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ウサギのナミダ

ACT 1-28



 マスターは家に帰るまで、ずっと無言だった。
 胸ポケットの中で、やっと落ち着いたわたしは、マスターの顔を見上げる。
 マスターはいつも真剣な表情の人なのだけれど、なにかいつも以上に脇目も振らない様子だった。
 すでに夕闇が迫っている。
 足早に帰宅を急ぐ。
 マスターが何をそんなに急いでいるのか、このときのわたしにはまだ分かってはいなかった。

 家に着いて、マスターがまずしたことは、わたしをクレイドルに座らせることだった。
 わたしは素直にクレイドルに座った。
 わたしは少し沈んだ思いで、マスターの指示を待つ。

 今日のわたしを、マスターはどんな風に思っただろうか。
 雪華さんとの試合の後、なし崩しに騒ぎになってしまって、マスターとお話する時間もなかった。
 あの時、わたしは感情の高ぶるままに言葉を口にした。
 そんなことは初めての経験で、今のわたしは自分の行動にとても驚いている。
 マスターはとても驚いていた。でも、わたしは言葉を止めることができなかった。
 分かってもらいたい、それを伝えなければいけないと思うほどに、強い想いだった。
 それは後悔していないけれど。
 マスターがどう思ったのか、それだけは気がかりだった。

 マスターは、カップに飲み物を入れて、机の前へとやってきた。
 いつものようにPCの電源を入れると、椅子に腰掛ける。
 クレイドルに座るわたしと向かい合う格好になる。
 カップを机におく。
 そして、軽く吐息をついた。

「さて……どこから話そうか、考えていたんだが……」

 マスターはいつものように、真っ直ぐわたしを見た。
 だけど、無表情じゃない。
 どことなく優しげな、落ち着いた表情で、でも瞳にはなにか決意のようなものを秘めているように見えた。

「ティア……お前に分かるかな……どうしても欲しいものが、どうしても手に入らないときの苦しみってやつが」

 え?
 マスターは何を話しているんだろう。
 わたしは目をぱちくりとさせて、マスターを見る。
 マスターはあまり表情を変えないまま、優しい口調で、ゆっくりと話し始めた。

「俺はもうずっと……お前と会うずっと前から、武装神姫のオーナーになりたかった。
 バトルロンドを始めたくてな。
 神姫に興味を持ったのは、お前も会ったことのある、海藤とアクアを見てからだ。
 ……そうだな。今回の件の報告も兼ねて、今度会いに行くか。
 海藤とは高校の頃から仲が良くて、違う大学に進学しても、よく会ってた。
 もっぱら俺があいつの家に行ってたんだけど。
 そのたびに、海藤とアクアの仲の良さを見せつけられてな……俺だけじゃなくて、他の友人たちも神姫に興味を持ったというわけさ」

 マスターは独り言を言うように話を進めていく。
 これは……この話は、マスターの本当の想い……。

「それからずっと……探していたよ、俺の神姫を。
 友達が次々と神姫のオーナーになっていく中で、俺は神姫を迎えられずにいた。
 あちこちのショップにも行った。
 神姫センターにも行って、バトルロンドの観戦もしたし、そこで興味が出た神姫のパッケージも手に取った。
 新発売の神姫の情報はくまなくチェックした。
 メーカー展示会に気になった神姫を見に行ったりもした。
 ネットオークションで安く出回ってるパッケージ品もチェックしたし、ネットショップの掘り出し物も何度もチェックした。
 ……海藤の家でアクアを見てから、お金を握りしめてホビーショップに行ったことだって、一度や二度じゃない。
 それでも……それでも俺は、神姫を買うことに踏み切れなかった」

 マスターの寂しそうな表情。
 その時の気持ちを、思い出しているのだろうか。

「なぜ、ですか?」

 わたしは尋ねた。
 もちろんその時に、マスターが神姫をお迎えしていたら、わたしは今こうして、マスターと話をしていることもないのだけれど。

「どうしても……納得が行かなかった。
 どの武装神姫のパッケージを手にしても……これが俺の神姫だって、思えなかった。
 だから、どんなに神姫マスターになった友達が羨ましくても……俺は神姫を迎えられなかったんだ。
 どうしても、自分が心から納得の行く神姫がほしかったんだ」

 マスターはわたしを見つめながら、かすかに苦笑した。

「その頃の俺の気持ち……分かるかな……。
 武装神姫のオーナーになりたくてなりたくて……狂おしいほどに神姫が欲しくてさ。
 そのくせ、どこを探しても、自分の神姫が見あたらないんだ。
 すでに発売されているものなら、探しようもある。プレミアついていたって、お金を出しさえすれば手に入る。
 でも……この世にいるかどうかもわからない『自分が納得の行く神姫』を探すなんて……雲を掴むような話だ。
 探して探して……必死で探しても見つからなくて……あの何とも言えない、焦りというか渇きというか……そんな、胸をかきむしりたくなるような焦燥感が、いつも心にあってさ……。
 神姫の情報を集めたり、見たりするのは楽しいのに、それが欲求を逆撫でして苦しくなるような……そんな感覚に苛まれる。
 友達はみんな神姫マスターになって、楽しそうに、幸せそうにしていてさ。
 それで俺はまた焦りと羨ましさにかられて……その繰り返しさ」

