紅で彩られた凶悪を体現したようなディスデモニア。
ネメシスの蒼く輝く鎧は戦乙女を思わせる。
開始を告げる合図は鳴り両者が激突した。
ネメシスの蒼く輝く鎧は戦乙女を思わせる。
開始を告げる合図は鳴り両者が激突した。
ネメシスとディスデモニアの闘いが始まり熱狂に包まれているはずの地下賭博闘技場、しかし今この時、熱狂とは無縁の静寂が支配していた。
開始から三分、ネメシスに宣言していた時間が過ぎディスデモニアは焦っていた。
自分はどこで何を間違えた。
始まりか?いやいつも通り最初から接近し攻撃を始めた。ならなぜ攻撃が当たらない。どうして全て簡単に避けられる?
攻撃の仕方が悪いのか?いや、今まで一度もこうまで危険な状況に陥ったことなどなかった。
ならばなぜ、なぜ自分はここで無様に息を切らし、攻撃を数度受けただけで膝をついている。どうして相手を見上げているのだ。
死合は一方的な運びだった。
重武装を超えた超重武装を身に纏い、猛撃と呼ぶに相応しいディスデモニアの一撃必死の攻撃を、高速を超える神速を実現する為の防御を考慮しない必要最低限の武装を身に纏ったネメシスが舞い踊るかのように避け、攻撃と攻撃の隙間に反撃する。攻撃に当たることなく攻撃するまるで理想を現実化したかのような完璧な行動はクロエのデータ採取に大いに貢献していた。
『ネメシスもう良いよ。データは採れた。あとは好きにしてくれ』
「了解しました。ですがここは良い場所ではないのですぐに終わらせます」
「すぐに終わらせる・・・だと?・・・舐めるなぁぁぁっぁぁぁぁ!」
ディスデモニアの突撃、足元のスクラップを巻き上げながら超重量級装備を纏っているとは思えない速度の突撃は当たればこの状況を、ブラックロンドの女王として屈辱的なこの状況を覆すに十分な威力を秘めている。
しかしネメシスは表情を変えることなく両刃の剣を眼前に構え、ディスデモニアを迎え撃った。
「砕け散れ!」
ネメシスとディスデモニアが交差する刹那の瞬間、ネメシスが跳躍し高速で突き進むディスデモニアの上をとった。上を取ったネメシス、上を取られ驚愕するディスデモニア両者の視線が交わった。
「何なんだお前」
ネメシスは何も答えず、剣を振り下ろした。
車同士の交通事故の様な重く鈍い衝撃音が響いた。壁際の発信源にはディスデモニアの姿だけがあった。
突撃をかわしたネメシスの手にはあってはならないモノが、ディスデモニアになければならないモノがその手に掴まれていた。
『デモニア!』
ディスデモニアのオーナーの叫びが空しく響く、ネメシスの手に握られたモノそれは機能を停止した神姫の頭部、ディスデモニアと交差した一瞬で頭部を切り落とした頭部が握られていた。
『良くやったネメシス』
「お褒めに預かり光栄ですクロエ」
静まり返っている場内、それに背を向け歩き出すネメシス。少々遅れネメシスの勝利を告げるコールが上がった。
それからクロエ達は隠れ蓑として神姫チーム『オルデン』を旗揚げする。そしてネメシスはブラックロンドで100連勝という前人未到の記録を打ち立て計画の終了と共に姿を消す。
開始から三分、ネメシスに宣言していた時間が過ぎディスデモニアは焦っていた。
自分はどこで何を間違えた。
始まりか?いやいつも通り最初から接近し攻撃を始めた。ならなぜ攻撃が当たらない。どうして全て簡単に避けられる?
