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ウサギのナミダ・番外編

少女と神姫と初恋と

その2



 美緒は不安で沈んだ気持ちのまま、待ち合わせのM駅に降りたった。
 彼と最寄り駅で待ち合わせ。
 彼の家に初めてのお呼ばれ。……理由が何であっても。
 心の準備が整う間もなく、放課後はやってきて、あわただしく下校して、家で大急ぎで私服に着替え、最速で身支度を整えて、パティと神姫の装備とメンテナンス用具が入っているカバンをひっつかみ、そのまま自宅を飛び出した。

 肩まで掛かる髪を撫でつけながら、思う。
 もっと気の利いたおしゃれができるように、なっていればよかった。
 梨々香の言うことをもっと聞いていれば、こんなときに困ることもなかっただろうか。
 美緒は正直に言って、おしゃれが苦手だった。
 きれいな容姿や可愛い格好には、人並みに興味はある。
 だが、ファッション誌に載っているような服やアクセサリーが自分に似合うとは、どうしても思えない。

 その原因は、自分の身体にあると、美緒は思っている。
 やはり、少し太っているから、あんなモデルのように細身の人が似合うような服は、わたしは着られないのだ。
 そう思いこんでいる。
 梨々香は「そんなことないよ!」と力説するが、それは親友に対する気遣い、あるいはお世辞というものだろう。
 そんな思いこみの結果、美緒は何とも無難で地味な服しか持っていないのだった。
 こんなおしゃれの欠片もない、地味な女の子を、安藤はどう思うだろうか。
 それが不安で仕方がない美緒だった。
 改札を出て、左手の出口に向かう。

「おーい、八重樫!」

 安藤はもうそこにいた。手を振っている。もう逃げられない。
 美緒はもう、不安でどうにも爆発しそうだった。



「それじゃ、行くか。今日は頼むな」
「うん……」

 安藤は笑っている。
 美緒の私服姿を気にもとめていないように、いつもどおりに。
 美緒はほっとするのと同時、なんだか不満だった。
 安藤ももちろん私服姿である。シャツにジーパン、スニーカーというシンプルな格好だが、異様にかっこいい。
 彼の背を見ながらついていくだけでドキドキが止まらない。
 なのに、彼は、美緒の姿を見てもいたって普通だ。
 もちろん、自分に魅力がないのは分かっているけれど……。
 不公平だ、と美緒は思う。
 わたしばっかりドキドキしたり不安になったりで、彼はちっとも普段の様子を崩そうともしない。
 その原因が、自分のあか抜けなさにあることは百も承知なのだけれど。
 ……もし、自分がもっときれいでおしゃれな女の子だったら、彼と一緒に歩いても、釣り合いが取れるだろうか。彼も少しくらいドキドキするのだろうか。
 美緒は歩きながら、そんなことを悶々と考えていた。

 駅から一〇分ほど歩いた住宅街の中に、安藤の家はあった。
 安藤の招きに応じ、門構えをくぐって玄関に入る。

「ただいまー」
「お……おじゃまします……」

 美緒が挨拶を言い終えるより早く、

「お、おかえり」

 ハスキーな女性の声が聞こえた。
 玄関から奥へと続く廊下に、長身の派手な女性が立っていた。
 髪はカールをかけたロングヘア、軽く化粧をしているだけのようなのに、目鼻立ちがとても派手である。
 細身の長身はプロポーション抜群。肩をむき出しにしたスパンコールをちりばめたトップスが、異様に似合っている上に、目のやり場に困るほどセクシーだった。

「姉貴……いたのかよ」
「いちゃ悪いのかい、弟」

(お姉さん!?)
 不機嫌そうな姉弟のやりとりの脇で、美緒は驚愕した。
 安藤に姉がいるのは知らなかったし、たとえ知っていたとしても、予想とは全然違っているように思う。
 あのさわやか系で通っている安藤の姉が、ギャル系ファッション誌のトップモデルみたいな女性だと誰が思うだろうか。
 安藤姉は二人をじろりと睨む。

「姉のいぬ間に女を連れ込もうってか……まったく、浅はかだねぇ」
「姉貴っ! オレの客の前で失礼なこと言うな! 八重樫には、オレから頼んできてもらったんだ」
「はぁん? オマエに女を連れ込む度胸があるとは思っちゃいないが、どういう用件だい」

