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ウサギのナミダ

ACT 1-27



 ゲームセンターは大歓声に包まれた。
 東東京地区チャンピオンが繰り広げた死闘に誰もが興奮していた。
 純白の女王が、醜聞にまみれた神姫をうち負かした。
 ギャラリーの多くは、そんな英雄譚を目の当たりにしたと思っているのだろう。

 観客達の興奮をよそに、俺も高村も呆然としていた。
 あまりに劇的な結末に、思考がおいつかない。
 フィールドの映像が消える。
 死闘の舞台となった廃墟は消え去り、無機質な筐体の姿に戻る。
 アクセスポッドが軽い音を立てて開いた。

「……ティア」

 俺は自らの神姫に声をかける。
 ティアは立派に戦った。
 全国大会でも優勝候補と名高い、あの『アーンヴァル・クイーン』をあそこまで追いつめたのだ。
 せめてねぎらいの言葉をかけようと、アクセスポッドをのぞき込む。
 ティアは膝を抱えて、うずくまっていた。小さな肩が震えている。

「ティア……どうした」

 うるさいぐらいの歓声がいまだやまない。
 ティアは何か言っているようだが、俺の耳には届かない。

「お前はよく戦った。そんなに落ち込むこと……」
「……った」
「え?」
「勝ち……たかった……勝ちたかった、勝ちたかった! 勝たなくちゃダメだったんですっ!!」
「ティア……?」

 突然振り向いて叫びだしたティア。
 驚いた。
 こんなに感情をむき出しにしたティアを見たことがない。
 俺は気後れしながら呟くように言った。

「なんでだよ、こんなただの草バトル一つが……」

 ティアは大きく頭を振った。
 ティアの顔は泣き顔に歪んでいた。大きな涙が瞳から流れては落ちていく。
 いつもの可愛らしさは微塵もなかったが、感情を顕わにした表情が生々しくて、かえって美しかったかもしれない。

「だって……あのひとに勝てれば、証明できるから……マスターが正しいって、みんな認めてくれるはずだからっ……!!」
「……っ!」

 俺は言葉を失った。
 俺のため、だと?


「……マスターが作ったこのレッグパーツも、マスターが考えたこの戦い方も……クイーンに引けを取らないって。
 わたしがマスターに教えてもらったものは、なんの罪もなく、正しく、つよいんだって!」

 激しい口調で言い募っていたティアは、不意に顔を伏せた。
 静かな口調になりながら、なおも言葉を紡ぐ。
 俺は驚いた表情のまま、聞いていることしかできないでいる。

「……そうしたら、みんな認めてくれます、マスターのこと……。きっと、マスターのこと悪く言う人はいなくなる……わたしだけが汚いって、そう言われればいい……。
 嫌だったんです……マスターはわたしに優しくしてくれて、とっても優しくしてくれて……後ろ暗いことなんて何もしてないのに……だけど、だけど……わたしのせいで、みんながマスターを傷つける……そんなこと、耐えられなかったんです……」

 いつしか、歓声はなりを潜めていた。水を打ったように静まり、ゲーム機のデモ音だけが遠くから聞こえてくる。
 気がつけば、その場にいる観客達すべてが、ティアの言葉に耳を傾けているようだった。

「だけど、わたしにはできることもなくて……マスターに返せるものも、なにもなくて……。
 だから、雪華さんとのバトルは、わたしにとっては最初で最後のチャンスだったんです。
 彼女ほどの強くて有名な神姫にわたしが勝てれば、みんながマスターを認めてくれるはず……だから、どうしても、マスターを勝たせてあげたかった……でも!」

 透き通った滴は、次から次へと、ティアの瞳から生まれては落ちていく。
 ティアの心から溢れ出した、悔しさや悲しみや情けない気持ちが、まるで形になっているかのように。

「負けてしまった……わたし、マスターの言いつけを破ってまで、雪華さんと戦ったけど、負けてしまいました……。
 ……ごめんなさい、マスター。ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ……」

