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ウサギのナミダ・番外編

LOVE&BATTLE




「いい? これは真剣勝負だから。わたし、本気の本気だから」

 目の前の久住菜々子さんはいつになく厳しい表情、厳しい口調で、そう宣言した。
 対する俺は、訳が分からず、呆けるのみ。

「だから、遠野くんも本気で来て。そうじゃなかったら、勝てないんだからね」
「いいけど……」
「約束、きっちり守ってもらうから」
「いいんだけどさ……」

 戸惑っているのは俺だけではない。
 いつものように、胸ポケットに収まっているティアも、久住さんの神姫・ミスティのいつになく厳しい視線に戸惑っていた。

「ティア、今日のわたしは本気だからね。ナナコのために、本気であなたを倒しに行く」
「ええと……」
「手加減なんか絶対にしない」
「……」

 ティアはもはや返す言葉もないようだ。
 久住さんとミスティは、空いている筐体の向かい側の席へと歩いていく。

 どうしてこうなった。
 何か久住さんの気に障るようなことをしただろうか?
 まったく心当たりがない。
 ちなみに、今日は日曜日で、俺たちはまだゲームセンターに来たばかりで、ついいましがた、先に来ていた久住さんに対戦を申し込まれたところだった。
 俺たちが戸惑うのも無理がないと思うのだが、どうか。
 結局、俺とティアは顔を見合わせる他はなかった。
 いったい、何があったというのだろう。



 久住菜々子はとても焦っていた。
 遠野が作るチームに入ったのは間違い、いやむしろ、遠野がチームを作ること自体に反対するべきだったのではなかろうか。
 本気でそんなことを考えてしまうほど、菜々子は焦っているのだった。

 事の起こりは、チームメイトの安藤智哉が、一人の女性を連れてきたことだった。
 ある日、二人は連れ立ってやってきた。
 安藤には八重樫美緒というかわいい彼女がいるのだから、まさか付き合っている女性ではないだろう。
 安藤とその女性が入ってきたとき、客の視線は一斉にそちらに吸い寄せられた。
 それほどのオーラを放つ美人だった。
 メイクよりも目鼻立ちが派手で、衣装も黒系をメインにしながらも、派手な出で立ち。

「ねえ……あれ、Tomomiじゃない?」

 そう呟いたのは、ファッションに詳しい江崎梨々香だ。
 Tomomiのことは、菜々子もよく知っている。
 ファッションモデルとして有名だし、神姫をつれていることで一線を画しているから、菜々子も当然、彼女の動向はチェックしていた。
 なるほど、確かにTomomiだ。
 肩に乗っている紫のパール塗装を施されたヴァッフェバニー・タイプは、彼女の神姫・ヴィオレットに間違いない。
 彼女は多数の視線にさらされながらも、全く物怖じせず、優雅に歩いてくる。
 Tomomiのすぐ後ろに控える安藤は、何かいたたまれなさそうな様子で肩を縮めている。なんだろうか。

 Tomomiはまっすぐに、こちらに歩いてきた。
 その姿が、ひどく様になっている。
 そして、隣にいる、チームリーダーの前に立った。

「あなたが、遠野貴樹?」
「そうだけど……あなたは?」

 遠野はいぶかしげな様子だ。
 しかし、彼女は突然、人なつこそうな笑みを浮かべると、名乗った。

「失礼。わたしは安藤智美。いつも弟がお世話になっています」

 瞬間、ゲーセンの中が騒然となった。
 今をときめくモデルのTomomiが、安藤の姉だったとは!
 しかし、そんな喧噪をよそに、遠野は、

「いえ、こちらこそ、弟さんにはお世話になってます」

 と、ごく普通に会釈なんかしている。
 おそらく、遠野はTomomiのことをよく知らないでいるに違いない、と菜々子は分析した。
 安藤が何か言いかけたが、Tomomiが手で制して言った。