攻撃の仕方が悪いのか?いや、今まで一度もこうまで危険な状況に陥ったことなどなかった。
ならばなぜ、なぜ自分はここで無様に息を切らし、攻撃を数度受けただけで膝をついている。どうして相手を見上げているのだ。
死合は一方的な運びだった。
重武装を超えた超重武装を身に纏い、猛撃と呼ぶに相応しいディスデモニアの一撃必死の攻撃を、高速を超える神速を実現する為の防御を考慮しない必要最低限の武装を身に纏ったネメシスが舞い踊るかのように避け、攻撃と攻撃の隙間に反撃する。攻撃に当たることなく攻撃するまるで理想を現実化したかのような完璧な行動はクロエのデータ採取に大いに貢献していた。
『ネメシスもう良いよ。データは採れた。あとは好きにしてくれ』
「了解しました。ですがここは良い場所ではないのですぐに終わらせます」
「すぐに終わらせる・・・だと?・・・舐めるなぁぁぁっぁぁぁぁ!」
ディスデモニアの突撃、足元のスクラップを巻き上げながら超重量級装備を纏っているとは思えない速度の突撃は当たればこの状況を、ブラックロンドの女王として屈辱的なこの状況を覆すに十分な威力を秘めている。
しかしネメシスは表情を変えることなく両刃の剣を眼前に構え、ディスデモニアを迎え撃った。
「砕け散れ!」
ネメシスとディスデモニアが交差する刹那の瞬間、ネメシスが跳躍し高速で突き進むディスデモニアの上をとった。上を取ったネメシス、上を取られ驚愕するディスデモニア両者の視線が交わった。
「何なんだお前」
ネメシスは何も答えず、剣を振り下ろした。
車同士の交通事故の様な重く鈍い衝撃音が響いた。壁際の発信源にはディスデモニアの姿だけがあった。
突撃をかわしたネメシスの手にはあってはならないモノが、ディスデモニアになければならないモノがその手に掴まれていた。
『デモニア!』
ディスデモニアのオーナーの叫びが空しく響く、ネメシスの手に握られたモノそれは機能を停止した神姫の頭部、ディスデモニアと交差した一瞬で頭部を切り落とした頭部が握られていた。
『良くやったネメシス』
「お褒めに預かり光栄ですクロエ」
静まり返っている場内、それに背を向け歩き出すネメシス。少々遅れネメシスの勝利を告げるコールが上がった。
それからクロエ達は隠れ蓑として神姫チーム『オルデン』を旗揚げする。そしてネメシスはブラックロンドで100連勝という前人未到の記録を打ち立て計画の終了と共に姿を消す。
時を現代に戻そう。
シュバルツバルト店内には重い雰囲気が流れていた。誰もクロエ以外口を挟むことが出来ない。
「――結局、兵器と呼ぶに堪える神姫は完成しなかった。ネメシスは神姫としては次元の違う強さを誇った。だがその枠から大きく外れる事は出来なかったんだ。計画は凍結し僕達は解散、それからすぐにリオラの姉であるメティスは交通事故で亡くなった」
沈黙、晶はクロエの過去を知り何も言えなかった。聞きたいことはたくさんあるけれど聞けない。それをエリアーデが代弁するように聞く。
「それで、どうしてリオラはクロエを追ってきたのかしら?」
「それは僕がメティスを失った事に耐えきれなかったから……僕は逃げたんです。彼女が死んだのが辛くて信じられなくて認められなくて彼女との何もかもが詰まった場所から逃げたんです。だから」
そこから先をクロエは口にしなかった。まるで何かに祈る様にうつむき、冷めた珈琲が入ったカップを両手で握りしめる。なんと弱い姿だろう。晶の知る限りこんな弱いクロエを見た事はなかった。いつも漂々として笑みを浮かべ実体を掴ませない。
「なら…決着をつけないといけませんね」
晶の一言にクロエが顔を上げた。
「…決…着…?」
「そうです。クロエさんは『逃げた』って言ったじゃないですか、『逃げた』なら決着をつけないと。クロエさん、私は逃げる事は別に悪い事じゃないと思います」
「どうして?」
「今すぐ解決できる事はした方が良いと思います。でも時間を掛けないと出来ない事もあると思うんです。辛くて悲しくて心が張り裂けそうな事は逃げてもいいと思うんです。でも逃げ続けるのは駄目です。そうじゃないと彼女が、メティスさんがあまりにも悲しすぎます。大事な事を過去にするのはとても辛いです。でもいつまでも過去を引きずり続けるのはもっと辛い、彼女の存在は悲しいだけの存在なんですか?クロエさんを呪いの様に縛り付ける存在なんですか?私は話を聞いただけでメティスさんがどういう人なのか知りません。でもクロエさんにとってそうじゃないなら背負ってください。楽しかったことや嬉しかった事、そして悲しい事全てを背負って前を向いてください。置き去りにするんじゃなくて一緒に前に歩いてください」
うつむくクロエ、その姿に晶が我に返った。
「あっ、ごめんなさい。私何言ってるんでしょうね」
彼女が、メティスが悲しいだけの存在?呪いのような存在?違う。そうじゃない彼女はそんな負の塊なんかじゃない、彼女をそんなものに変えようとしていたのは自分だ。あぁなんて簡単な事を忘れていたんだろう。彼女ならきっと笑ってこう言うだろう『私もアンタの未来に連れて行け』と
「はは、あっはははははははっ」
