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ウサギのナミダ 番外編

少女と神姫と初恋と

その1



「なあ、八重樫。昼休みに時間もらえる? ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」

 八重樫美緒だって、年頃の女の子である。
 男子と話すときは少しドキドキするし、こんな台詞ならなおさらのこと。
 それが、憧れている男の子からなら、思考が真っ白になって当然だ。

「え、あ……うん……いい、けど……」
「そっか、よかった。じゃあ、弁当持って屋上集合で」
「え、お弁当……?」
「ちょっと込み入った話になりそうでさ……八重樫にしか相談できないんだけど……だめかな」
「え、あ……うん……いい、けど……」
「よかった! それじゃあとで」
「うん……それじゃ……」

 さわやかな笑顔を残し、去りゆく彼の背中を、呆然と見送るしか美緒にはできなかった。
 彼はすぐに男子の輪に取り込まれてしまう。

「安藤! お前、八重樫になに話してんの」
「大したことじゃねーよ」 

 ははは、と笑って答える彼。
 そう、大したことじゃないんだ。
 男子たちはもう別の話題で盛り上がっている。
 美緒は苦笑する。
 ただちょっと、声をかけられただけ。期待するなんてどうかしてる。
 美緒が鞄から教科書を取り出そうと視線を下げたそのとき。

「美緒っ!! アンディと何話してたんだ!? あたしにっ、親友のあたしに話してみろっ!」

 うきうきとした口調と共に、後ろから首に腕を巻わされ、絞められる。

「ちょ……有紀……くるし……」
「ああ? おっと、わりぃわりぃ」

 手荒なスキンシップをしてきたのは、親友の園田有紀。
 仲良し四人組の一人である。
 有紀の長い腕をはがしながら、視線を上げると、目の前に残りの二人も立っていた。

「よかったわね。きっかけが掴めそうじゃない」
「そうだよ、美緒ちゃん! ファイト、押し倒せ!」

 蓼科涼子の落ち着いた物言いは、師匠譲りだろうか。
 江崎梨々香は、顔に似合わず過激なことを言う。
 それにしても、彼はこっそり美緒に話したのに、なんでみんな注目しているのか。
 少しぐらい目をそらしているふりをするのが、友達がいと言うものではないだろうか。

「そんなんじゃないわ。ほんとに、大したことじゃないもの……」

 そう言って、顔を上げた美緒は、涼子と梨々香の背後を見て、凍りつく。
 注意喚起する暇もなく、女子の一群が二人の背後から押し寄せ、はじきとばし、美緒をあっと言う間に取り囲んだ。

「ちょっと、ヤエガシ! 今のどういうこと!?」
「安藤君とどういう関係!?」
「今アンディと話したこと、洗いざらい吐きなさい、ミオ!」
「え、ええええぇぇっ!?」

 美緒は自分の席から立ち上がることさえできないまま、女子たちの詰問を受けた。
 だが、あの短い会話の内容を何と答えられるというのだろうか。
 よく見ると、自分を囲む女生徒には、自分のクラスメイトでない女子も含まれているような気がする。
 美緒はとまどいながら、お茶を濁し続けるしかなかった。
 教壇でクラス担任の教師が、わざとらしく大きな咳払いをするまで。

 美緒に声をかけてきた彼……安藤智哉は、同学年女子の間で一番人気のある男子だった。



 クラスメイトたちにおける、八重樫美緒の評価は「変わり者の文学少女」である。
 整った顔立ちに、セミロングの黒髪、銀縁の眼鏡はいかにも文学少女といった風情で、理知的に見える。
 実際、彼女は読書家だ。時間があれば本を開いているし、図書館の常連であることはよく知られている。
 おとなしく、女の子らしい優しさと気遣いの持ち主で、男女問わず、クラスメイトは彼女に好感を抱いている。
 成績も常に学年上位。まさに絵に描いたような優等生だ。
 また、あまり表立ってはいないが、美緒に憧れている男子も少なくない。
 その理由の一つが、彼女の魅力的な胸にあることは、年頃の男子にしてみれば仕方のないところであろう。
 ブレザーの上着を着てもなお存在を主張する大きな胸は、楚々とした性格と外見とはあまりにミスマッチで、美緒の意志に関係なく、男子たちを密かに魅了しているのだった。