「それで……あなたがティアのマスターですか?」
「そうですが」
「わたしはティアのファンなんです。会わせてもらえませんか?」
「はあ……」

 遠野は何か毒気が抜けたような顔をしていた。
 ティア、と声をかけると、シャツのポケットから、困ったような顔をしたうさみみの神姫が顔を出す。

「こ、こんにちは……」

 ティアがおずおずと挨拶した、次の瞬間。

「きゃーーー! ほんもの! ほんもののティアよ!? いや~ん、かわいい~!!」

 瞳をきらきらさせ、奇声を上げたTomomiが、ティアに頬ずりすべく、そのまま遠野に抱きついた。

「うわあああああっ!?」

 遠野とティア、二つの叫びが重なった。
 安藤は頭を抱えている。
 菜々子は、あんまりと言えばあんまりなその様子に、驚きも怒りも通り越して、いっそ呆れかえった。

 それから、Tomomiはちょくちょくゲームセンター『ノーザンクロス』に顔を出すようになった。
 目的はティアに会うことだったが、それは必然、遠野に会うことでもある。
 安藤は「遠野さんが姉貴に惚れる? ナイナイ」と言って手を横に振るが、あれだけの美人だ。遠野が惹かれることがあってもおかしくない。
 だから、菜々子は、Tomomiが来るたび、気が気ではなかった。

 そうでなくとも、最近、遠野のそばには女の子が多い。
 主にチームメイトだから仕方がないとは思う。
 だけど、涼子ちゃんは、毎日毎日、遠野くんを捕まえては話し過ぎじゃないの?
 そうかと思えば、美緒ちゃんもよく遠野くんと話してる。真面目な顔で、バトルロンドの戦術談義。
 やっと二人がいなくなったと思えば、自分の弟子・有紀ちゃんが、今度はわたしに声をかけてくる。
 この弟子は困った子で、戦術面でわからないことがあると、あろうことか師匠を差し置いて、遠野くんを捕まえて話し込むのだった。

 土日の昼食時に話したいと思うが、これもうまく行かない。
 たいてい、チームのみんなで食べに行くし、そういうときには遠野と二人で話す機会がない。
 LAシスターズがいないときもまれにあるが、そんな時に限って必ず大城がいるのだ。
 菜々子は大城に、空気読め、と言ってやりたかった。

 気がつくと、二人で話す機会が最近はほとんどなくなっている。
 いつからか遡って考えてみると、それは遠野がチームを組む、と言った頃からだった。
 菜々子がチームに入ったことを後悔しているのも、恋する乙女の心理からすれば、致し方のないところであったろう。



 そもそも、菜々子と遠野はどういう関係なのか、と考えてみれば、バトルロンド仲間でありライバル、と言うのがしっくりくる。
 その事実に、菜々子は愕然とする。
 自分は遠野に一番近い女の子だと思っていたが、そんなのは思いこみに過ぎない。
 客観的に見れば、バトロンのチームメイト、という立ち位置が正しい。
 ということは、LAシスターズと変わらない、ということだ。

 いやいや、彼女たちよりはわたしの方が遠野くんに近いはず。
 ティアの事件の時、彼が一番苦しかったときに、手をさしのべることが出来たのだから。
 だがそこで、菜々子は、はたと気づく。
 遠野とティアに手をさしのべた人物は、自分だけではない。
 遠野がバトロンをやめなかったのは、虎実との約束があったからだ。
 ということは、虎実のマスターは、菜々子と同じ立ち位置にいる。
 じゃあ、わたしは大城くんと同じってこと!?

「いやあああぁぁぁ……!」

 枕に顔を埋め、脚をじたばたと動かす菜々子に、ミスティは白い目を向ける。

「なにやってんだか……」

 呆れたように呟いたミスティを、菜々子は恨めしそうに見た。

「なによう……」
「そんなにジタバタするくらいなら、いっそ告白しちゃえばいいのに」
「ちょ……! あなた、そう簡単に言うけど……ここここ告白なんてっ! そりゃもう、一世一代の大事なんだからっ!」

 やれやれ。
 ミスティは肩をすくめ、ため息をつく。
 バトルロンドでは強気で大胆なのに、こと恋愛になると、どうしてこうも弱気なのだろう。
 貴樹は相当な朴念仁なのだから、こっちからモーションかけなくては先に進まないというのに。

「そんなこと言って、ぐずぐずしているうちに、タカキを他の人に取られちゃってもいいの?」
「うっ……」

 そう言われて、菜々子に返す言葉はないようだ。
 恋は戦いである。
 時には攻めに出なくては勝利を得ることはできない。
 しかし、ミスティのマスターは、シーツの上でのの字を書きながら、そんなこといったってどうのこうのと、ぶつぶつ言っている。
 それでも結局は、タカキのことがあきらめられないのだから、もうやることは一つしかないわけで、ならば先手必勝、さっさと告白すればいいと、ミスティは思っている。
 菜々子の複雑な乙女心は、このさい、きれいさっぱり無視だ。
 このままでは埒が明かない。
 やれやれ、ともう一度肩をすくめてため息をつく。
 こういうときにマスターを助けるのもまた、神姫の役目だと、ミスティは思っている。