クロエが突然笑い出した。声を出して、涙を流しながら、やっとメティスの笑顔を思い出した。メティスが死んでからやっと思い出した、ずっと思い出せなかったメティスの笑顔を思い出せたのは晶のおかげだ。
突然笑い出したクロエに、晶が恐る恐る声を掛ける
「あ、あのクロエさん?どうしました?まさか怒ってます?ご、ごめんなさい!私なんかがっ!?」
晶の身体が強張る。まるで頭の先からつま先まで一本の棒を入れられたように直立不動した。それもそうだ。自分が憧れ好意を抱いている男にいや、人生で初めて男に抱き締められたのだから。
「ありがとう。晶さんのおかげです。晶さんの言葉でようやく彼女の笑顔を、全てを思い出せた。ありがとう」
自ら絡めた呪縛を解いてくれた晶に心の底からの感謝を述べる。
「いえっ、あの、そんな・・・」
晶との抱擁を解くと、エリアーデを見た。迷いのない澄んだ瞳で。それを臆することなく正面から受け止める
「エリアーデ、僕は闘うことを決めたよ。君はどうする?闘うという事は君は・・・」
「それ以上言わなくて結構ですわ。それに私は貴方の神姫ですのよ?たとえ相手が誰でもマスターの障害となるのであるならば打ち倒すのみですわ」
「ありがとう」
これで闘える。もう迷いはない。過去との決着を着ける時が来た。
シュバルツバルト店内には重い雰囲気が流れていた。誰もクロエ以外口を挟むことが出来ない。
「――結局、兵器と呼ぶに堪える神姫は完成しなかった。ネメシスは神姫としては次元の違う強さを誇った。だがその枠から大きく外れる事は出来なかったんだ。計画は凍結し僕達は解散、それからすぐにリオラの姉であるメティスは交通事故で亡くなった」
沈黙、晶はクロエの過去を知り何も言えなかった。聞きたいことはたくさんあるけれど聞けない。それをエリアーデが代弁するように聞く。
「それで、どうしてリオラはクロエを追ってきたのかしら?」
「それは僕がメティスを失った事に耐えきれなかったから……僕は逃げたんです。彼女が死んだのが辛くて信じられなくて認められなくて彼女との何もかもが詰まった場所から逃げたんです。だから」
そこから先をクロエは口にしなかった。まるで何かに祈る様にうつむき、冷めた珈琲が入ったカップを両手で握りしめる。なんと弱い姿だろう。晶の知る限りこんな弱いクロエを見た事はなかった。いつも漂々として笑みを浮かべ実体を掴ませない。
「なら…決着をつけないといけませんね」
晶の一言にクロエが顔を上げた。
「…決…着…?」
「そうです。クロエさんは『逃げた』って言ったじゃないですか、『逃げた』なら決着をつけないと。クロエさん、私は逃げる事は別に悪い事じゃないと思います」
「どうして?」
「今すぐ解決できる事はした方が良いと思います。でも時間を掛けないと出来ない事もあると思うんです。辛くて悲しくて心が張り裂けそうな事は逃げてもいいと思うんです。でも逃げ続けるのは駄目です。そうじゃないと彼女が、メティスさんがあまりにも悲しすぎます。大事な事を過去にするのはとても辛いです。でもいつまでも過去を引きずり続けるのはもっと辛い、彼女の存在は悲しいだけの存在なんですか?クロエさんを呪いの様に縛り付ける存在なんですか?私は話を聞いただけでメティスさんがどういう人なのか知りません。でもクロエさんにとってそうじゃないなら背負ってください。楽しかったことや嬉しかった事、そして悲しい事全てを背負って前を向いてください。置き去りにするんじゃなくて一緒に前に歩いてください」
うつむくクロエ、その姿に晶が我に返った。
「あっ、ごめんなさい。私何言ってるんでしょうね」
彼女が、メティスが悲しいだけの存在?呪いのような存在?違う。そうじゃない彼女はそんな負の塊なんかじゃない、彼女をそんなものに変えようとしていたのは自分だ。あぁなんて簡単な事を忘れていたんだろう。彼女ならきっと笑ってこう言うだろう『私もアンタの未来に連れて行け』と
「はは、あっはははははははっ」
クロエが突然笑い出した。声を出して、涙を流しながら、やっとメティスの笑顔を思い出した。メティスが死んでからやっと思い出した、ずっと思い出せなかったメティスの笑顔を思い出せたのは晶のおかげだ。
突然笑い出したクロエに、晶が恐る恐る声を掛ける
「あ、あのクロエさん?どうしました?まさか怒ってます?ご、ごめんなさい!私なんかがっ!?」
晶の身体が強張る。まるで頭の先からつま先まで一本の棒を入れられたように直立不動した。それもそうだ。自分が憧れ好意を抱いている男にいや、人生で初めて男に抱き締められたのだから。
「ありがとう。晶さんのおかげです。晶さんの言葉でようやく彼女の笑顔を、全てを思い出せた。ありがとう」
自ら絡めた呪縛を解いてくれた晶に心の底からの感謝を述べる。
「いえっ、あの、そんな・・・」
晶との抱擁を解くと、エリアーデを見た。迷いのない澄んだ瞳で。それを臆することなく正面から受け止める
「エリアーデ、僕は闘うことを決めたよ。君はどうする?闘うという事は君は・・・」
「それ以上言わなくて結構ですわ。それに私は貴方の神姫ですのよ?たとえ相手が誰でもマスターの障害となるのであるならば打ち倒すのみですわ」
「ありがとう」
これで闘える。もう迷いはない。過去との決着を着ける時が来た。