 怒り出した安藤に対し、姉の方はニヤニヤと笑いながら余裕の表情である。
 美緒は誤解を解こうと口を挟んだ。

「あ、あの……安藤くんに、神姫のことで教えてほしいことがあるって、相談されて、それで……」
「神姫ィ?」

 呆れたような声で言った安藤姉は、前屈みになって、美緒の前に顔を突き出した。
 近すぎる派手な美人顔に、思わず後ずさる。
 ふーむ、と五秒ほど顔を値踏みするように眺められた。
 そして、

「弟、お茶用意しな。彼女はアタシがアンタの部屋に案内しとく」
「なんでオレが……」
「文句言うな! いいからさっさとやる!」

 安藤は頭を掻きながら、不満顔のまま玄関を上がった。

「八重樫、とりあえず上がって……姉貴についてってくれ」

 美緒にそう言うと、廊下の奥のキッチンに足を向けた。
 どうも姉の命令には逆らえないらしい。
 美緒はもう一度、おじゃまします、と言って靴を脱いだ。
 安藤宅に上がり、改めて安藤姉を見る。
 不敵に笑う彼女の存在感に圧倒される。
 初対面のはずなのだが、なぜか美緒には、その不敵な笑顔に見覚えがあった。
 弟の背がキッチンに消えると、不意に安藤姉の雰囲気が柔らかくなった。

「そんじゃ、ついてきて」
「あ、はい」

 姉の先導で、右手にあった階段を上る。
 意外なことに、安藤姉の方から美緒に話しかけてきた。

「ヤエガシちゃんも神姫やるんだ?」
「はい……あんまり強くないですけど」
「ああ、バトロンもやってんのね。アタシも少しはやるけど」
「え? お姉さんも……神姫のオーナーなんですか?」
「そうだよ。……ヴィオ、挨拶して」

 そう言うと、長い縮れ髪の間から、薄紫のパールカラーのバッフェバニー・タイプが顔を出した。
 メイクされた顔立ちは妖艶で、その雰囲気もどこかオーナーに似ている。

「ヴィオレットです。よろしく、ヤエガシさん」
「よろしく……って」

 その神姫の名を聞いて、ひらめくものがある。
 そう、バッフェバニーのヴィオレットと言えば……

「もしかして……お姉さんは、Tomomiですか!?」
「あれ、知ってるんだ。そりゃ光栄」

 驚愕している美緒に、安藤姉はこともなげに肯定した。
 知っているどころではない。
 女性の神姫オーナーで、Tomomiの名を知らぬ者はないだろう。
 それどころか、美緒と同じ年頃の女の子なら、大半は知っているはずだ。

 Tomomiは女性たちの憧れ、カリスマモデルである。
 女性向けのファッション誌での活躍はもちろんであるが、彼女には他のモデルにない特徴があった。
 神姫を連れていることである。
 彼女の神姫・ヴィオレットもまたモデルである。
 時にヴィオレットは、Tomomiを飾るワンポイントであり、時にTomomiとお揃いの服を着こなす。
 その様子が、新しもの好きの少女たちに受けた。
 Tomomiの影響で、おしゃれのパートナーとして神姫のオーナーになった女の子は、決して少なくないだろう。
 そんなTomomiとヴィオレットを、神姫業界の方でも放って置くはずがない。
 いまや神姫専門誌やら神姫の情報サイトやらでもひっぱりだこだ。
 Tomomiとヴィオレットは、非武装派の神姫オーナーたちのカリスマにもなっている。

 そんなTomomiが安藤のお姉さんだったなんて……美緒にしてみれば、思いも寄らぬ展開に驚愕するばかりだった。
 ふと、美緒は疑問に思う。
 お姉さんが神姫オーナーならば、神姫のことを少なくともそれなりに知っているはずではないか?

「あの……Tomomiさんは、神姫に詳しいですよね?」
「うん? まあ初心者に毛が生えた程度のもんだけど」
「だったら、安藤くんは、神姫のことをお姉さんに聞けばいいのでは……?」
「ヤツはアタシのこと毛嫌いしてっからさぁ。 ……あ、ここね」

 Tomomiは無造作に、その部屋の扉を開けた。
 美緒の目に映るのは、きれいに片づいた、あまり飾り気のない部屋だった。
 あまり広くない部屋に、ベッド、机、キャビネット、本棚が機能的に配置されている。
 ポスターなどの装飾は見られない。
 そんな中、机の上に置かれた武装神姫のパッケージが異彩を放って見えた。

