「ただいまぁ~っと」
1階で母親にもかけた挨拶を、2階の自室でも同じようにすると…
「おかえりなさい」 と温かみのある声と
「おっかえり~」 とコチラは元気一杯な 返事が返ってきた。だが、部屋には『人影』なんてなかった。
声が聴こえて来たのはデスクトップPCの横に接続されたクレイドルの上からだった。見ると、その上には15cm程の小型ロボット:神姫が居た。
神姫との毎日 第一話
2030年代から急速に普及した小型ロボット技術…最初は神姫もその中の1ジャンルだった。時が経つにつれ、神姫は生活のパートナーとして認知されていった。感情あるスケジュール手帳として扱い、共に通勤するサラリーマン や 孤独な老人の話し相手としても珍しくない。昔のギャルゲーでの『メイドロボ』は大幅に小型化されたが似たような形で実現されたとも言える。
その神姫に誰が発端となったのか、スポーツ的な事をやらせたヤツがいる。それが、今日の『武装神姫』という(神姫におけるスポーツ的なもの)1大ブームの始まりだった。
俺も付き合いは今年の春先からと短いものの、神姫2人のオーナーだ。
アルトレーネ型 ルネ
銀色のサラリとしたロングヘアーに碧眼、穏やかな性格(初対面だと冷たい印象と思われ、落ち込むそうだ)で姉ポジション。入手の際に若干の問題が有ったが、それはまた別のお話
ウェスペリオー型 かりん
薄紫色のツインテールに同色の瞳を持つ小悪魔っ子 見知った顔には悪戯(苦笑で済む程度だが)をしたがる困ったちゃん。次女ポジションの理由はルネの入手時にあり。
「マスター、だいぶ疲れているように見えるんですけど…」
「そんなに疲れてるように見えるのか? ルネ」
「絶望した! って叫び出してもおかしくないぐらいね。苦手な課題でもドッサリ出たとか?」
「かりん、大正解だ。厄介な英語の和訳課題がな… 先に晩飯食って来るから、食い終わったら手伝ってくれ」
俺はそう言い残して、カバンを置いてから自室を出た
~夕食後~
時刻は夜8時、俺はテキストとノートを卓上に広げて悩んでいた。あまりにも量が多いからだ。
「知り合いの方と大学で一緒に済ませてくるというのは…」
気遣って声をかけてくれるルネに
「あ~ 他の連中、バイトだか何だかで別々の時間に帰ったみたいだ。メールも送ったんだが、返信なしって事は忙しいんだろうな」
俺が悩んでいる中、かりんはPCに神姫用の端末を接続してネットを楽しんでいた
~悩むこと 30分~
ルネが和訳間違いに気付いて、指摘した部分を俺が修正する といった感じに課題を片づけて行ってはいるのだが終わりそうにない。徹夜コースを覚悟しておこう…
「かりん~ 手ぇ 空いてるなら下からガムか何か持ってきてくれ ダレて来て性がねぇや」
「ん~ 軽いもので良いなら適当に見繕って来るよ~?」
そう言いながらもウイング状のフライトユニットを装備して部屋を去っていく かりん
それから3分ぐらいしてかりんが包装されたチョコを持って戻ってきた。有難く受け取った俺はチョコを口に放り込んで勉強を再開した。冷蔵庫入りの冷たさとチョコの甘さで疲れが取れたような気がした。
おかしい、マスターがチョコを口に入れてから、作業効率が上がっている。『マスターらしからぬ集中力』でだ。
「かりん、さっきのチョコって冷蔵庫に有ったやつで良いのよね?」
「うん。正確には 浩人のパパの部屋に有ったガラナ入りチョコ なんだけどね」
静かに問いかけた私に妹はサラッと事の真相を告げた。
(ガラナ入りチョコなら、眠気も飛んで集中力も上がりますけど…)
見上げた先ではマスターが必死にペンを走らせている。苦笑しつつも、ケアレスミスの確認の為に私はマスターと文面を見守ることにした。
余談ですが、マスターは数日後にお父様から詰問されたそうです。
深夜アニメ観賞用のガラナチョコを知らないか? との事・・・
~課題開始から4時間後~
「っしゃあ、終わったぁ!」
やっと最後の英文を和訳し終えた。時計を見ると時刻は11時半を回っていた。
ノートから顔を上げれば、ルネとかりんがコチラを見ながら笑っていた。
「お疲れ様です。マスター」
助かったよルネ、指摘してくれなかったら前衛芸術的な怪文書になってた所だ…
「遅くなっちゃったね、もう寝るの?」
そう言ったかりんの顔は少し拗ねているようだった。
(あ~、帰ったらゲームするって約束してたっけ… どうすっかな~)
「なぁ、2人とも。明後日の土曜なんだが、難波の神姫センターにメンテ行った帰りにアゾンで服見てやるからさ。それでチャラでどうだ? ルネには長時間手伝ってくれた礼、かりんには今日の約束の代わりとしてだが」
「約束ですからね(忘れないでよ)?」
「オッケー、何が何でも土曜は開けておくよ。流石に眠いからそろそろ寝るわ…
2人とも寝るならクレイドルでな?」
PC横のクレイドルへと2人を降ろしてやった俺は内心で感謝した。
オヤスミ、小さな『相棒』(パートナー)