 そんな美緒を「変わり者」呼ばわりさせているのは、彼女の交友関係に原因がある。
 いつも美緒と一緒にいる三人。彼女たちは揃いも揃って変わり者だった。

 園田有紀は、長身でプロポーションもよく、顔もボーイッシュな美人だ。乱暴な男言葉を使うが、それがよく似合っていて、嫌みを感じさせない。下級生女子には絶大な人気を誇っている。
 しかし、彼女は言葉だけでなく、性格も乱暴だった。短気で、男子とでも平気で取っ組み合いをする。しかも強いので、負けるのはたいがい男子の方だ。
 また、学業は下の下。数学以外の勉強が壊滅的だ。
 スポーツは万能で、特に球技は特待生とも向こうを張るほどの実力を持つ。球技大会のバスケットボールで、バスケ部の部員三人のマークを蹴散らしてダンクを決めたのは、もはや伝説だ。
 しかし、なぜか再三のクラブ勧誘を頑なに断っている。
 有紀は劣等生のレッテルを貼られ、教師たちからも問題児扱いされていた。

 蓼科涼子は、有紀ほど悪目立ちするタイプではない。
 むしろ真面目な性格で、責任感もあり、努力を欠かさない。そのため、教師たちからは人気がある。
 長い黒髪を後ろで結わえたポニーテールは、彼女のストイックな性格によく似合っている。
 だが、ストイックな性格こそが、蓼科涼子の問題点だった。
 生真面目すぎるのだ。
 特に同年代の男子は不真面目に見えるのか、いつもやぶにらみである。
 女子でも「カタ過ぎる」と言って、涼子を敬遠する者が少なくない。
 涼子に近しい友人以外で、彼女の笑顔を見た者はほとんどいないという有様である。
 もちろんその美少女ぶりに、付き合ってくれと告白した男子は数多い。
 しかしそのたびに一言、

「あなたと付き合うことは、金輪際あり得ません」

 とばっさり切り捨てられる。
 あまりにとりつく島のない物言いに、逆ギレした男子が、直後に涼子に襲いかかったことがある。
 だが、逆に投げ飛ばされて地面にたたきつけられた。
 実は涼子は合気道の有段者である。小さな頃から定期的に合気道の道場に通っているのだった。
 以来、涼子は陰で「武士子」と呼ばれているのだが、それを聞くと本人は激昂するという。

 生徒の人気という点では、江崎梨々香が四人の中で一番かもしれない。
 梨々香は男女ともに人気がある。
 性格は明るく、社交的だし、可愛い印象の美少女だ。
 彼女はファッションにとても詳しい。コーディネートは友人たちからいつも相談を受けるし、自分で服や小物も作ってしまうほど。
 本人の普段着はピンクハウスや甘ロリ系ばかりなのだが、それがまた異様に似合う。
 料理も上手で、家庭科実習の残りなど、男子よりも女子が狙っている。
 その明るさ、家庭的な趣味もあいまって、男子の人気もすこぶる高い。
 だが、彼女にも問題点はある。梨々香はとにかく勉強ができない。家庭科以外の科目は、間違いなく最下位クラスである。
 それだけなら勉強すればいいのだが、本人に勉学に励む気がまるでない。しかも、成績が悪いことを全く気にしていない。だから、成績が上がるはずがないのだった。
 教師たちから見れば、梨々香は非常にたちの悪い劣等生だった。

 このように、性格も趣味もまるで違う変人が、なぜか仲良しグループを形成している。
 そのリーダーが、普通の優等生である美緒なのだ。
 三人とも、美緒の言葉は、なぜか素直に聞き入れる。
 有紀の乱闘に仲裁に入れば、「仕方ねぇなぁ」と言って、あっさり拳を引っ込める。
 「武士子」呼ばれて激昂する涼子を、一瞬にしてなだめられるのは美緒だけだ。
 追試になっても勉強しようとしない梨々香に、「いい加減にしないと怒るわよ?」の一言で、一心不乱に机に向かわせる。