「それに、アタシは絶対教えないね。男だったら自分で神姫の立ち上げくらいやれっての」

 美緒を部屋に入れると、安藤の姉はそう言ってからからと笑う。
 そしてまた美緒に向き直り、

「まあ、智哉はそんな感じで、気が小さくて、全然頼りないヤツなんだけどさ。よろしく頼むよ」

 そう言って派手なウィンクを美緒に寄越した。
 美緒は目を白黒させながら、それでも考えている。
 頼りないって……安藤くんが?
 美緒にはとてもそうは思えなかったが、とりあえず、こくりと頷くしかなかった。

「それと、もし智哉に襲われそうになったら、大声で助けを呼びな。アタシがヤツをぶっちめてやっから」

 そう言って不敵な笑みを浮かべた。
 その表情が、彼女の派手な顔立ちに異様なまでに似合っていた。
 美緒が驚くばかりで固まっていると、

「こら姉貴! 八重樫に何吹き込んでるんだ!」

 安藤がお盆を抱えたまま、横合いから姉をどついた。

「神姫オーナー同士、友好を深めてたんだよ。オーナーじゃないオマエには関係ないだろ」
「つか、関係ないのは姉貴だろ! とっとと出てけ! それに、もうすぐオレもオーナーになるんだからな」
「へいへい」

 安藤姉は、艶やかな笑顔で美緒に手を振ると、部屋から立ち去った。
 安藤は深い深いため息をつきながら、部屋の扉を閉める。

「……姉貴が帰ってきてるとは不覚だった……」

 がっくりとうなだれつつ、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルに、お盆を置く。
 お盆の上には、コーヒーカップが二つ載っていた。
 どうぞ、と差し出されたカップを素直に受け取る。
 湯気の向こうの安藤は、まだうなだれていた。
 そんなに姉が在宅だったことがショックなのだろうか。

「で、でも、お姉さんが、あのTomomiだなんて、全然知らなかった」
「学校じゃむしろ秘密にしてるぐらいなんだよ……あんなのが姉貴って、ありえないだろ」
「そ、そうかな……」

 美緒も年頃の女の子なわけで、あのカリスマモデルが姉だなんてメリット以外には思いつかない。
 安藤もようやく落ち着いたのか、深いため息を一つ吐くと、顔を上げて微笑んだ。

「まあ、あんなヤツのことはどうでもいいから……神姫のセットアップ、はじめようか」

 美緒はその微笑にドキリ、と胸を高鳴らし、小さく頷いた。



「……それで、ここに小さなチップを三つ、セットすればいいんだな?」
「そうそう。三つのチップの組み合わせで、その神姫の得意なこととか性格が決まるから、チップ選びは慎重にね」

 アルトレーネのパッケージを開けた頃から、美緒の緊張も薄らいできていた。
 安藤は素直で真面目な生徒だった。美緒の指示をよく聞き、滞りなく作業を進めていく。

「でも、気に入らなかったら、チップの配置をやり直せばいいんじゃないか?」
「うん……そうではあるんだけど」

 美緒は眉根を寄せて表情を曇らせる。

「わたしはあんまり好きじゃない……チップの配置を変えると、その前に設定された『心』も消えてしまうの。人間の都合で、何度も何度も神姫の心を消してしまうのは、かわいそう」
「そっか……俺たちだって、誰かの都合で無理矢理性格変えられたりしたら、イヤだもんな」
「うん。だから、はじめに配置したCSCの設定を大事にしたいの」
「そうだな。オレもそうするよ」

 安藤は三つのチップを慎重に選び出す。

「八重樫はやさしいな」
「えっ……!?」

 視線を合わせずに呟く言葉は、まさに不意打ちだった。
 やっと緊張がほどけてきたのに、また心臓が爆発しそうになる。

「そんなこと、ないよ……」

 美緒が呟くいつもの言葉は少し震えている。
 そう、神姫の心を大切にしたいなんて思うことは、普通、普通だ。
 美緒はそう自分に言い聞かせながら、ドキドキが収まらない胸を手で押さえた。

(やだもう、どうしてそんなに、ずるいことばっかり言うのーーーーっつ!?)

