毎日が楽しそうだ。

「……そろそろいいかな」
「え? なにがですか?」
「あなたさえよければ……『七星』に推薦してあげようかな、って」
「わたしを……『七星』に、ですか……?」

 きょとんとしている菜々子に、あおいは頷いた。

「実はね……前に花村くんが、菜々子を『七星』に推薦したことがあったのよ」
「え……?」
「でも、わたしだけ反対したの。まだ早いって」
「ど、どうしてですか?」

 初耳である。
 花村が自分を『七星』に推してくれたことも驚きだが、あおいお姉さまが反対したなんて、菜々子はショックを隠しきれない。
 あおいは困ったように笑って言った。

「だって、あのころの菜々子は、自分が勝つことにしか、興味がなかったんだもの」
「あ……」

 菜々子は恥ずかしさに、顔が赤くなる。
 今思えば、なんと独りよがりだったのだろう。
 『七星』になりたかったのは、お姉さまのパートナーとして認められたかったからだが、それでは『七星』は務まらない、と今ならば分かる。
 『七星』は『ポーラスター』に集う神姫マスターの模範であり、まとめ役であり、守護者だ。
 ただ強いだけでは、『七星』には足りない。

「でも、今の菜々子なら、わたしも自信を持って推薦できる。どうかしら?」
「うーん……」

 菜々子は顎に指を当て、考え込む。
 少しの間の後、菜々子は顔を上げ、こう言った。

「やっぱり、遠慮しておきます」

 これには、あおいの方が驚いた。
 二つ返事で承諾すると思っていた。

「どうして? あんなに『七星』になりたがっていたじゃない」
「ええ……以前はそうでした。
 でも、それはきっと、わたしが神姫マスターとして自信がなかったからだと思います」
「自信?」

 菜々子はあおいに頷いた。

「お姉さまとタッグを組むのに、『七星』という肩書きがあれば、他のマスターたちに文句を言われないと思っていたんです。
 それはただ、自分に相応の実力があるという自信がなかったからで……自信があれば、他の人の言うことなんて気にならないですよね。
 でも、今は違います。
 今は……お姉さまとタッグを組んでも、他のマスターに負けないと思えるし、それだけのバトルができる、今は足りなくても近い将来できるようになるって、そう信じられるんです。
 だから、もう肩書きは必要ないんです」
「そう……」

 あおいは小さく吐息をついた。
 妹と可愛がってきた少女は、あおいが思っていたよりもずっと成長していた。
 あおいの理想を正しく受け継いで。
 その成長ぶりが嬉しくもあり、少し寂しくもある。

「それに……」
「それに?」

 菜々子は困ったように微笑みながら、言った。

「……お姉さまのパートナーとして認められるために『七星』になるなんて、他のメンバーに申し訳ないじゃないですか」
「ふふ……そうね、あなたの言うとおり」

 あおいは無理強いする気はなかった。
 今ここであおいが推さなくても、菜々子はいつか、『七星』になるに違いない。
 ならば今は、菜々子の成長を静かに見守ることこそ、姉たる自分の役目なのだろう。

「……それじゃあ、名前を決めましょうか」
「え? 何の名前ですか?」
「菜々子とわたしのコンビの名前」
「それって……」

 菜々子は大きく目を見開いた。
 コンビはチームの最小単位だ。
 つまり、あおいお姉さまは、菜々子とのコンビを特別なものにしようと言ってくれているのだ。

「あおいお姉さま……」
「どうしたの? わたしとコンビを組むのはイヤだった?」
「そんな……! イヤなはずがありません」

 むしろ、嬉しすぎる。
 恩人であり師匠であり憧れている人が、わたしとパートナーになってほしいと言ってくれたのだ。
 そう、もう誰にはばかることなく、お姉さまのパートナーはわたしだと言える。

「それじゃ、どんな名前にする?」
「うーん……」

 菜々子はまた顎に手を当ててうつむき、考える。
 あおいと菜々子、二人を示す名前だ。二人にとって、何か象徴的な名前がいい。
 ふと。
 菜々子の頭で何か閃く。
 ある一つの言葉が思い浮かぶ。
 それがいい。それしかない、と思えた。

「お姉さま、わたし、いいのが思いつきました」
「そう? わたしもいいのがあるんだけど」
「そうなんですか?」

 あおいは頷きながら、微笑んで、言う。

「きっと菜々子が考えたのと同じだと思うわ」
「本当に同じなら……素敵ですね」
「それじゃあ、一緒に言ってみる?」
「え……いい、ですけど」

 菜々子はちょっとどきどきする。
 あおいお姉さまと同じ名前でなかったらどうしよう。
 でも、確信がある。
 菜々子の勘が告げている。
 そのまま素直に、その言葉を口にすればいい。
 二人は、せーの、とタイミングを合わせ、その言葉を口にした。