 なぜ変わり者の三人が、ここまで美緒を立てるのか。
 三人はそれぞれ抜きんでた特技があるのに、クラブ活動を頑なに拒むのはなぜか。
 そして、全く方向性の違う四人の共通点とは何なのか。
 その理由こそが武装神姫だった。
 彼女たちはいずれも神姫のオーナーであり、ゲームセンターに入り浸るバトルロンド・プレイヤーだ。
 クラスメイトたちは思う。
 なぜ武装神姫なのか、と。
 それこそが、美緒を変わり者に仕立て上げている最大の理由なのだった。



 午前中の授業は、まったく上の空だった。

 安藤智哉は、美緒にとって憧れの男子生徒だ。
 彼の印象を一言で言えば、さわやか系、だろうか。
 とにかく、表情にも言葉にも屈託がない。
 怒った顔も、悩んだ顔も、裏を感じさせない。
 いつも仲間たちの輪の中で、笑っているような人だ。
 その笑顔が可愛くて、魅力的だと、多くの女子が思っている。

 成績は中の中といったところだが、スポーツが得意だ。
 特に得意なのはサッカーで、いつも昼休みにクラスメイトとボールを蹴っている姿を見かける。
 球技大会でもフォワードで大活躍し、クラスの優勝に貢献した。
 その姿を見てファンになった他クラスの女子や、下級生も多いらしい。
 だが、安藤もまたなぜか、特定の部活動はしていない。

 ある意味、女子の理想の彼氏像を体現しているような安藤智哉は、モテて当然だった。
 しかし、いままで、安藤が特定の女子と付き合ったことは確認されていない。
 同じ中学出身者はもちろん、同じ学年の女子で、安藤と付き合いたいと思う者は数知れない。
 多くの女子が、安藤の彼女の座を、虎視眈々と狙っている。

 美緒は、彼女の座を狙うだなんて、大それたことは考えていない。
 時々妄想の中で、かの『エトランゼ』菜々子とティアのマスター・遠野がゲーセンで談笑している姿に、自分と安藤を重ね合わせてみたりするのが関の山だ。

 そもそも、美緒と安藤の共通点なんて、同じクラスであること以外、何もないのだ。
 話をしたことくらいはあるが、それは単なる連絡事項とか挨拶とか、その程度のことだった。
 安藤が自分をどう思っているかなんて、考えたこともない。考えるまでもない。
 それが、今朝のように名指しで、しかも個人的に相談だなんて、全く想定外だった。

 美緒は視線を窓際の前の方に走らせる。
 そこには頬杖をついて黒板を見る安藤の後ろ姿。
 その背中を見つめるだけで、胸のドキドキが止まらなくなる。
 いったい何の相談なんだろう。
 美緒には想像もつかない。
 期待半分、不安半分な気持ちを持て余したまま、午前中は過ぎていく。



 一方、安藤智哉を本命と狙う女子連には、激震が走っていた。
 高校入学からこれまでの数ヶ月間、安藤が特定の女子を誘って昼食だなんて、前例がない。
 いや、同じ中学出身者に言わせれば、中学時代だって一度もなかった。
 それが今朝、覆された。
 しかも、相手は、物静かであまり目立たない文学少女の八重樫美緒である。
 まったくノーマークの人物だった。

 確かに美緒は、男子の人気はそこそこある。
 だが、安藤が美緒に特別な関心を寄せたことは、今までなかった。
 美緒は安藤を憎からず思っているようだが、表立った行動に出たことなどない。
 しかも、美緒は変人グループのリーダーである。
 彼女たちにしてみれば、ライバル候補としてまずあり得ない、と思っていた人物だ。

