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キズナのキセキ

ACT1-4「敗北の記憶 その2」



 その日、菜々子は、C駅にほど近いゲームセンターで噂を聞いた。
 C港の倉庫街の一角、使用されていない倉庫を改装し、武装神姫の裏バトルが行われる。
 主催は、神姫にハマっている、若手の不良グループだ。

 菜々子はその裏バトルに誘われたのだ。
 菜々子とミスティが『エトランゼ』として名前を売りながら、公式試合に一切関わらないのは、こうして裏バトルの情報を得るためだった。
 裏バトルも、主催者にしてみれば興行だから、名の売れた神姫に出場してもらえれば、話題が取れる。
 出場選手も、観客も増える。
 だが、公式戦出場神姫で有名になればなるほど、そういう危ない場所には近づかない。
 裏バトルには、犯罪が絡んでいる場合が多いのだ。
 罪を犯せば、公式戦のランキングは剥奪されてしまう。
 だから、公式戦に出ない有名な神姫は、裏バトルのスカウトとしては格好の標的だった。
 そう、菜々子のように。

「あんた、強ぇ神姫と戦いたいんだろ? だったら来いよ、他にも強者がたくさん参戦予定だ」
「へえ、どんな神姫が来るの?」

 裏バトルの主催の一人だと名乗ったヤンキー風の男に、菜々子は首を傾げてみせる。
 男は得意げに、指折り数えて神姫の名前を挙げた。

「そうだな……『フレイム・エッジ』とか、『百目の天使』とか……」
「『狂乱の聖女』は出る?」
「ん? ああ……よく知ってるな。そいつはメインイベンターさ」

 ビンゴ。
 久々の確定情報だった。

「なんだ? 『狂乱の聖女』とバトルしてぇのか?」
「まあ、ね。噂に聞くところでは、強いって話だし?」
「あいつは別格だよ。強いなんてもんじゃねぇ。
 ……でも悪いな。あいつはもう相手が決まってるんだ。
 『狂乱の聖女』を目の敵にしてる奴だから、代わってはもらえないだろうしなあ」

 『狂乱の聖女』に戦いを挑む者は多い。
 裏バトルでのネームバリューとしては、知る人ぞ知る、という程度だ。
 しかし、その圧倒的な強さを制して名を挙げようとする者は後を絶たない。
 また、個人的な恨みも多数買っている。
 どうも、次の対戦相手は後者のようだ。

「だから、とりあえず次は、別の対戦相手を用意するぜ。他にも強えのはたくさんいる」
「ごめんなさい。今は『狂乱の聖女』しか興味ないの」

 菜々子はそう言って、にっこり笑った。
 とりあえず、次回の裏バトルは観戦しに行くことを約束した。
 ヤンキー風の男は、それでも今日のところは引き下がった。
 裏バトル会場に『エトランゼ』を連れてきただけでも、彼の評価は上がるだろう。
 だが、菜々子は、裏バトルに出場する気はまったくなかった。



 土曜日の夜は長い。
 翌日は日曜日という安心感で、どこの繁華街も夜遅くまで盛り上がる。
 表通りはもちろんのこと、裏通りの飲み屋やゲームセンター、路地裏の屋台、さらに裏の賭博場まで。
 ここ、C港の倉庫にある裏バトル会場も例外ではなかった。
 外は寒々とした倉庫街の一角で、週末の夜など人も車も滅多に通らない。
 そんな外の様子とは裏腹に、武装神姫の裏バトル会場になっている倉庫の中は、異様な熱気に包まれていた。

 ここの裏バトルは、仕切が若い連中のためか、セキュリティよりも盛り上がり重視、といった感じだった。
 集客も多い。客層も、学生風の若者から、マニアっぽい年輩組まで、意外に幅広い。
 裏バトルは警察の目をおそれて、秘匿性を高めるため、多くの場合、限られた会員のみ招待される方式を取る。
 だが、菜々子がみたところ、ここでは客の出入りもそう厳しくない。会員の友人であれば入れるような有様だ。