「だったら、一つ方法があるんだけど」
「……方法?」
「そう。ナナコの弱気に背中を押して、なおかつ、タカキが逃げきれない方法」

 菜々子はいぶかしげにミスティを見ながらも、その案を話すように促した。

 ……そういうわけで、菜々子は遠野にバトルロンドでの真剣勝負を申し込んだ。
 「負けた方が、勝った方の言うことを一つきく」という条件を付けて。



 なにがなんだか、さっぱりわからないまま、俺は久住さんの向かいの席に座った。 彼女は時折こちらを睨みながら、てきぱきとバトルの準備を進める。
 仕方ない。
 俺はため息をつきながら、いつものようにバトルの準備をした。
 アクセスポッドに入るティアは、ちょっと不安そうだ。
 そんなティアに、俺は声をかける。

「なんだかよくわからないが……いつも通りに行こう」
「はい」

 ティアが困ったように笑った。
 俺も苦笑する他はない。
 すると。

「リアルモード起動。入力コード“IceDoll”、タイプ・ビースト」

 筐体の向こう側で、久住さんがなにやら呪文めいた言葉を呟いている。
 その瞬間、ギャラリーの一部がざわめいた。
 何事だろう。
 俺が周りを見回すと、シスターズ四人の顔色は真っ青だった。
 俺の横にいた大城も例外ではない。

「ちょ……本身を抜くのかよ……!? パネェ……菜々子ちゃん、マジパネェ……!」

 本身を抜く、ってなんだ?
 以前、三強を倒したときに、久住さんが本気モードを使った、と聞いているが、それのことだろうか。
 久住さんを見れば、表情がいっさい消えている。
 こちらを真っ直ぐ見据える瞳に、剣呑な光が宿っているかに見える。
 俺は、訳の分からぬ気迫に気圧されながら、スタートボタンを押した。

『ミスティ VS ティア』

 対戦カードが表示され、試合は始まった。



 ミスティの獣のごとき猛攻の前に、ティアは敗れた。
 開始一三秒。
 ここ、『ノーザンクロス』の最短試合時間を更新した。



 かくして、俺は久住さんに連れられて、駅前のミスタードーナッツに向かうべく、駅前の道を歩いていた。
 背後からでは久住さんの表情は見えないが、肩のあたりからただならぬオーラが漂っている、気がする。
 ミスティはと言えば、その久住さんの肩の上から俺たちを振り返り、ニコニコ顔を見せるのだ。
 俺とティアは顔を見合わせた。

 ドーナッツを選び、向かい合わせのテーブル席に着く。
 こうして久住さんと二人でドーナッツ屋に来るのは、久し振りな気がする。
 そういえば、最近二人で話す機会があまりなかったことに気付く。
 いぶかしげに思いながらも、二人での会話に少しわくわくしている自分がいる。 
 俺が先に席に座ると、久住さんは右手を差し出しながら、こう言った。 

「用件の前に、ティアと二人で話があるの。ティア、一緒に来て」

 戸惑うティアを、俺は胸ポケットからつまみ上げる。
 何がなにやらさっぱりだが、久住さんがティアにひどいことをするとは考えられない。
 ティアを久住さんの手に乗せながら、言った。

「……これが久住さんのお願い事?」

 すると彼女はジト目で俺を睨んだ。
 俺が思わず引いてしまったのを確認すると、

「女の子同士の秘密の話」

 と低い声で告げる。
 ……また女の子特有のバリアで遮られてしまった。
 それだけ言い残した久住さんは、すたすたと立ち去っていく。
 俺はもはやその背中を見送るしかなかった。
 テーブルの上では、ミスティがくすくすと笑っている。

「ナナコってば、律儀ねぇ」
「なんなんだ……」

 呆然と呟く俺に、ミスティは笑いかけた。

「まあ、話が終わったら、すぐ戻ってくるでしょ。
 それより……わたしもタカキに話があるのよね」
「な……なんだよ……」
「そんなに怖がることないじゃない。わたしが話したいのは、バトルのこと」
「バトル?」