 彼女たちは、急浮上した新たな恋のライバルに、何を話したのか尋問したが、本人の答えは要領を得ない。
 いったい、安藤は美緒に何の相談をするのか。

 恋のライバルたちは、いったん休戦に合意。非常事態宣言を発令した。
 今回の事案に対し、周辺情報の調査が開始され、様々な情報が飛び交う。
 授業中の情報伝達方法は、いにしえより、ノートの切れ端と相場が決まっている。
 数え切れないほどのノートの切れ端が、教壇に立つ教師には気づかれぬよう、極秘裏に受け渡される。話題の本人たちのみを迂回し、教室内を音もなく行き交った。
 短い休み時間中は、教室の端、階段の踊り場、女子トイレなど、そこかしこで緊急ミーティングが開かれ、情報の検討と精査が行われた。
 そして、情報の真偽は、携帯端末からのメール配信によって、すぐに情報共有される。
 事態は高度情報戦の様相を呈してきた。
 しかし、昼休みを目前にしても、最重要事項……安藤の相談内容については、まったく判明しなかった。



「おーい、八重樫! こっち!」

 昼休み。
 美緒が屋上に上がると、ベンチの一つに陣取った安藤智哉が手を振った。
 彼の指示通り、五分ほど教室で待ってから、屋上にやってきた。
 その間に、安藤は学食でパンを調達し、上がってきたらしい。ビニールの手提げ袋を手にしている。
 美緒は、安藤から一人分ほどの間をあけて、ベンチに腰掛けた。

「はい。八重樫はこれが好きだったよな」

 俺のおごり、と言って安藤が差し出したのは、ミルクイチゴのパックだ。
 美緒は驚きながらパックを受け取る。

「ど、どうして知ってるの……?」
「え? だっていつも、そればっかり飲んでるじゃん」

 安藤はコーヒー牛乳のパックにストローを刺した。
 美緒は混乱する。
 確かに、美緒はいつもミルクイチゴを決め打ちで買っているが……でも、そんなことを、まさか彼が気にとめていたなんて、夢にも思わないではないか。

(……これって、どういう夢なの……!?)

 彼からのささやかなプレゼント。
 二人きりのお昼ご飯。
 今の状況に、ひどく現実感がない。
 でも、一口飲んだミルクイチゴは、いつも通りの甘い味がした。



「かたい……かたいよ美緒ちゃん! もっとこう、やわらかく、かわいく、媚びて笑えば、もう男なんかイチコロなのにっ!」

 小声でエキサイトしている梨々香を押さえ込みながら、涼子は二人の様子に目を細める。

「美緒の飲み物まで用意してるとは……いつもながら、さすがの気遣いね」
「あれ、涼子はアンディとそんなに仲良かったっけ」
「同小、同中だからね」

 涼子と安藤は、特に仲がいいわけではない。
 小学校から同じ学校だし、同じクラスにもなったこともあるから、お互い顔は見知っている。
 また、二人とも噂に上りやすい性質なので、情報がよく耳に入ってくるだけだ。
 安藤の気遣いの良さ、マメさは昔からの筋金入りである。

「まあ、安藤はあのくらいして当たり前よ。昔からそうなんだから」
「……そう思ってない連中も多いみたいだけどな」

 涼子の言葉を聞きつつ、有紀は背後を振り返る。
 そこにはクラスの女子が大勢隠れつつ、二人の様子を覗いる姿がある。
 クラスメイトの半分以上がいるんじゃないだろうか。
 階段ホールのある建物の裏側は、通学ラッシュのバスの中もかくや、という状況である。
 そんな女子たちは皆、今の二人の様子を見て、絶望的なショックに顔を真っ青にしていたり、ハンカチの端を噛んで細い奇声を上げたりしている。
 二人を監視しているメンバーは、階段ホールにいるだけではない。
 美緒と安藤が座るベンチから少し離れたところで、他クラスの女子グループが談笑するふりをしながら、監視活動を行っている。
 そうした女子グループがぐるりと二人のベンチを取り囲む形に、いつのまにかなっていた。
 だが、さすがに安藤自身が美緒を呼び出しただけに、妨害するわけにも、すぐ近くに行くわけにもいかず、ある程度の距離を保った包囲網を形成することとなった。
 ゆえに、二人の会話はあまりよく聞こえない。

「……座るベンチが分かっていれば、盗聴器を仕掛けたものを……」

 近くにいた女子の一人が呟く。
 盗聴器をいつも持ち歩いてんのか、と突っ込みたくなる有紀である。
 有紀は呆れながら、いまなお微笑ましい、ベンチにいる二人に目をやった。



