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ウサギのナミダ

ACT 1-3


 乾いた風が吹き抜けて、廃墟に砂塵が舞う。
 その風をけちらし、砂塵をさらに巻き上げて、一台のトライクが猛然と走り抜ける。
 静寂は破られ、メインストリートに一筋、砂のシュプールが描かれる。
 無人の道を走り抜けるのは、イーダ・タイプの神姫・ミスティだ。
 大城の聞いた噂は正しかったらしい。
 確かにミスティは武装もイーダのものだった。
 ミスティがただのイーダではないのは、その脚の装備にある。
 通常のイーダ・タイプなら、脚はほぼノーマルで、トライク形態の時には、後輪を挟むように折り畳まれている。
 しかし、ミスティの脚はばかでかい脚部パーツに換装されていた。
 誰が見ても、ストラーフ・タイプの脚部強化パーツ「サバーカ」だった。
 もちろん、そんな巨大な脚部を機体後部に収めることはできず、後方に伸ばしている。

 観客から失笑が聞こえてくる。
 ミスティの装備はお世辞にもかっこいいとは言えなかった。
 あまりにも不格好で安易なパーツの組み替え。
 観客が皆、失笑する気持ちも分からないではない。
 隣の大城も、ご多分に漏れず、笑いを噛み殺していた。
 だが。

「ティア、そのまま路地を走りつつ様子を見ろ。決して油断するな」
『は、はい!』
「おいおい、遠野。なに臆病風に吹かれてるんだよ。あんな程度の武装なら、楽勝じゃないか」

 大城は笑いながら俺に言う。
 しかし、俺はどうしても、笑う気分になれなかった。
 こんな安易な組み替えのイーダ・タイプが、有名プレイヤーだというのなら……何かあると考えない方がおかしいではないか。
 俺は筐体の向こうにいる少女を見る。
 ミスティのマスター。
 彼女は今、観客たちの失笑など気にもとめずに受け流し、不敵な笑みを浮かべながらフィールドを見ている。
 絶対に何かある。
 だが、ミスティはひたすらにメインストリートを走り回るだけだ。
 あんなに派手に自分の居所を晒して、しかも一直線に走っているだけなら、やることは一つしかない。
 こちらから仕掛ける。
 しかし、この当たり前の行動に、俺は抵抗を覚えた。
 この状況は相手の思惑通りではないのか。いや、おそらくそうだ。
 ミスティは、明らかに誘っている。
 しかし、なにもしないのでは埒があかない。
 ならば、セオリー通りに攻めるのみ。

「仕掛けるぞ。路地を出て、ミスティの右後方から追撃。射程範囲に入ったら、迷わず撃て」
『はい!』

 高い返事とともに、ティアがメインストリートに躍り出る。
 両手を大きく振り、スピードスケートの選手のように疾駆する。
 みるみるとミスティとの距離は詰まってきた。
 ミスティの速度は変わらない。
 ティアは手持ちのサブマシンガンを準備する。
 射程距離に入る。
 その瞬間。
 ミスティが急ブレーキをかけ、フロントが沈み込んだ。
 サスペンションが限界まで沈み、その反発力でミスティの上体が跳ね上がった。
 上体を起こしざま、ミスティは脚を引き込みつつ、後輪を背部モジュールに畳み込んだ。
 俺に見えたのはここまでだ。
 轟音とともに巨大な砂煙が立ち上り、ミスティの姿を覆い隠す。

