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ウサギのナミダ・番外編

少女と神姫と初恋と

その6



 この試合のステージは、『山岳』ステージが選択された。
 山岳ステージは、特に飛行タイプの武装神姫にとって、スタンダードで人気の高いステージである。
 小高い丘陵と、森林、そして湖が広がる美しい舞台設定だ。
 眺望の美しさもさることながら、地形を利用したテクニカルなバトルが展開されることになり、好ゲームになる率が高いステージでもある。
 今回は両神姫とも飛行タイプ。
 ギャラリーの熱は徐々に高まっていく。

「勝率がまた少し上がったな」
「運も味方したみたいね」

 遠野と菜々子のつぶやきに、大城は首を傾げるばかりだ。

「なあ、いい加減、俺にも教えてくれよ。いったい、オルフェはどんな手を使うってんだ」
「試合を見ていればわかる。おそらく、俺が説明してる間に、試合が終わるから」

 その言葉に、大城は改めて、試合の映し出されている、観戦用の大型ディスプレイを見上げた。
 いままさに、『玉虫色のエスパディア』が、深緑の上を飛翔しているところだった。



 『玉虫色のエスパディア』ことクインビーは、森林上空を索敵しつつ飛んでいた。
 今日のバトルは簡単だ。
 初心者の新型を切り刻むだけでいい。
 いつもはたくさんの武装を搭載しているが、今日はノーマル装備である。ほぼすべて近接武器という仕様だ。
 だが、心許ないことはない。
 むしろ体が軽くて機動性が上がり、いつもよりも戦える気さえしてくる。
 彼女のマスターはいつも憎たらしい言動で、嫌われるのも当然かと思うが、バトルの腕は本物だ。
 負ける要素が見あたらない。
 クインビーはそう思っていた。

 すると突然。
 クインビーの直下、深い森の隙間から、何かが飛び出した。

「うわっ!」

 猛スピードで突っ込んで来た白い塊は、そのままクインビーに激突、弾き飛ばした。
 しかし、彼女は身体を振り、スラスターを器用に操って姿勢を制御。
 すぐに正位置に戻り、体勢を安定させる。
 その間に、激突した各部のチェック。
 特にダメージは見られない。
 激突してきた相手を見据えたときには、すでに臨戦態勢が整っていた。
 クインビーの実戦経験の豊富さがなせる技であった。
 クインビーは口元をゆがめ、ニヤリと笑う。
 相対するのは、アルトレーネ・タイプのオルフェ。
 今日のオルフェの装備は、ノーマルと違い、一対のメカニカルな翼が背中についている。機動性を上げ、先手を取る作戦か。
 だが、追加装備はそれだけのようだった。
 武器はデフォルト装備のツインランスのみ。
 クインビーは思う。
 ヤツは、千載一遇のチャンスを逃した!
 奇襲ならば、今の一撃で勝負を決めていなければならない。

 クインビーは間髪入れずに突撃を敢行する。
 弾かれた後の間合いは中距離。
 この一度の仕切り直しは、クインビーに有利に働く。
 体勢を整える時間と、対峙するチャンスを与えてしまったのだから。
 真っ正面から戦えば、圧倒的な実力差を発揮できる。
 だからクインビーは突撃した。
 蜂須は指示を出すまでもない。彼もクインビーと同じ考えだった。
 ギャラリーの多くも同様に思っていただろう。

 被我の距離はあっという間に埋まった。
 オルフェはツインランスを副腕に持ち、待ちかまえている。
 クインビーの背後から、アンテュースサブアームが繰り出される。
 先端に装備されたのは、エスパディアの二振りの大剣「ジュダイクス」。
 左右から、クインビーの超高速の斬撃が閃いた。
 しかし。

「……なっ!?」

 クインビーの斬撃は、オルフェに届かなかった。
 エスパディアの副腕は、アルトレーネから伸びるカニのようなハサミ状のアームでがっちりと押さえ込まれていた。
 クインビーは目を見張る。
 オルフェの背中にある、追加された翼が展開し、巨大なアームになって、彼女の副腕を掴んでいたのだ。
 今度はオルフェが動いた。
 副腕で、ツインランスを正面から振り下ろす。

「くうっ……!」

 クインビーは、かろうじて、手にした槍「リノケロス」でその一撃を受け止めた。
 アルトレーネの副腕は力任せにクインビーを押し切ろうとしてくる。
 じりじりと押される。
 クインビーに焦りの表情が浮かんだ。