 美緒は持ってきた弁当の包みを開け、小さな弁当箱のふたをそっと開く。
 卵焼きにウインナー、きんぴらごぼう、チェリートマトに蒸しキャベツ。
 半分はごはんが占めており、真ん中に梅干しが乗っている。 
 何の変哲もない、弁当の定番メニューだ。

「……それ、八重樫が作ったの?」

 コロッケパンをかじりながら、安藤が尋ねてきた。

「う、うん……そう、だけど……」

 美緒は一人っ子で、両親は共働きだ。
 働いている母が早起きして弁当を作るのは大変だ。
 だから、家族三人分の弁当を作るのは美緒の役目だった。

「すっげー。朝早く起きて、こんなおいしそうな弁当作ってくるなんてさ」
「そ、そんな……大したこと、ないよ……ぜんぜん……」

 本当に感心している様子の安藤に、美緒は恥ずかしくなってしまう。
 弁当の定番メニューなんて、短い時間で作れてしまうもので、ちっとも凝った料理じゃない。
 美緒にしてみれば、見せるのもためらわれるほどの手抜き料理だ。
 それを褒められるなんて。

 美緒はうつむきながら、横目で安藤を見つめた。
 総菜パンを食べる彼。
 お弁当は持ってきていないのだろうか。
 お昼ご飯が購買のパンだけでは、少し味気ない感じがする。
 安藤は、毎日購買のパンを買っていたように思う。
 それでは食事が偏ってしまうし、毎日代わり映えしない。
 そんな風に思ったら、つい口から言葉が転がり出た。

「……よかったら、少し食べる?」

 ……わたし、何言っちゃってるの!?
 言った次の瞬間には後悔していた。
 ちょっと彼がお昼に誘ってくれたからって、調子に乗りすぎだ。これでは下心があるみたいではないか。
 ほら、彼だって呆れてこっちを見ている。
 だが、美緒の予想と違って、安藤からかけられた言葉は、

「……いいの?」

 むしろちょっと驚いた感じの口調だった。
 美緒は安藤の顔をまともに見られないまま、そっと、弁当箱を差し出す。
 小さく頷いた。
 安藤は嬉しそうな顔をして、卵焼きを一切れ摘むと、口に入れる。
 もぐもぐと口を動かす気配。

「……うまー……」

 ため息のように呟いた後、安藤は美緒に満面の笑みを見せた。

「すごいおいしいよ! こんなにうまい卵焼き、久しぶりに食べた」
「そ、そう……よかった……」

 もう、助けて。
 嬉しいはずなのに、楽しいはずなのに。
 せっかく自分に向けられた笑顔を、美緒はまともに見ることができない。
 めいっぱい緊張した美緒の心は、逃げ出したくなっていた。



 共同戦線を張った女子連は、大ダメージを被っていた。
 手作りの弁当を二人で摘むなど、まさに清き学生の恋人同士の姿である。
 その一撃たるやメガトン級で、共同戦線を一瞬にして崩壊させる破壊力だった。
 ここで二人の共同作業を阻止すべく、過激派の実行部隊が動き出しそうになったが、状況がそれを許さない。
 当の安藤が満面の笑みを持って、美緒の弁当を食べているのだ。
 ここで邪魔をしたら、かえって自分たちの心証が悪くなりかねない。
 また、今日の本題は弁当ではない。
 安藤が美緒を呼び出した理由がまだ明らかになっていないのだ。
 女子連は苦渋の選択を強いられる。
 階段ホールの陰に隠れたクラスメイトたちは、毒ガスを食らったかのように、苦悶の表情を浮かべつつ、声を出さないように喉を押さえている。
 まるで地獄絵図の様相だった。

「……ばかじゃね?」

 呆れた有紀の端的な感想である。
 美緒の様子を見れば、完全にテンパっているのは明白だ。

「あー、あれは、購買のパンばっかり食べてたら栄養価が低くて心配だ、とか思って、反射的に弁当差し出したのねー、たぶん」

 なま暖かい眼差しで二人を見ながら、涼子は棒読みで言った。
 さすがに親友だけあって、性格を読み切っている。
 親友のテンパった姿を見ながらも、空気を読まずにエキサイトしている人物もいる。