『きゃっ』

 ティアの小さな叫びが耳に届く。
 小さな瓦礫の破片が飛んできたようだ。
 ふと。
 俺の頭に閃く。危険、という言葉。

「ティア、右に避けろ!」

 俺の叫びと同時、明るい緑色の剛腕が砂煙の山の頂から突き出され、そのまま砂煙を裂いて振り降ろされた。
 スピードを落としてはいたが、ティアは高速域にいた。
 通常なら速度を落とさなければ回避動作が取れない。
 しかし、スピードを落とせば避けきれない。
 絶妙のタイミング。
 だが、ティアは両脚のランドスピナーを鮮やかに操ると、スピードを制御したまま直角に右にターンした。
 凶悪な爪がティアをかすめ、乾いた地面をえぐり取る。
 からくも逃がれたティアに、ミスティは追撃の手をゆるめない。
 ミスティの外側に逃げたティアに向け、副腕の影から手持ちのマシンガンを放つ。
 ティアの轍を追跡する弾痕。
 しかし、ティアは地を蹴り、通りに面する廃ビルの壁に着地、そのまま疾走した。
 ミスティには予想外の機動だったらしく、銃弾は壁を穿つことなく、地面に着弾する。
 ティアは壁を走りながら、ミスティを撃った。

「くっ」

 左副腕の付け根付近に命中。
 ミスティ本体へのダメージは軽微だが、瞬時ひるみ、攻撃が緩んだ。
 その一瞬を使って、ティアは路地の陰に飛び込んだ。



「やるわね……ミスティの『リバーサル・スクラッチ』をかわすなんて」 
『攻撃もすごいわ。壁を走りながらの射撃……あの子、わたしを見てなかった』
「ほんとに? あの軽装で、ロクなレーダーも積んでいなさそうなのに」
『リバーサルをかわして、壁を走って、見ないで攻撃を当てる……そこらにいる神姫じゃないわ』
「面白いわね」
『うん、面白い』
「それじゃあ、私たちも、魅せましょうか」
『そうね、教えてあげましょう。エトランゼの異名が伊達じゃないってこと』



「あ、あぶなかった……!」

 マスターの言いつけ通り、決して油断はしていなかった。
 だけど、ミスティさんの攻撃に自ら当たりに行くようなタイミングだった。
 マスターが避けろと言ってくれなかったら、わたしはあの大きな爪の餌食になって、勝敗は決していただろう。
 薄暗い路地を疾走する。
 今の攻撃を思い出すと、当たらなかったことが不思議で、恐怖に身がすくむ。
 その恐怖を振り払うように走る、走る。

『落ち着け。かすり傷さえ負っていないんだ』

 マスターの声が、わたしの耳に直接響く。
 試合の最中、マスターはヘッドセットからわたしに指示を送る。
 外からモバイルPCでモニターしてくれているマスターには、わたしの動揺が手に取るようにわかるのだろう。
 でも、今の一言で、わたしの中の焦りが嘘のように引いていった。
 わたしは闇雲に走るのをやめ、メインストリートを伺いながら路地を巡航する。

『ティア、何か気付いたことはなかったか?』

 マスターの言葉に、なにかが頭の片隅にひっかかった。

「そ、そういえば……」
『何だ』
「あ、でも、その……」
『いいから話せ。時間がない』
「その、ミスティさんの副腕、ひとりでに動いてるみたいに見えて……」
『副腕は普通、独立で……って、本当か?』
「は、はっきりとは……きのせい、かもしれません……」

 マスターが一瞬おし黙る。
 いま、マスターの頭の中では思考がフル回転しているはずだった。
 でもすぐに次の言葉が来た。

『だったら、相手はメインストリートにいない……警戒しろ、攻撃が来るぞ』
「は、はい」

 マスターは今の会話から、なにを読みとったのだろう?
 わたしが感じた違和感は、ミスティさんがあの大きな攻撃を仕掛けてきたとき。
 彼女は、振り降ろす副腕のレバーを握っていなかった……と思う。
 わたしのうさ耳状になったセンサーが、相手の位置を察知する。
 そこは……!