「くそっ、はなせっ!」

 間合いを取るべく、オルフェの身体を蹴り飛ばそうと、脚を振り上げた。
 しかし、その脚も、オルフェには届かなかった。

「な、なにっ……」

 今度は、スカートアーマーが展開し、やはり巨大なカニのハサミ状のアームになっていた。
 そして、クインビーの両脚をそれぞれ挟み込んでいる。
 よく見れば、翼も腰のアーマーも同じ形状をしている。翼はアルトレーネのデフォルト装備である、腰部アーマーを組み替えたものなのだ。
 そこまで理解したとき、クインビーは気が付いた。
 今自分が置かれている状況。
 オルフェに、サブアームを含めた四肢を、完全に押さえ込まれている。
 まるで空中で磔になっているような状態だ。

 クインビーは、正面のオルフェを見た。
 戦慄する。
 オルフェにはまだ手がある。
 彼女はまだ、素体の両腕が自由だ。
 今、オルフェは細身の剣を腰だめに構えている。

「ま、まて……」

 なぜだ。どこにそんな剣を持っていたと言うんだ。
 ふとクインビーの瞳に映ったのは、自分に振り下ろされているツインランス。
 今は、ただのソードになっている。
 オルフェはツインランスの片側をはずし、もう一本の剣として運用していた。

「そ、んな……そんな、そんな……」

 オルフェはまっすぐにこちらを見据えている。
 突きの構え。
 身動きのとれないクインビーに、かわす術はない。

『オルフェ、いっけえええぇぇーーーーー!!』
「はああああぁぁっ!!」

 安藤の叫びとともに、オルフェは躊躇なく突きを繰り出す。
 はずすはずがない一撃。
 刃はクインビーの胸元に吸い込まれ、CSCを貫いた。

「そんなああああああぁぁぁ……!!」

 クインビー無念の叫びが響きわたる。
 次の瞬間、『玉虫色のエスパディア』の身体は、無数のポリゴン片となって、砕けて散った。
 ポリゴン片が舞い散る中、オルフェは展開していたハサミ状アームを、翼と腰部アーマーに戻す。
 そして、二本のソードを振るい、ポリゴン片を吹き散らした。
 はらはらと音もなく舞い散る光の粒子の中で、戦乙女は佇んでいる。
 その幻想的な光景に、ウィンメッセージが重なった。

『WINNER:オルフェ』

 試合時間は五三秒。
 あっと言う間のバトルだった。



「勝ったーーーーーーーっ!!」

 有紀の歓喜の叫びと同時、ギャラリーが一斉に沸き立った。
 秒殺という、まさに圧倒的な勝利。
 誰が見ても疑いのない、オルフェの勝ちである。
 涼子と梨々香は、美緒の肩を抱きながら喜んでいた。
 美緒自身は喜んではいたが、それ以上に安心しすぎて気が抜けたようになってしまっていた。
 二人に揺さぶられて、左右に揺れる視界の中。
 安藤は震える両手を見つめていた。



 遠野の作戦は、こうだ。
 一週間という短期間で修得できることは数少ない。
 現状のオルフェでも使いこなせる装備といえば、セットされている基本プログラムだけで動作できる、アルトレーネのデフォルト装備しかない。
 そこで、オルフェの背中に、腰部パーツを組み替えた翼を増設することにした。
 これはアルトレーネの発売前に、雑誌で見た組み替え例だ。
 安藤の親戚が、アルトレーネの開発会社に勤務しているとのことで、現在入手困難なアルトレーネの装備を、無理矢理借りさせた。
 これで一回の接敵で出せる手数は、エスパディアより多くなる。

「……それ、戦闘中の手数の意味とちがくねーか?」
「いいだろ、別に。勝ったんだから」

 そして、蜂須に後からクレームを付けさせないためにも、誰にでもわかる圧倒的な勝利を演出する。
 それも初手奇襲による一回の接敵で、である。
 そこで考えたのが、先ほどの、大型のサブアームで相手を押さえ込む戦法だ。
 相手が手も足も出ない状態での、決定的な勝利。
 これなら誰も文句は言えまい。
 この一週間のトレーニングは、オルフェが装備を自在に操れるようにすることと、副腕を持った神姫を押さえ込む、という動きに絞りこみ、それを徹底的にたたき込むメニューを作った。
 結果は大成功と言っていいだろう。
 だが、大城はまだ首を傾げている。