 そのさわやかな顔立ちさえ、美緒には憎らしく思えてくる。
 しかし、チップをCSCに慎重にはめ込むときに見せる、真剣な表情に、どうしても見とれてしまうのだった。

「よし、できた」

 そんな複雑な乙女心を知るはずもなく、安藤は美緒の方に笑顔を向けた。
 美緒は彼の顔をまともに見られず、やっぱりうつむいてしまう。

「そ、そしたら……クレイドルの上に載せて、PCに出てくるメッセージに従って進めればいいから」
「わかった」

 安藤が神姫の胸部パーツを閉じ、ボディをクレイドルの上に載せる。
 すると、PCが神姫との接続を認識、神姫管理用ソフトを自動的に立ち上げ、初期設定のセットアップに移行する。
 いくつかのメッセージに対し、『はい』の解答を行う。
 そして、

「武装神姫・アルトレーネ 初期登録モードで起動します」

 神姫の口から出た言葉に、安藤は少し動揺した。
 その安藤の目の前で、神姫はぱちりと目を見開く。
 大きな瞳に、安藤の顔が映っている。

「ユーザーの登録と認証を行います。ユーザーの名前を音声で入力してください」

 安藤が振り向き、美緒に目配せしてきた。
 美緒は大丈夫、と小さく頷いた。

「あ……安藤智哉」

 安藤は少し緊張している。
 誰でも初めての神姫の起動の時は緊張するものだ。
 大きな期待とひとつまみの不安。
 美緒も、パティを起動したときの緊張を思い出す。

「あんどうともや、様で登録しました。安藤様を何とお呼びすればよろしいですか? 音声で入力してください」
「……マスター」

 このあたりの入力は、どの神姫でもそうかわらない。
 入力項目について、あらかじめ決めておくように、美緒から言い含められていた。

「最後に、神姫の名前を音声で入力してください」
「オルフェ」

 抑揚のない神姫の問いに、安藤は即答する。
 神姫は黙り込み、空中を見つめているように見えた。
 それも一瞬のこと。

「登録完了しました。 オルフェ、通常モードで再起動します」

 事務的な口調のメッセージが流れた後、神姫は一度目を閉じ、全身から力を抜いた。
 一瞬の後、再び顔を上げ、ぱちりと瞳を見開く。
 そこに宿るのは、感情の色。先ほどの事務的で無機質な視線とは明らかに違って見える。
 神姫は、安藤を見上げた。
 視線が交わる。
 安藤は少し驚いて、肩を震わせた。
 そんな安藤に、彼の神姫はにっこりと笑いかける。

「はじめまして、マスター。今日からあなたの神姫になりました、オルフェです。これからよろしくお願いします!」

 元気のいい、さわやかな声が響いた。
 にっこりと笑うオルフェ。

「ああ、よろしく……よろしくな、オルフェ」
「はい!」

 少し戸惑いつつも挨拶した安藤に、オルフェは明るく応えた。
 美緒はほっとする。オルフェは明るく元気な性格のようだ。きっと安藤とうまくやれるだろう。
 CSCの再設定を否定しておきながら、神姫の性格が良くなかったらどうしよう、と密かに心配していたのだった。

「……パティ」
「はい」

 持ってきていたバッグから、美緒の神姫が顔を出した。
 美緒はパティを手に取り、机の上に立たせる。
 安藤は彼女をじっと見つめた。

「へえ、この子が八重樫の神姫かあ」
「あの、マスター。この方は……?」

 オルフェにしてみれば、見るもの出会うものすべてが初めてだ。
 彼女は美緒とパティを見比べながら、安藤に問う。
 安藤はほほえみながらオルフェに説明した。

「彼女は八重樫美緒さん。オレのクラスメイトで……神姫のことをいろいろ教えてもらっている、先生だ」
「……よろしくね、オルフェ」

 安藤にフルネームを(特に下の名前を!)呼ばれるのは、なんだかとても気恥ずかしい気がした。
 美緒の挨拶に、オルフェは満面の笑みで応えた。

「それから、この子はわたしの神姫で、パトリシア」
「よろしくお願いします、オルフェさん」

 礼儀正しくお辞儀をしたパトリシアに、オルフェも頭を下げた。

「こちらこそ。わたしは起動したばかりなので、いろいろ教えてくれると嬉しいです。パトリシアさん」
「もちろんです。……それから、わたしのことはパティと呼んでください」
「はい、パティさん」

