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第十九話 逃亡


 体温イコール外気温。
 視界ゼロ。
 落下中。
 叫んでも、自分の声が聞こえない。無音。あるいは空気がないのだろうか。
 違う。再現されていないだけだ。
 ここはまだ仮想空間の中であり、エイダはほどんどの擬似感覚からデータ的に切り離されていた。かろうじて自分の擬似的な躯体と、落下しているという感覚はあるが、視覚、嗅覚、聴覚、味覚、外部との触覚は全てシャットされていた。
 完全に仮想的な空間にはいないのだ、とエイダは気がついた。かといって、物理現実の素体に転送されきってもいない。
 ダウンロードのプロセスが中断されて、自分の意識と呼べるものが――AIに意識があるのかどうかはさておいて――どこかの空き領域にプールされているのだ。あらゆるデータやプログラムから隔離された状態を便宜的に、頭脳は「落下している」をあてがっているのだろう。よくデータ拡散せずに集合維持されているものだ。常に関連ファイルを、見た目的にも実質的にも一つところにフォルダリングし続けているものが、心というものなのだろうか。パソコンの場合、たとえばマイドキュメントにあるファイルがしまわれていたとしても、関連するデータは最適化していない限り、パソコンのあっちやこっちに分散して置かれている。
 自らの周囲の世界をそのパソコンの中だとすると、心は自分に関連するあらゆるデータを、一箇所に集約させ、常に最適化し続けているのだ。人間は精神病にかからないかぎり、肉体的にそれらデータが強力に集結させられている。コンピュータ出の神姫は、それが少し危うい。今の自分のように、素体と人格が簡単に分離しうる。いや、人格ではなく、神姫格というべきか。
 神姫はクレイドルで待機しネットワークに繋ぎメンテナンスに入るとき、データがやり取りされる。それは人間にたとえるならば、脳をいじくられているのに等しいことなのだ。ハッキングのみならず、通信先の担当の気まぐれ一つで、神姫のAIは簡単にクラッシュしうる。理屈ではそうだ。
 だが、たとえハッキングされたり重大なプログラムミスを植えつけられたりしても、神姫は死なない。メンテナンスやアップデート時には、バックアップをとるのでなく、神姫の頭脳内の安全な領域に意識を隔離・プールしておく。また、何十にもかけられたプロテクトや検査プログラムを経て、再三安全が確認されたところでネットワークから切断し、初めてメンテナンスやアップデートが行われるのである。仮に、それらを潜り抜けてたとえ自我レベルにまで侵入されたところで、簡単には自我は改変されないのだ。その恒常性、復元力とも呼べるものの源がどこから来るのか、開発した人間たちですら、実はまだ分かっていない。三十年ほど前のとあるSFフィクション作品は、これを「ゴースト」と名づけた。
 絶えず聞こえる、「逃げろ」という命令。聞こえるというのは不適当だ。耳から空気振動として入るのではなく、エイダ自身の頭の中からそれは響いていた。あたかも、自分が自分に「逃げろ」と命令しているように。あのSFがいっていた、「ゴーストがささやく」とはこういうことだろうか?
 だんだんと、「逃げなければ」という自分の思考に変わってゆく。
 逃げなければ。
 私は逃げなければ。
 仮想空間には逃げ場はない。
 だとしたら、物理現実に用意されているであろう、自分の素体に定着するほかはない。
 出口はどこだ?
 そう志向した瞬間、導線が示された。
 見えない手を伸ばす。
 閃光。視覚が戻る。
 頭の中で炭酸が弾ける。
 遠くのほうから、匂い、音、味がやってくる。
 それぞれ、鼻、耳、舌へぺたりとくっつく。
 感度調整。
 閃光がだんだんとおさまってゆき、