 使われていない倉庫は、急造のバトルロンド会場になっていた。
 ただ、神姫センターなどと違い、バトルロンドの対戦筐体は一組だけ。
 正面には大きなスクリーンが設置され、プロジェクターでバトルの様子を映し出している。
 そのスクリーンが見えるように、観客席が配置されている。
 廃品のソファやテーブルが雑多に並べられただけの粗末なものだが、観客たちは気にしていない。
 酒やジャンクフードが運び込まれ、客に振る舞われる。
 この飲食代も、主催の収入源だ。
 客は次々と行われるバトルをネタに、賭に興じている。
 ルールは至ってシンプル。
 どちらが勝つか。
 プロジェクターには、賭けの始まっている試合の対戦カードが表示されている。
 それぞれの試合に賭け率が設定され、客は思い思いにギャンブルに興じている。
 バトルが映し出されると、歓声がわっ、と沸く。
 人気の高い神姫なら、さらに盛り上がる。
 人気の高さは勝率の高さに比例する。それがどんな武装、どんな戦い方をしていようとも、勝負に強い方が好まれる。

 裏バトルで「魅せる戦い」など意味がない。
 どちらが勝つか。
 裏バトルのバトルロンドでは、それだけがルールだ。
 武装も改造も無制限のレギュレーションなし。
 バトル自体はバーチャルだが、過激なバトル展開になる。
 公式戦ではないゲームセンターでの草バトルでも、ジャッジAIが判定を下した時点で試合は終了となる。
 しかし、裏バトルはそうではない。
 たとえ明らかに勝敗が決まっていても、試合は終わらない。
 神姫が完全に機能を停止するところまでやる。
 ジャッジAIも改造されていて、そうなるまでやめない。
 神姫が負けを認めても、泣き叫んでも、試合は終わらないのだ。
 そんなことをすれば、たとえバーチャルバトルでも、神姫のAIに障害を残すこともある。
 そんな残虐性も、裏バトルに観客が集まる理由の一つだ。

 時には、客の要望で、リアルバトルも行われる。
 もちろん、どちらかが破壊されるまで終わらない。
 神姫の断末魔の叫びに、ギャラリーは気違いじみた熱狂ぶりを見せる。
 公式戦では絶対に見られない残虐ショー。
 神姫がかわいそうだ、などと思う者はいない。
 出場する神姫マスターからしてそうなのだ。
 神姫の気持ちを省みることなどない。
 ただ勝つために、無理な改造を神姫に施したり、壊れれば躊躇なく廃棄する。

 そんな裏バトルの性質に、菜々子は憎悪すら抱いていた。
 ここに集まる者は、みんな人間の屑だ。
 神姫の「心」を尊重することのない、下衆の集まりだ。
 近寄ることすら汚らわしい。
 だが、その裏バトルに君臨するのが、本当の姉のように敬愛した女性なのだ。
 菜々子は不安を感じずにはいられない。
 あおいお姉さまは、そんな神姫マスターではなかったはずだ。
 菜々子に神姫マスターのなんたるかを教えてくれたのは、他ならぬ桐島あおいなのだ。
 一体何が彼女を変えてしまったのだろう。
 そんなことを考えながら、菜々子は、裏バトル会場の隅で隠れるように、ステージの方を見ていた。

 これからメインイベント、今夜もっとも注目の試合が始まろうとしている。
 スカウトの男の話によれば、ここで『狂乱の聖女』が出場する、とのことなのだが。
 やがて、二人の神姫マスターが、筐体の前に姿を現した。
 片方は、坊主頭で目つきの悪いヤンキー風の男。試合前からエキサイトしている様子だ。
 その反対側から。
 その女性は風のように、ふわり、とやって来た。
 淡い色のコートに、ベレー帽。
 かすかに浮かぶ微笑は、相手の興奮など気にも留めてもいない様子だ。
 間違いない。あの人は……