 もう、そこから後は声にならなかった。
 ティアは泣きじゃくって、何度も何度も瞳を手でこするが、そのたび涙がこぼれてきて止まらなかった。



 ティアのすすり泣く声だけが、店に響いていた。
 誰もが押し黙り、居心地を悪くしながらも、泣きじゃくる神姫から目が離せずにいる。
 そんな静寂を甲高く小さな足音が破った。
 カツン、カツンと、規則正しく鳴り響く。
 雪華だった。
 彼女はアクセスポッドから出ると、筐体を横切ってティアに近づいていく。
 その顔は平常と変わらず、誇りと決意に満ちていた。
 誰もが、マスター達すら身動きが取れずにいる空気の中、彼女だけが決然とした歩みを進めていく。
 ティアのアクセスポッドの前にやってくると、歩みを止めた。
 ティアもその気配を察し、涙をボロボロとこぼしながら、雪華の方を振り向いた。
 雪華と目が合う。
 すると、雪華は真剣かつ厳しい表情で、ティアを見つめた。
 何をするのか、その場にいる全員が緊張して見つめている中で。
 なんと雪華は、その場で膝を地について、右手を胸に当てて、ティアに礼の姿勢を取ったではないか。
 『クイーン』の二つ名を持つ誇り高き神姫が、自ら膝を折り、最上級の敬意を払っているのだ。
 そしてさらに。

「ティア……わたしの負けです」

 その場にいた人々、そして神姫達の間に動揺が走った。
 いや、誰よりも驚いていたのは、雪華のマスター・高村かも知れない。
 大きく目を見開いて、雪華の背をみつめている。
 あの誇り高い神姫が、ジャッジAIの判定を自ら覆し、敗北を認めたのだ。
 そんな周りの様子など目にも入らないかのように、真剣な顔つきで、それでいてとても優しい声で、雪華は続けた。

「わたしも、今の戦いの中で疑問に思っていました。たかが草バトル。どうしてあなたはそうまでして戦うのか、と。
 でも、そんなことは考えるまでもない、当たり前のことでした。
 マスターのために戦う。
 それは、わたしたち武装神姫にとって、もっとも根元的で、もっとも尊い思いです。
 わたしは、強くなることにこだわるあまり、そんな当たり前のことさえ気がつかなかったのです。
 その思いこそが、一番大切な支えであることすら忘れて……」

 雪華はティアから視線を逸らし、うつむいた。
 美しい顔に苦渋が滲んでいる。 

 「ティア……わたしは恥ずかしい。
 あなたの大切な戦いを、たかが草バトル、とあなどっていました。
 ……思い上がっていました。
 わたしこそ、武装神姫としてあるまじき存在です。
 どうか……お許し下さい」

 雪華はさらに頭を深く下げる。
 ティアはしゃくりあげながら、あわてた様子で声をかける。

「そんな……ひっく、せつかさ……かお、あげて……ひっく、えぐ」

 一拍の間をおいて、雪華がゆっくりと顔を上げた。
 そして、再びティアをまっすぐに見つめて言う。

「武装は神姫のアイデンティティ、技はマスターとの絆」

 雪華の赤い瞳に、泣きはらしたティアが映っている。

「あなたは武装ではなく、技を持ってわたしと渡り合った。そして、わたしをギリギリまで追いつめた。公式戦でも、あそこまで追いつめられたことはありません。
 あなたとマスターの絆こそがあなたの強さ。
 ならば、あなたのマスターは、正しくそして強い。少なくとも、このわたしを負かすほどに」

 雪華の声は真剣そのものだった。
 雪華は心からティアを賞賛し、自らの敗北を当たり前の事実として受け止めているようだった。

「そして、ティア。武装神姫として、誰よりもあなたを尊敬します。
 そんなあなたと、わたしはライバルであり、友達でありたいと思っています。
 もし、許されるのであれば……わたしなどでよければ……認めてくださいますか?」



 雪華さんの言葉に、わたしは驚いて目を見開いた。
 とんでもないことだった。畏れ多いことだった。
 泣くことすら忘れて、首を横に振った。

「だ、だめですっ……そんな、わたし、みんなからなんて言われているか……雪華さんに迷惑がかかります……っ」
「いいえ」

 彼女はゆっくりと立ち上がると、アクセスポッドに身を乗り出した。
 そして、優しく、強く、わたしをを抱きしめてくれた。

「迷惑なんてかかりません。誰がなんと言おうと関係ない。あなたと戦った神姫ならみんな分かっているはずです。あなたは素晴らしい神姫であると」

 雪華さんは断言する。

「そんなあなたを育てたマスターは間違ってなどいない。正しく、理想のマスターであると思います」

 ……わたしは雪華さんの胸にすがりついた。
 もう止まらなかった。
 大きな声で、子供のように泣きじゃくった。
 伝わった。
 わたしの大切な思い、このひとには伝わった。
 マスターのこと、わたしのこと、信じてくれた。
 ありがとう、と。
 口に出そうとしたけれど、うまくいかなかった。