 ミスティは口元は微笑みながらも、真剣な眼差しで頷いた。



 わたしは菜々子さんの手に乗ったまま、お手洗いの個室まで連れてこられた。
 ただ話をするだけなのに、やけに念入りだな、と思う。
 菜々子さんが怖いわけではないけど、なんだか緊張してしまう。
 菜々子さんは、小さなため息を一つつくと、私の名を呼んだ。

「ティア」
「は、はい……」

 真剣な表情。
 何を言われるのだろうか。
 とても緊張する。

「一応、あなたには先に断っておこうと思って」
「はい?」
「あのね……今日これから、遠野くんに告白しようと思うの。付き合ってください、って」

 え。
 それはつまり、菜々子さんとマスターが恋人同士になるって事で……。
 う、うわっ。

「そ、それはっ……素敵ですっ。すごくいい、と思いますっ」
「え?」

 むしろ菜々子さんは驚きの表情だった。

「ティア……いいの?」
「……なにがですか? すごく素敵じゃないですか」
「あなたのマスターを……遠野くんを、あなたから奪ってしまうかも知れないわ」
「え?」
「あなただって、遠野くんが好きでしょう? だったら……」

 ああ。
 菜々子さんの言いたいことがやっと分かった。
 菜々子さんはわたしを、一人の女の子として見てくれたんだ。
 その気持ちがとても嬉しい。
 でも。

「菜々子さん……わたしなんかに、そんな風に気遣ってくれるなんて、とても嬉しいです。
 でも、大丈夫なんです」
「え?」
「菜々子さんが考える好きと、わたしがマスターが好きなことは、少し意味が違います」

 首を傾げる菜々子さんに、わたしはそっと微笑んで、言った。

「わたしはマスター……遠野貴樹の神姫です。わたしはそれ以外の何も望んでいません。マスターもたぶん、同じ気持ちのはずです。
 確かに、世の中には、マスターと神姫が恋仲だったり、結婚までしたという人たちも聞いたことがあります。
 でも、わたしはその気持ちがよく分からないし、同じになりたいとは思わないんです」
「でも、遠野くんにあそこまでして助けてもらって……ティアにとって遠野くんは特別ではないの?」
「もちろん、特別です。わたしはマスター以外の人に仕えたいとは思いません。あの人の神姫であることが、わたしの幸せなんです」

 菜々子さんは眉をひそめ、まだ納得のできない様子だった。
 わたしはちょっと考えて、口を開いた。

「菜々子さんは……わたしのレッグパーツを装備して、壁走りとか出来ますか?」
「……は?」

 菜々子さんは鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をした。

「そんなの……できるわけないじゃない」
「そうですよね。それはわたしにしかできないんです。マスターが望むバトルをかなえるのが、遠野貴樹の神姫であるわたしの役目なんです。
 マスターと一緒にバトルに取り組む時間は、マスターとわたしだけの特別な時間です」
「……」
「でも、わたしは菜々子さんみたいにはなれません。それは神姫の役目ではないから。菜々子さんがわたしのようになれないのと同じように。
 だから、わたしとの時間以外で、菜々子さんがマスターを支えてくれるなら、こんなに嬉しくて、心強いことはないです」
「そう……」

 菜々子さんは、またため息を一つつくと、優しく微笑んでくれた。

「わかったわ。それじゃあ、応援してくれる?」
「はい、もちろん」
「……もし、遠野くんとお付き合いすることになったら、一度わたしと組んでバトルしてくれない?」
「マスターがいいと言うなら、喜んで」

 そして、菜々子さんとわたしは、にっこりと笑いあうのだった。



「だから、ナナコは戦い方が雑なのよねー。もう少しどうにかならないかしら」

 ひどい言われようだ。
 ミスティの言葉に、俺は苦笑する。
 ミスティは、今の戦い方に、大いに不満らしい。

「そう言うな。パワーファイトが得意なんだろう、君たちは」
「でも、ナナコは作戦とかあんまり考えないから、結局、トライクモードからのリバーサルに頼りきりなのよね。それも最近、当たらなくなってきてるし」

 『エトランゼ』の異名を取る彼女たちは、ゲームセンターを渡り歩くプレイヤーだった。
 だから、今までは、どこかのチームに所属して、長く同じ場所で対戦するということはなかったのだ。
 だからこそ、トライクモードから変形してのリバーサル・スクラッチは有効だったのだろう。
 もちろん、リバーサル・スクラッチは多彩な変化を見せる技ではある。
 しかし、反転・攻撃という大きな流れは変わらない。それが来ると分かっていれば、自ずと戦い方も分かってくる。
 最近リバーサル・スクラッチが当たらないとミスティが言うのも、そのあたりが原因だろう。