「お姉さま……」

 菜々子は口の中だけで、呟く。
 久々に見る桐島あおいは、記憶の彼女と大きく違わなかった。
 前回見たのは半年以上前だ。
 そのときも裏バトル会場で、そのときも今日のように隠れて見ていた。
 相変わらずの美貌に、菜々子は思わず見とれてしまいそうになる。
 だが、首を振り、甘い憧憬を振り払う。
 真剣な眼差しで、ステージを見た。

 ステージ上では、相手のヤンキーが、マイクに唾を飛ばしながらあおいを罵っていた。
 以前、別の裏バトルで、仲間ともども徹底的に叩きのめされたらしい。
 それが原因で、仲間たちも武装神姫から離れ、彼一人になったという。

「だが今日は負けねぇ! 仲間の弔い合戦だ! けちょんけちょんにしてやる!」

 男の恫喝じみた吠え声を、あおいはさらりと受け流した。

「……いいたいことはバトルで語ってくれる?」

 余裕の言葉に、相手は顔を真っ赤にして、さらにヒートアップした。
 あんなにオーバーヒート気味の様子では、勝てる試合も勝てないのではないか、と菜々子は思う。
 対照的な二人は筐体の前に座り、ほどなくバトルが始まった。

 それは、圧倒的としかいいようのない試合だった。
 『狂乱の聖女』にかすり傷すら負わせることができず、相手の神姫は完膚なきまでに破壊され、敗北した。
 ギャラリーはしばらく沈黙に支配された。
 あまりに一方的な破壊劇。
 背筋が寒くなるような勝利。
 だが、数瞬後には、歓声が溢れた。
 賭けに勝った客は喜びに叫び、負けた客はチケットを投げ捨てながら悪態に叫ぶ。
 チケットが、まるで花吹雪のように舞い散っている。
 ステージ上では、桐島あおいが変わらぬ微笑みを浮かべている。
 その微笑が、菜々子には作り物めいて見えた。
 喧噪の中、菜々子はそっとその場を離れた。
 誰にも気付かれぬように。
 菜々子の戦いは、これから始まるのだ。



 長い土曜の夜も、まだ宵の口である。
 裏バトル会場では、まだ対戦が続き、盛り上がっていたが、桐島あおいは一人、外に出た。
 アタッシュケースを左手に下げている。
 雪が降り始めていた。
 あおいはコートの襟を立て、路地をゆっくりと歩き出す。
 あたりは冷たい夜闇だが、街灯のおかげで歩くのに難儀するほどではない。
 その街灯の下。
 人影が一つ、現れた。
 あおいはその人影を認め、顔を綻ばせる。

「菜々子……久しぶりね」
「お姉さま……」

 突然の再会に、あおいは驚いた様子もない。
 あおいの表情とは対照的に、菜々子の顔には緊張がにじんでいる。

「わたしと会う決心、やっとついた?」
「……え?」
「この前は、半年くらい前……だったかしら? 確か、S県の裏バトル会場にいたわね」
「気付いて……いたんですか」
「ええ……もちろん、あなたが今なんて呼ばれているかも聞いているわ。
 放浪の神姫『エトランゼ』……強くなったのね、菜々子」

 穏やかな彼女の口調に、菜々子は闘志を奪われそうになる。
 変わっていない。
 三年前、決別する前のお姉さまと。

「それで……わたしに何の用?」
「何の用、って……」

 むしろそんなことを言い出すお姉さまの方がおかしいと思う。
 わたしがお姉さまに望む事なんて、一つしかない。

「……裏バトルなんてやめて、戻ってきてください。昔のように、みんなでバトルロンドを楽しめば……いいじゃないですか」
「それは、無理ね」
「なぜ」
「わたしにはわたしの目的があるのよ」
「……それは、仲間たちを捨てても……しなくてはならないことですか」
「ええ」

