無人のビル群、窓ガラスは砕け、アスファルトは罅や隆起をしているゴーストタウンのワンステージ。
そこを駆け抜ける深紅のトライク。ハイスピードトライク型アーク――ノアローク――だ。特徴とも言えるそのスピードを生かし彼女は今‥‥‥全力で逃げていた。
同型のイーダや、飛行可能な神姫達からなら、直線において彼女に追いつけるものは少ない、彼女も親愛なるマスターにカスタマイズされ、スピードにおいて今まで負けなかったことを自信にし、自慢さえもしていた。
「な、なんで、私の位置が分かるのよ。」
彼女を追い込んでいるのは、正確無比に放たれる弾丸。それもただの弾丸ではなく、3.5㎜というオフィシャルでは神姫搭載実弾兵器最大口径の砲弾である。まるで、こちらの位置が分かるかのように、ビルの壁をやすやす貫き破片とともに彼女に襲い掛かった。
致命傷は免れているものの、自慢の磨かれたボディーは傷や煤に覆われ、彼女のプライドも傷だらけだ。
「こうなったら!」
『無茶よ、弾切れまで逃げ回ったほうがいいわ!』
自分のマスターの命令を無視して体を勢いをつけながらひねり、片輪走行の要領で180度のターンを決めるとと特攻覚悟で砲撃の予測ポイントに向かう。
彼女をを脅かしていた砲撃は止んでいた。
「チャンス!」
やっとセンサーに反応、一気にアクセルをふかし瓦礫を利用し空中に躍り出るとスタンドモードに変形。無防備ともいえるその背中に向けレーザーライフル"シルバーストーン”を向ける。
レクティエル越しに勝利を確信した彼女が見たのは振り返りこちらを見据えている戦車型ムルメルティアの紅い瞳。
「え?」
呆然としていた彼女に対地榴散弾が降り注いだのはその直後だった。