 バトルロンドのコーナーは喧噪に包まれている。
 俺たちがバトルしていた筐体の周りに人が集まり、いまだ誰もバトルを始めようとはしない。
 誰もが今のバトルの話に夢中だった。
 筐体の上では、ギャラリーしていた神姫たちが集まり、ティアと雪華をもみくちゃにしていた。
 そんな中、俺は考え事をしながら、のろのろと片づけを行っていた。
 すると、筐体の向こうから、にこやかな笑顔がやってきた。

「ナイスファイトでした」

 高村が俺に左手を差し出す。
 俺は椅子から立ち上がると、彼の左手を取って握手した。
 俺の右手は、いまだ包帯が巻かれている。

「……こちらこそ。……変な幕引きになってしまって、すまない」

 俺が頭を下げると、高村はゆるゆると首を振った。

「いいえ……僕たちには実りの多い幕引きでした。価値ある敗北だったと思います」
「敗北? 君たちの勝ちだろう?」
「いえいえ。雪華が負けを認めたのです。彼女の意志は、マスターの僕であっても覆せない」

 高村の笑顔からはそれ以外の意志は読みとれなかった。
 雪華は自分の意志を曲げないし、頑として譲らないらしい。相手がマスターであっても。
 誇り高いというか、融通が利かないというか……。

「でも、雪華も少しは考え方を変えるでしょう。
 いままでの雪華は、試合に勝つことを一番に考え、それこそが強くなることだと思ってきました。
 でも、今日、それでは計り得ない強さがあることを知った。
 あなたたちのおかげです。ありがとう」

 高村は素直に頭を下げた。
 俺の方こそ恐縮してしまう。

「……試合前は、失礼なことを言って、すまなかった。
 俺たちとバトルすれば、君たちが中傷されるかも知れないと思った。
 だから、バトルを断るつもりで……あんなことを言ったんだ。
 本当にすまない……三枝さんも、すみませんでした」

 俺が謝罪して頭を下げると、三枝さんは驚いていた。
 まあ、あれだけ嫌味を含めて断っていたのだから、信じられないのも無理はないと思う。
 高村は、やはり笑って、

「わかってますよ」

 と頷いた。
 そんな彼に、俺は思っていたことを口にする。

「高村……今度、もう一度バトルしてもらえないか? それから、もっとゆっくり話がしたい。今日はずっと変な流れで、俺自身、納得がいっていないから……」
「喜んで」

 高村はポケットから名刺を取り出すと、俺に差し出した。

「僕の連絡先です。気が向いた時にでも連絡してください」
「ありがとう」

 俺は素直にそれを受け取った。
 必ず連絡しよう。高村とも雪華とも、話したいことがたくさんある。
 そして、今度は何のしがらみもなくバトルがしたい。
 その時のティアも雪華も、きっと今とは違っているだろう。同じバトルにはきっとならない。

「……だけど、再戦したら、秒殺されそうだ」
「それはないでしょう。だって、あなたは雪華用の戦略をすでに考えているでしょう?」
「ちがいない」

 俺と高村は笑った。彼に笑いかけたのは、これが初めてのような気がする。
 俺はつくづく失礼な奴だ。
 だが、許して欲しいと思う。俺たちを取り巻く問題が一応の解決を見たのは、今朝の話だったのだから。
 そして、気がついていた。
 俺にはまだやらなければならないことがあった。



 虎実は、筐体での喧噪には混じらず、大城の肩の上で一人物思いに耽っていた。
 ティアは、一戦交えたときから、虎実の憧れであり、目標だった。
 いつもオドオドした態度にいらつくこともあったが、バトルでの彼女を純粋に尊敬していた。
 虎実はいつもティアを無視していた。
 自分が決めた最大のライバルとなれ合うのはごめんだと思っていた。
 だけどそれは、彼女の素直でない性格からくる考えだった。
 今日のバトルを見て、虎実は思った。
 やはり、自分の目に狂いはない。ティアはすごい神姫だった。
 クイーンの最大攻撃をかわせる神姫なんて、他にいるはずがない。
 そして、雪華がティアに「友達になってほしい」と言ったとき。
 虎実は自分の気持ちに気がついた。
 そう、友達になりたかったのだ。
 ティアに自分を認めてもらいたかったのだ。
 自分がティアにとって、胸を張って友でありライバルであると言える神姫だと、そう思って欲しかったのだ。
 だから、納得のいく自分になったときに、バトルしてもらいたいのだ。
 自分のすべてを見てもらうために。
 虎実は雪華がうらやましかった。妬ましくて仕方がない。
 でも、虎実は自覚する。自分はあの二人の足下にも及んでいない、と。