 マスターは自嘲するように笑う。
 ……知らなかった。
 マスターが武装神姫にそんなに強い想いを抱いてたなんて。
 わたしは呟くように話すマスターの顔から、目が離せなくなっている。

「……あの夜……お前と出会ったあの夜、俺は飲み会の帰りだった。
 気心知れた仲間たちとの飲み会だったんだけど……俺はちょっと機嫌が悪くなった。
 神姫マスターになった連中は、口をそろえて言いやがる。
『そんなにこだわって選んでないで、とりあえずお迎えしてみればいいじゃないか』ってな。
 連れてきた神姫と笑いながら……そう言うんだ。
 腹立たしかったよ。
 とりあえず、ってなんだよ。大切なパートナーを選ぶのに、こだわるのが当たり前だろう。
 でも結局、俺は神姫マスターでない時点で、仲間たちの言葉に反論もできなかった。ただ、苦笑するしかなかったんだ」

 そう言うマスターの表情は、少し悔しそうだった。
 その時の感情を思い出しているのだろうか。
 そして、マスターは言った。

「その後で……お前に出会ったんだ……」

 ものすごく、安心したような、優しい顔をして。
 見たことない、そんなマスターの顔。
 わたしはかえって緊張してしまう。

「ゴミ捨て場で、あいつが……井山が何か悪態ついて捨てたのを、たまたま見かけたんだ。
 ゴミのポリ袋の上でうめいていたのがお前だった。
 見た瞬間に『ああ、これが俺の神姫だ』って思った。
 当たり前みたいに……いや、衝撃的だったかな。どうだろう。
 ただ、これが運命なんだって思ったんだ。
 ……いや、違う。格好つけすぎだな。
 たぶん、お前に、一目惚れしてしまったんだ」

 照れくさそうに笑うマスター。
 今日のマスターはいつもと違う。
 まるで菜々子さんと話すときのように、くるくると表情が変わる。

「それでお前を連れて帰ってきた。
 クレイドル買ってきて、充電して、メンテナンス用のソフトをPCにセットアップして……舞い上がっていたと思う。
 俺の神姫がやっと手元に来た、ってな。
 お前の記憶を見て……俺も一瞬ひるんだ。それでも、お前を自分の神姫にしたい気持ちは変わらなかった。
 これが運命でなくて何だ、って思ったよ。
 ……そしたらさ、目覚めたお前が言うんだよ。
『わたしをお店に戻してください』
 って」

 ……あ。
 思い出した。
 あの時わたしは、自分のマスターになりたいというこの人に、そう願ったのだ。
 あの時、マスターはわたしにものすごく怒ったけれど。
 わたしはなんで怒られるのか、よくわからなかったけれど。
 いまなら分かる気がする。

「そりゃないだろ。
 俺はやっと、やっとの思いで自分の神姫を見つけだしたって言うのに、地獄のような場所に返してください、じゃあさ……。
 そりゃあ怒りもするさ、俺でも。
 どうしても諦められなかった俺は、お前を言葉で丸め込んだ。
 お前が武装神姫になりたいかどうかなんておかまいなしで……俺が望む戦闘スタイルを押しつけた。
 さんざん練習させて、つらい思いもさせた。
 お前が俺のところから逃げられないのが分かっていて、そんなことさせていた」

 マスターの言葉に、何か違和感を感じる。
 わたしは……武装神姫になりたくなかった? マスターが望む戦闘スタイルが嫌いだった? 練習は、つらかった? マスターのところから逃げ出したかった?
 ちがう。
 ちがいます。
 わたしの想いとマスターの考えはすれ違っている。
 マスターは無理矢理わたしを武装神姫にしたというけれど。
 わたしがそう望むのなら、それは、無理矢理ではないんじゃないですか?

「……それでも、俺は嬉しかったんだ。
 自分だけの神姫と、俺たちだけの戦闘スタイルで、バトルロンドを戦えるのが。
 夢が叶った、と思った。
 久住さんや仲間たちにも出会えた。ゲームセンターで過ごす時間は……バトルロンドをプレイしている時は、本当に楽しかった。
 そんな時間をくれるお前に、ずっと、感謝していたんだ。
 でもな……心の底ではずっと思っていた。
 本当は、俺の楽しみのために、ティアを無理矢理戦わせているだけなんじゃないか、って。
 お前の自由を奪って、自分だけ楽しんでいるエゴイストなんじゃないかって」
「そ、そんなこと……ありません!」

 わたしはついに口を出してしまった。
 マスターの話を遮ってしまった。
 臆病な心が、顔を覗かせようとするけれど。
 でも、わたしは勇気を出して、言う。
 声が震えててもかまわない。
 言わなくちゃ。
 だって、マスターは間違っているから。