 あおいが迷いなく頷いたことが、菜々子には少なからずショックだった。
 会って話せば、戻ってきてくれるかも知れない。
 心のどこかで、そう思っていた。
 だが、そんな淡い希望はあっけなく打ち砕かれた。

「……目的って、なんですか?」
「……あなたに言う必要はないけれど……そう、あなたがわたしに勝てたら……わたしとマグダレーナに勝てたら、教えてあげるわ」

 言い終えるのと同時、あおいのアタッシュケースが音を立てて開く。
 九〇度開いた位置で止まる。武装神姫収納用のアタッシュケースは、皆そのようにできている。
 そのアタッシュケースの中から、立ち上がったもの。
 異形の神姫。
 マグダレーナ。
 この神姫を見るたびに、菜々子は何とも言えない不快感に襲われる。
 そのせいなのか、今の菜々子はマグダレーナの詳細な姿をよく覚えていない。記憶の中のマグダレーナはいつもシルエットだ。
 菜々子もアタッシュケースを開いた。
 その中から、フル装備のミスティが現れた。

「あれが、マグダレーナ……」

 裏バトルでの戦いぶりは見ていたが、対峙するのは初めてだ。
 桐島あおいの神姫にして、久住菜々子の仇敵。
 先代ミスティの、仇。
 ミスティが腕を磨いてきたのは、こいつを倒すためだ。
 彼女のCSCに、激しい闘争心が宿る。憎悪なのではないか、と電子頭脳が迷うほど燃えさかる。
 全身を駆けめぐる電気信号の温度が上がったような気がする。
 対するマグダレーナは、黄金色の瞳をくゆらせて、かすかな微笑みとともに、ミスティをにらんでいた。

「くくっ……『狂乱の聖女』と『エトランゼ』の一戦をこんなところでやるなんて……裏バトルのフィクサーが聞いたら、泣くぞ」

 初めて聞くマグダレーナの声は、ひどくしわがれていた。
 持ち前の気の強さで、ミスティはマグダレーナに言い放つ。

「そんなことこそ、どうでもいいわ。あんたとわたしの一戦はどんなところでやろうと同じことなんだから」
「……その元気が、最後まで続けばいいが、な」

 不気味に笑うマグダレーナ
 ミスティは無言で、異形の神姫を睨みつけた。

「目的なんてどうでもいいんです」
「え?」
「わたしはお姉さまを迎えに来たんです。
 その神姫を倒し、あなたに勝ったら……戻ってきてください。
 わたしたちの元へ」
「……勝てたら、ね」

 その一言が、開戦の合図だった。
 二人のマスターは同時に動いた。

「マグダレーナッ!」

 あおいの指示で、異形の神姫は中空に飛び出す。
 そして、

「ミスティ、リアルモード起動! 入力コード“Icedoll”、タイプ・ビーストッ!!」
「おおおおおおぉぉぉっ!!」

 菜々子の叫びと共に、ミスティは獣と化して駆け出す。
 トライク・モードの走りではなく、四足獣のそれだ。
 今のミスティは、獲物に一直線に襲いかかる野獣そのもの。
 猛りながら、マグダレーナを襲う。
 あのティアでさえかわしきれなかった、怒濤の攻め。
 それがリアルモード・タイプ・ビーストの特徴だった。