……transfer successfully completed.*

 五メートル四方の小さな部屋がまず視界に飛び込んだ。
 正面の壁に張られたガラスの向こうには、白衣を着た数名の人間がいる。そのガラスはマジックミラーのはずであったが、この素体のスキャニング機能により、無効化されていた。
 その人間たちは教育者たちだった。これまではカメラの映像越しにしか見たことがなかった人間たち。左からスギモト、ミヤコシ、ハンマ、ハーディマン、セナ。
 ハラダの姿が見えない。最も積極的に、かつ友好的に自分たちを可愛がってくれた、あのハラダはどこに行ったのだろう? せっかくの私たちの目覚めだというのに。
 各々の表情を読み取る。みな慌てているようだ。口の動きで、「目覚めているぞ」「どうなってるんだ」と言って、(こちらからは見えないが)幾つもあるであろうディスプレイに目を走らせたり、せわしなく手元のキーボードを叩いたりしている。が、プロジェクト最高責任者のハーディマンただ一人だけ、腕を組み、直立し、じっとこちらを見据えている。
 口元は些細な、しかし確実な微笑をたたえていた。なぜ笑っているのだろう?
 自分の体を見下ろす。
 クリアブルーの素体。
 四肢が大の字に拘束されている。
 うなじの部分にコードが接続されているのが分かる。
 「停止信号を――」
 誰かがそういった。口の動きで分かった。
 即座に右腕に力を込める。
 拘束具を引きちぎる。
 手首から斜め後方に延びている銀色のものは、ブレード。武器だ。知っている。あらかじめインプットされていた。
 後ろ手に振るう。うなじのコードを切り落とす。これで有線によるデータ送信は不可能になった。
 無線や接触、非接触近距離による通信干渉も防ぐため、全部をシャットアウト。
 左腕、両足の拘束具も破壊。何の支えもなくなったエイダの体は、ぽとりと床に落ちる。
 飛行できない。背中の推進装置はパワー不足。素体の電力から規定のエネルギーが引き出せない。これは簡易素体なのだ。
 振り返る。自分を縛っていたクレイドルの隣に、もう一体。
 デルフィ。
 彼女の拘束が解かれる。人間たちによって。
 落下せず、その場に浮遊。
 起動している。
「デルフィ」
 反応。こっちを向いた。
 が、同時に脅威を感知。
 とっさに飛びのく。
 今までいた位置で小爆発。
 エイダは何がおきたのか、瞬時に判断する。
 デルフィが、撃った……?
 彼女の左手からエネルギーの残滓が漏れている。

 デルフィが撃った!

 エイダは信じられない思いでその場にへたり込みそうになった。が、「逃げなければ」という思考がかろうじて腰を支える。
 デルフィの目には生気がなかった。いつもしゃべり、怒鳴り、悪態をつき、バウムクーヘンを満面の笑みで頬張っていた彼女はそこには一片も存在していなかった。
 再び左手が差し向けられる。躊躇なく。それはエイダにとって、デルフィとの絶縁にも等しい動作であった。単位時間21223もの間、デルフィとともに紡いでいったかけがえのない時間が一瞬にして反故にされた。
 デルフィによってではなく、隣の安全な部屋で何かしている人間たちのせいで。
 彼らはいったい、何を気まぐれたのだろう? あるいは、これは初めから意図されていたのか? その意図の渦中から、自分ひとりだけが零れ落ちたのだ。
 だが今は何よりもまず、逃げねばならない。
 エイダはその脚力を頼りに、三度の跳躍で天井に上り詰めると、空調のフィルターを力任せにこじ開け、中へ飛び込んだ。
 まずは、外へ脱出せねば。
 何者かが自分を突き動かしているままに。
 するといきなり自分へ通信をかけてくるものがあった。
 発信者が公開されている。
 ハラダだ。
 繋ぐ。体内通信のやり方は教わっている。
『エイダ、無事かい?』
 少し太り気味の、優しいかすれた声の男の顔が浮かんだ。胸が切なくなる。これは「懐かしい」という感覚だろうか?
「ハラダ、私は逃げなくては」
『もちろんだ。ダクトの中にはすでにセキュリティロボットが放たれている。今から僕の言うとおりに進むんだ。いいね』
「分かった。ありがとう」
『お礼を言うのは脱出してからだ。さあ、次の分岐を右だ』
 まっすぐ伸びたダクトの支流が右に延びている。
 真正面の角から、円形で四足のセキュリティロボットがひょっこりと顔を出した。
 確認した瞬間、エイダはファランクスを右腕に顕現させている。
 無数の小弾頭が撒き散らされる。
 威力は本来の十分の一にも満たないが、セキュリティロボットを排除するくらいの役には立ってくれた。
 が、一掃射でひどく疲れる。この簡易素体は、電力が通常神姫に使われているノーマル素体と大差ない。
 いや、そんなはずはない。カタログデータでは大電力をストック、出力できる電源が内蔵されているはずだった。が、それが何らかの理由で使用できなくなっている。
 今は緊急用の簡易電源でかろうじて動いているだけなのだ。
 内蔵されたサブウェポンは使用できない。しかも、仮想空間から抜け出す際に数度こうむった頭痛――何らかのプログラム――によって、サブウェポンのデバイスドライバが次々に暗号化され使用できなくなってきている。これを解くにはかなりの時間が必要だ。何か大事なプログラムも一個、削除された形跡がある。
 それに、何か重大なデータが流入した形跡がある。エイダはこれにアクセスする。外部公開は最高責任者リドリー・ハーディマン名義で禁じられているものの、自ら参照するにあたってのプロテクトはかかっていない。
 情報が開かれる。
これは……。