「そおよ、美緒ちゃん、ナイス! 手作りのお弁当はポイント高いよ! このまま、毎日作って来てあげるって展開に……」
「それ以上はやめとけ、梨々香。後ろの女子連中に殺されるぞ」

 頬を膨らませて不満を露わにする梨々香だったが、さすがに殺気だったいくつもの視線に睨まれては、口を噤まざるを得なかった。
 美緒の親友三人は、再びなま暖かい眼差しで、二人を観察する。



「……それで、相談って……?」

 昼食を食べ終わり、二人の手にジュースのパックだけが残ってすぐ、美緒は切り出した。
 安藤は気を遣ってくれたのか、ずっと気さくに話しかけてくれたが、美緒はまともに会話することができなかった。
 さぞかし話し下手な女だと思われたことだろう。
 美緒は自己嫌悪に陥りながらも、それでも安藤の相談には真摯に対応しようと心に決め、勇気を振り絞って切り出したのだった。

「ああ……これなんだけどさ」

 ストローから口を離した安藤は、傍らにあった一冊の本を手に取り、美緒に渡す。
 美緒はイチゴミルクを一口飲んで、本を受け取った。
 少し分厚い、飾り気のない本。
 どこかで見たことのあるデザイン。
 タイトルを見る。
 美緒はイチゴミルクを吹き出しそうになった。



 階段ホールの陰では、今度は親友三人が悶絶していた。
 声を上げずに爆笑しているのだ。
 涼子は声を上げようとする梨々香の口を押さえながら、背中を丸めて身体をぷるぷると震わせている。
 有紀にいたっては、声を立てずに爆笑し、地面をのたうち回るという器用なことをしていた。
 クラスメイトは三人を奇異な目で見ている。
 安藤が美緒に渡した本を見て、爆笑し始めたのだ。
 しかし、女子連には、三人が笑いのツボを突かれたポイントがわからない。
 見れば美緒も、なにやらむせている。

「ねえちょっと、あの本はなんなの? 何がおかしいって言うのよ」

 クラスメイトの一人が、身悶えしながら無言で笑う有紀に言った。
 有紀は両手で目に浮かんだ涙を拭い、ひーひー言いながら答えた。

「まあ、そりゃアンディも美緒に相談するわな……あれはマニュアルだよ」
「マニュアル?」
「そう。武装神姫の取扱説明書だ」

 その場にいたクラスメイト全員が、毒気を抜かれたような顔をした。



 美緒はかろうじて、イチゴミルクを吹くという醜態をさらさずにすんだ。
 そんなに驚いたのには、二重の意味がある。
 一つは、安藤が武装神姫について相談を持ちかけてきたことだった。
 まさか彼が武装神姫に興味があろうなどとは、夢にも思っていなかった。
 もう一つは、手渡されたマニュアルの武装神姫の機種である。

「アルトレーネ……」
「お。八重樫、知ってるんだ?」

 知っているも何も。
 アルトレーネは、今、神姫オーナーの間でもっとも話題の新型機だ。
 ここのところ、武装神姫の新製品のリリースに、各メーカーともかなり慎重である。
 各メーカーとも特色ある人気機種が定番となりつつあって、保守的になっているのだ。
 新しい武装神姫を開発するより、人気機種のリペイントバージョンや、装備を変更、追加したリパッケージ品の市場投入を優先したのである。
 しかし、目の肥えたユーザーたちは納得がいかない。
 フルセット品の購入離れがはじまり、ヘビーユーザーは既存の神姫のカスタマイズに走るようになった。服を着せたりして神姫のいる日常を楽しむ「非武装派」も増えている。
 そのため、神姫自体の売れ行きは横ばいなのに、カスタムパーツや神姫サイズ服の市場は急激に広がっていた。