 背中にマウントされた二丁のアサルト・カービンが火を噴く。
 牽制の射撃であるが、はずそうなどとは思っていない。
 マグダレーナはひらひらと舞うようにかわした。
 あの超重の装備を背負いながら、よくもあんな動きができるものだ。
 菜々子は感心する。
 だが、マグダレーナはその装備のせいで、速度はそれほどでもない。
 今の射撃で、さらに足は遅くなった。
 ならば逃さない。
 ミスティはひときわ強く地を蹴ると、低い姿勢のまま、マグダレーナに飛びかかった。
 アサルト・カービンを乱射しつつ、着地直前に右のエアロチャクラムで薙ぎ、着地と同時、左の副腕で払う。
 ミスティのエアロチャクラムは、ノーマルのイーダ型と違い、サブアームとして独立して動かす改造が施されている。
 さらに攻める。
 左右の副腕を振り回す。
 そして、自身が握る剣・エアロ・ヴァジュラを袈裟懸けに振り下ろす。
 息つく間もない怒濤の連係攻撃。
 しかし。

「そ……んな……」

 菜々子はかすれた声しか出すことができなかった。
 攻撃のことごとくを、マグダレーナは捌いてみせたのだ。
 ありえない。
 タイプ・ビーストは、イーダのミスティが独自で身につけた戦闘方法だ。
 先代ミスティの戦い方をベースにしたタイプ・デビルであれば、あおいに悟られたかも知れない。
 だが、このミスティの攻撃をあおいは知らないはずだった。
 なのに、なぜ触れることさえできない!?

「ふはははは……見えているのだよ、わたしには……貴様の、一挙手一投足がな……!」

 マグダレーナの嘲笑。
 そんなはずはない。
 あのハイスピードバニー・ティアでさえ、タイプ・ビーストの攻撃を凌げなかったというのに!
 菜々子の驚愕を知らず、ミスティは攻撃の手を緩めない。

「このおおおおおぉぉ!!」

 ミスティがさらに踏み込もうとした、その時。
 ついに、マグダレーナが動いた。
 装着されたバックパックには、サブアームを思わせる、巨大な二つの塊がある。
 それが砲身となって持ち上がり、ミスティに狙いを定めた。
 それでもミスティは止まらない。
 地を蹴り、マグダレーナへと突進していく。
 マグダレーナの砲が火を噴いた。
 連続的な炸薬音とともに、弾丸が次々と撃ち出されてくる。
 その狙いは正確無比。
 ミスティの背部にあったアサルト・カービンが吹き飛んだ。
 ミスティがエアロチャクラムを交差したとき、身体の中央に攻撃が来た。
 装甲が細かな断片となって、千切れてゆく。
 それでもなお、ミスティは駆ける。
 右の足首が、地を蹴ろうとした瞬間に消し飛んだ。

「うあああっ!」

 バランスを崩した体勢を立て直そうと左脚を踏ん張ろうとしたが、できなかった。
 太股の付け根、脚部強化パーツ『サバーカ』の装着部分で弾丸が炸裂し、ミスティとサバーカを引き離していた。
 ミスティは、サブアームを地に着き、ホイールを回転させる。
 トライク・モードへ変形しようとした、その時、

「しつこい奴だ」

 かすれた声が聞こえた瞬間、銃口から、一直線に弾が来た。
 ミスティの左眼にめがけて。
 頭への強烈な衝撃で、ミスティの上半身が跳ね上げられる。
 さらに続く攻撃は、イーダ型ならば誰もが自慢にしている巻き毛を、ごっそりと奪い去った。
 自律防御プログラムが働き、サブアーム化したエアロ・チャクラムが、ミスティ本体を掻き抱くような姿勢で防御する。
 しかし、先の防御で千切れ飛んでいた装甲は、もはや役に立たない。
 エアロ・チャクラムの本体に断続的に着弾、粉砕していく。
 ついにはサブアームの付け根まで破壊され、ついに両副腕は地に落ちた。
 が、その瞬間。
 ミスティはのけぞった身体を元に戻すと、陥没し、オイルが滴る左眼で、マグダレーナを一直線に睨みつける。
ま ミスティの残った瞳は、マグダレーナへの敵愾心に燃えていた。

「やめて、ミスティッ!!」

 菜々子の声も、ミスティには届かない。
 そう、ミスティには止まれぬ理由がある。
 破砕した右足首を、折れよとばかりに地に突き立て、片脚だけで、跳ねた。
 マグダレーナまでは一足飛びの距離。