「上だ!」

 マスターの叫びより早く、わたしはホイールにブレーキをかけ、膝をたわませる。
 そして、前に進もうとする力を膝に貯めて、後方に跳ねた。
 そこへ、緑と黒の巨大な影が落ちてきた!
 間一髪、落ちてきた影との激突を免れ、片手を地に着くと、反動を利用してさらに跳ね、距離を取る。
 はたして、緑と黒の影はミスティさんだった。
 彼女はすでにマシンガンを構えている。
 発砲。
 わたしはホイールを逆に回し、後進する。
 ミスティさんの火線は、わたしの足下から左側へと引かれていく。
 わたしはまた膝を曲げると、今度は小さく前に跳ねた。
 狭い路地、右側の壁に乗り、走り出す。
 ミスティさんも前に出た。
 緑色の副腕が振り上げられる。
 今度こそ、見た。間違いない。
 あの副腕は、イーダ・タイプのものにもかかわらず、独立して動いている!
 巨大な副腕に装着された凶悪な爪が、壁をえぐりながら突き進んでくる。
 わたしは壁を蹴って、爪をかわす。ミスティさんの射線をかいくぐり、壁から壁へと飛びうつる。



 ティアの言葉は正しかった。
 イーダの副腕「エアロ・チャクラム」は、トライクへの変形機構のため、単独では動かない。
 神姫本体がレバーを握り、副腕を操る必要がある。
 副腕と言うよりも、腕に追従するパワーアームと言うべきかも知れない。
 しかし、ミスティのエアロ・チャクラムは独立して動く。カスタムパーツを仕込んであるのだろう。
 そうなると、ミスティはある神姫のタイプと酷似する。

「ティア、いまのミスティはストラーフ・タイプだ」

 そう、武装神姫初期の傑作にして、いまだに人気の高い悪魔型。いまのトライク形態でないミスティは、まさにストラーフだった。

『三次元機動が得意なのは、あなただけじゃないわ!』

 ミスティはティアを追撃する。
 壁から壁へ、ビルからビルへ。
 廃墟の街を縦横無尽に飛び回る二体の神姫は、まるで二重螺旋のように絡み合いながら戦い続ける。 



 マスターのアドバイスのおかげで、わたしはミスティさんへの認識を切り替えることができた。
 目の前にいるこの神姫はストラーフ・タイプ。
 そう思ってみれば、戦い方もストラーフにそっくりだった。
 でも、ミスティさんの戦い方は、熟達したストラーフのそれだった。かつて戦ったストラーフの中でも、これほどの実力者はいない。
 上下左右の壁を蹴り、走り、攻撃を仕掛けるけれど、わたしの動きにことごとくついてくる。
 隙を見せれば、副腕がわたしを狙い、銃撃がかすめる。
 一瞬たりとも気の抜けない近距離戦闘。
 お互いの動きを読み、自分の動きを合わせ、相手の動きを見切る。
 まるで、ダンスのステップを踏んでいるかのよう。
 わたしとミスティさんは、砂塵舞う廃墟の中で、踊るように、舞うように、戦い続ける。



 いつのまにか観客の笑い声は聞こえなくなっていた。
 ミスティの戦いぶりを見れば、笑いを誘った装備が伊達ではないことが分かる。
 そしてミスティの実力は、並の純正ストラーフを凌駕していた。
 もはや黙るしかない。
 俺は筐体の向こうの少女を見た。
 真剣な眼差しで、神姫の戦いぶりを見ている。
 唇には不敵な笑みを浮かべたまま。
 観客の反応など全く意に介していない。
 エトランゼと呼ばれるこの神姫プレイヤーは、知らない場所でバトルする度に、こうして実力で観客たちを黙らせてきたのだろう。
 俺は椅子に座り直す。
 願ってもない実力者とのバトルだ。
 今のティアと俺の実力を試す絶好の機会だった。全力で勝ちに行く。



『ねえ、今日のわたし、どこかおかしい!?』
「いつになく絶好調だけど?」
『じゃあ、なんでわたしの攻撃が当たらないの!?』
「うまいタイミングで機動をずらされたり、反撃されて攻撃を押さえられたりしてるわね……神姫の判断? マスターの指示かしら」
『平然と評価している場合? こっちの方が劣勢なんだからね!』
「それじゃあ、仕切直しましょ」