「わたしも……わたしも幸せでした。
 薄暗いお店しか知らないわたしに、世界を教えてくれたのはマスターです。
 わたしが知らなかった気持ちを……楽しい気持ちも、嬉しい気持ちも、風の心地よさとか、友達の優しさとか、技を自分のものにできたときの喜びも……全部全部、マスターがくれたんです」

 こんなに幸せでいいのかって、今でも思ってる。
 マスターは少し驚いたような顔をしていた。

「……そうなのか?」
「そうですよ」
「それなら……お前がそう思ってくれるなら、俺も救われるよ。
 俺はこの間思ったんだ。
 ……もし、バトルロンドができなくなったとしても、お前が走ることができれば、それでお前が喜んでいるのなら、それでいいって。
 何より大事なのは、お前がそばにいてくれることだってな」

 ほっとした表情で、そんなことを言った。
 やっとわかった、マスターの本当の気持ち。
 でも、わたしは以前から疑問に思うことがある。

「あの……」
「なんだ?」
「ほんとうに……ほんとうに、わたしなんかでいいんですか」
「わたしなんか、って言うな」

 いつもの言葉。
 でも、厳しいところは、表情にも口調にもなくて。
 優しく微笑んでいる。
 わたしに向かって。

「お前じゃなきゃ、だめなんだ」

 ……ああ。
 さっき言っていたマスターの気持ちが、いま、少しだけわかった気がする。
 欲しくて欲しくて、それでもどうしても手に入れられないもの。
 わたしにとって、それは、マスターの笑顔だった。
 いま、このマスターの笑顔こそ。
 わたしがずっと、欲しくて欲しくてやまなかったもの……。 

「でも……わ、わたしは……マスターに、とんでもない迷惑をかけてしまって……」
「迷惑なんて、いくらでもかければいい。それでもいいんだ」
「じゃ、じゃあ……手の甲をわたしに差し出すのは……?」
「お前、掴もうとすると怖がるだろ」
「……わたしの前で、表情を変えないのも……?」
「なんだ、気がついていたのか? 俺が表情を変えなければ、お前が不用意に怖がらなくてすむだろ」

 やっぱり。
 無表情のことは、この間、やっと気がついたのですけど。
 マスターは照れくさそうな顔をして、頭を掻いた。

「まあ……俺は元々、仏頂面だからな……」
「で、でも……マスターとわたしは、毎日顔を合わせてました。
 それなのに……ずっと無表情でいるなんて……」
「そんなの、お前が俺の神姫でいてくれるなら、大したことじゃない。
 いつかお前が俺のことを心から信じてくれたら……そうしたら、掴むことも許してくれると思ったし、笑いあうこともできるって……信じていた」

 そんな……。

「わたしは……ずっとマスターに笑って欲しいと思っていました」
「そうなのか?」
「そうですよ」

 マスターは苦笑する。

「そうか……俺たちはお互いに、お互いの笑顔を見たいと思いながら、ずっとずっと遠回りしてきたんだな……」
「……そうですね」
「なぁ、ティア……」

 マスターは不意に真剣な表情でわたしを見た。
 真っ直ぐな視線。
 この人は真っ直ぐにわたしを見てくれる。初めて出会ったときから、ずっと。

「俺の神姫で……いてくれるか?
 俺はバトルロンドを続けたいけど、お前が嫌だというならそれでもいい。
 こんなわがままで情けない男でも、マスターと認めてくれるか?」

 ……どうしてそんなに自信なさげなんですか?
 もう答えなんて、決まりきっていることじゃないですか。
 それをはっきりと伝える方法を、わたしは思いついた。

「マスター。手のひらを出してください」
「……? こうか?」

 マスターは怪我をしていない方の左手を、手のひらを上にして、わたしの前に出した。
 わたしはクレイドルから立ち上がり、マスターの手に歩み寄る。
 そして、その手の上に腰掛ける。
 ちょっと緊張したけれど、何も怖いことなんてなかった。
 この人を信じているから。
 マスターの親指に顔を寄せて、キスをした。

「これは……わたしの誓いです」

 顔を上げて、マスターを見る。驚いてる。
 わたしはうつむいてしまう。
 マスターの顔、まともに見られない。いまさら、とても恥ずかしくなって。

「わたしはあなたの神姫です。
 わたしのマスターは、世界でただ一人、あなただけだと……誓います」

 マスターの手はあたかかくて、心地いい感じがした。
 もう一度、マスターを見る。
 わたしの顔はこれ以上ないほど赤かったかも知れないけれど。
 マスターも、とても照れくさそうな顔をしていた。

 やがて、見つめ合うわたしたちは、どちらからともなく笑い始めた。
 マスターと初めて心から笑いあえた。
 ああ。
 わたしが一番欲しかったものが、今ここにある。


 長い長い一日の果てに。
 わたしは、本当の意味で、遠野貴樹の武装神姫になった。








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