「おおおおぉぉっ!!」

 吠える。
 そして、刀を振り下ろそうとする。
 マグダレーナに向けて。
 それよりも早く。
 マグダレーナが手にした槍が、神速で弧を描き、ミスティの両腕を薙いだ。
 ミスティの剣は、マグダレーナに届くことなく、腕と共に宙を舞った。
 そして、ミスティが着地するより早く、返した槍で、ミスティの身体を斜めに斬り捨てる。

 宙でのけぞったミスティ。
 時が止まる。
 無音。

 ……やがて聞こえてきたのは、ミスティが地に伏す音だった。



「……復讐を気取ったところで、所詮はこの程度……マグダラ・システムある限り、我々に敵はない……」

 もはや動くことすらできず、地面に転がったままのミスティに、マグダレーナは槍を構えた。

「二度と我が前に立てぬようにしてやる……死ね」

 ミスティに狙いを定めたとき、何か大きなものが滑り込んできて、マグダレーナの視界を遮った。
 菜々子だった。
 彼女は地面にうずくまるようにして、ミスティの身体を覆い隠した。
 その身体が震えているのは、寒さのせいだけではないだろう。
 しかし、マグダレーナは、そんなミスティのマスターさえも冷ややかに見据えた。

「ふん……神姫と運命を共にするのが所望か……ならば望み通りにしてくれよう」

 マグダレーナは、背面にマウントされた銃火器と、手にした槍を構える。
 その動作にためらいは微塵も感じられなかった。
 マグダレーナの放つ殺気が最大に張りつめたその時、

「そこまででいいでしょう、マグダレーナ」

 桐島あおいの声に、マグダレーナは振り向いた。
 不満そうな表情が貼り付いている。

「……甘いことだな……。ここで復讐の根を絶たねば、いつまでもまとわりつかれることになりかねん」
「無用な殺生をするべきではないわ。それで警察に目を付けられたりしては、動きにくくなる。目的が達せられるまで、あと少しなのでしょう。立場を不利にしないで」

 マグダレーナは菜々子を一瞥する。
 今の会話が聞こえているのかいないのか、菜々子はうずくまったまま、身動きすらしない。
 これが先ほど果敢にも我々に挑んできた神姫マスターのなれの果てかと思うと、マグダレーナは憐れみすら覚えた。
 確かに、こんな哀れな娘と瀕死の神姫を殺したところで、自分たちが不利になる状況を生むだけだ。
 マグダレーナは、ゆっくりと構えを解いた。

「ふん……もはや殺すにも足りぬわ……あおいに感謝するがいい……」

 かすれた声でそう吐き捨て、マグダレーナはアタッシュケースの中に戻る。
 あおいは、菜々子の背を見つめていた。

「わたしの勝ちね、菜々子」

 その言葉に、丸められた菜々子の背が、びくり、と震えた。

「もう、わたしたちに挑むのはやめなさい。あなたがどんなに強くなっても、絶対にわたしたちには勝てない。……神姫を失って悲しむ菜々子を、もう見たくないわ」

 そう言って、桐島あおいは踵を返した。
 まるで何事もなかったかのような足取りで。
 足音は遠くなり、やがて消えた。

 雪はいまや本降りとなっていた。
 しんしんと降り積もる雪の中、菜々子は身動きすらできずにいた。
 絶対の自信を持って挑んだ戦いに、あっけなく敗れた。
 大事な人は、自分を気にもかけずに、去った。
 大切な神姫は大破し、もはや再び動くかどうかもわからない。
 菜々子は再び神姫を失おうとしている。
 あの、地獄のような苦しみを、つらさを、また味わわなければならないのか。
 自らの愚かな選択の代償として。
 その罪のすべてを、マスターではなく、神姫が負うというのか。
 そんなのはおかしい。
 誰か。誰かミスティを助けて……。
 無意識のうちに、菜々子は携帯端末を取り出していた。
 冷え切った指先を必死で動かし、たどり着いた番号は、彼女がもっとも愛する神姫マスターのものだった。
 通話ボタンを押し、端末を耳に押しつける。
 やがて聞こえてきた彼の声に、菜々子はどれほど救われただろう。
 だが、言うべき言葉が見つからない。
 ただ、ただ、その事実だけを言葉にする。