「だけどよ。俺が奴らを見張っていたことに、何の意味があるんだ?」
「それはこの策の大きなポイントだ。
 そもそも、玉虫色が安藤を侮っていて、何の対策も行わず、エスパディアのデフォルト装備で戦うことが、大前提の策なんだ。
 ヤツが何か対策をするなら、策を練り直さなくちゃならない。『ポーラスター』来られても困る。
 そのためにどうしても、監視役が必要だった」

 平日来ない遠野が監視役では怪しまれる。
 菜々子やシスターズは、オルフェの練習相手に必要だ。
 だから、大城にしかできない役目であり、「何もない」という日々の報告が作戦の成功を裏付けたのだった。

「まあ……そんならいいけどよ」

 つっけんどんな口調だったが、大城の顔はまんざらでもなさそうだった。



 バトルが終わった後、その衝撃的な勝利の余韻が、いまだに安藤を震わせていた。
 自分の両手を見つめている。
 手のひらはじっとりと汗ばみ、いまだに細かい震えが止まらない。
 それほどに、安藤にとって、今のバトルは衝撃的だった。

 百パーセント勝てない、と言われていた対戦だった。
 それを覆すために、バトル前から戦いは始まっていた。
 知略を尽くした作戦と、それを可能にするための事前の特訓メニュー。
 死にものぐるいで身につけた、バトルの基本と技、そして対策のための動き。
 オルフェと二人で強敵に挑み続け、戦い抜いた一週間。
 その結果、オルフェは、ミスティの必殺技『リバーサル・スクラッチ』さえ、展開したアームで止めることに成功した。

 安藤の想い、オルフェの想い、この試合に運命を賭けられた少女の想い、仲間たちの想い、安藤たちを支えてくれた『ポーラスター』の人々の想い。
 そして、厳しい訓練を支えた、マスターと神姫の絆。
 それらすべてが、この五三秒に結実していた。

 安藤は、はじめて遠野に会ったときの、彼の言葉を思い出す。

「すべての要素が噛み合って、はじめて勝利を手にすることができる」

 まったくその通りだった。
 すべての要素が噛み合ったとき、まるで流れるように、思った通りに試合は進み、興奮が一気に沸き上がった。
 だから、最後の一撃の時、思わず叫んでいた。
 そして、試合が終わった今も、震えが止まらない。

 アクセスポッドが軽い音を立てて開いた。

「マスター! わたし、勝ちました!」

 すぐに、安藤の神姫が顔を出し、彼を見上げてそう言った。
 花咲くような笑顔。
 安藤はまだ回らない頭で言葉を探しながら、答えた。

「そう、そうだな……オルフェ、よくやった……」

 口をつく言葉も震えている。
 だが、言葉にしたことで、安藤の心の底から、ようやく溢れてくる気持ちがある。
 それは歓喜だった。
 開いていた両手を握りしめる。
 安藤はオルフェを見つめ、笑いかけた。

「そうだよ、オルフェ、お前は……最高だ!」
「はい!」

 興奮気味のマスターに、オルフェも表情いっぱい喜びを露わにした。



「み、認めない……こんなバトル認めないぞ!」

 放心していた蜂須が叫びだしたのは、筐体の表示が待機状態に戻ったころだった。
 蜂須の怒鳴り声に、歓声が徐々に収まってゆく。
 蜂須は顔を真っ赤にして、安藤に大声で文句を付けた。

「オレが、てめえみたいな初心者に負けるはずがねえ! 今のは練習だ! これから本番、もう一回勝負だっ!」
「ああん? 自分が負けたからって、何勝手こいてんだよ」

 肩をすくめて応じたのは有紀だった。顔に呆れたような笑みを浮かべている。

「ふざけんな、今のは練習だったから、ちょっと油断して手ぇ抜いてたんだよ! そうじゃなきゃ、オレが負けるはずがねえだろ!」
「は、そんなの、油断してたお前が悪いんじゃねーか、明らかに」
「うるせえ! とにかく、今のバトルは無効だ! もう一度勝負しろ!」
「勝ったのに、もう一度バトルしてやる理由がねえだろ、バーカ」
「黙れ、デカ女! オレは安藤に言ってんだよ!」