「なあ、アニキ……」
「ん?」
「アタシ……トオノにあんなえらそうなこと言ったけど……ティアと戦う資格、あんのかな……」

 ミスティにはその資格があると思う。このゲーセンで実力を示し、三強をもひとにらみで黙らせる。
 その実力を持って、今日、遠野とティアをここに招いたのだ。
 悔しいが、認めざるを得ない。
 それに比べて虎実は、やっとランバトの上位に食い込んだところだ。
 だが。

「……ばっかじゃねぇの?」

 彼女のマスターである大城は、呆れた声で言った。
 虎実は大城に振り向く。

「資格とか、そんなもの、必要なモンかよ。
 バトルロンドは、お前が考えてるほど堅苦しくないぜ?
 バトルやりたきゃ、遠野にそう言えばいい。
 そんなこと考えてるのはよ、虎実、お前だけだ。
 意地っ張りはやめて、ティアとバトルしたいって、言えばいいんだよ」

 虎実は大城の言葉にむっとした。
 でも、反論できなかった。アニキの言うことは正しい。
 結局、虎実の意地っ張りな性格が、素直な気持ちに邪魔をしているだけなのだ。
 それでも、と虎実は思う。
 それでも、納得のいく自分になって、ティアに挑みたい。
 その気持ちは本当だった。
 もしかすると、納得のいく自分になるために、ティアを目標にしているのかも知れない。

「それでも……やっぱり、自分に納得がいってから、ティアと戦いたい。
 そうじゃなきゃ、またはじめの時みたいに、悔しい思いをすると思う」

 それは約束だ。
 あの日、遠野に必死でお願いをした、約束。
 遠野は約束を守って、ティアをバトルロンドに連れ戻してくれた。
 その約束を守るためにも、半端な自分ではだめだ。
 虎実は決意を新たにする。
 納得いくまで、自分のスタイルをつきつめよう、と。そして強くなろう、と。
 大城はため息をついたようだったが、気にもならなかった。



 バトルロンドコーナーでの喧噪が、ようやく収まってきた頃。

「ティア、帰るぞ」

 頃合いを見計らい、俺はティアに手の甲を差し出す。
 ティアはまだしゃくりあげながら泣いていた。
 そばにミスティがついていて、まわりを四人のライトアーマーの神姫たちが囲んでいる。
 神姫たちはティアに道をあけてくれた。
 ティアはまだ震えながら、俺の手に乗る。
 ミスティたちは気遣わしげな表情で、俺を見た。
 俺の心に、彼女たちの優しさが染みた。
 ティアをこんなに思ってくれている仲間がいる。認めてくれている友がいる。
 そしてもう、それを捨てようなどと、俺たちは考えなくてもいいのだと。
 そんな小さな幸せを噛みしめる。
 俺が少しだけ笑顔を見せて頷くと、五人の神姫たちは華やぐように笑ってくれた。

 ティアを定位置の胸ポケットに収めて、俺は振り向く。
 そこには久住さんと仲間たちがいた。
 今回のことでは、久住さんには世話をかけっぱなしだった。
 本当に、感謝してもしきれない。
 今朝の事件の顛末も、話をしておきたいところだった。
 だけどその前に、今すぐに、俺はどうしてもやらなくてはならないことがあった。

「ほんとうは、ゆっくりお礼をしたいんだけど……」
「分かってる。また今度でいいから」
「ありがとう」
「……でも、連絡くれなかったら、承知しないわよ?」
「……肝に銘じておくよ」

 いたずらっぽくウィンクなんかした久住さんに、俺はドギマギしてしまった。
 同時に、「承知しない」の一言に肝を冷やし、後で絶対に連絡を入れようと固く誓った。
 俺はつくづく、久住さんに頭が上がらない。

 俺はまだにぎわっているゲームセンターから、みんなに隠れるようにして帰宅の途についた。
 高村と雪華との話もそこそこに、久住さんへの報告もそのままに、俺が急いで帰るのには理由がある。
 俺がティアのマスターとして、やらねばならないこと。
 さっきのティアの言葉で気づかされた。
 ティアを本当に俺の神姫にするために、それはきっと必要なことだった。
 だから俺は家路を急ぐ。
 あたりはもう夕暮れに赤く染まっていた。








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