 そんな状況下、彗星のごとく現れた新製品、それが戦乙女型MMS『アルトレーネ』である。
 人気機種の要素も取り入れながら、独自性を備えた豪華な装備、清廉な印象を与えるデザインに、美しさとかわいらしさを兼ね備えた神姫本体。
 武装派には、装備の豪華な仕様と組み替えの可能性に期待が集まった。
 非武装派も、神姫自体の良さに前評判が集まった。
 かくして、アルトレーネは、新規参入メーカーの新作であるにも関わらず、予約が殺到し、生産が追いついていない状態だ。
 その盛り上がりを受け、既存メーカーも新製品を発表し、神姫市場はいまや活況を呈している。

 そのアルトレーネは、先週末に発売になったばかりだ。
 いま、ゲーセンの武装神姫コーナーはアルトレーネの話題で持ちきりと言っていい。
 美緒が知っているのも至極当然のことだった。

「今話題の神姫だもの。もちろん知ってるわ。……でも、よく買えたね。ほとんど予約完売らしいけど」
「もらったんだよ」
「え?」
「誕生日プレゼントなんだ。オレのおじさん、アルトレーネ作った会社にいてさ、製品サンプルをプレゼントにくれたんだ」
「なるほど……」

 武装神姫の初心者である安藤が、そう簡単に人気機種を手に入れられるとは思えない。
 納得がいった。

「それでさ。日曜にマニュアル読んでみたけどよくわからなくて……なんか小さくてデリケートな部品もあるし」
「ああ、CSCね」
「だから、起動の仕方を詳しい奴に聞いてみようと思って……それで八重樫に声かけたってわけ」
「そう……」

 期待していたわけではない。
 でも、少しも期待してなかったと言えば嘘になる。
 安藤の中の美緒は「武装神姫に詳しい奴」に過ぎないのだ。
 すこしがっかりしたが、美緒は気持ちを切り替えた。
 そう、期待していた自分が悪いのだ。
 せっかく安藤君がわたしを頼ってきてくれたんだ。
 だから、少なくとも彼には、自分の誠意を尽くそう。

「わかった……わたしでよければ、力になるわ」
「そっか。やった!」

 にっこりと笑った彼の顔を、美緒はまともに見られなかった。
 無防備にそういう顔するのは、ずるい。
 どんな女の子だって、わたしだって、勘違いしたくなってしまう。
 美緒はうつむきながら、手元にあるマニュアルの表紙の文字を繰り返し読み続けた。
 だが、そんな美緒の気持ちなど伺い知ることもなく、安藤は話し続ける。

「八重樫、今日なんか用事ある?」
「え……? えっと」

 放課後の用事は、きっと今日もいつもの四人でゲーセンだ。
 それは日課のようなものなので、特別な用事ではない。
 安藤の相談に乗ってから、遅れてゲーセンに行っても、他の三人は気にしないでいてくれるだろう。

「ううん、特にないよ」
「それじゃ、放課後、荷物置いて着替えたら、M駅の改札集合で」
「え?」

 図書館あたりで詳しくレクチャーということではないのか?

「え、って……だって、神姫の起動のやり方教えてくれるんだろ?」
「うん……そう、だけど」
「だから、ウチに来て、オレがやるとこ見ててよ。そしたら間違いないし。八重樫の神姫もみたいし」
「……そ、それは……その」
「お礼に、親にケーキ買ってこさせるからさ。何がいい?」
「……チーズケーキ」

 なにオーダーしちゃってるの、わたし!?
 美緒がそう思ったときにはもう、安藤は笑いながら頷いてしまっていた。

「わかった。飲み物はミルクイチゴは用意できないから、コーヒーか紅茶で勘弁してくれ」
「え、あ、あの……」
「っと、もう昼休み終わるな……それじゃ、放課後。よろしくな!」

 安藤は立ち上がり、階段ホールへと歩き出す。
 美緒は呆然とその背中を見送るしかできなかった。
 まだ手元に、アルトレーネのマニュアルが残っている。
 返さなくちゃ。
 あ、でも、放課後でいいのか……。
 放課後。
 それを意識した瞬間、美緒の心は沸騰した。
 顔が真っ赤になっていることを自覚する。
 顔どころか体中から火が吹き出しそうだ。
 あまりに急転直下、超絶怒濤の展開に美緒の思考は吹っ飛んでいた。

(これって、どういう夢なのーーーーーーーっつ!!?)







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