 蜂須が激しく睨みつけている。
 安藤は静かに蜂須を見据えた。そしてはっきり言った。

「断る」
「なんだとぉ!? てめえ、練習試合で、しかもまぐれで勝っといて、勝ち逃げする気かよ!」
「するさ、勝ち逃げでも何でも。今のは練習じゃない、俺は真剣に戦った。まぐれだって勝ちは勝ちだ。もう二度と、あの条件でバトルする気はない」
「くそっ、卑怯者! だいたい、こっちがノーマル装備で戦ってやってるのに、お前は武装強化しやがって……どこまできたねえんだよ、てめえは!!」

 その発言に、梨々香が肩をすくめて反論した。

「ノーマル装備で勝ったら、美緒ちゃんにやらしーことするって条件を出したの、そっちじゃない。それで喜んでノーマル装備でバトルしてたのに、相手を卑怯者呼ばわりはないんじゃない?」

 すると、ギャラリーが一斉にブーイングをした。
 その声があまりにも大きくて、安藤が驚いたほどだ。
 ギャラリーはわかっている。卑怯なのは玉虫色の方だということを。
 そもそも、彼をいけ好かないと思っている常連は多い。
 今まで溜まった鬱憤が、ここで吹き出したのだ。
 蜂須は戸惑いながらも、それでもなお食い下がろうとした。

「だ、だったら、今の勝ちは認めてやる。三本勝負にしてやるよ。先に二勝した方が勝ちだ!」
「負けたから三本勝負にするって……小学生じゃあるまいし」

 心底呆れた表情で涼子が言う。
 ブーイングはさらに強まった。

「うるさいうるさいっ! オレは三強だぞ!? このゲーセンで三本の指には入る強さなんだぞ!? こんな初心者のバカに負けたなんて認めるか!」
「……いい加減にしとけ、玉虫色の。もうお前は三強とは呼べん」
「な、なんだと……!?」

 蜂須は驚いて、その声の主に顔を向けた。
 ギャラリーの中に立っているその人物は、坊主頭で筋肉質の男だった。
 彼は、蜂須と同じ『三強』の一人、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスター・伊達正臣である。

「な、何言ってんだよ、ヘルハウンド……」
「初心者に油断して後れを取ったヤツに、三強を名乗る資格なんかない。しかも、女を弄ぶ権利を賭けてのハンデ戦なんて……バトルに対して誠意がないにもほどがある」
「あんなのはまぐれだ! ただのまぐれ、運が良かっただけだ!」
「本当にそう思ってるのか、玉虫色の」
「な、なんだよ……」
「あの戦い方を見て、なんとも思わなかったのか。
 そこのアルトレーネ・タイプは、戦う前から作戦を立て、きっちり準備してお前とのバトルに望んだ。お前が実力差に溺れて、油断してくることも計算に入れて、な。
 そのくらい、端から見てたってわかる。
 初心者の彼の方が、よほどバトルに誠意があったぞ」

 その言葉に、蜂須は激昂した。

「うるせえよ、ヘルハウンド、オレを裏切る気か!?」
「味方ができないような状況にしたのは、おまえ自身だ」

 伊達は蜂須の言葉を静かに受け流した。
 そして、淡々と言葉を続ける。

「最近じゃ、三強の株はガタ落ちだ。
 『エトランゼ』とのバトルじゃ一方的に負け、『アーンヴァル・クイーン』には相手さえしてもらえず、虎実は俺たちを押しのけてランバト一位獲得……。
 それで今日は、初心者に後れを取って敗北……三強という称号にとどめを刺したのはお前だ、玉虫色」

 蜂須は愕然とした表情のまま言葉もない。
 ギャラリーも、伊達の言葉に、静かに耳を傾けていた。

「今日限り、『三強』という称号をおしまいにする。俺はもう、そう呼ばれるのをやめる。今日からはただの『ヘルハウンド・ハウリング』だ。そしてもう一度ランバト一位を目指す。お前も一神姫プレイヤーに戻れ」
「冗談じゃねぇ! てめえ、勝手に決めんな……」

 蜂須の声が尻すぼみになる。
 彼の声をかき消して、ギャラリーから時ならぬ拍手が起こったからだ。
 皆、ヘルハウンドの潔さを賞賛していた。
 伊達はそのまま、蜂須に背を向けて、ギャラリーの中に消えた。
 その隙間から、こちらを見て首を振り、やはり背を向けた男が見える。
 もう一人の三強『ブラッディ・ワイバーン』のマスターだった。
 蜂須は呆然とする。
 彼も伊達と同意見と言うことだった。