「あっちでは……『ポーラスター』ではどうしてたんだ?」
「ああ……あそこはホームだから、基本的に基礎練とか新技や新装備の試しが多くて。あんまり真剣勝負はやらないのよ」
「なるほど」
「戦術の幅が狭すぎるのよ。ワンパターンって言うか。だから、ナナコを説得する何かいい方法がないかと思って」

 俺とミスティが二人で話す機会なんて、これが初めてじゃないだろうか。
 それを狙って相談を持ちかけてきたわけか。
 確かにミスティが言うことにも一理ある。
 当たる率が低くなっているリバーサル・スクラッチを無理矢理当てている状況では、今後ジリ貧なのは目に見えている。

「まあ、すぐに思いつくところでは……リバーサルを中心にしつつ、バトルの組み立てを変えるのが手っ取り早いかな」
「? どういうこと?」
「決め技はリバーサルに据え置く。それで、トライクモードの走行からじゃなくて、通常戦闘を中心にバトルを進める」
「最初からストラーフモードで戦うってこと?」
「それもありだ。トライクで相手を追いかけつつ、ストラーフモードで追いつめるのもいい。トライクでの待ちじゃなくて、こっちから攻めに出る。
 そうすれば、リバーサルを出すと見せかけてプレッシャーを与えられる。相手の隙を生みやすくなるし、乱戦中にバックジャンプで誘ってリバーサルとか、リバーサルと見せかけて通常技の連続攻撃とか、ちょっと考えただけでも、攻撃の幅は格段に広がるぞ?」
「うーん……」

 ミスティは腕を組んで考え込んでしまった。
 前から感じていたが、ミスティはストラーフモードでの戦闘があまり好きではないようだ。
 あれだけの技術を持つストラーフモードなのだから、もっと全面に押し出したバトルをしてもいいと思うのだが。
 いずれにしても、ミスティの実力ならば、戦い方の選択肢を増やすのは容易だし、それだけで勝率もぐんと上がるはずだ。



 菜々子とティアが席に戻ってくると、遠野とミスティが何やら真面目に話し込んでいるのが見える。
 どうやらバトルロンドの話らしい。
 菜々子がそう思いながら、なにげなく手の上のティアを見る。
 すると彼女は、ぷくっと頬を膨らませて、不満げな顔をしていた。
 菜々子は笑いをかみ殺す。
 なるほど、わたしじゃなくて、ミスティにヤキモチを焼くわけね。
 ティアが先ほど言っていたことを、やっと理解できた気がした。



「お待たせ」

 いいながら、菜々子さんはわたしを、テーブルの上にそっと降ろした。
 わたしは隣に座るミスティを、ちょっとジト目で睨んでしまう。

「……マスターと何を話していたの?」
「え? バトルの組み立て方のアドバイスをもらってたんだけど」

 ミスティは目をぱちくりとさせた。
 むう。
 マスター、その相談に応じるのは、ずいぶん気安いのではありませんか?
 わたしはマスターをぶすっとした顔で見上げた。
 すると、マスターはやれやれ、というように首を振って苦笑した。
 ……なんだかわたしだけが空回りしてて、ばかみたいに思えてきた。
 一つため息をついて、菜々子さんを見る。
 神妙な顔。
 覚悟を、決めたみたい。
 がんばれ、菜々子さん。

「……遠野くん!」
「……なにかな」

 菜々子さんは、息を一つ飲むと、

「わたしと、付き合ってくださいっ!」

 最後の方は声を裏返しつつ、がばっとテーブルの上に伏せるように頭を下げた。
 すると、マスターは涼しい声。

「いいけど、どこに?」

 うわあ。
 マスター、それはいろいろと台無しです。
 ほら、菜々子さんはあまりのことに、机の上に頭ぶつけて突っ伏しているじゃないですか。
 目を白黒させてるって事は、マスターは菜々子さんの言葉を正確に理解していないみたい。
 これでは菜々子さんがかわいそう。
 ミスティが何か言いたそうにしてるけど、ここはマスターの神姫であるわたしの役目でしょう。
 わたしは、マスターを見上げて、小さく言った。