 巨大な両腕を叩きつけ、追撃の銃撃がわたしの足下を削ると、ミスティさんはここで距離を取った。
 いまのは牽制か。
 いままではもつれ合うように、息つく暇もないバトルを繰り広げていた。
 ここであえて距離をあけるのは何かの策か、それとも……。
 逡巡しているうちに、ミスティさんはさらに後方へと跳び、廃墟のビルを越えて姿を消した。
 どうしよう? 追うべきだろうか?
 わたしはビルの上に立ち、体勢を整えると、耳を澄ませた。
 遙か彼方にホイール音が聞こえる。
 ミスティさんは、またトライクに変形したみたいだ。

『ティア』
「マスター」

 マスターから通信が来た。
 私が迷うとき、必ずマスターが指示をくれる。
 だからわたしは立ち止まることなく、走ることができる。

『とりあえず最初と同じ、路地を抜けてミスティを追跡だ』
「はい」
『そして、俺が合図したタイミングで飛び出して仕掛けろ』
「はい」
『決めにいくぞ』
「はいっ!」

 マスターには必勝の策があるみたいだ。
 あのミスティさんに勝つ策なんて、わたしには考えも及ばないけれど。
 マスターの考えを、わたしが体現できれば、必ず勝つことができる。
 だって、マスターは、決めにいく、と断言したのだから。
 わたしは走り出す。
 ミスティさんを追って、細い路地を駆け抜ける。



 ミスティを伺う間に、ティアに細かく指示を出した。
 ミスティは待ちの体勢で、メインストリートをただ走り続けている。
 おそらく、自ら討って出てくることはするまい。ティアが仕掛けてくるのを待っている。
 ならばお望み通り、こちらから仕掛けるとしよう。
 次の攻撃が勝負だ。
 ミスティがメインストリートを折り返した。
 速度を落としてぐるりとU字に回り込み、再びメインストリートに向けて加速をする。
 ここだ。

「ティア、いまだ!」
『はいっ』

 合図とともに、俺はサイドボードを操作。
 ティアの手の中に、大型のハンドガンを送り込む。
 ティアはストリートに躍り出た。

『ティア!?』

 ミスティが思わず声を上げている。
 トライク形態での巡航の際は、背後から攻めるのがセオリーだ。
 火力で劣るティアが、まさか真っ正面から来るとは思わなかったのだろう。
 ティアはミスティと向かい合った。
 二人とも走りながら。

 ティアはミスティの速度に合わせ、後ろ向きに走っているのだ。

 つかず離れずの位置をキープし、二人は疾駆する。
 トライク形態のミスティの上部に据えられた、二門の「アサルトカービン・エクステンド」が火を噴いた。
 真正面ならば遠慮するつもりはない、とばかりに、盛大に弾丸をまき散らす。
 ティアはかわす。
 後ろ向きに走りながら、ミスティを見据えたままで。
 その雨霰と降り注ぐ銃弾のことごとくを、流れるようなステップでかわしてみせる。

『くっ』

 ミスティが逡巡した一瞬、銃弾が途切れたその瞬間をティアは見逃さなかった。
 手にした銃はブラスター。エネルギー弾を打ち出すハンドガンである。
 反動があるので連射はしずらいが、一撃の破壊力が高い。
 ティアは踊るように身を翻し、三連射した。
 銃を水平に向け、反動を上に逃がすのではなく、横に逃がし、舞踏のような回転で反動を吸収、すぐに次の斉射を可能にする。
 ティアの装備と技術だからこそ可能な射撃だった。
 はたして、ティアのはなったエネルギー弾は、右副腕の肩口とミスティのヘルメットの右側面に命中した。