「認めねぇ……」

 蜂須はようやくに声を絞り出し、安藤たちを憎悪の視線で睨んだ。

「こんなの、俺は絶対に認めねぇぞ! ちくしょうっ! 覚えてろよ、てめえら……っ!!」 

 捨てぜりふを残し、蜂須はゲーセンから小走りに立ち去った。
 あとに、彼のチームのメンバーたちが続く。
 こうして、『ノーザンクロス』における、三強の体制が崩壊したのだった。



「自分から三強やめるなんてな……遠野、ここまで予想してたのか?」
「まさか。……だが、俺たちの望んだとおりになった。結果オーライだ」

 腕を組んで、遠野は静かにそう言った。
 菜々子は隣でそっと微笑んでいる。
 三人は視線をかわし、静かに笑った。
 やがて、安藤がLAシスターズの四人と共に、こちらへとやってきた。
 安藤と美緒は並んで遠野の前に立つ。

「遠野さん、ありがとうございました!」

 二人は深々とお辞儀する。
 二人の後ろでは、シスターズの三人もかしこまって礼をした。
 安藤は遠野に心から感謝していた。彼の策がなければ、今頃本当にどうなっていたのか分からない。
 だが、顔を上げた安藤に、遠野は手を振って言った。

「あー、お礼なんかいい。俺は大したことは何もしてないし」
「え……でも、遠野さんの策と訓練メニューがなければ……」
「あんなのは、偉そうに命令してただけだろ。礼を言うならむしろ、協力してくれた八重樫さんたちと、久住さん、大城にしてくれ」

 ぶっきらぼうな口調に、安藤は困ってしまった。
 後ろで吹き出す音がする。
 涼子だった。
 彼女は安藤に耳打ちするように、

「照れくさいのよ、師匠は」

 と言った。
 なるほど、明後日の方向に視線を投げているのは、実は照れ隠しなのか。
 陸戦トリオにLAシスターズ、そして安藤が、ようやく緊張を緩め、誰もが笑っていた。
 ようやく訪れた、穏やかな時間。 
 ふと、遠野がこんなことを言い出した。

「チームを作るか……」

 その場にいた全員が、思わず遠野を凝視する。
 実は以前から、菜々子や大城が「武装神姫のチームを組もう」と言っていた。
 しかし、遠野はそれに乗らなかった。彼はバトルロンドで勝敗にこだわっていない。だからチームを組むメリットがない、現状維持で十分、というのがその理由だった。
 ところが、遠野が自分から言い出したのだから、驚いて当然である。

「どうしたの、急に?」
「今回の件で、気が変わった。
 ……どうも俺は、誰かの世話を焼くのに、自分が納得の行く理由が必要らしい。
 チームメイトなら、理由には十分だろう?」

 菜々子がと大城は、顔を見合わせ、同時に遠野を見た。
 珍しく、優しい表情で皆を見渡している。
 すると二人は、先を争うように、焦りながら遠野に尋ねた。

「それで、わたしは数に入ってる!?」
「俺は、俺はメンツに入れるんだろうな!?」
「……君らがいなくて、どうやってチーム作れって言うんだ、俺に」

 遠野は不思議そうな顔をしてそう言った。
 二人は喜びのあまりハイタッチなんかしている。
 わけがわからない。
 遠野にしてみれば、二人がいなければ最低限のチームにもならず、むしろ困る。
 だが、自分のチームのメンバーになっても、大してメリットがない。これからはじめる弱小チームだ。
 チームメイトになったところで、喜ばしいなどとは、到底思えないのだった。
 ところが、二人よりも焦っている人物がいた。
 遠野の一番弟子を自称する涼子は、胸ぐらを掴みあげかねないような勢いで詰め寄った。

「遠野さん、わたしは!? 私はチームに入れますか!?」

 続いて、他の三人も遠野に詰め寄る。

「わたしも遠野さんのチームに入れてもらえませんか?」
「あたしは菜々子さんの一番弟子だから、当然入れてもらえますよね!?」
「わたしだけ仲間外れはなしです!」

 美少女四人に詰め寄られ、遠野はどん引きしていた。
 なんでそんな必死な顔して、俺のチームに入りたがるのか。
 そんな疑問を払拭しきれなかったが、それでも遠野はこう言った。