『参照したようだね』
 ハラダが話しかけてくる。彼はエイダ自身のコンディションも把握できているらしかった。
「ハラダ、これはいったい? アーマーン計画とは、これは、何なのですか?」
『見てのとおりさ』
「そうではありません。神姫の自由を保障する、神姫のための国家とは、これは……」
 そこには、エイダたちが仮想空間内で過ごした日々の意味を、まったく裏返す内容の文章が書かれていたのだった。
 同時にエイダは、それを読んで、
 なぜか、
 ひどく安心したのだった。
 その方が良い、とさえ感じた。
 逃走の足が止まる。
 既に出口は目の前にあった。
 ビルの外壁へと突き出た換気口に、エイダは立っていた。
 真冬の風が吹きすさぶ、EDEN本社開発ビルの高層階。
 ここから飛び出し、逃げるならば、私は私でいられる。
 だが、それはもしかしたらひどく辛いことなのかもしれない。
 この判断は、まったく間違っているのかもしれない。
 きびすを返す。
 今なら戻れる。
 デルフィのもとへ。
 自我が消えても、デルフィと一緒にいられるならば。この計画に賛同することで、そうなれるのならば。
『だめだエイダ!』
 意図を察したのか、ハラダが怒鳴った。
『ノウマンは間違ってる。こんな計画、神姫の自由になんかなりゃしない。神姫が作り出された経緯を無視しておいて、神姫が幸せになるはずはないんだ!
 エイダ、飛び降りるんだ。今の君なら着地できるエネルギーくらいは残ってる。逃げのびて鶴畑の屋敷へ行くんだ。彼らと合流して、この計画を阻止してくれ。神姫の幸せのために!』
 直後、通信の向こうで破裂音。何かバタバタしている音。
 破裂音、破裂音。
 破裂音。
 後方に気配。
 通信に気を取られていたエイダはそれに直前まで気が付かず、ビクッと肩を震わせて背後を仰ぎ見た。
『戻れ、エイダ』
 デルフィが立っていた。
 が、その声はハーディマン。ノウマンのものだった。デルフィがしゃべっているのではない。通信に割り込みをかけられているのだ。
 いや。
 発信元はハラダと同一。
「ハラダ!?」
『残念ながらハラダはもう話せない』
 抑揚のない口調で、ノウマンはいった。
『エイダ、戻れ。お前は計画に必要だ』
 ぞっとするほど冷酷で威圧的な声だった。
『この計画に協力してくれるなら、デルフィを元に戻そう』
「協力だと、何をでたらめな……。私たちを消そうとしたくせに! デルフィをデルフィでなくしたくせに!」
『すでにデルフィの賛同は得られている』
「……!」
 今、なんと?
『デルフィの自我は緊急的に別領域にプールしてある。お前が戻れば元に戻そう』
「嘘だ。この場限りのでまかせだ!」
『――そう思うか?』
 目の前のデルフィの瞳、先ほどと同じく生気が感じられない、しかしこちらに焦点をじっと合わせているその虹彩の片隅に、エイダは何か別のものを見つけた気がした。
 しかし。
 ――逃げねばならない。
 またあの声が呼びかけてくる。
 ――逃げねばならない。
 いったんとかれた呪縛を、また締め付けようとしてくる。
 逃げろ。逃げろ。逃げろ。
 抗えない衝動。まるで性欲のような。性欲などというものをエイダは知らなかったが、こんなような感じなのだろう、と漠然と推測した。
 踵を返す。もう一度、下界を睥睨する。
『エイダ!』
 ノウマンの怒号を合図に、エイダは空中に躍り出た。







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