『こっ……のおおおおおぉぉ!!』

 ミスティは止まるどころか、加速しながら突っ込んできた。
 ティアも後ろ向きで加速する。
 ミスティが闇雲にアサルトカービンをぶっ放すが、ティアには当たらない。
 ティアは反撃とばかりにブラスターを撃つ。
 ミスティをかすめる。
 ティアがブラスターを投げ捨てた。

「いまよ!」
『おおおっ!』

 マスターの声を合図に、ミスティが前輪をロックする。
 車体の後方が前のめりに突っ込む。
 サスペンションが沈み込む。
 ミスティのストラーフ形態への変形パターンだ。
 極限まで押し込まれたバネが反発し、ミスティの体を押し上げる。
 右副腕が根本から砕ける。

『ええええぇぇっ!!?』

 一瞬にして支えを失ったミスティは、勢い余って、地面につんのめるように激突した。
 ミスティの体が路面に激しくこすりつけられる。右の副腕が吹き飛ぶ。焼け焦げたバイザーが破砕する。
 それでもミスティは、残る副腕と脚部パーツを突っ張らせて勢いを殺し、ようやくに停止した。
 しかし、これは隙。
 俺はティアに向けてマシンガンを送り込む。

「撃て」

 俺の指示から、間髪入れずに、ティアは引き金を絞った。
 相手は至近距離で動きを止めている。
 はずすはずのない攻撃。
 だが、今度は俺が驚く番だった。

「なにっ!?」

 ミスティは一挙動で起きあがると、すぐさまティアに背中を向けた。
 必中の銃弾は、ミスティの装備に着弾する。
 ウイングが吹き飛び、後輪が炸裂する。
 そして、ティアの銃撃を受けながら、ミスティはバックジャンプする。ティアに向けて。
 そして、背中の装備をパージした。

『わ、わわっ』

 あわててティアがホイールを滑らせる。その拍子にマシンガンを落とした。
 大きな動きでミスティのはなった「爆撃」をかわし、大きく回り込む。
 轟音を立てて、ミスティの背部モジュールが地に落ちた。
 ティアが安堵の吐息をつき、再びストリートに視線を向けた。
 その視線の先。
 副腕をなくしたミスティが立っていた。



 背部の装備をなくしたミスティさんは、それでも気負った様子は見られなかった。
 右手にオリジナル装備のマシンガン、左手にイーダ装備の太刀「エアロ・ヴァジュラ」。
 両脚のサバーカはいまだに健在である。
 ミスティさんは左手の刀を地面に突き刺すと、右半分が壊れたバイザーを脱ぎ捨てた。
 ストリートに乾いた音が響く。

「同じね、これで」

 呟くようにミスティさんが言う。

「脚部強化パーツだけの軽量装備……ここまでおいつめられたのは、ティア、あなたが初めてよ?」

 穏やかな口調だが、いまだに闘志を宿した強い眼差し。
 先ほどの言葉の応えとして、

「こ、光栄です……」

 というのは的外れだっただろうか。
 ミスティさんとは距離を置いて向かい合っている。
 幅の広いメインストリートの中央、遮るものは何もない。
 次の攻撃はお互いに小細工なし、必中の一撃を狙うだろう。
 わたしはマシンガンを落としてしまっている。
 手元の武器はない。
 マスターが送り込んでくれるのを待つ。
 と、ミスティさんがマシンガンを一瞥すると、なんとそれをバイザー同様投げ捨てた。
 そして改めて、刀を構え直した。
 なぜそんなことをするのか。
 理由は一つ。
 ミスティさんは……真っ向勝負、正々堂々の決着を望んでいる……。



 ミスティの行動は不可解きわまりない。
 いまのティアは何も武器を持っていない。
 マシンガンを使えば、ティアの動きをある程度封じつつ、先手を取って、戦闘を有利に進めることもできたはずだ。
 しかし、ミスティは銃を捨て、刀を構えた。
 これは誘いか。あるいは、よほどに近接戦闘に自信があるのか。
 敵の不可解な行動は、むしろこちらにはチャンスだった。
 俺は当然、ティアの手に銃を送り込もうと、サイドボードに指を伸ばしたのだが……。