「二重螺旋!」

 二人の声がぴったりと重なった。
 あおいと菜々子は笑いながら肩を抱き合う。
 二人の肩にいる神姫たちも。
 少女たちの朗らかな笑い声に、花村は振り向いた。
 仲良く笑顔を見せる菜々子とあおいは、本当の姉妹のようだった。



 『二重螺旋』の活躍はめざましかった。
 豪快かつトリッキーなミスティと、華麗で自由なバトルをするルミナスの組み合わせに、相手コンビは翻弄され続ける。
 マスターの菜々子とあおいの息もぴったりで、つけ込む隙を与えない。
 『七星』のあらゆる組み合わせのタッグを倒し、『ポーラスター』で一番のタッグと認められた。
 もはや、あおいお姉さまのパートナーは菜々子しかいない、と認められ、陰口を叩く者もいなくなった。
 かつて菜々子をなじった相手すら、『二重螺旋』の二人を応援するようになっていた。

 『二重螺旋』の評判は『ポーラスター』だけに留まらなかった。
 『ポーラスター』にものすごく強いコンビがいる。しかも、美人姉妹の二人……そんな噂が、沿線の神姫センターやゲームセンターに広まった。
 週末には、噂を聞いた神姫マスターたちが、腕試しにやってくる。
 純粋に戦いを挑む者もいたし、からかい半分興味本位の連中もいた。
 菜々子とあおいの容姿に気を抜いた者も、ひとたびバトルになれば考えを改める。
 ミスティとルミナスのコンビネーションは、挑戦者をことごとく退けた。
 そして、また噂は広まる。
 週末の『ポーラスター』は今まで以上ににぎやかになった。

 その頃には、あおいだけでなく、菜々子も人気の神姫マスターになっていた。
 ミスティと同じストラーフ型のマスターを中心に、菜々子にも取り巻きが集まるようになった。
 菜々子に憧れる新人のマスターたちも現れた。
 あおいの新人講習に付き合ったり、分担したりすることもあったので、その影響かもしれない。
 菜々子はまだ、あおいのように人を指導し導けるような域に達してはいないと思っている。
 でも、あおいお姉さまを手伝い、『ポーラスター』に集まるみんなのためになるなら、それはとても嬉しい。
 菜々子はみんなの前でよく笑う。
 その姿は、あの日、菜々子が初めて見たあおいの姿によく似ていた。



「思えば、あの頃の久住ちゃんは、神姫マスターとして欲しいものをすべて手に入れていたのかもしれない。
 実力を認め、受け入れてくれる仲間たち、競い合うライバル、噂を聞きつけてやってくる挑戦者、共に戦うパートナーは憧れの人、そして、絆で結ばれた神姫……『二重螺旋』として活躍していた頃の彼女は、本当に楽しそうだった」

 花村さんの視線は、はるか過去の光景を見ているようだ。
 しかし、彼の表情には苦渋がにじんでいる。
 ここまでの花村さんの話では、菜々子さんも桐島あおいも、本当の姉妹のように仲が良く、幸せなはずなのに。
 なぜ花村さんは辛そうなのか。

「……何があったんですか」
「……裏切りだよ」

いつも温厚な花村さんが、吐き捨てるように言ったので、俺は驚きを隠せない。

「どんなことでもそうだけど、築き上げるのは本当に大変で……崩すのは一瞬だ。久住ちゃんは、本当にがんばって、幸せを手にしたのにな……」
「教えてください。何があったんですか」
「……」

 花村さんは本当に辛そうな顔をしている。
 彼自身も、この過去の出来事に関わった者として、苦しんできたのかもしれない。
 花村さんは、かすれたような声で、言った。

「桐島ちゃんが……裏切ったんだ。あんなに桐島ちゃんを慕ってた……本当の姉妹のように仲が良かった久住ちゃんを、またどん底まで突き落とした……」

 俺は息を飲む。
 聞いてはいけないような気持ちになる。
 花村さんは、いまだ苦しそうな顔をしたまま。
 それでもなお、俺は話の続きを促した。
 踏み込まなくてはならない。
 彼女の傷を共有しなくては、彼女を救う手だてなんて、思いつくことさえできないのだから。










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