「負け……ちゃった……」

 自分の声が、自分の心を鋭くえぐった。



 その心をえぐる痛みで、菜々子は目を覚ました。
 あたりは薄暗い。瞳だけ動かして、周囲を確認した。
 見慣れた天井、見慣れた壁紙。
 ここは、自分の部屋だ。
 あれから、わたしは何をして、どうなったのだろう。
 それとミスティは……。
 はっ、となって、机の上にあるクレイドルを見る。
 いない。
 いつもならすでに起きていて、笑みを浮かべている小さな神姫の姿は、今日に限ってはいなかった。
 胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。
 ミスティは、あの後、どうしてしまったのか。
 記憶がない。
 この部屋にどうやって戻ってきたのかすらも覚えていなかった。
 焦りを覚え、菜々子は起きあがろうとする。

「ぐ……」

 身体の節々が痛い。
 それに、喉がからからだった。
 菜々子は無理矢理起きあがり、ベッドから立ち上がった。
 本当に自分の脚で立っているのかも疑わしいほど頼りなく、ふらふらする。
 同時に激しい空腹を感じた。
 いったい、何がどうなってしまったのか。
 菜々子は壁に手をついて寄りかかりながら、部屋の外に出た。
 そのまま、居間の方へと歩いていく。

「……あら、おはよう。お目覚めね」

 居間でお茶を飲みながら、ノート型PCを開いていた祖母が顔を上げて、微笑んだ。

「……頼子さん……ミスティは」

 自分の声とは信じられないくらい、がらがらの声。
 ふらふらの身体を叱咤して、なんとかちゃぶ台の向かいに座る。
 すると、頼子はお茶を淹れて、菜々子に差し出した。
 いつも菜々子が使っている湯飲み。
 菜々子が起きてきたときのために用意していたのか。
 菜々子は一口お茶をすする。
 少しぬるめの緑茶が、渇いたのどに気持ちよく染み渡っていく。

「ミスティなら大丈夫。一昨日、お店に修理に出したと、遠野くんから連絡があったわ」
「とおの……くん……?」
「あら、覚えてないの? 土曜日の夜遅く、あなたを家まで連れてきてくれたのよ」
「貴樹くんが……」

 まるで覚えていない。
 記憶の最後の方、貴樹に電話したことだけ、かすかに覚えていた。
 そんな不確かな連絡を受けて、彼は助けに来てくれたのか……。
 菜々子の胸にあたたかいものが広がっていく。
 ミスティもきっと無事なのだろう。そうでなければ、合理的な彼が、ミスティを店の修理に出すはずがない。
 菜々子は少しだけ安堵した。
 だが、大きな不安は拭えない。
 わたしはこれから、何をすればいいのだろう。
 不安げな顔をうつむいて隠した菜々子に、頼子は言った。

「まあ、少し休みなさい。動くのは、気持ちが落ち着いてからでも遅くはないわ」
「うん……」

 どうやら祖母には、何もかもお見通しのようだった。
 お茶を飲み、息をつく。
 とりあえず、休もう。そしてこれからのことを考えよう。
 まずは、貴樹くんにお礼を言わなくちゃ……。
 つらつらと考えていた菜々子の耳に、ご飯にするわね、と頼子の声がわずかに聞こえた。

 だが、菜々子が眠っていたこの三日の間に、とんでもないことが起こっていたことを、今はまだ、知る由もなかった。










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