『マスター』
「なんだ?」
『コンバットナイフをください……お願いです……』

 と、こうきた。
 珍しくティアが武装を要求してきたと思ったら、近接武器で真っ向勝負とは。
 こちらの有利をけっとばして、敵の誘いに乗り、わざわざ五分以下の状況を望んでいる。
 俺は少し呆れながら、ふと、筐体の向こう側をみやった。
 目が合う。
 ミスティのマスターは肩をすくめ、苦笑した。
 どうやら、ミスティも、勝手に刀で勝負を挑んでいるらしい。
 ならば誘いでも何でもない。
 ミスティは正々堂々の勝負を挑んできているのだ。
 そして、ティアはそれに応えようとしている。

 勝ち負けにこだわるなら、迷わずサイドボードから銃を選べばいい。
 だが、俺はあえて、ティアの望み通り近接武器を選択した。
 あのティアが、俺に武装を要求してくるなど、滅多にないことだ。いや、初めてかも知れない。
 こんな希有な出来事の価値に比べれば、この試合の勝ち負けなど、どれほどのこともないのだ。
 まあ、俺自身、こういう熱い展開が嫌いではないのだが。
 コンバットナイフを手にしたティアは、うっすらと微笑んだ。
 それを見て、ミスティが凄みをたたえて微笑んだ。

『ティア、やっぱりあなたって最高』

 そして、刀を肩口から突き出すように構え直した。

『久住菜々子が武装神姫、ミスティ! 推して参る!』

 俺はこのとき初めて、筐体の向こうにいる少女の名前を知った。

『遠野貴樹が神姫、ティア! いざ尋常に勝負!』

 可愛い声と口上の内容が非常にアンバランスだ。
 俺も肩をすくめて苦笑する。
 こうなったらもう、作戦も何もない。
 神姫の地力で勝負が決まる。
 マスターが入り込む余地などもうないのだった。
 だが、これはこれで、見逃せない展開ではある。
 高まりゆく緊張感に、俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。

 二人の神姫は、構えたまま動かない。
 二人の間合いはとても刃の届く距離ではない。
 だが、そこは脚部を強化した神姫だけに、動き出せば一足飛びに間合いに入る。
 緊張が張りつめている。
 バーチャル空間の緊張が現出したかのように、観客たちも水を打ったように静かだった。

 二人の緊張を破ったのも、やはり吹き続けている風だった。
 砂塵が巻く。
 お互いを覆い隠すほどの砂煙が二人の間を吹き抜ける。
 動く。
 二人の神姫は一瞬で被我の距離を埋める。
 斬り裂かれる砂のカーテン。
 砂の幕が霧散し、お互いの姿が立ち現れた瞬間、二人は斬り結んだ。
 ミスティは突き。武器のリーチを生かして先手を取る。
 ティアは構えたまま、速度をゆるめずに突進。
 交差。
 二つの影が飛び抜けて、静止する。

 ミスティは突きの姿勢で、腕を伸ばし、刀を突き出したまま。
 ティアは、ナイフを振り抜いた姿勢で、膝をついている。
 はたして、ティアの振り抜いた右手にナイフはなかった。
 それは、ミスティの胸元に突き立っていた。

「ティア……」

 ミスティのつぶやき。
 名を呼ばれた神姫はゆっくりと立ち上がる。
 風が吹いた。
 ミスティがポリゴンの欠片になって、砂塵に溶けてゆく。
 ティアは振り向きもせずに、ただ虚空を見つめたまま立ち尽くしている。
 やがて、ミスティが風に散らされて消えた頃、ジャッジAIが勝敗を決した。

『WINNER:ティア』










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