「ああ……君らなら、断る理由がない」

 四人は、きゃー、と喜びの声を上げた。
 元からLAシスターズは誘う予定だったので、ある意味予定通りだったが、どうにも解せないといった表情で、遠野は首を傾げた。
 当人は気が付いていないが、あの『ハイスピードバニー』がチームを組むと言って、メンバーがその名を知られた『エトランゼ』と、現ランキングバトル・チャンピオンだったら、このゲームセンターで注目を集めない方がおかしいというものである。 

「で、俺から一つ、メンバーのみんなに提案があるんだけど」

 ひとしきり騒ぎが収まったところで、遠野はみんなに向かってこう言った。

「このメンバーだと、チームで飛行能力を持つ神姫が圧倒的に不足してる。そこで、『三強』を倒した期待のルーキーをスカウトしようと思うんだが……どうかな?」

 遠野はメンバーをぐるりと見回したあと、安藤に視線を投げた。
 口元に笑みを浮かべてみせる。
 メンバーは皆、笑って頷いていた。
 ああ、そうか。
 なぜ、美緒たち四人が、遠野のことを尊敬しているのか。
 安藤はようやく分かった気がした。



「俺は、武装神姫を続けるよ」

 数日後。
 すでに恒例と化した、屋上での昼食。
 美緒が持ってきた手作りのお弁当を、満面の笑みで食べ尽くしたあと、安藤がそう言ったのである。

「チームに入るの?」
「うん。誘われたってのもあるけど……あの遠野さんに付いていきたいと思ったんだ。
 それに、この間の対戦が忘れられない。……バトルロンドって、すごく面白いよな」

 微笑みながら言う安藤は、いつもながら爽やかだ。
 美緒はそんな彼をまぶしそうに見つめた。
 ふと、思いついたことを口にする。

「でも、玉虫色との対戦……なんであんなに頑張ってくれたの?」

 美緒が傍目に見ても、クインビーとの対戦までの一週間の訓練スケジュールはスパルタだった。
 一週間でエトランゼの必殺技を受け止めようなんて、無謀すぎる。
 しかし、遠野の提示した訓練メニューを、安藤とオルフェは忠実に、そして完璧に実行したのだった。
 それは並大抵の努力ではない。
 安藤は、少し口ごもるように、答えた。

「ああ、それはさ……好きな女の子守るためなら……やるよ」
「…………え?」
「俺、八重樫のこと好きだから」

 彼女自身が予言したとおり。
 美緒の視界の中で、天と地がひっくり返った。

「お、おい、八重樫! 大丈夫か!?」

 美緒はあまりのことに卒倒した。
 そして、美緒を抱き起こす安藤の視界の外。
 盗聴していた数十人の女子は、一斉に卒倒していた。



 安藤智哉にとって、八重樫美緒は、理想の彼女像の塊だった。
 安藤の姉・智美は、智哉にとってコンプレックスの対象である。
 外ではカリスマモデルとして活躍する姉であるが、家では男勝りで乱暴、弟を顎で使う傍若無人な人物だ。
 しかも、美人でスタイルもよく、頭もいいし運動もできる。そして、溢れ出るカリスマ性。
 いつしか、智哉の嫌いな女性像は姉・智美になっていた。
 彼女にするなら、大人しい女の子がいい。図書館で本を読むのが似合うような、知的な美人だ。
 スタイルはいいに越したことはないが、姉のようなモデル体型の痩せぎすはごめんだった。健康的なスタイルの女の子がいい。
 そして、性格は優しいのがいい。明るくて、気遣いができて、落ち着いた性格の女の子。
 姉とは全く正反対。
 そんな都合のいい女子がいるだろうか?
 いるはずがなかった。なにしろ、世の女性は皆、Tomomiのようになりたいと思い、ファッション雑誌を買うのだから。
 だが、安藤は出会ってしまった。
 高校入学の日、クラスメイトになった女の子。
 八重樫美緒は、彼の理想のすべてを兼ね備えていた。
 つまり、安藤は美緒に一目惚れだったのだ。 



 こうして、安藤を巡る闘争は終わりを告げた。
 女子連は、戦う前から、美緒に敗れていたのだった。
 戦いは、いつも、むなしい。




(少女と神姫と初恋と・おわり)
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