「マスター、マスター」
「なんだ?」
「その……菜々子さんは『どこかに一緒に行きましょう』じゃなくて、『彼氏さんになってください』って言ったんですよ?」
「え……?」

 それからたっぷり十秒は、マスターの動きが止まっていたと思う。
 口は半開きで、呆気にとられた様子。
 二人とも、動かない。
 でも、思考がまとまったのか、マスターは苦笑を浮かべた。

「久住さん」

 マスターの呼びかけに、菜々子さんが顔を上げる。

「そのお願い、俺に断る権利あるの?」

 菜々子さんは、はっとした表情。
 そういえば、先ほどの賭バトルは「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く」だった。
 だったらもちろん……

「ない。ないんだから。遠野くんに断る権利、ないんだから、絶対……」

 菜々子さんの言葉に、マスターは頷いた。
 二人は視線を合わせる。
 そしたら二人とも、急に照れくさそうになって、頬を紅くした。
 その後、二人ともちょっと困ったような、でもとっても嬉しそうな顔で笑い出した。
 わたしとミスティも顔を見合わせ、笑い合う。

 こうして、マスターと菜々子さんは、恋人同士になった。



 翌週の土曜日。
 俺はいつもより少し早い時間に、ゲームセンター『ノーザンクロス』にいた。
 彼女と付き合うようになって一週間が経つ。
 だが、生活が変わったということはない。
 メールの回数が少し増えたくらいだろうか。
 だが、こうして彼女がやってくるのを先に待とうという行動自体、心境の変化の現れなのかも知れない。
 店の自動ドアが開く。
 見慣れたスリムなシルエットの女性が入ってくる。
 彼女は俺を認めると、にっこりと笑った。
 いつものことながら、反則な笑顔だ、と思う。
 それが俺に対する好意によって向けられていると思うと、なんだか嬉しいような照れくさいような緊張してしまうような、複雑な気持ちにとらわれた。

「おはよう……貴樹くん」

 はにかむような挨拶。
 下の名前で呼ばれるのって、想像以上にこそばゆいな。
 妙に意識してしまって、俺は柄にもなくドギマギする。
 俺はなんとか平静を装って、応えた。

「久住さん、おはよう」

 すると。
 久住さんは、反則な笑顔を崩し、唇をとがらせ、眉間にしわを寄せる。
 ……なぜだ。
 今の短い会話の中で、機嫌を損ねるようなことを言ったか?

「下の名前」
「……は?」
「貴樹くんも、わたしのこと、名前で呼んで」
「……」

 いきなり機嫌が悪くなったのは、そこか?
 俺は少々面食らって答えた。

「別にいいじゃないか、今まで通りでも」
「よくない! 貴樹くんにも、名前で呼んでほしいの!」
「でも、照れくさいし」
「まーっ、わたしに下の名前で呼ばせておいて」
「下の名前で呼ばせてくれって言ったのは、君だろう」
「そしたら、それに合わせてくれるのが優しさじゃない?」
「いや、それは見解の相違だと思う」

 久住さんは、ますます不機嫌の度合いを深めていく。
 ここは俺が折れるべきだろうか。
 いやしかし、ここで一つ折れると前例が出来て、ずっと彼女の言うなりになってしまうような気がする。
 それに、俺が、彼女を、「菜々子さん」って……想像するだにこっぱずかしい。
 ここは一つ、心を鬼にして、自分の意志を貫くべきであろう。
 すると、久住さんが、俺に向かって、びしっ、と人差し指を突きつけた。

「こうなったら、バトルロンドで勝負よっ! わたしが勝ったら、下の名前で呼んでもらうんだからっ!」
「いや、久住さん、それはどうなんだ……」
「ほら、また名字で呼ぶし!」
「……」

 俺がほとほと困っていると、久住さんの肩と俺の胸ポケットから、盛大なため息が聞こえてきた。
 ミスティが、心の底からあきれ果てた、という顔で、俺たちに言う。

「わたしたちをこれ以上、痴話喧嘩に巻き込まないでくれる? いい迷惑だから」

 うんうん、と大きく頷くティア。
 痴話喧嘩って……。
 俺と久住さんは顔を見合わせて、同時に顔を赤らめた。

 結局、俺は彼女を「菜々子さん」と呼ぶことを認めさせられた。
 いまだにとても照れくさい。
 だが、それも仕方あるまい、なんて考えている自分の思考に驚いている。




(LOVE&BATTLE・おわり)







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