 二人の神姫はすぐに打ち解けたようだった。
 オルフェの相手をパティに任せ、美緒は安藤に講義を続けた。
 神姫の扱い方や、メンテナンスソフトの使い方、装備の使用方法や役に立つ情報サイトまで。
 教えているうちに二人とも夢中になってしまい、気がつくととっぷりと日が暮れてしまっていた。



「今日はありがとな。助かった」
「ううん。気にしないで」

 駅での別れ際。美緒は微笑むことができた。ようやく安藤と二人で話すことにも慣れ、楽しいとさえ感じられるようになっていた。
 安藤は、頭を掻きながら、ちょっと照れたような表情で言った。

「なあ……八重樫の……その……ケータイの番号とメアド、交換してくれないか」
「……え?」
「またいろいろ相談に乗ってほしいんだ。……神姫に詳しい姉貴があんなだろ? 周りに詳しいヤツもいなくてさ……だめかな?」

 それは願ってもない話である。
 安藤智哉の携帯番号とメールアドレスなんて、クラスメイト女子が一番ほしがっている個人情報だ。
 それを彼の方から交換して欲しいと言ってきている。
 美緒はすでに夢心地ですらあった。
 夢遊病者のような手つきで、安藤に携帯端末を差し出す。
 意識はふわふわと宙を漂っており、ことの成り行きを全く理解していなかった。

 数分後、二つの携帯端末を操作し終えた安藤は、片方を美緒に差し出した。
 美緒はまた夢遊病者の手つきで端末を受け取る。
 安藤ははにかむように笑った。
 美緒もつられて笑ったが、なんだか不自然に不気味な笑いになっていたような気がする。
 安藤はそれを気にもしない。

「今度は、八重樫たちが行ってるゲーセンに連れてってくれないか?」
「え、ゲーセン?」
「そう。バトルロンド……オレもやってみようと思うんだ」

 屈託なく言う安藤を美緒は見つめてしまう。
 もちろん、美緒に断れるはずもないし、断る理由もない。

「うん。わたしでよければ、案内するわ」
「やった」

 にっこりと笑うと、彼は身を翻した。

「それじゃあ、八重樫。また明日な!」
「うん、また明日」

 彼の背に向かって、美緒は小さく手を振った。
 美緒の胸はいまだドキドキが止まらない。



 夢のような怒濤の一日が過ぎてゆく。
 美緒は自室のベッドに寝ころび、天井を見つめながら、今日あったことを振り返る。
 安藤智哉は憧れだった。
 あんな人が彼氏だったら、きっと素敵だろう、そう思って、遠くから見ていただけだった。
 彼の素敵なところを見つけては思いを募らせても、決して手の届かない人だと思っていた。
 それが今日一日で一変した。
 いま美緒が手にしている携帯端末のアドレス帳、その一番最初に「安藤智哉」の名前が表示されている。
 美緒はため息をつく。
 これはなんという夢なのだろうか。
 このまま安藤と仲良くなれば、親しい友達になれるだろうか。
 ひょっとして恋人になんて、なれる可能性もあるだろうか。
 軽く頭をふり、そんな妄想を打ち消す。
 でも、せめて、今のわたしと陸戦トリオの遠野さんくらいには近い関係になることを望んでも、罰は当たらないと思う。
 そんなことを考えていると、

「安藤さんは……美緒のことが好きなのではないですか?」

 彼女の神姫・パティが大砲を放った。
 美緒はその場で転げ回る。
 がば、と上げた美緒の顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。

「んなっ……何言っちゃってんの、パティ!?」
「美緒と一緒にいるときの安藤さん、とても楽しそうでしたし……憎からず思っているのではないかと」
「そんなこと……安藤くんがわたしを好きだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」

 そう、あり得ない。 
 その可能性を、賢い美緒が考えなかったと言えば、嘘になる。
 だが、美緒はそれを自ら強く否定した。
 彼と自分とでは、何もかも違いすぎるのだ。釣り合いが取れないし、なによりそんなことを考えること自体が厚かましい。

 だが、パティは首を傾げる。
 どうして自分のマスターは、こう自分を過小評価するのか、と。
 神姫である彼女の贔屓目を差し引いても、美緒は美人であると思う。
 もっと自信を持てばいいのに。
 それに、気のない女の子をわざわざ自宅に呼んでまで、神姫の相談をするだろうか。
 別れ際に連絡先の交換なんて、気になる相手でなければしないのではないか?
 パティは冷静に、そう分析していた。

 マスターと神姫の思いは平行線をたどりつつ、夜は更けていった。









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